説明

定着装置および画像形成装置

【課題】抵抗発熱式の定着装置において、定着ベルトの長寿命化を図る。
【解決手段】
抵抗発熱層を含む無端状の定着ベルト154の周回経路内側に遊挿された押圧ローラ150を、定着ベルト154の外側から定着ベルト154を介して加圧ローラ160で押圧して、定着ベルト154表面と加圧ローラ160との間に定着ニップNを形成し、抵抗発熱層を発熱させて、未定着画像の形成されたシートを定着ニップNに通して、未定着画像の熱定着を行う定着装置であって、定着ベルト154の外周面の、シート通紙領域を挟んで設けられた1対の輪環状の電極層154eに、給電部材170を接触させて抵抗発熱層に給電する構成を有し、給電部材170は、定着ニップNよりも定着ベルト154の周回方向の上流側であって、定着ニップNから接触位置に至る定着ベルト154部分を押圧ローラ150に密着させることが可能な位置に設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、定着装置および当該定着装置を用いた画像形成装置に関し、特に、抵抗発熱層とこれに給電するための電極層を含むベルトを用いた定着装置において、当該定着ベルトの長寿命化を図る技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プリンタ等の画像形成装置では、ハロゲンヒータを熱源とする定着装置よりも省エネルギー化を図るという観点から、抵抗発熱層を含む定着ベルトを用いた定着装置を採用するものが提案されている。(例えば、特許文献1)
図8は、このような定着装置500の構成例を示す概略斜視図である。
同図に示すように、定着装置500は、定着ベルト554、押圧ローラ550、加圧ローラ560および交流電源に接続された一対の給電ローラ570などを備えている。
【0003】
定着ベルト554は、抵抗発熱層554bを含む円筒状の弾性変形可能なベルトであって、幅方向(Y軸方向)の両端部の外周において、抵抗発熱層554b上に電極554eが形成されたものである。
押圧ローラ550は、芯金551の表面が弾性層552で覆われており、定着ベルト554の周回経路内側に遊挿されている。
【0004】
加圧ローラ560は、定着ベルト554の周回経路外側に配され、定着ベルト554を介して押圧ローラ550を押圧し、定着ニップ530を形成する。
また、加圧ローラ560は、駆動モータ(不図示)からの駆動力を受けて同図の矢印P方向に回転する。この駆動力が定着ベルト554を介して押圧ローラ550に伝わることにより、定着ベルト554と押圧ローラ550とが同図の矢印Q方向に従動回転する。
【0005】
一対の給電ローラ570は、定着ベルト554の周回経路外側から当該定着ベルト554の電極554eに接触して、同図の下方に押し付けるように構成されており、これにより、定着ベルト554の抵抗発熱層554bに給電される。
以上の構成において、定着ベルト554が周回駆動されつつ、給電ローラ570を介して電極554eに電力が供給されると、電気抵抗としては、電極554eの方が抵抗発熱層554bよりも遥かに小さく、電極554eにおける電圧降下は無視できるほどなので、電流が電極554eの周方向全体に流れ込み、抵抗発熱層554b全体にY軸方向の電流が流れて発熱する。
【0006】
なお、電流Iの向きは周期的に逆転するため、図8における電流Iの向きは、ある一瞬における状態を例示したものである。
このとき、定着ベルト554は、定着ニップ530と給電ローラ570に押し付けられている部分以外で、他の部材との接触が生じておらず、熱が周囲に逃げにくいので、ジュール発熱により定着ニップ530の領域が効率的に昇温され、記録シート(不図示)上に形成されたトナー像が定着ニップ530を通過する際に、加熱、加圧されて当該記録シートに熱定着される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−109997号公報
【特許文献2】特開平9−16013号公報
【特許文献3】特開平8−202183号公報
【特許文献4】特開平8−272250号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、加圧ローラ560を、定着ベルト554を介して押圧ローラ550に押し付けた状態で回転駆動させると、定着ベルト554が楕円状に変形する上、定着ベルト554および給電ローラ570との間に生じる摩擦などの影響により、定着ベルト554の走行状態が不安定となり、当該定着ベルト554に生じている弛み部分の走行軌跡に変動が生じる(以下、「波打ち現象」という。)。
【0009】
図9(a)および(b)は、定着ベルト554において、波打ち現象が生じている様子をやや誇張して示す図である。
図9(a)に示すように、給電ローラ570は、通常、圧縮ばね571などによって、押圧ローラ550方向へと付勢されており、弛み部分の盛り上り部554aを乗り越えるときに、押圧ローラ550から遠ざかる方向に跳ね上げられた後、元に位置に戻ろうとするが、定着ベルト554の動きに追従するのが遅れると、図9(b)に示すように、給電ローラ570と定着ベルト554との間に隙間Sが生じる。
【0010】
このとき、給電ローラ570と定着ベルト554との電位差により、隙間Sにおいてスパーク放電が生じて、定着ベルト554表面に小さな穴を開けてしまい、定着ベルト554の寿命が短くなるという問題がある。
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、抵抗発熱層とこれに給電するための電極とが形成された定着ベルトを有し、当該定着ベルトの周回経路内側に押圧ローラが遊挿されている抵抗発熱式の定着装置および画像形成装置において、定着ベルトの長寿命化を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明に係る定着装置は、抵抗発熱層を含む無端状のベルトの周回経路内側に遊挿された第1ローラを、前記ベルトの外側から当該ベルトを介して第2ローラで押圧して、当該ベルト表面と当該第2ローラとの間に定着ニップを形成すると共に、前記ベルトを周回させつつ、前記抵抗発熱層を発熱させて、未定着画像の形成されたシートを前記定着ニップに通して、前記未定着画像の熱定着を行う定着装置であって、前記ベルトの外周面のシート通紙領域を挟んで設けられた1対の輪環状の電極に、給電部材を接触させて前記抵抗発熱層に給電する構成を有し、前記給電部材は、前記定着ニップよりも前記ベルトの周回方向の上流側であって、当該定着ニップから前記接触位置に至る前記ベルト部分を、ベルト周回中において、前記第1ローラに密着させることが可能な位置に設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
上記構成により、第1と第2のローラの回転により上記ベルトを定着ニップ側に引き込もうとする際に、ベルトと給電部材の接触による発生する摩擦力に起因して張力が生じ、これにより、ベルトが第1ローラ周面に押し付けられて、ベルトが第1ローラ周面に密着させることが可能となり、定着ニップから給電部材との接触位置に到るまでのベルトの走行軌跡が安定して波打ち現象が生じない。
【0013】
このため、給電部材とベルトの間に隙間が生じて放電することが抑制され、ベルトの長寿命化を図ることが可能となる。
また、前記給電部材の接触面のベルト周回方向における前記定着ニップ側の端と前記第1ローラの中心を結んだ線分と、第1および第2ローラの回転中心を結んだ線分とがなす角度が、ベルトの周回方向と逆の方向において80°以下となるように前記給電部材の配設位置が決定されていることが望ましい。
【0014】
さらに、前記角度は、30°以上、60°以下の範囲にあることが望ましい。
また、前記給電部材は、ブロック状であることが望ましい。
なお、本発明は、上記定着装置を備えた画像形成装置としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明における実施の形態に係る定着装置を備える画像形成装置の一例であるタンデム型カラープリンタの構成を説明するための概略図である。
【図2】上記定着装置の構成を示す一部切り欠き斜視図である。
【図3】上記定着装置の定着ベルトの積層構造を示す断面図である。
【図4】上記定着装置の断面図である。
【図5】給電部材の配設位置を、定着ニップNよりも定着ベルトの周回方向における下流側に設けた構成における定着ベルトの走行状態を示す図である。
【図6】給電部材の配設位置をさらに下流側に変更した場合における、定着ベルトのある一瞬の走行状態を示す図である。
【図7】定着ベルトの給電部材の配設位置を変化させて、電極層および給電部材間のベルト駆動中における抵抗値の変動率を求めた結果示す図である。
【図8】従来の画像形成装置における定着装置の斜視図である。
【図9】(a)および(b)は、従来の定着装置において、定着ベルトの弛み部分の走行軌跡が変動している状況を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る定着装置及び画像形成装置の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
<画像形成装置の構成>
図1は、本発明の実施の形態に係る定着装置を備える画像形成装置の一例であるタンデム型カラープリンタ(以下、単に「プリンタ」という)の構成を説明するための概略図である。
【0017】
同図に示すように、このプリンタ1は、画像プロセス部3、給紙部4、定着部5および制御部60を備えており、ネットワーク(例えばLAN)に接続されて、外部の端末装置(不図示)からのプリントジョブの実行指示を受け付けると、その指示に基づいてイエロー、マゼンタ、シアンおよびブラックからなるトナー像を形成し、これらを多重転写してフルカラーの画像形成を実行する。
【0018】
以下、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの各再現色をY、M、C、Kと表し、各再現色に関連する構成部分の番号にこのY、M、C、Kを添字として付加する。
<画像プロセス部>
画像プロセス部3は、Y〜K色のそれぞれに対応する作像部30Y,30M,30C,30K、光学部10、中間転写ベルト11などを備えている。
【0019】
作像部30Yは、感光体ドラム31Y、その周囲に配設された帯電器32Y、現像器33Y、一次転写ローラ34Y、感光体ドラム31Yを清掃するためのクリーナ35Yなどを備えており、感光体ドラム31Y上にY色のトナー像を作像する。他の作像部30M〜30Kについても、作像部30Yと同様の構成になっており、同図では符号の表記を省略している。
【0020】
中間転写ベルト11は、無端状のベルトであり、駆動ローラ12と従動ローラ13に張架されて矢印A方向に回転駆動される。
光学部10は、レーザダイオードなどの発光素子を備え、制御部60からの駆動信号によりY〜K色の画像形成のためのレーザ光Lを発し、感光体ドラム31Y〜31Kを露光走査させる。
【0021】
この露光走査により、帯電器32Y〜32Kにより帯電された感光体ドラム31Y〜31K上に静電潜像が形成される。各静電潜像の形成は、現像器33Y〜33Kにより現像して得られた感光体ドラム31Y〜31K上のY〜K色のトナー像が、中間転写ベルト11上の同じ位置に重ね合わせて一次転写されるように、タイミングをずらして実行される。
【0022】
一次転写ローラ34Y〜34Kにより作用する静電力により中間転写ベルト11上に各色のトナー像が順次転写されフルカラーのトナー像が形成され、さらに二次転写位置46方向に移動する。
一方、給紙部4は、記録シートSを収容する給紙カセット41と、給紙カセット41内の記録シートSを搬送路43上に1枚ずつ繰り出す繰り出しローラ42と、繰り出された記録シートSを二次転写位置46に送り出すタイミングをとるためのタイミングローラ対44などを備えており、中間転写ベルト11上のトナー像の移動タイミングに合わせて給紙部4から記録シートSを二次転写位置に給送し、二次転写ローラ45の作用により中間転写ベルト11上のトナー像が一括して記録シートS上に二次転写される。
【0023】
二次転写位置46を通過した記録シートSは、定着部5に搬送され、記録シートS上のトナー像(未定着画像)が、定着部5における加熱・加圧により記録シートSに定着された後、排出ローラ対71を介して排出トレイ72上に排出される。
<定着部の構成>
図2は、上記定着部5の構成を示す部分断面斜視図である。
【0024】
同図に示すように、定着部5は、定着ベルト154と、押圧ローラ150と、加圧ローラ160と、給電部材170とを備える。
押圧ローラ150は、定着ベルト154に遊挿されると共に、押圧ローラ150と加圧ローラ160とが平行に配置されており、定着ベルト154を介して加圧ローラ160を不図示の付勢機構で押圧ローラ150側に付勢することにより、定着ベルト154と加圧ローラ160との間に定着ニップが形成され、この定着ニップを記録シートSが通過することにより記録シートS上に形成されたトナー像が溶融・加圧されて定着するようになっている。
【0025】
以下、定着部5の各部の構成について、詳細に説明する。
<加圧ローラの構成>
押圧ローラ150は、不図示の駆動機構により矢印C方向に回転駆動されると共に、定着ベルト154の外側から定着ベルト154を介して押圧ローラ150を押圧する。
これにより、定着ベルト154と押圧ローラ150とが矢印D方向に従動回転する。
【0026】
加圧ローラ160は、図2に示すように、芯金161と、これの両端部を除く部分を覆う弾性体層162とを有している。
芯金161は、不図示の駆動機構により回転駆動され、例えば、アルミニウム、鉄、ステンレス等からなる、外径が30mmの中実シャフトである。
なお、このような中実シャフトに替えて、厚みが0.1mm〜10mmの中空シャフト、もしくは、当該中空部分の内部に断面がY字状の補強リブを有する構造であってもよい。
【0027】
弾性体層162は、シリコーンゴムからなる円筒体であり、厚みとしては、1mm以上、20mm以下が望ましい。
本実施の形態では、弾性体層162の厚みは、3mmに設定されており、外径が36mmとなっている。
また、弾性体層162のY軸方向の長さは、374mmとなっている。
<押圧ローラ>
押圧ローラ150は、図2に示すように、長尺で円柱状の芯金151の周囲に弾性層152が形成されてなる。
【0028】
芯金151は、例えば、アルミニウム、鉄、ステンレス等からなる、外径が20mmの中実シャフトであり、その軸方向における両端部は、図示しない定着部5の本体側フレームの軸受部に回転自在に軸支されている。
なお、このような中実シャフトに替えて、厚みが0.1mm〜10mmの中空シャフト、もしくは、当該中空の内部に断面がY字状の補強リブを有する構造であってもよい。
【0029】
弾性層152は、耐熱性及び断熱性の高い、例えば、シリコーンゴムやフッ素ゴム等の発泡弾性体などの材料からなり、その厚みは、1mm〜20mmであり、これにより押圧ローラ150の外径は、20mm以上、100mm以下に設定されるが、ここでは、30mmに設定されている。
また、弾性層152のY軸方向の長さは、374mmとなっている。
【0030】
無論、弾性層152のY軸方向の長さは、記録シートSの最大通紙幅よりも大きく設定されている。
なお、弾性層152の硬度は、加圧ローラ160の弾性体層162の硬度よりも小さく設定されており、ニップ部Nにおいては、主に弾性層152が弾性変形する構成となっている。
<定着ベルト>
図3は、定着ベルト51の積層構造を示す部分断面図である。
【0031】
なお、同図は定着ベルト51のローラ軸方向の一方の端部に着目したものであるが、他方の端部においても定着ベルト51は同様の構成を備えている。
また、同図では、理解を容易にするために、やや厚みを誇張して示しており、各部材の寸法は下記に例示する寸法と、必ずしも対応が取れているものではない。
定着ベルト154は、積層構造を有する弾性変形可能な無端ベルトであり、同図に示すように、絶縁層154aの外周面に、抵抗発熱層154bが積層されており、また、抵抗発熱層154bの外周面におけるY軸方向の両端部には、電極層154eが積層されている。
【0032】
さらに、抵抗発熱層154bの外周面であって、電極層154eが積層されていない部分には、弾性層154cと離型層154dとが、この順で積層されている。
以下、定着ベルト154を構成する各層について詳細に説明する。
絶縁層154aは、導電性を有しない材料、例えば、PI(polyimide)、PPS(Poly(phenylene sulfide))、PEEK(polyetheretherketone)などのいずれかからなり、その厚みは約50μmであり、Y軸方向の長さは、374mmとなっている。
【0033】
抵抗発熱層154bは、Y軸方向の両端部に電位差が生じることにより電流が流れて、ジュール発熱する筒状の発熱体である。
より具体的には、抵抗発熱層154bは、厚みが、5μm以上、100μm以下であって、PI(ポリイミド)製樹脂に、電気抵抗率の異なる導電フィラーを一種類もしくは複数種類均一に分散させてなる。
【0034】
また、抵抗発熱層154bのY軸方向の長さは、絶縁層154aと同様の374mmとなっている。
抵抗発熱層154bに用いるベースの材料(以下、「ベース材」という。)として、他にもPPSおよびPEEKなどを使用することができる。
ここで、導電フィラーとしては、Ag、Cu、Al、MgおよびNiなどの金属粉末、または、グラファイト、カーボンブラック、カーボンナノファイバーおよびカーボンナノチューブなどの炭素化合物粉末、もしくは、ヨウ化銀、ヨウ化銅などの無機化合物中の高イオン導電体が挙げられ、その形状としては、単位含有量あたりの導電フィラー同士の接触する確率を高めるために、繊維状にすることが望ましい。
【0035】
本実施の形態では、形状が繊維状の導電フィラー、例えば、Niを上記ベース材に均一に分散させている。
ここで、抵抗発熱層154bの体積抵抗率は、10×10^−6〜1.0×10^−2 Ω・m程度が望ましく、さらに、本実施の形態における定着部5の仕様においては、体積抵抗率を1.0×10^−5〜5.0×10^−3 Ω・mに設定することが望ましい。
【0036】
弾性層154cは、例えば、シリコーンゴムなどの弾性および耐熱性を有する材料からなり、その厚みは約200μmである。
なお、弾性層154cの材質は、シリコーンゴムの他、フッ素ゴム等を用いても構わない。
離型層154dは、例えば、PTFEもしくはPFA等のフッ素系樹脂などの離型性を有する材料からなり、厚みは、5μm以上、100μm以下である。
【0037】
電極層154eは、抵抗発熱層154bのY軸方向における両端部の外周を一周するように形成されており、抵抗発熱層154bに給電するための1対の輪環状の電極として機能する。
また、電極層154eは、例えば、抵抗発熱層154bよりも電気抵抗率の低いCu、Al、Ni、真鍮、リン青銅等の金属を、抵抗発熱層154bの外周面の両端部に化学めっき、もしくは、電気めっき等を行って形成されてなる。
【0038】
この他にも、上記材料からなる帯状のシートを、電極層154eを抵抗発熱層154bのY軸方向の両端部に、導電性を有する接着剤などで貼り付けても良い。
そして、電極層154eの幅(Y軸方向の長さ)が18mmとなっている。
さらに、電極層154eの厚みは、適度の強度を有しつつ、特に定着ニップNにおけるベルトの変形に追従するために必要な柔軟性を確保するため、5μm以上、100μm以下が望ましく、ここでは、20μmに設定されている。
<給電部材>
図2に戻って、給電部材170は、リード線175を介して外部の交流電源180に電気的に接続されており、定着ベルト154の後述する1対の電極層154eに摺接して、これに給電するためのものである。
【0039】
リード線175には、不図示の継断器(リレースイッチ)を介して交流電源180に接続されており、不図示の温度センサで検出された定着ベルト154の表面温度に基づいて制御部60が当該継断器をON・OFF制御することにより、定着ベルト154が所定の目標温度となるように構成されている。
給電部材170は、ブラシ部171、弾性部材172、支持板173およびシャフト部174からなる。
【0040】
ブラシ部171は、例えば、厚み30mm、Y軸方向における幅10mm、摺動方向の長さ5mmのブロック状の導電体であって、摺動性および導電性を共に備える銅黒鉛質、炭素黒鉛質などの材料からなる、いわゆるカーボンブラシである。
電極層154eに大電流が流れて穴が開く不具合の発生は、給電部材170および電極層154e間に放電が生じた場合だけでなく、例えば、一時的に両者の接触面積が極端に小さくなり、局所的に電流密度が高くなった場合も考えられる。
【0041】
上述のように、ブロック状のブラシ部171を電極層154eに押し当てることで、通電面積を広く確保することができ、両者の接触状態が不安定になった場合でも、一時的に接触面積が極端に小さくなる確率を低くすることができる。
シャフト部174は、金属などからなる導電性を有するシャフトであって、一方の端部が、ブラシ部171に埋め込まれて固定されており、もう一方の端部が、リード線175に接続されている。
【0042】
支持板173は、定着部5の本体側フレームに接合されており、貫通穴(不図示)を有し、この貫通穴にシャフト部174が摺動自在な状態で挿入されている。
弾性部材172は、例えば、圧縮コイルばねであり、ブラシ部171と支持板173の間に介挿されており、図2示すように、ブラシ部171を電極層154eの外周に押し付けている。
【0043】
図4は、図2における断面部をY方向から見たときの図であり、給電部材170の配設位置を示している。なお、この図では、図面が見やすいように断面を示すハッチングは意図的に省略している。
給電部材170は、図4に示すように、定着ニップNよりも定着ベルト154の周回方向の上流側であって、かつ、給電部材170の定着ベルト154の外周面に接触する領域における定着ベルト154の周方向(以下、「ベルト周方向」という。)の定着ニップ側の端P2と押圧ローラ150の回転中心O1とを結んだ線分L2が、押圧ローラ150の回転中心O1を中心にして、押圧ローラ150および加圧ローラ160の回転中心O1、O2を結んだ直線L1から、前記周回方向と逆の方向において80°以下となる範囲M内に設けられている。
【0044】
ここで、定着ニップNよりも定着ベルト154の周回方向の上流側において、線分L1と線分L2とが成す角度を、角度θ1と定義する。
以下、このように給電部材170の配設位置の有効性について説明する。
本願の発明者は、先ず、図5に示すように、給電部材170を、定着ニップNよりも定着ベルト154の周回方向における下流側であって、かつ、押圧ローラ150および加圧ローラ160の回転中心O1、O2を結んだ直線L1と、定着ベルト154の外周面に接触する領域におけるベルト周方向の定着ニップ側の端P1と押圧ローラ150の回転中心O1を結んだ線分L3とが成す角度θ2が、約50[°]となる構成において、定着ベルト154の走行状態を確認した。
【0045】
同図は、このときの定着ベルト154の走行状態を示す図である。
当該構成では、定着ベルト154は、定着ニップNの出口付近において、定着ベルト154を周回方向下流側へ押し出す力f0に対して、定着ベルト154と給電部材170との間に生じる摩擦力f1が逆に作用して、その間の定着ベルト154に小さな弛み部Fが生じ易く、これが波打ち現象を惹起する。
【0046】
そのため、電極層154eと給電部材170との接触状態が不安定となり、両者の間に放電が生じ易くなって、定着ベルト154の寿命を縮めることになる。
さらに、角度θ2の値を、徐々に拡大していくと、従来技術の状態に近付いていき、ニップ部N下流側と給電部材の接触位置までの距離が長くなり、その部分の弛み量も大きくなって、その周回軌道が不安定になって波打ち現象がより生じやすくなり、電極層154eと給電部材170との接触状態が悪くなる。
【0047】
図6は、給電部材170の定着ベルト154の外周面に接触する領域におけるベルト周方向の中心位置と押圧ローラ150の回転中心O1とを結んだ直線CLとが成す角度の値を180[°]としたときの定着ベルト154のある一瞬の走行状態を示す図である。
同図に示すように、給電部材170のベルト周方向の両側には、それぞれ弛み部GおよびJが存在している。
【0048】
定着ベルト154が周回駆動されると、これら弛み部GおよびJの走行軌跡が、弛み部G’およびJ’の走行軌跡のようになり、不安定となっていることが、電極層154eと給電部材170との接触状態を安定させない理由と考えられる。
そこで、発明者は、図4に示すように、給電部材170を、定着ニップNよりも定着ベルト154の周回方向における上流側であって、かつ、押圧ローラ150および加圧ローラ160の回転中心O1、O2を結んだ直線L1と、給電部材170の定着ベルト154の外周面に接触する領域における定着ベルト154のベルト周方向の定着ニップ側の端P2と押圧ローラ150の回転中心O1とを結んだ線分L2とが成す角度θ1が、50[°]となる構成において、定着ベルト154の走行状態を確認した。
【0049】
すると、定着ベルト154を周回駆動させた状態において、定着ニップNから給電部材170が定着ベルト154に接触する位置に至るまでの定着ベルト154の部分が、押圧ローラ150の外周面に密着して、電極層154eと給電部材170との間の接触状態が安定し、両者の間に放電が生じることもなかった。
これは次の理由によるものと考えられる。すなわち、押圧ローラ150と加圧ローラ160の回転により定着ベルト154を定着ニップNに引き込もうとする際に、定着ベルト154と給電部材171の接触により発生する摩擦力に起因して定着ベルト154に張力が生じ、これにより、定着ベルト154が押圧ローラ150の周面に押し付けられて密着するため、定着ニップNから給電部材171との接触位置に到るまでの間では定着ベルト154の走行軌跡が安定して波打ち現象が生じない。したがって、給電部材171と定着ベルト154における電極との間に隙間が生じる余地がなくなり、そのためにスパーク放電が生じなくなったからである。
【0050】
そこで、発明者は、電極層154eと給電部材170とが安定的に接触できる角度θ1の大きさをどこまで大きくできるかについて実験を試みた。
この実験では、定着ベルト154を駆動している時の電極層154eおよび給電部材170間の抵抗値の最大値をR1とし、定着ベルト154を停止している時における電極層154eおよび給電部材170間の抵抗値をR2とし、角度θ1の値を変化させつつ、R1およびR2の値を計測した。
【0051】
そして、これらR1およびR2の計測値を以下に示す式2に代入して、電極層154eと給電部材170ととの間の抵抗値の変動率(以下、「抵抗変動率」という。)H[%]を求めた。
(式2) H=(R1−R2)/R2×100
ここで、抵抗変動率H[%]が小さい場合は、電極層154eと給電部材170との接触状態が安定していることを意味し、その逆は、上記接触状態が不安定であることを意味する。
【0052】
図7は、上記実験の結果を示す図である。
当該実験に使用した定着装置は、本実施の形態における定着部5と基本的に同一であり、給電部材の配位置のみを変更している。
同図に示すように、θ1が20[°]から80[°]までの範囲では、抵抗変動率H[%]の値が2%〜4%と低い値となっており、電極層154eと給電部材170との接触状態が安定していることがわかる。
【0053】
一方、θ1が80[°]を越えると、抵抗変動率H[%]の値が急上昇し、電極層154eと給電部材170との接触状態が不安定になっている。
これは、θ1が80[°]以下の範囲では、ニップ部Nおけるベルトの引き込み力が支配的であると共に、給電部材で押圧しなくても、もともと押圧ローラ150外周面と定着ベルト154の内周面との距離が短い範囲であるので、押圧ローラ150と定着ベルト154との密着性が維持しやすかったが、θ1が80[°]〜170[°]の範囲では、給電部材で押圧しない場合には押圧ローラ150外周面と定着ベルト154の内周面との距離がますます大きくなる範囲であり、かつ、それよりもベルト周回方向上流側で発生しているたわみ部分の起動の変動の影響を強く受けて、定着ベルト154が押圧ローラ150表面から離れやすくなるためであると考えられる。
【0054】
以上のような理由から、θ1が20[°]〜80[°]の範囲では、定着ベルト154を周回駆動した状態において、給電部材170が定着ベルト154に接触する位置から定着ニップNに至るまでの定着ベルト154の部分と、押圧ローラ150の外周面との密着状態が安定的に維持されるため、電極層154eと給電部材170との接触状態を安定させて、定着ベルト154の長寿命化を図ることができるものである。
【0055】
さらに、同図に示すように、θ1の値が50[°]のときに、抵抗変動率Hの値が最低となっており、当該角度の前後における変動率Hの変化も小さくなっていることから、θ1の値が30[°]以上、60[°]以下の範囲にあることがより望ましい。
ここで、θ1の値が50[°]から20[°]に近付くにつれ、抵抗変動率Hの値が、次第に大きくなっているのは、ニップ部Nの変形による影響を受け易くなるからだと考えられる。
【0056】
なお、給電部材170の配設位置を、定着ニップNよりも定着ベルト154の周回方向の上流側とし、θ1が20[°]未満のデータがないのは、それ以上θ1を小さくすると定着ニップNに給電部材170が干渉してしまうからである。
<変形例>
本発明は、上述のような実施の形態に限られるものではなく、次のような変形例も実施することができる。
【0057】
(1)上記実施の形態では、定着ベルト154は、絶縁層154aと、抵抗発熱層154bと、弾性層154cと、離型層154dと、電極層154eとを有していたが、これに限らず、少なくとも抵抗発熱層154bと電極層154eとを有していればよい。
例えば、モノクロの複写機では、カラーの複写機に比べ、定着ニップ幅を小さく設定しても、定着品質の劣化がそれほど目立たないため、定着ベルト154内の弾性層154cを省略することが考えられる。
【0058】
(2)また、上記実施の形態では、給電部材170は、ブロック状のブラシ部171を、ブラシ部171の電極層154eに当接させていたが、これに限らず、場合によっては、ブラシ部171の代わりに金属ローラを用いて、電極層154eとの電気的接触を保ってもよい。
なお、金属ローラを用いることで、定着ベルト154に作用する摩擦抵抗が小さくなり、給電部材170と定着ベルト154との接触位置から定着ニップNに至るまでの定着ベルト154の部分の張力が、減少するものと考えられる。
【0059】
当該張力は、押圧ローラ150の外周面に密着させ、電極層154eおよび給電部材170間の接触状態の安定化に寄与しているものと考えられるため、上記張力を確保したい場合には、金属ローラに回転軸に板ばね等を当接させて、上記摩擦抵抗を増加することが望ましい。
(3)また、上記実施の形態のように、加圧ローラ160を回転駆動させ、押圧ローラ150を従動回転させていたが、この構成に限られない。
【0060】
例えば、押圧ローラ150を回転駆動させ、加圧ローラ160を従動回転させても構わず、また、押圧ローラ150および加圧ローラ160の両方を回転駆動させてもよい。
(4)上記実施の形態では、押圧ローラ150の弾性層152の硬度は、加圧ローラ160の弾性体層162の硬度よりも低く設定されており、定着ニップNでの変形は、主に押圧ローラ150の弾性層152において生じるとしたが、これに限られず、場合によっては、定着品質が低下しなければ、弾性層152の硬度を弾性体層162の硬度よりも高く設定しても良いし、弾性層152および弾性体層162を同等の硬度に設定しても良い。
【0061】
(5)なお、上記実施の形態では、本発明に係る画像形成装置をタンデム型カラーデジタルプリンタに適用した場合の例を説明したが、モノクロプリンタなどでもよく、要するに、抵抗発熱層とこれに給電するための電極層を含む定着ベルトの周回経路内に押圧ローラが遊挿された抵抗発熱式の定着装置および、当該定着装置を備える画像形成装置一般に適用することができる。
【0062】
また、上記実施の形態および上記変形例の内容をそれぞれ組み合わせるとしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、押圧ローラが、抵抗発熱層とこれに給電するための電極とを含む定着ベルトの周回経路内側に遊挿されており、上記周回経路の外側から加圧ローラにより定着ベルトを介した状態で押圧されて定着ニップが形成される定着装置および画像形成装置に広く適用することができる。
【符号の説明】
【0064】
1 プリンタ
3 画像プロセス部
4 給紙部
5 定着部
10 光学部
11 中間転写ベルト
12 駆動ローラ
13 従動ローラ
30Y,30M,30C,30K 作像部
31 感光体ドラム
32 帯電器
33 現像器
34 一次転写ローラ
35 クリーナ
41 給紙カセット
42 ローラ
43 搬送路
44 タイミングローラ対
45 二次転写ローラ
46 二次転写位置
51 定着ベルト
60 制御部
71 排出ローラ対
72 排出トレイ
150 押圧ローラ
151、161 芯金
152 弾性層
154 定着ベルト
154a 絶縁層
154b 抵抗発熱層
154c 弾性層
154d 離型層
154e 電極層
160 加圧ローラ
162 弾性体層
170 給電部材
171 ブラシ部
172 弾性部材
173 支持板
174 シャフト部
175 リード線
180 交流電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抵抗発熱層を含む無端状のベルトの周回経路内側に遊挿された第1ローラを、前記ベルトの外側から当該ベルトを介して第2ローラで押圧して、当該ベルト表面と当該第2ローラとの間に定着ニップを形成すると共に、前記ベルトを周回させつつ、前記抵抗発熱層を発熱させて、未定着画像の形成されたシートを前記定着ニップに通して、前記未定着画像の熱定着を行う定着装置であって、
前記ベルトの外周面のシート通紙領域を挟んで設けられた1対の輪環状の電極に、給電部材を接触させて前記抵抗発熱層に給電する構成を有し、
前記給電部材は、前記定着ニップよりも前記ベルトの周回方向の上流側であって、当該定着ニップから前記接触位置に至る前記ベルト部分を、ベルト周回中において、前記第1ローラに密着させることが可能な位置に設けられていることを特徴とする定着装置。
【請求項2】
前記給電部材の接触面のベルト周回方向における前記定着ニップ側の端と前記第1ローラの中心を結んだ線分と、第1および第2ローラの回転中心を結んだ線分とがなす角度が、ベルトの周回方向と逆の方向において80°以下となるように前記給電部材の配設位置が決定されていることを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
【請求項3】
さらに、前記角度は、30°以上、60°以下の範囲にあることを特徴とする請求項2に記載の定着装置。
【請求項4】
前記給電部材は、ブロック状であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の定着装置
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の定着装置を備える画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−173465(P2012−173465A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−34477(P2011−34477)
【出願日】平成23年2月21日(2011.2.21)
【出願人】(303000372)コニカミノルタビジネステクノロジーズ株式会社 (12,802)
【Fターム(参考)】