説明

定着ローラの製造方法

【課題】 1本単位の小ロットにおいても、生産性を落とすことなく、製造に要する消費エネルギ効率が高い定着ローラの製造方法を提供する。
【解決手段】 ローラ基体8aと、その外周面に焼成され融着されるフッ素樹脂からなる離型層とを備えた定着ローラ8の製造方法において、前記フッ素樹脂を塗布した直後に、前記ローラ基体8aの近傍に設けた加熱源10によって、フッ素樹脂を加熱、融着して前記離型層を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面が熱可塑性樹脂で被覆された円筒形状物の表面の平滑化、とくに樹脂被膜を有する定着ローラ表面の平滑化を行う定着ローラの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子写真式の画像形成装置に装備される定着装置に用いる加熱定着ローラとして使用する樹脂被膜ローラの表面を平滑化するために、加熱定着ローラ表面にフッ素樹脂膜を製造する製造方法、薄肉芯金の表面を平滑化するバニッシュ工法等が研究されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
電子写真方式を用いた画像形成装置の定着部に使用される定着ローラは、熱可塑性樹脂を芯金の外周に被覆した構成を備えている。この熱可塑性樹脂の材質としては、トナーに対する離型性、およびトナー定着温度(通常180〜200度)での連続耐久性などが要求されるため、PFA樹脂を主成分とする離型性樹脂(例えば、テフロン(登録商標)等)が用いられることが多い。
前記の被膜を形成するためには、通常、離型性樹脂を静電塗装でローラ基体上に成型した後、離型性樹脂の溶融温度以上に加熱焼成することによって、被膜をローラ基体上に溶着させる。
ローラを加熱焼成するためには、従来、焼成炉を用いて100本単位で加熱焼成していたが、この方法では、100本単位のバッチ生産をしなければならないので、100本以下単位のロットで製造する場合、生産性が低下する。また、大型の焼成炉を使用するため、電力消費が大きく、エネルギ効率が悪いといった課題がある。
一方、トナーに対する離型性を得るため、前記樹脂面は、粗さRzが1〜3μm、うねりが2〜4μm程度の平滑性が要求される。この平滑性に加え、前記樹脂面をその溶融温度以上に熱した後で急速冷却することで、樹脂被膜の結晶化度が低くなり、樹脂被膜の強度が上がる結果、耐久性が向上することが知られている。
そこで、本発明の第1の目的は、上述した実情を考慮して、1本単位の小ロットにおいても、生産性を落とすことなく、製造に要する消費エネルギ効率が高い定着ローラの製造方法を提供することにある。
また、本発明の第2の目的は、エネルギ効率が高い加熱源を使用することによって、最も電力消費を抑えることができる定着ローラの製造方法を提供することにある。
さらに、本発明の第3の目的は、この薄肉の樹脂被覆ローラの表面の結晶化度を低くし、高耐久の加熱定着ローラを製造できる製造方法を、前記の焼成直後に行うことによって、さらに生産性を高め、製造に要する消費エネルギ効率が高い定着ローラの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記の課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、ローラ基体と、その外周面に焼成され融着されるフッ素樹脂からなる離型層とを備えた定着ローラの製造方法において、前記フッ素樹脂を塗布した直後に、前記ローラ基体の近傍に設けた加熱源によって、フッ素樹脂を加熱、融着して前記離型層を形成する定着ローラの製造方法を特徴とする。
また、請求項2に記載の発明は、前記加熱源が赤外線ヒータである請求項1記載の定着ローラの製造方法を特徴とする。
また、請求項3に記載の発明は、前記加熱源が高周波誘導加熱手段である請求項1記載の定着ローラの製造方法を特徴とする。
また、請求項4に記載の発明は、前記ローラ基体を回転自在な保持手段によって定速回転させつつ、前記加熱源によってフッ素樹脂を加熱、融着して前記離型層を形成する請求項1ないし3のいずれか一項記載の定着ローラの製造方法を特徴とする。
また、請求項5に記載の発明は、前記フッ素樹脂を加熱、融着した直後に、前記フッ素樹脂の融点より低い温度まで急速冷却する請求項1ないし4のいずれか一項記載の定着ローラの製造方法を特徴とする。
また、請求項6に記載の発明は、ローラ基体と、その外周面に焼成され融着されるフッ素樹脂からなる離型層とを備えた定着ローラの製造方法において、前記フッ素樹脂を塗布した直後に前記ローラ基体の近傍に設けた加熱源によって、フッ素樹脂を加熱、融着して離型層を形成した後、加熱温度を前記フッ素樹脂が軟化溶融を開始する温度に変更するとともに、前記ローラ基体表面より表面粗さが小さい円柱形状の押し当て部材を当接して連れ回り転動させることによって表層を平滑化する定着ローラの製造方法を特徴とする。
また、請求項7に記載の発明は、ローラ基体と、その外周面に焼成され融着されるフッ素樹脂からなる離型層とを備えた定着ローラの製造方法において、前記フッ素樹脂を塗布した直後に前記ローラの近傍に設けた加熱源によって、前記フッ素樹脂を加熱、融着して前記離型層を形成した後、加熱温度を前記フッ素樹脂が軟化溶融を開始する温度に変更するとともに、前記ローラ基体表面より表面粗さが小さい円柱形状の押し当て部材を当接して連れ回り転動させることによって表層を平滑化した後、加熱温度を前記フッ素樹脂が完全に溶融する温度に変更した後、前記フッ素樹脂の融点より低い温度まで急速冷却する定着ローラの製造方法を特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、100本単位でのバッチ生産をすることなく、1本単位での小ロット生産をすることが可能になるとともに、製造に要する消費エネルギを低減する、すなわち、エネルギ効率の最も高い定着ローラの製造方法を提供することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳細に説明する。図1は本発明による定着ローラの製造方法の製造工程を示すブロック図である。図2は本発明の定着ローラの製造方法の第1の実施の形態を示す概略図である。
この定着ローラの製造方法は、ローラ基体8aの形状を所定の寸法に切削加工する切削加工工程1と、ローラ基体8aとフッ素樹脂等からなる離型層(図示せず)の密着を高めるためのプライマ層を塗装するプライマ層塗装工程2と、塗装したプライマ層を乾燥させるプライマ層乾燥工程3とを含んでいる。
さらに、定着ローラの製造方法は、離型層を静電塗装する静電塗装工程4と、塗装した離型層を加熱焼成により融着させる融着工程5と、加熱融着した離型層を平滑化する平滑化工程6と、離型層を急冷する急冷工程7とを含んでいる。
本発明の特徴的な構成は、フッ素樹脂等の離型層構成材料をローラ基体8aの表面に塗布した直後に、ローラ基体の近傍に設けた加熱源によって、離型層構成材料を加熱、融着して前記離型層を形成する点にある。
【0007】
図2は本発明による定着ローラの製造方法の第1の実施の形態を示す概略図である。図3は反射手段を説明する概略図である。図2および図3において、この第1の実施の形態は、離型層が静電塗装された直後(図1の静電塗装工程4)のローラ基体8aと、このローラ基体8aを回転自在に保持する回転支持手段9と、図示してない回転駆動手段とを含んでいる。
さらに、第1の実施の形態は、ハロゲンヒータ(赤外線ヒータ)10と、このハロゲンヒータ10の両端部を支持する支持手段11と、ハロゲンヒータ10から発せられた可視光および赤外線光をローラ基体8aが配置された方向に反射させる反射手段12とから構成される。
この構成により、離型層の静電塗装工程4が完了した後、ローラ基体8aを所定の回転数で定速回転させつつ、ハロゲンヒータ10によって基体ローラ8aの表面温度を樹脂が溶融する温度まで昇温させることによって、プライマ層に融着して離型層が形成される。
図4は本発明による定着ローラの製造方法の第2の実施の形態を示す概略図である。図5は高周波誘導加熱手段を説明する概略図である。この第2の実施の形態では、第1の実施の形態で用いたハロゲンヒータ10の代替として高周波誘導加熱手段13を用いている。
ローラ基体8aを金属にて構成することにより、高周波誘導加熱を利用した加熱が可能となり、静電塗装工程後の離型層焼成が可能となる。
図6は本発明による定着ローラの製造方法の第3の実施の形態を示す概略図である。図7は急冷手段を説明する概略図である。この第3の実施の形態においては、加熱源としてハロゲンヒータ10を用いた場合を示している。
ハロゲンヒータ10の横側に、急冷手段としてスリット状の圧縮空気を噴射する急冷ノズル15を並置するとともに、ハロゲンヒータ10、および、急冷ノズル15を並進駆動させるアクチュエータ14を備えている。この構成によって、離型層を融着した直後に、この離型層を急冷することが可能になる。
【0008】
図8は本発明による定着ローラの製造方法の第4の実施の形態を示す概略上面図である。図9は図8の平滑化手段および図7の急冷手段を示す正面図である。図8および図9には加熱融着した離型層を平滑化する平滑化工程6における平滑化手段を示している。
図8および図9において、平滑化手段は、円柱形状の平滑コロ(押当て部材)16と、この平滑コロ16の支持手段17と、平滑コロ16をローラ基体8aに押圧するアクチュエータ18と、このアクチュエータ18の支持手段19と、平滑コロ16をローラ基体8aの軸方向にトラバース駆動するためのアクチュエータ20と、アクチュエータをローラ基体と平行な方向へ移動させるガイドとなる移動テーブル21とから構成されている。平滑コロ16をローラ基体面に当接させて軸方向に平行移動させると共に、ローラ基体を所定速度で回転させることにより、ローラ基体表面を平滑化することができる。平滑コロ16としては、ローラ基体表面より表面粗さが小さい円柱形状の押し当て部材を用いる。
即ち、本発明では、フッ素樹脂等の離型層構成材料をローラ基体8aに塗布した直後にローラ基体の近傍に設けた加熱源10によって、離型層構成材料を加熱、融着して離型層を形成した後、加熱温度を離型層構成材料が軟化溶融を開始する温度に変更するとともに、ローラ基体表面より表面粗さが小さい円柱形状の押し当て部材16を当接して連れ回り転動させることによって表層を平滑化するものである。
或いはまた本発明では、離型層構成材料を塗布した直後にローラ基体の近傍に設けた加熱源によって、離型層構成材料を加熱、融着して離型層を形成した後、加熱温度を離型層構成材料が軟化溶融を開始する温度に変更するとともに、ローラ基体表面より表面粗さが小さい円柱形状の押し当て部材16を当接して連れ回り転動させることによって表層を平滑化した後、加熱温度を離型層構成材料が完全に溶融する温度に変更した後、前記離型層構成材料の融点より低い温度まで急速冷却するものである。
【0009】
図10は第4の実施の形態における定着ローラの表面温度をグラフで示す図である。図10において、横軸は時間を示し、時間t0〜t1は定着ローラ8の昇温、t1〜t2は定着ローラ8の加熱保持と融着を示している。
さらに、t2〜t3は平滑コロ16の平滑温度へ降温、t3〜t4は平滑コロ16によるコロ平滑、t4〜t5は定着ローラ8の急冷をそれぞれ示している。縦軸は温度を示し、T1は離型層の融着温度、T2は平滑コロ16による平滑加工温度を示している。
以上の製造方法を用いて定着ローラを試作したところ、従来の製造方法と同等の品質が得られるとともに、焼成炉を用いて100本単位でのバッチ生産することなく、1本単位での小ロットで製造することができた。
本発明によれば、上記の生産効率、および、エネルギ消費効率が高い製造方法を提供できるとともに、高耐久の定着ローラを提供することが可能になる。また、本発明による定着ローラの製造方法は、樹脂被膜塗装直後に平滑加工を行うようにすることで、一次焼成工程を省くことが可能になる固有の効果を有している。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明による定着ローラの製造方法の製造工程を示すブロック図。
【図2】本発明による定着ローラの製造方法の第1の実施の形態を示す概略図。
【図3】反射手段を説明する概略図。
【図4】本発明による定着ローラの製造方法の第2の実施の形態を示す概略図。
【図5】高周波誘導加熱手段を説明する概略図。
【図6】本発明による定着ローラの製造方法の第3の実施の形態を示す概略図。
【図7】急冷手段を説明する概略図。
【図8】本発明による定着ローラの製造方法の第4の実施の形態を示す概略上面図。
【図9】図8の平滑化手段および図7の急冷手段を示す正面図。
【図10】第4の実施の形態における定着ローラの表面温度をグラフで示す図。
【符号の説明】
【0011】
4 離型層静電塗装工程、5 離型層焼成工程、6 離型層平滑化工程、7 離型層急冷工程、8 定着ローラ、8a ローラ基体、9 保持手段(回転支持手段)、10 加熱源(ハロゲンヒータ)、13 加熱源(高周波誘導加熱手段)、16 押し当て部材(平滑コロ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ローラ基体と、その外周面に焼成され融着される離型層とを備えた定着ローラの製造方法において、前記離型層構成材料を塗布した直後に、前記ローラ基体の近傍に設けた加熱源によって、離型層構成材料を加熱、融着して前記離型層を形成することを特徴とする定着ローラの製造方法。
【請求項2】
前記加熱源が赤外線ヒータであることを特徴とする請求項1記載の定着ローラの製造方法。
【請求項3】
前記加熱源が高周波誘導加熱手段であることを特徴とする請求項1記載の定着ローラの製造方法。
【請求項4】
前記ローラ基体を回転自在な保持手段によって定速回転させつつ、前記加熱源によって離型層構成材料を加熱、融着して前記離型層を形成することを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一項記載の定着ローラの製造方法。
【請求項5】
前記離型層構成材料を加熱、融着した直後に、前記離型層構成材料の融点より低い温度まで急速冷却することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一項記載の定着ローラの製造方法。
【請求項6】
ローラ基体と、その外周面に焼成され融着される離型層とを備えた定着ローラの製造方法において、前記離型層構成材料を塗布した直後に前記ローラ基体の近傍に設けた加熱源によって、離型層構成材料を加熱、融着して離型層を形成した後、加熱温度を前記離型層構成材料が軟化溶融を開始する温度に変更するとともに、前記ローラ基体表面より表面粗さが小さい円柱形状の押し当て部材を当接して連れ回り転動させることによって表層を平滑化することを特徴とする定着ローラの製造方法。
【請求項7】
ローラ基体と、その外周面に焼成され融着される離型層とを備えた定着ローラの製造方法において、前記離型層構成材料を塗布した直後に前記ローラの近傍に設けた加熱源によって、前記離型層構成材料を加熱、融着して前記離型層を形成した後、加熱温度を前記離型層構成材料が軟化溶融を開始する温度に変更するとともに、前記ローラ基体表面より表面粗さが小さい円柱形状の押し当て部材を当接して連れ回り転動させることによって表層を平滑化した後、加熱温度を前記離型層構成材料が完全に溶融する温度に変更した後、前記離型層構成材料の融点より低い温度まで急速冷却することを特徴とする定着ローラの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−55695(P2006−55695A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−237372(P2004−237372)
【出願日】平成16年8月17日(2004.8.17)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】