説明

安定化された組成物

【課題】本発明は、分子内にエチルエステル結合を有する保存安定性の低い化合物の酸価上昇を防止または低減させ得る、安定化された組成物を提供することを課題とする。
【解決手段】分子内にエチルエステル結合を有するエステル化合物100重量部に対し、安定化剤として1分子内に1つの芳香族環を有し、該芳香族環がフェノール性ヒドロキシ基を2個以上有する化合物を極少量添加することにより、この組成物の保存安定性を向上させ、上記の課題を解決する。例えば、エステル化合物100重量部と、ポリフェノール系化合物0.00005〜0.005重量部とを含む組成物が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安定化された組成物に関する。さらに詳しくは、本発明は、保存安定性の低い特定の官能基を有する化合物の酸価上昇を防止または低減させ得る、安定化された組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
製造業者は、できる限り高品質の商品を製造しようと心掛けており、また、顧客は製造後も長期間に渡って酸価、色相、臭気などの品質が変わらない商品を求めている。
【0003】
フタル酸エステルは主に塩化ビニル樹脂などの可塑剤として使用されており、リン酸エステルは熱可塑性樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などの難燃剤、ポリウレタン樹脂製造前のプレミックス時の減粘剤など様々な分野において幅広く使用されているが、これらの化合物のうち、分子内にエチルエステル結合を有する化合物は長期保存における安定性が低く、化合物により程度の差はあるが、例えば、空気中の酸素などと反応することで酸化劣化を起こし、酸価上昇などの品質低下を招くことがある。品質低下が生じることにより、最終的に得られる商品に悪影響が出ることを避けるため、顧客はこれらの化合物を購入後、すぐに使用しなければならず、購入品の使用期間における自由度に大きな制限が発生する。
【0004】
たとえば、『可塑剤 その理論と応用 村井 孝一 編著 幸書房 昭和48年3月1日 初版第1刷発行』(非特許文献1)には、可塑剤が劣化して酸価が上昇すると可塑剤そのものの臭気が強くなり、さらにポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデンなどのポリマー共存時には臭気発生を促進させることが記載されている。
【0005】
また、使用する可塑剤の初期酸価が高いと熱安定性が低下することも報告されており、初期酸価が高く、また劣化による酸価上昇が問題であることを示唆している。
【0006】
一方、WO03/020785(特許文献1)には難燃性ポリウレタンの発泡において、難燃剤として酸価が大きいリン酸エステルを使用すると、ウレタンフォーム発泡時に触媒活性が失われ、発泡体を得ることが困難になることが記載されており、酸価上昇による劣化の防止または低減が重要であることが窺える。
【0007】
このような保存安定性の低い化合物の品質劣化を防止または低減させるため、様々な安定化剤の添加に関する研究がなされている。
【0008】
安定化剤としては、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、3,3’,3”,5,5’,5”−ヘキサ−tert−ブチル−a,a’,a”−(メシチリン−2,4,6−トリル)トリ−p−クレゾールなどのヒンダードフェノール系化合物、トリフェニルホスファイト、ジイソデシルペンタエリストールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリストールジホスファイトなどのホスファイト系化合物、n−プロピルガレート、ピロガロールなどのフェノール系化合物、エポキシ系化合物など多種存在するが、一般的には、化合物100重量%に対して0.1重量%以上の使用範囲であることが多く、数ppmオーダーのような極微小範囲での使用例は報告されていない。
【0009】
たとえば、特開2002−167307(特許文献2)には化粧料の保存中の外観変化防止のためフェノール系化合物であるn−プロピルガレートおよびその誘導体からなる安定化剤を添加することが示されているが、その安定化剤の使用量は0.1重量%(1000ppm)である。
【0010】
また特開平5−148125(特許文献3)には、歯磨き中の第一スズイオンの第二スズイオンへの変換を減少もしくは防止するため、酸化防止剤としてn−プロピルガレートを添加しているが、その添加量はやはり多く、0.25〜1.00重量%である。
【0011】
このように、品質の劣化を防止するためにフェノール系化合物であるn−プロピルガレートが使用されているが、その使用量は何れも0.1〜1.0重量%程度となっている。
【0012】
このようなフェノール系化合物が樹脂組成物などの酸化防止剤として機能することについては、従来から研究されており、そのメカニズムとしては、具体的には、フェノール性水酸基が樹脂組成物中に発生するラジカルを捕捉することによることが周知である。すなわち、空気中の酸素などにより生じるラジカルが樹脂を攻撃して酸化することにより樹脂が劣化するのに対して、フェノール系化合物がラジカルを捕捉するので、樹脂が劣化しないというメカニズムである。
【0013】
このようなフェノール系化合物のラジカル捕捉による酸化防止メカニズムが周知であったため、フェノール系化合物は、ラジカルによる劣化が生じる系の酸化防止剤として有用であることが周知であり、かつラジカルによる劣化が生じる系に酸化防止剤として用いられてきた。
【0014】
しかしながら、エステルが加水分解により分解するという現象は、このようなラジカルにより樹脂が劣化するメカニズムが関与しない現象であるため、エステルが加水分解して酸が生成して酸価が上昇するという劣化現象をフェノール系化合物により防止し得るとは考えられていなかった。
【特許文献1】国際公開WO03/020785号公報
【特許文献2】特開2002−167307号公報
【特許文献3】特開平5−148125号公報
【非特許文献1】可塑剤 その理論と応用 村井 孝一 編著 幸書房 昭和48年3月1日 初版第1刷発行(第105−106,115頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、分子内にエチルエステル結合を有するフタル酸エステルまたはリン酸エステルの酸価上昇を防止または低減させ得る、安定化された組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は、上記の課題を解決するために鋭意研究の結果、分子内にエチルエステル結合を有するフタル酸エステルまたはリン酸エステル100重量部に対し、安定化剤として1分子内に1つの芳香族環を有し、該芳香族環が2つ以上のフェノール性ヒドロキシ基を有する化合物を極少量添加することにより、これら化合物の保存安定性を向上させ、長期間での酸価上昇を防止、または低減させ得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0017】
かくして、本発明によれば、分子内にエチルエステル結合を有するフタル酸エステルまたはリン酸エステル100重量部に対し、安定化剤として1分子内に1つの芳香族環を有し、該芳香族環が2つ以上のフェノール性ヒドロキシ基を有する化合物を0.00005〜0.005重量部の割合で添加されてなることを特徴とする安定化された組成物が提供される。
【0018】
より具体的には、本発明によれば、以下の組成物および製造方法が提供される。
【0019】
(項1)
樹脂添加剤組成物であって、
フタル酸エステル100重量部と、
ポリフェノール系化合物0.00005〜0.005重量部と
を含み、
該フタル酸エステルにおいて、フタル酸の2つのカルボン酸残基がともにエステルを形成しており、そして、そのうちの少なくとも1つのカルボン酸残基がエチルエステルを形成しており、
該ポリフェノール系化合物が、1分子内に1つの芳香族環を有し、該芳香族環が2つ以上のフェノール性ヒドロキシ基を有する、
組成物。
【0020】
(項2)
フタル酸エステル組成物であって、実質的に、
フタル酸エステル100重量部と、
水0.001〜0.1重量部と、
ポリフェノール系化合物0.00005〜0.005重量部と
からなり、
該フタル酸エステルにおいて、フタル酸の2つのカルボン酸残基がともにエステルを形成しており、そして、そのうちの少なくとも1つのカルボン酸残基がエチルエステルを形成しており、
該ポリフェノール系化合物が、1分子内に1つの芳香族環を有し、該芳香族環が2つ以上のフェノール性ヒドロキシ基を有する、
フタル酸エステル組成物。
【0021】
(項3)
樹脂添加剤組成物であって、
リン酸エステル100重量部と、
ポリフェノール系化合物0.00005〜0.005重量部と
を含み、
該リン酸エステルにおいて、すべてのリン酸残基がエステルを形成しており、そして、そのうちの少なくとも1つのリン酸残基がエチルエステルを形成しており、
該ポリフェノール系化合物が、1分子内に1つの芳香族環を有し、該芳香族環が2つ以上のフェノール性ヒドロキシ基を有する、
組成物。
【0022】
(項4)
リン酸エステル組成物であって、実質的に、
リン酸エステル100重量部と、
水0.001〜0.1重量部と、
ポリフェノール系化合物0.00005〜0.005重量部と
からなり、
該リン酸エステルにおいて、すべてのリン酸残基がエステルを形成しており、そして、そのうちの少なくとも1つのリン酸残基がエチルエステルを形成しており、
該ポリフェノール系化合物が、1分子内に1つの芳香族環を有し、該芳香族環が2つ以上のフェノール性ヒドロキシ基を有する、
組成物。
【0023】
(項5)
上記項1に記載の組成物であって、前記フタル酸エステルの含有率が、前記組成物中の90重量%以上である、組成物。
【0024】
(項6)
上記項3に記載の組成物であって、前記リン酸エステルの含有率が、前記組成物中の90重量%以上である、組成物。
【0025】
(項7)
上記項1から4のいずれかに記載の組成物であって、前記ポリフェノール系化合物が、1分子内に1つの芳香族環を有し、該芳香族環が2つまたは3つのフェノール性ヒドロキシ基を有する、組成物。
【0026】
(項8)
前記芳香族環がベンゼン環である、上記項7に記載の組成物。
【0027】
(項9)
上記項1から4のいずれかに記載の組成物であって、前記ポリフェノール系化合物が、ハイドロキノン、レゾルシン、ピロガロールまたは低級アルキルガレート(アルキルの炭素数は1〜4)である、組成物。
【0028】
(項10)
上記項1から4のいずれかに記載の組成物であって、前記ポリフェノール系化合物が、ハイドロキノン、ピロガロールまたはn−プロピルガレートである、組成物。
【0029】
(項11)
上記項1から4のいずれかに記載の組成物であって、前記ポリフェノール系化合物が、n−プロピルガレートである、組成物。
【0030】
(項12)
上記項1または2に記載の組成物であって、前記フタル酸エステルがジエチルフタレートまたはエチルフタリルエチルグリコレートである、組成物。
【0031】
(項13)
上記項3または4に記載の組成物であって、前記リン酸エステルがトリエチルホスフェートである、組成物。
【0032】
(項14)
安定化されたリン酸エステル組成物を製造する方法であって、
リン酸エステル100重量部に対して、ポリフェノール系化合物0.00005〜0.005重量部を添加する工程を包含し、
該リン酸エステルにおいて、すべてのリン酸残基がエステルを形成しており、そして、少なくとも1つのリン酸残基がエチルエステルを形成しており、
該ポリフェノール系化合物が、1分子内に1つの芳香族環を有し、該芳香族環が2つ以上のフェノール性ヒドロキシ基を有する、
方法。
【0033】
(項15)
安定化されたフタル酸エステル組成物を製造する方法であって、
フタル酸エステル100重量部に対して、ポリフェノール系化合物0.00005〜0.005重量部を添加する工程を包含し、
該フタル酸エステルにおいて、フタル酸の2つのカルボン酸残基がともにエステルを形成しており、そして、該2つのエステルのうちの少なくとも1つがエチルエステルであり、
該ポリフェノール系化合物が、1分子内に1つの芳香族環を有し、該芳香族環が2つ以上のフェノール性ヒドロキシ基を有する、
方法。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、安定化剤の常識的な使用量を遙かに下回る極少量で、複雑な工程を行うことなく、かつコストの高い1分子内に1つの芳香族環を有し、該芳香族環が2つ以上のフェノール性ヒドロキシ基を有するフェノール系化合物の使用量を最大限に抑えることにより、安価でかつ、安定化された組成物を提供することができる。
【0035】
すなわち、本発明による安定化された組成物は、空気中の酸素との接触などによる酸化劣化、品質劣化が起こり難いため、その組成物が使用される各分野において酸価上昇が原因となって発生する問題を解消することができる。
【0036】
さらに、本発明のリン酸エステル組成物およびフタル酸エステル組成物における安定化剤の含有量が極めて少ないことから、純粋なリン酸エステル組成物またはフタル酸エステル組成物における添加剤としての性能が実質的に損なわれることがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
本発明における安定化された組成物は、分子内にエチルエステル結合を有するフタル酸エステルまたはリン酸エステル100重量部に対し、安定化剤として1分子内にフェノール性ヒドロキシ基を2個以上有するフェノール系化合物を0.00005〜0.005重量部という極微小の割合で添加されてなることを特徴とする。
【0038】
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態の組成物は、樹脂添加剤組成物であって、リン酸エステル100重量部と、ポリフェノール系化合物0.00005〜0.005重量部とを含む。
【0039】
第1の実施形態の組成物中の、リン酸エステルの含有率は、特に限定されないが、好ましくは、90重量%以上であり、より好ましくは95重量%以上であり、さらに好ましくは99重量%以上であり、いっそう好ましくは99.5重量%以上であり、特に好ましくは99.8重量%以上であり、最も好ましくは99.9重量%以上である。
【0040】
第1の実施形態の組成物中の、ポリフェノール化合物の含有量は、リン酸エステル100重量部に対して、0.00005重量部以上であり、好ましくは0.0001重量部以上であり、より好ましくは0.0002重量部以上であり、さらに好ましくは0.0003重量部以上である。また、リン酸エステル100重量部に対して、0.005重量部以下であり、好ましくは0.003重量部以下であり、より好ましくは0.002重量部以下であり、さらに好ましくは0.001重量部以下である。
【0041】
第1の実施形態の組成物は、リン酸エステルと、ポリフェノール系化合物以外に、樹脂添加剤として適切な任意成分を必要に応じて必要量添加することができる。しかしながら、リン酸エステルおよびポリフェノール系化合物以外の成分を含まないことが好ましく、含む場合であっても、そのリン酸エステルおよびポリフェノール系化合物以外の成分の含有量は、できる限り低減することが好ましい。具体的には、リン酸エステルおよびポリフェノール系化合物の合計量が、組成物中の90重量%以上となることが好ましく、より好ましくは95重量%以上であり、いっそう好ましくは99重量%以上であり、さらに好ましくは99.5重量%以上である。特に好ましくは99.8重量%以上である。最も好ましくは99.9重量%以上である。
【0042】
第1の実施形態の組成物において、より純粋なリン酸エステルが求められる場合には、多量の水を含有することは好ましくないが、リン酸エステルの性能に影響を与えない少量であれば、水を含有してもよい。リン酸エステルの工業的な生産においては、少量の水が不可避的に混入するが、そのような不可避的に混入する水は組成物の性能に実質的に影響を与えない。純度の高いリン酸エステルを提供するという点では、水分量は、リン酸エステル100重量部に対して1重量部以下が好ましく、0.2重量部以下がより好ましく、0.1重量部以下がさらに好ましく、0.05重量部以下がいっそう好ましく、0.04重量部以下がひときわ好ましく、0.03重量部以下が特に好ましい。水分量の下限は特にないが、例えば、リン酸エステルの工業的な製法上の制約から、リン酸エステル100重量部に対して0.001重量部以上、0.005重量部以上、0.01重量部以上、または0.02重量部以上の水分が組成物に混入する場合があるが、そのような場合においても本発明の組成物は、充分に有用である。
【0043】
第1の実施形態の組成物は、さらに、必要に応じて、水以外の任意の成分を含み得る。その様な水以外の任意成分としては、リン酸エステルを主成分とする樹脂用添加剤に用いられ得る任意の添加剤などが使用可能である。より純粋なリン酸エステルが求められる場合には、水以外の任意成分が含まれないことが好ましい。含まれる場合であっても、水以外の任意成分は少量に抑制されることが好ましい。例えば、組成物中の10重量%以下であることが好ましく、より好ましくは5重量%以下であり、さらに好ましくは1重量%以下であり、いっそう好ましくは0.5重量%以下であり、特に好ましくは0.2重量%以下であり、最も好ましくは0.1重量%以下である。
【0044】
(第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態の組成物は、リン酸エステル組成物であって、実質的に、リン酸エステル100重量部と、水0.001〜0.1重量部と、ポリフェノール系化合物0.00005〜0.005重量部とからなる。
【0045】
水は、理論的には配合されないことが好ましい場合が多いが、第1の実施形態について説明したとおり、リン酸エステルの工業的な製法上の制約から、工業的には、少量の水分が不可避的に混入する。水分量は、リン酸エステル100重量部に対して、例えば、0.001重量部以上であってもよく、0.005重量部以上であってもよく、0.01重量部以上であってもよく、0.02重量部以上であってもよい。また、水分量は、高純度のリン酸エステルを提供するという点では0.05重量部以下であることが好ましく、0.04重量部以下であることがより好ましく、0.03重量部以下であることがさらに好ましい。
【0046】
第2の実施形態の組成物中の、ポリフェノール化合物の含有量は、リン酸エステル100重量部に対して、0.00005重量部以上であり、好ましくは0.0001重量部以上であり、より好ましくは0.0002重量部以上であり、さらに好ましくは0.0003重量部以上である。また、リン酸エステル100重量部に対して、0.005重量部以下であり、好ましくは0.003重量部以下であり、より好ましくは0.002重量部以下であり、さらに好ましくは0.001重量部以下である。
【0047】
この第2の実施形態の組成物は、実質的に、リン酸エステル、水およびポリフェノール系化合物以外の成分を含まないが、組成物の性能に影響を与えない添加剤などの成分を、組成物の性能に影響を与えないごくわずかな量で配合することは可能である。しかしながら、リン酸エステル、水およびポリフェノール系化合物以外の成分を含まないことが好ましく、含む場合であっても、そのリン酸エステル、水およびポリフェノール系化合物以外の成分の含有量は、できる限り低減することが好ましい。具体的には、リン酸エステル、水およびポリフェノール系化合物の合計量が、組成物中の99重量%以上となることが好ましく、より好ましくは99.5重量%以上であり、いっそう好ましくは99.8重量%以上であり、さらに好ましくは99.9重量%以上である。
【0048】
(第3の実施形態)
本発明の第3の実施形態の組成物は、樹脂添加剤組成物であって、フタル酸エステル100重量部と、ポリフェノール系化合物0.00005〜0.005重量部とを含む。
【0049】
第3の実施形態の組成物中の、フタル酸エステルの含有率は、特に限定されないが、好ましくは、90重量%以上であり、より好ましくは95重量%以上であり、さらに好ましくは99重量%以上であり、いっそう好ましくは99.5重量%以上であり、特に好ましくは99.8重量%以上であり、最も好ましくは99.9重量%以上である。
【0050】
第3の実施形態の組成物中の、ポリフェノール化合物の含有量は、フタル酸エステル100重量部に対して、0.00005重量部以上であり、好ましくは0.0001重量部以上であり、より好ましくは0.0002重量部以上であり、さらに好ましくは0.0003重量部以上である。また、フタル酸エステル100重量部に対して、0.005重量部以下であり、好ましくは0.003重量部以下であり、より好ましくは0.002重量部以下であり、さらに好ましくは0.001重量部以下である。
【0051】
第3の実施形態の組成物は、フタル酸エステルと、ポリフェノール系化合物以外に、樹脂添加剤として適切な任意成分を必要に応じて必要量添加することができる。しかしながら、フタル酸エステルおよびポリフェノール系化合物以外の成分を含まないことが好ましく、含む場合であっても、そのフタル酸エステルおよびポリフェノール系化合物以外の成分の含有量は、できる限り低減することが好ましい。具体的には、フタル酸エステルおよびポリフェノール系化合物の合計量が、組成物中の90重量%以上となることが好ましく、より好ましくは95重量%以上であり、いっそう好ましくは99重量%以上であり、さらに好ましくは99.5重量%以上である。特に好ましくは99.8重量%以上である。最も好ましくは99.9重量%以上である。
【0052】
第3の実施形態の組成物において、より純粋なフタル酸エステルが求められる場合には、多量の水を含有することは好ましくないが、フタル酸エステルの性能に影響を与えない少量であれば、水を含有してもよい。フタル酸エステルの工業的な生産においては、少量の水が不可避的に混入するが、そのような不可避的に混入する水は組成物の性能に実質的に影響を与えない。純度の高いフタル酸エステルを提供するという点では、水分量は、フタル酸エステル100重量部に対して1重量部以下が好ましく、0.2重量部以下がより好ましく、0.1重量部以下がさらに好ましく、0.05重量部以下がいっそう好ましく、0.04重量部以下がひときわ好ましく、0.03重量部以下が特に好ましい。水分量の下限は特にないが、例えば、フタル酸エステルの工業的な製法上の制約から、フタル酸エステル100重量部に対して0.001重量部以上、0.005重量部以上、0.01重量部以上、または0.02重量部以上の水分が組成物に混入する場合があるが、そのような場合においても本発明の組成物は、充分に有用である。
【0053】
第3の実施形態の組成物は、さらに、必要に応じて、水以外の任意の成分を含み得る。その様な水以外の任意成分としては、フタル酸エステルを主成分とする樹脂用添加剤に用いられ得る任意の添加剤などが使用可能である。より純粋なフタル酸エステルが求められる場合には、水以外の任意成分が含まれないことが好ましい。含まれる場合であっても、水以外の任意成分は少量に抑制されることが好ましい。例えば、組成物中の10重量%以下であることが好ましく、より好ましくは5重量%以下であり、さらに好ましくは1重量%以下であり、いっそう好ましくは0.5重量%以下であり、特に好ましくは0.2重量%以下であり、最も好ましくは0.1重量%以下である。
【0054】
(第4の実施形態)
本発明の第4の実施形態の組成物は、フタル酸エステル組成物であって、実質的に、フタル酸エステル100重量部と、水0.001〜0.1重量部と、ポリフェノール系化合物0.00005〜0.005重量部とからなる。
【0055】
水は、理論的には配合されないことが好ましい場合が多いが、第3の実施形態について説明したとおり、フタル酸エステルの工業的な製法上の制約から、工業的には、少量の水分が不可避的に混入する。水分量は、フタル酸エステル100重量部に対して、例えば、0.001重量部以上であってもよく、0.005重量部以上であってもよく、0.01重量部以上であってもよく、0.02重量部以上であってもよい。また、水分量は、高純度のフタル酸エステルを提供するという点では0.05重量部以下であることが好ましく、0.04重量部以下であることがより好ましく、0.03重量部以下であることがさらに好ましい。
【0056】
第4の実施形態の組成物中の、ポリフェノール化合物の含有量は、フタル酸エステル100重量部に対して、0.00005重量部以上であり、好ましくは0.0001重量部以上であり、より好ましくは0.0002重量部以上であり、さらに好ましくは0.0003重量部以上である。また、フタル酸エステル100重量部に対して、0.005重量部以下であり、好ましくは0.003重量部以下であり、より好ましくは0.002重量部以下であり、さらに好ましくは0.001重量部以下である。
【0057】
この第4の実施形態の組成物は、実質的に、フタル酸エステル、水およびポリフェノール系化合物以外の成分を含まないが、組成物の性能に影響を与えない添加剤などの成分を、組成物の性能に影響を与えないごくわずかな量で配合することは可能である。しかしながら、フタル酸エステル、水およびポリフェノール系化合物以外の成分を含まないことが好ましく、含む場合であっても、そのフタル酸エステル、水およびポリフェノール系化合物以外の成分の含有量は、できる限り低減することが好ましい。具体的には、フタル酸エステル、水およびポリフェノール系化合物の合計量が、組成物中の99重量%以上となることが好ましく、より好ましくは99.5重量%以上であり、いっそう好ましくは99.8重量%以上であり、さらに好ましくは99.9重量%以上である。
【0058】
以下、本発明に関し単に「組成物」と記載する場合は、上記第1の実施形態から第4の実施形態の組成物を共通して説明する。また、「本発明のリン酸エステル組成物」と記載する場合は、上記第1の実施形態および第2の実施形態の組成物を共通して説明する。「本発明のフタル酸エステル組成物」と記載する場合は、上記第3の実施形態および第4の実施形態の組成物を共通して説明する。
【0059】
本発明に使用されるリン酸エステルおよびフタル酸エステルを以下に説明する。
【0060】
(リン酸エステル)
本発明において、リン酸エステルとしては、すべてのリン酸残基がエステルを形成しており、そして、そのうちの少なくとも1つのリン酸残基がエチルエステルを形成しているものを用いる。エチルエステルにおけるエチル基は、置換基を有さないエチル基(−C)を意味する。
【0061】
このようなリン酸エステルとしては、エチルエステルを有する任意の公知のリン酸エステルが使用可能である。分子中に単一のリン原子を有する、いわゆるモノマータイプのリン酸エステルであってもよく、複数のリン酸分子が縮合した構造を有する、いわゆる縮合タイプのリン酸エステルであってもよい。好ましくは、モノマータイプのリン酸エステルである。縮合タイプのリン酸エステルの場合、1分子中のリン原子の数は、2〜5程度が好ましく、より好ましくは2〜3である。
【0062】
リン酸エステル中のエチルエステルの数は、1以上であり、好ましくは、2以上であり、より好ましくは3以上である。
【0063】
リン酸エステルの最も好ましい例としては、トリエチルホスフェートが挙げられる。
【0064】
リン酸エステルの組成物中の含有率は、特に限定されないが、好ましくは、90%以上であり、より好ましくは95%以上であり、さらに好ましくは99%以上であり、いっそう好ましくは99.5%以上であり、特に好ましくは99.8%以上であり、最も好ましくは99.9%以上である。
【0065】
(フタル酸エステル)
フタル酸エステルとしては、フタル酸の2つのカルボシキシル基がエステル化されており、そのうちの少なくとも1つがエチルエステルである任意の公知のフタル酸エステルが使用可能である。エチルエステルにおけるエチル基は、置換基を有さないエチル基(−C)を意味する。
【0066】
フタル酸エステルは、オルトフタル酸エステル、イソフタル酸エステル、テレフタル酸エステルのいずれであっても良い。好ましくはオルトフタル酸エステルである。
【0067】
フタル酸エステルの好ましい具体例としてはジエチルフタレート、エチルフタリルエチルグリコレートなどが挙げられる。より好ましくはジエチルフタレートである。最も好ましくはオルトジエチルフタレートである。
【0068】
(ポリフェノール系化合物)
本発明においては、ポリフェノール系化合物を用いる。本願明細書において、ポリフェノール系化合物とは、1分子内に1つの芳香族環を有し、該芳香族環が2つ以上のフェノール性ヒドロキシ基を有する化合物をいう。芳香族環は、縮合環であってもよく、縮合していない環であってもよい。好ましくは、縮合していない環である。また、芳香族環は、ヘテロ原子を含むヘテロ環であってもよく、ヘテロ原子を含まない環であってもよい。ヘテロ環に含まれるヘテロ原子の例としては、酸素、硫黄および窒素などが挙げられる。好ましくは、ヘテロ原子を含まない環である。芳香族は、より好ましくは、縮合していない環である。芳香族環の環を構成する原子の数は、特に限定されないが、好ましくは5員環〜7員環であり、より好ましくは6員環である。最も好ましくは、芳香族環は、ベンゼン環である。
【0069】
芳香族環がベンゼン環であり、かつ2つのフェノール性ヒドロキシ基を有する場合、そのベンゼン環の残りの4つの炭素は、非置換であってもよく、水酸基以外の置換基が導入されていてもよい。非置換であることが好ましい。特に、フェノール性ヒドロキシ基が結合する炭素に隣接する炭素は非置換であることが好ましく、とりわけ、tert−ブチル基のような、フェノール性ヒドロキシ基に対して立体障害をもたらす置換基が存在しないことが好ましい。置換基が導入される場合の置換基の例としては、式:−COOR (Rはアルキル)などが挙げられる。この場合、Rは低級アルキルであることが好ましく、例えば炭素数1〜4のアルキルが好ましく、より好ましくは、プロピルである。
【0070】
芳香族環がベンゼン環であり、かつ2つのフェノール性ヒドロキシ基を有する場合、その2つの水酸基の位置関係は、オルト、メタ、パラのいずれであってもよい。メタまたはパラが好ましい。
【0071】
芳香族環がベンゼン環であり、かつ3つのフェノール性ヒドロキシ基を有する場合、そのベンゼン環の残りの3つの炭素は、非置換であってもよく、水酸基以外の置換基が1つ〜3つ導入されていてもよい。非置換または1置換が好ましい。特に、フェノール性ヒドロキシ基が結合する炭素に隣接する炭素は非置換であることが好ましく、とりわけ、tert−ブチル基のような、フェノール性ヒドロキシ基に対して立体障害をもたらす置換基が存在しないことが好ましい。置換基を有する場合のその置換基の例としては、式:−COOR (Rはアルキル)などが挙げられる。この場合、Rは低級アルキルであることが好ましく、例えば炭素数1〜4のアルキルが好ましく、より好ましくは、プロピルである。
【0072】
芳香族環がベンゼン環であり、かつ3つのフェノール性ヒドロキシ基を有する場合、その3つの水酸基の位置関係は、任意の位置関係であり得る。1つの水酸基が存在する炭素を1位として、2位および3位に水酸基が存在する位置関係、すなわち、連続する3つの炭素にそれぞれ水酸基が存在する位置関係が好ましい。1つの水酸基が存在する炭素を1位として、2位および3位に水酸基が存在する位置関係にある場合、残りの炭素(すなわち4位、5位、6位)は置換されていてもよく、非置換であってもよい(すなわち、ピロガロールまたはピロガロール置換体が使用可能である)。置換される場合には、5位に置換基が導入されることが好ましい。
【0073】
本発明で使用されるポリフェノール系化合物の具体例としては、メチルガレート、エチルガレート、n−プロピルガレート、n−ブチルガレート、イソアミルガレート、ラウリルガレートなどのアルキルガレートと、フロログルシノールおよびピロガロールなどの1分子内に1つの芳香族環を有し、該芳香族環がフェノール性ヒドロキシ基を3個有する化合物、レゾルシン、カテコール、ハイドロキノンなどの1分子内に1つの芳香族環を有し、該芳香族環がフェノール性ヒドロキシ基を2個有する化合物が挙げられる。
【0074】
1分子内にフェノール性ヒドロキシ基を2個以上有するポリフェノール系化合物は一般的にコストが高く、より微量の添加量で安定化を図ることがコスト削減化になるため好ましく、上記化合物の中でもピロガロール、低級アルキルガレート(アルキルが炭素数1〜4)、レゾルシンまたはハイドロキノンが好ましく、ハイドロキノン、ピロガロールまたはn−プロピルガレートがより好ましく、n−プロピルガレートが最も好ましい。
【0075】
ポリフェノール系化合物の使用量は、分子内にエチルエステル結合を有するフタル酸エステルまたはリン酸エステル100重量部に対して0.00005〜0.005重量部が好ましく、0.0001〜0.001重量部がより好ましく、0.0002〜0.0005重量部がさらに好ましい。
【0076】
使用量が少なすぎる場合には、酸価上昇の充分な抑制効果が得られにくい。一方、使用量が過剰に増やしても、更なる酸価上昇抑制効果は期待しにくい。また、使用するポリフェノール系化合物にエステル結合が存在する場合、そのポリフェノール系化合物に微量の酸が混入していたり、そのエステル結合が分解して酸が発生する場合もあるので、ポリフェノール系化合物に起因して組成物全体の酸価が上昇する場合があり得る。この場合、品質上の問題、例えば、組成物が着色するという問題が発生する恐れがある。
【0077】
(製造方法)
本発明の安定化されたリン酸エステル組成物の製造方法は、リン酸エステルにポリフェノール系化合物を添加する工程を包含する。この方法に用いられるリン酸エステルおよびポリフェノールについては、上述したとおりである。また、添加工程については従来公知の任意の添加方法が可能である。
【0078】
本発明の安定化されたフタル酸エステル組成物の製造方法は、フタル酸エステルにポリフェノール系化合物を添加する工程を包含する。この方法に用いられるフタル酸エステルおよびポリフェノールについては、上述したとおりである。また、添加工程については従来公知の任意の添加方法が可能である。
【0079】
(保存方法)
本発明のリン酸エステル組成物は、安定性に優れるため、長期間の保存が可能である。例えば、室温であれば、6ヶ月以上、1年以上または2年以上というような長期間保存する場合に有効である。また例えば、35℃以上、40℃以上、50℃以上、60℃以上、70℃以上、80℃以上、または90℃以上というような高温条件下に晒される場合にも有効である。
【0080】
保存の際の容器としては、通常のリン酸エステルの保存に用いられる容器と同様の容器が使用可能である。例えば、ガラスまたはステンレス製の容器に密封することにより、長期間保管することができる。保存条件としては特に特殊な条件は必要とされず、暗所に保存する必要などはない。
【0081】
本発明のフタル酸エステル組成物は、安定性に優れるため、長期間の保存が可能である。例えば、室温であれば、6ヶ月以上、1年以上または2年以上というような長期間保存する場合に有効である。また例えば、35℃以上、40℃以上、50℃以上、60℃以上、70℃以上、80℃以上、または90℃以上というような高温条件下に晒される場合にも有効である。
【0082】
保存の際の容器としては、通常のフタル酸エステルの保存に用いられる容器と同様の容器が使用可能である。例えば、ガラスまたはステンレス製の容器に密封することにより、長期間保管することができる。保存条件としては特に特殊な条件は必要とされず、暗所に保存する必要などはない。
【0083】
(用途)
本発明のリン酸エステル組成物は、リン酸エステルについて従来から公知の任意の用途に使用され得る。特に樹脂用の難燃剤または可塑剤として好ましく使用され得る。
【0084】
本発明のリン酸エステル組成物は、従来、リン酸エステルが添加されていた任意の樹脂に添加することができる。樹脂は、天然樹脂であってもよく、合成樹脂であってもよい。合成樹脂が好ましい。合成樹脂としては、熱硬化性樹脂であってもよく、熱可塑性樹脂であってもよい。具体的には、ポリウレタン、不飽和ポリエステル樹脂などの熱硬化性樹脂、PC、PC/ABS系アロイ、PVCなどの熱可塑性樹脂等が挙げられるが、特に限定されない。
【0085】
本発明のフタル酸エステル組成物は、フタル酸エステルについて従来から公知の任意の用途に使用され得る。特に樹脂用の可塑剤として好ましく使用され得る。
【0086】
本発明のフタル酸エステル組成物は、従来、フタル酸エステルが添加されていた任意の樹脂に添加することができる。樹脂は、天然樹脂であってもよく、合成樹脂であってもよい。合成樹脂が好ましい。合成樹脂としては、熱硬化性樹脂であってもよく、熱可塑性樹脂であってもよい。具体的には、ポリウレタン、不飽和ポリエステル樹脂などの熱硬化性樹脂、PC、PC/ABS系アロイ、PVCなどの熱可塑性樹脂等が挙げられるが、特に限定されない。
【実施例】
【0087】
本発明を以下の実施例、比較例および応用例、応用比較例によりさらに具体的に説明するが、これらの実施例により本発明の範囲が限定されるものではない。
【0088】
実施例および比較例に用いた化合物および安定化剤を以下に示す。
(A)化合物
化合物a:トリエチルホスフェート(大八化学工業株式会社製、商品名:TEP)
【0089】
【化1】


化合物b:ジエチルフタレート(大八化学工業株式会社製、商品名:DEP)
【0090】
【化2】


化合物c:ビス(ブチルジエチレングリコール)アジペート(大八化学工業株式会社製、商品名:BXA)
【0091】
【化3】


化合物d:ビス(メチルジエチレングリコール)アジペート(大八化学工業株式会社製、商品名:MXA)
【0092】
【化4】


化合物e:トリス(ブトキシエチル)ホスフェート(大八化学工業株式会社製、商品名:TBXP)
【0093】
【化5】


(B)安定化剤
安定化剤a:n−プロピルガレート
【0094】
【化6】


安定化剤b:ピロガロール
【0095】
【化7】


安定化剤c:ハイドロキノン
【0096】
【化8】


安定化剤d:2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール
【0097】
【化9】


安定化剤e:ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリストールジホスファイト
【0098】
【化10】


(1)長期安定性試験による評価
内容量50mlの共栓付試験管に各化合物40mlと所定量の安定化剤を加え、溶解後35℃の恒温槽に6ヶ月間保存した。その後、組成物の酸価および水分含有量を測定し、酸価上昇の有無を確認した。
【0099】
(2)促進耐熱テストによる安定性の評価
内容量50mlの共栓付試験管に各化合物40mlと所定量の安定化剤を加え、溶解後高温の恒温槽に一定期間保存した。その後、組成物を室温まで冷却した後、組成物の酸価および水分含有量を測定し、酸価上昇の有無を確認した。以降、促進テストと記す。
【0100】
酸価および水分含有量の測定条件を以下に示す。
【0101】
(a)酸価測定条件
未変性エタノール50mlにフェノールフタレイン指示薬を2〜3滴加え、1/10N−NaOH水溶液で中和後、組成物20〜30gを加え、更に1/10N−NaOH水溶液で中和滴定を行い、酸価を算出した。
酸価(KOHmg/g)=1/10N−NaOH滴定量(ml)×5.61/組成物量(g)
(b)水分含有量測定条件
水分測定装置 :京都電子工業株式会社カールフィッシャ水分計MKS-210
溶 剤 :三菱化学株式会社 脱水溶剤ML
カールフィッシャ試薬:シグマ・アルドリッチ社 ハイドラナール・コンポジット5
滴定セル内に脱水溶剤を入れ、カールフィッシャ試薬で無水状態とした後、組成物2〜3gを速やかに計量してセル内へ入れ、再度カールフィッシャ試薬で終点まで滴定した。
【0102】
水分含有量(%)=カールフィッシャ試薬滴定量(ml)×カールフィッシャ試薬ファクター(mg/ml)/組成物量(g)/1000×100
実施例1
化合物a100重量部に対し、安定化剤aを0.0003重量部添加した組成物について、上記(1)長期安定性の評価を行った。得られた結果を表1に示す。
【0103】
表中、部は重量部を示す。
【0104】
実施例2
安定化剤aの添加量を0.0001重量部に変えたこと以外は実施例1と同様にして長期安定性の評価を行った。得られた結果を表1に示す。
【0105】
実施例3
初期酸価が高い化合物aを使用したこと以外は実施例1と同様にして長期安定性の評価を行った。得られた結果を表1に示す。
【0106】
比較例1
安定化剤を添加しないこと以外は実施例1と同様にして長期安定性の評価を行った。得られた結果を表1に示す。
【0107】
【表1】


表1の結果から、1分子内にフェノール性ヒドロキシ基を3個有するフェノール系化合物である安定化剤a(n−プロピルガレート)を添加した組成物は、添加しなかった組成物(比較例1)に比べ、僅か0.0001〜0.0003重量部という極少量の添加で顕著に酸価上昇を防止していることがわかる。また、初期酸価が高い化合物を使用した場合(実施例3)であっても酸価はほとんど上昇しておらず、顕著な効果が得られていることがわかる。
【0108】
実施例4
化合物a100重量部に対し、安定化剤aを0.0003重量部添加した組成物について、上記(2)促進テストによる評価を行った。得られた結果を表2に示す。
【0109】
表中、部は重量部を示す。
【0110】
実施例5
安定化剤aの添加量を0.0001重量部に変えたこと以外は実施例4と同様にして促進テストによる評価を行った。得られた結果を表2に示す。
【0111】
実施例6
初期酸価が高い化合物aを使用したこと以外は実施例4と同様にして促進テストによる評価を行った。得られた結果を表2に示す。
【0112】
実施例7
安定化剤aを安定化剤bに代えたこと以外は実施例4と同様にして促進テストによる評価を行った。得られた結果を表2に示す。
【0113】
実施例8
安定化剤aを安定化剤cに代えたこと以外は実施例4と同様にして促進テストによる評価を行った。得られた結果を表2に示す。
【0114】
実施例9
化合物aを化合物bに代えたこと以外は実施例4と同様にして促進テストによる評価を行った。得られた結果を表2に示す。
【0115】
比較例2
安定化剤を添加しないこと以外は実施例4と同様にして促進テストによる評価を行った。得られた結果を表2に示す。
【0116】
比較例3
安定化剤を添加しないこと以外は実施例9と同様にして促進テストによる評価を行った。得られた結果を表2に示す。
【0117】
比較例4〜5
化合物a100重量部に対し、表2に記載の量の各種安定化剤を添加して促進テストによる評価を行った。得られた結果を表2に示す。
【0118】
比較例6〜9
化合物c〜e100重量部に対し、表2に記載の量の安定化剤aを添加して促進テストによる評価を行った。得られた結果を表2に示す。
【0119】
比較例10
化合物e100重量部に対し安定化剤を添加しないで促進テストによる評価を行った。得られた結果を表2に示す。
【0120】
比較例11
安定化剤aの添加量を0.01重量部に変えたこと以外は実施例4と同様にして促進テストによる評価を行った。得られた結果を表2に示す。
【0121】
【表2】


実施例1と実施例4、実施例2と実施例5、実施例3と実施例6、および比較例1と比較例2における酸価の数値を対比させると、促進テスト(2)による評価は長期安定性試験(1)と同等の評価ができていることがわかる。
【0122】
また、安定化剤dやeを添加した組成物(比較例4および5)では実施例よりも多量の安定化剤を用いても酸価上昇を抑制する効果がないことがわかる。フェノール性水酸基を1つしか有していない安定化剤dは、酸価上昇を防ぐ効果が乏しい。
【0123】
同様に、分子内にエチルエステル結合を有する化合物aに対し、1分子内にフェノール性ヒドロキシ基を2個以上有する安定化剤を用いた組成物であっても、酸価を有する安定化剤を使用した場合には、その添加量が多すぎると(例えば、比較例11)、酸価上昇の抑制効果は認められるものの、促進テスト前の酸価が結果的に高くなって着色が認められ、商品の価値を低下させてしまう。
【0124】
一方、分子内にエチルエステル結合を有さない化合物を使用した組成物(比較例6〜10)では酸価上昇の抑制効果は認められなかった。比較例9においては安定化剤の添加量を0.01重量部まで増やしたが、比較例11と同様に、安定化剤自身が有する酸価の影響を受けて、結果的に0.0003重量部添加時よりも寧ろ促進テスト前の酸価が高くなり、着色した。
【0125】
また、比較例8では酸価の上昇の度合いの絶対値が小さいが、安定化剤aを添加していない比較例10の酸価の上昇の度合いとほぼ同じであることから、化合物eに対しては安定化剤aの酸価上昇を抑制する効果はない。
【0126】
この結果から、本発明における酸価上昇の抑制効果は、エチルエステル結合を有する化合物に対して有効な特異な効果である。
【0127】
応用例、比較応用例
応用例および比較応用例において用いた配合成分を下記する。
【0128】
(a)リン化合物
TEP1:TEPに対してn−プロピルガレートが0.0003重量部添加されており、酸価が0.009KOHmg/gであるリン化合物
TEP2:安定化剤の未添加品TEPであり、経時変化により、酸価が0.195KOHmg/gまで上昇したリン化合物
(b)ポリオール成分
多官能ポリプロピレングリコールタイプのポリエーテルポリオール(数平均分子量400、水酸基価:460KOHmg/g)(三井武田ケミカル社製、商品名:SU−464)
(c)ポリイソシアネート成分
ジフェニルメタン4,4’−ジイソシアネート(三井武田ケミカル株式会社製、商品名:コスモネートM−200)
(d)アミン触媒成分
N,N,N’,N’’,N’’−ペンタメチルジエチレントリアミン(花王株式会社製、商品名:カオライザーNo.3)
(e)シリコーン整泡剤成分
SH−193(東レ・ダウコーニングシリコーン株式会社製、商品名:SH−193)
(f)発泡剤成分

以下の応用例および比較応用例で得られた樹脂組成物の物性を、下記の試験に基づいて測定した。
II.硬質ポリウレタンフォーム用試験
(1)燃焼試験用試験片
試験方法:JIS A−9511(燃焼試験B法)に準拠
試験片:長さ150mm、幅50mm、厚さ13mm
(2)曲げ試験用試験片
試験方法:JIS K−7221−1に準拠
試験片:長さ120mm、幅25mm、厚さ20mm
(3)圧縮試験用試験片
試験方法:JIS K−7220に準拠
試験片:長さ50mm、幅50mm、厚さ30mm
(硬質ポリウレタンフォームの作製)
以下のようなワンショット法により硬質ポリウレタンフォームを作製した。
まず、ポリオール、シリコーン整泡剤、アミン触媒、水およびリン化合物を配合し、3500rpmの回転数を持つ攪拌機で1分間攪拌して均一に混和した。次いで、このプレミックス混合物にジイソシアネートを加えて、3500rpmで5〜7秒間攪拌後、混合物を発泡容量に適した立方体の形状を有するボール箱に注いだ。数秒間の後、発泡現象が起こり数分後に最大の容積に達した。得られた硬質発泡体は、茶褐色で通気性を有しないものであった。
【0129】
上記の方法で得られた硬質ポリウレタンフォームにおいて、プレミックス混合物をボール箱に注いでから最大の容積まで達した時間(ライズタイム(RT))を測定し、試験規格に合致する試験片を切り取り、恒温恒湿器で24時間以上保存した後、密度(JIS K−6400)〔kg/m〕を測定した。
【0130】
結果を硬質ポリウレタンフォームの配合成分とその割合と共に下記表3に示す。
【0131】
【表3】


表3に記載の、安定化剤としてn−プロピルガレートが0.0003重量部添加された低酸価のリン化合物(TEP1)を使用した応用例1は、リン化合物を使用していない比較応用例1と比較しても、他の諸物性に悪影響を与えることなく、優れた難燃性を有することがわかる。
【0132】
一方、経時変化により酸価が上昇してしまったリン化合物(TEP2)を使用した比較応用例2では、フォームを作成することができなかった。原因としては、TEP1の酸価と比較すると、TEP2の酸価が大きすぎるために触媒が活性を失い、その結果フォームを作成することができなかったことなどが類推される。
【産業上の利用可能性】
【0133】
本発明によれば、安定性に優れたリン酸エステル組成物が提供される。本発明のリン酸エステル組成物は、樹脂用添加剤として有用である。特に樹脂用の難燃剤および可塑剤として有用である。
【0134】
本発明によれば、また、安定性に優れたフタル酸エステル組成物が提供される。本発明のフタル酸エステル組成物は、樹脂用添加剤として有用である。特に樹脂用の可塑剤として有用である。
【0135】
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、この実施形態に限定して解釈されるべきものではない。本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂添加剤組成物であって、
フタル酸エステル100重量部と、
ポリフェノール系化合物0.00005〜0.005重量部と
を含み、
該フタル酸エステルにおいて、フタル酸の2つのカルボン酸残基がともにエステルを形成しており、そして、そのうちの少なくとも1つのカルボン酸残基がエチルエステルを形成しており、
該ポリフェノール系化合物が、1分子内に1つの芳香族環を有し、該芳香族環が2つ以上のフェノール性ヒドロキシ基を有する、
組成物。
【請求項2】
フタル酸エステル組成物であって、実質的に、
フタル酸エステル100重量部と、
水0.001〜0.1重量部と、
ポリフェノール系化合物0.00005〜0.005重量部と
からなり、
該フタル酸エステルにおいて、フタル酸の2つのカルボン酸残基がともにエステルを形成しており、そして、そのうちの少なくとも1つのカルボン酸残基がエチルエステルを形成しており、
該ポリフェノール系化合物が、1分子内に1つの芳香族環を有し、該芳香族環が2つ以上のフェノール性ヒドロキシ基を有する、
フタル酸エステル組成物。
【請求項3】
樹脂添加剤組成物であって、
リン酸エステル100重量部と、
ポリフェノール系化合物0.00005〜0.005重量部と
を含み、
該リン酸エステルにおいて、すべてのリン酸残基がエステルを形成しており、そして、そのうちの少なくとも1つのリン酸残基がエチルエステルを形成しており、
該ポリフェノール系化合物が、1分子内に1つの芳香族環を有し、該芳香族環が2つ以上のフェノール性ヒドロキシ基を有する、
組成物。
【請求項4】
リン酸エステル組成物であって、実質的に、
リン酸エステル100重量部と、
水0.001〜0.1重量部と、
ポリフェノール系化合物0.00005〜0.005重量部と
からなり、
該リン酸エステルにおいて、すべてのリン酸残基がエステルを形成しており、そして、そのうちの少なくとも1つのリン酸残基がエチルエステルを形成しており、
該ポリフェノール系化合物が、1分子内に1つの芳香族環を有し、該芳香族環が2つ以上のフェノール性ヒドロキシ基を有する、
組成物。
【請求項5】
請求項1に記載の組成物であって、前記フタル酸エステルの含有率が、前記組成物中の90重量%以上である、組成物。
【請求項6】
請求項3に記載の組成物であって、前記リン酸エステルの含有率が、前記組成物中の90重量%以上である、組成物。
【請求項7】
請求項1から4のいずれかに記載の組成物であって、前記ポリフェノール系化合物が、1分子内に1つの芳香族環を有し、該芳香族環が2つまたは3つのフェノール性ヒドロキシ基を有する、組成物。
【請求項8】
前記芳香族環がベンゼン環である、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
請求項1から4のいずれかに記載の組成物であって、前記ポリフェノール系化合物が、ハイドロキノン、レゾルシン、ピロガロールまたは低級アルキルガレート(アルキルの炭素数は1〜4)である、組成物。
【請求項10】
請求項1から4のいずれかに記載の組成物であって、前記ポリフェノール系化合物が、ハイドロキノン、ピロガロールまたはn−プロピルガレートである、組成物。
【請求項11】
請求項1から4のいずれかに記載の組成物であって、前記ポリフェノール系化合物が、n−プロピルガレートである、組成物。
【請求項12】
請求項1または2に記載の組成物であって、前記フタル酸エステルがジエチルフタレートまたはエチルフタリルエチルグリコレートである、組成物。
【請求項13】
請求項3または4に記載の組成物であって、前記リン酸エステルがトリエチルホスフェートである、組成物。
【請求項14】
安定化されたリン酸エステル組成物を製造する方法であって、
リン酸エステル100重量部に対して、ポリフェノール系化合物0.00005〜0.005重量部を添加する工程を包含し、
該リン酸エステルにおいて、すべてのリン酸残基がエステルを形成しており、そして、少なくとも1つのリン酸残基がエチルエステルを形成しており、
該ポリフェノール系化合物が、1分子内に1つの芳香族環を有し、該芳香族環が2つ以上のフェノール性ヒドロキシ基を有する、
方法。
【請求項15】
安定化されたフタル酸エステル組成物を製造する方法であって、
フタル酸エステル100重量部に対して、ポリフェノール系化合物0.00005〜0.005重量部を添加する工程を包含し、
該フタル酸エステルにおいて、フタル酸の2つのカルボン酸残基がともにエステルを形成しており、そして、該2つのエステルのうちの少なくとも1つがエチルエステルであり、
該ポリフェノール系化合物が、1分子内に1つの芳香族環を有し、該芳香族環が2つ以上のフェノール性ヒドロキシ基を有する、
方法。

【公開番号】特開2008−303252(P2008−303252A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−149809(P2007−149809)
【出願日】平成19年6月5日(2007.6.5)
【出願人】(000149561)大八化学工業株式会社 (17)
【Fターム(参考)】