安定な補酵素による酵素の安定化
本発明は、酵素を安定化された補酵素の存在下で保管することにより該酵素を安定化する方法に関する。さらには、本発明は、安定化された補酵素により安定化された酵素、および分析物の検出のためのテストエレメントにおけるその使用に関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安定化された補酵素の存在下で酵素を保管することによる酵素を安定化する方法に関する。さらに本発明は、安定化された補酵素により安定化された酵素、および分析物を検出するためのテストエレメントにおけるその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
診断用テストエレメントは、臨床的に意義のある分析方法の重要な構成要素である。このため、たとえば、直接的にまたは間接的に、分析物に特異的である酵素を使用して測定され得る、たとえば代謝物や基質などの分析物の測定に重点が置かれている。この場合、分析物は、酵素−補酵素複合体を使用して変換され、ついで定量される。これは、測定されるべき分析物を適切な酵素、補酵素および任意にはメディエーターと接触させることを伴い、それによって補酵素は、酵素反応によってたとえば酸化または還元など物理化学的に変化する。メディエーターが追加で使用される場合、メディエーターは通常、還元された補酵素から分析物の変換のあいだに放出された電子を光学インジケーターまたは電極の伝導性部位上に伝達し、これによりこのプロセスがたとえば光度計測的または蛍光計測的に検出され得る。較正により、測定された値と測定される分析物の濃度との間の直接的な関係が提供される。
【0003】
診断用テストエレメントを提供する際の重要な基準は、長期間にわたるそれらの安定性である。たとえば血糖の測定に使用されている、先行技術において既知のテストエレメントは、一般的に、特に補酵素およびメディエーターの機能が通常低下する湿度および熱に非常に感受性が高い。市販のテストエレメントのもつもう一つの問題は、周辺光に対する感受性の高さであって、酵素システムによる光の吸収は、酵素、補酵素または/およびメディエーターへのダメージをもたらし得る。したがって、たとえばエンドユーザー自身により実施される試験の場合などの特定の適用においては、誤りであるが気づかれることのない間違った測定システムの保管によって、使用者によって認識されることがほぼ不可能な、かつ、それぞれの疾患の誤った処置につながるかもしれないような、誤った結果が生じる可能性がある。
【0004】
診断用テストエレメントの安定性を増加させるために使用可能な既知の手段の一つは、安定な酵素の使用、たとえば好熱性生物由来の酵素の使用である。さらに、架橋などの化学的修飾や突然変異誘発により酵素を安定化することも可能である。加えて、トレハロース、ポリビニルピロリドンおよび血清アルブミンなどの酵素安定剤を添加することもでき、または酵素をポリマーネットワーク中にたとえば光重合によって包み込むこともできる。
【0005】
安定なメディエーターを用いることによる診断用テストエレメントの安定性を改善するための試みもなされている。これにより、できるだけ低い酸化還元電位を有するメディエーターの使用によって、テストの特異性が高められ、反応中の妨害が排除される。しかしながら、酵素/補酵素複合体の酸化還元電位は、メディエーターの酸化還元電位の下限を形成する。酸化還元電位がこの下限よりも低い場合、メディエーターとの反応は低下、または停止することさえある。
【0006】
あるいは、たとえば、補酵素NADHなどの補酵素が直接的に検出される、メディエーターを用いない診断用テストエレメントを使用することも可能である。しかし、そのような測定システムの1つの欠点は、NADおよびNADPなどの天然の補酵素が不安定であることである。
【0007】
NADおよびNADPは、塩基に不安定な分子であり、その分解経路は文献に記載されている(N.J. Oppenheimer in "The Pyridine Nucleotide Coenzymes", Academic Press New York, London 1982, editor J. Everese, B. Anderson, K. You, 第3章、56〜65頁)。NADまたはNADPがリボースとピリジン単位との間のグリコシル結合の開裂によって分解される場合、主としてADP−リボースが生成する。これに対し、還元型のNADHおよびNADPHは、酸に不安定であり、たとえばエピマー化は既知の分解経路の1つである。両方の場合において、NAD/NADPおよびNADH/NADPHの不安定性は、リボース単位とピリジン単位との間のグリコシル結合の不安定性に起因する。しかしながら、たとえば、水溶液といった激烈ではない条件下でさえ、補酵素NADおよびNADPは周囲の水分のみによって既に加水分解されている。この不安定性は、分析物の測定に不正確さをもたらし得る。
【0008】
多数のNAD/NADP誘導体が、たとえばB.M. Anderson in "The Pyridine Nucleotide Coenzymes", Academic Press New York, London 1982, editor J. Everese, B. Anderson, K. You, 第4章に記載されている。しかしながら、これらのほとんどの誘導体は酵素によってあまり良く受け入れられない。したがって、今までに診断テストに用いられてきたただ1つの誘導体は、3−アセチルピリジンアデニンジヌクレオチド(アセチルNAD)であり、1965年に初めて記載された(N.O. Kaplan, J. Biol. Chem. (1956), 221, 823)。この補酵素もまた、酵素による乏しい受け入れおよび酸化還元電位の変化を示す。
【0009】
国際公開第01/94370号は、修飾されたピリジン基を有するさらなるNAD誘導体の使用を記載している。しかしながら、ニコチンアミド基の修飾は一般的に、触媒反応に直接的な影響を及ぼす。ほとんどの場合、この影響は否定的なものである。
【0010】
他の安定化概念においては、リボース単位がそれによりグリコシル結合の安定性に影響を与えるように改変された。この方法は、ニコチンアミド基の触媒反応を直接的に阻害するものではない。しかしながら、酵素がリボース単位への強く特異的な結合を示すや否や間接的な影響を及ぼすかもしれない。Kaufmannらは、これに関連して国際公開第98/33936号および米国特許第5,801,006号明細書、ならびに国際公開第01/49247号に、多数のチオリボース−NAD誘導体を開示している。しかしながら、ニコチンアミドリボース単位の修飾と酵素反応における誘導体の活性とのあいだの関係はこれまで示されていない。
【0011】
グリコシル結合をもたない誘導体であるカルバNADは、1988年に最初に記載された(J.T. Slama, Biochemistry (1988), 27,183およびBiochemistry (1989), 28, 7688)。そこではリボースは炭素環の糖単位により置換されている。カルバNADは脱水素酵素のための基質として記載されていたが、その活性はこれまで生化学的検出方法において臨床的に実証されていない。
【0012】
後に、同様の手法が、天然のピロホスフェートの代わりにメチレンビスホスホネート化合物を用いてカルバNADを製造するために、G. M. Blackburnにより記載された(Chem. Comm.(1996年)、2765頁)。メチレンビスホスホネートは、ホスファターゼに対しより高い安定性を示し、そして、ADP−リボシルシクラーゼの阻害剤として使用された。その目的は、加水分解に対して安定性を向上させることではなかった(J. T. Slama、G. M. Blackburn)
【0013】
国際公開第2007/012494号および米国特許出願11/460,366号明細書においてようやく、安定化されたNAD/NADHおよびNADP/NADPH誘導体、これらの誘導体の酵素複合体ならびにそれらの生化学的検出方法および試薬キットにおける使用が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の根底にある目的は、酵素を安定化する方法、特には、少なくとも部分的には上記の不利を除外するような、酵素の長期安定化のための方法を提供することであった。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この目的は、酵素を安定化する方法であって、該酵素が安定化された補酵素の存在下に保管される方法により本発明にしたがって達成される。驚くべきことに、高い相対湿度でまたは液相中でさえ、高温および周辺光の中での、数週間または数ヶ月間という長期間の安定化が、安定化された補酵素を使用することにより可能であるということが見出された。これに関連して、「保管」という用語は、どのような期間のあいだでも、好ましくは少なくとも2週間という期間、より好ましくは少なくとも3ヶ月という期間、さらにより好ましくは少なくとも6ヶ月という期間、および最も好ましくは12ヶ月という期間、安定化された酵素の存在下で、酵素が保管されることを意味しており、その保管は、好ましくは大気圧下、室温(25℃)および少なくとも50%の相対空気湿度で行われる。
【発明の効果】
【0016】
この結果は、酵素は天然の補酵素の存在下では数時間という短期間では安定性の増加を示すが(Bertoldiら、Biochem. J. (2005), 389, 885;van den Heuvelら、J. Biol. Chem. (2005), 280, 32115;およびPanら、J. Chin. Biochem. Soc. (1974), 3, 1)、より長期間にわたった場合には安定性が低下するいうことが知られている(Nutrition Reviews (1978), 36, 251)ため驚くべきことである。酵素ならびに水分または/および熱に対する安定性が認められた安定化された補酵素を含む診断用テストエレメントの長期間にわたる安定性は、安定化された補酵素が対応する天然の補酵素よりも酵素とのより低い結合定数を有しているだけに一層驚くべきことである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1A】安定化された補酵素カルバNAD(cNAD)の図である。
【図1B】安定化された補酵素ピロリジニルNADの図である。
【図2A】NADの存在下およびcNADの存在下での、保管前後のグルコース脱水素酵素の酵素反応速度の結果の図である。NAD存在下1日後のGlucDHの反応速度。
【図2B】NADの存在下およびcNADの存在下での、保管前後のグルコース脱水素酵素の酵素反応速度の結果の図である。cNAD存在下1日後のGlucDHの反応速度。
【図2C】NADの存在下およびcNADの存在下での、保管前後のグルコース脱水素酵素の酵素反応速度の結果の図である。NAD存在下で32℃および85%の相対空気湿度で5週間保管した後のGlucDHの反応速度。
【図2D】NADの存在下およびcNADの存在下での、保管前後のグルコース脱水素酵素の酵素反応速度の結果の図である。cNAD存在下で32℃および85%の相対空気湿度で5週間保管した後のGlucDHの反応速度。
【図3】32℃および空気湿度85%で5週間までの期間にわたるNADの存在下におけるグルコース脱水素酵素またはcNADの存在下におけるGlucDHの空試験値との比較。
【図4】32℃および空気湿度85%でNADの存在下でのグルコース脱水素酵素の保管後のグルコース脱水素酵素の様々な関数曲線の図である。保管期間は1日と5週間との間で変化された。
【図5A】32℃および空気湿度85%でcNADの存在下でのグルコース脱水素酵素の保管後のグルコース脱水素酵素の様々な関数曲線の図である。保管期間は1日と5週間との間で変化された。
【図5B】32℃および空気湿度85%でcNADの存在下でのグルコース脱水素酵素の保管後のグルコース脱水素酵素の様々な関数曲線の図である。保管期間は1日と24週間との間で変化された。
【図6】32℃および空気湿度85%で24週間、NADまたはcNADそれぞれの存在下におけるグルコース脱水素酵素の保管後のNADまたはcNADの残存含量の図である。
【図7A】32℃および空気湿度85%で5週間、NADまたはcNADの存在下におけるグルコース脱水素酵素の保管後のGlucDH活性の図である。
【図7B】32℃および空気湿度85%で24週間、NADまたはcNADの存在下におけるグルコース脱水素酵素の保管後のGlucDH活性の図である。
【図8】32℃および83%の相対空気湿度で、NADまたはcNADの存在下、25週間の期間にわたる、グルコース脱水素酵素(GlucDH−wt)、二重突然変異体GlucDH_E96G_E170K(GlucDH−Mut1)および二重突然変異体GlucDH_E170K_K252L(GlucDH−Mut2)の保管後のGlucDH活性の図である。
【図9A】液相中50℃で4日間にわたる、NADまたはcNADの存在下でのグルコース脱水素酵素の安定性の図である。テスト条件:10mg/mL GlucDH;12mg/mL NADまたはcNAD;緩衝液:0.1M トリス、1.2M NaCl、pH8.5;温度50℃。
【図9B】液相中50℃で14日間にわたる、NADまたはcNADの存在下でのグルコース脱水素酵素の安定性の図である。テスト条件:10mg/mL GlucDH;12mg/mL NADまたはcNAD;緩衝液:0.1M トリス、1.2M NaCl、pH8.5;温度50℃。
【図10】cNAD存在下におけるアルコール脱水素酵素の種々の関数曲線の図である。cNADの濃度は、25%および150%の間で液相テストにおけるNADの初期濃度に基づいて変化された。
【図11】cNADの存在下、種々のエタノール濃度におけるアルコール脱水素酵素の酵素速度反応の結果の図である。
【図12】液相中35℃で65時間にわたる、NADまたはcNADの存在下での酵母由来のアルコール脱水素酵素の安定性の図である。テスト条件:5mg/mL ADH;50mg/mL NADまたはcNAD;緩衝液:75mM Na4P2O7;グリシン、pH9.0;温度35℃。
【図13】室温でNADおよび種々のメディエーターの存在下、11週間保管後のグルコース脱水素酵素の様々な関数曲線の図である。
【図14】種々のグルコース濃度のもと、NADおよび1−(3−カルボキシプロポキシ)−5−エチルフェナジニウム−トリフルオロメタンスルホネートの存在下におけるグルコース脱水素酵素の酵素反応速度の結果の図である。
【図15】酵素としてGlucDH、および、メディエーターとしてジアホラーゼを用いるグルコース検出の模式図である。
【図16】ピロロキノリンキノン(PQQ)およびメディエーターとして[(4−ニトロソフェニル)イミノ]ジメタノール塩酸塩の存在下におけるグルコース色素酸化還元酵素(GlucDOR)ならびにNADおよびメディエーターとしてジアホラーゼ/[(4−ニトロソフェニル)イミノ]ジメタノール塩酸塩の存在下におけるグルコース脱水素酵素の関数曲線の図である。
【図17】種々のグルコース濃度におけるNADおよびジアホラーゼの存在下でのグルコース脱水素酵素の酵素反応速度の結果の図である。
【図18】NADまたはcNADの存在下におけるグルコース脱水素酵素を用いたグルコースの電気化学測定において、グルコース濃度の関数として測定された電流の図である。テスト条件:25mM NADまたはcNAD;遅延時間2.5秒;測定時間5秒。
【図19】360nmの波長のUV光照射後のNAD存在下におけるグルコース脱水素酵素の種々の関数曲線の図である。
【図20】250〜450nmの波長範囲におけるcNADおよびcNADHの吸収スペクトルの図である。
【図21】グルコース脱水素酵素の二重突然変異体GlucDH_E96G_E170KおよびGlucDH_E170K_K252Lのアミノ酸配列の図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の方法により安定化される酵素は、補酵素依存性酵素である。好適な酵素はたとえば、脱水素酵素であって、特には、アルコール脱水素酵素(EC1.1.1.1;EC1.1.1.2)、L−アミノ酸脱水素酵素(EC1.4.1.5)、グルコース脱水素酵素(EC1.1.1.47)、グルコース−6−リン酸脱水素酵素(EC1.1.1.49)、グリセロール脱水素酵素(EC1.1.1.6)、3−ヒドロキシ酪酸脱水素酵素(EC1.1.1.30)、乳酸脱水素酵素(EC1.1.1.27、EC1.1.1.28)、リンゴ酸脱水素酵素(EC1.1.1.37)およびソルビトール脱水素酵素からなる群より選択される脱水素酵素である。さらに好適な酵素は、たとえばグルコース酸化酵素(EC1.1.3.4)またはコレステロール酸化酵素(EC1.1.3.6)などの酸化酵素、アスパラギン酸アミノ基転移酵素またはアラニンアミノ基転移酵素などのアミノ基転移酵素、5’−ヌクレオチダーゼ、クレアチンキナーゼおよびジアホラーゼ(EC1.6.99.2)である。酵素は好ましくはアルコール脱水素酵素(EC1.1.1.1;EC1.1.1.2)、グルコース脱水素酵素(EC1.1.1.47)、グルコース−6−リン酸脱水素酵素(EC1.1.1.49)またはジアホラーゼ(EC1.6.99.2)である。
【0019】
グルコース脱水素酵素(EC1.1.1.47)が酵素として使用される場合であれば、たとえば突然変異されたグルコース脱水素酵素が本発明の方法の範囲内において使用され得る。本願の範囲内において使用される場合、用語「突然変異体(mutant)」は、天然の酵素の遺伝的に改変された変異体を意味し、アミノ酸数は同じであるが野生型酵素と比較して改変されたアミノ酸配列、すなわち野生型酵素由来のアミノ酸の少なくとも1つが異なるアミノ酸配列を有する。突然変異の導入は、部位特異的に、または非部位特異的に行われ、好ましくは当該専門分野で公知の、少なくとも1つのアミノ酸の置換が天然の酵素のアミノ酸配列内で生じる組換え法を用いて、個々の要件および条件にしたがって、部位特異的に行われる。突然変異体は、特に好ましくは野生型酵素と比較して増加された熱安定性または加水分解安定性を有する。変異体は特に好ましくは、野生型酵素と比較して、より高い熱的安定性または加水分解安定性を有する。このような酵素の例は、Baik(Appl. Environ. Microbiol. (2005), 71, 3285頁)、Vasquez-Figueroa (ChemBioChem. (2007), 8, 2295頁)および国際公開第2005/045016号によって記載されており、その開示は、本明細書に参照として明確に組み込まれる。
【0020】
突然変異されたグルコース脱水素酵素は、原則として対応する野生型グルコース脱水素酵素と比較してそのアミノ酸配列の任意の位置で改変されたアミノ酸を含むことができる。突然変異されたグルコース脱水素酵素は、好ましくは野生型グルコース脱水素酵素のアミノ酸配列の96位、170位および252位の少なくとも1ヵ所に変異を含み、96位および170位に変異を含む突然変異体または170位および252位に変異を含む突然変異体が特に好ましい。突然変異されたグルコース脱水素酵素にとって、これらの変異以外にさらに変異を含まない場合が有利であることが証明されている。
【0021】
96位、170位および252位における変異は、原則として野生型酵素の安定化、たとえば熱安定性または加水分解安定性の増加をもたらす任意のアミノ酸の置換を含む。96位での変異は、好ましくはグルタミン酸のグリシンによるアミノ酸置換を含み、一方170位については、グルタミン酸のアルギニンまたはリジンによるアミノ酸置換、特にグルタミン酸のリジンによるアミノ酸置換が好ましい。252位における変異については、リジンのロイシンによるアミノ酸置換が好ましく含まれる。
【0022】
突然変異されたグルコース脱水素酵素は、あらゆる生物学的源由来の野生型グルコース脱水素酵素の突然変異により得ることができ、ここで、本発明の文脈における用語「生物学的源」とは、たとえば細菌などの原核生物ならびにたとえば哺乳類および他の動物などの真核生物の両方を含む。野生型グルコース脱水素酵素は、好ましくは細菌由来であり、特に好ましくは、バチルス メガテリウム(Bacillus megaterium)、バチルス ズブチルス(Bacillus subtilis)またはバチルス チューリンゲンシス(Bacillus thuringiensis)由来のグルコース脱水素酵素が好ましく、バチルス ズブチルス(Bacillus subtilis)由来のグルコース脱水素酵素が特に好ましい。
【0023】
特に好ましい態様において、突然変異されたグルコース脱水素酵素は、バチルス ズブチルス(Bacillus subtilis)由来の野生型グルコース脱水素酵素の突然変異により得られるグルコース脱水素酵素であり、配列番号1に示すアミノ酸配列(GlucDH_E96G_E170K)、または配列番号2に示すアミノ酸配列(GlucDH_E170K_K252L)を有する。
【0024】
本発明の範囲内における安定化された補酵素は、天然の補酵素と比較して化学的に修飾されており、水分、特に0度から50度までの範囲の温度、特にpH4からpH10までの範囲の酸および塩基、または/ならびにたとえばアルコールもしくはアミンなどの求核試薬に対し、天然の補酵素と比較してより高い安定性を大気圧下で有しており、この点において、同一の環境条件下で天然の補酵素よりもより長期間にわたりその活性を示すことができる。安定化された補酵素は、好ましくは、天然の補酵素と比較してより高い加水分解安定性を有しており、試験条件下において完全に加水分解に対し安定であることが特に好ましい。天然の補酵素と比較して、安定化された補酵素は、酵素に対して低下した結合定数を有していてもよく、たとえば2倍またはそれ以上に低下した結合定数を有していてもよい。
【0025】
安定化された補酵素の好ましい例は、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD/NADH)またはニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP/NADPH)の安定化された誘導体、または、たとえばAMP部位を有さないもしくはたとえば疎水性残基などの非ヌクレオシド残基を有する、短縮NAD誘導体である。本発明の意味では、式(I)の化合物が同様に、安定化された補酵素として好ましい。
【0026】
【化1】
【0027】
NAD/NADHおよびNADP/NADPHの好ましい安定化された誘導体は、前述の参考文献に記述されており、その開示は、本明細書に参照として明確に組み込まれる。特に好ましい安定化された補酵素は、国際公開第2007/012494号および米国特許出願11/460,366号明細書に記載されており、その開示は、本明細書に参照として明確に組み込まれる。安定化された補酵素は、特に好ましくは一般式(II)の化合物
【化2】
式中、
A=アデニンまたはその類似体、
T=それぞれ独立してO、S、
U=それぞれ独立してOH、SH、BH3-、BCNH2-、
V=それぞれ独立してOHまたはリン酸基、または2つの基が環状リン酸エステル基を形成する、
W=COOR、CON(R)2、COR、CSN(R)2、R=それぞれ独立してHまたはC1〜C2−アルキル、
X1、X2=それぞれ独立してO、CH2、CHCH3、C(CH3)2、NH、NCH3、
Y=NH、S、O、CH2、
Z=直鎖状または環状有機残基、
ただし、Zおよびピリジン残基は、グリコシル結合により連結されない
またはその塩、もしくは必要に応じて還元型
から選択される。
【0028】
式(II)の化合物においてZは、好ましくは4〜6個のC原子、好ましくは4個のC原子を有する直鎖状残基であって、1個または2個のC原子が任意に、O、SおよびNから選択される1つもしくはそれ以上のヘテロ原子で置換されている直鎖状残基であるか、または5個もしくは6個のC原子を有する環状基を含む残基であって、任意にはO、SおよびNから選択されるヘテロ原子および任意には1つまたはそれ以上の置換基を含む残基、ならびにCR42残基(CR42は環状基およびX2に結合され、R4はそれぞれ独立してH、F、Cl、CH3である)を含む残基である。
【0029】
Zは特に好ましくは、飽和または不飽和の炭素環式または複素環式の5員環、とりわけ一般式(III)の化合物
【化3】
式中、単結合または二重結合がR5'およびR5''との間に存在でき、
R4=それぞれ独立してH、F、Cl、CH3、
R5=CR42、
R5'およびR5''との間が単結合である場合、R5'=O、S、NH、NC1〜C2−アルキル、CR42、CHOH、CHOCH3、および、R5''=CR42、CHOH、CHOCH3、
R5'およびR5''との間が二重結合である場合、R5'=R5''=CR4、ならびに
R6、R6'=それぞれ独立してCHまたはCCH3
が好ましい。
【0030】
好ましい実施態様において、本発明の化合物は、アデニンまたはたとえばC8−置換およびN6−置換されたアデニンなどのアデニン類似体、7−デアザなどのデアザ変異体、8−アザなどのアザ変異体、またはたとえば7−デアザもしくは8−アザの組合せ、またはホルモマイシンなどの炭素環類似体を含み、7−デアザ変異体はハロゲン、C1〜C6−アルキニル、C1〜C6−アルケニルまたはC1〜C6−アルキルによって7位が置換され得る。
【0031】
また別の好ましい実施形態の1つでは、式(II)の化合物は、リボースの代わりに、たとえば2−メトキシデオキシリボース、2’−フルオロデオキシリボース、ヘキシトール、アルトリトール、またはビシクロ、LNAおよびトリシクロ糖などの多環類似体を含むアデノシン類似体を含む。
【0032】
特に、(ジ)ホスフェート酸素はまた、式(II)の化合物において、等電子数的に、たとえばO-をS-またはBH3-によって、OをNH、NCH3またはCH2によって、および=Oを=Sによって置換することができる。本発明の式(II)の化合物におけるWは、好ましくはCONH2またはCOCH3である。
【0033】
式(III)の基において、R5は好ましくはCH2である。さらにR5'がCH2、CHOHおよびNHから選択されることが好ましい。特に好ましい実施態様では、R5'およびR5''は互いにCHOHである。なおさらに好ましい実施態様では、R5'がNHかつR5''がCH2である。R4=H、R5=CH2、R5'=R5''=CHOHおよびR6'=R6''=CHである式(III)の化合物がより好ましい。好ましい安定化された補酵素の具体的な例は、図1Aおよび1Bに示される。最も好ましい実施態様において、安定化された補酵素は、カルバNAD化合物である。
【0034】
本発明の方法は、特に酵素の長期間の安定化に適している。これは、安定化された酵素が、たとえば乾燥物として、または、液相中において、たとえば少なくとも2週間、好ましくは少なくとも4週間、そして最も好ましくは少なくとも8週間の期間にわたって、酵素の活性が、酵素活性の初期値を基準として好ましくは50%未満、より好ましくは30%未満、そして最も好ましくは20%未満しか低下せずに保管されるということを意味している。
【0035】
本発明の方法はさらに、安定化された酵素の高温、たとえば少なくとも20℃、好ましくは少なくとも25℃、そして最も好ましくは少なくとも30℃の温度で、酵素の活性が、酵素活性の初期値を基準として好ましくは50%未満、より好ましくは30%未満、そして最も好ましくは20%未満しか低下しない保管も含む。必要とあれば、保管は上記に示したように、より長期間にわたることもできる。
【0036】
さらに、本発明の方法は、安定化された酵素の、周辺光の存在下、すなわち、300nm以上の波長の光の存在下、酵素の活性が、酵素活性の初期値を基準として好ましくは50%未満、より好ましくは30%未満、そして最も好ましくは20%未満しか低下しない保管も想定している。この場合、保管は、必要とあれば、上記に示したように、より長い期間または/および高温で行うことができる。加えて、周辺光への酵素システムの安定性のため、安定化された酵素はまた、使用前または/およびパッケージから取り出された後の少しの間、直射日光に暴露されてもよい。
【0037】
本発明の安定化によりまた、安定化された酵素を、乾燥剤なしでまたは/およびたとえば少なくとも50%の相対空気湿度などの高い相対空気湿度で、酵素の活性が、酵素活性の初期値を基準として50%未満、より好ましくは30%未満、そして最も好ましくは20%未満しか低下せずに保管することが可能である。この場合、保管は、必要とあれば、上記に示したように、より長い期間、高温または/および周辺光の存在下で行うことができる。酵素の活性を測定するための方法または試験は、先行技術において広く公知であり、そして、必要とあれば、当業者によって各要件に適合されることができ、いずれの場合にも保管の前および後で酵素活性を比較するために同一の試験条件が使用される。
【0038】
安定化された酵素は、一方では乾燥物として、そして他方では液相中で保管され得る。安定化された酵素は、好ましくは分析物を測定するために適しているテストエレメント上またはテストエレメント中で保管される。この場合、安定化された酵素は、好ましくは検出試薬の成分であり、検出試薬は任意には、たとえばメディエーター、光学的指示薬、塩、緩衝液などの他の成分も含み得る。
【0039】
安定化された酵素は、たとえば血液、血清、血漿もしくは尿などの体液中または下水試料中または食品中のパラメータなどの分析物を検出するために使用することができる。酸化還元反応によって検出できる生物学的または化学的物質であればいずれも分析物として、たとえば補酵素依存性酵素の基質または補酵素依存性酵素自体である基質として測定することができる。分析物の好ましい例としては、グルコース、乳酸、りんご酸、グリセロール、アルコール、コレステロール、トリグリセリド、アスコルビン酸、システイン、グルタチオン、ペプチド、尿素、アンモニウム、サリチル酸塩、ピルビン酸塩、5’−ヌクレオチダーゼ、クレアチンキナーゼ(CK)、乳酸塩脱水素酵素(LDH)、二酸化炭素などがある。分析物としてはグルコースが好ましい。
【0040】
本発明の別の対象は、本発明の化合物または本発明にしたがい安定化された酵素の、酵素反応によって試料中の分析物を検出するための使用である。適切な補酵素を用いた、グルコース脱水素酵素(EC1.1.1.47)またはグルコース−6−リン酸脱水素酵素(EC1.1.1.49)を使用したグルコースの検出が特に好ましい。
【0041】
分析物との反応によって引き起こされる安定化された補酵素における変化は、原則として任意の方法で検出することができる。この場合、原則として、先行技術から公知のあらゆる酵素反応検出法が使用できる。しかし、補酵素における変化は、好ましくは光学的方法により検出される。光学的検出法には、たとえば吸光、蛍光、円偏光二色性(CD)、旋光分散(ORD)、屈折率測定の測定などが含まれる。
【0042】
本願の範囲内において好ましく使用される光学的検出法は、測光法および蛍光法である。しかしながら、分析物との反応による補酵素の変化を光度的に測定するためには、還元された補酵素の反応性を増加させ、そして、好適な光学的指示薬または光学的指示薬系への電子の移動を可能にする少なくとも1つのメディエーターが存在することがさらに必要である。
【0043】
本発明の目的に適切なメディエーターとしては、とりわけ、たとえば[(4−ニトロソフェニル)イミノ]ジメタノール塩酸塩などのニトロソアニリン、たとえばフェナントレンキノン、フェナントロリンキノンもしくはベンゾ[h]キノリンキノンなどのキノン、たとえば1−(3−カルボキシプロポキシ)−5−エチレンフェナジニウムトリフルオロメタンスルホネートなどのフェナジン、または/およびジアホラーゼ(EC1.6.99.2)がある。
【0044】
ジアホラーゼは、特にフェナジンと比較した場合に、より高い安定性という利点があるが、たとえば独国特許発明第2 061 984号明細書から公知なように、その機能は天然の補酵素の分解生成物、たとえばNADまたはNADPの分解生成物によって障害され得る。
【0045】
本発明の意味内において、フェナントロリンキノンの好ましい例には、1,10−フェナントロリン−5,6−キノン、1,7−フェナントロリン−5,6−キノン、4,7−フェナントロリン−5,6−キノン、およびそれらのN−アルキル化またはN,N’−ジアルキル化塩が含まれ、N−アルキル化またはN,N’−ジアルキル化塩の場合には、溶解性を増加させるハロゲン化物、トリフルオロメタンスルホン酸塩または他のアニオンがカウンターイオンとして好ましい。本発明の目的に特に適しているジアホラーゼは、たとえば豚の心臓由来、クロストリジウム クルイベリ(Clostridium kluyverii)およびバチルス ステアロサーモフィルス(Bacillus stearothermophilus)由来のジアホラーゼ、ならびに、天然のジアホラーゼと比較して改善された触媒機能および熱安定性を有する、米国特許出願公開第2007/0196899号明細書に記載されているジアホラーゼ突然変異体由来のジアホラーゼを含む。上述の米国特許出願の開示は、本明細書に参照として明確に組み込まれる。
【0046】
還元可能であり、そして、検出可能な変化をたとえば色、蛍光、反射率、透過率、偏光または/および屈折率などの光学的性質に生じるあらゆる物質が、光学的指示薬としてまたは光学的指示薬系として使用され得る。試料中の分析物の存在または/および量の測定は、裸眼で、または/および当業者には適切であることが明らかな測光法を用いた検出装置により行うことができる。ヘテロポリ酸、および特には2,18−リンモリブデン酸が、光学的指示薬として好ましく使用され、対応するヘテロポリブルーに還元される。あるいは、たとえばレザズリンなどのキノン、ジクロロフェノールインドフェノールまたは/およびテトラゾリウム塩を光学的指示薬として使用することも可能である。本発明の目的に特に適しているテトラゾリウム塩は、たとえば市販の製品WST−3、WST−4およびWST−5(全てはDojindo社より入手)を含むが決してこれらに限定されるわけではない。
【0047】
補酵素の変化は、特に好ましくは蛍光を測定することにより検出される。蛍光測定は高感度であり、小型システム中で検出される分析物の低い濃度でさえ測定可能である。あるいは、補酵素の変化はまた、たとえば電気化学的テストストリップなどの適切なテストエレメントを使用して電気化学的にも測定され得る。このための前提条件は、前述と同じ、還元された補酵素により、電子の移動によって還元型に変換されることができる適切なメディエーターの使用である。分析物は、試料中の分析物の濃度と相関する、還元されたメディエーターを再酸化するために必要とされる電流を測定することにより測定される。電気化学的測定に使用することができるメディエーターの例としては、特に光度測定のために使用される前述のメディエーターが挙げられる。
【0048】
分析物を検出するために、試薬がたとえば、水溶液の形でまたは水性もしくは非水性液体中の懸濁液の形で、または粉末もしくは凍結乾燥物として存在している液体テストを使用することも可能である。しかしながら、試薬が支持体に塗布されている乾式テストを使用することも可能である。支持体は、たとえば、調査される液体試料によって湿潤される吸収材料または/および膨潤性材料を含むテストストリップなどである。
【0049】
特に好ましいテスト形式は、特に、還元された補酵素NADHの誘導体が形成される湿式試験における、グルコースを検出するための、安定化されたNAD誘導体を併用した酵素、グルコース−6−リン酸脱水素酵素の使用を含む。NADHは光学的な方法、たとえば光度測定またはUV励起後の蛍光測定により検出される。特に好ましいテストシステムは米国特許出願2005/0214891号明細書に記載されており、本明細書に参照として明確に組み込まれる。
【0050】
本発明のさらなる局面は、安定化された補酵素で安定化された酵素であって、安定化された酵素が、少なくとも2週間、好ましくは少なくとも4週間そして最も好ましくは少なくとも8週間、少なくとも20℃、好ましくは少なくとも25℃そして最も好ましくは少なくとも30℃の温度で、または/および、300nm以上の波長の光の存在下、適切な場合には高い空気湿度でまたは/および乾燥剤なしで保管された場合に、酵素活性の初期値を基準として50%未満、好ましくは30%未満、そして最も好ましくは20%未満の酵素活性の低下を示す安定化された酵素に関する。この場合酵素は上述したように使用される。
【0051】
さらに、本発明のさらなる局面は、上述したように安定化された酵素を含む分析物を測定するための検出試薬に関する。加えて、本発明は、本発明により安定化された酵素および本発明による検出試薬を含むテストエレメントに関する。検出試薬およびテストエレメントは、乾式テストまたは液体テストを実施するのに適しているであろう。テストエレメントは、好ましくは、分析物の蛍光または光度検出のためのテストストリップである。
このようなテストストリップは、安定化された酵素を、セルロース、プラスティックなどの吸収材料または/および膨潤性材料上に固定された形態で含む。
【0052】
さらに、本発明のさらなる局面は、とりわけ周辺光に対して酵素を安定化する方法に関し、該方法で、酵素はすでに明記されたように、天然の補酵素の存在下で保存される。好ましい別形では、アルコール脱水素酵素(EC1.1.1.1;EC1.1.1.2)、グルコース脱水素酵素(EC1.1.1.47)、グルコース−6−リン酸脱水素酵素(EC1.1.1.49)またはジアホラーゼ(EC1.6.99.2)が酵素として使用され、天然および突然変異されたグルコース脱水素酵素を含むグルコース脱水素酵素(EC1.1.1.47)およびグルコース−6−リン酸脱水素酵素(EC1.1.1.49)が特に好ましい。天然のニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD/NADH)または天然のニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP/NADPH)化合物、そして、とりわけ天然のNADまたはNADPが天然の補酵素として好ましく使用される。
【0053】
本発明は以下の図面および実施例にしたがい、より詳細に説明される。
【実施例】
【0054】
実施例1
カルバNAD(図1A)またはNADをグルコース特異的GlucDHに添加した。これらの処方を、いずれの場合もPokalon foils(Lonza)に塗布し、乾燥後、温かく湿気のある条件下(32℃、相対空気湿度85%)で保管した。その後、反応速度および関数曲線(function curve)を定期的に測定した。平行して、各測定時間でcNAD/NAD分析および酵素の残存活性の測定を行った。
【0055】
第1日目に測定されたNAD(図2A)およびcNAD(図2B)に関する反応速度曲線は類似しており、良く似たグルコース依存的上昇を示す。しかしながら、反応速度曲線における顕著な相違が5週間後に明らかとなる。NADに関する反応速度(図2C)のダイナミックレンジの大きな減少が見られるのに対し、cNADにより安定化された酵素の反応速度は事実上変化しないままである(図2D)。
【0056】
図3から明らかなように、空試験値(血液試料の適用前の乾燥空試験値)の顕著な変化もまた存在する。NADに関する乾燥空試験値の上昇は蛍光粒子の形成に起因する(Oppenheimer (1982)、前出)。驚くべきことに、これはcNADでは生じない。
【0057】
NADまたはcNADの存在下におけるグルコース脱水素酵素の異なる安定性もまた、図4および5の比較から明らかである。5週間後、cNADにより安定化された酵素に関する関数曲線は、なお一連の先の測定値の曲線内(図5A)に存在するが、一方、NADにより処理した酵素に対する曲線(図4)は、酵素/補酵素の不適切な量を示す典型的なサインである、より高い濃度での低下が見られる。図5Bは、24週間の期間にわたるcNADにより安定化されたグルコース脱水素酵素の様々な関数曲線を示す。これに関連して、酵素の機能は、全期間を通して高いグルコース濃度で僅かに変化するのみであり、24週間後の値は5週間後に得られる値におおよそ相当することが明らかである。
【0058】
補酵素の構造と所定の期間にわたるその安定性との関係は図6に示される。これによると、グルコース検出試薬中のcNADの残存含量は、24週間保管(32℃および相対空気湿度85%)後なお初期値の約80%であり、一方、NADにより安定化されたグルコース検出試薬中のNADの含有量は、5週間後にはすでに初期値の約35%に低下しており、外挿によれば、約17週間後にはゼロに減少する。
【0059】
32℃および相対空気湿度85%で5週間後の、活性酵素GlucDHの残存活性の測定結果(図7A)は、全く驚くべきものである。NADにより安定化された酵素はここで極めて低い酵素活性(0.5%)しか示さず、一方、cNADにより安定化された酵素は、70%の残存活性をなお有する(いずれの場合でも、乾燥剤(TM)とともに冷蔵庫(KS)に保管した試料と比較した)。32℃および相対空気湿度85%で24週間後(図7B)、cNADにより安定化された場合、酵素の残存活性はまだなお約25%である。
【0060】
野生型酵素(バチルス ズブチルス由来)の代わりに突然変異体が使用される場合、GlucDHの残存活性はさらに上昇させることができる。cNADの存在下で32℃および相対空気湿度85%での24週間の保管後、野生型酵素の96位でグルタミン酸 → グリシンおよび170位でグルタミン酸 → リジンというアミノ酸置換を有するGlucDH_E96G_E170K突然変異体(GlucDH−Mut1)の残存活性は、約70%であり、一方、170位でグルタミン酸 → リジンおよび252位でリジン → ロイシンというアミノ酸置換を有するGlucDH_E170K_K252L突然変異体(GlucDH−Mut2)の残存活性は、約50%である(図8)。
【0061】
液相中でのグルコース脱水素酵素の保管の場合もまた、NADおよびcNADのあいだの相違を明確に示している(図9Aおよび9B)。50℃で95時間後、天然の補酵素NADの存在下でのグルコース脱水素酵素の残存活性は≫5%であり、一方、人工の補酵素cNADの存在下でのGlucDHの残存活性は75%である(図9A)。50℃で336時間保管後、NADで安定化された酵素の残存活性はもはや約1%のみであり;cNADの存在下で保管された酵素では残存活性がなお約70%であることが観察される。対応するSDSゲルもまた天然の補酵素NADの存在下でのGlucDHバンドの変化を示す:新しいバンドがより高い分子量に現れ、30kDaバンドにシフトが見られる。
【0062】
概して、酵素をより良好に結合させる協同効果を通してのみではなく、補因子の安定化が同時に酵素の安定化をもたらすということは非常に驚くべき結果である。補因子NADの分解は、酵素GlucDHの安定性に負に作用し、その不活性化の速度を加速さえする。天然のNADを人工の類似体に換えることにより、GlucDHはストレス条件(たとえば高温)下で補因子の存在下ですら保管可能となる。
【0063】
このようなシステムをもってすれば、顕著に改善された安定性の特性を有する血糖テストストリップを製造することが可能であり、そのため乾燥剤なしの提示が可能である。
【0064】
実施例2
cNADまたはNADがアルコール脱水素酵素を含む検出溶液に添加された。これらの混合物を2〜8℃でおよび35℃で保管した。ついでアルコール脱水素酵素(ADH)の安定性を定期的に調べ、酵素の残存活性を測定した。
【0065】
図10は、種々の濃度のcNADの存在下、アルコール脱水素酵素(ADH)によるエタノールの変換の直線性を表すものであり、酵素システムADH/cNADのエタノール測定への実際的な有用性を示している。さらに、アルコール脱水素酵素およびcNADの組み合わせによるエタノールの変換の速度曲線は、変換速度はエタノール濃度の増加にともない増加するという基質の濃度への顕著な依存性があることを示している(図11)。
【0066】
また一方、液相における保管は、NADまたはcNADの存在下における保管のあいだで違いを示す(図12)。天然の補酵素NADの存在下でのアルコール脱水素酵素の残存活性は、35℃で65時間後、約6%であり、一方、人工の補酵素cNADの存在下での残存活性は、まだなお約60%である。
【0067】
アルコール脱水素酵素が天然のNADまたはcNADとともに、数ヶ月間にわたって冷蔵庫で2〜8℃で保管された場合、cNADの場合には全ての保管期間にわたる酵素活性の顕著な低下が観察される。一方、2週間の保管後の相違は依然としてわずかであるが、16mMのcNADの存在下で12ヶ月間保管した後のアルコール脱水素酵素の残存活性は、補酵素として16mMのNADを含む対応する溶液と比較して約20%高い。結果を表1に示す。
【0068】
【表1】
【0069】
使用されたcNADの量に関連した安定性の程度が表2に示されている。したがって、アルコール脱水素酵素の残存活性は、2〜8℃で2週間保管された試料において、cNADの濃度の増加により多少増大され得る。しかしながら、35℃で2週間酵素を保管することを念頭としたストレスモデルにおいては、アルコール脱水素酵素の酵素活性の低下は、cNADの濃度の増加により顕著に促進され、そして、cNADの濃度が15mMである場合には、0.5mMのcNADが存在する酵素溶液と比較して、およそ45%高い残存活性が観察される。
【0070】
【表2】
【0071】
実施例3
グルコースを測定するために、それぞれがグルコース脱水素酵素、NAD、メディエーターおよび、必要に応じて、光学的指示薬を含む種々のテストシステムが、光学的および電気化学的に測定された。
【0072】
光学的測定については、室温で11週間それぞれ保管され、2,18−リンモリブデン酸をグルコース脱水素酵素、NADおよびメディエーターに加えて含む4つのテストエレメントが、まず種々のグルコース濃度で調べられた。
【0073】
図13から明らかなように、グルコース濃度の増加と共に、使用された全ての4つのメディエーター、すなわち、[(4−ニトロソフェニル)イミノ]ジメタノール塩酸塩(Med A)、1−メチル−5,6−ジオキソ−5,6−ジヒドロ−1,10−フェナントロリニウム−トリフルオロメタンスルホネート(Med B)、7−メチル−5,6−ジオキソ−5,6−ジヒドロ−1,7−フェナントロリニウム−トリフルオロメタンスルホネート(Med F)および1−(3−カルボキシプロポキシ)−5−エチルフェナンジニウム−トリフルオロメタンスルホネート(Med G)に関して、反射率の低下が観察され、したがって、上記メディエーターは原則的に、測光法によるグルコースの測定に適している。
【0074】
800mg/dLの高いグルコース濃度領域で、測定された試料の反射率は、[(4−ニトロソフェニル)イミノ]ジメタノール塩酸塩または1−(3−カルボキシプロポキシ)−5−エチルフェナンジニウム−トリフルオロメタンスルホネートを使用した場合、依然として約20%であり、これは、これら2つのメディエーターが、グルコース脱水素酵素/NAD系を用いる光度測定に特に適していること、そしてしたがって、グルコース脱水素酵素/cNAD系にも適していることを示唆している。グルコース脱水素酵素、NAD、1−(3−カルボキシプロポキシ)−5−エチルフェナンジニウム−トリフルオロメタンスルホネートおよび2,18−リンモリブデン酸系であって、0〜800mg/dLの範囲のグルコース濃度を使用するグルコース変換の反応速度が図14に示されている。
【0075】
図15の模式図は、グルコースの光学的な測定は、中間メディエーターとしてジアホラーゼの(追加)使用でも行われ得ることを示す。図16は、グルコース脱水素酵素、NAD、ジアホラーゼ、[(4−ニトロソフェニル)イミノ]ジメタノール塩酸塩および2,18−リンモリブデン酸系(システム1)における反射率の濃度依存的減少を示す。同様に反射率において濃度依存的減少を引き起こすが、グルコース色素酸化還元酵素の低い特異性のために不利な点のある、グルコース色素酸化還元酵素、ピロロキノリンキノン、[(4−ニトロソフェニル)イミノ]ジメタノール塩酸塩および2,18−リンモリブデン酸系(システム2)が比較として機能した。0〜800mg/dLの範囲のグルコース濃度における、システム1を使用したグルコース変換の反応速度が図17に示されている。
【0076】
光学測定の代替法として、電気化学的測定法もまた、分析物を測定する目的で使用され得る。ここに、還元されたメディエーターを再酸化するために必要な電流が、グルコース脱水素酵素に加え、補酵素としてNADそしてメディエーターとして1−(3−カルボキシプロポキシ)−5−エチルフェナンジニウム−トリフルオロメタンスルホネートを含有するテストエレメント、および、NADの代わりに安定化された補酵素cNADを含む対応するシステムの両方において、グルコース濃度に直線的に依存する(図18)ことが見出された。
【0077】
したがって、分析物の測定が、脱水素酵素/安定な補酵素系を用いて、ならびに、電気化学的検出および補酵素に非依存性の別の波長での評価によって行われ得ることが証明された。全ての処方はまた、安定化された酵素/補酵素対の使用によりさらに安定化されるであろう。
【0078】
実施例4
周辺光に対する安定性を測定するために、それぞれ、NADまたはカルバNADと併用して、グルコース脱水素酵素(GlucDH)、グルコース−6−リン酸脱水素酵素(G6PDH)およびグルコース脱水素酵素突然変異体2(GlucDH−mut2)から選択される酵素を含む、種々のテストシステムが国際公開第03/097859号に記載の方法にしたがって製造され、続いて血液試料が添加された。具体的には、テストシステムは、酵素および補酵素を含む光重合可能な液体組成物を支持体に塗布し、続いて、12〜15μmの厚さを有する試薬層を得るために組成物を400W、360nmの波長で10秒間光照射適用することにより製造された。検出は、数分間、蛍光法で行われた。
【0079】
図19は、GlucDH/NAD系における測定結果を示す。グラフに示されるように、全ての測定期間にわたって、いかなる蛍光の減少も見られず、これにより、GlucDH/NAD系が300nm以上の領域において吸収を示さないために、試薬層への高エネルギー放射を伴う数分間継続する照射でさえも試薬層を損なうことがないという結論が導かれる。G6PDH/NAD系ならびにカルバNADを含有する系であるGlucDH/カルバNAD、G6PDH/カルバNADおよびGlucDH−mut2/カルバNADが300nm以上の波長領域で吸収を示さない(図20)という事実を考慮すれば、これら全ての系はまた、周辺光に対する高い安定性を有す(結果は示さず)。
【0080】
実施例5
本明細書に記載される、診断用テストエレメントを製造するために使用され得る具体的な組成物の例が以下に明記される。
【0081】
a)乳酸脱水素酵素の活性を測定するための液体試薬
特に、ジアホラーゼ、カルバNAD、テトラゾリウム塩および乳酸を含む液体試薬が乳酸脱水素酵素の活性を測定するために使用された。25℃で溶液中に保管された検出試薬は、以下の成分を含んでいた:
3U/mL ジアホラーゼ (豚の心臓由来)
2mM カルバNADまたは0.2mM NAD
2mM テトラゾリウム塩 WST−3
50mM 乳酸ナトリウム
0.1M トリシン/HCl、pH 8.8
【0082】
種々の保管時間におけるジアホラーゼの活性の測定により、カルバNADを含む処方の残存活性の顕著な増大が、補酵素としてNADを含む対応する処方と比較して示された。
【0083】
b)血糖測定のためのテストストリップ
特に、グルコース脱水素酵素(GlucDH)、カルバNAD、ジアホラーゼ、ニトロソアニリンおよびリンモリブデン酸を含む組成物が血糖を測定するために使用された。テストストリップは、第一の処方をポリカーボネート箔にドクターブレード(層高 100μm)を使用して塗布し、第一層を乾燥し、第一層に第二の処方を塗布(ドクターブレードギャップ 30μm)し、そして第二層を乾燥することにより得られ、32℃で相対空気湿度30〜70%で保管された。第一層および第二層に使用された処方は、表3に示されている:
【0084】
【表3】
【0085】
ジアホラーゼの活性が種々の保管時間で、テストストリップから酵素を抽出することによって測定され、カルバNADを含む処方の場合に、NADを含む処方と比較して残存活性の顕著な増加が観察された。
【0086】
c)トリグリセリドの測定のためのテストストリップ
特に、グリセロール脱水素酵素、カルバNAD、ジアホラーゼおよびテトラゾリウム塩を含む組成物がトリグリセリドを測定するために使用された。テストストリップは、表4に記載される処方をポリカーボネート箔にドクターブレード(層高 80μm)を使用して塗布し、続いて乾燥することにより得られ、32℃で相対空気湿度30〜70%で保管された。
【0087】
【表4】
【0088】
ジアホラーゼの活性が種々の保管時間で、テストストリップから酵素を抽出することによって測定され、そして、カルバNADを含む処方の場合に、NADを含む処方と比較して残存活性の顕著な増加が観察された。
【0089】
実施例6
グルコース脱水素酵素およびジアホラーゼのカルバNADによる安定化を評価するために、多数のテストストリップが実施例5と同様に製造された。テストストリップの第一および第二層に使用された処方が表5に示されている。
【0090】
【表5】
【0091】
テストストリップは、5℃(KS、冷蔵庫)、25℃(RT)、30℃(GT)、35℃(DT)および45℃(HT)の温度で18週間の期間にわたって保管され、そして、テストストリップ中の酵素活性が、保管の開始(0週)時、6週間後、9週間後、12週間後および18週間後に測定された。結果を表6(グルコース脱水素酵素)および表7(ジアホラーゼ)に示す。
【0092】
【表6】
【0093】
【表7】
【0094】
表7および8に示すように、グルコース脱水素酵素およびジアホラーゼのカルバNAD存在下での18週間にわたる保管により、高い酵素活性が維持されるが、一方、NAD存在下での酵素の分解速度ははるかにより顕著である。
【0095】
実施例7
種々の脱水素酵素の熱安定性に対するNADおよびカルバNADの影響を測定するために、第一工程において酵素(1mg/mL)が個々の測定緩衝液に対して4℃で20時間透析された。続いて3.8mMのNADまたはカルバNADが試料に添加され、そして、試料が4℃で保管された。
【0096】
NADまたはカルバNADの種々の脱水素酵素への結合を測定するために、示差走査熱量測定(DSC)が行われた。熱量測定のスキャンは、20℃および100℃の間の温度および120℃/時間のスキャン速度で行われ、それぞれの試料は三回測定された。
【0097】
正確な操作を確実なものとするため、測定を行う前にDSC装置は洗浄され、MicroCalハンドブックにしたがって較正された。pH2.4の0.1Mグリシン−HCl中のリゾチーム(1 mg/mL)が個々のスキャン工程の前後に対照として二回測定された。測定セル、バルブおよびシリンジは、6回のインジェクション毎に3回、水で洗浄された。データはMicroClas Origin softwareを用いて解析された。
【0098】
pH8.0のトリス緩衝液中のグルコース脱水素酵素突然変異体2は、NADの非存在下で、および、存在下でも同様に、明確な形のピークを与え、融点(TM)は、NADの非存在下で79.1℃、およびNADの存在下で80.8℃であった。したがって、グルコース脱水素酵素突然変異体2のNADへの結合は、TMにおいて1.5℃以上のシフトをもたらした。アルコール脱水素酵素を除いて、酵素がNADまたはカルバNADに接触されたとき、TMは他の脱水素酵素の場合、たとえば野生型グルコース脱水素酵素の場合にも増大した。
【0099】
表8は、種々の脱水素酵素のDSC解析によって得られたデータを示しており、いずれの場合においてもDSCのスペクトルで単一のピークが得られるように実験条件は選択された。NADまたはカルバNADの脱水素酵素への結合効果は、いずれの場合も補酵素(リガンド)が存在していない場合のスキャンと比較された。特に明記されていない限り、いずれの場合も、pH8.5の0.1Mトリス緩衝液が測定用緩衝液として使用された。
【0100】
【表8】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安定化された補酵素の存在下で酵素を保管することによる酵素を安定化する方法に関する。さらに本発明は、安定化された補酵素により安定化された酵素、および分析物を検出するためのテストエレメントにおけるその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
診断用テストエレメントは、臨床的に意義のある分析方法の重要な構成要素である。このため、たとえば、直接的にまたは間接的に、分析物に特異的である酵素を使用して測定され得る、たとえば代謝物や基質などの分析物の測定に重点が置かれている。この場合、分析物は、酵素−補酵素複合体を使用して変換され、ついで定量される。これは、測定されるべき分析物を適切な酵素、補酵素および任意にはメディエーターと接触させることを伴い、それによって補酵素は、酵素反応によってたとえば酸化または還元など物理化学的に変化する。メディエーターが追加で使用される場合、メディエーターは通常、還元された補酵素から分析物の変換のあいだに放出された電子を光学インジケーターまたは電極の伝導性部位上に伝達し、これによりこのプロセスがたとえば光度計測的または蛍光計測的に検出され得る。較正により、測定された値と測定される分析物の濃度との間の直接的な関係が提供される。
【0003】
診断用テストエレメントを提供する際の重要な基準は、長期間にわたるそれらの安定性である。たとえば血糖の測定に使用されている、先行技術において既知のテストエレメントは、一般的に、特に補酵素およびメディエーターの機能が通常低下する湿度および熱に非常に感受性が高い。市販のテストエレメントのもつもう一つの問題は、周辺光に対する感受性の高さであって、酵素システムによる光の吸収は、酵素、補酵素または/およびメディエーターへのダメージをもたらし得る。したがって、たとえばエンドユーザー自身により実施される試験の場合などの特定の適用においては、誤りであるが気づかれることのない間違った測定システムの保管によって、使用者によって認識されることがほぼ不可能な、かつ、それぞれの疾患の誤った処置につながるかもしれないような、誤った結果が生じる可能性がある。
【0004】
診断用テストエレメントの安定性を増加させるために使用可能な既知の手段の一つは、安定な酵素の使用、たとえば好熱性生物由来の酵素の使用である。さらに、架橋などの化学的修飾や突然変異誘発により酵素を安定化することも可能である。加えて、トレハロース、ポリビニルピロリドンおよび血清アルブミンなどの酵素安定剤を添加することもでき、または酵素をポリマーネットワーク中にたとえば光重合によって包み込むこともできる。
【0005】
安定なメディエーターを用いることによる診断用テストエレメントの安定性を改善するための試みもなされている。これにより、できるだけ低い酸化還元電位を有するメディエーターの使用によって、テストの特異性が高められ、反応中の妨害が排除される。しかしながら、酵素/補酵素複合体の酸化還元電位は、メディエーターの酸化還元電位の下限を形成する。酸化還元電位がこの下限よりも低い場合、メディエーターとの反応は低下、または停止することさえある。
【0006】
あるいは、たとえば、補酵素NADHなどの補酵素が直接的に検出される、メディエーターを用いない診断用テストエレメントを使用することも可能である。しかし、そのような測定システムの1つの欠点は、NADおよびNADPなどの天然の補酵素が不安定であることである。
【0007】
NADおよびNADPは、塩基に不安定な分子であり、その分解経路は文献に記載されている(N.J. Oppenheimer in "The Pyridine Nucleotide Coenzymes", Academic Press New York, London 1982, editor J. Everese, B. Anderson, K. You, 第3章、56〜65頁)。NADまたはNADPがリボースとピリジン単位との間のグリコシル結合の開裂によって分解される場合、主としてADP−リボースが生成する。これに対し、還元型のNADHおよびNADPHは、酸に不安定であり、たとえばエピマー化は既知の分解経路の1つである。両方の場合において、NAD/NADPおよびNADH/NADPHの不安定性は、リボース単位とピリジン単位との間のグリコシル結合の不安定性に起因する。しかしながら、たとえば、水溶液といった激烈ではない条件下でさえ、補酵素NADおよびNADPは周囲の水分のみによって既に加水分解されている。この不安定性は、分析物の測定に不正確さをもたらし得る。
【0008】
多数のNAD/NADP誘導体が、たとえばB.M. Anderson in "The Pyridine Nucleotide Coenzymes", Academic Press New York, London 1982, editor J. Everese, B. Anderson, K. You, 第4章に記載されている。しかしながら、これらのほとんどの誘導体は酵素によってあまり良く受け入れられない。したがって、今までに診断テストに用いられてきたただ1つの誘導体は、3−アセチルピリジンアデニンジヌクレオチド(アセチルNAD)であり、1965年に初めて記載された(N.O. Kaplan, J. Biol. Chem. (1956), 221, 823)。この補酵素もまた、酵素による乏しい受け入れおよび酸化還元電位の変化を示す。
【0009】
国際公開第01/94370号は、修飾されたピリジン基を有するさらなるNAD誘導体の使用を記載している。しかしながら、ニコチンアミド基の修飾は一般的に、触媒反応に直接的な影響を及ぼす。ほとんどの場合、この影響は否定的なものである。
【0010】
他の安定化概念においては、リボース単位がそれによりグリコシル結合の安定性に影響を与えるように改変された。この方法は、ニコチンアミド基の触媒反応を直接的に阻害するものではない。しかしながら、酵素がリボース単位への強く特異的な結合を示すや否や間接的な影響を及ぼすかもしれない。Kaufmannらは、これに関連して国際公開第98/33936号および米国特許第5,801,006号明細書、ならびに国際公開第01/49247号に、多数のチオリボース−NAD誘導体を開示している。しかしながら、ニコチンアミドリボース単位の修飾と酵素反応における誘導体の活性とのあいだの関係はこれまで示されていない。
【0011】
グリコシル結合をもたない誘導体であるカルバNADは、1988年に最初に記載された(J.T. Slama, Biochemistry (1988), 27,183およびBiochemistry (1989), 28, 7688)。そこではリボースは炭素環の糖単位により置換されている。カルバNADは脱水素酵素のための基質として記載されていたが、その活性はこれまで生化学的検出方法において臨床的に実証されていない。
【0012】
後に、同様の手法が、天然のピロホスフェートの代わりにメチレンビスホスホネート化合物を用いてカルバNADを製造するために、G. M. Blackburnにより記載された(Chem. Comm.(1996年)、2765頁)。メチレンビスホスホネートは、ホスファターゼに対しより高い安定性を示し、そして、ADP−リボシルシクラーゼの阻害剤として使用された。その目的は、加水分解に対して安定性を向上させることではなかった(J. T. Slama、G. M. Blackburn)
【0013】
国際公開第2007/012494号および米国特許出願11/460,366号明細書においてようやく、安定化されたNAD/NADHおよびNADP/NADPH誘導体、これらの誘導体の酵素複合体ならびにそれらの生化学的検出方法および試薬キットにおける使用が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の根底にある目的は、酵素を安定化する方法、特には、少なくとも部分的には上記の不利を除外するような、酵素の長期安定化のための方法を提供することであった。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この目的は、酵素を安定化する方法であって、該酵素が安定化された補酵素の存在下に保管される方法により本発明にしたがって達成される。驚くべきことに、高い相対湿度でまたは液相中でさえ、高温および周辺光の中での、数週間または数ヶ月間という長期間の安定化が、安定化された補酵素を使用することにより可能であるということが見出された。これに関連して、「保管」という用語は、どのような期間のあいだでも、好ましくは少なくとも2週間という期間、より好ましくは少なくとも3ヶ月という期間、さらにより好ましくは少なくとも6ヶ月という期間、および最も好ましくは12ヶ月という期間、安定化された酵素の存在下で、酵素が保管されることを意味しており、その保管は、好ましくは大気圧下、室温(25℃)および少なくとも50%の相対空気湿度で行われる。
【発明の効果】
【0016】
この結果は、酵素は天然の補酵素の存在下では数時間という短期間では安定性の増加を示すが(Bertoldiら、Biochem. J. (2005), 389, 885;van den Heuvelら、J. Biol. Chem. (2005), 280, 32115;およびPanら、J. Chin. Biochem. Soc. (1974), 3, 1)、より長期間にわたった場合には安定性が低下するいうことが知られている(Nutrition Reviews (1978), 36, 251)ため驚くべきことである。酵素ならびに水分または/および熱に対する安定性が認められた安定化された補酵素を含む診断用テストエレメントの長期間にわたる安定性は、安定化された補酵素が対応する天然の補酵素よりも酵素とのより低い結合定数を有しているだけに一層驚くべきことである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1A】安定化された補酵素カルバNAD(cNAD)の図である。
【図1B】安定化された補酵素ピロリジニルNADの図である。
【図2A】NADの存在下およびcNADの存在下での、保管前後のグルコース脱水素酵素の酵素反応速度の結果の図である。NAD存在下1日後のGlucDHの反応速度。
【図2B】NADの存在下およびcNADの存在下での、保管前後のグルコース脱水素酵素の酵素反応速度の結果の図である。cNAD存在下1日後のGlucDHの反応速度。
【図2C】NADの存在下およびcNADの存在下での、保管前後のグルコース脱水素酵素の酵素反応速度の結果の図である。NAD存在下で32℃および85%の相対空気湿度で5週間保管した後のGlucDHの反応速度。
【図2D】NADの存在下およびcNADの存在下での、保管前後のグルコース脱水素酵素の酵素反応速度の結果の図である。cNAD存在下で32℃および85%の相対空気湿度で5週間保管した後のGlucDHの反応速度。
【図3】32℃および空気湿度85%で5週間までの期間にわたるNADの存在下におけるグルコース脱水素酵素またはcNADの存在下におけるGlucDHの空試験値との比較。
【図4】32℃および空気湿度85%でNADの存在下でのグルコース脱水素酵素の保管後のグルコース脱水素酵素の様々な関数曲線の図である。保管期間は1日と5週間との間で変化された。
【図5A】32℃および空気湿度85%でcNADの存在下でのグルコース脱水素酵素の保管後のグルコース脱水素酵素の様々な関数曲線の図である。保管期間は1日と5週間との間で変化された。
【図5B】32℃および空気湿度85%でcNADの存在下でのグルコース脱水素酵素の保管後のグルコース脱水素酵素の様々な関数曲線の図である。保管期間は1日と24週間との間で変化された。
【図6】32℃および空気湿度85%で24週間、NADまたはcNADそれぞれの存在下におけるグルコース脱水素酵素の保管後のNADまたはcNADの残存含量の図である。
【図7A】32℃および空気湿度85%で5週間、NADまたはcNADの存在下におけるグルコース脱水素酵素の保管後のGlucDH活性の図である。
【図7B】32℃および空気湿度85%で24週間、NADまたはcNADの存在下におけるグルコース脱水素酵素の保管後のGlucDH活性の図である。
【図8】32℃および83%の相対空気湿度で、NADまたはcNADの存在下、25週間の期間にわたる、グルコース脱水素酵素(GlucDH−wt)、二重突然変異体GlucDH_E96G_E170K(GlucDH−Mut1)および二重突然変異体GlucDH_E170K_K252L(GlucDH−Mut2)の保管後のGlucDH活性の図である。
【図9A】液相中50℃で4日間にわたる、NADまたはcNADの存在下でのグルコース脱水素酵素の安定性の図である。テスト条件:10mg/mL GlucDH;12mg/mL NADまたはcNAD;緩衝液:0.1M トリス、1.2M NaCl、pH8.5;温度50℃。
【図9B】液相中50℃で14日間にわたる、NADまたはcNADの存在下でのグルコース脱水素酵素の安定性の図である。テスト条件:10mg/mL GlucDH;12mg/mL NADまたはcNAD;緩衝液:0.1M トリス、1.2M NaCl、pH8.5;温度50℃。
【図10】cNAD存在下におけるアルコール脱水素酵素の種々の関数曲線の図である。cNADの濃度は、25%および150%の間で液相テストにおけるNADの初期濃度に基づいて変化された。
【図11】cNADの存在下、種々のエタノール濃度におけるアルコール脱水素酵素の酵素速度反応の結果の図である。
【図12】液相中35℃で65時間にわたる、NADまたはcNADの存在下での酵母由来のアルコール脱水素酵素の安定性の図である。テスト条件:5mg/mL ADH;50mg/mL NADまたはcNAD;緩衝液:75mM Na4P2O7;グリシン、pH9.0;温度35℃。
【図13】室温でNADおよび種々のメディエーターの存在下、11週間保管後のグルコース脱水素酵素の様々な関数曲線の図である。
【図14】種々のグルコース濃度のもと、NADおよび1−(3−カルボキシプロポキシ)−5−エチルフェナジニウム−トリフルオロメタンスルホネートの存在下におけるグルコース脱水素酵素の酵素反応速度の結果の図である。
【図15】酵素としてGlucDH、および、メディエーターとしてジアホラーゼを用いるグルコース検出の模式図である。
【図16】ピロロキノリンキノン(PQQ)およびメディエーターとして[(4−ニトロソフェニル)イミノ]ジメタノール塩酸塩の存在下におけるグルコース色素酸化還元酵素(GlucDOR)ならびにNADおよびメディエーターとしてジアホラーゼ/[(4−ニトロソフェニル)イミノ]ジメタノール塩酸塩の存在下におけるグルコース脱水素酵素の関数曲線の図である。
【図17】種々のグルコース濃度におけるNADおよびジアホラーゼの存在下でのグルコース脱水素酵素の酵素反応速度の結果の図である。
【図18】NADまたはcNADの存在下におけるグルコース脱水素酵素を用いたグルコースの電気化学測定において、グルコース濃度の関数として測定された電流の図である。テスト条件:25mM NADまたはcNAD;遅延時間2.5秒;測定時間5秒。
【図19】360nmの波長のUV光照射後のNAD存在下におけるグルコース脱水素酵素の種々の関数曲線の図である。
【図20】250〜450nmの波長範囲におけるcNADおよびcNADHの吸収スペクトルの図である。
【図21】グルコース脱水素酵素の二重突然変異体GlucDH_E96G_E170KおよびGlucDH_E170K_K252Lのアミノ酸配列の図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の方法により安定化される酵素は、補酵素依存性酵素である。好適な酵素はたとえば、脱水素酵素であって、特には、アルコール脱水素酵素(EC1.1.1.1;EC1.1.1.2)、L−アミノ酸脱水素酵素(EC1.4.1.5)、グルコース脱水素酵素(EC1.1.1.47)、グルコース−6−リン酸脱水素酵素(EC1.1.1.49)、グリセロール脱水素酵素(EC1.1.1.6)、3−ヒドロキシ酪酸脱水素酵素(EC1.1.1.30)、乳酸脱水素酵素(EC1.1.1.27、EC1.1.1.28)、リンゴ酸脱水素酵素(EC1.1.1.37)およびソルビトール脱水素酵素からなる群より選択される脱水素酵素である。さらに好適な酵素は、たとえばグルコース酸化酵素(EC1.1.3.4)またはコレステロール酸化酵素(EC1.1.3.6)などの酸化酵素、アスパラギン酸アミノ基転移酵素またはアラニンアミノ基転移酵素などのアミノ基転移酵素、5’−ヌクレオチダーゼ、クレアチンキナーゼおよびジアホラーゼ(EC1.6.99.2)である。酵素は好ましくはアルコール脱水素酵素(EC1.1.1.1;EC1.1.1.2)、グルコース脱水素酵素(EC1.1.1.47)、グルコース−6−リン酸脱水素酵素(EC1.1.1.49)またはジアホラーゼ(EC1.6.99.2)である。
【0019】
グルコース脱水素酵素(EC1.1.1.47)が酵素として使用される場合であれば、たとえば突然変異されたグルコース脱水素酵素が本発明の方法の範囲内において使用され得る。本願の範囲内において使用される場合、用語「突然変異体(mutant)」は、天然の酵素の遺伝的に改変された変異体を意味し、アミノ酸数は同じであるが野生型酵素と比較して改変されたアミノ酸配列、すなわち野生型酵素由来のアミノ酸の少なくとも1つが異なるアミノ酸配列を有する。突然変異の導入は、部位特異的に、または非部位特異的に行われ、好ましくは当該専門分野で公知の、少なくとも1つのアミノ酸の置換が天然の酵素のアミノ酸配列内で生じる組換え法を用いて、個々の要件および条件にしたがって、部位特異的に行われる。突然変異体は、特に好ましくは野生型酵素と比較して増加された熱安定性または加水分解安定性を有する。変異体は特に好ましくは、野生型酵素と比較して、より高い熱的安定性または加水分解安定性を有する。このような酵素の例は、Baik(Appl. Environ. Microbiol. (2005), 71, 3285頁)、Vasquez-Figueroa (ChemBioChem. (2007), 8, 2295頁)および国際公開第2005/045016号によって記載されており、その開示は、本明細書に参照として明確に組み込まれる。
【0020】
突然変異されたグルコース脱水素酵素は、原則として対応する野生型グルコース脱水素酵素と比較してそのアミノ酸配列の任意の位置で改変されたアミノ酸を含むことができる。突然変異されたグルコース脱水素酵素は、好ましくは野生型グルコース脱水素酵素のアミノ酸配列の96位、170位および252位の少なくとも1ヵ所に変異を含み、96位および170位に変異を含む突然変異体または170位および252位に変異を含む突然変異体が特に好ましい。突然変異されたグルコース脱水素酵素にとって、これらの変異以外にさらに変異を含まない場合が有利であることが証明されている。
【0021】
96位、170位および252位における変異は、原則として野生型酵素の安定化、たとえば熱安定性または加水分解安定性の増加をもたらす任意のアミノ酸の置換を含む。96位での変異は、好ましくはグルタミン酸のグリシンによるアミノ酸置換を含み、一方170位については、グルタミン酸のアルギニンまたはリジンによるアミノ酸置換、特にグルタミン酸のリジンによるアミノ酸置換が好ましい。252位における変異については、リジンのロイシンによるアミノ酸置換が好ましく含まれる。
【0022】
突然変異されたグルコース脱水素酵素は、あらゆる生物学的源由来の野生型グルコース脱水素酵素の突然変異により得ることができ、ここで、本発明の文脈における用語「生物学的源」とは、たとえば細菌などの原核生物ならびにたとえば哺乳類および他の動物などの真核生物の両方を含む。野生型グルコース脱水素酵素は、好ましくは細菌由来であり、特に好ましくは、バチルス メガテリウム(Bacillus megaterium)、バチルス ズブチルス(Bacillus subtilis)またはバチルス チューリンゲンシス(Bacillus thuringiensis)由来のグルコース脱水素酵素が好ましく、バチルス ズブチルス(Bacillus subtilis)由来のグルコース脱水素酵素が特に好ましい。
【0023】
特に好ましい態様において、突然変異されたグルコース脱水素酵素は、バチルス ズブチルス(Bacillus subtilis)由来の野生型グルコース脱水素酵素の突然変異により得られるグルコース脱水素酵素であり、配列番号1に示すアミノ酸配列(GlucDH_E96G_E170K)、または配列番号2に示すアミノ酸配列(GlucDH_E170K_K252L)を有する。
【0024】
本発明の範囲内における安定化された補酵素は、天然の補酵素と比較して化学的に修飾されており、水分、特に0度から50度までの範囲の温度、特にpH4からpH10までの範囲の酸および塩基、または/ならびにたとえばアルコールもしくはアミンなどの求核試薬に対し、天然の補酵素と比較してより高い安定性を大気圧下で有しており、この点において、同一の環境条件下で天然の補酵素よりもより長期間にわたりその活性を示すことができる。安定化された補酵素は、好ましくは、天然の補酵素と比較してより高い加水分解安定性を有しており、試験条件下において完全に加水分解に対し安定であることが特に好ましい。天然の補酵素と比較して、安定化された補酵素は、酵素に対して低下した結合定数を有していてもよく、たとえば2倍またはそれ以上に低下した結合定数を有していてもよい。
【0025】
安定化された補酵素の好ましい例は、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD/NADH)またはニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP/NADPH)の安定化された誘導体、または、たとえばAMP部位を有さないもしくはたとえば疎水性残基などの非ヌクレオシド残基を有する、短縮NAD誘導体である。本発明の意味では、式(I)の化合物が同様に、安定化された補酵素として好ましい。
【0026】
【化1】
【0027】
NAD/NADHおよびNADP/NADPHの好ましい安定化された誘導体は、前述の参考文献に記述されており、その開示は、本明細書に参照として明確に組み込まれる。特に好ましい安定化された補酵素は、国際公開第2007/012494号および米国特許出願11/460,366号明細書に記載されており、その開示は、本明細書に参照として明確に組み込まれる。安定化された補酵素は、特に好ましくは一般式(II)の化合物
【化2】
式中、
A=アデニンまたはその類似体、
T=それぞれ独立してO、S、
U=それぞれ独立してOH、SH、BH3-、BCNH2-、
V=それぞれ独立してOHまたはリン酸基、または2つの基が環状リン酸エステル基を形成する、
W=COOR、CON(R)2、COR、CSN(R)2、R=それぞれ独立してHまたはC1〜C2−アルキル、
X1、X2=それぞれ独立してO、CH2、CHCH3、C(CH3)2、NH、NCH3、
Y=NH、S、O、CH2、
Z=直鎖状または環状有機残基、
ただし、Zおよびピリジン残基は、グリコシル結合により連結されない
またはその塩、もしくは必要に応じて還元型
から選択される。
【0028】
式(II)の化合物においてZは、好ましくは4〜6個のC原子、好ましくは4個のC原子を有する直鎖状残基であって、1個または2個のC原子が任意に、O、SおよびNから選択される1つもしくはそれ以上のヘテロ原子で置換されている直鎖状残基であるか、または5個もしくは6個のC原子を有する環状基を含む残基であって、任意にはO、SおよびNから選択されるヘテロ原子および任意には1つまたはそれ以上の置換基を含む残基、ならびにCR42残基(CR42は環状基およびX2に結合され、R4はそれぞれ独立してH、F、Cl、CH3である)を含む残基である。
【0029】
Zは特に好ましくは、飽和または不飽和の炭素環式または複素環式の5員環、とりわけ一般式(III)の化合物
【化3】
式中、単結合または二重結合がR5'およびR5''との間に存在でき、
R4=それぞれ独立してH、F、Cl、CH3、
R5=CR42、
R5'およびR5''との間が単結合である場合、R5'=O、S、NH、NC1〜C2−アルキル、CR42、CHOH、CHOCH3、および、R5''=CR42、CHOH、CHOCH3、
R5'およびR5''との間が二重結合である場合、R5'=R5''=CR4、ならびに
R6、R6'=それぞれ独立してCHまたはCCH3
が好ましい。
【0030】
好ましい実施態様において、本発明の化合物は、アデニンまたはたとえばC8−置換およびN6−置換されたアデニンなどのアデニン類似体、7−デアザなどのデアザ変異体、8−アザなどのアザ変異体、またはたとえば7−デアザもしくは8−アザの組合せ、またはホルモマイシンなどの炭素環類似体を含み、7−デアザ変異体はハロゲン、C1〜C6−アルキニル、C1〜C6−アルケニルまたはC1〜C6−アルキルによって7位が置換され得る。
【0031】
また別の好ましい実施形態の1つでは、式(II)の化合物は、リボースの代わりに、たとえば2−メトキシデオキシリボース、2’−フルオロデオキシリボース、ヘキシトール、アルトリトール、またはビシクロ、LNAおよびトリシクロ糖などの多環類似体を含むアデノシン類似体を含む。
【0032】
特に、(ジ)ホスフェート酸素はまた、式(II)の化合物において、等電子数的に、たとえばO-をS-またはBH3-によって、OをNH、NCH3またはCH2によって、および=Oを=Sによって置換することができる。本発明の式(II)の化合物におけるWは、好ましくはCONH2またはCOCH3である。
【0033】
式(III)の基において、R5は好ましくはCH2である。さらにR5'がCH2、CHOHおよびNHから選択されることが好ましい。特に好ましい実施態様では、R5'およびR5''は互いにCHOHである。なおさらに好ましい実施態様では、R5'がNHかつR5''がCH2である。R4=H、R5=CH2、R5'=R5''=CHOHおよびR6'=R6''=CHである式(III)の化合物がより好ましい。好ましい安定化された補酵素の具体的な例は、図1Aおよび1Bに示される。最も好ましい実施態様において、安定化された補酵素は、カルバNAD化合物である。
【0034】
本発明の方法は、特に酵素の長期間の安定化に適している。これは、安定化された酵素が、たとえば乾燥物として、または、液相中において、たとえば少なくとも2週間、好ましくは少なくとも4週間、そして最も好ましくは少なくとも8週間の期間にわたって、酵素の活性が、酵素活性の初期値を基準として好ましくは50%未満、より好ましくは30%未満、そして最も好ましくは20%未満しか低下せずに保管されるということを意味している。
【0035】
本発明の方法はさらに、安定化された酵素の高温、たとえば少なくとも20℃、好ましくは少なくとも25℃、そして最も好ましくは少なくとも30℃の温度で、酵素の活性が、酵素活性の初期値を基準として好ましくは50%未満、より好ましくは30%未満、そして最も好ましくは20%未満しか低下しない保管も含む。必要とあれば、保管は上記に示したように、より長期間にわたることもできる。
【0036】
さらに、本発明の方法は、安定化された酵素の、周辺光の存在下、すなわち、300nm以上の波長の光の存在下、酵素の活性が、酵素活性の初期値を基準として好ましくは50%未満、より好ましくは30%未満、そして最も好ましくは20%未満しか低下しない保管も想定している。この場合、保管は、必要とあれば、上記に示したように、より長い期間または/および高温で行うことができる。加えて、周辺光への酵素システムの安定性のため、安定化された酵素はまた、使用前または/およびパッケージから取り出された後の少しの間、直射日光に暴露されてもよい。
【0037】
本発明の安定化によりまた、安定化された酵素を、乾燥剤なしでまたは/およびたとえば少なくとも50%の相対空気湿度などの高い相対空気湿度で、酵素の活性が、酵素活性の初期値を基準として50%未満、より好ましくは30%未満、そして最も好ましくは20%未満しか低下せずに保管することが可能である。この場合、保管は、必要とあれば、上記に示したように、より長い期間、高温または/および周辺光の存在下で行うことができる。酵素の活性を測定するための方法または試験は、先行技術において広く公知であり、そして、必要とあれば、当業者によって各要件に適合されることができ、いずれの場合にも保管の前および後で酵素活性を比較するために同一の試験条件が使用される。
【0038】
安定化された酵素は、一方では乾燥物として、そして他方では液相中で保管され得る。安定化された酵素は、好ましくは分析物を測定するために適しているテストエレメント上またはテストエレメント中で保管される。この場合、安定化された酵素は、好ましくは検出試薬の成分であり、検出試薬は任意には、たとえばメディエーター、光学的指示薬、塩、緩衝液などの他の成分も含み得る。
【0039】
安定化された酵素は、たとえば血液、血清、血漿もしくは尿などの体液中または下水試料中または食品中のパラメータなどの分析物を検出するために使用することができる。酸化還元反応によって検出できる生物学的または化学的物質であればいずれも分析物として、たとえば補酵素依存性酵素の基質または補酵素依存性酵素自体である基質として測定することができる。分析物の好ましい例としては、グルコース、乳酸、りんご酸、グリセロール、アルコール、コレステロール、トリグリセリド、アスコルビン酸、システイン、グルタチオン、ペプチド、尿素、アンモニウム、サリチル酸塩、ピルビン酸塩、5’−ヌクレオチダーゼ、クレアチンキナーゼ(CK)、乳酸塩脱水素酵素(LDH)、二酸化炭素などがある。分析物としてはグルコースが好ましい。
【0040】
本発明の別の対象は、本発明の化合物または本発明にしたがい安定化された酵素の、酵素反応によって試料中の分析物を検出するための使用である。適切な補酵素を用いた、グルコース脱水素酵素(EC1.1.1.47)またはグルコース−6−リン酸脱水素酵素(EC1.1.1.49)を使用したグルコースの検出が特に好ましい。
【0041】
分析物との反応によって引き起こされる安定化された補酵素における変化は、原則として任意の方法で検出することができる。この場合、原則として、先行技術から公知のあらゆる酵素反応検出法が使用できる。しかし、補酵素における変化は、好ましくは光学的方法により検出される。光学的検出法には、たとえば吸光、蛍光、円偏光二色性(CD)、旋光分散(ORD)、屈折率測定の測定などが含まれる。
【0042】
本願の範囲内において好ましく使用される光学的検出法は、測光法および蛍光法である。しかしながら、分析物との反応による補酵素の変化を光度的に測定するためには、還元された補酵素の反応性を増加させ、そして、好適な光学的指示薬または光学的指示薬系への電子の移動を可能にする少なくとも1つのメディエーターが存在することがさらに必要である。
【0043】
本発明の目的に適切なメディエーターとしては、とりわけ、たとえば[(4−ニトロソフェニル)イミノ]ジメタノール塩酸塩などのニトロソアニリン、たとえばフェナントレンキノン、フェナントロリンキノンもしくはベンゾ[h]キノリンキノンなどのキノン、たとえば1−(3−カルボキシプロポキシ)−5−エチレンフェナジニウムトリフルオロメタンスルホネートなどのフェナジン、または/およびジアホラーゼ(EC1.6.99.2)がある。
【0044】
ジアホラーゼは、特にフェナジンと比較した場合に、より高い安定性という利点があるが、たとえば独国特許発明第2 061 984号明細書から公知なように、その機能は天然の補酵素の分解生成物、たとえばNADまたはNADPの分解生成物によって障害され得る。
【0045】
本発明の意味内において、フェナントロリンキノンの好ましい例には、1,10−フェナントロリン−5,6−キノン、1,7−フェナントロリン−5,6−キノン、4,7−フェナントロリン−5,6−キノン、およびそれらのN−アルキル化またはN,N’−ジアルキル化塩が含まれ、N−アルキル化またはN,N’−ジアルキル化塩の場合には、溶解性を増加させるハロゲン化物、トリフルオロメタンスルホン酸塩または他のアニオンがカウンターイオンとして好ましい。本発明の目的に特に適しているジアホラーゼは、たとえば豚の心臓由来、クロストリジウム クルイベリ(Clostridium kluyverii)およびバチルス ステアロサーモフィルス(Bacillus stearothermophilus)由来のジアホラーゼ、ならびに、天然のジアホラーゼと比較して改善された触媒機能および熱安定性を有する、米国特許出願公開第2007/0196899号明細書に記載されているジアホラーゼ突然変異体由来のジアホラーゼを含む。上述の米国特許出願の開示は、本明細書に参照として明確に組み込まれる。
【0046】
還元可能であり、そして、検出可能な変化をたとえば色、蛍光、反射率、透過率、偏光または/および屈折率などの光学的性質に生じるあらゆる物質が、光学的指示薬としてまたは光学的指示薬系として使用され得る。試料中の分析物の存在または/および量の測定は、裸眼で、または/および当業者には適切であることが明らかな測光法を用いた検出装置により行うことができる。ヘテロポリ酸、および特には2,18−リンモリブデン酸が、光学的指示薬として好ましく使用され、対応するヘテロポリブルーに還元される。あるいは、たとえばレザズリンなどのキノン、ジクロロフェノールインドフェノールまたは/およびテトラゾリウム塩を光学的指示薬として使用することも可能である。本発明の目的に特に適しているテトラゾリウム塩は、たとえば市販の製品WST−3、WST−4およびWST−5(全てはDojindo社より入手)を含むが決してこれらに限定されるわけではない。
【0047】
補酵素の変化は、特に好ましくは蛍光を測定することにより検出される。蛍光測定は高感度であり、小型システム中で検出される分析物の低い濃度でさえ測定可能である。あるいは、補酵素の変化はまた、たとえば電気化学的テストストリップなどの適切なテストエレメントを使用して電気化学的にも測定され得る。このための前提条件は、前述と同じ、還元された補酵素により、電子の移動によって還元型に変換されることができる適切なメディエーターの使用である。分析物は、試料中の分析物の濃度と相関する、還元されたメディエーターを再酸化するために必要とされる電流を測定することにより測定される。電気化学的測定に使用することができるメディエーターの例としては、特に光度測定のために使用される前述のメディエーターが挙げられる。
【0048】
分析物を検出するために、試薬がたとえば、水溶液の形でまたは水性もしくは非水性液体中の懸濁液の形で、または粉末もしくは凍結乾燥物として存在している液体テストを使用することも可能である。しかしながら、試薬が支持体に塗布されている乾式テストを使用することも可能である。支持体は、たとえば、調査される液体試料によって湿潤される吸収材料または/および膨潤性材料を含むテストストリップなどである。
【0049】
特に好ましいテスト形式は、特に、還元された補酵素NADHの誘導体が形成される湿式試験における、グルコースを検出するための、安定化されたNAD誘導体を併用した酵素、グルコース−6−リン酸脱水素酵素の使用を含む。NADHは光学的な方法、たとえば光度測定またはUV励起後の蛍光測定により検出される。特に好ましいテストシステムは米国特許出願2005/0214891号明細書に記載されており、本明細書に参照として明確に組み込まれる。
【0050】
本発明のさらなる局面は、安定化された補酵素で安定化された酵素であって、安定化された酵素が、少なくとも2週間、好ましくは少なくとも4週間そして最も好ましくは少なくとも8週間、少なくとも20℃、好ましくは少なくとも25℃そして最も好ましくは少なくとも30℃の温度で、または/および、300nm以上の波長の光の存在下、適切な場合には高い空気湿度でまたは/および乾燥剤なしで保管された場合に、酵素活性の初期値を基準として50%未満、好ましくは30%未満、そして最も好ましくは20%未満の酵素活性の低下を示す安定化された酵素に関する。この場合酵素は上述したように使用される。
【0051】
さらに、本発明のさらなる局面は、上述したように安定化された酵素を含む分析物を測定するための検出試薬に関する。加えて、本発明は、本発明により安定化された酵素および本発明による検出試薬を含むテストエレメントに関する。検出試薬およびテストエレメントは、乾式テストまたは液体テストを実施するのに適しているであろう。テストエレメントは、好ましくは、分析物の蛍光または光度検出のためのテストストリップである。
このようなテストストリップは、安定化された酵素を、セルロース、プラスティックなどの吸収材料または/および膨潤性材料上に固定された形態で含む。
【0052】
さらに、本発明のさらなる局面は、とりわけ周辺光に対して酵素を安定化する方法に関し、該方法で、酵素はすでに明記されたように、天然の補酵素の存在下で保存される。好ましい別形では、アルコール脱水素酵素(EC1.1.1.1;EC1.1.1.2)、グルコース脱水素酵素(EC1.1.1.47)、グルコース−6−リン酸脱水素酵素(EC1.1.1.49)またはジアホラーゼ(EC1.6.99.2)が酵素として使用され、天然および突然変異されたグルコース脱水素酵素を含むグルコース脱水素酵素(EC1.1.1.47)およびグルコース−6−リン酸脱水素酵素(EC1.1.1.49)が特に好ましい。天然のニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD/NADH)または天然のニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP/NADPH)化合物、そして、とりわけ天然のNADまたはNADPが天然の補酵素として好ましく使用される。
【0053】
本発明は以下の図面および実施例にしたがい、より詳細に説明される。
【実施例】
【0054】
実施例1
カルバNAD(図1A)またはNADをグルコース特異的GlucDHに添加した。これらの処方を、いずれの場合もPokalon foils(Lonza)に塗布し、乾燥後、温かく湿気のある条件下(32℃、相対空気湿度85%)で保管した。その後、反応速度および関数曲線(function curve)を定期的に測定した。平行して、各測定時間でcNAD/NAD分析および酵素の残存活性の測定を行った。
【0055】
第1日目に測定されたNAD(図2A)およびcNAD(図2B)に関する反応速度曲線は類似しており、良く似たグルコース依存的上昇を示す。しかしながら、反応速度曲線における顕著な相違が5週間後に明らかとなる。NADに関する反応速度(図2C)のダイナミックレンジの大きな減少が見られるのに対し、cNADにより安定化された酵素の反応速度は事実上変化しないままである(図2D)。
【0056】
図3から明らかなように、空試験値(血液試料の適用前の乾燥空試験値)の顕著な変化もまた存在する。NADに関する乾燥空試験値の上昇は蛍光粒子の形成に起因する(Oppenheimer (1982)、前出)。驚くべきことに、これはcNADでは生じない。
【0057】
NADまたはcNADの存在下におけるグルコース脱水素酵素の異なる安定性もまた、図4および5の比較から明らかである。5週間後、cNADにより安定化された酵素に関する関数曲線は、なお一連の先の測定値の曲線内(図5A)に存在するが、一方、NADにより処理した酵素に対する曲線(図4)は、酵素/補酵素の不適切な量を示す典型的なサインである、より高い濃度での低下が見られる。図5Bは、24週間の期間にわたるcNADにより安定化されたグルコース脱水素酵素の様々な関数曲線を示す。これに関連して、酵素の機能は、全期間を通して高いグルコース濃度で僅かに変化するのみであり、24週間後の値は5週間後に得られる値におおよそ相当することが明らかである。
【0058】
補酵素の構造と所定の期間にわたるその安定性との関係は図6に示される。これによると、グルコース検出試薬中のcNADの残存含量は、24週間保管(32℃および相対空気湿度85%)後なお初期値の約80%であり、一方、NADにより安定化されたグルコース検出試薬中のNADの含有量は、5週間後にはすでに初期値の約35%に低下しており、外挿によれば、約17週間後にはゼロに減少する。
【0059】
32℃および相対空気湿度85%で5週間後の、活性酵素GlucDHの残存活性の測定結果(図7A)は、全く驚くべきものである。NADにより安定化された酵素はここで極めて低い酵素活性(0.5%)しか示さず、一方、cNADにより安定化された酵素は、70%の残存活性をなお有する(いずれの場合でも、乾燥剤(TM)とともに冷蔵庫(KS)に保管した試料と比較した)。32℃および相対空気湿度85%で24週間後(図7B)、cNADにより安定化された場合、酵素の残存活性はまだなお約25%である。
【0060】
野生型酵素(バチルス ズブチルス由来)の代わりに突然変異体が使用される場合、GlucDHの残存活性はさらに上昇させることができる。cNADの存在下で32℃および相対空気湿度85%での24週間の保管後、野生型酵素の96位でグルタミン酸 → グリシンおよび170位でグルタミン酸 → リジンというアミノ酸置換を有するGlucDH_E96G_E170K突然変異体(GlucDH−Mut1)の残存活性は、約70%であり、一方、170位でグルタミン酸 → リジンおよび252位でリジン → ロイシンというアミノ酸置換を有するGlucDH_E170K_K252L突然変異体(GlucDH−Mut2)の残存活性は、約50%である(図8)。
【0061】
液相中でのグルコース脱水素酵素の保管の場合もまた、NADおよびcNADのあいだの相違を明確に示している(図9Aおよび9B)。50℃で95時間後、天然の補酵素NADの存在下でのグルコース脱水素酵素の残存活性は≫5%であり、一方、人工の補酵素cNADの存在下でのGlucDHの残存活性は75%である(図9A)。50℃で336時間保管後、NADで安定化された酵素の残存活性はもはや約1%のみであり;cNADの存在下で保管された酵素では残存活性がなお約70%であることが観察される。対応するSDSゲルもまた天然の補酵素NADの存在下でのGlucDHバンドの変化を示す:新しいバンドがより高い分子量に現れ、30kDaバンドにシフトが見られる。
【0062】
概して、酵素をより良好に結合させる協同効果を通してのみではなく、補因子の安定化が同時に酵素の安定化をもたらすということは非常に驚くべき結果である。補因子NADの分解は、酵素GlucDHの安定性に負に作用し、その不活性化の速度を加速さえする。天然のNADを人工の類似体に換えることにより、GlucDHはストレス条件(たとえば高温)下で補因子の存在下ですら保管可能となる。
【0063】
このようなシステムをもってすれば、顕著に改善された安定性の特性を有する血糖テストストリップを製造することが可能であり、そのため乾燥剤なしの提示が可能である。
【0064】
実施例2
cNADまたはNADがアルコール脱水素酵素を含む検出溶液に添加された。これらの混合物を2〜8℃でおよび35℃で保管した。ついでアルコール脱水素酵素(ADH)の安定性を定期的に調べ、酵素の残存活性を測定した。
【0065】
図10は、種々の濃度のcNADの存在下、アルコール脱水素酵素(ADH)によるエタノールの変換の直線性を表すものであり、酵素システムADH/cNADのエタノール測定への実際的な有用性を示している。さらに、アルコール脱水素酵素およびcNADの組み合わせによるエタノールの変換の速度曲線は、変換速度はエタノール濃度の増加にともない増加するという基質の濃度への顕著な依存性があることを示している(図11)。
【0066】
また一方、液相における保管は、NADまたはcNADの存在下における保管のあいだで違いを示す(図12)。天然の補酵素NADの存在下でのアルコール脱水素酵素の残存活性は、35℃で65時間後、約6%であり、一方、人工の補酵素cNADの存在下での残存活性は、まだなお約60%である。
【0067】
アルコール脱水素酵素が天然のNADまたはcNADとともに、数ヶ月間にわたって冷蔵庫で2〜8℃で保管された場合、cNADの場合には全ての保管期間にわたる酵素活性の顕著な低下が観察される。一方、2週間の保管後の相違は依然としてわずかであるが、16mMのcNADの存在下で12ヶ月間保管した後のアルコール脱水素酵素の残存活性は、補酵素として16mMのNADを含む対応する溶液と比較して約20%高い。結果を表1に示す。
【0068】
【表1】
【0069】
使用されたcNADの量に関連した安定性の程度が表2に示されている。したがって、アルコール脱水素酵素の残存活性は、2〜8℃で2週間保管された試料において、cNADの濃度の増加により多少増大され得る。しかしながら、35℃で2週間酵素を保管することを念頭としたストレスモデルにおいては、アルコール脱水素酵素の酵素活性の低下は、cNADの濃度の増加により顕著に促進され、そして、cNADの濃度が15mMである場合には、0.5mMのcNADが存在する酵素溶液と比較して、およそ45%高い残存活性が観察される。
【0070】
【表2】
【0071】
実施例3
グルコースを測定するために、それぞれがグルコース脱水素酵素、NAD、メディエーターおよび、必要に応じて、光学的指示薬を含む種々のテストシステムが、光学的および電気化学的に測定された。
【0072】
光学的測定については、室温で11週間それぞれ保管され、2,18−リンモリブデン酸をグルコース脱水素酵素、NADおよびメディエーターに加えて含む4つのテストエレメントが、まず種々のグルコース濃度で調べられた。
【0073】
図13から明らかなように、グルコース濃度の増加と共に、使用された全ての4つのメディエーター、すなわち、[(4−ニトロソフェニル)イミノ]ジメタノール塩酸塩(Med A)、1−メチル−5,6−ジオキソ−5,6−ジヒドロ−1,10−フェナントロリニウム−トリフルオロメタンスルホネート(Med B)、7−メチル−5,6−ジオキソ−5,6−ジヒドロ−1,7−フェナントロリニウム−トリフルオロメタンスルホネート(Med F)および1−(3−カルボキシプロポキシ)−5−エチルフェナンジニウム−トリフルオロメタンスルホネート(Med G)に関して、反射率の低下が観察され、したがって、上記メディエーターは原則的に、測光法によるグルコースの測定に適している。
【0074】
800mg/dLの高いグルコース濃度領域で、測定された試料の反射率は、[(4−ニトロソフェニル)イミノ]ジメタノール塩酸塩または1−(3−カルボキシプロポキシ)−5−エチルフェナンジニウム−トリフルオロメタンスルホネートを使用した場合、依然として約20%であり、これは、これら2つのメディエーターが、グルコース脱水素酵素/NAD系を用いる光度測定に特に適していること、そしてしたがって、グルコース脱水素酵素/cNAD系にも適していることを示唆している。グルコース脱水素酵素、NAD、1−(3−カルボキシプロポキシ)−5−エチルフェナンジニウム−トリフルオロメタンスルホネートおよび2,18−リンモリブデン酸系であって、0〜800mg/dLの範囲のグルコース濃度を使用するグルコース変換の反応速度が図14に示されている。
【0075】
図15の模式図は、グルコースの光学的な測定は、中間メディエーターとしてジアホラーゼの(追加)使用でも行われ得ることを示す。図16は、グルコース脱水素酵素、NAD、ジアホラーゼ、[(4−ニトロソフェニル)イミノ]ジメタノール塩酸塩および2,18−リンモリブデン酸系(システム1)における反射率の濃度依存的減少を示す。同様に反射率において濃度依存的減少を引き起こすが、グルコース色素酸化還元酵素の低い特異性のために不利な点のある、グルコース色素酸化還元酵素、ピロロキノリンキノン、[(4−ニトロソフェニル)イミノ]ジメタノール塩酸塩および2,18−リンモリブデン酸系(システム2)が比較として機能した。0〜800mg/dLの範囲のグルコース濃度における、システム1を使用したグルコース変換の反応速度が図17に示されている。
【0076】
光学測定の代替法として、電気化学的測定法もまた、分析物を測定する目的で使用され得る。ここに、還元されたメディエーターを再酸化するために必要な電流が、グルコース脱水素酵素に加え、補酵素としてNADそしてメディエーターとして1−(3−カルボキシプロポキシ)−5−エチルフェナンジニウム−トリフルオロメタンスルホネートを含有するテストエレメント、および、NADの代わりに安定化された補酵素cNADを含む対応するシステムの両方において、グルコース濃度に直線的に依存する(図18)ことが見出された。
【0077】
したがって、分析物の測定が、脱水素酵素/安定な補酵素系を用いて、ならびに、電気化学的検出および補酵素に非依存性の別の波長での評価によって行われ得ることが証明された。全ての処方はまた、安定化された酵素/補酵素対の使用によりさらに安定化されるであろう。
【0078】
実施例4
周辺光に対する安定性を測定するために、それぞれ、NADまたはカルバNADと併用して、グルコース脱水素酵素(GlucDH)、グルコース−6−リン酸脱水素酵素(G6PDH)およびグルコース脱水素酵素突然変異体2(GlucDH−mut2)から選択される酵素を含む、種々のテストシステムが国際公開第03/097859号に記載の方法にしたがって製造され、続いて血液試料が添加された。具体的には、テストシステムは、酵素および補酵素を含む光重合可能な液体組成物を支持体に塗布し、続いて、12〜15μmの厚さを有する試薬層を得るために組成物を400W、360nmの波長で10秒間光照射適用することにより製造された。検出は、数分間、蛍光法で行われた。
【0079】
図19は、GlucDH/NAD系における測定結果を示す。グラフに示されるように、全ての測定期間にわたって、いかなる蛍光の減少も見られず、これにより、GlucDH/NAD系が300nm以上の領域において吸収を示さないために、試薬層への高エネルギー放射を伴う数分間継続する照射でさえも試薬層を損なうことがないという結論が導かれる。G6PDH/NAD系ならびにカルバNADを含有する系であるGlucDH/カルバNAD、G6PDH/カルバNADおよびGlucDH−mut2/カルバNADが300nm以上の波長領域で吸収を示さない(図20)という事実を考慮すれば、これら全ての系はまた、周辺光に対する高い安定性を有す(結果は示さず)。
【0080】
実施例5
本明細書に記載される、診断用テストエレメントを製造するために使用され得る具体的な組成物の例が以下に明記される。
【0081】
a)乳酸脱水素酵素の活性を測定するための液体試薬
特に、ジアホラーゼ、カルバNAD、テトラゾリウム塩および乳酸を含む液体試薬が乳酸脱水素酵素の活性を測定するために使用された。25℃で溶液中に保管された検出試薬は、以下の成分を含んでいた:
3U/mL ジアホラーゼ (豚の心臓由来)
2mM カルバNADまたは0.2mM NAD
2mM テトラゾリウム塩 WST−3
50mM 乳酸ナトリウム
0.1M トリシン/HCl、pH 8.8
【0082】
種々の保管時間におけるジアホラーゼの活性の測定により、カルバNADを含む処方の残存活性の顕著な増大が、補酵素としてNADを含む対応する処方と比較して示された。
【0083】
b)血糖測定のためのテストストリップ
特に、グルコース脱水素酵素(GlucDH)、カルバNAD、ジアホラーゼ、ニトロソアニリンおよびリンモリブデン酸を含む組成物が血糖を測定するために使用された。テストストリップは、第一の処方をポリカーボネート箔にドクターブレード(層高 100μm)を使用して塗布し、第一層を乾燥し、第一層に第二の処方を塗布(ドクターブレードギャップ 30μm)し、そして第二層を乾燥することにより得られ、32℃で相対空気湿度30〜70%で保管された。第一層および第二層に使用された処方は、表3に示されている:
【0084】
【表3】
【0085】
ジアホラーゼの活性が種々の保管時間で、テストストリップから酵素を抽出することによって測定され、カルバNADを含む処方の場合に、NADを含む処方と比較して残存活性の顕著な増加が観察された。
【0086】
c)トリグリセリドの測定のためのテストストリップ
特に、グリセロール脱水素酵素、カルバNAD、ジアホラーゼおよびテトラゾリウム塩を含む組成物がトリグリセリドを測定するために使用された。テストストリップは、表4に記載される処方をポリカーボネート箔にドクターブレード(層高 80μm)を使用して塗布し、続いて乾燥することにより得られ、32℃で相対空気湿度30〜70%で保管された。
【0087】
【表4】
【0088】
ジアホラーゼの活性が種々の保管時間で、テストストリップから酵素を抽出することによって測定され、そして、カルバNADを含む処方の場合に、NADを含む処方と比較して残存活性の顕著な増加が観察された。
【0089】
実施例6
グルコース脱水素酵素およびジアホラーゼのカルバNADによる安定化を評価するために、多数のテストストリップが実施例5と同様に製造された。テストストリップの第一および第二層に使用された処方が表5に示されている。
【0090】
【表5】
【0091】
テストストリップは、5℃(KS、冷蔵庫)、25℃(RT)、30℃(GT)、35℃(DT)および45℃(HT)の温度で18週間の期間にわたって保管され、そして、テストストリップ中の酵素活性が、保管の開始(0週)時、6週間後、9週間後、12週間後および18週間後に測定された。結果を表6(グルコース脱水素酵素)および表7(ジアホラーゼ)に示す。
【0092】
【表6】
【0093】
【表7】
【0094】
表7および8に示すように、グルコース脱水素酵素およびジアホラーゼのカルバNAD存在下での18週間にわたる保管により、高い酵素活性が維持されるが、一方、NAD存在下での酵素の分解速度ははるかにより顕著である。
【0095】
実施例7
種々の脱水素酵素の熱安定性に対するNADおよびカルバNADの影響を測定するために、第一工程において酵素(1mg/mL)が個々の測定緩衝液に対して4℃で20時間透析された。続いて3.8mMのNADまたはカルバNADが試料に添加され、そして、試料が4℃で保管された。
【0096】
NADまたはカルバNADの種々の脱水素酵素への結合を測定するために、示差走査熱量測定(DSC)が行われた。熱量測定のスキャンは、20℃および100℃の間の温度および120℃/時間のスキャン速度で行われ、それぞれの試料は三回測定された。
【0097】
正確な操作を確実なものとするため、測定を行う前にDSC装置は洗浄され、MicroCalハンドブックにしたがって較正された。pH2.4の0.1Mグリシン−HCl中のリゾチーム(1 mg/mL)が個々のスキャン工程の前後に対照として二回測定された。測定セル、バルブおよびシリンジは、6回のインジェクション毎に3回、水で洗浄された。データはMicroClas Origin softwareを用いて解析された。
【0098】
pH8.0のトリス緩衝液中のグルコース脱水素酵素突然変異体2は、NADの非存在下で、および、存在下でも同様に、明確な形のピークを与え、融点(TM)は、NADの非存在下で79.1℃、およびNADの存在下で80.8℃であった。したがって、グルコース脱水素酵素突然変異体2のNADへの結合は、TMにおいて1.5℃以上のシフトをもたらした。アルコール脱水素酵素を除いて、酵素がNADまたはカルバNADに接触されたとき、TMは他の脱水素酵素の場合、たとえば野生型グルコース脱水素酵素の場合にも増大した。
【0099】
表8は、種々の脱水素酵素のDSC解析によって得られたデータを示しており、いずれの場合においてもDSCのスペクトルで単一のピークが得られるように実験条件は選択された。NADまたはカルバNADの脱水素酵素への結合効果は、いずれの場合も補酵素(リガンド)が存在していない場合のスキャンと比較された。特に明記されていない限り、いずれの場合も、pH8.5の0.1Mトリス緩衝液が測定用緩衝液として使用された。
【0100】
【表8】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酵素を安定化する方法であって、前記酵素が安定化された補酵素の存在下で保管され、かつ、前記酵素としてアルコール脱水素酵素(EC1.1.1.2)、グルコース−6−リン酸脱水素酵素(EC1.1.1.49)またはジアホラーゼ(EC1.6.99.2)が使用されることを特徴とする方法。
【請求項2】
安定化されたニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD/NADH)化合物、安定化されたニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP/NADPH)化合物または式(I)の化合物
【化1】
が安定化された補酵素として使用されることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
一般式(II)を有する化合物
【化2】
(式中、
A=アデニンまたはその類似体、
T=それぞれ独立してO、S、
U=それぞれ独立してOH、SH、BH3-、BCNH2-、
V=それぞれ独立してOHまたはリン酸基、または2つの基が環状リン酸エステル基を形成する、
W=COOR、CON(R)2、COR、CSN(R)2、R=それぞれ独立してHまたはC1〜C2−アルキル、
X1、X2=それぞれ独立してO、CH2、CHCH3、C(CH3)2、NH、NCH3、
Y=NH、S、O、CH2、
Z=直鎖状または環状有機残基、
ただし、Zおよびピリジン残基は、グリコシル結合により連結されない
またはその塩、もしくは必要に応じて還元型
が安定化された補酵素として使用されることを特徴とする請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
Zが、飽和または不飽和の炭素環式または複素環式の5員環であって、特に一般式(III)の化合物
【化3】
式中、単結合または二重結合がR5'およびR5''との間に存在でき、
R4=それぞれ独立してH、F、Cl、CH3、
R5=CR42、
R5'およびR5''との間が単結合である場合、R5'=O、S、NH、NC1〜C2−アルキル、CR42、CHOH、CHOCH3、および、R5''=CR42、CHOH、CHOCH3、
R5'およびR5''との間が二重結合である場合、R5'=R5''=CR4、ならびに
R6、R6'=それぞれ独立してCHまたはCCH3
であることを特徴とする請求項3記載の方法。
【請求項5】
カルバNADが安定化された補酵素として使用されることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
安定化された酵素が、少なくとも2週間、好ましくは少なくとも4週間、そして最も好ましくは少なくとも8週間の期間保管されることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
安定化された酵素が、少なくとも20℃、好ましくは少なくとも25℃、そして最も好ましくは少なくとも30℃の温度で保管されることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
安定化された酵素が、少なくとも50%の相対空気湿度または/および乾燥剤なしで保管されることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
安定化された酵素が、乾燥物としてまたは液相中で保管されることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
安定化された補酵素により安定化される酵素であって、少なくとも2週間、好ましくは少なくとも4週間、そして最も好ましくは少なくとも8週間、少なくとも20℃、好ましくは少なくとも25℃、そして最も好ましくは少なくとも30℃の温度でまたは/および300nm以上の波長の光の存在下、任意には高い空気湿度または/および乾燥剤なしで保管された場合に、酵素活性の初期値を基準として50%未満、好ましくは30%未満、そして最も好ましくは20%未満の酵素活性の低下しかみられず、前記酵素が、アルコール脱水素酵素(EC1.1.1.2)、グルコース−6−リン酸脱水素酵素(EC1.1.1.49)またはジアホラーゼ(EC1.6.99.2)であることを特徴とする酵素。
【請求項11】
請求項10記載の安定化された酵素を含む、分析物を測定するための検出試薬。
【請求項12】
請求項10記載の安定化された酵素または請求項11記載の検出試薬を含むことを特徴とするテストエレメント。
【請求項13】
酵素を安定化する方法であって、前記酵素が天然の補酵素の存在下で保管され、前記酵素として、アルコール脱水素酵素(EC1.1.1.1;EC1.1.1.2)、L−アミノ酸脱水素酵素(EC1.4.1.5)、グルコース脱水素酵素(EC1.1.1.47)、グルコース−6−リン酸脱水素酵素(EC1.1.1.49)、グリセロール脱水素酵素(EC1.1.1.6)、3−ヒドロキシ酪酸脱水素酵素(EC1.1.1.30)、乳酸脱水素酵素(EC1.1.1.27、EC1.1.1.28)およびリンゴ酸脱水素酵素(EC1.1.1.37)からなる群から選択される脱水素酵素、または、ジアホラーゼ(EC1.6.99.2)が使用されることを特徴とする方法。
【請求項14】
アルコール脱水素酵素(EC1.1.1.1;EC1.1.1.2)、グルコース脱水素酵素(EC1.1.1.47)、グルコース−6−リン酸脱水素酵素(EC1.1.1.49)またはジアホラーゼ(EC1.6.99.2)が前記酵素として使用されることを特徴とする請求項13記載の方法。
【請求項15】
天然のニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD/NADH)化合物または天然のニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP/NADPH)化合物が天然の補酵素として使用されることを特徴とする請求項13または14記載の方法。
【請求項16】
安定化された酵素が300nm以上の波長の光の存在下で保管されることを特徴とする請求項1〜9および13〜15のいずれかに記載の方法。
【請求項1】
酵素を安定化する方法であって、前記酵素が安定化された補酵素の存在下で保管され、かつ、前記酵素としてアルコール脱水素酵素(EC1.1.1.2)、グルコース−6−リン酸脱水素酵素(EC1.1.1.49)またはジアホラーゼ(EC1.6.99.2)が使用されることを特徴とする方法。
【請求項2】
安定化されたニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD/NADH)化合物、安定化されたニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP/NADPH)化合物または式(I)の化合物
【化1】
が安定化された補酵素として使用されることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
一般式(II)を有する化合物
【化2】
(式中、
A=アデニンまたはその類似体、
T=それぞれ独立してO、S、
U=それぞれ独立してOH、SH、BH3-、BCNH2-、
V=それぞれ独立してOHまたはリン酸基、または2つの基が環状リン酸エステル基を形成する、
W=COOR、CON(R)2、COR、CSN(R)2、R=それぞれ独立してHまたはC1〜C2−アルキル、
X1、X2=それぞれ独立してO、CH2、CHCH3、C(CH3)2、NH、NCH3、
Y=NH、S、O、CH2、
Z=直鎖状または環状有機残基、
ただし、Zおよびピリジン残基は、グリコシル結合により連結されない
またはその塩、もしくは必要に応じて還元型
が安定化された補酵素として使用されることを特徴とする請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
Zが、飽和または不飽和の炭素環式または複素環式の5員環であって、特に一般式(III)の化合物
【化3】
式中、単結合または二重結合がR5'およびR5''との間に存在でき、
R4=それぞれ独立してH、F、Cl、CH3、
R5=CR42、
R5'およびR5''との間が単結合である場合、R5'=O、S、NH、NC1〜C2−アルキル、CR42、CHOH、CHOCH3、および、R5''=CR42、CHOH、CHOCH3、
R5'およびR5''との間が二重結合である場合、R5'=R5''=CR4、ならびに
R6、R6'=それぞれ独立してCHまたはCCH3
であることを特徴とする請求項3記載の方法。
【請求項5】
カルバNADが安定化された補酵素として使用されることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
安定化された酵素が、少なくとも2週間、好ましくは少なくとも4週間、そして最も好ましくは少なくとも8週間の期間保管されることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
安定化された酵素が、少なくとも20℃、好ましくは少なくとも25℃、そして最も好ましくは少なくとも30℃の温度で保管されることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
安定化された酵素が、少なくとも50%の相対空気湿度または/および乾燥剤なしで保管されることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
安定化された酵素が、乾燥物としてまたは液相中で保管されることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
安定化された補酵素により安定化される酵素であって、少なくとも2週間、好ましくは少なくとも4週間、そして最も好ましくは少なくとも8週間、少なくとも20℃、好ましくは少なくとも25℃、そして最も好ましくは少なくとも30℃の温度でまたは/および300nm以上の波長の光の存在下、任意には高い空気湿度または/および乾燥剤なしで保管された場合に、酵素活性の初期値を基準として50%未満、好ましくは30%未満、そして最も好ましくは20%未満の酵素活性の低下しかみられず、前記酵素が、アルコール脱水素酵素(EC1.1.1.2)、グルコース−6−リン酸脱水素酵素(EC1.1.1.49)またはジアホラーゼ(EC1.6.99.2)であることを特徴とする酵素。
【請求項11】
請求項10記載の安定化された酵素を含む、分析物を測定するための検出試薬。
【請求項12】
請求項10記載の安定化された酵素または請求項11記載の検出試薬を含むことを特徴とするテストエレメント。
【請求項13】
酵素を安定化する方法であって、前記酵素が天然の補酵素の存在下で保管され、前記酵素として、アルコール脱水素酵素(EC1.1.1.1;EC1.1.1.2)、L−アミノ酸脱水素酵素(EC1.4.1.5)、グルコース脱水素酵素(EC1.1.1.47)、グルコース−6−リン酸脱水素酵素(EC1.1.1.49)、グリセロール脱水素酵素(EC1.1.1.6)、3−ヒドロキシ酪酸脱水素酵素(EC1.1.1.30)、乳酸脱水素酵素(EC1.1.1.27、EC1.1.1.28)およびリンゴ酸脱水素酵素(EC1.1.1.37)からなる群から選択される脱水素酵素、または、ジアホラーゼ(EC1.6.99.2)が使用されることを特徴とする方法。
【請求項14】
アルコール脱水素酵素(EC1.1.1.1;EC1.1.1.2)、グルコース脱水素酵素(EC1.1.1.47)、グルコース−6−リン酸脱水素酵素(EC1.1.1.49)またはジアホラーゼ(EC1.6.99.2)が前記酵素として使用されることを特徴とする請求項13記載の方法。
【請求項15】
天然のニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD/NADH)化合物または天然のニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP/NADPH)化合物が天然の補酵素として使用されることを特徴とする請求項13または14記載の方法。
【請求項16】
安定化された酵素が300nm以上の波長の光の存在下で保管されることを特徴とする請求項1〜9および13〜15のいずれかに記載の方法。
【図1A】
【図1B】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図1B】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【公表番号】特表2013−502212(P2013−502212A)
【公表日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−525165(P2012−525165)
【出願日】平成22年8月18日(2010.8.18)
【国際出願番号】PCT/EP2010/062045
【国際公開番号】WO2011/020856
【国際公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【出願人】(501205108)エフ ホフマン−ラ ロッシュ アクチェン ゲゼルシャフト (285)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年8月18日(2010.8.18)
【国際出願番号】PCT/EP2010/062045
【国際公開番号】WO2011/020856
【国際公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【出願人】(501205108)エフ ホフマン−ラ ロッシュ アクチェン ゲゼルシャフト (285)
【Fターム(参考)】
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