説明

安定な液状オレインフラクション

本発明は、安定な液状オレインフラクションであって、該オレインフラクションのTAG種の8.6%未満が一般式SMSで表される成分であり、該オレインフラクションのTAG種の少なくとも26%が一般式SMMで表される成分である該オレインフラクションに関する(前記の一般式において、Sは飽和脂肪酸を示し、Mはモノエン脂肪酸を示す)。該オレインフラクションは、オレイン酸の含有量が高い高飽和ヒマワリ油を分別処理に付した後、液状フラクションを捕集することによって入手可能である。本発明は、オレイン酸の含有量が高い高飽和ヒマワリ油の低温分別による安定な液状オレインフラクションの調製法にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化に対して耐性を示す液状油が要求される用途に対して特に適したオレインフラクション(olein fraction)に関する。本発明は、該オレインフラクションの使用及び該オレインフラクションを含有するオイル混合物にも関する。
【背景技術】
【0002】
天然に存在する油は、該油の総量の98%を超える量のトリアシルグリセロール(TAG)から構成される。従って、このような油の化学的及び物理学的な特性は、これらのトリアシルグリセリド組成とこれらの分子における脂肪酸分布によって決定される。
【0003】
高い酸化安定性が必要な食品用途及びその他の非食品用途において使用される植物油脂には、主として水素化のような化学的処理が回避されるならば、特別なトリアシルグリセリド組成が要求される。部分的水素化油は、栄養補給的見地からは望ましくないと見なされている脂肪酸のトランス異性体を含有する。
【0004】
一部の市販油はこれらの要求を部分的に満たすが、技術的な欠点又は栄養的な欠点を有している。例えば、パーム油やパームオレインは高い安定性を有しているが、ジ飽和/トリ飽和TAG含有量に起因して、室温では固体状又は半固体状であり、また、主としてsn−2のTAG位置におけるパルミチン酸の含有量に起因して、栄養的には有害である。これらの点に関しては、非特許文献1を参照されたい。オレイン酸の含有量の高い植物油は0℃よりも低い温度まで液状であるが、十分な安定性を示さない。従って、この種の植物油は、安定な液状油が要求される用途に対しては不適当である。
【0005】
優れた酸化安定性を示す健康のためによい油においては、血清のコレステロールの濃度に関して中性であるために好ましいとされるステアレートを含有する飽和脂肪酸の含有量は少なくすべきであり(この点に関しては、非特許文献2及び3を参照されたい)、また、トリアシルグリセリドの中間の位置(sn−2)に飽和脂肪酸を含まないようにすべきである。トリアシルグリセリドの中間の位置に飽和脂肪酸を含む油が、これらの油によるアテローム発生効果の原因であるということが提案されている(この点に関しては、非特許文献1を参照されたい)。
【0006】
特許文献1には、ステアレートとオレエートの含有量の高い油をアブラナ属の植物から入手する方法が教示されている。さらに、該文献においては、ステアリンフラクションとオレインフラクションの一部のフラクションが得られている。
【0007】
特許文献2には、ステアレートとオレエートの含有量の高い油を大豆から入手する方法が教示されており、また、該文献においては、一部のステアリンフラクションとオレインフラクションの入手法も教示されている。
【0008】
これらの特許文献に開示されている全ての油とフラクションは0.5%よりも多くのリノレネートを含有する。従って、従来のこれらの油又は該油のフラクションは、本願発明に係るオレインフラクションを得るための優れた原料とはならない。
【0009】
標準的な市販油をブレンドした一部の熱帯産のオレインフラクションを揚げ物用油脂として使用することが提案されている。特許文献3に教示されているように、熱帯性シアバターから得られるオレインフラクションを市販油とブレンドすることによって、揚げ物用油脂が得られる。しかしながら、シアバターは、熱帯産樹木から得られる希少な原料であるという欠点があり、工業的な規模で油を製造するための原料源としては問題である。
【0010】
特許文献4には、ステアリン酸とオレイン酸の含有量の高いヒマワリ油(HSHOSF)をステアリンの製造のために使用することが記載されている。該ステアリンを液状植物油とブレンドすると脂肪相が形成される。このステアリンフラクションの固形分含有量は50重量%よりも高く、また、該フラクションは少なくとも30重量%のSUS脂肪酸を含有する。このステアリンフラクションは、マーガリン又はスプレッドを得るための植物油を調製するためのものである。従って、このステアリンフラクションは、これらの製品中に固形分を導入するものであり、それ自体液状ではない。
【0011】
主として飽和脂肪酸とモノ不飽和脂肪酸から調製される油は非常に良好な安定性を示す。しかしながら、プラントにおけるTAGの生合成を考慮すると、飽和脂肪酸の含有量の高い油は2種又は3種の飽和脂肪酸を含むTAGをかなりの量で含有する。これらのTAGは室温においても沈殿し、該油を極めて容易に固化させる。0℃のような低温においても液状であって安定な油は工業的に重要である。ステアレートとオレエートの含有量の高いヒマワリ油は非常に優れた酸化安定性を示すが、容易に固化する。大部分のジ飽和TAGsを含有しないようなこの種の油のフラクションは優れた安定性を示すと共に、0℃付近の温度において液状であるであろう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】WO 0019832
【特許文献2】WO 99057990
【特許文献3】WO 2006/061100
【特許文献4】ヨーロッパ特許公報EP−1290119
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】レナウドら、J. Nutr. 、第125巻、第229頁〜第237頁(1995年)
【非特許文献2】パーソン、Am. J. Clin. Nutr. 、第60(S)巻、第1071S頁〜第1072S頁(1994年)
【非特許文献3】ケリーら、Eur. J. Chemical Nutr. 、第55巻、第88頁〜第96頁(2001年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明が解決しようとする課題は、低温において液状であると共に、酸化に対して耐性を示す新規な油を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、オレエートの含有量が高い高飽和(high-oleate and saturated;HOHS)ヒマワリ油を分別処理に付した後、オレイン(olein)と呼ばれる液状フラクションを捕集することによって入手可能なオレインフラクションであって、a)該オレインフラクションのTAG種の8.6%未満が一般式SMSで表される成分であり、b)該オレインフラクションのTAG種の少なくとも26%が一般式SMMで表される成分である該オレインフラクションに関する。これらの一般式において、Sは飽和脂肪酸を示し、Mは
モノエン脂肪酸を示す。好ましいHOHS油は、オレイン酸とステアリン酸の含有量が高いヒマワリ油である。
【0016】
本発明によるオレインフラクションは極めて優れた酸化安定性を示すと共に、0℃付近又は0℃よりも低温において液状であり、また、パーム油又はパームオレインのようなその他の安定な高飽和油に比べて健康によいトリアシルグリセリド組成を有する。
【0017】
本発明において使用する適当な分別法は乾式分別(dry fractionation)又は溶剤分別(solvent fractionation)である。
【0018】
本発明は、上記の油の種々の用途も提供する。このオレインフラクションの改良された特性に起因して、該フラクションは、高い酸化安定性、揚げ調理安定性及び保存寿命安定性を示すと共に、健康によい液状油が望まれる種々の食料製品や非食料製品において使用することができる。
【0019】
油の酸化安定性は、TAGの脂肪酸組成によって規定される。多不飽和脂肪酸に富むTAGは、飽和/モノ不飽和脂肪酸に富むTAGに比べてより不安定である。市販油中に含まれる不飽和脂肪酸は、二重結合をそれぞれ1個、2個及び3個有するオレエート、リノレエート及びリノレネートである。リノレネートは最も不安定な脂肪酸であると共に、魚臭の原因であるので、安定油中のリノレネートの含有量は出来る限り少なくすべきである(好ましくは0.5%未満の痕跡量)。リノレネートをこれよりも多く含む油は、本発明によるオレインを分別するための優れた出発原料とはならない。
【0020】
本発明によるオレインフラクションに含まれるリノレエートの含有量は0.5重量%未満である。
【0021】
上記のオレインフラクションは室温下で液状であり、また、該フラクションは、室温下で液状のその他の油、例えば、標準的な油であるCAS−6[サラスら、JAOCS、第83巻、第539頁〜第545頁(2006年)参照]及びオレイン酸の含有量の高い油であるCAS−9[フェルナンデス−モヤら、J. Agric. Food Chem. 、第53巻、第5326頁〜第5330頁(2005年)参照]に比べて安定である。オレイン酸とステアリン酸の含有量の高い油HOHS(WO 0074470参照)は非常に安定であるが、室温下で液状ではない。オレイン酸とパルミチン酸の含有量が高い油IG−1297M(WO 9964546参照)も同様に安定であるが、室温下では液状ではなく、また、該油は、栄養的見地からは望ましくないパルミチン酸をより多く含有する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】種々の試料油を180℃での熱処理に付したときに該試料油中生成する重合化TAGの含有量の経時的変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明によるオレインフラクションの曇り点は5℃未満、好ましくは0℃未満、より好ましくは−6℃未満である。
【0024】
本発明による安定で液状のオレインフラクションは、オレイン酸の含有量が高い高飽和ヒマワリ油の低温分別によって入手することができる。
【0025】
第1の実施態様においては、低温分別は、下記の段階i)〜iii)を含む乾式分別である:
i)当該油の温度を、所望による撹拌条件下において、12℃まで(好ましくは9.5℃まで、より好ましくは5℃まで)低下させ、
ii)固形分フラクションからオレインを分離させ、次いで
iii)所望により、得られたオレインを2.5℃(好ましくは0℃)において再び分別処理に付すことによって、飽和度のより低いオレインフラクションを得る。
【0026】
第2の実施態様においては、低温分別は、下記の段階i)〜iv)を含む溶剤分別である:
i)当該油をアセトン、ヘキサン又はエチルエーテルのような有機溶剤と混合させ、
ii)油の溶液の温度を0℃まで(好ましくは−5℃まで)低下させ、
iii)固形分フラクションからオレインを分離させ、次いで
iv)所望により、上澄みから溶剤を除去することによってオレインを回収する。
特定の実施態様においては、溶剤は、真空蒸留によって上澄みから除去される。
【0027】
本発明は、分別のための油源として特定の油を使用することに基づく。この油源は、特定のTAG組成を有しているべきである。本発明によるオレインフラクションは、1.8〜9.8%(好ましくは2.4〜8.8%、より好ましくは3.8〜7.9%、最も好ましくは4.2〜7.6%)のSUSを含有すると共に、54〜64%(好ましくは56〜62%、より好ましくは58〜60%)のSUUを含有する。
【0028】
本発明によるオレインフラクションを調製するための出発原料として使用されるオレエートの含有量が高い高飽和ヒマワリ油は、WO 0074470に記載されている種子のHOHSから抽出することができる。該種子の親はCAS−3(ATCC 75968) 及びチオエステラーゼの含有量の高い突然変異体(ATCC PTA−628)である。これらの種子は、次の文献において、CAS−15として記載されている:フェルナンデス−モヤら、J. Agric. Food Chem. 、第53巻、第5326頁〜第5330頁(2005年)。その他の油としては、WO 9964546に記載されている。アルバレス−オルテガらによる文献(リピズ、第32巻、第833頁〜第837頁(1997年))に記載されているCAS−12と同じTAG組成を有するATCC 209591として寄託されているIG−1297M種子、及びWO 0074469に記載されている油と種子が例示される。最後に例示した油はセラノ−ベガらによる文献(リピズ、第40巻、第369頁〜第374頁(2005年))においてもCAS−25として記載されている。
【0029】
以下の表1及び表2は、オレエートの含有量の高い油(CAS−9)と比較したオレエートとステアレートの含有量の高い油(CAS−15)のトリアシルグリセリドの分子種とトリアシルグリセリド群の組成を示す。
【0030】
【表1】

【0031】
【表2】

【0032】
第1の実施態様においては、当該油はオレイン酸とステアリン酸の含有量の高い(HOHS)ヒマワリ油であり、該ヒマワリ油は、WO 0074470に記載されているHOHS型の系統であるヒマワリ品種CAS−15(フェルナンデス−モヤら、J. Agric. Food Chem. 、第53巻、第5326頁〜第5330頁(2005年))の種子を抽出することによって入手可能であり、あるいは、CAS−3(ATCC 75968)をオレイン酸とチオエステラーゼの含有量が高い突然変異品種(寄託番号:ATCC PTA−628)と交配させることによって入手可能な別のHOHS品種から入手可能である。
【0033】
第2の特定の実施態様においては、オレイン酸含有量が高い高飽和ヒマワリ油は、ヒマワリ株IG−1297Mの種子(寄託日:1998年1月20日、ATCC登録番号:ATCC−209591)を抽出することによって入手可能なオレイン酸とパルミチン酸の含有量が高い(HOHP)ヒマワリ油(CAS−12に対応する)である。
【0034】
別の実施態様においては、オレイン酸とステアリン酸の含有量が高いヒマワリ油は、IG−1297M(ATCC 209591)をCAS−3(ATCC 75968)と交配させることによって入手可能なヒマワリ品種CAS−25の種子を抽出することにより、オレイン酸とパルミチン酸の含有量が高くてパルミトレイン酸とアスクレピン酸の含有量が低い油を調製することによって入手可能である。
【0035】
本発明によるオレインフラクションは、これらの種子の抽出油から得ることができる。しかしながら、本発明は、これらの種子の抽出油から得られるオレインフラクションに限定されない。いずれのHOHS油も、本発明による油を製造するための適当な出発原料油である。このようなHOHS油は純粋な状態(即ち、これらの種子から直接抽出された状態)で使用してもよく、あるいは、オレイン酸と飽和脂肪酸の含有量が高くなるようにブレンドしてから使用してもよい。本願明細書においては、この種の油は「HOHS」と呼ぶ。CAS−15、CAS−33及びその他のHOHS油はいずれも類似の含有量のオレイン酸と飽和脂肪酸を含んでいるが、その他の特性の点では異なっていてもよい。
【0036】
オレイン酸の含有量が高く飽和脂肪酸(特にステアリン酸)の含有量が高いいずれかの油の溶剤分別又は乾式分別によって、本発明によるオレインフラクションを調製することができる。
【0037】
溶剤分別は等量のアセトン、ヘキサン又はエチルエーテルを用いておこない、当該混合物は0℃まで冷却される。ソルバル社製の分取遠心機を用いる0℃での遠心分離処理(10000×g)を行った後、沈殿物、ステアリンフラクション、上澄み及びオレインフラクションを分離させることができる。液状オレインフラクションにおけるジ飽和TAGの含有量は非常に低く、不飽和TAGの含有量は高い。以下の表3及び表4には、HOHS種子系統からの例示的な原料油の組成とオレインフラクションの組成を示す。オレインフラクションに含まれるジ飽和TAGであるPOP、POS、SOS、SOA及びSOBの量は低減している。
【0038】
【表3】

【0039】
【表4】

【0040】
驚くべきことには、次のことが判明した。即ち、この種の油は、促進安定性酸化実験において優れた安定性を示すと共に、0℃付近及びこれよりも低温において液状である。
【0041】
本発明による油の安定性は、促進酸化試験に付した後の変化したTAG(酸化されたトリアシルグリセリドモノマー及び重合化トリアシルグリセリド)の量によって表示することができる。本発明においては、該試験は、試料油2gを180℃のオーブン内へ導入し、2時間間隔で50mgの試料を採取し、変化したTAGを測定した。上記の加熱処理を10時間行った後の残留油をオーブンから取り出し、極性化合物及び酸化TAGモノマーとTAGポリマーの分布に関する分析をさらにおこなった。
【0042】
上記の実験結果によれば、本発明による油は0℃付近の低温において液状を呈すると共に、著しく安定であることが判明した。本発明による油のトリアシルグリセリドの組成は、後述する実施例において例証するように、従来油の組成とは著しく相違する。
【0043】
本発明による油はヒマワリ種子の抽出物を低温での乾式分別又は溶剤分別によって得ることができる天然油である。このオレインフラクションは、脂肪酸の二重結合の水素化のような変性法やその他の化学的変性法によるエステル交換反応に付さない状態でも熱的に安定である。本発明による油は、このような人工的な変性法を実施することなく入手することができる。
【0044】
本発明による好ましいヒマワリ油のオレインフラクションは、1.6〜8.6%、より好ましくは2.1〜8.4%、最も好ましくは3.4〜8%のSMS、及び26〜62%、好ましくは38〜60%、より好ましくは40〜58%、最も好ましくは42〜56%のSMMを含有する。さらに、好ましくは、本発明による油フラクションは、該油を構成するTAGのsn−2に位置する飽和脂肪酸を8%未満、好ましくは5%未満、より好ましくは3%未満含有する。
【0045】
通常は、飽和脂肪酸はステアリン酸とパルミチン酸である。好ましくは、本発明による油フラクションのステアレートの含有量は比較的高い。何故ならば、このような油はより健康によいからである。最大の熱的安定性を保証するためには、オレインフラクション中のSMMの全含有量は少なくとも30%、より好ましくは少なくとも35%、最も好ましくは45%以上であることが好ましい。
【0046】
さらに、当該油に含まれるオレイン酸の含有量が高く、これに対応してリノール酸の含有量は低いことが好ましい。何故ならば、オレイン酸はリノール酸よりも安定であり、しかも非常に優れた栄養的特性を有しているからである。さらに、該油に含まれるリノール酸の含有量は、脂肪酸の全重量に基づいて15%未満、より好ましくは10%未満、最も好ましくは5%以下であることが好ましい。
【0047】
リノレネートの含有量は0.5%未満にすることが好ましい。何故ならば、リノレネートは、市販油に含まれる最も不安定な脂肪酸であると共に、魚臭の原因となっているからである。
【0048】
第1の好ましい実施態様においては、本発明は、下記の特性i)〜iii)を有するオレインフラクションに関する:
i)該オレインフラクションに含まれるTAG種の1.6〜8.6%(特に3.4%)が一般式SMSで表される成分であると共に、TAG種の26〜62%(特に48%)が一般式SMMで表される成分である。
ii)該オレインフラクションの曇り点が4℃〜−6℃(特に−1.2℃)である。
iii)該オレインフラクションの熱安定性が、180℃で10時間の加熱処理に付した後のTAGの変化率が最大で20.1〜26.5%(特に22.3%)になるような程度である。
この種の油は、CAS−15の種子から調製される油の湿式分別によって入手可能である。
【0049】
第2の好ましい実施態様においては、本発明は、下記の特性i)〜iii)を有するオレインフラクションに関する:
i)該オレインフラクションに含まれるTAG種の2.6〜7.4%(特に4.2%)が一般式SMSで表される成分であると共に、TAG種の39〜59%(特に49%)が一般式SMMで表される成分である。
ii)該オレインフラクションの曇り点が3℃〜−4℃(特に−0.2℃)である。
iii)該オレインフラクションの熱安定性が、180℃で10時間の加熱処理に付した後のTAGの変化率が最大で19.8〜24.2%(特に20.2%)になるような程度である。
この種の油は、CAS−15の種子から調製される油の乾式分別によって入手可能である。
【0050】
本発明によるオレインフラクションは、オレエート含有量の高い油に比べて、該フラクションを構成するTAGの酸化と重合に対して耐性を示すという意味において熱安定性がある。この結果、本発明によるオレインフラクションは、長期間の貯蔵及び少なくとも100℃、好ましくは160℃又は180℃の温度での揚げ調理や煮炊き調理に対して特に適している。揚げ調理には、食材(例えば、獣肉、鶏肉、魚肉、果物及び野菜等)を揚げ物にする調理法、食材を強火で素早く炒める調理法、及びペーストリー、フライドポテト及びスナック類をたっぷりの油で挙げる調理法が含まれる。さらに、本発明による油は焼き調理、強熱調理及びその他の調理法に対して適しており、また、各種の食品(例えば、マヨネーズ、軽マヨネーズ、低脂肪マヨネーズ、マスタード、ケチャップ、タルタルソース、サラダドレッシング、サラダバーボトル、サンドウィッチスプレッド、調理済み食品、調理済みのスープ、ソース、及びクリーム等)の製造にも適している。
【0051】
より一般的な意味においては、本発明は、当該オレインフラクションを高温条件(即ち、該オレインフラクションを180℃のオーブン内において10時間保持する条件)に付した後において15%未満の飽和脂肪酸と10%未満(好ましくは5%未満)のリノール酸を含有するオレインフラクションの使用に関する。実際上は、このような高温条件は揚げ調理や焼き調理においてもたらされる。
【0052】
本発明は上記の油に限定されない。本発明は、該油とその他の油との混合物の使用にも関する。このような混合物の全体的な特性は本発明による油とは異なることもあり、該混合物は工業的プロセス(例えば、当該油をさらなる分別処理に付すための酵素的又は化学的なエステル交換反応等)においても使用することができる。
【0053】
本発明によるオレインフラクションは、次の文献に教示されているように、酸化防止剤又はその他の添加剤と共に使用することができ、これによって該オレインフラクションの特性(主として、不連続的な揚げ調理過程における特性)が改良される:マルケス−ルイスら、Eur. J. Lipid Sci. Technol. 、第106巻、第752頁〜第758頁(2004年)。この文献においては、次のことが示されている。即ち、一部のシリコーン、特にジメチルポリシロキサン(DMPS)を油脂中へ非常に低濃度で添加することによって、主として不連続的な揚げ調理における該油脂の特性が改良される。この添加剤は、市販の揚げ調理用油においては、たっぷりの油を用いる揚げ調理における熱酸化反応の防止剤として広く使用されている。本発明は、オレイン酸と飽和脂肪酸の含有量の高いヒマワリ油を低温分別処理に付すことによって、安定な液状の油フラクションを調製する方法にも関する。この方法は低温分別による方法であり、好ましくは乾式分別又は溶剤分別による方法である。
【0054】
本明細書において使用される「油フラクション」、「オレインフラクション」及び「本発明による油」という用語は相互に交換できる用語である。本発明による生成物は油から得られるフラクションであるが、それ自体は油であるので、「油」とも呼ぶ。
【0055】
一般式SUS(式中、Sは飽和脂肪酸を示し、Uは不飽和脂肪酸を示す)で表されるTAG種はSMS及びSDS(式中、Mは不飽和結合を1個有するモノエン脂肪酸を示し、Dは不飽和結合を2個有するジエン脂肪酸を示す)である。SMS種はEOE、POP、POE、EOB及びEOAである。SDS種はPLP、ELE及びPLEである。
【0056】
一般式SUUで表されるTAG種はSMM、SMD及びSDDである。SMM種はPOO、EOO、OOA及びOOBである。SMD種はPOL、BOL、OLA及びOLBである。SDD種はPLL及びELLである。
【0057】
一般式UUUで表されるTAG種はMMM、MMD、MDD及びDDDである。MMM種はOOOである。MMD種はOOLである。MDD種はOLLであり、DDD種はLLLである。
【0058】
本発明を以下の実施例によってさらに説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。以下の実施例においては、図1について説明する。
図1に示すデータは、種々の油の重合を180℃でおこなうことによって得た。一般的なヒマワリ油(CAS−6)、オレイン酸の含有量の高いヒマワリ油(CAS−9)、オレイン酸とパルミチン酸の含有量が高いヒマワリ油(CAS−12)、オレイン酸とステアリン酸の含有量が高い油(HOHS−17%E及びHOHS−20%E)、オレエートとステアレートの含有量が高い油の0℃での分別による上澄み(上澄み1)及び−5℃での分別による上澄み(上澄み2)について検討した。
【実施例】
【0059】
実施例1:本発明によるオレインフラクションを調製するための油の調製
1.植物原料
本発明によるオレインフラクションは寄託された品種IG−1297Mの種子又はその他のいずれかの方法によって得られる種子から調製することができる。この種の種子を得るための1つの他の方法を以下に例示する。
【0060】
WO0074470公報に記載のようなHOHSから成熟した高オレエート/高スレアリンヒマワリ種子及び/又はフェルナンデス−モヤらの文献(J. Arric. Food Chem. 第53巻、第5326頁〜第5330頁、2005年)に記載のようなCAS−15種子を使用した。すべての種子は、高オレエートの履歴において高ステアレート含量を示した。
【0061】
高オレイン酸/高ステアリン酸油(HOHS)は全て類似する油であって、以下の実施例において使用した油を抽出するために使用した種子に左右されず、これらの油はその他のいずれかの種子からも抽出することができ、また、特定のTAG組成物を得るためには純品又は混合品として使用できる。
【0062】
パルミトレエートを含有するか又は含有しないCAS−12(IG−1297M(ATCC 209591)として寄託されている)又はCAS−25(セッラノ−ベガらの文献(Lipids 、第40巻、第369頁〜第374頁、2005年)に記載されているようにして、IG−1297MとCAS−3との交配によって得た)を使用した。高オレイン酸/高パルミチン酸油は全て類似する油であって、以下の実施例において使用した油を抽出するために使用した種子に左右されず、これらの油はその他のいずれかの種子からも抽出することができ、また、特定のTAG組成物を得るためには純品又は混合品として使用できる。
【0063】
対照原料としては、通常のヒマワリ系統(標準CAS−6)及び高オレイン酸系統(CAS−9)から得られた成熟種子を使用した。
【0064】
以下の実施例において使用した油の脂肪酸組成例を以下の表5に示す。
【表5】

【0065】
油HOHS 17%、HOHS 24E及びHOHS 253はCAS−33種子及びCAS−15種子から抽出し、純品として使用した。HOHS 20%は混合油である。
【0066】
2.油の抽出
実験室規模において、本発明によるオレインフラクションを調製するために使用した油は、微粉末に粉砕した原料種子を無水硫酸ナトリウムと1/5w/wの割合で混合する方法を使用することによって該種子から抽出した。次いで、得られたケークを濾紙カートリッジ内へ装填し(該混合物の含有量:約25g)、これをソックスレー抽出器内へ入れ、溶剤としてヘプタンを使用する抽出処理に16時間付した。溶剤溜めに回収された油に富む混合物を80℃での真空蒸留処理に付し、痕跡量の溶剤は窒素流によって除去した。
【0067】
別の方法においては、微粉末に粉砕した種子を、2v/wのヘプタンと混合させることによる油の不連続的な抽出処理をおこなった。得られた懸濁液をねじ込みキャップ具有フラスコ内へ移し、80℃で2時間保持した。次いで、NaClのメタノール溶液(10g/L)1容量を添加することによって相分離させた。ヘプタンに富む上澄みを除去した後、残留物を80℃での真空蒸留処理に付した。最後に、得られた油を窒素流で処理することによって、痕跡量の溶剤を除去した。
【0068】
大規模な抽出においては、処理能力が8kg/hの連続的オイルプレスを用いて種子油を抽出した。5kgのバッチを抽出した後、精製処理に付した。このような油は、ホスフェート含有量が低いために、脱ガム処理には付さなかった。過剰の遊離脂肪酸は、12度ボイメ(2.18M)の苛性アルカリ溶液を用いる15℃での中和処理に40分間付すことによって除去した。セッケン原料を遠心分離によって除去して得られた油を、水洗処理に付した後、活性化漂白粘土(1%w/w)を用いる70℃での漂白処理に10分間付した。最後に、得られた油を、3%のスチームを用いる200℃での脱臭処理に3時間付した後、真空下で3時間保持した。
【0069】
実施例2:TAGの特性決定
1.油中のTAGの分布
本発明によるオレインフラクションを調製するために使用したヒマワリ油からの精製TAGは、該油3gを石油エーテル3mlに溶解させた溶液を、使用直前に200℃での活性化処理に3時間付したアルミナ上を通過させることによって得た。1本のシリコンチューブで連結した2本の小さなカラム内へそれぞれ1.5gの活性アルミナを装填し、次いで該カラムの上部へ脂質溶液を載置し、該アルミナを通して濾過した。これらのカラムを6mlの石油エーテルを用いてさらに洗浄した。溶剤を蒸発させ、精製したTAGは、窒素を用いるフラッシング処理に付した後、−20℃で保存した。
【0070】
得られたTAGにトコフェロールが含まれていないことは、「IUPAC標準法2432」(「油、脂肪及び誘導体の分析のためのIUPAC標準法」、ブラックウェル、オックスフォード、第7増補版、1987年)に従って、HPLCによって確認した。
【0071】
TAG分子種の組成分析は、精製したTAGのガスクロマトグラフィーによっておこなった(J. Agric. Food Chem. 、2000年、第48巻、第764頁〜第769頁参照)。この分析においては、アジレント・テクノロジーズ社(米国)製のDB−17−HT毛管カラム(15m×0.25mm(内径);膜厚0.1ミクロン)、水素キャリヤーガス及びFID検出器を使用した。
【0072】
実施例3:本発明によるオレインフラクションの調製
1.溶剤を用いる油の分別
実施例1において説明した種子から抽出した油を3容量の有機溶剤(例えば、ヘキサン、アセトン、及びエチルエーテル等)に溶解させた。その他の油/溶剤比を用いた場合にも同じ結果が得られた。この点に関しては次の文献を参照されたい:「食用油脂の加工;基本原理と最近のプラクティス」、1990年、世界会議議事録、アメリカオイル化学者協会。得られた溶液を低温で24時間保存した。上澄みを遠心分離(5000×g)によって沈殿物から分離させ、これを窒素によるフラッシング処理に付すことによって、オレインフラクションから溶剤を除去した。得られたオレインフラクションを、窒素雰囲気下において、−20℃で保存した。0℃と−20℃において、2通りの分別法を実施することによって、組成と特性が異なるオレインを得た(以下の表6参照)。油「HOHS 24E」及び「HOHS 253」は、CAS−33種子及びCAS−15種子から抽出された油である。
【0073】
【表6】

【0074】
2.高オレイン酸/高ステアリン酸油の溶剤分別
溶剤分別例を表6に示す。CAS−15系統の種子(フェルナンデス−モヤら、J. Agric. Food Chem. 、第53巻、第5326頁〜第5330頁、2005年参照)又はHOHS種子(WO0074470参照)から抽出された2種の高オレイン酸/高ステアリン酸油「HOHS 253」及び「HOHS 24E」を、アセトンを用いる0℃での分別処理に付すことによって、それぞれのオレインフラクションを(上澄み1253及び上澄み124E)捕集した。また、−5℃においては、2種の別のフラクションが得られた(上澄み2253及び上澄み224E)。
【0075】
0℃及び−5℃で得られたフラクション中に含まれるジ飽和TAG(例えば、POS、SOS、SOA、SOB等)の量は低減される。TAG組成は、飽和(S)、モノ不飽和(M)及びジ不飽和(D)TAG含有量に従うTAGクラスとして表示することができる。以下の表7は、このようにして類別したデータを示す。これらのデータから明らかなように、本発明によるオレインフラクションは、出発原料油よりも、実質的に低いSMS値を示す。
【0076】
【表7】

【0077】
3.高オレイン酸/高パルミチン酸油の溶剤分別
ヒマワリからの別の飽和油、例えば、CAS−12からの高パルミチン酸/高オレイン酸油についても分別処理をおこなうことによって、オレインフラクションを得た。このオレインフラクションにおいては、ジ飽和TAGの含有量が低減された。
【0078】
元の高オレイン酸/高パルミチン酸ヒマワリ油(CAS−12からのHOHP)のTAG組成並びにアセトンを用いて0℃及び−5℃において24時間後に得られた2種のフラクション(それぞれ「上澄み1」及び「上澄み2」で示す)に関するデータを以下の表8に示す。
【0079】
【表8】

【0080】
TAG組成は、TAGクラスとして示すことができる。以下の表9においては、元のHOHP油並びに上澄み1のフラクション及び上澄み2のフラクションのTAGクラスを示す。これらのオレインフラクションにおいては、ジ飽和TAG(例えば、SMS等)の含有量が低減されるが、モノ飽和TAGとトリ不飽和TAG(例えば、SMM及びMMM等)の含有量は増加する。
【0081】
【表9】

【0082】
4.油の乾式分別
油の分別を、溶剤を使用せずに、該油を24時間〜48時間にわたって冷却することによっておこなった。得られた沈殿物を、分別温度下での遠心分離処理(5000×g)に30分間付すことによって沈降させた。オレインは、上澄みとして分離させた。分別温度は12℃〜0℃である。乾式分別法は次の文献に記載されている:「食用油脂の加工;基本原理と最近のプラクティス」、1990年、世界会議議事録、アメリカオイル化学者協会、第136頁〜第141頁及び第239頁〜第245頁。
【0083】
低温での保存中においては、飽和TAGの結晶が形成され、該結晶は遠心分離及び冷圧等によって液状油から分離させることができる。乾式分別の例を以下の表10及び表11に示す。元の高オレイン酸/高ステアリン酸油を9.5℃に保持し、オレイン(上澄み1)は上澄みとして回収した。オレイン(上澄み1)を5℃での分別処理に24時間付すことによって、オレイン(上澄み2)を上澄みとして得た。次いで、上澄み2を2.5℃での分別処理に24時間付すことによって、表10及び表11に示す上澄み3を得た。
【0084】
溶剤分別においては、ジ飽和TAGは減量したが、より不飽和なTAG種は増量した。TAGクラスとして示される同じ結果が表11に見られる。
【0085】
【表10】

【0086】
【表11】

【0087】
所定の油の乾式分別は、トリアシルグリセリドの結晶化に使用する温度によって非常に左右される。従って、得られるオレインフラクションの組成は相違した。以下の表12及び表13に示すデータは、高オレイン酸/高ステアリン酸油を12℃、2.5℃及び0℃における乾式分別処理に順次24時間付して得られたデータの代表例である。
【0088】
より低い温度において油の分別をおこなうことによって、SMS形態のTAGの含有量がより低く、しかもMMM又はMMDのようなより不飽和なクラスの種の含有量がより高いオレインであって、液性のより高いオレインが得られる。SMM形態のTAGの含有量は、上澄み1において最大となり、上澄み2及び3においては幾分減少し、MMMやMMDのようなより不飽和な種の含有量は増加する。
【0089】
【表12】

【0090】
【表13】

【0091】
実施例4:雲り点の測定
多くの食品用途に対しては、液状油が好ましい。例えば、たっぷりの油で揚げ物をする調理に対しては、ほとんどの食品会社において、油の熱的分離を回避すると共に、脂肪の固化を防止するための加熱処理を回避するために液状油が採用されている。雲り点は、所定の条件下におけるTAGの固化に起因して油が濁る温度として定義される。雲り点は、低温に起因して、油の固化が開始して固体状脂肪の一部の結晶が出現するときの温度を測定する。より低い雲り点を有する油は、より低い温度において液体状態である。冷蔵庫内において保存する必要のある食料品に使用される油としては、0℃付近又は0℃よりも低い雲り点を有する油が好ましい。
【0092】
SUS含有量の異なるオレインフラクション及び対照油の雲り点を測定するために、各々の試料油10gをねじ込み式キャップを具有するガラス管内へ入れ、該ガラス管を80℃まで加熱することによって痕跡量の固体を消失させ、次いで、該ガラス管を、試料油の濁りの観察を可能にする窓とランプを具備する恒温槽内へ移動させた。恒温槽の初期温度は30℃に設定し、次いで、該槽の温度を、2℃/20分の降温速度で−10℃まで低下させた。濁り点は、所定の試料油が濁るようになる温度を肉眼によって観察することによって測定した。
【0093】
高オレイン酸/高ステアリン酸油から得られた一部のオレインフラクションの雲り点を測定した。これらのオレインフラクションのトリアシルグリセリド組成を以下の表14に示す。
【0094】
【表14】

【0095】
以下の表15は、標準的な高オレイン酸油の雲り点がいずれも−8℃であることを示す。従って、この種の油の個化は、0℃よりも低い温度において開始するが、20℃よりも高い雲り点を有する高飽和油は、冷蔵庫内においては固体状である。高オレイン酸/高ステアリン酸油の溶剤分別又は乾式分別によって調製されたオレインフラクションは、0℃付近及びこれよりも低い曇り点であって、標準的な高オレイン酸油の雲り点に近い雲り点を有する。この種のオレインフラクションの冷蔵庫温度における挙動は、標準的な高オレイン酸油の挙動と類似する。
【0096】
【表15】

【0097】
実施例5:熱安定性
1.TAGの精製
異なる油及びオレインフラクション(実施例3の上澄み1253及び上澄み2253;表6参照)から得られたTAGを、熱安定性試験に供する前に、実施例3に記載の方法による精製処理に付すことによって、トコフェロールを除去した。
【0098】
油を加熱すると、該油を構成するTAGの酸化及び/又は重合に起因して、油質は劣化する。熱安定性を試験するために、180℃で10時間の熱処理を以下のようにしておこなった。
【0099】
2.熱酸化処理
試料の熱酸化処理は、バレラ−アレラノらによる方法(Grasas Aceites、第48巻、第231頁〜第235頁、1997年)に従って、厳密に制御された条件下においておこなった。この方法は、手短に言えば次の通りである。精製したTAG2.00±0.01gを、標準的なガラス管(13cm×1cm(内径))内で秤量し、該ガラス管を180±0.1℃のオーブン内へ導入した。重合したTAGを分析するために、50mgの試料を2時間間隔で採取した。全加熱時間が10時間に達した後、最後の試料を採取し、極性化合物及び酸化されたTAGモノマー中とTAGポリマー中における該化合物の分布に関する付加的な分析に供した。「ランシマート(登録商標)」の取扱説明書を注意深く検討して、容器の洗浄と温度補正をおこなった。加熱中においては、空気による泡立ちは観測されず、容器は開放状態にした。
【0100】
3.TAGの定量化
種々の油中に含まれる重合したTAGの定量化は、HPLCにおける屈折率検出器の代わりに光散乱検出器を使用するIUPAC標準法2508(前記参照)によって修正した高速サイズ排除クロマトグラフィー(HPSEC)を用いておこなった。全極性化合物及び酸化されたTAGモノマー中とTAGポリマー中における該化合物の分布に関する分析は、吸着クロマトグラフィーとHPSECを併用することによっておこなった。この点に関しては、次の文献を参照されたい:ドーバルガンズら、Fat. Sci. Technol. 、第90巻、第308頁〜第311頁(1988年)。
【0101】
HPSECに適用した条件は次の通りである。分離は、ウォーターズ社(ミルフォード、マサチューセッツ州)製の「2420 ELS検出器データ」を備えたウォーターズ社製の「2695モジュール」を用いておこない、エンパワー・ソフトフェアを用いてデータ処理をおこなった。高度に架橋された多孔性スチレン/ジビニルベンゼンコポリマー(<10Am)を充填したウルトラスチラゲルカラム(25cm×0.77cm(内径))(ウォーターズ・アソシエーツ社(ミリフォード、マサチューセッツ、米国)製)を直列に連結させ、操作は35℃でおこなった。移動相としてはHPLC−グレードのテトラヒドロフランを使用した(流速:1ml/分)。濃度が50mg油/ml及び15mg極性化合物/mlの試料溶液(溶媒:テトラヒドロフラン)を使用することによって重合したTAG及び極性化合物の分布に関する分析をそれぞれおこなった。
【0102】
4.TAGの変化のモニタリング
工業的規模及び一般家庭においておこなわれている揚げ物調理で使用されている条件に類似する条件下におけるダイマー、ポリマー及び変化したTAGのモニタリングによって、所定の油とフラクションの酸化安定度に関する情報が得られる。従って、リノール酸に富む一般的なヒマワリ油(CAS−6;サラスら、JAOCS、第83巻、第539頁〜第545頁、2006年)(表5参照)から得られた精製TAGは最も高い重合速度を示し(図1参照)、180℃で10時間の加熱処理によって、TAGの28%が重合した。
【0103】
高オレイン酸油CAS−9(フェルナンデス−モヤら、J. Agric. Food Chem. 、第53巻、第5326頁〜第5330頁、2005年)の場合には、TAGは、一般的なヒマワリ油よりも安定であるが、0℃及び−5℃でのHOHS油の分別によって得られた両方の上澄み(実施例4で得られた上澄み1253及び2253;表6参照)に含まれるTAGよりも速く重合した。
【0104】
以上のように、SUU形態のTAGを高濃度で含有すると共に、SUS形態のTAGを低濃度で含むこれらのオレインフラクションは、一般的な高オレイン酸ヒマワリ油に比べて高い安定性を示すと共に、低い雲り点を示す安定な液状油である。従って、該液状油は、揚げ調理、焼き調理、強熱調理及びその他の調理法に対して適しており、また、各種の食品(例えば、マヨネーズ、軽マヨネーズ、低脂肪マヨネーズ、マスタード、ケチャップ、タルタルソース、サンドウィッチスプレッド、サラダバーボトル、サラダドレッシング、調理済み食品、調理済みのスープ、ソース、及びクリーム等)の製造にも適している。
【0105】
高ステアリン酸/高オレイン酸油であるHOHS17%及びHOHS20%並びに高パルミチン酸/高オレイン酸油(CAS−12)は類似の重合速度を示すが、該速度は0℃での上澄みよりも幾分低い。これは、室温下においてこれらの油を半固体状にする飽和脂肪酸の含有量が高いことに起因するものである。
【0106】
さらに、180℃で10時間の加熱処理に付した後の変化したTAGに対応するデータは、重合過程とよく一致する(表16参照)。一般的な高オレイン酸油中の変化したTAGの量が最も高く、HOHS油の上澄み1及び上澄み2から分離されたオレインフラクション中の変化したTAGの量はこれよりも少なかった。このことは、これらのオレインフラクションが安定な液状油であることを教示する。半固体状の高飽和なHOHS油及びHOHP油に含まれる変化したTAGの量は最も低かったが、この種の油は液状ではなく、低温下での輸送又は貯蔵において固化する。
【0107】
【表16】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレイン酸の含有量が高い高飽和ヒマワリ油を分別処理に付した後、液状フラクションを捕集することによって入手可能な安定な液状オレインフラクションであって、a)該オレインフラクションのTAG種の8.6%未満が一般式SMS(式中、Sは飽和脂肪酸を示し、Mはモノエン脂肪酸を示す)で表される成分であり、b)該オレインフラクションのTAG種の少なくとも26%が一般式SMM(式中、S及びMは前記と同意義である)で表される成分である該オレインフラクション。
【請求項2】
分別処理が低温分別である請求項1記載の安定な液状オレインフラクション。
【請求項3】
低温分別が、下記の段階i)〜iii)を含む乾式分別である請求項2記載の安定な液状オレインフラクション:
i)ヒマワリ油の温度を、所望による撹拌条件下において、12℃まで(好ましくは9.5℃まで、より好ましくは5℃まで)低下させ、
ii)固形分フラクションからオレインを分離させ、次いで
iii)所望により、得られたオレインを2.5℃(好ましくは0℃)において再び分別処理に付すことによって、飽和度のより低いオレインフラクションを得る。
【請求項4】
低温分別が、下記の段階i)〜ii)を含む乾式分別である請求項2記載の安定な液状オレインフラクション:
i)ヒマワリ油の温度を、所望による撹拌条件下において、12℃まで(好ましくは9.5℃まで、より好ましくは5℃まで)低下させ、次いで
ii)固形分フラクションからオレインを分離させる。
【請求項5】
低温分別が、下記の段階iii)をさらに含む請求項4記載の安定な液状オレインフラクション:
iii)得られたオレインを2.5℃(より好ましくは0℃)において再び分別処理に付すことによって、飽和度のより低いオレインフラクションを得る。
【請求項6】
低温分別が、下記の段階i)〜iv)を含む溶剤分別である請求項2記載の安定な液状オレインフラクション:
i)ヒマワリ油をアセトン、ヘキサン又はエチルエーテルのような有機溶剤と混合させ、
ii)ヒマワリ油の溶液の温度を0℃まで(好ましくは−5℃まで)低下させ、
iii)固形分フラクションからオレインを分離させ、次いで
iv)所望により、上澄みから溶剤を除去することによってオレインを回収する。
【請求項7】
低温分別が、下記の段階i)〜iii)を含む溶剤分別である請求項2記載の安定な液状オレインフラクション:
i)ヒマワリ油をアセトン、ヘキサン又はエチルエーテルのような有機溶剤と混合させ、
ii)ヒマワリ油の溶液の温度を0℃まで(好ましくは−5℃まで)低下させ、
iii)固形分フラクションからオレインを分離させる。
【請求項8】
溶剤分別が、下記の段階iv)をさらに含む請求項7記載の安定な液状オレインフラクション:
iv)上澄みから溶剤を除去することによってオレインを回収する。
【請求項9】
溶剤を、真空蒸留によって上澄みから除去する請求項8記載の安定な液状オレインフラクション。
【請求項10】
オレイン酸含有量が高い高飽和ヒマワリ油が、CAS−3(ATCC 75968)をチオエステラーゼの含有量が高い突然変異品種(寄託番号:ATCC PTA−628)と交配させることによって入手可能なオレイン酸とステアリン酸の含有量が高いヒマワリ種子を抽出することによって入手可能なオレイン酸とステアリン酸の含有量の高いヒマワリ油である請求項1から9いずれかに記載の安定な液状オレインフラクション。
【請求項11】
オレイン酸含有量が高い高飽和ヒマワリ油が、ヒマワリ品種IG−1297Mの種子(寄託日:1998年1月20日、ATCC登録番号:ATCC−209591)を抽出することによって入手可能なパルミチン酸含有量の高いヒマワリ油である請求項1から9いずれかに記載の安定な液状オレインフラクション。
【請求項12】
オレイン酸含有量が高い高飽和ヒマワリ油が、IG−1297M(ATCC 209591)をCAS−3(ATCC 75968)と交配させることによって入手可能なヒマワリ品種CAS−25の種子を抽出することによって入手可能なオレイン酸とパルミチン酸の含有量が高くてパルミトレイン酸とアスクレピン酸の含有量が低いヒマワリ油である請求項1から9いずれかに記載の安定な液状オレインフラクション。
【請求項13】
オレインフラクション中のリノレン酸の含有量が0.5%未満である請求項1から12いずれかに記載の安定な液状オレインフラクション。
【請求項14】
オレインフラクション中のリノール酸の含有量が15%未満(好ましくは10%未満、より好ましは5%未満)である請求項1から13いずれかに記載の安定な液状オレインフラクション。
【請求項15】
オレインフラクション中のTAG種の6%未満(好ましくは4%未満)が一般式SMSで表される成分である請求項1から14いずれかに記載の安定な液状オレインフラクション。
【請求項16】
オレインフラクション中のTAG種の少なくとも30%(好ましくは少なくとも35%、より好ましくは少なくとも45%)が一般式SMMで表される成分である請求項1から15いずれかに記載の安定な液状オレインフラクション。
【請求項17】
オレインフラクションを構成するTAGのsn−2に位置する飽和脂肪酸の含有量が8%未満(好ましくは5%未満、より好ましは3%未満)である請求項1から16いずれかに記載の安定な液状オレインフラクション。
【請求項18】
曇り点が5℃未満(好ましくは0℃未満、より好ましくは−6℃未満)である請求項1から17いずれかに記載の安定な液状オレインフラクション。
【請求項19】
オレイン酸の含有量が高い高飽和ヒマワリ油の低温分別による安定な液状オレインフラクウションの調製法。
【請求項20】
低温分別が、下記の段階i)〜iii)を含む乾式分別である請求項19記載の方法:
i)ヒマワリ油の温度を、撹拌下又は非撹拌下において、12℃まで(好ましくは9.5℃まで、より好ましくは5℃まで)低下させ、
ii)固形分フラクションからオレインを分離させ、次いで
iii)所望により、得られたオレインを2.5℃(好ましくは0℃)において再び分別処理に付すことによって、飽和度のより低いオレインフラクションを得る。
【請求項21】
低温分別が、下記の段階i)〜iv)を含む溶剤分別である請求項19記載の方法:
i)ヒマワリ油をアセトン、ヘキサン又はエチルエーテルのような有機溶剤と混合させ、
ii)ヒマワリ油の溶液の温度を0℃まで(好ましくは−5℃まで)低下させ、
iii)固形分フラクションからオレインを分離させ、次いで
iv)所望により、真空蒸留によって上澄みから溶剤を除去することによってオレインを回収する。
【請求項22】
下記の製品を製造するための請求項1から18いずれかに記載の安定な液状オレインフラクションの使用:
ソース、特にマヨネーズ、軽マヨネーズ、低脂肪マヨネーズ、マスタード、ケチャップ及びタルタルソース、サラダドレッシング、サラダバーボトル、サンドウィッチスプレッド、調理済み食品、調理済みのスープ又はクリーム、並びにアイスクリーム又はアイスクリームケーキ。
【請求項23】
請求項1から18いずれかに記載の安定な液状オレインフラクションのいずれかの手段による少なくとも100℃での加熱による高温条件下、特に揚げ調理、焼き調理、煮炊き調理及びあぶり調理による高温条件下での使用。
【請求項24】
高温条件が少なくとも160℃(より好ましくは少なくとも180℃)での温度条件である請求項23記載の使用。
【請求項25】
請求項1から18いずれかに記載の安定な液状オレインフラクションを含有するオイル混合物。
【請求項26】
請求項1から18いずれかに記載の安定な液状オレインフラクションの使用であって、酵素的又は化学的なエステル交換及びオイルのさらなる分別処理のような工業プロセスにおける該使用。

【図1】
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【公表番号】特表2009−543907(P2009−543907A)
【公表日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−519836(P2009−519836)
【出願日】平成19年7月13日(2007.7.13)
【国際出願番号】PCT/EP2007/006221
【国際公開番号】WO2008/006597
【国際公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【出願人】(593005895)コンセホ・スペリオール・デ・インベスティガシオネス・シエンティフィカス (67)
【氏名又は名称原語表記】CONSEJO SUPERIOR DE INVESTIGACIONES CIENTIFICAS
【Fターム(参考)】