説明

安息香酸誘導体をアニオンに有するイオン液体

【課題】 比較的低温で液体であり、フッ素等のハロゲン原子を含有しないため環境適応性の高い中和塩型のイオン液体を提供すること。
【解決手段】 ハロゲン原子を有しない安息香酸類とハロゲン原子を有しない塩基とを混合してなり、100℃以下で液体であるイオン液体。具体例としては、下記のような中和塩型のイオン液体が挙げられる。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安息香酸誘導体をアニオンに有するイオン液体に関する。
【背景技術】
【0002】
酸と塩基を混合して得られる中和塩型のイオン液体としては、例えば、非特許文献1(イオン性液体−開発の最前線と未来−、19〜21頁、(株)シーエムシー出版(2003))に記載のものが知られている。
これまで知られている中和塩型のイオン液体は、酸成分にフッ素を含有するものが多いため、環境適応性という点で問題がある上、製造コストが高いという問題もあり、それらの改善が望まれている。
【0003】
この点に鑑み、フッ素原子を有しない酸成分を用いた中和塩型イオン液体として、特許文献1(特開2005−29497号公報)、特許文献2(特開2005−32531号公報)等に記載のものが報告されている。
特許文献1,2に記載されたイオン液体は、イミダゾールを塩基成分として用い、硫酸等のフッ素原子を含まない酸を酸成分として用いるものであり、コストや環境適応性という問題は改善されている。しかし、室温で放置しておくと固化するなど、イオン液体として充分な物性を有しているとは言い難い。また、強酸性かつ高腐食性の硫酸を原料として使用するなど、安全面においても若干の問題がある。
【0004】
【特許文献1】特開2005−29497号公報
【特許文献2】特開2005−32531号公報
【非特許文献1】イオン性液体−開発の最前線と未来−、19〜21頁、(株)シーエムシー出版(2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、比較的低温で液体であり、フッ素等のハロゲン原子を含有しないため環境適応性の高い中和塩型のイオン液体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、安息香酸誘導体を酸成分として用いることで、比較的低温で液体であり、フッ素等のハロゲン原子を含有しないため環境適応性の高いイオン液体が得られることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、
1. ハロゲン原子を有しない安息香酸類と、ハロゲン原子を有しない塩基とを混合してなり、100℃以下で液体であることを特徴とするイオン液体、
2. 50℃以下で液体であることを特徴とする1のイオン液体、
3. 前記安息香酸類および塩基の少なくとも一方が融点30℃以上であることを特徴とする1または2のイオン液体、
4. 前記安息香酸類が、下記式(1)で示されることを特徴とする1〜3のいずれかのイオン液体、
【化1】

{式中、R1〜R5は、互いに同一でも異なっていてもよい、水素原子、水酸基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐のアルキル基〔このアルキル基は、ビニル基、アリル基、プロパルギル基、アクリロイル基、メタクリロイル基またはエポキシ基で置換されていてもよい。〕、−(CH2n−O−R′基、−(CH2n−S−R′基、−(CH2n−OCO−R′基、−(CH2n−COO−R′基、−(CH2n−NHCO−R′基、−(CH2n−CONH−R′基、−(CH2n−NHCONH−R′基、−CO−R′基〔式中R′は直鎖または分岐の炭素数1〜6のアルキル基(このアルキル基は、ビニル基、アリル基、プロパルギル基、アクリロイル基、メタクリロイル基またはエポキシ基で置換されていてもよい。)を示し、nは1〜6の整数を示す。〕、ビニル基、アリル基、プロパルギル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、またはエポキシ基を示す。}
5. 前記塩基が、アミン類、アミジン類またはグアニジン類であることを特徴とする1〜4のいずれかのイオン液体、
6. 前記塩基が、下記式(2)、式(3)または式(4)で示されることを特徴とする5のイオン液体、
【化2】

〔式中、R6〜R8は互いに同一でも異なっていてもよい、水素原子、炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐のアルキル基(このアルキル基は、ビニル基、アリル基、プロパルギル基、アクリロイル基、メタクリロイル基またはエポキシ基で置換されていてもよい。)、炭素数1〜6のヒドロキシアルキル基、または炭素数1〜12のアルコキシアルキル基を示し、R6〜R8のいずれか2個の基が水素原子以外の基の場合、これら各基が窒素原子と共に環を形成していてもよい。R9〜R13は、互いに同一でも異なっていてもよい、水素原子、炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、炭素数7〜12のアラルキル基(これらアルキル基、アリール基およびアラルキル基は、ビニル基、アリル基、プロパルギル基、アクリロイル基、メタクリロイル基またはエポキシ基で置換されていてもよい。)、炭素数1〜6のヒドロキシアルキル基、または炭素数1〜12のアルコキシアルキル基を示し、R9またはR10、およびR11が水素原子以外の基の場合、これら各基が2個の窒素原子と共に環を形成していてもよい。〕
7. 前記安息香酸類が、重合性基を有することを特徴とする1のイオン液体、
8. 前記重合性基が、ビニル基、アクリロイル基またはメタクリロイル基である7のイオン液体
を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明のイオン液体は、ハロゲン原子を有しないから、環境適応性に優れている。また、このイオン液体は、硫酸をアニオンとするイオン液体よりも、常温で液体の性質を有するものが多いため、4級塩型のイオン液体同様、広範囲の用途に使用することが可能である。
その製法は、塩基成分と酸成分とを混合するという非常に簡便なものであり、また原料が比較的安く、かつ、その安全性が比較的高いため、コスト面および安全面においてもメリットがある。
本発明のイオン液体は、イオン伝導体、プロトン伝導体として作用するものであり、非水系二次電池、電気二重層キャパシタ、電解コンデンサ等の電解液として用いることができる。また、カーボンナノチューブのゲル化剤としても好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明についてさらに詳しく説明する。
本発明に係るイオン液体は、ハロゲン原子を有しない安息香酸類とハロゲン原子を有しない塩基とを混合してなり、状態が100℃以下、好ましくは50℃以下、より好ましくは30℃以下で液体のものである。
ハロゲン原子を有しない安息香酸類としては、特に限定されるものではないが、下記式(1)で示されるものが好適である。
【0009】
【化3】

{式中、R1〜R5は、互いに同一でも異なっていてもよい、水素原子、水酸基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐のアルキル基〔このアルキル基は、ビニル基、アリル基、プロパルギル基、アクリロイル基、メタクリロイル基またはエポキシ基で置換されていてもよい。〕、−(CH2n−O−R′基、−(CH2n−S−R′基、−(CH2n−OCO−R′基、−(CH2n−COO−R′基、−(CH2n−NHCO−R′基、−(CH2n−CONH−R′基、−(CH2n−NHCONH−R′基、−CO−R′基〔式中R′は直鎖または分岐の炭素数1〜6のアルキル基(このアルキル基は、ビニル基、アリル基、プロパルギル基、アクリロイル基、メタクリロイル基またはエポキシ基で置換されていてもよい。)を示し、nは1〜6の整数を示す。〕、ビニル基、アリル基、プロパルギル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、またはエポキシ基を示す。}
【0010】
ここで、炭素数1〜6の直鎖または分岐のアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、i−ペンチル基、neo−ペンチル基、t−ペンチル基、1−メチルブチル基、2−メチルブチル基、1−エチルプロピル基、n−ヘキシル基、i−ヘキシル基、1−メチルペンチル基、1,3−ジメチルブトキシ基、1−エチルブチル基、2−エチルブチル基等が挙げられる。
nは、1〜6であるが、低分子量の方がイオン液体になり易いことから、1〜4であることが好ましく、1〜2がより好ましい。
【0011】
−(CH2n−OR′基の具体例としては、−CH2OCH3、−(CH22OCH3、−(CH23OCH3、−CH2OC25、−(CH22OC25、−(CH23OC25、−CH2OC37、−(CH22OC37、−(CH23OC37、−CH2OC49、−(CH22OC49、−(CH23OC49、−CH2OC511、−(CH22OC511、−(CH23OC511等が挙げられる。
−(CH2n−SR′基の具体例としては、−CH2SCH3、−(CH22SCH3、−(CH23SCH3、−CH2SC25、−(CH22SC25、−(CH23SC25、−CH2SC37、−(CH22SC37、−(CH23SC37、−CH2SC49、−(CH22SC49、−(CH23SC49、−CH2SC511、−(CH22SC511、−(CH23SC511等が挙げられる。
【0012】
−(CH2n−OCOR′基の具体例としては、−CH2OCOCH3、−(CH22OCOCH3、−(CH23OCOCH3、−CH2OCOC25、−(CH22OCOC25、−(CH23OCOC25、−CH2OCOC37、−(CH22OCOC37、−(CH23OCOC37、−CH2OCOC49、−(CH22OCOC49、−(CH23OCOC49、−CH2OCOC511、−(CH22OCOC511、−(CH23OCOC511等が挙げられる。
−(CH2n−COOR′基の具体例としては、−CH2COOCH3、−(CH22COOCH3、−(CH23COOCH3、−CH2COOC25、−(CH22COOC25、−(CH23COOC25、−CH2COOC37、−(CH22COOC37、−(CH23COOC37、−CH2COOC49、−(CH22COOC49、−(CH23COOC49、−CH2COOC511、−(CH22COOC511、−(CH23COOC511等が挙げられる。
【0013】
−(CH2n−NHCOR′基の具体例としては、−CH2NHCOCH3、−(CH22NHCOCH3、−(CH23NHCOCH3、−CH2NHCOC25、−(CH22NHCOC25、−(CH23NHCOC25、−CH2NHCOC37、−(CH22NHCOC37、−(CH23NHCOC37、−CH2NHCOC49、−(CH22NHCOC49、−(CH23NHCOC49、−CH2NHCOC511、−(CH22NHCOC511、−(CH23NHCOC511等が挙げられる。
−(CH2n−CONHR′基の具体例としては、−CH2CONHCH3、−(CH22CONHCH3、−(CH23CONHCH3、−CH2CONHC25、−(CH22CONHC25、−(CH23CONHC25、−CH2CONHC37、−(CH22CONHC37、−(CH23CONHC37、−CH2CONHC49、−(CH22CONHC49、−(CH23CONHC49、−CH2CONHC511、−(CH22CONHC511、−(CH23CONHC511等が挙げられる。
【0014】
−(CH2n−NHCONHR′基の具体例としては、−CH2NHCONHCH3、−(CH22NHCONHCH3、−(CH23NHCONHCH3、−CH2NHCONHC25、−(CH22NHCONHC25、−(CH23NHCONHC25、−CH2NHCONHC37、−(CH22NHCONHC37、−(CH23NHCONHC37、−CH2NHCONHC49、−(CH22NHCONHC49、−(CH23NHCONHC49、−CH2NHCONHC511、−(CH22NHCONHC511、−(CH23NHCONHC511等が挙げられる。
−COR′基の具体例としては、−COCH3、−COC25、―COC37、−COC49、−COC511等が挙げられる。
【0015】
これらの中でも、合成の容易さ、入手の容易さ、および低分子量の方がイオン液体になり易いことから、R1〜R5として、水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、総炭素数3未満のアルコキシアルキル基等が好ましく、また、イオン液体をポリマー化し得るという点から、R1〜R5として、ビニル基、アリル基、プロパルギル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、エポキシ基等の重合性基が好ましい。重合性基としては、汎用性、合成の容易さ、入手の容易さを考慮すると、特に、ビニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基が好ましい。
本発明の安息香酸類として好適な例は、下記式(5)〜(12)で示されるものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0016】
【化4】

【0017】
本発明のイオン液体を構成する塩基としては、ハロゲン原子を有しない、アミン類、アミジン類、グアニジン類が挙げられる。
アミン類としては、一級アミン、二級アミン、三級アミンのいずれでもよく、例えば、アンモニア、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、ジメチルエチルアミン、2−メトキシエチルアミン、ジエチル(2−メトキシエチル)アミン、2−メタクリロイルオキシエチルアミン、ビス(2−メタクリロイルオキシエチル)アミン、2−アクリロイルオキシエチルアミン、ビス(2−アクリロイルオキシエチル)アミン、ピリジン、ピペリジン、ピロリジン、N−(2−メトキシエチルピロリジン)、カルバゾール、インドール、シクロヘキシルアミン、アミノヘキサノール、2−(メチルアミノ)エタノール、アニリン、ヘキサメチレンジアミン、ジメチルアリルアミンなどが挙げられる。
特に、下記式(2)で示されるアミンが好適である。
【0018】
【化5】

〔式中、R6〜R8は互いに同一でも異なっていてもよい、水素原子、炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐のアルキル基(このアルキル基は、ビニル基、アリル基、プロパルギル基、アクリロイル基、メタクリロイル基またはエポキシ基で置換されていてもよい。)、炭素数1〜6のヒドロキシアルキル基、または炭素数1〜12のアルコキシアルキル基を示し、R6〜R8のいずれか2個の基が水素原子以外の基の場合、これら各基が窒素原子と共に環を形成していてもよい。〕
【0019】
上記式(2)において、炭素数1〜6の直鎖または分岐のアルキル基としては、先の安息香酸類で挙げたとおりである。
炭素数1〜6のヒドロキシアルキル基の具体例としては、−CH2OH、−(CH22OH、−(CH23OH、−(CH24OH等が挙げられる。
炭素数1〜12のアルコキシアルキル基としては、−(CH2n−OR′基で例示した基と同様の基が挙げられる。
中でも、合成の容易さ、入手の容易さ、および低分子量の方がイオン液体になり易いことから、R6〜R8としては、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、メトキシメチル基、メトキシエチル基、エトキシエチル基が好ましい。
本発明のアミン類として好適な例は、下記式(13)〜(20)で示されるものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0020】
【化6】

【0021】
アミジン類としても、特に限定されるものではなく、例えば、下記式(3)で示されるものが挙げられる。
【0022】
【化7】

〔式中、R9〜R12は、互いに同一でも異なっていてもよい、水素原子、炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、炭素数7〜12のアラルキル基(これらアルキル基、アリール基およびアラルキル基は、ビニル基、アリル基、プロパルギル基、アクリロイル基、メタクリロイル基またはエポキシ基で置換されていてもよい。)、または炭素数1〜12のアルコキシアルキル基を示し、R9またはR10およびR11が水素原子以外の基の場合、これら各基が2個の窒素原子と共に環を形成していてもよい。〕
【0023】
上記各式において、炭素数1〜6の直鎖または分岐のアルキル基、炭素数1〜6のヒドロキシアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシアルキル基としては、上述と同様の基が挙げられる。
炭素数6〜12のアリール基としては、フェニル基、キシリル基、トリル基、ビフェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
炭素数7〜12のアラルキル基としては、ベンジル基、フェニルエチル基等が挙げられる。
アミジン類としては、入手の容易さ、イオン液体化能の高さという点から、特に下記式(21)で示されるイミダゾール類が好適である。
【0024】
【化8】

〔式中、R10およびR12は上記と同じ。〕
【0025】
グアニジン類としても、特に限定されるものではなく、例えば、下記式(4)で示されるものが挙げられる。式(4)において、R9〜R13としては、合成のし易さ、入手の容易さを考慮すると、メチル基、エチル基、フェニル基、トリル基が好ましい。
【0026】
【化9】

〔式中、R9〜R12は、上記と同じ、R13は、R9と同じ。〕
【0027】
本発明のアミジン類およびグアニジン類として好適な例は、下記式(22)〜(28)で示されるものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0028】
【化10】

【0029】
本発明のイオン液体として好適な例は、下記式(29)〜(36)で示されるものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0030】
【化11】

【0031】
本発明のイオン液体は、公知の酸−塩基中和法により得ることができ、例えば、塩基類と安息香酸類とを、氷冷下等の冷却下で混合(モル比1:1)した後、適宜な温度まで昇温して1〜24時間程度撹拌して得ることができる。
この際、上述した安息香酸類および塩基の少なくとも一方が融点30℃以上であり、室温下で固体であっても、液体−固体の混合による酸−塩基中和法によりイオン液体を調製することができる。さらに、安息香酸類および塩基の双方が、融点30℃以上、特には50℃以上の室温で固体の場合でも、一方が融解する温度まで加熱して酸−塩基中和反応を行うことで、イオン液体を調製することができる。
以上説明した本発明のイオン液体は、イオン伝導体、プロトン伝導体として作用するものであり、非水系二次電池、電気二重層キャパシタ、電解コンデンサ等の電解液として用いることができる。また、カーボンナノチューブのゲル化剤としても好適に用いることができる。
【実施例】
【0032】
以下、実施例および比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例において、ガラス転移温度は、EXSTER6000 DSC6200(エスアイアイナノテクノロジー(株)製)を用いて1℃/分の昇温速度で測定した。イオン伝導度は、3511−50LCR HiTESTER(日置電機(株)製)を用いて交流インピーダンス法により測定した。
【0033】
[実施例1]中和塩型イオン液体(29)の合成
【化12】

【0034】
1−メチルイミダゾール(関東化学(株)製)に、安息香酸(融点122〜123℃、関東化学(株)製)をアイスバスで冷却しながら加えた(モル比1:1)。15分後、アイスバスをはずし、室温で一晩攪拌して上式に示されるイオン液体(29)を得た。目的物は室温(25℃)で液体で、DSC測定の結果、融点は観測されず、ガラス転移温度(Tg)は−60℃であった。イオン伝導度は3.8×10-1mS/cm(20℃)であった。
1H-NMR(CDCl3) δ: 3.72(s,3H), 6.90(d,1H), 7.16(s,1H), 7.44(t,2H), 7.54(m,1H), 7.78(d,1H), 8.12,(d,2H), 14.31(br,1H).
【0035】
[実施例2]中和塩型イオン液体(31)の合成
【化13】

【0036】
1−メチルイミダゾールの代わりにトリエチルアミン(関東化学(株)製)を用いた以外は、実施例1と同様にして上式の化合物(31)を得た。目的物は室温(25℃)で液体で、DSC測定の結果、融点は観測されず、Tgは−68℃であった。イオン伝導度は1.7×10-1mS/cm(20℃)であった。
1H-NMR(CDCl3) δ: 1.28(t,9H), 3.08(q,6H), 7.34-7.44(m,3H), 8.07(d,2H), 11.95(br,1H).
【0037】
[実施例3]中和塩型イオン液体(34)の合成
【化14】

【0038】
1−メチルイミダゾールの代わりにピロリジン(和光純薬工業(株)製)を、安息香酸の代わりにm−トルイル酸(融点111〜113℃、関東化学(株)製)を用いた以外は、実施例1と同様にして上式に示される化合物(34)を得た。目的物は室温(25℃)で液体で、DSC測定の結果、融点は観測されず、Tgは−52℃であった。イオン伝導度は3.5×10-2mS/cm(20℃)であった。
1H-NMR(CDCl3) δ: 1.94(t,4H), 2.38(s,3H), 3.27(t,4H), 7.20-7.28(m,2H), 7.78(d,1H), 7.82(s,1H), 10.81(s,2H).
【0039】
[実施例4]中和塩型イオン液体(35)の合成
【化15】

【0040】
ジエチルアミン(関東化学(株)製)100mlと2−メトキシエチルクロライド(関東化学(株)製)85mlとを混合し、得られた混合溶液をオートクレーブ中に入れ、100℃で24時間反応させた。この時、内圧は、1.3kgf/cm2であった。24時間後、析出した結晶と反応液との混合物に水酸化カリウム(片山化学工業(株)製)56gを溶解した水溶液200mlを加え、2層に別れた有機層を分液ロートで分液した。さらに、塩化メチレン(和光純薬工業(株)製)100mlを加えて抽出する操作を2回行った。分液した有機層をまとめ、飽和食塩水で洗浄した後、炭酸カリウム(和光純薬工業(株)製)を加えて乾燥し、減圧濾過した。得られた有機層の溶媒をロータリーエバポレーターにて留去し、残留分について常圧蒸留を行い、沸点135℃付近の留分である2−メトキシエチルジエチルアミンを18.9g得た。
【0041】
1−メチルイミダゾールの代わりに、上記で得られた2−メトキシエチルジエチルアミンを、安息香酸の代わりにp−ビニル安息香酸(融点143〜144℃、和光純薬(株)製)を用いた以外は、実施例1と同様にして上式に示される化合物(35)を得た。目的物は室温(25℃)で液体で、DSC測定の結果、融点は観測されず、Tgは−62℃であった。イオン伝導度は1.3×10-1mS/cm(20℃)であった。
1H-NMR(CDCl3) δ: 1.27(t,6H), 3.18(q,4H), 3.25(dd,2H), 3.32(s,3H), 3.78(dd,2H), 5.30(d,1H), 5.82(d,1H), 6.76(dd,1H), 7.45(d,2H), 8.04(d,2H), 13.75(bs,1H).
【0042】
[実施例5]中和塩型イオン液体(30)の合成
【化16】

【0043】
1−メチルイミダゾールの代わりにイミダゾール(融点87〜90℃、東京化成工業(株)製)を、安息香酸の代わりにm−トルイル酸を用い、80℃で30分間加熱した以外は、実施例1と同様にして上式に示される化合物(30)を得た。目的物は室温(25℃)で液体で、DSC測定の結果、融点は観測されず、Tgは−42℃であった。イオン伝導度は1.0×10-1mS/cm(20℃)であった。
1H-NMR(CDCl3) δ: 2.37(s,3H), 7.10(s,2H), 7.25-7.32(m,2H), 7.86(m,1H), 7.88(bs,1H), 8.14(bs,1H), 14.20(s,2H).
【0044】
[実施例6]中和塩型イオン液体(36)の合成
【化17】

【0045】
1−メチルイミダゾールの代わりに2−(メチルアミノ)−エタノール(関東化学(株)製)を用い、80℃で30分間攪拌すること以外は、実施例1と同様にして上式に示される化合物(36)を得た。目的物の融点は54℃であった。イオン伝導度は1.2mS/cm(60℃)であった。
1H-NMR(CDCl3) δ: 2.64(s,3H), 3.05(dd,2H), 3.91(dd,2H), 7.36(t,2H), 7.40-7.45(m,1H), 7.98(d,2H), 8.64(bs,3H).
【0046】
[実施例7]中和塩型イオン液体(37)の合成
【化18】

【0047】
1−メチルイミダゾールの代わりにメタクリル酸2−ジエチルアミノエチル(和光純薬工業(株)製)を、安息香酸の代わりにp−ビニル安息香酸を用いた以外は、実施例1と同様にして上式に示される化合物(37)を得た。目的物は室温(25℃)で液体で、DSC測定の結果、融点は観測されず、Tgは−64℃であった。イオン伝導度は9.8×10-2mS/cm(20℃)であった。
1H-NMR(CDCl3) δ: 1.22(t,6H), 1.93(s,3H), 2.98(q,4H), 3.16(t,2H), 4.46(t,2H), 5.31(d,1H), 5.56(s,1H), 5.82(d,1H), 5.84(s,1H), 6.75(dd,1H), 7.43(d,2H), 8.02(d,2H), 14.12(bs,1H).
【0048】
本発明は、酸として安息香酸あるいは安息香酸誘導体を用いることで、安価かつ簡便に合成でき、比較的低温で液体であり、ハロゲン原子を含有しない環境適応性の高い中和塩型のイオン液体が得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハロゲン原子を有しない安息香酸類とハロゲン原子を有しない塩基とを混合してなり、100℃以下で液体であることを特徴とするイオン液体。
【請求項2】
50℃以下で液体であることを特徴とする請求項1記載のイオン液体。
【請求項3】
前記安息香酸類および塩基の少なくとも一方が融点30℃以上であることを特徴とする請求項1または2記載のイオン液体。
【請求項4】
前記安息香酸類が、下記式(1)で示されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載のイオン液体。
【化1】

{式中、R1〜R5は、互いに同一でも異なっていてもよい、水素原子、水酸基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐のアルキル基〔このアルキル基は、ビニル基、アリル基、プロパルギル基、アクリロイル基、メタクリロイル基またはエポキシ基で置換されていてもよい。〕、−(CH2n−O−R′基、−(CH2n−S−R′基、−(CH2n−OCO−R′基、−(CH2n−COO−R′基、−(CH2n−NHCO−R′基、−(CH2n−CONH−R′基、−(CH2n−NHCONH−R′基、−CO−R′基〔式中R′は直鎖または分岐の炭素数1〜6のアルキル基(このアルキル基は、ビニル基、アリル基、プロパルギル基、アクリロイル基、メタクリロイル基またはエポキシ基で置換されていてもよい。)を示し、nは1〜6の整数を示す。〕、ビニル基、アリル基、プロパルギル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、またはエポキシ基を示す。}
【請求項5】
前記塩基が、アミン類、アミジン類またはグアニジン類であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載のイオン液体。
【請求項6】
前記塩基が、下記式(2)、式(3)または式(4)で示されることを特徴とする請求項5記載のイオン液体。
【化2】

〔式中、R6〜R8は互いに同一でも異なっていてもよい、水素原子、炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐のアルキル基(このアルキル基は、ビニル基、アリル基、プロパルギル基、アクリロイル基、メタクリロイル基またはエポキシ基で置換されていてもよい。)、炭素数1〜6のヒドロキシアルキル基、または炭素数1〜12のアルコキシアルキル基を示し、R6〜R8のいずれか2個の基が水素原子以外の基の場合、これら各基が窒素原子と共に環を形成していてもよい。
9〜R13は、互いに同一でも異なっていてもよい、水素原子、炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、炭素数7〜12のアラルキル基(これらアルキル基、アリール基およびアラルキル基は、ビニル基、アリル基、プロパルギル基、アクリロイル基、メタクリロイル基またはエポキシ基で置換されていてもよい。)、炭素数1〜6のヒドロキシアルキル基、または炭素数1〜12のアルコキシアルキル基を示し、R9またはR10、およびR11が水素原子以外の基の場合、これら各基が2個の窒素原子と共に環を形成していてもよい。〕
【請求項7】
前記安息香酸類が、重合性基を有することを特徴とする請求項1記載のイオン液体。
【請求項8】
前記重合性基が、ビニル基、アクリロイル基またはメタクリロイル基である請求項7記載のイオン液体。

【公開番号】特開2006−282525(P2006−282525A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−101642(P2005−101642)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(000004374)日清紡績株式会社 (370)
【Fターム(参考)】