説明

定着装置および画像形成装置

【課題】本発明は、押圧ローラなどの押圧部材が抵抗発熱層を含む定着ベルトの周回経路内側に配されている抵抗発熱式の定着装置において、定着ベルトの高寿命化を図る。
【解決手段】抵抗発熱層156を含む無端状の定着ベルト154の内側に配設されている押圧ローラ150を、定着ベルト154の周回経路外側から当該定着ベルト154を介して加圧ローラ160で押圧して定着ニップを形成し、未定着画像の形成されたシートを当該定着ニップに通紙して熱定着する定着装置であって、定着ベルト154において、抵抗発熱層156は、その幅方向の両端部に段差部156bが形成されていると共に、各段差部156bの縦壁部分の壁面156cに接触するように、電極層159が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、定着装置および当該定着装置を用いた画像形成装置に関し、特に、抵抗発熱層とこれに給電するための電極層が形成された定着ベルトを用いた定着装置において、当該定着ベルトの長寿命化を図る技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プリンタ等の画像形成装置では、抵抗発熱層を含む定着ベルトに直接通電することで発熱させる定着装置を採用するものがある(例えば、特許文献1)。
このような定着装置は、ハロゲンヒータを熱源とする定着装置よりも省エネルギー化を図れるという利点がある。
図8は、当該定着装置に用いられる定着ベルトの断面図である。
【0003】
同図に示すように、定着ベルト500は、補強層555の上に、抵抗発熱層556が積層されている。
また、抵抗発熱層556の外周面の両端部には、外部の電源から受電する電極として、金属材料からなる電極層559が積層されている。
さらに、抵抗発熱層556の外周面において、2つの電極層559の間に位置する領域には、記録シートとの離型性を高めるための離型層557が積層されている。
【0004】
ここで、抵抗発熱層556は、電気抵抗の大きな材料から構成されているため、電流が流れるとジュール発熱するものである。
以上の構成において、外部交流電源580に接続された給電部材570を電極層559と接触させ、抵抗発熱層556の両端部に電位差を発生させることにより、抵抗発熱層556に電流が流れる。
【0005】
これにより、抵抗発熱層556が発熱し、この熱が記録シートの熱定着に利用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−272223号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記構成の定着ベルト500において、長時間通電すると、電極層559の離型層557寄りの縁部と抵抗発熱層556とが接触する接触部560付近が過剰に加熱されることが判明した。
このような局所的な過熱が生じると、当該加熱部位が他の部分よりも劣化が促進され、定着ベルト500の寿命が低下するという問題がある。
【0008】
ここで、上記局所的過熱の原因として、以下のことが考えられる。
即ち、電流は、抵抗値の小さいところを流れ易いので、給電部材570から電極層559に供給された電流は、もう一方の電極層559との距離ができるだけ短い位置から抵抗発熱層556に流れようとする。
その結果、電極層559と抵抗発熱層556との間においては、電流は、主に、電極層559の離型層557寄りの縁部と抵抗発熱層556とが接触する接触部560に集中する。
【0009】
そして、上記接触部560から抵抗発熱層556へと集中的に流れ込んだ電流は、抵抗発熱層556の厚み方向に分散して流れ、もう一方の接触部560の近傍において再び集中する。
このため、接触部560の電流密度が最大となり、この部分において抵抗発熱層556が過剰に発熱するものと考えられる。
【0010】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、抵抗発熱式の定着装置および画像形成装置において、定着ベルトの長寿命化を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明に係る定着装置は、抵抗発熱層を含む無端状の発熱ベルトの周回経路内側に第1の押圧部材が配され、前記発熱ベルトの周回経路外側から第2の押圧部材で第1の押圧部材を押圧して定着ニップを形成し、未定着画像の形成された記録シートを当該定着ニップに通紙して熱定着する定着装置であって、前記発熱ベルトにおいて、前記抵抗発熱層は、その幅方向の両端に段差部が形成されていると共に、前記各段差部の縦壁部の壁面に接触するように、電極層が形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
上記構成では、電極層と段差部の縦壁部の壁面とが接触する部分(以下、「壁面接触部」という。)に電流が集中し、当該壁面接触部を介して流れる電流の経路断面積は、経路断面が線状に近い状態であった従来よりも拡大しているので、電流密度を低減することができ、局所的な過熱を生じにくくすることができる。
これにより、発熱ベルトの局所的温度上昇が緩和され、発熱ベルトの寿命を延命することができる。
【0013】
また、前記電極層および前記段差部は、前記周回方向における全周に亘って形成されていることが望ましい。
さらに、前記電極層の前記段差部における厚みは、当該段差に等しいか、もしくは、それよりも大きいことが望ましい。
また、第1の押圧部材は、押圧ローラであり、第2の押圧部材は、加圧ローラであるとしてもよい。
【0014】
ここで、第1の押圧部材は、ローラ軸体であり、前記発熱ベルトは、前記ローラ軸体の外周に形成されたローラ外皮であって、前記ローラ軸体と前記ローラ外皮とで定着ローラを構成するとしてもよい。
また、前記抵抗発熱層は、耐熱性絶縁樹脂に導電フィラーを分散させたものであることが望ましい。
【0015】
なお、本発明は、上記定着装置を備えた画像形成装置としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態に係るプリンタ全体の構成を示す概略断面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る定着装置の構成を示す一部切り欠き斜視図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る定着装置の側面図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る定着装置の軸方向における断面図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る定着ベルトの加熱部位の温度低減効果を示す図である。
【図6】本発明の実施の形態に係る定着ベルトの加熱部位の温度低減効果を示す図である。
【図7】本発明の実施の形態に係る定着装置の変形例である。
【図8】従来の定着ベルトの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、当該プリンタ1の全体の構成を示す概略断面図である。
同図に示すように、このプリンタ1は、画像プロセス部3、給紙部4、定着部5および制御部60を備えており、ネットワーク(例えばLAN)に接続されて、外部の端末装置(不図示)からのプリントジョブの実行指示を受け付けると、その指示に基づいてイエロー、マゼンタ、シアンおよびブラック色からなるトナー像を形成し、これらを多重転写してフルカラーの画像形成を実行する。
【0018】
以下、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの各再現色をY、M、C、Kと表し、各再現色に関連する構成部分の番号にこのY、M、C、Kを添字として付加する。
<画像プロセス部>
画像プロセス部3は、Y〜K色のそれぞれに対応する作像部3Y、3M、3C、3K、光学部10、中間転写ベルト11などを備えている。
【0019】
作像部3Yは、感光体ドラム31Y、その周囲に配設された帯電器32Y、現像器33Y、一次転写ローラ34Y、感光体ドラム31Yを清掃するためのクリーナ35Yなどを備えており、感光体ドラム31Y上にY色のトナー像を作像する。他の作像部3M〜3Kについても、作像部3Yと同様の構成になっており、同図では符号を省略している。
中間転写ベルト11は、無端状のベルトであり、駆動ローラ12と従動ローラ13に張架されて矢印A方向に回転駆動される。
【0020】
光学部10は、レーザダイオードなどの発光素子を備え、制御部60からの駆動信号によりY〜K色の画像形成のためのレーザ光Lを発し、感光体ドラム31Y〜31Kを露光走査させる。
この露光走査により、帯電器32Y〜32Kにより帯電された感光体ドラム31Y〜31K上に静電潜像が形成される。各静電潜像は、現像器33Y〜33Kにより現像されて感光体ドラム31Y〜31K上にY〜K色のトナー像が、中間転写ベルト11上の同じ位置に重ね合わせて一次転写されるようにタイミングをずらして実行される。
【0021】
一次転写ローラ34Y〜34Kにより作用する静電力により中間転写ベルト11上に各色のトナー像が順次転写されフルカラーのトナー像が形成され、さらに二次転写位置46方向に移動する。
一方、給紙部4は、記録シートSを収容する給紙カセット41と、給紙カセット41内の記録シートSを搬送路43上に1枚ずつ繰り出す繰り出しローラ42と、繰り出された記録シートSを二次転写位置46に送り出すタイミングをとるためのタイミングローラ対44などを備えており、中間転写ベルト11上のトナー像の移動タイミングに合わせて給紙部4から記録シートSを二次転写位置に給送し、二次転写ローラ45の作用により中間転写ベルト11上のトナー像が一括して記録シートS上に二次転写される。
【0022】
二次転写位置46を通過した記録シートSは、定着部5に搬送され、記録シートS上のトナー像(未定着画像)が、定着部5における加熱・加圧により記録シートSに定着された後、排出ローラ対71を介して排出トレイ72上に排出される。
<定着部>
図2は、上記定着部5の構成を示す部分断面斜視図であり、図3は、その側面図である。
【0023】
同図2に示すように、定着部5は、定着ベルト154と、押圧ローラ150と、加圧ローラ160と、給電部材170とを備える。
押圧ローラ150は、定着ベルト154の周回経路内側に遊びを有した状態で配されている。
また、加圧ローラ160は、定着ベルト154の周回経路外側に配置されており、不図示の駆動機構により矢印D方向に回転駆動されると共に、定着ベルト154の外側から定着ベルト154を介して押圧ローラ150を押圧する。
【0024】
これにより、定着ベルト154と押圧ローラ150とが矢印E方向に従動回転し、定着ベルト154表面との間に定着ニップNが形成される。
そして、定着ニップNが目標温度に維持された状態で記録シート(不図示)が当該定着ニップNを通過すると、当該記録シート上の未定着のトナー像が加熱、加圧されて熱定着される。
【0025】
以下、定着部5の構成について、詳細に説明する。
<押圧ローラ>
押圧ローラ150は、長尺で円柱状のローラ軸151の周囲に弾性層152が形成されてなる。
ローラ軸151は、例えば、アルミニウム、鉄、ステンレス等からなる外径が約18mmの円柱体であり、その軸方向における両端部は、図示しない定着部5の本体側フレームの軸受部に回転自在に軸支されている。
【0026】
弾性層152は、耐熱性及び断熱性の高い、例えば、シリコーンゴムやフッ素ゴム等の発泡弾性体などからなり、その厚みは、1mm以上、20mm以下であり、これにより押圧ローラ150の外径は、20mm以上、100以下に設定されるが、ここでは、5mmに設定されている。
ここで、弾性層152のY軸方向の長さは、350mmとなっている。
<加圧ローラ>
加圧ローラ160は、ローラ軸161の周面に、弾性層162と、接着層163と、離型層164とが、この順に積層されている。
【0027】
ローラ軸161は、不図示の駆動機構により回転駆動される、例えば、外径が約30mmのアルミニウム製の中実シャフトである。
弾性層162は、シリコーンゴムからなる円筒体であり、Y軸方向の長さは310mmとなっている。
なお、弾性層162の材料としては、上記シリコーンゴムの他、フッ素ゴムなどの耐熱性の高い材料を用いてもよい。
【0028】
弾性層162の厚みとしては、1mm以上、20mm以下が望ましく、ここでは、2mmに設定されている。
離型層164は、厚みが10μm以上、50μm以下のPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)またはPFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)等のフッ素系樹脂からなる。
【0029】
接着層163は、シリコーン接着剤などからなり、当該接着剤が弾性層162の表面に塗布されることにより形成される。
ここで、弾性層162、接着層163および離型層164のY軸方向の長さは、310mmとなっており、無論、記録シートの最大通紙幅よりも大きく設定されている。
<給電部材>
給電部材170は、リード線175を介して外部の電源180に電気的に接続されており、定着ベルト154の後述する1対の電極層159に接触して、これに給電するものである。
【0030】
ここで、電源180は、例えば、電圧100V、周波数が50Hzもしくは60Hzの商用電源である。
なお、リード線175には、制御部60の指示でON・OFFするリレースイッチ(不図示)が挿設されており、必要に応じて通電される構成となっている。
給電部材170は、より具体的には、ブラシ部171と、板バネ172からなる。
【0031】
ブラシ部171は、例えば、Y軸方向における長さが12mm、Y軸方向と直交する方向の幅10mm、厚み15mmの直方体状のブロックであって、摺動性および導伝性を有する銅黒鉛質、炭素黒鉛質などの材料からなる、いわゆるカーボンブラシである。
板バネ172は、導電性および弾性を有するりん青銅やステンレスなどからなる矩形の板体であって、一方の端部がプリンタ1の本体側(不図示)の絶縁体に固定されており、他方の端部が導電性を有する接着剤などでブラシ部171と接合されている。
【0032】
そして、板バネ172は、図3に示すように、当該ブラシ部171の給電路を形成すると共に、当該ブラシ部171を定着ベルト154の後述の電極層159の外周面に押し付けている。
<定着ベルト>
図4は、本実施の形態に係る定着装置の加圧ローラ160の回転軸方向(Y軸方向)における断面図である。
【0033】
定着ベルト154は、積層構造を有する弾性変形可能な無端ベルトであり、同図に示すように、Y軸方向における両端部とそれ以外の中央部分とでは積層状況が異なる。
より具体的には、定着ベルト154は、両端部および当該両端部に挟まれた中央部分の全域に亘り、補強層155と、抵抗発熱層156とが、この順に積層されている。
ここで、抵抗発熱層156は、その幅方向(Y軸方向)の両端において、周方向に沿って外周側の厚みが減少することにより形状的に欠落している部分(以下、「段差部156b」という。)がそれぞれ形成されている。
【0034】
ここで、抵抗発熱層156において、その両端に形成された段差部156bの間に存する部分を中央部156aと呼び、当該中央部156aよりも厚みが薄くなっている部分を薄肉部156dと呼ぶ。
段差部156b内には、環状の電極層159が形成されている。
また、抵抗発熱層156の中央部156a上に弾性層157と離型層158とがこの順で積層されている。
【0035】
以下、定着ベルト154を構成する各層について詳細に説明する。
補強層155は、導電性を有しない材料、例えば、PI(ポリイミド)、PPS(ポリフェニレンサルファイド樹脂)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)などのいずれかからなり、その厚みは5μm以上、200μm以下が望ましく、ここでは、70μmに設定されている。
【0036】
電極層159は、定着ベルト154においてY軸方向に距離をおいて形成されており、それぞれ給電部材170と接触して抵抗発熱層156に電力を供給するものである。
上述したように、電極層159は、抵抗発熱層156の両端に存する段差部156b内にそれぞれ形成されており、段差部156bの縦壁部分の壁面156c(Z軸方向に切り立った部分)に接合されている。
【0037】
なお、当該壁面156cは、Y軸方向、即ち電流が流れる方向と直交している。
このようにすることで、対向する壁面156c同士で挟まれた抵抗発熱層156の部分は、Y軸方向における長さが均一になり、電流密度が均一化され、局所的な電流密度の上昇が抑制される。
電極層159は、例えば、電気抵抗率の低いCu、Ni、Ag、Al、Au、Mg、真鍮およびリン青銅等、もしくはそれらの合金などを材料とするものであって、抵抗発熱層156の両端部に設けられた段差部156bの外周面にメッキし、もしくはこれらの金属が分散された導電性インキなどを塗布して乾燥させることにより形成される。
【0038】
また、電極層159の体積抵抗率としては、抵抗発熱層156の体積抵抗率以下に設定した上で、その数値範囲を、1.0×10−8Ω・m〜1.0×10−4Ω・mとすることが望ましい。
なお、電極層159と抵抗発熱層156の体積抵抗率の差が小さい場合であっても、電極層159の厚みを厚くし、抵抗発熱層156の厚みを薄くすれば、電極層159を電極として利用し、抵抗発熱層156を発熱体として利用することができる。
【0039】
また、電極層159は、Y軸方向の長さが15mmとなっており、厚みは、1μm以上、100μm以下であることが望ましく、ここでは20μmに設定されている。
ここで、電極層159の厚みがあまりにも薄いと、当該電極層159において、給電部材170の接触部分を起点として、ここから周方向に半回転した位置に電流が達するまでに電圧降下が生じる。
【0040】
その結果、定着ベルト154の各端部に存する上記2つの接触部分を直線で繋いだ抵抗発熱層156上の経路およびその近傍にしか電流が流れなくなり、発熱範囲が狭くなる。
上記電極層159における厚みの下限値は、このような不具合が生じないようにするために決められたものである。
抵抗発熱層156は、一対の電極層159に電位差を設けることにより、Y軸方向に電流が流れてジュール発熱するものである。
【0041】
より具体的には、抵抗発熱層156は、中央部156aにおける厚みが、40μm、薄肉部156dにおける厚みが、20μmであって、PI(ポリイミド)製樹脂に、電気抵抗率の異なる導電フィラーを一種類もしくは複数種類分散させてなり、コーティングなどにより形成される。
また、抵抗発熱層156の中央部156aにおけるY軸方向の長さは320mmとなっており、さらに、各段差部156bにおけるY軸方向の長さは15mmとなっている。
【0042】
抵抗発熱層156に用いるベースの材料(以下、「ベース材」という。)として、他にもPPSおよびPEEKなどの耐熱性絶縁樹脂を使用することができるが、PIがもっとも高い耐熱性を有するので、PIを用いることが望ましい。
ここで、導電フィラーとしては、Ag、Cu、Al、MgおよびNiなどの金属、もしくは、カーボンナノチューブおよびカーボンナノファイバーなどのカーボン系の炭素化合物粉末と、ヨウ化銀、ヨウ化銅等の無機化合物中の高イオン導電体粉末が望ましい。
【0043】
また、その形状としては、単位含有量あたりの導電フィラー同士の接触する確率を高めたり、導電フィラーにベース材を浸透させ易くするために、繊維状にすることが望ましい。
なお、段差部156bは、例えば、上述のベース材に導電フィラーを分散されてなる厚みが均一な層の両端部を研磨することにより形成する。
【0044】
導電フィラーの構成要素である、上述の金属は、温度が上昇するにつれて体積抵抗値が上昇するPTC(positive temperature coefficient)特性を有しており、また、炭素化合物粉末および高イオン導電体粉末は、温度が上昇するにつれて体積抵抗値が減少するNTC(negative temperature coefficient)特性を有しているので、性質の相反するこれらフィラーの配合比率を調整して所望の体積抵抗率に設定している。
【0045】
なお、上記導電フィラーの他に、抵抗発熱層156における機械的強度の向上や熱伝導率向上の目的のために、ベース材に別のフィラーを添加してもよい。
電源180として、上述の商用電源を用いると、目的の発熱量を得るために設定すべき体積抵抗率は、1.0×10−6〜1.0×10−2 Ω・m程度が望ましく、さらに、本実施の形態における定着部5の仕様においては、体積抵抗率を1.0×10−5〜5.0×10−3 Ω・mに設定することが望ましい。
【0046】
弾性層157は、例えば、シリコーンゴムなどの弾性および耐熱性を有する材料からなり、その厚みは約200μmである。
なお、弾性層157の材質は、シリコーンゴムの他、フッ素ゴム等を用いても構わない。
離型層158は、例えば、PTFEもしくはPFA等のフッ素系樹脂などの離型性を有する材料からなり、厚みは、5μm以上、100μm以下である。
<温度分布の改善確認>
本実施の形態では、従来の定着装置のように、均一な厚みの抵抗発熱層156の両端部に単に電極層159を積層するのではなく、抵抗発熱層156の両端に段差部156bを設け、さらに、段差部156b内に、抵抗発熱層156よりも体積抵抗率の小さい電極層159を、段差部156bの縦壁部分の壁面156cと接触するように形成している。
【0047】
図5(a)は、以上のように構成された、実施の形態における定着部5において、定着ベルト154の一方の端部(Y’方向側端部)における電極層159および抵抗発熱層156の温度分布を、シミュレーションで求めた結果を示す図である。
また、図5(b)は、従来の定着ベルト500の一方の端部(Y’方向側端部)における電極層559および抵抗発熱層556の温度分布を、シミュレーションで求めた結果を示す図である。
【0048】
なお、ここでは発熱に直接寄与する電極層159および抵抗発熱層のみの構成でモデル化を行っている。
ここで、図中の色が濃い部分ほど温度が低く、薄い部分ほど温度が高い部分であることを示す。
<計算条件>
抵抗発熱層の体積抵抗率:9.4×10−5Ω・m
印加電圧 :100V
電極の体積抵抗率 :1.72×10−8Ω・m
これら以外の計算条件は、本実施の形態の定着ベルト154と同様である。
<寸法関係>
同図5(a)、(b)に記載の符号に対応する寸法は以下の通りである。
(実施例品)
WJ1:340mm (Y軸方向における幅)
WJ2:15mm
DJ1:20μm
TJ1:40μm
TJ2:40μm
(従来品)
WO1:340mm (Y軸方向における幅)
WO2:15mm
TO1:40μm
TO2:20μm
図5(b)に示すように、従来品では、抵抗発熱層556において、環状の電極層559の定着ベルト中央寄りの周縁部Gとの接線が一番温度が高くなっている。
【0049】
具体的には、周縁部Gの温度は、164℃となっており、また、2つの周縁部Gの間に位置する中央部における温度は、148℃前後となっており、16℃もの温度差が生じている。
これに対し、実施例品では、図5(a)に示すように、上記周縁部Gに対応する周縁部Fおよび壁面156cとその近傍の温度が、抵抗発熱層156の中では一番温度が高くなっているものの、従来品の周縁部Gに比べると、温度が低くなっていることがわかる。
【0050】
より具体的には、周縁部Fおよび壁面156cとその近傍の温度は、150℃となっており、また、中央部156aにおける温度は、148℃であり、最も温度が高くなる部位との温度差は2℃となっており、全体としての温度が均一化されていることがわかる。
このようになるのは、以下の理由によるものと考えられる。
即ち、従来品では、電極層559と抵抗発熱層556との間においては、電流は主に周縁部Gと抵抗発熱層556との接線を介して流れるため、周縁部Gの電流密度が大きくなり温度が高くなるものと考えられる。
【0051】
何故なら、電流は電気抵抗が小さな経路を流れようとする性質があり、電極層559の周縁部Gの外側に位置する部分では、抵抗発熱層556内を経由するよりも、電極層559内を通って周縁部Gまで流れた方が経路の電気抵抗が小さくなるので、電極層559と抵抗発熱層556とが面接触していても、両者の間において周縁部G以外の部分で電流が流れにくくなるからである。
【0052】
一方、本実施の形態に係る定着ベルト154では、抵抗発熱層156において、両端部に段差部156bが形成されていると共に、各段差部156bの縦壁部分の壁面156cに接触するように、抵抗発熱層156よりも体積抵抗率の小さい電極層159が形成されている。
このような構成では、抵抗発熱層156において、壁面156c同士で挟まれた部分が、電流の最短経路となる。
【0053】
このため、電極層159と抵抗発熱層156との間において、主に電流が流れる部分が、上記壁面156cと電極層159との面接触部分となり、電極層159の通紙領域寄りの縁部と抵抗発熱層156の表面とが線接触する部分にしか主に電流が流れなかった従来よりも、電流経路の断面積が大きくなる。
これにより、電流密度が低下し、局所的な加熱を生じにくくなり、発熱ベルトの寿命を延命することができる。
【0054】
図6は、上記シミュレーションにおいて算出された従来品および実施例品における抵抗発熱層の単位体積あたりの発熱量の最大値を示す図である。
同図に示すように、実施例品は、従来品に比べ、単位体積あたりの発熱量の最大値が、約1/15程度まで低減されている。
通常、定着温度は、160℃前後に設定されており、定着ベルト154の耐熱温度としては、240℃程度が要求される。
【0055】
したがって、定着ベルト154において、最も温度が上昇する部位の温度が240℃を超えないことが求められる。
また、定着ベルト154は、温度が高くなる部位ほど寿命は減少し、寿命に達した部位を起点として亀裂などが発生する傾向にあり、さらに、局所的に高温になるとその部分が他の部位より熱膨張量が大きくなり熱変形が生じ易くなる。
【0056】
このような不具合の発生を抑制するため、定着ベルト154全体の温度が均一、即ち、局所的に高温となる箇所が生じないことが求められる。
本実施の形態の定着ベルト154は、上述のように、最も温度が上昇する部位の温度が240℃以下となっていると共に、従来品よりも温度が低減されており、かつ、全体として温度が均一化されているため、高寿命化を図ることができ、さらに、熱変形を抑制することができる。
<変形例>
本発明は、上述のような実施の形態に限られるものではなく、次のような変形例も実施することができる。
【0057】
(1)上記実施の形態では、定着ベルト154は、補強層155と、抵抗発熱層156と、弾性層157と、離型層158と、電極層159とを有していたが、これに限らず、少なくとも抵抗発熱層156と電極層159とを有していればよい。
例えば、モノクロの複写機では、カラーの複写機に比べ、定着ニップ幅を小さく設定しても、定着品質の劣化がそれほど目立たないため、定着ベルト154内の弾性層157を省略することが考えられる。
【0058】
(2)また、上記実施の形態では、抵抗発熱層156において、中央部156aにおける厚みが、40μm、薄肉部156dにおける厚みが、20μmとしたが、これに限られない。
抵抗発熱層156の中央部156aにおける厚みは、発熱量を設定する上でのパラメータとなるので、これまで現実的には、中央部156aの厚みは、5μm以上、100μm以下の範囲で設定されるのが望ましいものとされていた。
【0059】
しかしながら、厚みが上記下限値に近づくと、当然、薄肉部156dにおける厚みはさらに薄くなり、壁面156cの断面積が縮小して電流密度が上昇するため、壁面156cが過熱され易くなる。
したがって、中央部156aの厚みを上記下限値寄りに設定する場合は、壁面156cにおける局所的過熱が緩和される程度の段差部156bの段差(中央部156aの厚み−薄肉部156dの厚み)を確保した上で、当該段差よりも大きい値を中央部156aの厚みに設定する必要がある。
【0060】
(3)上記実施の形態では、押圧ローラ150が、定着ベルト154の周回経路内側に遊びを有した状態で配されていたが、遊びを有しない状態で定着ベルト154の周回経路内側に配されていても構わない。
また、押圧ローラ150と定着ベルト154とが一体となった定着ローラの構成を採用しても良い。
【0061】
つまり、ローラ軸の外周面を、弾性層、抵抗発熱層、電極層および離型層などのローラ外皮で覆った構成であっても良い。
もしくは、定着ベルト154が、第1および第2のローラに張架された構成としてもよい。
この場合、例えば、第1のローラを加圧ローラと協働して定着ニップを形成する押圧ローラとし、第2ローラを定着ベルト154の長さを設定するためのローラとすることなどが考えられる。
【0062】
このような構成を用いることにより、押圧ローラの外径を小さくすることにより、記録シートの離型性を高めると共に、定着ベルト154の長さを長くすることにより、単位時間あたりの周回数を少なくして摩耗を低減し、長寿命化を図ることができる。
(4)さらに、上記実施の形態では、給電部材170は、ブロック状のブラシ部171を、定着ベルト154の電極層159に摺動させていたが、これに限らず、ブラシ部171の代わりに金属ローラを用いて、摩擦を低減させながら、電極層159との電気的接触を保ってもよい。
【0063】
また、図7に示すように、電源180に接続した1次コイル271を定着装置本体側に設けると共に、定着ベルト254において、これの一方の端部に2次コイル272を設け、当該2次コイル272を構成する巻き線の一方の端272aを電極層159aに接続し、当該巻き線のもう一方の端272bを電極層159bに接続する構成とした上で、1次コイル271と2次コイル272を対向させて1次コイルに交流電流を流すことによって、2次コイルに誘導電流を生じさせ、非接触状態で電極層159aおよび電極層159bに電力を供給してもよい。
【0064】
(5)さらに、上記実施の形態では、導電フィラーの構成要素であるPTC特性を有する材料と、NTC特性を有する材料の配合比率を調整して所望の体積抵抗率に設定しているとしたが、これ以外の目的で配合比率を調整しても構わない。
例えば、多数枚の小サイズのシートを連続してプリントする場合、定着ベルト154のうち、ベルト幅方向に当該シートが通過しない両端側の部分(以下、「非通紙部」という。)の温度が、当該シートに熱が奪われないために温度が上昇する傾向にあるが、当該非通紙部にNTC特性の導電フィラーを多く含有させることで、非通紙部の温度を上昇しにくくすることができる。
【0065】
この非通紙部は、一般に電極層に近接もしくは接触する位置にあるため、電極層と抵抗発熱層との境界部分において、電流密度が高くなる部分が生じて温度が上昇すると、体積抵抗率が下がるので、加熱が抑制される効果が望める。
上記実施の形態に係る定着ベルト154は、もともと上記境界部分における電流密度が高くならない構成であるため、非通紙部にNTC特性の導電フィラーを多く含有させていなくても、上記境界部分の加熱を抑制することができる。
【0066】
(6)また、本実施の形態では、電極層159は、定着ベルト154の周方向に1周する環状の形状となっていたが、これに限らず、例えば、電極層159において、押圧ローラ150の軸方向に対して直角以外の角度、もしくは、平行する少なくとも1本のスリットが設けられていても良い。
このような場合、例えば、給電部材170の配設位置やスリット数を適切に設定することによって、定着ベルト154において定着ニップNを通過する直前の領域だけを部分加熱して、省電力化を図ることができる。
【0067】
(7)また、上記実施の形態では、電極層159は、定着ベルト154の外周に設けられていたが、内周に設けてもよい。
この場合、当然のことながら、抵抗発熱層156の段差部156bも内周側に設け、その内に電極層159を積層する必要がある。
さらに、給電部材170も定着ベルト154の周回経路内側に配し、電極層159と接触させる必要がある。
【0068】
その場合、押圧ローラ150と加圧ローラ160の軸方向における長さの大小関係を逆転させ、定着ベルト154の周回経路内側から給電部材170で電極層159を加圧ローラ160の外周面に向けて押し付ける構成とすることが望ましい。
(8)上記実施の形態では、当該給電部材170で定着ベルト154の電極層159を押し付ける際、定着ベルト154の位置が後退しないように、給電部材170は、定着ニップNの延長上に設けていたが、これに限らない。
【0069】
例えば、定着ベルト154の周回経路内側に、当該定着ベルト154の周回経路がずれないように位置規制する新たな規制板を設ければ、給電部材170を、定着ベルト154の周回経路の外側であって、上記規制板に対向する位置に配設することで、給電部材170で定着ベルト154の電極層159を押しつけた場合、定着ベルト154が後退することがなく、両者の接触状態が確実に保たれる。
【0070】
(9)上記実施の形態では、定着ベルト154を挟み込んだ状態で押圧し、定着ニップを形成するものが、いずれも押圧ローラ150や加圧ローラ160のような回転体で構成されていたが、これらのうちの一方のみを回転体とし、もう一方を回転させずに固定された状態で上記押圧に寄与可能な部材に置き換えてもよい。
このような部材としては、定着ベルト154の周回方向と直交する方向に長尺な部材であって、表面の摺動性を高めたものが用いられる。
【0071】
つまり、上記押圧に寄与可能な部材としては、回転体や長尺な固定部材など、押圧に寄与することができる押圧部材でありさえすればよい。
(10)また、上記実施の形態では、壁面156cは、Y軸方向、即ち電流が流れる方向と直交しているとしたが、これに限らず、壁面156cがY軸方向と直交していなくてもよい。
【0072】
但し、上記直交する状態から逸れるほど、対向する壁面156c同士で挟まれた抵抗発熱層156の部分におけるY軸方向における長さは不均一になるため、できるだけ上記直交する状態から逸れないほうが望ましい。
(11)さらに、上記実施の形態では、段差部156bは、抵抗発熱層156の両端の外周面の厚みを減少させることにより形状的に欠落する部分としたが、抵抗発熱層156の両端部の外周面に凹部を設けることにより形成されるものであっても構わない。
【0073】
その場合、1つの段差部156bに縦壁部分の壁面156cが2つ存在することになるが、少なくとも通紙領域寄りに存在する側に電極層159を接触させておけばよい。
(12)なお、上記実施の形態では、本発明に係る画像形成装置をタンデム型カラーデジタルプリンタに適用した場合の例を説明したが、これに限られず、押圧ローラなどを含めた押圧部材が定着ベルトの周回経路内側に、加圧ローラにより定着ベルトを介した状態で押圧されて定着ニップが形成される定着装置、および、当該定着装置を備える画像形成装置一般に適用することができる。
【0074】
また、上記実施の形態および上記変形例の内容をそれぞれ組み合わせるとしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明は、抵抗発熱層とこれに給電するための電極層を含むベルトを用いた定着装置および当該定着装置を用いた画像形成装置に広く適用することができる。
【符号の説明】
【0076】
1 プリンタ
3 画像プロセス部
3Y、3M、3C、3K 作像部
4 給紙部
5、105 定着部
10 光学部
11 中間転写ベルト
12 駆動ローラ
13 従動ローラ
31 感光体ドラム
32 帯電器
33 現像器
34 一次転写ローラ
35 クリーナ
41 給紙カセット
42 ローラ
43 搬送路
44 タイミングローラ対
45 二次転写ローラ
46 二次転写位置
60 制御部
71 排出ローラ対
72 排出トレイ
150 押圧ローラ
151 ローラ軸
152 弾性層
154、254 定着ベルト
155 補強層
156 抵抗発熱層
156a 中央部
156b 段差部
156c 壁面
156d 薄肉部
157 弾性層
158 離型層
159 電極層
160 加圧ローラ
161 ローラ軸
162 弾性層
163 接着層
164 離型層
170 給電部材
171 ブラシ部
172 板バネ
175 リード線
180 電源
205 定着部
271 1次コイル
272 2次コイル
272a、272b 端

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抵抗発熱層を含む無端状の発熱ベルトの周回経路内側に第1の押圧部材が配され、前記発熱ベルトの周回経路外側から第2の押圧部材で第1の押圧部材を押圧して定着ニップを形成し、未定着画像の形成された記録シートを当該定着ニップに通紙して熱定着する定着装置であって、
前記発熱ベルトにおいて、
前記抵抗発熱層は、その幅方向の両端に段差部が形成されていると共に、前記各段差部の縦壁部の壁面に接触するように、電極層が形成されていることを特徴とする定着装置。
【請求項2】
前記電極層および前記段差部は、前記周回方向における全周に亘って形成されていることを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
【請求項3】
前記電極層の前記段差部における厚みは、当該段差に等しいか、もしくは、それよりも大きいことを特徴とする請求項2に記載の定着装置。
【請求項4】
第1の押圧部材は、押圧ローラであり、第2の押圧部材は、加圧ローラであることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の定着装置。
【請求項5】
第1の押圧部材は、ローラ軸体であり、
前記発熱ベルトは、前記ローラ軸体の外周に形成されたローラ外皮であって、
前記ローラ軸体と前記ローラ外皮とで定着ローラを構成することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の定着装置。
【請求項6】
前記抵抗発熱層は、耐熱性絶縁樹脂に導電フィラーを分散させたものであることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の定着装置。
【請求項7】
請求項1から6に記載の定着装置を備える画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−253083(P2011−253083A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−127574(P2010−127574)
【出願日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【出願人】(303000372)コニカミノルタビジネステクノロジーズ株式会社 (12,802)
【Fターム(参考)】