説明

安息香酸エステル類の製造方法

【課題】工程が安全、簡略で収率の高い、安息香酸エステル化合物の製造方法を提供する。
【解決手段】ベンゾニトリル類誘導体と、一般式(II)で表わされるアルコール類を塩基存在下反応させて、一般式(III)で表わされるイミド酸エステル類を合成した後、これを酸加水分解する一般式(IV)で表わされる安息香酸エステル類の製造方法。一般式(II) HO−R2(式中、R2は置換又は無置換のアルキル基を表わす。)一般式(III)


(R1は電子吸引性の置換基を表わす。R2は前記と同義。)一般式(IV)


(R1及びR2はそれぞれ前記と同義。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬、農薬、電子材料等あるいはその中間体として有用な安息香酸エステル類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ベンゾニトリル化合物を原料として安息香酸エステル化合物を合成する方法として、まずベンゾニトリル化合物からイミド酸エステル類又はその塩を合成した後、加水分解を行ってエステル化合物を合成する方法が知られている(非特許文献1)。
【0003】
この方法において、合成中間体であるイミド酸エステル類又はその塩の合成法としてはPinner法として知られているニトリル類とアルコール類を酸触媒存在下反応させる方法がある。用いる酸としては、塩化水素のような酸性ガスを用いるのが一般的であり、従って実際の合成において、反応系の塩化水素ガスの注入及び過剰に使用したガスのトラップなどの繁雑な操作が必要であった。また、イミド酸エステル類又はその塩を一担単離するため晶析ロスによる収率の低下を伴い、生成物の溶解性の良い場合にはその収率低下が顕著であった。更にイミド酸エステル類の塩酸塩を取り出す操作は、酸性ガスの拡散等により安全上に好ましくなく、強制排気設備などの特別な設備が必要であった。
【0004】
一方、イミド酸エステル類の合成法として前記の方法以外に知られる方法としては、ニトリル類とアルコール類とを塩基触媒の存在下において反応させる方法が知られている(非特許文献2)。すなわち、電子吸引性基の置換した芳香族又は脂肪族ニトリル類とアルコール類とをナトリウムアルコキサイドやシアン化カリウムなどの塩基の存在下で反応させて、イミド酸エステル類を得る方法である。この反応は平衡反応であり、その平衡定数は芳香族ニトリル類の場合は置換基のHammettのσ値により、また脂肪族ニトリル類の場合には置換基のTaftのσ*の値により変動し、その値が大きいほど平衡定数が大きく、従ってイミド酸エステル類の反応生成率が高い。
【0005】
しかしながら、上記文献によると、使用される塩基は触媒量であり、いずれの合成例をみてもその使用量はニトリル類に対して0.01〜0.25当量の範囲であることが記載されている。具体例として、反応温度25℃における異なった塩基濃度とニトリル類からイミド酸エステル類への変換率との関係を、ニトリル類としてp−ニトロベンズニトリルを用いた場合についての実験結果が記載されている。それによると、ニトリル類に対して使用する塩基の量が0.01〜0.2当量の範囲ではあるが、使用する塩基の量を増加させるとイミド酸エステル類への変換率が減少する傾向にあることが述べられており、具体例を示すとp−ニトロベンズニトリルに対するナトリウムメトキシドの使用量が0.05当量のときのメチル−p−ニトロベンズイミダートの反応生成率が80%であるのに対し、同0.1当量のときには81%、同0.2当量のときには78%となることが記載されている。
【0006】
また、同文献に記載の合成例における反応温度は、原料として用いるニトリル類により異なっているが、10〜80℃の範囲にある。同文献に記載の合成例の問題点としては、化合物によってはイミド酸エステル類への変換率が不充分であったり、また反応時間が長いこと等が挙げられる。
【0007】
一方、ニトリル類を塩基性条件下、塩基の使用量をニトリル類に対して0.5〜3.0当量としてイミド酸エステル類を合成する方法も知られているが、この文献は合成中間体から、N−ピラゾリルアミドオキシム化合物に誘導するものであった(特許文献1)。
【0008】
また特に、メタ位に電子吸引性基を有するベンゾニトリル類を塩基存在下アルコール類と反応させてイミド酸エステル類を合成し、その後、安息香酸エステル類を合成する例は知られていなかった。
【特許文献1】特開平7−82252号公報
【非特許文献1】Chem.Ber.1972年,105巻,1778頁
【非特許文献2】Journal of Organic Chemistry,1961年,26巻, 412頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、工程が安全、簡略で収率の高い、ベンゾニトリル誘導体からの安息香酸エステル化合物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、工程が簡略でかつ高収率に、電子吸引性基を有する安息香酸エステル化合物を製造しうる方法を開発するため鋭意研究を行った。その結果、合成中間体であるイミド酸エステル類の合成を、塩基性条件で、特に塩基の使用量をニトリル類に対して0.5〜3.0当量にすることで高収率にイミド酸エステル類が生成し、更に、これを酸加水分解することで高収率にエステル化合物に誘導する方法を見出し、本発明をなすに至った。
【0011】
すなわち本発明は、
(1) 一般式(I)で表わされるベンゾニトリル類と、一般式(II)で表わされるアルコール類を、一般式(I)で表わされるベンゾニトリル類に対し0.5〜
3.0当量の塩基の存在下で反応させて、一般式(III)で表わされるイミド酸エステル類を合成した後、これを酸加水分解することを特徴とする一般式(IV)で表わされる安息香酸エステル類の製造方法;
【0012】
一般式(I)
【化1】

(式中、R1は、電子吸引性の置換基を表わす。)
【0013】
一般式(II)
HO−R2
(式中、R2は置換又は無置換のアルキル基を表わす。)
【0014】
一般式(III)
【化2】

(式中、R1及びR2はそれぞれ前記と同義である。)
【0015】
一般式(IV)
【化3】

(式中、R1及びR2はそれぞれ前記と同義である。)
【0016】
(2) 前記イミド酸エステルを単離することなく、酸加水分解することを特徴とする(1)の安息香酸エステル類の製造方法;
(3) 前記R1がシアノ基であることを特徴とする(1)又は(2)の安息香酸エステル類の製造方法;
(4) 前記R2がヒドロキシ基の置換したアルキル基であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかの安息香酸エステル類の製造方法;
(5) 前記R1がメタ位に結合した置換基であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかの安息香酸エステルの製造方法;に関する。
に関する。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、安全、簡略な操作にて高収率に電子吸引性基を有するベンゾニトリル類から安息香酸エステル類を得ることができる。
【発明の実施の形態】
【0018】
本発明について詳細に説明する。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
本発明の製造方法は、下記の反応工程式で表わすことができる。
【0019】
【化4】

【0020】
まず、前記一般式(I)、(II)、(III)、及び(IV)中の、R1及びR2について詳しく述べる。
1は電子吸引性の置換基を表わす。その例としては、ハロゲン原子(例えば、フッ素、塩素、臭素、沃素)、シアノ基、ニトロ基、アシル基(好ましくは炭素数1〜50、より好ましくは1〜18のアシル基で、例えば、ホルミル、アセチル、ピバロイル、テトラデカノイル、シクロヘキシルカルボニル、ベンゾイル、トリフルオロアセチル)、アルコキシカルボニル基(好ましくは炭素数2〜50、より好ましくは2〜18のアルコキシカルボニル基で、例えば、シクロヘキシルオキシカルボニル、メトキシカルボニル、イソプロポキシカルボニル、t−ブトキシカルボニル)、アリールオキシカルボニル基(好ましくは炭素数7〜50、より好ましくは7〜25のアリールオキシカルボニル基で、例えば、フェノキシカルボニル、ナフトキシカルボニル)、カルバモイル基(好ましくは炭素数1〜50、より好ましくは1〜18のカルバモイル基で、例えば、カルバモイル、N−メチルカルバモイル、N,N−ジエチルカルバモイル、N−メシルカルバモイル)、アルキルスルホニル基(好ましくは炭素数1〜50、より好ましくは1〜18のアルキルスルホニル基で、例えば、メタンスルホニル、イソプロピルスルホニル、シクロヘキシルスルホニル、オクチルスルホニル、2−メトキシエチルスルホニル、2−ヘキシルデシルスルホニル)、アリールスルホニル基(好ましくは炭素数6〜50、より好ましくは6〜25のアリールスルホニル基で、例えば、ベンゼンスルホニル、p−トルエンスルホニル、4−フェニルスルホニルフェニルスルホニル)、スルファモイル基(好ましくは炭素数0〜50、より好ましくは0〜25のスルファモイル基で、例えば、スルファモイル、N−ブチルスルファモイル、N,N−ジエチルスルファモイル、N−メチル−N−(4―メトキシフェニル)スルファモイル)等が挙げられる。
【0021】
これらの置換基は更に置換基により置換されていてもよい。R1が有していてもよい置換基としては、アルキル基(直鎖もしくは分岐鎖の置換又は無置換のアルキル基を表し、好ましくは炭素数1〜50、より好ましくは1〜18のアルキル基で、例えばメチル、エチル、イソプロピル、t−ブチル、t−ペンチル、シクロプロピル、シクロヘキシル、2−エチルヘキシル、ドデシル)、アルケニル基(好ましくは炭素数2〜50、より好ましくは2〜18の置換又は無置換のアルケニル基で、例えばビニル)、アルキニル基(好ましくは炭素数2〜50、より好ましくは2〜18の置換又は無置換のアルキニル基で、例えばエチニル)、シクロアルキル基(好ましくは炭素数3〜50、より好ましくは3〜18の置換又は無置換のシクロアルキル基で、例えばシクロヘキシル)、アリール基(好ましくは炭素数6〜50、より好ましくは6〜25の置換又は無置換アリール基で、例えば、フェニル、ナフチル、アントリル)、
【0022】
ハロゲン原子(例えば、フッ素、塩素、臭素、沃素)、アシルアミノ基(好ましくは炭素数1〜50、より好ましくは1〜18のアシルアミノ基で、例えば、アセチルアミノ、ブタノイルアミノ、ベンゾイルアミノ、トリフルオロアセチルアミノ、ピコリノイルアミノ)、アシルオキシ基(好ましくは炭素数1〜50のアシルオキシ基で、例えば、アセトキシ、テトラデカノイルオキシ、ベンゾイルオキシ)、アシル基(好ましくは炭素数1〜50、より好ましくは1〜18のアシル基で、例えば、ホルミル、アセチル、ピバロイル、テトラデカノイル、シクロヘキシルカルボニル、ベンゾイル、トリフルオロアセチル)、アリールオキシカルボニル基(好ましくは炭素数7〜50、より好ましくは7〜25のアリールオキシカルボニル基で、例えば、フェノキシカルボニル、ナフトキシカルボニル)、カルバモイル基(好ましくは炭素数1〜50、より好ましくは1〜18のカルバモイル基で、例えば、カルバモイル、N−メチルカルバモイル、N,N−ジエチルカルバモイル、N−メシルカルバモイル)、カルバモイルオキシ基(好ましくは炭素数1〜50、より好ましくは1〜18のカルバモイルオキシ基で、例えば、N,N−ジメチルカルバモイルオキシ)、カルボンアミド基(好ましくは炭素数1〜50、より好ましくは1〜18のカルボンアミド基で、例えば、ホルムアミド、N−メチルアセトアミド、アセトアミド、N−メチルホルムアミド、ベンツアミド)、スルホンアミド基(好ましくは炭素数1〜50、より好ましくは1〜18のスルホンアミド基で、例えば、メタンスルホンアミド、ドデカンスルホンアミド、ベンゼンスルホンアミド、p−トルエンスルホンアミド)、アルコキシ基(好ましくは炭素数1〜50、より好ましくは1〜18のアルコキシ基で、例えば、メトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、オクチルオキシ、t−オクチルオキシ、ドデシルオキシ、2−(2,4−ジ−t−ペンチルフェノキシ)エトキシ)、アリールオキシ基(好ましくは炭素数6〜50、より好ましくは6〜25のアリールオキシ基で、例えば、フェノキシ、4−メトキシフェノキシ、ナフトキシ)、スルファモイル基(好ましくは炭素数0〜50、より好ましくは0〜25のスルファモイル基で、例えば、スルファモイル、N−ブチルスルファモイル、N,N−ジエチルスルファモイル、N−メチル−N−(4―メトキシフェニル)スルファモイル)、
【0023】
アルコキシカルボニル基(好ましくは炭素数2〜50、より好ましくは2〜18のアルコキシカルボニル基で、例えば、シクロヘキシルオキシカルボニル、メトキシカルボニル、イソプロポキシカルボニル、t−ブトキシカルボニル)、N−アシルスルファモイル基(好ましくは炭素数1〜50、より好ましくは1〜18のN−アシルスルファモイル基で、例えば、N−テトラデカノイルスルファモイル、N−ベンゾイルスルファモイル)、アルキルスルホニル基(好ましくは炭素数1〜50、より好ましくは1〜18のアルキルスルホニル基で、例えば、メタンスルホニル、イソプロピルスルホニル、シクロヘキシルスルホニル、オクチルスルホニル、2−メトキシエチルスルホニル、2−ヘキシルデシルスルホニル)、アリールスルホニル基(好ましくは炭素数6〜50、より好ましくは6〜25のアリールスルホニル基で、例えば、ベンゼンスルホニル、p−トルエンスルホニル、4−フェニルスルホニルフェニルスルホニル)、アルコキシカルボニルアミノ基(好ましくは炭素数2〜50、より好ましくは2〜18のアルコキシカルボニルアミノ基で、例えば、エトキシカルボニルアミノ、イソプロピルオキシカルボニルアミノ、シクロヘキシルオキシカルボニルアミノ)、アリールオキシカルボニルアミノ基(好ましくは炭素数7〜50、より好ましくは7〜25のアリールオキシカルボニルアミノ基で、例えば、フェノキシカルボニルアミノ、ナフトキシカルボニルアミノ)、アミノ基(好ましくは炭素数0〜50、より好ましくは0〜18のアミノ基で、例えば、アミノ、メチルアミノ、ジエチルアミノ、ジイソプロピルアミノ、アニリノ)、シアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、ヒドロキシ基、スルホ基、メルカプト基、アルキルスルフィニル基(好ましくは炭素数1〜50、より好ましくは1〜18のアルキルスルフィニル基で、例えば、メタンスルフィニル、オクタンスルフィニル)、アリールスルフィニル基(好ましくは炭素数6〜50、より好ましくは6〜25のアリールスルフィニル基で、例えば、ベンゼンスルフィニル、4―クロロフェニルスルフィニル、p−トルエンスルフィニル)、アルキルチオ基(好ましくは炭素数1〜50、より好ましくは1〜18のアルキルチオ基で、例えば、メチルチオ、オクチルチオ、シクロヘキシルチオ)、アリールチオ基(好ましくは炭素数6〜50、より好ましくは6〜25のアリールチオ基で、例えばフェニルチオ、ナフチルチオ)、ウレイド基(好ましくは炭素数1〜50、より好ましくは1〜18のウレイド基で、例えば3−メチルウレイド、3,3−ジメチルウレイド、1,3−ジフェニルウレイド)、ヘテロ環基(好ましくは炭素数2〜50、より好ましくは2〜25のヘテロ環基で、ヘテロ原子としては例えば、窒素、酸素及びイオウ等を少なくとも1個以上含み、3ないし12員環の単環、縮合環で、例えば、2−フリル、2−ピラニル、2−ピリジル、2−チエニル、2−イミダゾリル、モルホリノ、2−キノリル、2−ベンツイミダゾリル、2−ベンゾチアゾリル、2−ベンゾオキサゾリル、2−キナゾリノン−3−イル、1,1−ジオキソ−1,2,4−ベンゾチアジアジン−3−イルなど)、スルファモイルアミノ基(好ましくは炭素数0〜50、より好ましくは0〜18のスルファモイルアミノ基で、例えば、N−ブチルスルファモイルアミノ、N−フェニルスルファモイルアミノ)、シリル基(好ましくは炭素数3〜50のシリル基で、例えば、トリメチルシリル、ジメチル−t−ブチルシリル、トリフェニルシリル)、ホスホニル基(好ましくは炭素数1〜50、より好ましくは1〜18のホスホニル基で、例えばフェノキシホスホニル、オクチルオキシホスホニル、フェニルホスホニル)、アゾ基(好ましくは炭素数1〜50、より好ましくは1〜18のアゾ基で、例えばフェニルアゾ)、イミド基(好ましくは炭素数1〜50、より好ましくは1〜18のイミド基で、例えば、N−スクシンイミド、N−フタルイミド)等が挙げられる。
【0024】
好ましくは、R1はシアノ基である。
1の置換位置としては、オルト位、メタ位、及びパラ位のいずれでもよいが、メタ位及びパラ位が好ましく、メタ位が最も好ましい。
【0025】
2は置換又は無置換のアルキル基を表わす。このアルキル基としては直鎖もしくは分岐鎖の置換又は無置換のアルキル基を表し、好ましくは炭素数1〜50、より好ましくは1〜18のアルキル基で、例えばメチル、エチル、イソプロピル、t−ブチル、t−ペンチル、シクロプロピル、シクロヘキシル、2−エチルヘキシル、ドデシルである。
【0026】
2が有していてもよい置換基としては、前記R1が有していてもよい置換基として挙げた例が挙げられる。
【0027】
好ましくは、R2は無置換のアルキル基もしくはヒドロキシ基が置換したアルキル基であり、さらに好ましくはヒドロキシ基が置換したアルキル基である。即ち、一般式(II)で表されるアルコールは、ジオール類から選択されるのが好ましい。
【0028】
前記一般式(III)で表わされるイミド酸エステル化合物の代表的具体例を以下に示すが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【0029】
【化5】

【0030】
次に前記一般式(VI)で表わされる化合物の代表的具体例を以下に示すが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0031】
【化6】

【0032】
本発明では、前記一般式(I)で表わされるニトリル類と前記一般式(II)で表わされるアルコール類とを塩基の存在下で反応させて一般式(III)で表わされるイミド酸エステル類を生成する。本発明に用いることができる塩基としては、単体のアルカリ金属又はアルカリ土類金属(リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウムなど)、金属水素化物(水素化ナトリウム、水素化カリウムなど)、金属アルコキサイド(ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウム−t−ブトキシドなど)等が挙げられるが、金属アルコキシドが好ましく、さらに好ましいのはナトリウムメトキシド及びナトリウムエトキシド、カリウム−t−ブトキシドである。本発明では、塩基を、前記一般式(I)で表わされるベンゾニトリル類に対して0.5〜3.0当量使用する。塩基の使用量は、前記ベンゾニトリル類に対して0.5〜2.0当量であるのが好ましく、0.8〜1.5当量であるのがより好ましい。
【0033】
一般式(III)で表わされるイミド酸エステル類の合成において、使用される溶媒としては、例えばアルコール系溶媒(例えば、メタノール、イソプロパノール)、塩素系溶媒(例えばジクロロメタン、クロロホルム)、芳香族系溶媒(例えば、ベンゼン、トルエン、クロロベンゼン、キシレン)、アミド系溶媒(例えば、N、N−ジメチルホルムアミド、N、N−ジメチルアセトアミド)、ウレイド系溶媒(例えば1、3―ジメチル−2―イミダゾリジノン)、ニトリル系溶媒(例えば、アセトニトリル)、エステル系溶媒(例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル)、エーテル系溶媒(例えば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン)、スルホン系溶媒(例えば、スルホラン)、スルホキシド系溶媒(例えば、ジメチルスルホキシド)、りん酸アミド系溶媒(例えば、ヘキサメチルホスホリックトリアミド)、炭化水素系溶媒(例えば、ヘキサン、シクロヘキサン)が挙げられる。これら溶媒は単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。このうちアルコール系溶媒もしくはエーテル系溶媒が好ましい。その使用量は一般式(I)で表わされるニトリル類1質量部当り0.5〜500質量部、好ましくは1〜50質量部の割合で使用される。一般式(II)で表わされるアルコール類及び塩基として金属アルコキシドを用いる場合にはその炭素鎖長と同一のものを反応溶媒として用いるのが好ましい。
【0034】
一般式(III)で表わされるイミド酸エステル類の合成における反応温度は−20℃〜50℃で行えるが、30℃以下が好ましく、より好ましいのは10℃未満であり、5℃以下が特に好ましい。下限としては−10℃以上が好ましい。本発明においては、前述のようにこのイミド酸エステル類の反応を10℃未満で行う工程を有していることが好ましく、この低温反応は、反応初期から終了点まで維持して行うことが好ましく、ある程度、室温付近で反応させ、途中からこの低温状態で反応させることでも、その室温付近での反応収率に比べて収率を向上させることができる。
【0035】
一般式(I)のベンゾニトリル類と一般式(II)のアルコール類との反応における反応時間は、化合物種や反応温度によって異なるが、好ましくは30分〜24時間、より好ましくは2時間〜10時間程度で行うことができる。
【0036】
上記の方法で得た一般式(III)で表わされるイミド酸エステル類は単離しても単離しなくてもよいが、単離することなく酸を用いて加水分解を行い、一般式(IV)で表わされる安息香酸エステル類とすることが好ましい。用いる酸として好ましいのは、塩酸、硫酸、リン酸、硝酸、トリフルオロ酢酸、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸等である。
一般式(III)で表わされるイミド酸エステル類と酸とのモル比は1:0.5〜1:100であり、好ましくは1:1〜1:10である。酸加水分解反応時に用いる反応溶媒としては、前記イミド酸エステル類の合成に用いた溶媒をそのまま使用することができ、また別の反応溶媒を使用してもよい。反応温度は0〜100℃で行うことができるが、好ましくは20〜50℃である。この反応における反応時間も、化合物種や反応温度等により異なるが、好ましくは30分〜5時間、より好ましくは1時間〜4時間程度で行うことができる。また、上記酸加水分解反応において、反応液のpHは6以下が好ましく、5以下がより好ましく、4以下がさらに好ましく、3以下がよりさらに好ましい。
【0037】
一般式(IV)で表わされる安息香酸エステル類は、反応液に水を加えるなどの方法により、結晶化して単離するか、もしくは結晶化しない場合には抽出操作などを行う。場合により、カラムクロマトグラフィー、蒸留、再結晶等により精製してもよい。
【実施例】
【0038】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
[実施例1 例示化合物(IV−1)の合成]
m−ニトロベンゾニトリル10.0g(0.068モル)のメタノール50mlの溶液にナトリウムメトキシドの28%メタノール溶液13.7ml(0.10モル)を室温下添加し、0℃で3時間攪拌した。反応液を濃塩酸20mlと水180mlの混合液に添加し、30℃で3時間撹拌した。酢酸エチルにて抽出し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒を減圧留去し、カラムクロマトグラフィーにより精製し10.4gの例示化合物(IV−1)を白色結晶として得た。収率は84.5%であった。また得られた化合物の1H−NMRの測定結果を以下に示す。
1H−NMR(溶媒:CDCl3、基準:テトラメチルシラン)δ(ppm):8.86(1H、s)、8.45〜8.32(2H、m)、7.68(1H、t)、4.00(3H、s)。
得られた結晶の融点m.p.は78℃であった。
【0039】
[実施例2 例示化合物(IV−3)の合成]
1,5−ペンタンジオール52.0g(0.50モル)のテトラヒドロフラン200ml溶液にカリウム−t−ブトキシド11.2g(0.10モル)を添加し、室温で1時間攪拌した。イソフタロニトリル12.8g(0.10モル)を添加し、5℃で8時間攪拌した後、濃塩酸20mlと水180mlの混合液に添加し、30℃で3時間撹拌した。酢酸エチルにて抽出し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒を減圧留去し、カラムクロマトグラフィーにより精製し、15.7gの例示化合物(IV−3)を白色結晶として得た。収率は67.3%であった。また得られた結晶の融点m.p.は54〜55℃であった。また得られた化合物の1H−NMRの測定結果を以下に示す。
1H−NMR(溶媒:CDCl3、基準:テトラメチルシラン)δ(ppm):8.32(1H、s)、8.28(1H、d)、7.84(1H、d)、7.59(1H、t)、4.37(2H、t)、3.70(2H、t)、1.90〜1.48(7H、m)。
【0040】
[比較例1 例示化合物(IV−1)の合成]
実施例2においてナトリウムメトキシドの量を0.10当量に変更した以外は実施例1と全く同様にして、合成を行ったところ、例示化合物(IV−1)の収率は72.0%であった。
【0041】
[比較例2 例示化合物(IV−3)の合成]
実施例2においてカリウム−t−ブトキシドの量を0.25当量に変更した以外は実施例2と全く同様にして、合成を行ったところ、例示化合物(IV−3)の収率は52.0%であった。
【0042】
以上のように本発明は、塩基の当量を多くすることで収率が向上し、またイミド酸エステル類を単離することなしに安息香酸エステル化合物に誘導することにより、イミド酸エステル類又はその塩を取り出す操作を省略することができ、取り出しに伴う晶析ロスが全くなくトータル収率が向上した。以上述べたように本発明は操作の簡略化及び収率向上の効果により大巾なコストダウンが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)で表わされるベンゾニトリル類と、一般式(II)で表わされるアルコール類とを、一般式(I)で表わされるベンゾニトリル類に対し0.5〜3.0当量の塩基の存在下で反応させて、一般式(III)で表わされるイミド酸エステル類を合成した後、これを酸加水分解することを特徴とする一般式(IV)で表わされる安息香酸エステル類の製造方法。
一般式(I)
【化1】

(式中、R1は、電子吸引性の置換基を表わす。)
一般式(II)
HO−R2
(式中、R2は置換又は無置換のアルキル基を表わす。)
一般式(III)
【化2】

(式中、R1及びR2はそれぞれ前記と同義である。)
一般式(IV)
【化3】

(式中、R1及びR2はそれぞれ前記と同義である。)
【請求項2】
前記イミド酸エステル類を単離することなく、酸加水分解することを特徴とする請求項1に記載の安息香酸エステル類の製造方法。
【請求項3】
前記R1が、シアノ基であることを特徴とする請求項1又は2記載の安息香酸エステル類の製造方法。
【請求項4】
前記R2がヒドロキシ基の置換したアルキル基であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の安息香酸エステル類の製造方法。
【請求項5】
前記R1がメタ位に結合した置換基であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の安息香酸エステルの製造方法。

【公開番号】特開2007−223957(P2007−223957A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−47824(P2006−47824)
【出願日】平成18年2月24日(2006.2.24)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】