説明

安定状態評価装置、安定状態評価方法及び安定状態評価プログラム

【課題】石垣を解体することなく、当該石垣を構成する石材の安定状態を高精度に評価することのできる安定状態評価装置、安定状態評価方法及び安定状態評価プログラムを得る。
【解決手段】PC12は、複数の石材が積み重ねられて構成された石垣の安定状態の評価対象とする評価対象石材50に対し、インパルス・ハンマー16により打撃力を与えたときの当該評価対象石材50における並進加速度の時刻歴情報を取得すると共に、前記打撃力の時刻歴情報を取得し、当該並進加速度の時刻歴情報及び打撃力の時刻歴情報に基づいて並進運動に関する静的剛性を検出し、検出した静的剛性に基づいて評価対象石材50の安定状態を評価し、当該評価結果を示す情報をディスプレイにより表示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安定状態評価装置、安定状態評価方法及び安定状態評価プログラムに係り、より詳しくは、複数の石材が積み重ねられて構成された石垣における各石材の安定状態を評価する安定状態評価装置、安定状態評価方法及び安定状態評価プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
城郭は日本全国に広く分布しているが、文化財としての価値を考えると、天守閣や櫓等の建築物に加えて、石垣もその重要な要素である。こうした城郭の石垣は、何れも築造から400年程度経過しているが、明治時代以降はメンテナンスが不十分であり、150程度の城郭で補修が必要と考えられる。
【0003】
しかしながら、城郭石垣、特に空積み石垣に関する評価・補修技術は確立されておらず、石工の経験に頼って施工するのが現状であり、技術の確立が望まれている。石垣のメンテナンスにあたっては、補修すべき石垣を判別するため、石垣の健全性を評価する方法が必要である。
【0004】
こうした石垣の健全性を評価するためには、個々の石材を積み上げた石垣が、どのような力学的安定状態にあるかを知ることが重要である。このようなブロック状の物体を積み上げた構造物では、個々の物体の接触状態や相互の位置関係から物体間の接触力が変化し、このため大きな接触力が作用する石材と、あまり接触力が作用しない、いわば遊んでいる石材とが生じることが知られている。このような接触力のばらつきが生じると、大きな接触力が作用する石材に割れが生じたり、あまり接触力が作用しない石材が背後の地盤の圧力に押されて、はらみ出しが生じたりして、結果として石垣を不安定にする要因となる。
【0005】
従来、こうした石材の安定状態を評価するために適用できる技術として、非特許文献1には、外側からわかる石垣の個々の石材の位置関係から、石垣相互の力を計算する技術が開示されている。
【0006】
また、特許文献1には、石垣の内部に向かって電磁波を発信すると共に、反射した電磁波を受信し、当該受信波に基づいて石材の控え長さや石垣背面構造を推定する技術が開示されている。
【非特許文献1】長瀬、久徳,「飛鳥時代古墳石室の石積み構造について」,第7回電子計算機利用シンポジウム,日本建築学会,1985年
【特許文献1】特開2000−352509号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記非特許文献1に開示されている技術では、当該非特許文献1が対象としているような石材全体が観察できる石積み構造物の場合には有効であるが、石垣のように各石材の大部分が観察できない対象に対しては適用することが難しく、適用するためには石垣を解体する必要がある、という問題点があった。また、石材の接触力は当該石材の微妙な突起や窪み等によって大きく変化するため、上記非特許文献1に開示されている技術では、必ずしも精度のよい評価を行うことができるとは限らない、という問題点があった。
【0008】
また、上記特許文献1に開示されている技術では、石垣を構成する石材の見えない部分の状態を或る程度は評価することができるものの、この技術においても、石材に微妙な突起や窪み等が存在する場合には、必ずしも精度のよい評価を行うことができるとは限らない、という問題点があった。
【0009】
本発明は上記問題点を解消するためになされたものであり、石垣を解体することなく、当該石垣を構成する石材の安定状態を高精度に評価することのできる安定状態評価装置、安定状態評価方法及び安定状態評価プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
ここで、本発明の原理を説明する。
【0011】
本発明の発明者らは、石垣に対して打撃を行ったときの加速度応答を計測することによる以下に示す各種実験を行った。
1.切込直積実験(以下、「実験EA」という。)
1−1.目的
石材を2個積み重ねた場合の下の石材とブルーシートの間のバネ定数の評価。
1−2.解説
本発明の発明者らは、石垣模型のバネ定数を打撃実験の動的剛性から推定することを試みているが、下の石材を打撃した場合にも上の石材が応答してしまい、2自由度系の影響が出てしまう。このため、下の石材の剛性を正しく評価することができない。そこで、図15に示すように、石材と石材との間を石膏で固め、上の石材が独立に運動しないように、単なる質量として働くようにしてバネ定数を推定する。
1−3.結果
上の石材と下の石材との間を石膏で固定したため、上下の石材は一体として挙動し、上下の加速度はほぼ等しくなる(その差は石材自体の弾性変形であるため僅かとなる)はずであったが、図16及び図17から、上の石材は下の石材に比較してかなり大きな加速度となった。
【0012】
このため、主要な運動は上下の石材が同じように動く並進運動ではなく、底面を中心とした回転運動であると考え、これに基づいて計算した角加速度のアクセレランスを図18に示す。予想した通り、60Hz以下ではぴったり一致し、この振動数帯の主要な運動が石材の底面を中心とした回転運動であることがわかった。なお、以下では、並進運動を「Sway」ともいい、回転運動を「Rocking」ともいう。
【0013】
Sway(A)は上下で同じで、加速度センサの位置からRocking(B)は3倍とすると、下の石材は‘A(t)+B(t)’で、上の石材は‘A(t)+3B(t)’となり、SwayとRocking(下の石材の位置での加速度で表示)を分離することができる。こうした前提で計算したものが図19及び図20である。また、これらのフーリエ・スペクトルを図21(A),(B)に示す。これらから、Rockingの卓越振動数は20Hz及び50Hz付近に、Swayの卓越振動数は130Hz付近に各々存在することが分かる。
【0014】
一連の結果から、石材の運動はSwayとRockingを分けて考えなければならないことが分かった。
2.切込底部固定直積実験(以下、「実験G」という。)
2−1.目的
石材が1個の状態で、石材への打撃による振動が、石材の運動なのか床の変形なのかを確認する。
【0015】
また、石材を2個積み重ねた場合の石材の運動の様子を調べる。
2−2.解説
実験EAで、石材の運動は石材底面(床との接触部分)を中心とした回転運動が支配的であることが分かった。
【0016】
そこで、これがブルーシートの影響なのか、床の変形の問題なのかを確かめるため、図22に示されるように、石材1個の実験を行う。石材は石膏で床に完全に固定されているため、これで回転運動が検出されれば床が変形していると見なせる。なお、床の振動が極力発生しないように、実験は基礎ばりの上で行う。
【0017】
床の振動が発生していないことを確認した後、石材を2個積み重ねた場合の打撃による石材の挙動を調べる。
2−3.結果
図23に、石材1個のモデルの結果を示す。実験EAとは異なり、卓越振動数は700Hz付近であり、床の振動ではないことを確認した。動的剛性では、上と下とで2.0×10と6.0×10と剛性が異なっているが、これは石材自身のせん断あるいは曲げ変形によるものと考えられる。
【0018】
次に、図24に示される石材2個を積み重ねたモデルにより実験を行う。なお、加速度センサの数が不足しているため、このモデルでは下の石材の挙動を正確に捉えることができない。そのため、ここでは石材(1)と石材(2)との相対運動ではなく、石材(2)の絶対運動を議論することとする。図25及び図26は、図24に示される配置1の状態で石材(1)を打撃した結果である。この結果から、Sway(石材(1)の動きを含む石材(2)の並進運動)の剛性は1011N/m程度、Rocking(石材(1)の回転を含む石材(2)の回転運動)の剛性は10N/radian程度であることが分かる。
【0019】
図27に、観測した加速度と、それに基づいて算出した石材(2)のSway及びRockingの加速度の時刻歴を示す。同図において回転分とは、Rockingによって石材(2)の中央で生じた加速度で、これをSwayと比較すると、ほぼ同じ大きさになっていることが分かる。
【0020】
図28は同じ配置1で、石材(2)を打撃した結果である。この結果から、Rockingの剛性は10N/radian程度であることが分かる。打撃位置によって剛性が異なるのは、石材(2)を打撃した場合にはその力がすべて石材(1)に向かって流れるのに対して、石材(1)を打撃した場合には石材(2)に向かうと同時に床に向かっても流れるためと考えられる。
【0021】
次に、図24に示される配置2で石材(1)を打撃した結果を図29に示す。Rockingの剛性は10N/radian程度で図26と比較して若干小さくなっているものの、石材と石材との間に砂を挟んでいるにもかかわらず、大きな変化とは言えない。これは、石材(1)を打撃した場合、力の流れは床に向かうものが主であることを示していると考えられる。なお、図30には、配置2の実際の計測状態が示されている。
【0022】
次に、同じ配置2で石材(2)を打撃した結果を図31に示す。Rockingの剛性は10〜10N/radian程度で、図28に比較して10程度小さくなっている。また、振動数帯も図28が100Hz付近であるのに対して、図31では10Hz付近と大きく異なっている。
【0023】
一連の結果をまとめると、次の表1のようになる。この結果から、不具合箇所(この実験では配置2の石材(1)と石材(2)との間の砂)の上の石材を打撃したときに動的剛性が大きく変わることが分かった。
【0024】
【表1】

剛性では判断がつかなかった配置2の打撃位置(1)の場合について更に詳しく検討すると、図32に示すように、図27の場合とはかなり異なる波形であることが分かる。図27では石材(1)の波形は石材(2)の波形と沿う形であったが、図32ではまったく異なっている。また、図27では石材(2)の下の加速度よりも上の加速度のほうが大きいが、図32では逆に上のほうが小さく、ほとんど振動していない。
【0025】
各加速度のアクセレランスを図33に、比較のため配置1の結果を図34に示す。図34により示されるように、配置1では石材(1)と石材(2)の卓越振動数は同じであるが、図33では、石材(2)の卓越振動数付近に石材(1)のピークは存在しない。これは、配置2での石材間の砂によって石材(2)の振動が石材(1)に伝わらず、配置2では、石材(1)は本来の石材(1)の卓越振動数で振動していることを示している。
【0026】
これらの特徴を考慮すれば、不具合箇所の下の石材を打撃した場合でも不具合を判別することができるものと考えられる。
3.コンクリートブロック布積実験(以下、「実験H」という。)
3−1.目的
実際の石垣に近い状態で石材の運動における回転運動と並進運動のどちらが支配的かを調べる。
3−2.解説
実験Gによって、直積石材の運動は並進運動と回転運動とで説明できることが分かった。また、上記の運動は加速度センサを石材の上下に並べて設置することで完全に分離して取り出すことができることが分かった。
【0027】
直積石材はその形状から回転運動が起こりやすいと考えられるが、実際の石垣の振動で回転運動の影響がどの程度かを、図35及び図36に示されるモデルにより調べる。
【0028】
これまでの実験と異なり、歪ゲージ型の加速度センサを6個使用して、中心となる石材(3)の挙動を分析できるようにする。
3−3.結果
図35に示される配置1での結果を図37に、配置2での結果を図38に各々示す。同図における「相対回転分」は、石材の中心部分での相対回転による加速度を表す。回転運動(石材(3)・(1)相対回転分)は、配置1の場合で並進運動(石材(3)・(1)相対)のほぼ半分、配置2の場合で1/3程度あり、やはり石材の挙動を検討する上で無視できないことが分かった。
【0029】
次に、配置1における並進運動と回転運動を検討する。図39から、底部の石材(石材(1)及び石材(2))の並進運動の剛性は10N/m程度であり、中央の石材(石材(3))の剛性は10N/m程度であることが分かる。また、図40から、底部の石材の回転運動の剛性は10N/radian程度であり、中央の石材の剛性は10N/radian程度であることが分かる。いずれの場合も、100Hz付近に卓越振動数がある。
【0030】
次に、配置2(石材(1)及び石材(2)と石材(3)との間に砂を挟んだもの)の結果を図41及び図42に示す。底部の石材の並進運動の剛性は10N/m程度であり、中央の石材(石材(3))の剛性は10N/m程度であり、配置1に比較して10程度小さくなっていることが分かる。また、中央の石材の卓越振動数は50Hz付近にあり、配置1よりも低くなっている。
【0031】
回転運動については、底部の石材の剛性は10N/radian程度であり、一方、中央の石材の剛性は石材(3)と石材(2)との相対運動において10N/radian程度であり、配置1に比べて10程度小さくなっていることが分かる。また、中央の石材の卓越振動数は石材(3)と石材(2)との相対運動において20Hz付近にあり、配置1よりも低くなっている。なお、石材(3)と石材(1)との相対運動においては、20Hz付近には動的剛性のグラフで明確な平坦部分は認められず、100Hz付近で10N/radian程度であった。
【0032】
以上の結果から、不具合箇所の特定は、動的剛性により、定性的には可能であることを確認することができた。
【0033】
一方、本発明の発明者らは、石垣における石材間の接触状態の定量的評価法の確立を目的として、石材間の介在物による石材の動的挙動(バネ定数、減衰定数、加速度スペクトル、その他)の比較から、介在物や空隙の有無を評価することを試みた。
【0034】
建設時の石垣は石材が直接接触しており、石垣構造全体の安定性は、背面土の滑り抵抗と石材接触面の摩擦・噛み合わせを期待して成立している。経年変化により空隙や異物が侵入・介在するようになると、接触面の摩擦・噛み合わせによる力の伝達は介在物の変形特性の影響を受けた伝達に変わる。この変化を、石材接触面の滑り、あるいは介在物のせん断変形における石材間の相対変位特性の変化として測定し、石垣構造物全体の相対変位特性値マップを作成し、健全部と不健全部を判別すると共に、数値解析的予測により地震時の安定性を評価する。
【0035】
三種類の石垣構造模型で、打撃によるインパルス応答振動実験を行った(図43,図49,図51)。ここで、水平に隣接する石材間は非接触状態とした。石材を紙面直交方向にハンマーにより打撃し、打撃された石材及びそれと接触している下方の石材に加速度センサを設置した。
【0036】
なお、以下で示す実験は、その一部が上述した各種実験と重複するが、説明の便宜上、以下では、参照する図面を、上述した実験に対応する図面と一部重複した状態で示す。
【0037】
また、表2には、各実験(実験G,実験H,実験J4)で適用された石材の諸元が示されている。なお、実験Gにおいて用いられた石材は安山岩であり、実験H及び実験J4において用いられた石材はモルタル・ブロックである。
【0038】
【表2】

実験G(図43)では、配置1は石材を直接接触させ、配置2は砂詰め袋を石材間に介在させた。石材(1)(下側)はRC床に石膏で接着し固定した。図45は、配置2で石材(2)を打撃した時の、ハンマーのロードセル測定値(最大177N)の時刻歴波形である。
【0039】
石材の運動を図44に示す石材間の並進運動と石材底の回転運動と考えて算出した石材(2)の石材(1)に対する並進運動の相対加速度波形が図46である。配置1は剛塑性的摩擦モデルの挙動に近く、配置2は砂・袋・石材面の弾性的挙動に近い。
【0040】
図47は、ハンマーによる打撃力を相対変位で除して求めた石材接触面の動的せん断ばね定数である。平坦な部分の値が静的なばね定数と考えられる。配置1のばね定数は1.0×10N/m、配置2のばね定数は1.0×10N/m程度であり、介在物がある場合とない場合とで、ばね定数が大きく異なることが分かる。
【0041】
こうして求めたばね定数を元に、更にパラメータ・チューニングした質点系解析結果の例として図48に配置1の一番上の加速度センサの時刻歴を解析と実験とで比較して示す。チューニング後のせん断ばね定数は7.5×10N/mであり、動的せん断ばね定数から予想した1.0×10N/mに近い値となり、解析と実験とが整合していることを確認した。
【0042】
モルタル・ブロックを4段布積みしてインパルス応答振動実験をしたのが実験H(図49)である。実験方法は実験Gと同じである。石材(3)を紙面直交方向に打撃し、石材(1)及び石材(2)との間のせん断ばね定数を求めた。石材(3)と石材(2)及び石材(1)との接触面は、配置1は直接触であり、配置2は砂詰め袋が介在された接触である。
【0043】
図50に動的せん断ばね定数の測定結果を示す。石材(3)・(1)と石材(3)・(2)の動的せん断ばね定数の測定値が併記してあるが、両者はほぼ等しい。同様に、せん断ばね定数を読み取ると、配置1は1.0×10N/m(20〜150Hz)、配置2は1.0×10N/m(10〜40Hz)程度である。せん断ばね定数の配置1と配置2との大小関係は実験Gと類似している。
【0044】
次に、積み方の都合による斜め階段付近の影響を排除し、実際の石垣に近い振動特性を計測するため、5段布積み実験J4(図51)を実施した。石材の材質は、モルタル・ブロックである。図中の石材(21)を打撃した場合の石材(30)との動的せん断ばね定数と、石材(24)を打撃して石材(32)との同定数とを計測したものが図52である。石材(21)と石材(30)との間には梱包材(気泡シート4枚)を介在させ、石材(24)と石材(32)との間は直接触である。同図から、実験G及び実験Hと同じ要領でせん断ばね定数を読み取ると、石材(21)と石材(30)との間は1.0×10N/m(10〜70Hz)、石材(24)と石材(32)との間は1.0×10N/m(50〜100Hz)程度であり、実験G,Hとばね定数の大小関係は類似している。
【0045】
以上のように、布積み石積を中心に、石垣構造物の石材間介在物の有無を判定するために、インパルス応答実験を実施した。石材間相対加速度から動的特性を求め、特性値のうち、動的せん断ばね定数の測定結果を示した。特性値の比較から介在物の有無の評価が可能であり、算出したばね定数が数値解析とも整合することが判明した。
【0046】
以上の原理に基づき、請求項1記載の安定状態評価装置は、複数の石材が積み重ねられて構成された石垣の安定状態の評価対象とする評価対象石材に対して打撃力を与えたときの当該評価対象石材における並進加速度の時刻歴情報及び回転加速度の時刻歴情報の少なくとも一方を取得すると共に、前記打撃力の時刻歴情報を取得する取得手段と、前記取得手段によって前記並進加速度の時刻歴情報が取得された場合は、当該並進加速度の時刻歴情報及び前記打撃力の時刻歴情報に基づいて並進運動に関する静的剛性を検出し、前記取得手段によって前記回転加速度の時刻歴情報が取得された場合は、当該回転加速度の時刻歴情報及び前記打撃力の時刻歴情報に基づいて回転運動に関する静的剛性を検出する検出手段と、前記検出手段によって検出された静的剛性に基づいて前記評価対象石材の安定状態を評価する評価手段と、前記評価手段による評価結果を示す情報を表示する表示手段と、を備えている。
【0047】
請求項1記載の安定状態評価装置によれば、取得手段により、複数の石材が積み重ねられて構成された石垣の安定状態の評価対象とする評価対象石材に対して打撃力を与えたときの当該評価対象石材における並進加速度の時刻歴情報及び回転加速度の時刻歴情報の少なくとも一方が取得されると共に、前記打撃力の時刻歴情報が取得される。なお、上記石材には、花こう岩、安山岩などのJIS A5003に規定される石材及びコンクリートブロックが含まれる。
【0048】
ここで、本発明では、検出手段により、前記取得手段によって前記並進加速度の時刻歴情報が取得された場合は、当該並進加速度の時刻歴情報及び前記打撃力の時刻歴情報に基づいて並進運動に関する静的剛性が検出され、前記取得手段によって前記回転加速度の時刻歴情報が取得された場合は、当該回転加速度の時刻歴情報及び前記打撃力の時刻歴情報に基づいて回転運動に関する静的剛性が検出される。
【0049】
そして、本発明では、評価手段により、前記検出手段によって検出された静的剛性に基づいて前記評価対象石材の安定状態が評価され、当該評価結果を示す情報が表示手段によって表示される。なお、上記表示手段による表示には、液晶ディスプレイ装置、プラズマ・ディスプレイ装置、有機ELディスプレイ装置、CRTディスプレイ装置等の各種ディスプレイ装置による可視表示の他、プリンタ装置等の画像形成装置による永久可視表示、音声合成装置等の音声出力装置による可聴表示が含まれる。
【0050】
すなわち、本発明では、前述した原理に基づき、並進加速度の時刻歴情報及び回転加速度の時刻歴情報の少なくとも一方に基づいて静的剛性を検出し、当該静的剛性に基づいて評価対象石材の安定状態を評価しており、この結果として、石垣を解体することなく、当該石垣を構成する石材の安定状態を高精度に評価することができるようにしている。
【0051】
このように、請求項1記載の安定状態評価装置によれば、複数の石材が積み重ねられて構成された石垣の安定状態の評価対象とする評価対象石材に対して打撃力を与えたときの当該評価対象石材における並進加速度の時刻歴情報及び回転加速度の時刻歴情報の少なくとも一方を取得すると共に、前記打撃力の時刻歴情報を取得し、前記並進加速度の時刻歴情報を取得した場合は、当該並進加速度の時刻歴情報及び前記打撃力の時刻歴情報に基づいて並進運動に関する静的剛性を検出し、前記回転加速度の時刻歴情報を取得した場合は、当該回転加速度の時刻歴情報及び前記打撃力の時刻歴情報に基づいて回転運動に関する静的剛性を検出し、検出した静的剛性に基づいて前記評価対象石材の安定状態を評価し、当該評価結果を示す情報を表示手段によって表示しているので、石垣を解体することなく、当該石垣を構成する石材の安定状態を高精度に評価することができる。
【0052】
なお、本発明は、請求項2に記載の発明のように、前記検出手段が、前記打撃力の時刻歴情報に基づいて当該打撃力のスペクトルを導出すると共に、前記取得手段によって前記並進加速度の時刻歴情報が取得された場合は、当該並進加速度の時刻歴情報に基づいて並進加速度のスペクトルを導出し、前記取得手段によって前記回転加速度の時刻歴情報が取得された場合は、当該回転加速度の時刻歴情報に基づいて回転加速度のスペクトルを導出する導出手段と、前記取得手段によって前記並進加速度の時刻歴情報が取得された場合は、前記並進加速度のスペクトルを前記打撃力のスペクトルで除算することにより並進運動に関するアクセレランスを算出し、前記取得手段によって前記回転加速度の時刻歴情報が取得された場合は、前記回転加速度のスペクトルを前記打撃力のスペクトルで除算することにより回転運動に関するアクセレランスを算出するアクセレランス算出手段と、前記取得手段によって前記並進加速度の時刻歴情報が取得された場合は、前記打撃力のスペクトルを、前記並進加速度のスペクトルを2回積分することにより得られた並進運動の変位スペクトルで除算することにより前記並進運動に関する動的剛性を算出し、前記取得手段によって前記回転加速度の時刻歴情報が取得された場合は、前記打撃力のスペクトルを、前記回転加速度のスペクトルを2回積分することにより得られた回転運動の変位スペクトルで除算することにより前記回転運動に関する動的剛性を算出する動的剛性算出手段と、を備え、前記取得手段によって前記並進加速度の時刻歴情報が取得された場合は、前記並進運動に関する動的剛性から前記並進運動に関するアクセレランスにおける卓越振動数近傍の、所定振動数当たりの変化量が所定範囲内とされている剛性を前記並進運動に関する静的剛性として検出し、前記取得手段によって前記回転加速度の時刻歴情報が取得された場合は、前記回転運動に関する動的剛性から前記回転運動に関するアクセレランスにおける卓越振動数近傍の、所定振動数当たりの変化量が所定範囲内とされている剛性を前記回転運動に関する静的剛性として検出するものとしてもよい。これにより、より簡易かつ高精度に石垣を構成する石材の安定状態を評価することができる。
【0053】
特に、請求項2に記載の発明は、請求項3に記載の発明のように、前記評価手段が、前記静的剛性が他の評価対象石材に比較して所定レベルより小さい評価対象石材の固定度が低く、不安定であるものと評価することにより、前記評価対象石材の安定状態を評価するものとしてもよい。これにより、より簡易に石垣を構成する石材の安定状態を評価することができる。
【0054】
また、請求項2又は請求項3に記載の発明は、請求項4に記載の発明のように、全ての前記評価対象石材について、前記取得手段によって前記並進加速度の時刻歴情報が取得された場合は、前記並進加速度の時刻歴情報を2回積分するか、又は前記並進運動の変位スペクトルをフーリエ逆変換することにより変位時刻歴を算出して当該変位時刻歴に基づいて減衰定数を算出し、前記取得手段によって前記回転加速度の時刻歴情報が取得された場合は、前記回転加速度の時刻歴情報を2回積分するか、又は前記回転運動の変位スペクトルをフーリエ逆変換することにより変位時刻歴を算出して当該変位時刻歴に基づいて減衰定数を算出する減衰定数算出手段を更に備え、前記評価手段が、前記減衰定数算出手段によって算出された全ての前記評価対象石材の前記減衰定数と前記静的剛性に基づいて質点系解析を行うことにより、前記評価対象石材の全体的な安定状態を評価するものとしてもよい。これにより、より高精度に石垣を構成する石材の安定状態を評価することができる。
【0055】
特に、請求項4に記載の発明は、請求項5に記載の発明のように、前記減衰定数と前記静的剛性を、前記取得手段によって取得された、対応する並進加速度の時刻歴情報及び回転加速度の時刻歴情報の少なくとも一方を用いた逆解析によって調整する調整手段を更に備えてもよい。これにより、より高精度に石垣を構成する石材の安定状態を評価することができる。
【0056】
また、請求項5に記載の発明は、前記調整手段が、前記逆解析を、遺伝的アルゴリズムを用いて行うものとしてもよい。これにより、より簡易かつ高精度に石垣を構成する石材の安定状態を評価することができる。
【0057】
さらに、本発明は、請求項6に記載の発明のように、前記取得手段が、前記並進加速度の時刻歴情報を取得する場合は、前記評価対象石材の下端部近傍と、前記評価対象石材の下部に隣接する石材の上端部近傍とに加速度センサが設けられ、前記回転加速度の時刻歴情報を取得する場合は、前記評価対象石材の上端部近傍と下端部近傍とに加速度センサが設けられて、前記評価対象石材の上端部近傍に設けられた前記加速度センサにより検出された加速度を加速度AC1とし、前記評価対象石材の下端部近傍に設けられた前記加速度センサにより検出された加速度を加速度AC2とし、前記評価対象石材の下部に隣接する石材の上端部近傍に設けられた前記加速度センサにより検出された加速度を加速度AC3とし、前記評価対象石材の上端部近傍に設けられた前記加速度センサと下端部近傍に設けられた前記加速度センサの距離をDとしたとき、前記並進加速度HAC及び前記回転加速度KACを次の演算式により算出することによって算出するものとしてもよい。
【0058】
【数1】

これにより、より簡易に並進加速度の時刻歴情報及び回転加速度の時刻歴情報を取得することができる結果、より簡易に石垣を構成する石材の安定状態を評価することができる。
【0059】
一方、上記目的を達成するために、請求項7記載の安定状態評価方法は、複数の石材が積み重ねられて構成された石垣の安定状態の評価対象とする評価対象石材に対して打撃力を与えたときの当該評価対象石材における並進加速度の時刻歴情報及び回転加速度の時刻歴情報の少なくとも一方を取得すると共に、前記打撃力の時刻歴情報を取得する取得工程と、前記取得工程によって前記並進加速度の時刻歴情報が取得された場合は、当該並進加速度の時刻歴情報及び前記打撃力の時刻歴情報に基づいて並進運動に関する静的剛性を検出し、前記取得工程によって前記回転加速度の時刻歴情報が取得された場合は、当該回転加速度の時刻歴情報及び前記打撃力の時刻歴情報に基づいて回転運動に関する静的剛性を検出する検出工程と、前記検出工程によって検出された静的剛性に基づいて前記評価対象石材の安定状態を評価する評価工程と、前記評価工程による評価結果を示す情報を表示手段によって表示する表示工程と、を有するものである。
【0060】
従って、請求項7記載の安定状態評価方法によれば、請求項1記載の発明と同様に作用するので、請求項1記載の発明と同様に、石垣を解体することなく、当該石垣を構成する石材の安定状態を高精度に評価することができる。
【0061】
一方、上記目的を達成するために、請求項8記載の安定状態評価プログラムは、複数の石材が積み重ねられて構成された石垣の安定状態の評価対象とする評価対象石材に対して打撃力を与えたときの当該評価対象石材における並進加速度の時刻歴情報及び回転加速度の時刻歴情報の少なくとも一方を取得すると共に、前記打撃力の時刻歴情報を取得する取得ステップと、前記取得ステップによって前記並進加速度の時刻歴情報が取得された場合は、当該並進加速度の時刻歴情報及び前記打撃力の時刻歴情報に基づいて並進運動に関する静的剛性を検出し、前記取得ステップによって前記回転加速度の時刻歴情報が取得された場合は、当該回転加速度の時刻歴情報及び前記打撃力の時刻歴情報に基づいて回転運動に関する静的剛性を検出する検出ステップと、前記検出ステップによって検出された静的剛性に基づいて前記評価対象石材の安定状態を評価する評価ステップと、前記評価ステップによる評価結果を示す情報を表示手段によって表示する表示ステップと、をコンピュータに実行させるものである。
【0062】
従って、請求項8記載の安定状態評価プログラムによれば、コンピュータに対して請求項1記載の発明と同様に作用させることができるので、請求項1記載の発明と同様に、石垣を解体することなく、当該石垣を構成する石材の安定状態を高精度に評価することができる。
【発明の効果】
【0063】
本発明によれば、複数の石材が積み重ねられて構成された石垣の安定状態の評価対象とする評価対象石材に対して打撃力を与えたときの当該評価対象石材における並進加速度の時刻歴情報及び回転加速度の時刻歴情報の少なくとも一方を取得すると共に、前記打撃力の時刻歴情報を取得し、前記並進加速度の時刻歴情報を取得した場合は、当該並進加速度の時刻歴情報及び前記打撃力の時刻歴情報に基づいて並進運動に関する静的剛性を検出し、前記回転加速度の時刻歴情報を取得した場合は、当該回転加速度の時刻歴情報及び前記打撃力の時刻歴情報に基づいて回転運動に関する静的剛性を検出し、検出した静的剛性に基づいて前記評価対象石材の安定状態を評価し、当該評価結果を示す情報を表示手段によって表示しているので、石垣を解体することなく、当該石垣を構成する石材の安定状態を高精度に評価することができる、という効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0064】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態の一例を詳細に説明する。
【0065】
[第1の実施の形態]
まず、図1を参照して、本発明が適用された安定状態評価システム10の構成を説明する。
【0066】
同図に示すように、本実施の形態に係る安定状態評価システム10は、当該システム10の中核的な役割を担うパーソナル・コンピュータ(以下、「PC」という。)12と、加速度センサ14と、インパルス・ハンマー16と、アンプ18と、データ・レコーダ20と、記録・出力装置22とを備えている。
【0067】
加速度センサ14の加速度の計測結果を示す加速度情報を出力する出力端子、及びインパルス・ハンマー16による打撃力を示す打撃力情報を出力する出力端子は、共にアンプ18の入力端子に接続されており、アンプ18の出力端子はデータ・レコーダ20の入力部に接続されている。従って、上記加速度情報及び打撃力情報はアンプ18によって所定のレベル範囲にまで増幅された後、データ・レコーダ20により記録される。
【0068】
一方、データ・レコーダ20の出力部はPC12の入力部に接続される一方、PC12の出力部は記録・出力装置22の入力部に接続されている。従って、PC12は、データ・レコーダ20に記録された加速度情報及び打撃力情報を読み出すことにより取得することができる一方、当該加速度情報及び打撃力情報に基づく各種情報を記録・出力装置22によって記録し、かつ出力することができる。なお、本実施の形態に係る安定状態評価システム10では、記録・出力装置22として、上記各種情報を記録するためのものとしてハードディスク装置が、上記各種情報を出力するためのものとしてプリンタが、各々搭載されているが、各種情報を記録ないし出力することができるものであれば、この装置に限らないことは言うまでもない。
【0069】
次に、図2を参照して、本システムにおいて特に重要な役割を有するPC12の電気系の要部構成を説明する。
【0070】
同図に示すように、本実施の形態に係るPC12は、PC12全体の動作を司るCPU(中央処理装置)12Aと、CPU12Aによる各種処理プログラムの実行時のワークエリア等として用いられるRAM12Bと、各種制御プログラムや各種パラメータ等が予め記憶されたROM12Cと、各種情報を記憶するために用いられる二次記憶部(ここでは、ハードディスク装置)12Dと、各種情報を入力するために用いられるキーボード12Eと、各種情報を表示するために用いられるディスプレイ12Fと、外部装置等との間の各種信号の授受を司る入出力I/F(インタフェース)12Gと、が備えられており、これら各部はシステムバスBUSにより電気的に相互に接続されている。
【0071】
従って、CPU12Aは、RAM12B、ROM12C、及び二次記憶部12Dに対するアクセス、キーボード12Eを介した各種入力情報の取得、ディスプレイ12Fに対する各種情報の表示、及び入出力I/F12Gを介した外部装置等との間の各種情報の授受を各々行うことができる。なお、入出力I/F12Gには、前述したデータ・レコーダ20及び記録・出力装置22が電気的に接続されている。
【0072】
一方、図3には、PC12に備えられた二次記憶部12Dの主な記憶内容が模式的に示されている。同図に示すように、二次記憶部12Dには、各種データベースを記憶するためのデータベース領域DBと、各種処理を行うためのプログラム等を記憶するためのプログラム領域PGと、が設けられている。
【0073】
なお、データベース領域DBには、石垣情報データベースDB1と、計測情報データベースDB2とが含まれている。
【0074】
本実施の形態に係る石垣情報データベースDB1は、一例として図4に模式的に示されるように、石材番号及び位置の各情報が、安定状態評価システム10により評価対象としている石垣を構成する石材毎に記憶されるように構成されている。
【0075】
上記石材番号情報は、評価対象とする石垣に含まれる各石材を識別するために、当該各石材に対し、互いに異なるものとして予め付与された情報である。
【0076】
一方、本実施の形態に係る安定状態評価システム10では、一例として図5に模式的に示されるように、評価対象とする石垣に含まれる各石材の位置を、予め定められた基準位置(同図に示す例では、左上角点の位置)に位置する石材の位置を原点座標(1,1)としたX−Y座標系で表現する。例えば、上記基準位置に位置する石材の右隣に隣接する石材の位置は(2,1)であり、上記基準位置に位置する石材の下に隣接する石材の位置は(1,2)である。
【0077】
上記石垣情報データベースDB1における位置情報は、このX−Y座標系により対応する石材の位置を示す情報であり、当該データベースを参照することによって、一例として図5に示されるような、評価対象とする石垣を示す画像を模式的に再現することができる。
【0078】
一方、本実施の形態に係る計測情報データベースDB2は、一例として図6に模式的に示されるように、石材番号、打撃力時刻歴、及び加速度時刻歴の各情報が、上記石材毎に記憶されるように構成されている。
【0079】
上記石材番号情報は、石垣情報データベースDB1と同一のものであり、上記打撃力時刻歴情報は、インパルス・ハンマー16から出力され、アンプ18を介してデータ・レコーダ20により記憶された打撃力の時刻歴を示す情報であり、上記加速度時刻歴情報は、インパルス・ハンマー16により対応する打撃力で、対応する石材を打撃した際に加速度センサ14から出力され、アンプ18を介してデータ・レコーダ20に記録された加速度応答を示す情報である。
【0080】
ところで、本実施の形態に係る安定状態評価システム10では、石垣を構成する個々の石材の運動が、一例として図44に示されるように、石材間における石材と石材との界面での並進運動と、石材の底面を中心とした回転運動とに分けられるものと考え、図1に示されるように、複数の石材が積み重ねられて構成された石垣(図示省略。)における当該複数の石材のうちの安定状態の評価対象とする評価対象石材50に対し、インパルス・ハンマー16により打撃力を与えたときの加速度応答を示す加速度時刻歴情報を加速度センサ14を介して取得し、取得した加速度時刻歴情報により示される加速度応答に基づいて評価対象石材50の静的剛性を検出し、当該静的剛性に基づいて評価対象石材50の安定状態を評価するものとされている。
【0081】
ここで、本実施の形態に係る安定状態評価システム10では、上記加速度時刻歴情報として、並進加速度の時刻歴情報を採用しており、一例として図49に示されるように、加速度センサ14を、評価対象石材50の下端部近傍と当該評価対象石材50の下部に隣接する石材の上端部近傍に設け、評価対象石材50の正面視略中央部に対してインパルス・ハンマー16により打撃力を与えたときの加速度時刻歴情報を各加速度センサ14によって取得し、計測情報データベースDB2に記録するものとされている。ここで、評価対象石材50が評価対象とする石垣の下端部に位置する場合には、当該評価対象石材50の下部に石材が存在しないが、この場合は評価対象石材50の下端部近傍にのみ加速度センサ14を設ける。
【0082】
なお、図24で示したものでは、評価対象石材の下部に隣接する石材に対する加速度センサの配設位置を当該石材の鉛直方向中央部としたが、並進加速度は、評価対象石材の下端部の加速度と当該評価対象石材の下部に隣接する石材の上端部の加速度の差を示すものであるので、評価対象石材の下部に隣接する石材の上端部に極力近づけたほうが好ましく、本実施の形態では、この形態を適用している。なお、この形態に限らず、例えば、評価対象石材の下部に隣接する石材の鉛直方向の異なる2点に加速度センサを設け、当該2点の加速度センサによる計測値を用いた補間により、上端部における加速度を算出する形態とすることもできる。また、同様に、評価対象石材についても、加速度センサを鉛直方向の異なる2点に設け、当該2点の加速度センサによる計測値を用いた補間により、下端部における加速度を算出する形態とすることもできる。
【0083】
次に、本実施の形態に係る安定状態評価システム10の作用を説明する。
【0084】
まず、複数の評価対象石材50における加速度時刻歴情報を取得する際の安定状態評価システム10の作用を説明する。
【0085】
このとき、作業員は、上述したように、複数の評価対象石材50のうちの何れか1つの下端部近傍に加速度センサ14を設ける一方、当該評価対象石材50の下部に隣接する石材が存在する場合には、当該石材の上端部近傍に加速度センサ14を設ける。そして、作業員は、インパルス・ハンマー16により評価対象石材50の正面視略中央部に対して打撃力を与える。
【0086】
この打撃力の付与に応じて加速度センサ14から加速度の計測結果を示す加速度情報が出力される一方、インパルス・ハンマー16からは上記打撃力を示す打撃力情報が出力される。
【0087】
この加速度情報及び打撃力情報はアンプ18によって所定のレベル範囲にまで増幅された後、データ・レコーダ20により記録される。このとき、加速度情報については、インパルス・ハンマー16により打撃力が与えられた直後から時系列に順次リアルタイムで加速度センサ14から出力されるため、これを加速度時刻歴情報としてデータ・レコーダ20に記録する。また、打撃力情報については、評価対象石材50に打撃力が与えられた直後から時系列に順次リアルタイムでインパルス・ハンマー16から出力されるため、これを打撃力時刻歴情報としてデータ・レコーダ20に記録する。
【0088】
なお、このとき、作業員は、インパルス・ハンマー16による評価対象石材50に対する打撃を、予め定められた順に実施する。これにより、上記予め定められた順に、打撃力時刻歴情報及び加速度時刻歴情報がデータ・レコーダ20に記録されるので、PC12は、データ・レコーダ20に記録された順に応じて、対応する石材番号に関連付けた状態で打撃力時刻歴情報及び加速度時刻歴情報を計測情報データベースDB2に登録する。なお、評価対象石材50が評価対象とする石垣の下端部に位置する場合には、当該評価対象石材50の下部に隣接する石材の上端部近傍における加速度時刻歴情報として、加速度がないことを示す0(零)を計測情報データベースDB2に登録する。
【0089】
以上の処理により、一例として図6に示される計測情報データベースDB2が構築されることになる。
【0090】
次に、図7を参照して、以上の手順により構築された計測情報データベースDB2を用いて評価対象石材50の安定状態を評価する際の本実施の形態に係る安定状態評価システム10の作用を説明する。なお、図7は、ユーザにより、PC12に設けられているキーボード等の入力装置(図示省略。)を介して安定状態の評価の実行指示が入力された際にPC12のCPU12Aによって実行される安定状態評価処理プログラムの処理の流れを示すフローチャートであり、当該プログラムは二次記憶部12Dのプログラム領域PGに予め記憶されている。また、ここでは、錯綜を回避するために、石垣情報データベースDB1及び計測情報データベースDB2が予め構築されている場合について説明する。
【0091】
同図のステップ100では、計測情報データベースDB2から何れか1つの評価対象石材50に対応する打撃力時刻歴情報及び加速度時刻歴情報を読み出し、次のステップ102にて、次の(1)式により並進加速度の時刻歴情報を算出する。なお、(1)式において、AC2は評価対象石材50の下端部近傍に設けられた加速度センサにより測定された加速度を表し、AC3は評価対象石材50の下部に隣接する石材の上端部近傍に設けられた加速度センサにより測定された加速度を表し、HACは並進加速度を表し、同一時刻に対応する加速度AC2と加速度AC3を(1)式に代入することにより、並進加速度の時刻歴情報を算出する。
【0092】
【数2】

次のステップ104では、上記ステップ100の処理によって読み出された打撃力時刻歴情報をフーリエ変換することによって打撃力のスペクトルを導出すると共に、上記ステップ102の処理によって算出された並進加速度の時刻歴情報をフーリエ変換することによって並進加速度のスペクトルを導出する。
【0093】
次のステップ106では、上記ステップ104の処理によって導出された並進加速度のスペクトルを打撃力のスペクトルで除算することによって並進運動に関するアクセレランスを算出し、次のステップ108では、上記打撃力のスペクトルを、上記並進加速度のスペクトルを2回積分することにより得られた並進運動の変位スペクトルで除算することにより並進運動に関する動的剛性を算出して、二次記憶部12Dの所定領域に記憶する。
【0094】
次のステップ110では、上記ステップ108の処理によって算出された並進運動に関する動的剛性から、上記ステップ106の処理によって算出された並進運動に関するアクセレランスにおける卓越振動数近傍の、所定振動数当たりの変化量が所定範囲内とされている剛性を静的剛性として検出する。
【0095】
すなわち、ハンマーの加振力f(t)と、石材の運動方程式は次の式のように表される。ここで、mは石材の質量を表し、cは減衰定数を表し、kはばね定数(静的剛性)を表す。また、a(t)は石材の加速度を表し、v(t)は石材の速度を表し、d(t)は石材の変位を表す。
【0096】
【数3】

これをフーリエ変換して加振力スペクトルを求めると、次の式となる。ここで、F(ω)は加振力スペクトルを表し、A(ω)は石材の加速度スペクトルを表し、V(ω)は石材の速度スペクトルを表し、D(ω)は石材の変位スペクトルを表す。
【0097】
【数4】

これを変位スペクトルD(ω)で割り、動的剛性を求めると、次の式のようになる。
【0098】
【数5】

ところで、速度スペクトルV(ω)及び加速度スペクトルA(ω)は次の式で表される。
【0099】
【数6】

そこで、この式を代入することにより、動的剛性は次の式で表される。
【0100】
【数7】

質量m,減衰定数c,ばね定数kと、ωの大きさにより、特定のωにおいて、第1項〜第3項のどの部分が支配的になるかが決まる。第1項はωの2次の項であり、第2項はωの1次の項、第3項は定数となっているので、動的剛性の中で定数になっている(グラフにおいては平坦となっている)部分がばね定数k、すなわち静的剛性となる。
【0101】
なお、本実施の形態に係る安定状態評価処理プログラムでは、上記ステップ110の処理で用いる上記所定範囲として、当該範囲内に上記変化量が含まれていれば、静的剛性であるものと判断することのできる範囲として予め実験等により得られた範囲を適用しているが、これに限るものではない。
【0102】
次のステップ112では、上記並進加速度の時刻歴情報を2回積分するか、又は上記並進運動の変位スペクトルをフーリエ逆変換することにより変位時刻歴を算出し、当該変位時刻歴に基づいて減衰定数を算出して、二次記憶部12Dの所定領域に記憶する。
【0103】
なお、本実施の形態に係る安定状態評価処理プログラムでは、一例として図8に示されるように、上記変位時刻歴の第1のピーク値をd1とし、第2のピーク値をd2として、第1のピーク値d1及び第2のピーク値d2を次の(2)式に代入することにより、減衰定数hを算出する。
【0104】
【数8】

なお、本実施の形態に係る安定状態評価処理プログラムでは、上記変位時刻歴を、上記並進運動の変位スペクトルをフーリエ逆変換することにより算出している。
【0105】
次のステップ114では、全ての評価対象石材50について上記ステップ100〜ステップ112の処理が終了したか否かを判定し、否定判定となった場合は上記ステップ100に戻る一方、肯定判定となった時点でステップ116に移行する。なお、上記ステップ100〜ステップ114の処理を繰り返し実行する際には、それまでに処理対象としなかった評価対象石材50を処理対象とするようにする。
【0106】
ステップ116では、上記ステップ110の処理によって記憶された全ての評価対象石材50の静的剛性を読み出し、当該静的剛性に基づいて評価対象石材50の安定状態を判定(評価)する。なお、本実施の形態に係る安定状態評価処理プログラムでは、上記ステップ116の処理を、静的剛性が他の評価対象石材50に比較して所定レベルより小さい評価対象石材50を、固定度が低く、不安定である石材であるものとして同定することにより行っている。
【0107】
本実施の形態では、上記所定レベルとして、各評価対象石材50の静的剛性の最大値の所定割合(一例として、50%)の値を適用しているが、これに限らず、安定状態評価システム10の用途や、要求される精度等に応じて上記所定レベルを適宜設定するようにしてもよい。また、上記ステップ116において行われる判定処理は、このような他の評価対象石材50との比較による相対的な判定処理に限らず、例えば、安定している状態の石材における静的剛性を基準値として予め得ておき、当該基準値より静的剛性が所定値以上小さな評価対象石材50を不具合のある石材であるものとして同定する形態等、算出した静的剛性に基づいて評価対象石材50の安定状態を評価する形態であれば、如何なる形態も適用することができる。
【0108】
次のステップ118では、上記ステップ116の処理によって得られた評価対象石材50の安定状態の判定結果に基づいて、予め定められたフォーマットとされた評価結果を示す結果画面を示す情報を構成し、次のステップ120にて、構成した情報に基づいて上記結果画面をディスプレイ12Fによって表示させ、その後に本安定状態評価処理プログラムを終了する。
【0109】
図9には、本安定状態評価処理プログラムのステップ120の処理によってディスプレイ12Fにより表示された結果画面の表示状態例が示されている。同図に示されるように、本実施の形態に係る安定状態評価処理プログラムでは、上記ステップ116の処理によって固定度が低いものと判定された石材が表示される。従って、安定状態評価システム10の利用者は、当該結果画面を参照することにより、対策する場合に優先すべき石材を容易に把握することができる。
【0110】
以上詳細に説明したように、本実施の形態では、複数の石材が積み重ねられて構成された石垣の安定状態の評価対象とする評価対象石材に対して打撃力を与えたときの当該評価対象石材における並進加速度の時刻歴情報を取得すると共に、前記打撃力の時刻歴情報を取得し、当該並進加速度の時刻歴情報及び打撃力の時刻歴情報に基づいて並進運動に関する静的剛性を検出し、検出した静的剛性に基づいて前記評価対象石材の安定状態を評価し、当該評価結果を示す情報を表示しているので、石垣を解体することなく、当該石垣を構成する石材の安定状態を高精度に評価することができる。
【0111】
また、本実施の形態では、前記打撃力の時刻歴情報に基づいて当該打撃力のスペクトルを導出すると共に、前記並進加速度の時刻歴情報に基づいて並進加速度のスペクトルを導出し、前記並進加速度のスペクトルを前記打撃力のスペクトルで除算することにより並進運動に関するアクセレランスを算出し、前記打撃力のスペクトルを、前記並進加速度のスペクトルを2回積分することにより得られた並進運動の変位スペクトルで除算することにより前記並進運動に関する動的剛性を算出し、前記並進運動に関する動的剛性から前記並進運動に関するアクセレランスにおける卓越振動数近傍の、所定振動数当たりの変化量が所定範囲内とされている剛性を前記並進運動に関する静的剛性として検出しているので、より簡易かつ高精度に石垣を構成する石材の安定状態を評価することができる。
【0112】
特に、本実施の形態では、前記静的剛性が他の評価対象石材に比較して所定レベルより小さい評価対象石材の固定度が低く、不安定であるものと評価することにより、前記評価対象石材の安定状態を評価しているので、より簡易に石垣を構成する石材の安定状態を評価することができる。
【0113】
更に、本実施の形態では、前記評価対象石材の下端部近傍と、前記評価対象石材の下部に隣接する石材の上端部近傍とに加速度センサが設けられて、前記評価対象石材の下端部近傍に設けられた前記加速度センサにより検出された加速度を加速度AC2とし、前記評価対象石材の下部に隣接する石材の上端部近傍に設けられた前記加速度センサにより検出された加速度を加速度AC3としたとき、前記並進加速度HACを上記(1)式により算出しているので、より簡易に並進加速度の時刻歴情報を取得することができる結果、より簡易に石垣を構成する石材の安定状態を評価することができる。
【0114】
[第2の実施の形態]
本第2の実施の形態では、回転加速度の時刻歴情報を用いて石材の安定状態を評価する場合の形態例について説明する。なお、本第2の実施の形態に係る安定状態評価システム10の構成、及び各データベースDB1,DB2のデータ構造は、上記第1の実施の形態に係るもの(図1〜図6参照。)と同一であるので、ここでの説明は省略する。
【0115】
本第2の実施の形態に係る安定状態評価システム10においても、石垣を構成する個々の石材の運動が、一例として図44に示されるように、石材間における石材と石材との界面での並進運動と、石材の底面を中心とした回転運動とに分けられるものと考え、図1に示されるように、複数の石材が積み重ねられて構成された石垣(図示省略。)における当該複数の石材のうちの安定状態の評価対象とする評価対象石材50に対し、インパルス・ハンマー16により打撃力を与えたときの加速度応答を示す加速度時刻歴情報を加速度センサ14を介して取得し、取得した加速度時刻歴情報により示される加速度応答に基づいて評価対象石材50の静的剛性を検出し、当該静的剛性に基づいて評価対象石材50の安定状態を評価するものとされている。
【0116】
ここで、本第2の実施の形態に係る安定状態評価システム10では、上記加速度時刻歴情報として、回転加速度の時刻歴情報を採用しており、一例として図49に示されるように、加速度センサ14を、評価対象石材50の上端部近傍と下端部近傍に設け、評価対象石材50の正面視略中央部に対してインパルス・ハンマー16により打撃力を与えたときの加速度時刻歴情報を各加速度センサ14によって取得し、計測情報データベースDB2に記録するものとされている。
【0117】
次に、本第2の実施の形態に係る安定状態評価システム10の作用を説明する。
【0118】
まず、複数の評価対象石材50における加速度時刻歴情報を取得する際の安定状態評価システム10の作用を説明する。
【0119】
このとき、作業員は、上述したように、複数の評価対象石材50のうちの何れか1つの上端部近傍と下端部近傍に加速度センサ14を設ける。そして、作業員は、インパルス・ハンマー16により評価対象石材50の正面視略中央部に対して打撃力を与える。
【0120】
この打撃力の付与に応じて各加速度センサ14から加速度の計測結果を示す加速度情報が出力される一方、インパルス・ハンマー16からは上記打撃力を示す打撃力情報が出力される。
【0121】
この加速度情報及び打撃力情報はアンプ18によって所定のレベル範囲にまで増幅された後、データ・レコーダ20により記録される。このとき、加速度情報については、インパルス・ハンマー16により打撃力が与えられた直後から時系列に順次リアルタイムで加速度センサ14から出力されるため、これを加速度時刻歴情報としてデータ・レコーダ20に記録する。また、打撃力情報については、評価対象石材50に打撃力が与えられた直後から時系列に順次リアルタイムでインパルス・ハンマー16から出力されるため、これを打撃力時刻歴情報としてデータ・レコーダ20に記録する。
【0122】
なお、このとき、作業員は、インパルス・ハンマー16による評価対象石材50に対する打撃を、予め定められた順に実施する。これにより、上記予め定められた順に、打撃力時刻歴情報及び加速度時刻歴情報がデータ・レコーダ20に記録されるので、PC12は、データ・レコーダ20に記録された順に応じて、対応する石材番号に関連付けた状態で打撃力時刻歴情報及び加速度時刻歴情報を計測情報データベースDB2に登録する。
【0123】
以上の処理により、一例として図6に示される計測情報データベースDB2が構築されることになる。
【0124】
次に、図10を参照して、以上の手順により構築された計測情報データベースDB2を用いて評価対象石材50の安定状態を評価する際の本第2の実施の形態に係る安定状態評価システム10の作用を説明する。なお、図10は、ユーザにより、PC12に設けられているキーボード等の入力装置(図示省略。)を介して安定状態の評価の実行指示が入力された際にPC12のCPU12Aによって実行される、本第2の実施の形態に係る安定状態評価処理プログラムの処理の流れを示すフローチャートであり、当該プログラムは二次記憶部12Dのプログラム領域PGに予め記憶されている。また、ここでは、錯綜を回避するために、石垣情報データベースDB1及び計測情報データベースDB2が予め構築されている場合について説明する。
【0125】
同図のステップ200では、計測情報データベースDB2から何れか1つの評価対象石材50に対応する打撃力時刻歴情報及び加速度時刻歴情報を読み出し、次のステップ202にて、次の(3)式により回転加速度の時刻歴情報を算出する。なお、(3)式において、AC1は評価対象石材50の上端部近傍に設けられた加速度センサにより測定された加速度を表し、AC2は評価対象石材50の下端部近傍に設けられた加速度センサにより測定された加速度を表し、Dは前記評価対象石材50の上端部近傍に設けられた加速度センサと下端部近傍に設けられた加速度センサの距離を表し、KACは回転加速度を表し、同一時刻に対応する加速度AC1と加速度AC2を(3)式に代入することにより、回転加速度の時刻歴情報を算出する。
【0126】
【数9】

次のステップ204では、上記ステップ200の処理によって読み出された打撃力時刻歴情報をフーリエ変換することによって打撃力のスペクトルを導出すると共に、上記ステップ202の処理によって算出された回転加速度の時刻歴情報をフーリエ変換することによって回転加速度のスペクトルを導出する。
【0127】
次のステップ206では、上記ステップ204の処理によって導出された回転加速度のスペクトルを打撃力のスペクトルで除算することによって回転運動に関するアクセレランスを算出し、次のステップ208では、上記打撃力のスペクトルを、上記回転加速度のスペクトルを2回積分することにより得られた回転運動の変位スペクトルで除算することにより回転運動に関する動的剛性を算出して、二次記憶部12Dの所定領域に記憶する。
【0128】
次のステップ210では、上記ステップ208の処理によって算出された回転運動に関する動的剛性から、上記ステップ206の処理によって算出された回転運動に関するアクセレランスにおける卓越振動数近傍の、所定振動数当たりの変化量が所定範囲内とされている剛性を静的剛性として検出する。なお、本第2の実施の形態に係る安定状態評価処理プログラムでは、上記所定範囲として、当該範囲内に上記変化量が含まれていれば、静的剛性であるものと判断することのできる範囲として予め実験等により得られた範囲を適用しているが、これに限るものではない。
【0129】
次のステップ212では、上記回転加速度の時刻歴情報を2回積分するか、又は上記回転運動の変位スペクトルをフーリエ逆変換することにより変位時刻歴を算出し、当該変位時刻歴に基づいて減衰定数を算出して、二次記憶部12Dの所定領域に記憶する。
【0130】
なお、本第2の実施の形態に係る安定状態評価処理プログラムにおいても、上記(2)式を用いて減衰定数hを算出する。
【0131】
本第2の実施の形態に係る安定状態評価処理プログラムでは、上記変位時刻歴を、上記回転運動の変位スペクトルをフーリエ逆変換することにより算出している。
【0132】
次のステップ214では、全ての評価対象石材50について上記ステップ200〜ステップ212の処理が終了したか否かを判定し、否定判定となった場合は上記ステップ200に戻る一方、肯定判定となった時点でステップ216に移行する。なお、上記ステップ200〜ステップ214の処理を繰り返し実行する際には、それまでに処理対象としなかった評価対象石材50を処理対象とするようにする。
【0133】
ステップ216では、上記ステップ210の処理によって記憶された全ての評価対象石材50の静的剛性を読み出し、当該静的剛性に基づいて評価対象石材50の安定状態を判定(評価)する。なお、本第2の実施の形態に係る安定状態評価処理プログラムでは、上記ステップ216の処理を、静的剛性が他の評価対象石材50に比較して所定レベルより小さい評価対象石材50を、固定度が低く、不安定である石材であるものとして同定することにより行っている。
【0134】
本第2の実施の形態に係る安定状態評価処理プログラムでは、上記所定レベルとして、各評価対象石材50の静的剛性の最大値の所定割合(一例として、50%)の値を適用しているが、これに限らず、安定状態評価システム10の用途や、要求される精度等に応じて上記所定レベルを適宜設定するようにしてもよい。また、上記ステップ216において行われる判定処理は、このような他の評価対象石材50との比較による相対的な判定処理に限らず、例えば、安定している状態の石材における静的剛性を基準値として予め得ておき、当該基準値より静的剛性が所定値以上小さな評価対象石材50を不具合のある石材であるものとして同定する形態等、算出した静的剛性に基づいて評価対象石材50の安定状態を評価する形態であれば、如何なる形態も適用することができる。
【0135】
次のステップ218では、上記ステップ216の処理によって得られた評価対象石材50の安定状態の判定結果に基づいて、予め定められたフォーマットとされた評価結果を示す結果画面を示す情報を構成し、次のステップ220にて、構成した情報に基づいて上記結果画面をディスプレイ12Fによって表示させ、その後に本安定状態評価処理プログラムを終了する。なお、本第2の実施の形態に係る安定状態評価処理プログラムのステップ220の処理においても、図9に示される結果画面がディスプレイ12Fにより表示される。従って、安定状態評価システム10の利用者は、当該結果画面を参照することにより、対策する場合に優先すべき石材を容易に把握することができる。
【0136】
以上詳細に説明したように、本実施の形態では、複数の石材が積み重ねられて構成された石垣の安定状態の評価対象とする評価対象石材に対して打撃力を与えたときの当該評価対象石材における回転加速度の時刻歴情報を取得すると共に、前記打撃力の時刻歴情報を取得し、当該回転加速度の時刻歴情報及び打撃力の時刻歴情報に基づいて回転運動に関する静的剛性を検出し、検出した静的剛性に基づいて前記評価対象石材の安定状態を評価し、当該評価結果を示す情報を表示しているので、石垣を解体することなく、当該石垣を構成する石材の安定状態を高精度に評価することができる。
【0137】
また、本実施の形態では、前記打撃力の時刻歴情報に基づいて当該打撃力のスペクトルを導出すると共に、前記回転加速度の時刻歴情報に基づいて回転加速度のスペクトルを導出し、前記回転加速度のスペクトルを前記打撃力のスペクトルで除算することにより回転運動に関するアクセレランスを算出し、前記打撃力のスペクトルを、前記回転加速度のスペクトルを2回積分することにより得られた回転運動の変位スペクトルで除算することにより前記回転運動に関する動的剛性を算出し、前記回転運動に関する動的剛性から前記回転運動に関するアクセレランスにおける卓越振動数近傍の、所定振動数当たりの変化量が所定範囲内とされている剛性を前記回転運動に関する静的剛性として検出しているので、より簡易かつ高精度に石垣を構成する石材の安定状態を評価することができる。
【0138】
特に、本実施の形態では、前記静的剛性が他の評価対象石材に比較して所定レベルより小さい評価対象石材の固定度が低く、不安定であるものと評価することにより、前記評価対象石材の安定状態を評価しているので、より簡易に石垣を構成する石材の安定状態を評価することができる。
【0139】
更に、本実施の形態では、前記評価対象石材の上端部近傍と下端部近傍とに加速度センサが設けられて、前記評価対象石材の上端部近傍に設けられた前記加速度センサにより検出された加速度を加速度AC1とし、前記評価対象石材の下端部近傍に設けられた前記加速度センサにより検出された加速度を加速度AC2とし、前記評価対象石材の上端部近傍に設けられた前記加速度センサと下端部近傍に設けられた前記加速度センサの距離をDとしたとき、前記回転加速度KACを(3)式により算出しているので、より簡易に回転加速度の時刻歴情報を取得することができる結果、より簡易に石垣を構成する石材の安定状態を評価することができる。
【0140】
[第3の実施の形態]
本第3の実施の形態では、並進加速度及び回転加速度の各々の時刻歴情報を用いて石材の安定状態を評価する場合の形態例について説明する。なお、本第3の実施の形態に係る安定状態評価システム10の構成、及び各データベースDB1,DB2のデータ構造は、上記第1の実施の形態に係るもの(図1〜図6参照。)と同一であるので、ここでの説明は省略する。
【0141】
本第3の実施の形態に係る安定状態評価システム10においても、石垣を構成する個々の石材の運動が、一例として図44に示されるように、石材間における石材と石材との界面での並進運動と、石材の底面を中心とした回転運動とに分けられるものと考え、図1に示されるように、複数の石材が積み重ねられて構成された石垣(図示省略。)における当該複数の石材のうちの安定状態の評価対象とする評価対象石材50に対し、インパルス・ハンマー16により打撃力を与えたときの加速度応答を示す加速度時刻歴情報を加速度センサ14を介して取得し、取得した加速度時刻歴情報により示される加速度応答に基づいて評価対象石材50の静的剛性を検出し、当該静的剛性に基づいて評価対象石材50の安定状態を評価するものとされている。
【0142】
ここで、本第3の実施の形態に係る安定状態評価システム10では、上記加速度時刻歴情報として、並進加速度と回転加速度の双方の時刻歴情報を採用しており、一例として図49に示されるように、加速度センサ14を、評価対象石材50の上端部近傍及び下端部近傍に設けると共に、当該評価対象石材50の下部に隣接する石材の上端部近傍に設け、評価対象石材50の正面視略中央部に対してインパルス・ハンマー16により打撃力を与えたときの加速度時刻歴情報を各加速度センサ14によって取得し、計測情報データベースDB2に記録するものとされている。ここで、評価対象石材50が評価対象とする石垣の下端部に位置する場合には、当該評価対象石材50の下部に石材が存在しないが、この場合は評価対象石材50の上端部近傍及び下端部近傍にのみ加速度センサ14を設ける。
【0143】
なお、図24で示したものでは、評価対象石材の下部に隣接する石材に対する加速度センサの配設位置を当該石材の鉛直方向中央部としたが、並進加速度は、評価対象石材の下端部の加速度と当該評価対象石材の下部に隣接する石材の上端部の加速度の差を示すものであるので、評価対象石材の下部に隣接する石材の上端部に極力近づけたほうが好ましく、本実施の形態では、この形態を適用している。なお、この形態に限らず、例えば、評価対象石材の下部に隣接する石材の鉛直方向の異なる2点に加速度センサを設け、当該2点の加速度センサによる計測値を用いた補間により、上端部における加速度を算出する形態とすることもできる。また、同様に、評価対象石材についても、加速度センサを鉛直方向の異なる2点に設け、当該2点の加速度センサによる計測値を用いた補間により、下端部における加速度を算出する形態とすることもできる。
【0144】
次に、本第3の実施の形態に係る安定状態評価システム10の作用を説明する。
【0145】
まず、複数の評価対象石材50における加速度時刻歴情報を取得する際の安定状態評価システム10の作用を説明する。
【0146】
このとき、作業員は、上述したように、複数の評価対象石材50のうちの何れか1つの上端部近傍と下端部近傍に加速度センサ14を設ける一方、当該評価対象石材50の下部に隣接する石材が存在する場合には、当該石材の上端部近傍に加速度センサ14を設ける。そして、作業員は、インパルス・ハンマー16により評価対象石材50の正面視略中央部に対して打撃力を与える。
【0147】
この打撃力の付与に応じて各加速度センサ14から加速度の計測結果を示す加速度情報が出力される一方、インパルス・ハンマー16からは上記打撃力を示す打撃力情報が出力される。
【0148】
この加速度情報及び打撃力情報はアンプ18によって所定のレベル範囲にまで増幅された後、データ・レコーダ20により記録される。このとき、加速度情報については、インパルス・ハンマー16により打撃力が与えられた直後から時系列に順次リアルタイムで加速度センサ14から出力されるため、これを加速度時刻歴情報としてデータ・レコーダ20に記録する。また、打撃力情報については、評価対象石材50に打撃力が与えられた直後から時系列に順次リアルタイムでインパルス・ハンマー16から出力されるため、これを打撃力時刻歴情報としてデータ・レコーダ20に記録する。
【0149】
なお、このとき、作業員は、インパルス・ハンマー16による評価対象石材50に対する打撃を、予め定められた順に実施する。これにより、上記予め定められた順に、打撃力時刻歴情報及び加速度時刻歴情報がデータ・レコーダ20に記録されるので、PC12は、データ・レコーダ20に記録された順に応じて、対応する石材番号に関連付けた状態で打撃力時刻歴情報及び加速度時刻歴情報を計測情報データベースDB2に登録する。なお、評価対象石材50が評価対象とする石垣の下端部に位置する場合には、当該評価対象石材50の下部に隣接する石材の上端部近傍における加速度時刻歴情報として、加速度がないことを示す0(零)を計測情報データベースDB2に登録する。
【0150】
以上の処理により、一例として図6に示される計測情報データベースDB2が構築されることになる。
【0151】
次に、図11を参照して、以上の手順により構築された計測情報データベースDB2を用いて評価対象石材50の安定状態を評価する際の本第3の実施の形態に係る安定状態評価システム10の作用を説明する。なお、図11は、ユーザにより、PC12に設けられているキーボード等の入力装置(図示省略。)を介して安定状態の評価の実行指示が入力された際にPC12のCPU12Aによって実行される安定状態評価処理プログラムの処理の流れを示すフローチャートであり、当該プログラムは二次記憶部12Dのプログラム領域PGに予め記憶されている。また、ここでは、錯綜を回避するために、石垣情報データベースDB1及び計測情報データベースDB2が予め構築されている場合について説明する。
【0152】
同図のステップ300では、計測情報データベースDB2から何れか1つの評価対象石材50に対応する打撃力時刻歴情報及び加速度時刻歴情報を読み出し、次のステップ302にて、上記(1)式により並進加速度の時刻歴情報を算出すると共に、上記(3)式により回転加速度の時刻歴情報を算出する。
【0153】
次のステップ304では、上記ステップ300の処理によって読み出された打撃力時刻歴情報をフーリエ変換することによって打撃力のスペクトルを導出すると共に、上記ステップ302の処理によって算出された並進加速度の時刻歴情報をフーリエ変換することによって並進加速度のスペクトルを導出し、かつ上記ステップ302の処理によって算出された回転加速度の時刻歴情報をフーリエ変換することによって回転加速度のスペクトルを導出する。
【0154】
次のステップ306では、上記ステップ304の処理によって導出された並進加速度のスペクトルを打撃力のスペクトルで除算することによって並進運動に関するアクセレランスを算出すると共に、上記ステップ304の処理によって導出された回転加速度のスペクトルを打撃力のスペクトルで除算することによって回転運動に関するアクセレランスを算出し、次のステップ308では、上記打撃力のスペクトルを、上記並進加速度のスペクトルを2回積分することにより得られた並進運動の変位スペクトルで除算することにより並進運動に関する動的剛性を算出すると共に、上記打撃力のスペクトルを、上記回転加速度のスペクトルを2回積分することにより得られた回転運動の変位スペクトルで除算することにより回転運動に関する動的剛性を算出して、各動的剛性を示す情報を二次記憶部12Dの所定領域に記憶する。
【0155】
次のステップ310では、上記ステップ308の処理によって算出された並進運動に関する動的剛性から、上記ステップ306の処理によって算出された並進運動に関するアクセレランスにおける卓越振動数近傍の、所定振動数当たりの変化量が所定範囲内とされている剛性を並進運動に関する静的剛性として検出すると共に、上記ステップ308の処理によって算出された回転運動に関する動的剛性から、上記ステップ306の処理によって算出された回転運動に関するアクセレランスにおける卓越振動数近傍の、所定振動数当たりの変化量が所定範囲内とされている剛性を回転運動に関する静的剛性として検出して、検出した静的剛性を二次記憶部12Dの所定領域に記憶する。なお、本実施の形態に係る安定状態評価処理プログラムでは、上記所定範囲として、当該範囲内に上記変化量が含まれていれば、静的剛性であるものと判断することのできる範囲として、並進運動及び回転運動の各々別に予め実験等により得られた範囲を適用しているが、これに限るものではない。
【0156】
次のステップ312では、上記並進加速度の時刻歴情報を2回積分するか、又は上記並進運動の変位スペクトルをフーリエ逆変換することにより並進運動の変位時刻歴を算出し、当該変位時刻歴に基づいて並進運動の減衰定数を算出すると共に、上記回転加速度の時刻歴情報を2回積分するか、又は上記回転運動の変位スペクトルをフーリエ逆変換することにより回転運動の変位時刻歴を算出し、当該変位時刻歴に基づいて回転運動の減衰定数を算出して、算出した減衰定数を二次記憶部12Dの所定領域に記憶する。
【0157】
なお、本第3の実施の形態に係る安定状態評価処理プログラムにおいても、上記(2)式を用いて減衰定数hを算出する。
【0158】
本第3の実施の形態に係る安定状態評価処理プログラムでは、上記並進運動の変位時刻歴を、上記並進運動の変位スペクトルをフーリエ逆変換することにより算出すると共に、上記回転運動の変位時刻歴を、上記回転運動の変位スペクトルをフーリエ逆変換することにより算出している。
【0159】
次のステップ314では、全ての評価対象石材50について上記ステップ300〜ステップ312の処理が終了したか否かを判定し、否定判定となった場合は上記ステップ300に戻る一方、肯定判定となった時点でステップ316に移行する。なお、上記ステップ300〜ステップ314の処理を繰り返し実行する際には、それまでに処理対象としなかった評価対象石材50を処理対象とするようにする。
【0160】
ステップ316では、上記ステップ310の処理によって記憶された全ての評価対象石材50の静的剛性を読み出し、当該静的剛性に基づいて評価対象石材50の安定状態を判定(評価)して、当該判定結果を示す情報を二次記憶部12Dの所定領域に記憶する。なお、本第3の実施の形態に係る安定状態評価処理プログラムでは、上記ステップ316の処理を、並進運動に関する静的剛性及び回転運動に関する静的剛性の少なくとも一方が他の評価対象石材50に比較して所定レベルより小さい評価対象石材50を、固定度が低く、不安定である石材であるものとして同定することにより行っている。
【0161】
本第3の実施の形態に係る安定状態評価処理プログラムでは、上記所定レベルとして、各評価対象石材50の対応する静的剛性の最大値の所定割合(一例として、50%)の値を適用しているが、これに限らず、安定状態評価システム10の用途や、要求される精度等に応じて上記所定レベルを適宜設定するようにしてもよい。また、上記ステップ316において行われる判定処理は、このような他の評価対象石材50との比較による相対的な判定処理に限らず、例えば、安定している状態の石材における静的剛性を基準値として予め得ておき、当該基準値より静的剛性が所定値以上小さな評価対象石材50を不具合のある石材であるものとして同定する形態等、算出した静的剛性に基づいて評価対象石材50の安定状態を評価する形態であれば、如何なる形態も適用することができる。
【0162】
ところで、石材を打撃した力は周囲の石材全てに流れるため、上下の石材の間に作用した力はインパルス・ハンマーで計測された力よりも小さくなる。従って、計測により求められた動的剛性が必ずしも上下の石材の間の剛性を表すわけではない。そのため、求められた静的剛性(ばね定数)及び減衰定数を初期値として打撃試験を模擬するように調整することで、より正確なパラメータを求めれば、より正確な安定性評価を行うことができる。
【0163】
そこで、次のステップ318では、以上の処理によって得られた静的剛性及び減衰定数を、対応する加速度の時刻歴情報を用いた逆解析(本実施の形態では、遺伝的アルゴリズムによる逆解析)によって調整する調整処理ルーチン・プログラムを実行する。なお、遺伝的アルゴリズムは、ダーウィンの進化論を応用して、ある解空間のなかでの最適解を探索する手法であり、微分不可能な問題にも適用可能であり、拘束条件が複雑な問題にも適用可能といった特徴をもっている。
【0164】
以下、図12を参照して、調整処理ルーチン・プログラムについて説明する。なお、図12は、当該調整処理ルーチン・プログラムの処理の流れを示すフローチャートであり、当該プログラムも二次記憶部12Dのプログラム領域PGに予め記憶されている。
【0165】
まず、ステップ350では、上記ステップ310の処理によって記憶された静的剛性(ばね定数)及び上記ステップ312の処理によって記憶された減衰定数を二次記憶部12Dから読み出し、読み出した静的剛性及び減衰定数を2進数にコーディングし、乱数により複数の解の候補群(以下、「個体群」という。)を作成する。
【0166】
次のステップ352では、各個体が、どの程度解としてふさわしいか(適応度)を評価し、次のステップ354にて、ふさわしくない個体を削除する淘汰を行い、次のステップ356にて、2つの個体から新たな個体(解候補)を作成する交叉を行い、更に、次のステップ358にて、乱数によって新たな解候補を作成する突然変異を行う。
【0167】
次のステップ360では、予め定められた終了条件を満足したか否かを判定し、否定判定となった場合は上記ステップ352に戻る一方、肯定判定となった時点で本調整処理ルーチン・プログラムを終了する。なお、本第3の実施の形態に係る調整処理ルーチン・プログラムでは、上記ステップ360における終了条件として、上記ステップ352〜ステップ358の処理の繰り返し実行回数が予め定められた回数(一例として1万回)に達した、との条件を適用しているが、これに限らず、例えば、適応度が所定値以上となった、との条件を適用する形態等、他の形態とすることもできる。
【0168】
ここで、上記個体のコーディングや適応度の評価には様々な手法があるが、例えば、静的剛性や減衰定数の値の範囲を適切に設定し、その範囲のなかで各定数を0から1までの範囲内の固定小数点として2進コード化する手法が例示できる。また、適応度の評価としては、次の(4)式に示されるように、実験で得られた加速度f(t)と、解析で得られた加速度g(t)との相関係数を求め、相関係数が大きいものの適応度が大きいとすることで解析を行うことができる。
【0169】
【数10】

なお、遺伝的アルゴリズムは従来既知の手法であるので、これ以上のここでの説明は省略する。
【0170】
調整処理ルーチン・プログラムが終了すると、安定状態評価処理プログラムのステップ320に移行し、以上の処理によって得られた、上記調整処理ルーチン・プログラムによる調整後の静的剛性及び減衰定数を用いて、以下に示すように質点系解析を行う。
【0171】
まず、上記静的剛性及び減衰定数を用いて質点系の振動モデルを構築する。
【0172】
すなわち、一例として図13の左図に示されるような石垣の各石材の運動を、並進運動と石材底面を中心とした回転運動と考えると、石材と石材との間に設置した並進ばねと回転ばねを用いた、一例として図13の右図に示されるような質点系解析モデルが作成される。同図では、煩雑さを避けるために石材(6)は省略している。なお、同図におけるhは石材iの高さを表し、uは石材iの変位を表し、θは石材iの回転角を表し、khijは石材iと石材jとの間の並進ばね定数を表し、krijは石材iと石材jとの間の回転ばね定数を表す。
【0173】
これに対し、一般的な運動方程式は次の(5)式で示される。
【0174】
【数11】

この一般的な運動方程式と図13右図の解析モデルから、一例として次式に示される運動方程式が得られる。なお、次式におけるmは石材iの質量を表し、fは石材iに作用する外力を表し、Iは石材iの慣性モーメントを表す。また、次式では、石材(5)に対応する演算式は省略している。
【0175】
【数12】

この運動方程式をマトリクス形式とすることにより、剛性マトリクスK及び質量マトリクスMを求める。また、減衰マトリクスCは、次式に示すように剛性比例減衰とし、比例定数βは変位から求めた減衰定数に適合するように設定する。
【0176】
【数13】

この質点系解析モデルに対し、外力として阪神大震災等の過去の観測記録や建築センター等が定めている設計用地震波等、適切に設定した地震波を入力し、各石材の変位を求める。
【0177】
こうした運動方程式に基づいて地震波による揺れを解析する地震応答解析の方法には、例えば、モード解析法や直接数値積分法等がある。算出された変位から各石材の最大変位を求め、予め定められた量より大きな変位を生じた石材が存在する場合、その石垣は安定性が低いものと判断する。
【0178】
次のステップ322では、以上の質点系解析の結果、及び上記ステップ316の処理によって得られた評価対象石材50の安定状態の判定結果に基づいて、予め定められたフォーマットとされた評価結果を示す結果画面を示す情報を構成し、次のステップ324にて、構成した情報に基づいて上記結果画面をディスプレイ12Fによって表示させ、その後に本安定状態評価処理プログラムを終了する。
【0179】
図14には、本安定状態評価処理プログラムのステップ324の処理によってディスプレイ12Fにより表示された結果画面の表示状態例が示されている。同図に示されるように、本実施の形態に係る安定状態評価処理プログラムでは、上記質点系解析の結果、倒壊するおそれがあることが判明したことを示す情報が表示されると共に、上記ステップ316の処理によって固定度が低いものと判定された石材が表示される。従って、安定状態評価システム10の利用者は、当該結果画面を参照することにより、地震による倒壊のおそれの有無や、対策する場合に優先すべき石材を容易に把握することができる。
【0180】
以上詳細に説明したように、本実施の形態では、複数の石材が積み重ねられて構成された石垣の安定状態の評価対象とする評価対象石材に対して打撃力を与えたときの当該評価対象石材における並進加速度の時刻歴情報及び回転加速度の時刻歴情報を取得すると共に、前記打撃力の時刻歴情報を取得し、当該並進加速度の時刻歴情報及び打撃力の時刻歴情報に基づいて並進運動に関する静的剛性を検出すると共に、当該回転加速度の時刻歴情報及び打撃力の時刻歴情報に基づいて回転運動に関する静的剛性を検出し、検出した静的剛性に基づいて前記評価対象石材の安定状態を評価し、当該評価結果を示す情報を表示しているので、石垣を解体することなく、当該石垣を構成する石材の安定状態を高精度に評価することができる。
【0181】
また、本実施の形態では、前記打撃力の時刻歴情報に基づいて当該打撃力のスペクトルを導出すると共に、前記並進加速度の時刻歴情報に基づいて並進加速度のスペクトルを導出し、かつ前記回転加速度の時刻歴情報に基づいて回転加速度のスペクトルを導出し、前記並進加速度のスペクトルを前記打撃力のスペクトルで除算することにより並進運動に関するアクセレランスを算出すると共に、前記回転加速度のスペクトルを前記打撃力のスペクトルで除算することにより回転運動に関するアクセレランスを算出し、前記打撃力のスペクトルを、前記並進加速度のスペクトルを2回積分することにより得られた並進運動の変位スペクトルで除算することにより前記並進運動に関する動的剛性を算出すると共に、前記打撃力のスペクトルを、前記回転加速度のスペクトルを2回積分することにより得られた回転運動の変位スペクトルで除算することにより前記回転運動に関する動的剛性を算出し、前記並進運動に関する動的剛性から前記並進運動に関するアクセレランスにおける卓越振動数近傍の、所定振動数当たりの変化量が所定範囲内とされている剛性を前記並進運動に関する静的剛性として検出すると共に、前記回転運動に関する動的剛性から前記回転運動に関するアクセレランスにおける卓越振動数近傍の、所定振動数当たりの変化量が所定範囲内とされている剛性を前記回転運動に関する静的剛性として検出しているので、より簡易かつ高精度に石垣を構成する石材の安定状態を評価することができる。
【0182】
特に、本実施の形態では、前記静的剛性が他の評価対象石材に比較して所定レベルより小さい評価対象石材の固定度が低く、不安定であるものと評価することにより、前記評価対象石材の安定状態を評価しているので、より簡易に石垣を構成する石材の安定状態を評価することができる。
【0183】
また、本実施の形態では、全ての前記評価対象石材について、前記並進加速度の時刻歴情報を2回積分するか、又は前記並進運動の変位スペクトルをフーリエ逆変換することにより変位時刻歴を算出して当該変位時刻歴に基づいて減衰定数を算出すると共に、前記回転加速度の時刻歴情報を2回積分するか、又は前記回転運動の変位スペクトルをフーリエ逆変換することにより変位時刻歴を算出して当該変位時刻歴に基づいて減衰定数を算出し、算出した全ての前記評価対象石材の前記減衰定数と前記静的剛性に基づいて質点系解析を行うことにより、前記評価対象石材の全体的な安定状態を評価しているので、より高精度に石垣を構成する石材の安定状態を評価することができる。
【0184】
特に、本実施の形態では、前記減衰定数と前記静的剛性を、対応する並進加速度の時刻歴情報及び回転加速度の時刻歴情報を用いた逆解析によって調整しているので、より高精度に石垣を構成する石材の安定状態を評価することができる。
【0185】
特に、本実施の形態では、前記逆解析を、遺伝的アルゴリズムを用いて行っているので、より簡易かつ高精度に石垣を構成する石材の安定状態を評価することができる。
【0186】
更に、本実施の形態では、前記評価対象石材の上端部近傍及び下端部近傍と、前記評価対象石材の下部に隣接する石材の上端部近傍とに加速度センサが設けられ、前記評価対象石材の上端部近傍に設けられた前記加速度センサにより検出された加速度を加速度AC1とし、前記評価対象石材の下端部近傍に設けられた前記加速度センサにより検出された加速度を加速度AC2とし、前記評価対象石材の下部に隣接する石材の上端部近傍に設けられた前記加速度センサにより検出された加速度を加速度AC3とし、前記評価対象石材の上端部近傍に設けられた前記加速度センサと下端部近傍に設けられた前記加速度センサの距離をDとしたとき、前記並進加速度HAC及び前記回転加速度KACを(1)式及び(3)式により算出しているので、より簡易に並進加速度の時刻歴情報及び回転加速度の時刻歴情報を取得することができる結果、より簡易に石垣を構成する石材の安定状態を評価することができる。
【0187】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。本発明の要旨を逸脱しない範囲で上記実施の形態に多様な変更または改良を加えることができ、そのような変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0188】
また、上記の実施の形態は、クレーム(請求項)にかかる発明を限定するものではなく、また実施の形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。上記の実施の形態には種々の段階の発明が含まれており、開示される複数の構成要件における適宜の組み合わせにより種々の発明を抽出できる。上記の実施の形態に示される全構成要件から幾つかの構成要件が削除されても、効果が得られる限りにおいて、この幾つかの構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
【0189】
例えば、上記各実施の形態では、変位時刻歴を並進運動又は回転運動の変位スペクトルをフーリエ逆変換することにより算出する場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、並進加速度の時刻歴情報又は回転加速度の時刻歴情報を2回積分することにより変位時刻歴を算出する形態とすることもできる。この場合も、上記各実施の形態と同様の効果を奏することができる。
【0190】
その他、上記各実施の形態で説明した安定状態評価システム10の構成(図1〜図3参照。)は一例であり、本発明の主旨を逸脱しない範囲内において、不要な部分を削除したり、新たな部分を追加したりすることができることは言うまでもない。
【0191】
また、上記各実施の形態で示した各データベースのデータ構造(図4,図6参照。)も一例であり、本発明の主旨を逸脱しない範囲内において、不要な情報を削除したり、新たな情報を追加したりすることができることは言うまでもない。
【0192】
また、上記各実施の形態で示した各種処理プログラムの処理の流れ(図7,図10,図11,図12参照。)も一例であり、本発明の主旨を逸脱しない範囲内において、不要なステップを削除したり、新たなステップを追加したり、処理順序を入れ替えたりすることができることは言うまでもない。
【0193】
更に、上記各実施の形態で示した結果画面の構成(図9,図14参照。)も一例であり、本発明の主旨を逸脱しない範囲内において変更することができることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0194】
【図1】実施の形態に係る安定状態評価システムの構成を示すブロック図である。
【図2】実施の形態に係るPCの電気系の要部構成を示すブロック図である。
【図3】実施の形態に係るPCに備えられた二次記憶部の主な記憶内容を示す模式図である。
【図4】実施の形態に係る石垣情報データベースのデータ構造を示す模式図である。
【図5】実施の形態に係る石垣情報データベースの説明に供する図であり、石材番号情報及び位置情報の具体例を示す石垣の正面図である。
【図6】実施の形態に係る計測情報データベースのデータ構造を示す模式図である。
【図7】第1の実施の形態に係る安定状態評価処理プログラムの処理の流れを示すフローチャートである。
【図8】実施の形態に係る安定状態評価処理プログラムにおける減衰定数の算出の説明に供するグラフである。
【図9】第1,第2の実施の形態に係る結果画面の表示状態例を示す概略図である。
【図10】第2の実施の形態に係る安定状態評価処理プログラムの処理の流れを示すフローチャートである。
【図11】第3の実施の形態に係る安定状態評価処理プログラムの処理の流れを示すフローチャートである。
【図12】第3の実施の形態に係る調整処理ルーチン・プログラムの処理の流れを示すフローチャートである。
【図13】第3の実施の形態に係る質点系解析の説明に供する運動モデルの一例を示す模式図である。
【図14】第3の実施の形態に係る結果画面の表示状態例を示す概略図である。
【図15】本発明の原理の説明に供する図であり、実験EAの実験モデルを示す概略正面図である。
【図16】本発明の原理の説明に供する図であり、実験EAによる加速度の時刻歴を示すグラフである。
【図17】本発明の原理の説明に供する図であり、実験EAによる加速度の時刻歴を示すグラフである。
【図18】本発明の原理の説明に供する図であり、実験EAによるアクセレランスを示すグラフである。
【図19】本発明の原理の説明に供する図であり、実験EAによる加速度の時刻歴を示すグラフである。
【図20】本発明の原理の説明に供する図であり、実験EAによる加速度の時刻歴を示すグラフである。
【図21】本発明の原理の説明に供する図であり、実験EAによる加速度のフーリエ・スペクトルを示すグラフである。
【図22】本発明の原理の説明に供する図であり、実験Gの実験モデルを示す概略正面図である。
【図23】本発明の原理の説明に供する図であり、実験Gによるアクセレランス及び動的剛性を示すグラフである。
【図24】本発明の原理の説明に供する図であり、実験Gの実験モデルを示す概略正面図である。
【図25】本発明の原理の説明に供する図であり、実験Gによる並進運動に関する動的剛性のスペクトルを示すグラフである。
【図26】本発明の原理の説明に供する図であり、実験Gによる回転運動に関する動的剛性のスペクトルを示すグラフである。
【図27】本発明の原理の説明に供する図であり、実験Gによる加速度の時刻歴情報を示すグラフである。
【図28】本発明の原理の説明に供する図であり、実験Gによる回転運動に関する動的剛性のスペクトルを示すグラフである。
【図29】本発明の原理の説明に供する図であり、実験Gによる回転運動に関する動的剛性のスペクトルを示すグラフである。
【図30】本発明の原理の説明に供する図であり、実験Gの実際の計測状態を示す図である。
【図31】本発明の原理の説明に供する図であり、実験Gによる回転運動に関する動的剛性のスペクトルを示すグラフである。
【図32】本発明の原理の説明に供する図であり、実験Gによる加速度の時刻歴情報を示すグラフである。
【図33】本発明の原理の説明に供する図であり、実験Gによるアクセレランスを示すグラフである。
【図34】本発明の原理の説明に供する図であり、実験Gによるアクセレランスを示すグラフである。
【図35】本発明の原理の説明に供する図であり、実験Hの実験モデルを示す概略正面図である。
【図36】本発明の原理の説明に供する図であり、実験Hの実際の計測状態を示す図である。
【図37】本発明の原理の説明に供する図であり、実験Hによる加速度の時刻歴情報を示すグラフである。
【図38】本発明の原理の説明に供する図であり、実験Hによる加速度の時刻歴情報を示すグラフである。
【図39】本発明の原理の説明に供する図であり、実験Hによるアクセレランス及び動的剛性を示すグラフである。
【図40】本発明の原理の説明に供する図であり、実験Hによるアクセレランス及び動的剛性を示すグラフである。
【図41】本発明の原理の説明に供する図であり、実験Hによるアクセレランス及び動的剛性を示すグラフである。
【図42】本発明の原理の説明に供する図であり、実験Hによるアクセレランス及び動的剛性を示すグラフである。
【図43】本発明の原理の説明に供する図であり、実験Gの実験モデルを示す概略正面図である。
【図44】本発明の原理の説明に供する図であり、石材の運動モデルを示す模式図である。
【図45】本発明の原理の説明に供する図であり、実験Gによる打撃力の時刻歴情報を示すグラフである。
【図46】本発明の原理の説明に供する図であり、実験Gによる加速度の時刻歴情報を示すグラフである。
【図47】本発明の原理の説明に供する図であり、実験Gによる並進運動に関する動的剛性のスペクトルを示すグラフである。
【図48】本発明の原理の説明に供する図であり、実験Gによる加速度の時刻歴情報を示すグラフである。
【図49】本発明の原理の説明に供する図であり、実験Hの実験モデルを示す概略正面図である。
【図50】本発明の原理の説明に供する図であり、実験Hによる動的剛性のスペクトルを示すグラフである。
【図51】本発明の原理の説明に供する図であり、実験J4の実験モデルを示す概略正面図である。
【図52】本発明の原理の説明に供する図であり、実験J4による動的剛性のスペクトルを示すグラフである。
【符号の説明】
【0195】
10 安定状態評価システム
12 パーソナル・コンピュータ
12A CPU(取得手段,検出手段,評価手段)
12B RAM
12C ROM
12D 二次記憶部
12E キーボード
12F ディスプレイ(表示手段)
12G 入出力インタフェース
14 加速度センサ
16 インパルス・ハンマー
18 アンプ
20 データ・レコーダ
22 記録・出力装置
50 評価対象石材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の石材が積み重ねられて構成された石垣の安定状態の評価対象とする評価対象石材に対して打撃力を与えたときの当該評価対象石材における並進加速度の時刻歴情報及び回転加速度の時刻歴情報の少なくとも一方を取得すると共に、前記打撃力の時刻歴情報を取得する取得手段と、
前記取得手段によって前記並進加速度の時刻歴情報が取得された場合は、当該並進加速度の時刻歴情報及び前記打撃力の時刻歴情報に基づいて並進運動に関する静的剛性を検出し、前記取得手段によって前記回転加速度の時刻歴情報が取得された場合は、当該回転加速度の時刻歴情報及び前記打撃力の時刻歴情報に基づいて回転運動に関する静的剛性を検出する検出手段と、
前記検出手段によって検出された静的剛性に基づいて前記評価対象石材の安定状態を評価する評価手段と、
前記評価手段による評価結果を示す情報を表示する表示手段と、
を備えた安定状態評価装置。
【請求項2】
前記検出手段は、
前記打撃力の時刻歴情報に基づいて当該打撃力のスペクトルを導出すると共に、前記取得手段によって前記並進加速度の時刻歴情報が取得された場合は、当該並進加速度の時刻歴情報に基づいて並進加速度のスペクトルを導出し、前記取得手段によって前記回転加速度の時刻歴情報が取得された場合は、当該回転加速度の時刻歴情報に基づいて回転加速度のスペクトルを導出する導出手段と、
前記取得手段によって前記並進加速度の時刻歴情報が取得された場合は、前記並進加速度のスペクトルを前記打撃力のスペクトルで除算することにより並進運動に関するアクセレランスを算出し、前記取得手段によって前記回転加速度の時刻歴情報が取得された場合は、前記回転加速度のスペクトルを前記打撃力のスペクトルで除算することにより回転運動に関するアクセレランスを算出するアクセレランス算出手段と、
前記取得手段によって前記並進加速度の時刻歴情報が取得された場合は、前記打撃力のスペクトルを、前記並進加速度のスペクトルを2回積分することにより得られた並進運動の変位スペクトルで除算することにより前記並進運動に関する動的剛性を算出し、前記取得手段によって前記回転加速度の時刻歴情報が取得された場合は、前記打撃力のスペクトルを、前記回転加速度のスペクトルを2回積分することにより得られた回転運動の変位スペクトルで除算することにより前記回転運動に関する動的剛性を算出する動的剛性算出手段と、
を備え、
前記取得手段によって前記並進加速度の時刻歴情報が取得された場合は、前記並進運動に関する動的剛性から前記並進運動に関するアクセレランスにおける卓越振動数近傍の、所定振動数当たりの変化量が所定範囲内とされている剛性を前記並進運動に関する静的剛性として検出し、前記取得手段によって前記回転加速度の時刻歴情報が取得された場合は、前記回転運動に関する動的剛性から前記回転運動に関するアクセレランスにおける卓越振動数近傍の、所定振動数当たりの変化量が所定範囲内とされている剛性を前記回転運動に関する静的剛性として検出する
請求項1記載の安定状態評価装置。
【請求項3】
前記評価手段は、前記静的剛性が他の評価対象石材に比較して所定レベルより小さい評価対象石材の固定度が低く、不安定であるものと評価することにより、前記評価対象石材の安定状態を評価する
請求項2記載の安定状態評価装置。
【請求項4】
全ての前記評価対象石材について、前記取得手段によって前記並進加速度の時刻歴情報が取得された場合は、前記並進加速度の時刻歴情報を2回積分するか、又は前記並進運動の変位スペクトルをフーリエ逆変換することにより変位時刻歴を算出して当該変位時刻歴に基づいて減衰定数を算出し、前記取得手段によって前記回転加速度の時刻歴情報が取得された場合は、前記回転加速度の時刻歴情報を2回積分するか、又は前記回転運動の変位スペクトルをフーリエ逆変換することにより変位時刻歴を算出して当該変位時刻歴に基づいて減衰定数を算出する減衰定数算出手段を更に備え、
前記評価手段は、前記減衰定数算出手段によって算出された全ての前記評価対象石材の前記減衰定数と前記静的剛性に基づいて質点系解析を行うことにより、前記評価対象石材の全体的な安定状態を評価する
請求項2又は請求項3記載の安定状態評価装置。
【請求項5】
前記減衰定数と前記静的剛性を、前記取得手段によって取得された、対応する並進加速度の時刻歴情報及び回転加速度の時刻歴情報の少なくとも一方を用いた逆解析によって調整する調整手段
を更に備えた請求項4記載の安定状態評価装置。
【請求項6】
前記取得手段は、前記並進加速度の時刻歴情報を取得する場合は、前記評価対象石材の下端部近傍と、前記評価対象石材の下部に隣接する石材の上端部近傍とに加速度センサが設けられ、前記回転加速度の時刻歴情報を取得する場合は、前記評価対象石材の上端部近傍と下端部近傍とに加速度センサが設けられて、前記評価対象石材の上端部近傍に設けられた前記加速度センサにより検出された加速度を加速度AC1とし、前記評価対象石材の下端部近傍に設けられた前記加速度センサにより検出された加速度を加速度AC2とし、前記評価対象石材の下部に隣接する石材の上端部近傍に設けられた前記加速度センサにより検出された加速度を加速度AC3とし、前記評価対象石材の上端部近傍に設けられた前記加速度センサと下端部近傍に設けられた前記加速度センサの距離をDとしたとき、前記並進加速度HAC及び前記回転加速度KACを次の演算式により算出することによって取得する
【数1】

請求項1〜請求項5の何れか1項記載の安定状態評価装置。
【請求項7】
複数の石材が積み重ねられて構成された石垣の安定状態の評価対象とする評価対象石材に対して打撃力を与えたときの当該評価対象石材における並進加速度の時刻歴情報及び回転加速度の時刻歴情報の少なくとも一方を取得すると共に、前記打撃力の時刻歴情報を取得する取得工程と、
前記取得工程によって前記並進加速度の時刻歴情報が取得された場合は、当該並進加速度の時刻歴情報及び前記打撃力の時刻歴情報に基づいて並進運動に関する静的剛性を検出し、前記取得工程によって前記回転加速度の時刻歴情報が取得された場合は、当該回転加速度の時刻歴情報及び前記打撃力の時刻歴情報に基づいて回転運動に関する静的剛性を検出する検出工程と、
前記検出工程によって検出された静的剛性に基づいて前記評価対象石材の安定状態を評価する評価工程と、
前記評価工程による評価結果を示す情報を表示手段によって表示する表示工程と、
を有する安定状態評価方法。
【請求項8】
複数の石材が積み重ねられて構成された石垣の安定状態の評価対象とする評価対象石材に対して打撃力を与えたときの当該評価対象石材における並進加速度の時刻歴情報及び回転加速度の時刻歴情報の少なくとも一方を取得すると共に、前記打撃力の時刻歴情報を取得する取得ステップと、
前記取得ステップによって前記並進加速度の時刻歴情報が取得された場合は、当該並進加速度の時刻歴情報及び前記打撃力の時刻歴情報に基づいて並進運動に関する静的剛性を検出し、前記取得ステップによって前記回転加速度の時刻歴情報が取得された場合は、当該回転加速度の時刻歴情報及び前記打撃力の時刻歴情報に基づいて回転運動に関する静的剛性を検出する検出ステップと、
前記検出ステップによって検出された静的剛性に基づいて前記評価対象石材の安定状態を評価する評価ステップと、
前記評価ステップによる評価結果を示す情報を表示手段によって表示する表示ステップと、
をコンピュータに実行させる安定状態評価プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図31】
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【図32】
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【図35】
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【図37】
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【図38】
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【図43】
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【図44】
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【図45】
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【図46】
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【図47】
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【図48】
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【図18】
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【図23】
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【図30】
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【図33】
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【図34】
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【図36】
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【図39】
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【図40】
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【図41】
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【図42】
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【図49】
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【図50】
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【図51】
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【図52】
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【公開番号】特開2009−162507(P2009−162507A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−339419(P2007−339419)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年7月31日 社団法人 日本建築学会発行の「2007年度大会(九州)学術講演梗概集」に発表
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】