説明

安定化炭酸ランタン組成物

単糖類又は二糖類の安定剤を含む安定化炭酸ランタン組成物を開示する。治療的有効量の安定化炭酸ランタン製剤を含む医薬品組成物を投与することにより、高リン血症を有する患者を治療することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単糖類又は二糖類の安定剤を含む安定化炭酸ランタン組成物と、治療的有効量の安定化炭酸ランタン組成物とを含む医薬品組成物を投与することによる高リン血症を有する患者の治療に関する。
【背景技術】
【0002】
本出願は、2005年11月9日出願の米国特許出願第11/272,569号に係る出願の優先権を主張し、前記出願は言及されることによりその全体がここに援用される。
【0003】
高リン血症は、慢性腎不全や慢性腎臓病(CKD)の患者に特有の問題である。腎臓透析治療中の末期の腎臓病(ESRD)患者の約70%は、高リン血症の治療を必要とする。この疾患は深刻な骨の疾患と、肌と主要な臓器の転移性石灰化とを引き起こす可能性があり、著しい疾病率と死亡率に結びつく。従来の透析は血中のリン酸塩濃度を減少させることができず、そのため濃度はやがて増加する。上昇したリン酸塩濃度は、食事制限とリン酸塩結合剤とを併用して治療される。
【0004】
慢性腎不全の患者のもう一つの問題は、二次的な副甲状腺機能亢進症である。腎不全の患者において、二次的な副甲状腺機能亢進症を避けて治療することも重要である。
【0005】
炭酸ランタンの特定の形態が、腎不全患者の高リン血症を治療するために用いられてきた(例えば、日本特許第1876384号公報を参照)。
【0006】
本発明の出願人により所有される米国特許第5,968,976号は、高リン血症を治療するための炭酸ランタンの特定の水和物の医薬品組成物の製造と使用を述べている。
【0007】
しかしながら、炭酸ランタンは水酸化炭酸ランタンに分解しやすい。この過程は、湿度と熱により促進される。現行の規定所要量が患者に投与する際の検出可能な脱炭酸化を除外するものであるために、当技術分野において、この分解を防ぐことが望まれている。複雑な糖類(例えば、コーンスターチやβ−シクロデキストリン)は炭酸ランタンの分解を抑制しないものの、単糖類又は二糖類が炭酸ランタンの分解を著しく抑制するという驚くべき発見に本発明は基づいている。炭酸ランタンの安定化組成物を医薬品の製造に用い、高リン血症患者を治療するために使用することができる。
【発明の開示】
【0008】
本発明に基づき、xが0から10の値である、一般式La(CO・xHOを有する治療的有効量の炭酸ランタンと、少なくとも1種類の薬学的に許容可能な単糖類又は二糖類の安定剤とを含み、前記単糖類又は二糖類が組成物の全質量の少なくとも約1質量%の量で存在する、安定化炭酸ランタン組成物を提供する。以下に示すように、慢性腎臓病(CKD)の危険性があり、ステージ1からステージ5のCKDを有する高リン血症に罹患しやすいか罹患している患者、CKDに付随する軟部組織石灰化に罹患しやすいか罹患している患者、二次的な副甲状腺機能亢進症に罹患しやすいか罹患している患者、又はリン酸塩の吸収を制御する必要があるまだ発見されていない他の疾患に罹患しやすいか罹患している患者の治療に本発明を適用できる。本出願と同日に出願された「ランタン化合物を用いた慢性腎臓病(CKD)患者の治療」という表題の米国特許出願第11/272,563号に記載されている患者の治療にも本発明を適用できる。
【0009】
本発明の一実施態様であるESRD患者の高リン血症を治療するためのチュアブル錠剤の形態の炭酸ランタン(シャイア・ファーマシューティカルズ、ペンシルヴァニア州ウェインからフォスレノール(登録商標)として入手可能)が、FDAにより承認されており、現在市販されている。
【0010】
以下の詳細な記載を参照することにより、本発明に係る上記の特徴と他多くの付随する利点がより理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】約4−5モル当量の水を含有する十分に純粋な炭酸ランタン水和物のXRPD(粉末X線回折)パターンである。
【図2】十分に純粋なコーンスターチ、β−シクロデキストリン、デキストレート、D−ソルビトール、D−マンニトール、及び無水炭酸ランタンのXRPDパターンである。
【図3】60℃/95%RH(相対湿度)で、0、1、2、3、4、及び7日後の炭酸ランタン水和物のXRPDパターンである。
【図4】60℃/65%RHで、0、1、2、3、4、7、14及び21日後の炭酸ランタン水和物のXRPDパターンである。
【図5】60℃/65%RHで、0、1、2、3、4、7及び14日後の炭酸ランタン水和物/D−マンニトールの1:1(質量)混合物のXRPDパターンである。
【図6】60℃/65%RHで、0、1、2、3、4、7、14及び21日後の炭酸ランタン水和物/D−ソルビトールの1:1(質量)混合物のXRPDパターンである。
【図7】60℃/65%RHで、0、1、2、3、4、7、14及び21日後の炭酸ランタン水和物/デキストレートの1:1(質量)混合物のXRPDパターンである。
【図8】60℃/95%RHで、0、1、2、3、4、7及び14日後の炭酸ランタン水和物/β−シクロデキストリンの1:1(質量)混合物のXRPDパターンである。
【図9】60℃/95%RHで、0、1、2、3、4、7及び14日後の炭酸ランタン水和物/コーンスターチの1:1(質量)混合物のXRPDパターンである。
【図10】60℃/95%RHで、0、1、2、3、4及び7日後の無水炭酸ランタン/D−マンニトールの1:1(質量)混合物のXRPDパターンである。
【図11】60℃/95%RHで、0、1、2、3、4、7及び14日後の炭酸ランタン水和物/無水ラクトースの1:1(質量)混合物のXRPDパターンである。
【図12】60℃/95%RHで、0、1、2、3、4、7及び14日後の炭酸ランタン水和物/ラクトース一水和物の1:1(質量)混合物のXRPDパターンである。
【図13】60℃/95%RHで、0、1、2、3、4、7及び14日後の炭酸ランタン水和物/微結晶性セルロースの1:1(質量)混合物のXRPDパターンである。
【図14】60℃/95%RHで、0、1、2、3、4、7及び14日後の炭酸ランタン水和物/D−マンニトールの96:4(質量)混合物のXRPDパターンである。
【図15】25℃/60%RH、30℃/60%RH、及び40℃/75%RHで、最長24ヶ月の、非製剤化炭酸ランタン水和物と、約50%(質量)のデキストレートを含む製剤化炭酸ランタン水和物とで生じる水酸化炭酸ランタンへの分解を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
[5.1.一般的定義]
本明細書で用いられるところの「治療する」、「治療すること」又は「治療」は、高リン血症、慢性腎臓病(CKD)、深刻な骨の疾患、軟部組織石灰化、二次的な副甲状腺機能亢進症、又はリン酸塩の吸収を制御する必要があるその他の未発見の疾患の予防、減少、改善、部分的又は完全な緩和、又は治癒を意味している。
【0013】
さらに、本明細書で用いられるところの「患者」は、哺乳類(例えば、犬や猫のような飼育される動物のような獣医学のあらゆる患者)又は人間の患者をいう。
【0014】
本明細書で用いられるところの「約」又は「およそ」は、例えば、測定システムの限界のような値の測定方法又は決定方法に部分的に依存する、当業者により決定された特定の個々のパラメータの許容範囲内であることを意味している。例えば、「約」は最高で20%までの範囲の任意の値を指すことができる。また、特に生物系又は生体内作用に関して、「約」は値の10倍以内、好ましくは値の5倍以内、さらに好ましくは値の2倍以内を意味することができる。
【0015】
本明細書で用いられるところの「デキストレート」は大部分(例えば、乾燥物換算で約93.0%以上99.0%以下)がデキストロースで、スターチの酵素加水分解制御の結果として生じる精製された糖類の混合物をいう。デキストレートは、無水又は水和物の場合がある。「デキストレート」は、ナショナル・フォーミュラリー・21(2003;カナダ、トロントでウェブコム・リミテッドにより印刷された)中の公式研究論文で定義されるデキストレートをいう。デキストレートは、エムデックス(登録商標)としてJRSファーマ(ニューヨーク州パターソン)から入手可能である。
【0016】
本明細書で用いられるところの「安定化組成物」又は「安定化炭酸ランタン組成物」は、(無水炭酸ランタンを含む、あらゆる水和状態の炭酸ランタンの)炭酸ランタンと一つ以上の単糖類又は二糖類とを含む組成物をいう。安定化組成物において、単糖類、二糖類、又はその組み合わせの総量は、好ましくは少なくとも約1質量%である。炭酸ランタンのみ又は他の物質を含まない場合に比べ、より遅い速度で、安定化炭酸ランタン組成物中の炭酸ランタンは水酸化炭酸ランタンへと分解する。例えば、60℃、相対湿度95%で7日経過後に、少なくとも約4%の単糖類、二糖類、又はその組み合わせを用いて安定化された炭酸ランタン組成物中の炭酸ランタンは、水酸化炭酸ランタンへと(現在の分析技術では)検出可能なほど分解しない。その一方で、同条件下において、十分に純粋な炭酸ランタンは、わずか1日後に水酸化炭酸ランタンへと分解する。
【0017】
本明細書で用いられるところの「薬学的有効量」又は「治療的有効量」は、(i)患者の血清リン酸塩濃度の減少が検出できるほど十分な、又は(ii)最低でも患者の血清リン酸塩濃度をほぼ一定に保つのに十分な炭酸ランタンの量又は投薬量をいう。
【0018】
本明細書で用いられるところの「炭酸ランタン」は、無水炭酸ランタンとあらゆる水和形態の炭酸ランタンを包含する。
【0019】
本明細書で用いられるところの「パーセント」又は「%」は、全組成物の質量パーセンテージをいう。
【0020】
本明細書で用いられるところの「十分に純粋な炭酸ランタン」は、無水に換算して純度約90%以上の炭酸ランタンをいう。
【0021】
高リン血症か、CKDか、CKDに付随する軟部組織石灰化か、二次的な副甲状腺機能亢進症かの危険性がある又は有する患者の「症状」は、患者によって経験されるあらゆる機能的又は構造的な異常であり、例えば5.6節以降に記載される腎不全を示す場合がある。異常の中でも、例えば、約1.6mg/dLを超えたクレアチン濃度、約20mg/dLを超えた血中尿素窒素(BUN)、約4.5mg/dLを超えた血中リン酸塩濃度、尿中の検出可能な量の血液、約100mg/dLを超えた尿タンパク濃度、約100mg/dLを超えた尿アルブミン濃度、約150pg/dLを超えた血中のインタクト副甲状腺ホルモン(PTH)濃度、又は約90mL/分/1.73m未満の糸球体濾過量(GFR)のうち1つ又は2つ以上の症状は、CKDの危険性又は存在を示す可能性がある。
【0022】
[5.2.炭酸ランタン]
本発明の安定化組成物は、xが0から10までの値である一般式La(CO・xHOを有する、炭酸ランタンを含んでもよい。好ましくはxが3から8までの値であり、望ましくはxが3から6までの値である。最も好ましくは、xが約4と5の間の平均値である。炭酸化合物の水和レベルは、熱重量分析(TGA)や粉末X線回折(XRPD)のような当技術分野で既知の方法で測定できる。
【0023】
炭酸ランタンは、下記のような脱炭酸化により、水酸化炭酸ランタンへと分解する傾向がある。水酸化炭酸塩生成物は、炭酸ランタンのカルボニル部分への求電子攻撃又は求核攻撃の結果として生じる。この過程は湿度や熱で促進され、自己触媒であるかのように見える。従って、炭酸ランタン製剤中のごく少量の水酸化炭酸ランタンでさえ、急速で過剰の分解を引き起こす。さらに、上述のように、現行の規定所要量が患者に投与する際の検出可能な脱炭酸化を除外するものであるために、この分解を防ぐことが当技術分野において必要とされる。結果として、分解を排除するか分解を十分に抑制する製剤が非常に望まれている。
【0024】
【化1】

【0025】
本発明によれば、炭酸ランタン組成物中に1種類以上の単糖類又は二糖類が少なくとも約1質量%存在することで、炭酸ランタンの分解が著しく抑制される。驚いたことに、前記安定化剤の添加は、(もししているならば)水和の程度にかかわらず、炭酸ランタンの分解を最小限にするのに効果的である。例えば、非製剤化炭酸ランタンは室温で約9−12ヶ月以内に水酸化炭酸ランタンへと分解するが、単糖類又は二糖類(約70質量%)の存在下では、標準大気状態下で3年間又はそれ以上の間、検出可能な分解は全く起こらない。
【0026】
あらゆる理論にとらわれることなく、本発明の単糖類及び二糖類安定化剤の安定化効果は、前記単糖類及び二糖類安定化剤において−OHアルコール基が反応性を有しているためと考えられる;その一方で、多糖類(多糖類において、アルコール基はさらに反応して単糖類単位に結合する)はこのような安定化する特性を示さない。単糖類又は二糖類中の反応性があるアルコール基と水が優先的に反応し、炭酸ランタンのカルボニル基はそのままの状態で残るため、非高リン血症剤は分解されない。
【0027】
水酸化炭酸ランタン中の炭酸ランタンの分解は、分解した可能性がある炭酸ランタン試料の粉末X線回折(XRPD)パターンを調べることにより観測できる。試料パターンにおいて、水酸化炭酸ランタンに対応する観測可能なピークの存在は分解を示しており、観測可能なピークがないことは検出可能な分解がないことを示している。実施例5は、水酸化炭酸ランタン中の炭酸ランタンの分解を観測するためのXRPDパターンの使用を説明している。
【0028】
さらに、本発明の利点は安定化炭酸ランタン製剤を冷蔵保存する必要が少なくなるために、安価な保管コストと取り扱いコストとなることを含むが、これに限定されない。また、安定化製剤が製品の保管期間を延ばし、結果として、期限が切れた製品在庫による廃棄物が減少する。
【0029】
本明細書で開示される製剤の他の利点は、親出願(米国特許出願第10/926,330号)に見受けられ、炭酸ランタンを単糖類又は二糖類とともに処方することで、製剤の味を良くし、液体を含まないチュアブル形態で製剤を投与できる。
【0030】
[5.3.単糖類と二糖類の安定化剤]
本発明の安定化組成物は、少なくとも1種類の単糖類又は二糖類を含む。単糖類、二糖類、又はその混合物は総量が少なくとも組成物の約1質量%、好ましくは組成物の約4質量%から90質量%まで、さらに好ましくは組成物の約30質量%から約70質量%までで存在する。
【0031】
本発明の製剤において安定化剤として使用するのに適した単糖類は、D型かL型の、グリセルアルデヒド、エリトロース、トレオース、リボース、リキソース、キシロース、アラビノース、アロース、タロース、グロース、マンノース、グルコース(例えば、コーンシロップの形態で)、イドース、ガラクトース、アルトロース、ジヒドロキシアセトン、エリトルロース、リブロース、キシロケトース(xyloketose)、プシコース、タガトース、ソルボース、フルクトース、ソルビトール、キシリトール、イノシトール、エリトリトール、及びマンニトールとその誘導体とこれらに類するものとを含むが、これらに限定されない。本発明で用いられるところの単糖類は(α型かβ型かの)環状か非環状かの場合があり、混合物として本発明で使用することができる。他の適した単糖類は、デキストロース(フィッシャー・サイエンティフィック(ニューハンプシャー州ハンプトン)から入手可能なセレロース(登録商標)のようなD−グルコース)を含む。
【0032】
本発明の製剤において安定化剤として使用するのに適した二糖類は、スクロース(例えば、メリーランド州ボルティモアのドミノ・フーズから入手可能なジ−パック(登録商標)、JRS・ファーマ(ニューヨーク州パターソン)から入手可能なシュガータブ(登録商標)、粉砂糖、又はNutabの形態で)、ラクトース(無水ラクトースとラクトース一水和物を含む)、マルトース、イソマルトース、セロビオース、トレハロース、マルチトール、(ロケット(フランス、レトレム)から入手可能なリカシン(登録商標)の形態で)、イソマルト、ラクチトール、及びこれらの混合物と、誘導体と、類するものとを含むが、これらに限定されない。また、本発明の二糖類はグリコシド結合で結合する2つの単糖類のあらゆる組み合わせを含む。二糖類はホモ二糖類(すなわち、同じ種類の単糖類2つからなる)かヘテロ二糖類(すなわち、異なる種類の単糖類2つからなる)かの場合がある。さらに、単糖類と二糖類を同じ製剤中で使用してもよい。
【0033】
他の適する単糖類と二糖類がレミントン:The Science and Practice of Pharmacy(20thEdition, A.R. Gennaro editor, LippincottBaltimore, MD:Williams and Wilkins, 2000)409-413ページ、及びBiochemistry(2nd Edition, Voet and Voet, New York:John Wiley & Sons, Inc., 1995)251-276ページ中に見られる。また、本発明の製剤において、単糖類及び/又は二糖類を含む加水分解スターチを使用することができる。
【0034】
好ましくはデキストレート又はソルビトールを製剤の約4質量%から約90質量%の好適な量で、単糖類又は二糖類安定化剤として使用する。本発明の製剤の好適な実施態様において、デキストレートを製剤の約70質量%の量で安定化剤として組み込む。他の本発明の製剤の好適な実施態様において、ソルビトールを製剤の約30質量%の量で安定化剤として組み込む。
【0035】
[5.4.賦形剤]
本発明の安定化製剤は、少なくとも1種類の賦形剤をさらに含む場合がある。本発明で投与される製剤において用いられる賦形剤は、腎臓障害のある患者に経口投与するのに適するものである必要がある。賦形剤は希釈剤と、結合剤と、潤滑剤/流動促進剤とを含む場合がある。崩壊剤と、着色剤と、香味料/甘味料といった他の物質を製剤に加えてもよい。
【0036】
希釈剤は例えば、硫酸カルシウム二水和物、オリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、エリトリトール、ポリデキストロース、デキストリン、スターチ、マルトデキストリン、乳酸カルシウム三水和物、微結晶性セルロース(GFS・ケミカルズ(オハイオ州パウエル)から入手可能なアビセル(登録商標)のような)、加水分解シリアル固形物(マルトロンズ又はMor−Rex(商標))、アミロース、又はグリシンから選択可能である。また、希釈剤は前記の単糖類安定化剤と二糖類安定化剤とを含む場合がある。1種類以上の希釈剤が製剤中に含まれてもよい。希釈剤の総量は、組成物の約1質量%から約90質量%、好ましくは組成物の約4質量%から約90質量%、最も好ましくは組成物の約40質量%から約80質量%である。
【0037】
潤滑剤は例えば、ステアリン酸マグネシウム、タルク、ポリエチレングリコール、シリカ、コロイド状無水シリカ、コロイド状二酸化ケイ素、硬化植物性油脂、ベヘン酸グリセリン、又はモノステアリン酸グリセリンから選択可能である。1種類以上の潤滑剤が製剤中に含まれてもよい。潤滑剤の総量は組成物の約0.1質量%から約6.0質量%、好ましくは組成物の約0.1質量%から約5.0質量%、最も好ましくは組成物の約0.1質量%から約4.0質量%である。
【0038】
流動促進剤は例えば、シリカ、コロイド状無水シリカ、コロイド状二酸化ケイ素、又はタルクから選択可能である。1種類以上の流動促進剤が製剤中に含まれてもよい。流動促進剤の総量は組成物の約0.1質量%から約6.0質量%、好ましくは組成物の約0.1質量%から約5.0質量%、最も好ましくは組成物の約0.1質量%から約4.0質量%である。
【0039】
また、例えば、アスコルビン酸、アルファトコフェロール、又はブチル化ヒドロキシアニソールなどの酸化防止剤を製剤中に組み込むことが、保管期間を延ばすのに効果的な場合がある。1種類以上の酸化防止剤が製剤中に含まれてもよい。酸化防止剤の総量は組成物の約0.0001質量%から1.0質量%、好ましくは組成物の約0.001質量%から約0.1質量%、最も好ましくは組成物の約0.005質量%から0.05質量%である。
【0040】
[5.5.補助的有効成分]
5.5.1.炭酸ランタンとビタミンDとを含む複合製剤
高リン血症又はCKDの症状を患っている患者は、ビタミンD欠乏でもあることが多い。25−ヒドロキシビタミンDの濃度は約16ng/mL未満と低く、補充治療は約16ng/mL以上の濃度を目標とする。1,25ジヒドロキシビタミンDの濃度は約22pg/mL未満と低く、補充治療は約22pg/mL以上の濃度を目標とする。このように、炭酸ランタンと、ビタミンD又はビタミンDに類するものを含む製剤を製造し、患者へ投与することが望まれている。
【0041】
本発明の製剤において用いられる場合があるビタミンD源の例としては、ビタミンD(カルシトリオール、ロカルシトロール)の活性代謝物である1,25ジヒドロキシビタミンDが含まれる。適したビタミンDに類するものの例としては、ドキセルカルシフェロール(ボーン・ケア・インターナショナル、ウィスコンシン州ミドルトンから入手可能なヘクトロール(登録商標))とパリカルシトール(アボット・ラボラトリーズ、イリノイ州アボットパークから入手可能なゼンプラー(登録商標))が含まれる。1種類以上のビタミンD源又はビタミンDに類するものが製剤中に含まれる場合がある。
【0042】
また、ビタミンDは分割した投薬形態で投与されるが、本発明の投薬形態と同時に投与される場合がある。具体的な実施態様では、治療を必要とする患者へ100USP単位のビタミンDが1日当たり1回投与され、250mgの安定化炭酸ランタン製剤が1日当たり3回投与される。
【0043】
5.5.2.炭酸ランタンとカルシウム源とを含む複合製剤
高リン血症患者又はCKDの症状を有する患者は、低カルシウム血症(すなわち、約8.5mg/dL未満の血中カルシウム濃度)に罹患していることが多い。そのため、本発明の製剤は炭酸ランタンとカルシウム源とを含んでもよい。
【0044】
カルシウムの形態の例としては、炭酸カルシウム(例えば、グラクソスミスクライン、イギリス、アクスブリッジから入手可能なタムズ(登録商標))と、酢酸カルシウム(例えば、ナビ・バイオファーマシューティカルズ、フロリダ州ボカレイトンから入手可能なフォスロ(登録商標))と、CaClとが含まれる。1種類以上のカルシウム源が製剤中に含まれる場合がある。
【0045】
また、カルシウム源も投薬量を分割した投薬形態で投与されるが、本発明の投薬形態と同時に投与されてもよい。具体的な実施態様では、カルシウム200mgと安定化炭酸ランタン製剤250mgとを含む1−2個の錠剤を1日にそれぞれ3回、治療を必要とする患者に投与する。
【0046】
5.5.3.ランタンとビタミンKとを含む複合製剤
高リン血症患者又はCKDの症状を有する患者は、ビタミンK欠乏になる可能性がある。本発明の他の実施態様では、ビタミンK欠乏を軽減するために、ビタミンKと組み合わせた本発明の製剤を高リン血症かCKDの症状かを患っている患者に投与する。
【0047】
ビタミンK源の例としては、ビタミンK1(フィロキノン)、ビタミンK2(メナキノン)、ビタミンK3(メナジオン)が含まれる。
【0048】
ビタミンKはランタン製剤として同じ製剤中に組み込まれても、異なる製剤で与えられてもよい。具体的な実施態様では、治療を必要とする患者へ2.5mgから25mgのビタミンK1を1日当たり1回投与し、ランタン製剤を1日当たり3回投与する。
【0049】
[5.6.安定炭酸ランタン製剤で治療された患者]
慢性腎臓病(CKD)の危険性があり、ステージ1からステージ5のCKDを有する高リン血症に罹患しやすいか罹患している患者、CKDに付随する軟部組織石灰化に罹患しやすいか罹患している患者、二次的な副甲状腺機能亢進症に罹患しやすいか罹患している患者、又はリン酸塩の吸収を制御する必要があるまだ発見されていない他の疾患に罹患しやすいか罹患している患者は、治療的有効量の本発明の安定化炭酸ランタン製剤を投与することにより治療することができる。
【0050】
5.6.1.慢性腎臓病(CKD)
国立腎臓財団−腎臓病予後改善対策(ここでは、「NKF−K/DOQI」又は「K/DOQI」という)は、慢性腎臓病(CKD)を、(1)糸球体濾過量(GFR)の減少を伴うか伴わないで、3ヶ月以上にわたって、腎臓の構造的又は機能的異常によって規定される腎臓損傷を有する、又は(2)腎臓損傷を伴うか伴わないで、3ヶ月以上にわたって、GFRが60mL/分/1.73m未満である、のいずれかであると定義している。構造的異常又は機能的異常は、画像診断や血液組成と尿組成で確認される異常を含む、病理学的異常か腎臓損傷のマーカーかのような症状により明らかになる。
【0051】
腎臓損傷のマーカーの例としては、約1.6mg/dLを超える血漿クレアチン濃度と、約20mg/dLを超える血中尿素窒素(BUN)濃度が含まれる。通常は、これら両方のマーカーともCKDを有する個体で上昇している。腎臓損傷の別のマーカーとして、血尿(すなわち、尿中の検出可能な量の血液)、タンパク尿(すなわち、約100mg/dLを超えた尿タンパク濃度)、アルブミン尿(すなわち、約100mg/dLを超えた尿アルブミン濃度)、約150pg/dLを超えた血中のインタクト副甲状腺ホルモン(PTH)濃度、又は約4.5mg/dLを超えた血中リン酸塩濃度が含まれる。腎臓病の一つの特有のマーカーは正常値を超えたGFR(すなわち、約90mL/分/1.73mを超えたGFR)であるが、正常値を下回るGFRもCKDを示す。
【0052】
K/DOQIは、CKDの5つの異なったステージを定義するガイドラインを刊行している(Am J Kidney Dis. 2001, 37(suppl 1):S1-S238)。下記の表はCKDの5つのステージのそれぞれについての解説と、前記ステージのそれぞれのGFRの範囲を示す。
【0053】
【表1】

【0054】
CKD患者の高リン血症は複数の二次的な影響をもたらす。患者が高リン血症を患っていると、過剰の血漿リン酸塩が血漿カルシウムを沈殿させ、広範囲に異所性骨外石灰化を引き起こす。望ましくないカルシウムの沈殿が心臓血管組織において起こり、その結果、しばしば死に至る心臓血管合併症の危険性が増加する可能性がある。さらに増加した血漿リン酸塩は腸のカルシウムの吸収を減少させる。これら2つのメカニズムは同時に血漿カルシウム濃度を減少させるように働く。
【0055】
血漿カルシウム濃度の減少は副甲状腺ホルモン(PTH)の生産の増加と、二次的な副甲状腺機能亢進症の進行の原因となる可能性がある。さらに、最近の研究は、高リン酸塩濃度がPTHの生成を直接促し、二次的な副甲状腺機能亢進症に導くことを示している。継続的なPTH分泌の促進が上皮小体の過形成を誘起し、その結果として上皮小体摘出が必要になる可能性がある。
【0056】
安定化炭酸ランタン製剤の投与を含む本発明の方法は血漿リン酸塩濃度を減少させるだけでなく、高リン血症と、異所性骨外石灰化と、血漿低カルシウム血症と、二次的な副甲状腺機能亢進症とを含むステージ1からステージ5のCKDのいずれかに罹患しやすいか、罹患している患者のCKDの影響を改善するものと考えられる。しかし、本発明は特定の生化学的メカニズム又は生理学的メカニズムに全く限定されないことが理解されるべきである。
【0057】
5.6.2.高リン血症の治療方法
治療的有効量の本発明の安定化炭酸ランタン製剤を投与することにより、高リン血症に罹患しやすいか罹患している患者を治療することができる。本明細書で用いられるところの高リン血症とは、約4.5mg/dLを超えた血中リン酸塩濃度を有する患者の症状をいう。
【0058】
5.6.3.慢性腎臓病(CKD)の治療方法
治療的有効量の本出願の安定化炭酸ランタン製剤を患者に投与することにより、慢性腎臓病(CKD)の一つ以上の症状を有する患者を治療することができる。上述のように、治療される患者は、上で定義されたステージ1からステージ5のいずれかのCKDの危険性があるか有している。治療することができるCKDの危険性がある患者又はステージ1からステージ5のいずれかのCKDを有する患者は、約4.5mg/dLを超えた血中リン酸塩濃度、約1.6mg/dLを超えたクレアチン濃度、約20mg/dLを超えたBUN、尿中の検出可能な量の血液、約100mg/dLを超えた尿タンパク濃度、約100mg/dLを超えた尿アルブミン濃度、約150pg/dLを超えた血中のインタクト副甲状腺ホルモン濃度、異常なGFR、又はこれらの組み合わせといった症状のうち一つ以上を有する可能性がある。
【0059】
本法は、例えば、患者のCKDの進行を抑えるためにステージ1の一つ以上のCKDの症状を示す患者を治療することによって、又はステージ2のCKDへ疾病が進行するのを抑えるためにステージ1のCKDを有する患者を治療することなどによって、腎臓病の進行を抑えるために使用することができる。
【0060】
5.6.4.石灰化の予防方法
治療的有効量の本発明の安定化炭酸ランタン製剤を患者に投与することにより、一つ以上のCKDの症状を有する患者のCKDに付随する軟部組織石灰化を治療することができる。
【0061】
石灰化は、いずれの軟部組織でも起こり得る。軟部組織は動脈組織と、心筋と、心臓弁と、関節と、皮膚と、乳房組織とを含む。
5.6.5.二次的な副甲状腺機能亢進症の治療方法
治療的有効量の本出願の安定化炭酸ランタン製剤を患者に投与することにより、二次的な副甲状腺機能亢進症の一つ以上の症状を有する患者を治療することができる。
【0062】
副甲状腺機能亢進症は、約150pg/mL以上のインタクトPTH濃度を有する患者の疾病として定義される。副甲状腺機能亢進症の症状は、低カルシウム血症(すなわち、約8.5mg/dL未満の血中カルシウム濃度)と、高リン血症(すなわち、約4.5mg/dLを超えた血中リン酸塩濃度)と、骨の疾患(例えば、骨折や骨の痛み)とを含む。
【0063】
[5.7.安定化炭酸ランタン製剤の投与]
本発明に基づき、食事1回当たり炭酸ランタンをランタン元素として約125mgから約2000mgまでさまざまな投薬形態で、炭酸ランタン製剤を患者に経口投与できる。成人の標準的な投薬量は、例えば、1日に375mg−6000mgでもよい。より好ましくは投薬量が375mg−3750mg/日である。この投薬量を分割して各食事とともに、例えば、250mgか、500mgか、750mgか、1000mgかの錠剤を1日3回、摂取することができる。血清血漿濃度を週ごとにモニターし、最適血清リン酸塩濃度になるまで投薬量を変更することができる。投与は連続した処方計画で実施される場合があり、前記処方計画は、例えば、腎臓の疾患を治療するための永続的な処方計画のような長期の処方計画であってもよい。
【0064】
炭酸ランタン製剤を、例えば、錠剤か、カプセルか、チュアブルか、同等な製剤形態かで経口投与することができる。高リン血症の患者は、腎臓疾患のために液体摂取を制限する必要があることが多い。それゆえ、液体を全くまたは制限された量でしか使わずに摂取可能な炭酸ランタン製剤が必要とされている。例えば、ビーズか、咀嚼型又は圧潰された錠剤か、粉末か、ふるい掛けされた顆粒の形態かで炭酸ランタン製剤を食事にふりかけてもよい。
【0065】
炭酸ランタン製剤はランタンの血漿濃度が低くなるように投与され、例えば、少なくとも、1日当たり3gの投薬量(例えば、1gを1日3回)に対してCmax、Tmax及びAUCが好ましくは各々1.5ng/ml未満、約12時間、及び50ng・時間/ml未満の平均濃度曲線を与える程度にランタンの血漿濃度が低くなるように投与される。前記の投薬量に対し、好ましくはCmaxとAUCが1.1ng/ml未満と32ng・時間/ml未満であり、望ましくは、CmaxとAUCが0.5ng/ml未満と20ng・時間/ml未満である。約1500mg/日までの経口投薬では、Tmax値は投薬量により基本的に影響を受けず、CmaxとAUC値は投薬量とともに直線的に変化する。約1500mg/日を超える投薬量では、CmaxとAUC値は水平状態になる。これらのパラメータはすべて慣用的な意味を有する。
【0066】
炭酸ランタン製剤の種類と治療の継続期間は、個々の患者の治療の要求によって変わることが理解されるであろう。正確な処方計画は、特に体重と、年齢と、特有の症状などの要因とを考慮する主治医である医師又は獣医によって決定される。治療に適正な投薬量を決定するために、医師又は獣医は患者に投与する炭酸ランタンの投薬量を漸増してもよい。患者のリン酸塩濃度を再測定することで投薬量を適正にする場合は、例えば、医師が患者のリン酸塩濃度を測定し、一週間の炭酸ランタンの特定の投薬量を患者に処方し、一週間後に評価することができる。
【0067】
[6.実施例]
実施例において、「炭酸ランタン水和物」という用語は約4−5モル当量の水を含有する炭酸ランタンをいう。
【0068】
6.1.実施例1:安定化炭酸ランタン水和物チュアブル錠剤(250mg、500mg、750mg、及び1000mg)の調製
製造工程は活性成分と賦形剤をふるい掛けし、混合し、続いて直接圧縮することを含む。より具体的なステップは下記のとおりである:
a)炭酸ランタンと複数の賦形剤(例えば、デキストレートと、コロイド状二酸化ケイ素と、タルク(随意の)と、ステアリン酸マグネシウム)を混合する。
【0069】
b)標準の工具を用いて、前記混合物を目標圧縮質量まで圧縮する。
【0070】
一般的に上記のとおりに、次の錠剤を作成した:
【0071】
【表2】

【0072】
【表3】

【0073】
【表4】

【0074】
6.2.実施例2:ソルビトール安定剤を含有する安定化炭酸ランタンチュアブル錠製剤
ソルビトールを含有する下記の炭酸ランタンチュアブル錠製剤を実施例1に記載したとおりに製造することができる。
【0075】
【表5】

【0076】
6.3.実施例3:マンニトール安定剤を含有する安定化炭酸ランタンチュアブル錠製剤
マンニトールを含有する下記の炭酸ランタンチュアブル錠製剤を実施例1に記載したとおりに製造することができる。
【0077】
【表6】

【0078】
6.4.実施例4:キシリトール安定剤を含有する安定化炭酸ランタンチュアブル錠製剤
キシリトールを含有する下記の炭酸ランタンチュアブル錠製剤を実施例1に記載したとおりに製造することができる。
【0079】
【表7】

【0080】
6.5.実施例5:単糖類安定剤と二糖類安定剤を用いた炭酸ランタン製剤の安定化
熱ストレスと水分ストレス固体状炭酸ランタン混合物において、さまざまな種類の糖類賦形剤が脱炭酸化生成物の発生を抑制又は防止するかどうかを調べるために、約4−5モル当量の水を含有する炭酸ランタン水和物と無水炭酸ランタンの賦形剤適合性試験を行った。
【0081】
一週間以内に、十分に純粋な炭酸ランタン水和物中で脱炭酸化生成物の生成が引き起こされる状態にした。炭酸ランタン水和物と1種類の試験賦形剤との1:1か96:4(質量)混合物、又は無水炭酸ランタンと1種類の試験賦形剤との1:1(質量)混合物を調製してストレスを加え、暴露時間の関数として、試料をXRPD(粉末X線回折)で分析した。
【0082】
6.5.1.物質と方法
6.5.1.1.試料と試薬
十分に純粋な炭酸ランタン水和物試料と無水炭酸ランタン試料とを本実施例で使用した。試験賦形剤(D−マンニトール、D−ソルビトール、デキストレート、β−シクロデキストリン、コーンスターチ、無水ラクトース、ラクトース一水和物、及び微結晶性セルロース)は販売業者から購入し、入手したものを使用した。
【0083】
6.5.1.2.混合物の調製
質量を量った炭酸ランタン水和物/賦形剤(質量で1:1か96:4)又は無水炭酸ランタン/賦形剤(質量で1:1)試料をシンチレーションバイアルに密封し、ターブラーミキサーに載置した。前記試料が確実に均一になるように10分間混合した。
【0084】
6.5.1.3.湿度室の調製
NaSO・10HO(〜95%RH(相対湿度))又はNaNO(65%RH)の飽和塩類溶液を調製し、密閉チェンバー内に置いた。チェンバーを60℃のオーブン内に一晩放置すると、24時間後に固体が存在していることが確認できた。その後、前記チェンバーをさまざまな賦形剤/炭酸ランタン混合物のストレス試験のために使用した。60℃/95%RHのより厳しい条件下では、D−ソルビトール賦形剤とデキストレート賦形剤は溶解するため、D−ソルビトール賦形剤とデキストレート賦形剤には湿度がより低い条件を利用した。
【0085】
6.5.1.4.粉末X線回折装置(XRPD)
島津XRD−6000粉末X線回折装置で、CuKα放射線を用いて、XRPD分析を行った。シリコン挿入部分を有するアルミニウムホルダー内に試料を入れ、分析用の試料を調製した。
【0086】
6.5.2.結果及び考察
6.5.2.1.試験物質の解析
ストレスを加えていない十分に純粋な炭酸ランタン水和物をXRPDにより解析した(図1)。本実施例において用いられる賦形剤と無水炭酸ランタンについてXRPDで特異性を解析し、そのパターンを図2に例示する。すべての賦形剤は、水酸化炭酸ランタン(HC)物をモニタリングできるだけの十分な特異性を示す。
【0087】
6.5.2.2.炭酸ランタン水和物のストレス試験
実験に先立ち、脱炭酸化をモニタリングするベースラインを決定するために、60℃/95%RHと60℃/65%RHの2つの条件下で、炭酸ランタン水和物にストレスを加えた。1、2、3、4、及び7日後に個々の試料を取り出し、直ちにXRPDを用いて分析した。60℃/65%RH条件下で、さらに14日と21日後に試料を取り出した。
【0088】
図3(60℃/95%RH条件)と図4(60℃/65%RH条件)は結果をまとめたものである。60℃/95%RH条件下において、1日後に最初に脱炭酸化生成物HCが確認された。60℃/65%RHストレス条件下に炭酸ランタン水和物を置いたとき、この場合も1日後に最初にHCが確認できた(図4)。
【0089】
6.5.2.3.炭酸ランタン水和物/D−マンニトールのストレス試験(60℃/65%RH条件)
炭酸ランタン水和物/D−マンニトールの1:1(質量)混合物に2週間にわたってストレスを加え、分析を行った。結果を図5に示した。炭酸ランタン水和物の脱炭酸化は、実験の全期間にわたり見られなかった。
【0090】
6.5.2.4.炭酸ランタン水和物/D−ソルビトールのストレス試験(60℃/65%RH条件)
炭酸ランタン水和物/D−ソルビトールの1:1(質量)混合物に3週間にわたってストレスを加え、分析を行った。結果を図6に示した。炭酸ランタン水和物の脱炭酸化は、実験の全期間にわたって見られなかった。
【0091】
6.5.2.5.炭酸ランタン水和物/デキストレートのストレス試験(60℃/65%RH条件)
炭酸ランタン水和物/デキストレートの1:1(質量)混合物に3週間にわたりストレスを加え、分析を行った。結果を図7に示した。炭酸ランタン水和物の脱炭酸化は、実験の全期間にわたって見られなかった。
【0092】
6.5.2.6.炭酸ランタン水和物/β−シクロデキストリンのストレス試験(60℃/95%RH条件)
炭酸ランタン水和物/β−シクロデキストリンの1:1(質量)混合物に2週間にわたってストレスを加え、分析を行った。結果を図8に示した。脱炭酸化生成物HCの存在が、ストレスを加えた1日後に最初に検出された。
【0093】
6.5.2.7.炭酸ランタン水和物/コーンスターチのストレス試験(60℃/95%RH条件)
炭酸ランタン水和物/コーンスターチの1:1(質量)混合物に、2週間にわたりストレスを加えた。結果を図9に示した。脱炭酸化生成物HCの存在が、ストレスを加えた1日後に最初に検出された。
【0094】
6.5.2.8.無水炭酸ランタン/D−マンニトールのストレス試験(60℃/95%RH条件)
無水炭酸ランタン/D−マンニトールの1:1(質量)混合物に2週間にわたりストレスを加え、分析を行った。結果を図10に示した。無水炭酸ランタンの脱炭酸化は、実験の全期間にわたって見られなかった。
【0095】
6.5.2.9.炭酸ランタン水和物/無水ラクトース及び炭酸ランタン水和物/ラクトース一水和物のストレス試験(60℃/95%RH条件)
炭酸ランタン水和物/無水ラクトース及び炭酸ランタン水和物/ラクトース一水和物の1:1(質量)混合物に2週間にわたってストレスを加え、分析を行った。炭酸ランタン水和物/無水ラクトース及び炭酸ランタン水和物/ラクトース一水和物の結果を図11と図12にそれぞれ示した。どちらの混合物においても、炭酸ランタン水和物の脱炭酸化は実験の全期間にわたって観測されなかった。
【0096】
6.5.2.10.炭酸ランタン水和物/微結晶性セルロースのストレス試験(60℃/95%RH条件)
炭酸ランタン水和物/微結晶性セルロースの1:1(質量)混合物に、60℃/95%相対湿度でストレスを加えた1日後に、炭酸ランタン水和物の脱炭酸化が見られた。結果を図13にまとめた。
【0097】
6.5.2.11.96:4(質量)炭酸ランタン水和物/D−マンニトール混合物における、炭酸ランタン水和物の安定化
96:4(質量)炭酸ランタン水和物/D−マンニトール混合物の試験を上述の方法で行った。60℃/95%相対湿度で14日間、前記混合物にストレスを加えた。結果を図14にまとめた。
【0098】
ストレスを加えた7日後には、混合物中で炭酸ランタン水和物の脱炭酸化は検出されなかった。ストレスを加えた14日後に、混合物中で炭酸ランタン水和物のごく微量の脱炭酸化が検出された。
【0099】
6.5.3.結論
以上の結果、マンニトール、ソルビトール、ラクトース、及びデキストレートのような単糖類と二糖類が、水酸化炭酸ランタンへの脱炭酸化を抑制するか排除することで、炭酸ランタン(無水及び水和物)を含む製剤の保護を安定化させるということがわかった。コーンスターチ、β−シクロデキストリン、及び微結晶性セルロースのような多糖類はこのような保護を示さないため、多糖類を含む製剤では同条件に置いた非製剤化の医薬品成分と同じような速度で脱炭酸化が見られる。
【0100】
6.6.実施例6:大気条件下における炭酸ランタン水和物の脱炭酸化速度
非製剤化炭酸ランタン水和物と約50%(質量)のデキストレートを含む製剤化炭酸ランタン水和物を、最長2年間、25℃/60%RHと、30℃/60%RHと、40℃/75%RHの標準ICH安定状態に置いた。一定期間ごとに2年にわたり、試料を取り出し、粉末X線回折により試料中の水酸化炭酸ランタン含有量を調べた。
【0101】
図15は非製剤化炭酸ランタン水和物の脱炭酸化比を示しており、25℃/60%RHと、30℃/60%RHと、40℃/75%RHの標準ICH安定状態において、非製剤化炭酸ランタン水和物の著しい分解が見られる。25℃/60%RH状態で分解するという結果は、分解速度を遅らせるために、非製剤化医薬品成分を冷蔵状態で保管する必要があることを示唆している。その一方で、図15に示すように、同様に保管した約50%(質量)のデキストレートとともに製剤化した錠剤では脱炭酸化が見られなかった。
【0102】
本実施例により、デキストレートが標準的な大気条件における脱炭酸化を防ぐことで、炭酸ランタン水和物を安定化することが明らかである。
【0103】
本発明は、ここに記載した実施例により制限されるものではない。前述の説明から、当業者は、ここに記載した内容に加えて、本発明にさまざまな変更をなすことができる。このような変更は、添付した特許請求の範囲内である。
【0104】
すべての特許と、公開された特許出願と、公開された科学論文と科学書とを含むここに記載したすべての参考文献は、言及されることによりその全体がここに援用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
xが0から10の値である、下記の一般式
La(CO・xH
を有する薬学的有効量の炭酸ランタンと、少なくとも1種類の薬学的に許容可能な単糖類又は二糖類の安定剤とを含み、前記単糖類又は二糖類が組成物の全質量の少なくとも約1質量%の量で存在することを特徴とする安定化炭酸ランタン組成物。
【請求項2】
前記単糖類又は二糖類が、組成物の全質量の約1質量%から約90質量%の量で存在することを特徴とする請求項1記載の安定化組成物。
【請求項3】
前記単糖類又は二糖類が、スクロース、グルコース、ガラクトース、フルクトース、デキストロース、リボース、マルトース、ソルビトール、キシリトール、マンニトール、ラクトース、デキストレート又はその混合物であることを特徴とする請求項1記載の安定化組成物。
【請求項4】
前記単糖類又は二糖類がデキストレートであり、前記デキストレートが組成物の全質量の約40質量%から約80質量%の量で存在することを特徴とする請求項3記載の安定化組成物。
【請求項5】
前記単糖類又は二糖類がソルビトールであり、前記ソルビトールが組成物の全質量の約20質量%から約80質量%の量で存在することを特徴とする請求項3記載の安定化組成物。
【請求項6】
さらに潤滑剤を含むことを特徴とする請求項3記載の安定化組成物。
【請求項7】
前記潤滑剤がステアリン酸マグネシウム、タルク、ポリエチレングリコール、シリカ、コロイド状無水シリカ、コロイド状二酸化ケイ素、硬化植物性油脂、ベヘン酸グリセリン、又はモノステアリン酸グリセリンであることを特徴とする請求項6記載の安定化組成物。
【請求項8】
さらに流動促進剤を含むことを特徴とする請求項6記載の安定化組成物。
【請求項9】
前記流動促進剤がシリカ、コロイド状無水シリカ、コロイド状二酸化ケイ素、又はタルクであることを特徴とする請求項8記載の安定化組成物。
【請求項10】
下記の成分を含み、ここで、炭酸ランタンは約4−5モル当量の水の水含有量を有する水和物であることを特徴とする請求項9記載の安定化組成物。
【表1】

【請求項11】
下記の成分を含み、ここで、炭酸ランタンは約4−5モル当量の水の水含有量を有する水和物であることを特徴とする請求項9記載の安定化組成物。
【表2】

【請求項12】
下記の成分を含み、ここで、炭酸ランタンは約4−5モル当量の水の水含有量を有する水和物であることを特徴とする請求項9記載の安定化組成物。
【表3】

【請求項13】
xが0から10の値である、下記の一般式
La(CO・xH
を有する薬学的有効量の炭酸ランタンと、少なくとも1種類の薬学的に許容可能な単糖類又は二糖類の安定剤とを含み、前記単糖類又は二糖類が組成物の全質量の少なくとも約1質量%の量で存在する、薬学的有効量の安定化炭酸ランタン組成物を投与することを特徴とする高リン血症の治療方法。
【請求項14】
前記単糖類又は二糖類が、組成物の全質量の約1質量%から約90質量%の量で存在することを特徴とする請求項13記載の方法。
【請求項15】
前記単糖類又は二糖類が、スクロース、グルコース、ガラクトース、フルクトース、デキストロース、リボース、マルトース、ソルビトール、キシリトール、マンニトール、ラクトース、デキストレート又はその混合物であることを特徴とする請求項13記載の方法。
【請求項16】
前記単糖類又は二糖類がデキストレートであり、前記デキストレートが組成物の全質量の約40質量%から約80質量%の量で存在することを特徴とする請求項15記載の方法。
【請求項17】
前記単糖類又は二糖類がソルビトールであり、前記ソルビトールが組成物の全質量の約20質量%から約80質量%の量で存在することを特徴とする請求項15記載の方法。
【請求項18】
さらに潤滑剤を含むことを特徴とする請求項15記載の方法。
【請求項19】
前記潤滑剤がステアリン酸マグネシウム、タルク、ポリエチレングリコール、シリカ、コロイド状無水シリカ、コロイド状二酸化ケイ素、硬化植物性油脂、ベヘン酸グリセリン、又はモノステアリン酸グリセリンであることを特徴とする請求項18記載の方法。
【請求項20】
さらに流動促進剤を含むことを特徴とする請求項19記載の方法。
【請求項21】
前記流動促進剤がシリカ、コロイド状無水シリカ、コロイド状二酸化ケイ素、又はタルクであることを特徴とする請求項20記載の方法。
【請求項22】
下記の成分を含み、ここで、炭酸ランタンは約4−5モル当量の水の水含有量を有する水和物であることを特徴とする請求項21記載の方法。
【表4】

【請求項23】
下記の成分を含み、ここで、炭酸ランタンは約4−5モル当量の水の水含有量を有する水和物であることを特徴とする請求項21記載の方法。
【表5】

【請求項24】
下記の成分を含み、ここで、炭酸ランタンは約4−5モル当量の水の水含有量を有する水和物であることを特徴とする請求項21記載の方法。
【表6】


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公表番号】特表2009−514940(P2009−514940A)
【公表日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−539526(P2008−539526)
【出願日】平成18年11月7日(2006.11.7)
【国際出願番号】PCT/IB2006/003141
【国際公開番号】WO2007/054782
【国際公開日】平成19年5月18日(2007.5.18)
【出願人】(508138999)シャイア インターナショナル ライセンシング ビー.ブイ. (2)
【Fターム(参考)】