説明

定着装置及びこれを用いる画像形成装置

【課題】トナー像を記録部材に定着させるときに、トナー重量が多いときでもプロセス速度を落とさずに、定着性を確保し、かつトナー表面の色変化を抑えることができる定着装置及びこれを用いる画像形成装置を提供する。
【解決手段】トナー像が形成された用紙Pを搬送する用紙搬送装置L2と、用紙P上に形成されたトナー像にレーザ光を照射するレーザ照射手段L1と、レーザ照射手段L1による光の照射を制御する定着制御部602と、レーザ照射手段L1から照射されたレーザ光を用紙P上に集光する集光レンズ201とを備える定着装置40において、定着制御部602、レーザ照射手段L1から照射される光出力を一定として、用紙P上の単位面積当りのトナー重量に応じて、用紙Pの単位面積当りの光出力を制御することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、定着装置及びこれを用いる画像形成装置に係り、特に、記録部材上に形成されたトナー像に光照射手段により光を照射することでトナー像を記録部材に定着させる定着装置及びこれを用いる画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
複写機、ファクシミリ、プリンタ等の電子写真方式の画像形成装置には、記録部材(記録紙または用紙)上に形成されたトナー像を熱溶融することによって記録部材上に定着させる定着装置が備えられている。
【0003】
この定着装置の一例として、定着ローラと加圧ローラとから構成されるローラ対方式の定着装置が知られている(特許文献1を参照)。
【0004】
定着ローラは、アルミなどの金属製中空芯金の表面に弾性層が形成されたローラ部材であり、この芯金の内部に熱源としてハロゲンランプが配置された構成である。そして、温度制御装置が、定着ローラ表面に設けられた温度センサから出力される信号に基づいてハロゲンランプをオン/オフ制御することによって、定着ローラ表面の温度を制御する。
【0005】
加圧ローラは、芯金上に被覆層としてシリコンゴムなどの耐熱性弾性層を設けたローラ部材である。この加圧ローラは、定着ローラ周面に対して圧接され、加圧ローラの前記弾性層の弾性変形によって、定着ローラと加圧ローラとの間にニップ領域が形成される。
【0006】
上記の構成において、定着装置では、未定着のトナー像が形成された記録部材を定着ローラと加圧ローラとの間のニップ領域に挟み込み、これら両ローラを回転させることによって前記記録部材を搬送するとともに、定着ローラ周面の熱により記録部材上のトナー像を溶融させて記録部材に定着させる。
【0007】
しかしながら、上述した従来のローラ対方式では、例えば、朝一番に電源を投入した直後は、定着ローラ及び加圧ローラは、室温状態にあるため、電源ON後、所定温度にまで上昇させる必要があるため、ウォームアップ時間を要するという問題がある。
【0008】
また、コピー動作が行われていない待機状態では、ローラ表面を所定温度に保持する必要があるため、コピー動作が行われていない時も常に加熱していなければならない。従って、これらコピー動作以外に、無駄なエネルギーを消費するという問題がある。
【0009】
そこで、無駄なエネルギーを消費せず効率よくトナーのみを定着させる方法として、レーザパワーを利用してトナーを定着させる定着装置が提案されている(特許文献2を参照)。
【0010】
上述した定着装置によれば、複数のレーザを用いてトナーを加熱することで、一つの弱いレーザだけでは不十分な定着性を複数個のレーザを用いることで定着性を向上させている。これにより、低出力で安価なレーザを使うことが可能であり、装置全体も簡単なものに構成できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平11−38802号公報
【特許文献2】特開2005−55516号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献2のようなレーザ定着装置の場合では、カラー画像の定着まで想定した場合、黒のトナー像が単層の場合に比べ、カラー画像により多層(C,M,Y,K)になるとトナー量が多くなるため、単層の場合と同等の定着性を確保するには、レーザパワーを大きくする必要がある。そして、レーザ定着のように、焦点が絞られている位置でレーザ照射すると、トナー像の表面が急速に温度上昇し、トナーの色変化が生じる一方で、トナー像の下層は充分溶融しないという問題がある。
【0013】
このような課題に対して、トナーの色変化が生じることなく定着性を確保するには、プロセス速度を落とすことでトナーの色変化防止と定着性の両立を行っているが、プロセス速度を落とすと生産性が落ちるという問題が生じる。
【0014】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みてなされたものであって、トナー像を記録部材に定着させるときに、トナー重量が多いときでもプロセス速度を落とさずに、定着性を確保し、かつトナー表面の色変化を抑えることができる定着装置及びこれを用いる画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上述した課題を解決するための本発明に係る定着装置及びこれを用いる画像形成装置は、次の通りである。
【0016】
本発明は、トナー像が形成された記録部材を搬送する記録部材搬送手段と、前記記録部材上に形成されたトナー像に光を照射する光照射手段と、前記光照射手段による光の照射を制御する制御手段と、前記光照射手段から照射された光を前記記録部材上に集光する集光レンズとを備える定着装置において、前記制御手段により、前記光照射手段から照射される光出力を一定として、前記記録部材上の単位面積当りのトナー重量(mg/cm)に応じて、前記記録部材の単位面積当りの光出力(W/cm)を制御することを特徴とするものである。
【0017】
また、本発明は、前記制御手段により、前記光照射手段から照射される光出力を一定として、前記記録部材上の単位面積当りのトナー重量(mg/cm)が多くなるにつれて、単位面積当りの光出力(W/cm)を小さくするように制御することが好ましい。
【0018】
また、本発明は、前記制御手段により、前記集光レンズを光照射方向に沿って移動して焦点位置を制御することで、前記定着装置の単位面積当りの光出力(W/cm)を制御することが好ましい。
【0019】
また、本発明は、前記制御手段により、前記記録部材搬送手段を光照射方向に沿って移動して焦点位置を制御することで、前記定着装置の単位面積当りの光出力(W/cm)を制御することが好ましい。
【0020】
また、本発明は、前記光照射手段の構成として、レーザ光を用いるものとすることが好ましい。
【0021】
また、本発明は、前記光照射手段の構成として、光源として半導体レーザ素子を用いることが好ましい。
【0022】
また、本発明は、前記光照射手段の構成として、光源として複数の半導体レーザ素子を前記記録部材の搬送方向と略直交する方向に沿って並べた半導体レーザ素子アレイからなるものとすることが好ましい。
【0023】
また、本発明は、トナー像が形成された記録部材を搬送する記録部材搬送手段と、前記記録部材上に形成されたトナー像に光を照射する光照射手段と、前記光照射手段による光の照射を制御する制御手段と、前記光照射手段から照射された光を前記記録部材上に集光する集光レンズとを備える定着装置を備えた画像形成装置において、前記定着装置として、請求項1から7のうちの何れか一項に記載の定着装置を備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0024】
本発明の定着装置によれば、トナー像が形成された記録部材を搬送する記録部材搬送手段と、前記記録部材上に形成されたトナー像に光を照射する光照射手段と、前記光照射手段による光の照射を制御する制御手段と、前記光照射手段から照射された光を前記記録部材上に集光する集光レンズとを備える定着装置において、前記制御手段により、前記光照射手段から照射される光出力を一定として、前記記録部材上の単位面積当りのトナー重量(mg/cm)に応じて、前記記録部材の単位面積当りの光出力(W/cm)を制御することで、トナー像を形成するトナー付着量に応じた条件でトナー像を加熱溶融できる。これにより、前記記録部材上の単位面積当りのトナー重量が多いときでもプロセス速度を落とさずに、定着性を確保し、かつトナー表面の色変化を抑えトナー像を記録部材に定着させることができる。
【0025】
本発明の定着装置において、記録部材(用紙)上のトナーを加熱溶融する場合、トナー表面から光を受光するので、トナー表面から溶融する。この時トナーを溶融し、用紙界面でトナーと用紙が固着するために必要なエネルギー(J/cm)(以下、「定着エネルギー」と称する。)は、単位面積当たりの光出力(W/cm)(以下、「ワット密度」と称する。)×加熱時間(秒)で決まる。ここで、光照射手段から照射される光出力が一定の時、集光レンズを用いて光照射領域をできるだけ小さく(集光)することで、ワット密度を大きくできる。
【0026】
ここで、同じ定着エネルギーでも、(1)高ワット密度×短加熱時間よりも(2)低ワット密度×長時間加熱の方が、加熱溶融過程で記録部材(用紙)や雰囲気中に逃げる熱が大きくなるので、(1)と(2)で同じエネルギーを与えたとしても、(2)の方は、定着性が弱くなるので、定着装置においては、できるだけ(1)の条件にして必要なエネルギーを小さくすることが省エネになる。しかし、(1)の条件にすればするほど、トナー表面と下層(紙界面付近)の温度差が大きくなる。
【0027】
ところで、トナーの定着性を高くするには、用紙とトナー界面に存在するトナーの溶融性を上げる必要がある。つまり用紙とトナー界面温度をいかに高くするかで定着性がよくなる。しかし、記録部材に単位面積当たりに付着するトナー重量(mg/cm)(以下、「トナー付着量」と称する。)が大きくなると、表面で加熱した光が用紙界面まで到達するのに時間がかかる。
【0028】
つまり、カラー画像などトナーが多層(シアン、マゼンダ、イエロートナーが積層)形成される場合、黒のトナー像が単層形成されるものと比較した場合、同じトナー界面温度にしようとした場合、トナー表面温度が高くなる。そして、ある温度を超えると色素や樹脂の分解が生じトナーが色変化する。そこで、トナー付着量が変化する場合、レーザの出力を一定のまま、焦点位置を制御することで、ワット密度が変化し、トナー付着量に応じた条件で加熱溶融できるわけである。
【0029】
また、本発明によれば、前記制御手段により、前記光照射手段から照射される光出力を一定として、前記記録部材上の単位面積当りのトナー重量(mg/cm)が多くなるにつれて、単位面積当りの光出力(W/cm)を小さくするように制御することで、照射領域が広がり、加熱時間が長くなるので、トナー表面と界面の温度差が小さくなり、トナーの定着性を確保しつつ、トナーの色変化を抑えることができる。
【0030】
また、本発明によれば、前記制御手段により、前記集光レンズを光照射方向に沿って移動して焦点位置を制御することで、前記定着装置の単位面積当りの光出力(W/cm)を制御することにより、トナー付着量に応じて瞬時に記録部材上の照射領域を変化させることができる。
【0031】
また、本発明によれば、前記制御手段により、前記記録部材搬送手段を光照射方向に沿って移動して(例えば、偏芯カム(移動手段)の回転により光照射方向に沿って移動して)、焦点位置を制御することで、前記定着装置の単位面積当りの光出力(W/cm)を制御することにより、レーザ光の焦点位置を用紙搬送装置の表面からずらすことを容易に行うことができる。
【0032】
また、本発明によれば、前記光照射手段の構成として、レーザ光を用いるものとすることで、光の拡散が少ないため、トナーの存在する場所のみを選択加熱することも可能であり、トナーを効率良く照射できる。
【0033】
すなわち、本発明の光照射手段として、フラッシュランプや、LED、等が使用可能であるが、レーザ光は、光の拡散が少ないため、レーザと集光レンズの併用により、光をもっとも集光でき、ワット密度をもっとも大きくすることができるので、効率よく光を照射できる。
【0034】
また、本発明によれば、前記光照射手段の構成として、光源として半導体レーザ素子を用いることで、COレーザやYAGレーザを用いるより、素子のコストが安いため低コスト化できる。
【0035】
また、本発明によれば、前記光照射手段の構成として、光源として複数の半導体レーザ素子を前記記録部材の搬送方向と略直交する方向に沿って並べた半導体レーザ素子アレイからなるものとすることで、前記記録部材の搬送方向と略直交する方向にレーザをスキャンさせる必要がないため、必要最低限の構成で使用することができ、更に、高速で定着させることが可能となる。
【0036】
また、本発明の画像形成装置によれば、トナー像が形成された記録部材を搬送する記録部材搬送手段と、前記記録部材上に形成されたトナー像に光を照射する光照射手段と、前記光照射手段による光の照射を制御する制御手段と、前記光照射手段から照射された光を前記記録部材上に集光する集光レンズとを備える定着装置を備えた画像形成装置において、前記定着装置として、請求項1から7のうちの何れか一項に記載の定着装置を備えたことで、トナー重量が多いときでもプロセス速度を落とさずに、定着性を確保し、かつトナー表面の色変化を抑えトナー像を記録部材に定着させることができる。さらに、画像形成装置のウォームアップ時間が短縮でき、待機時の消費電力も必要がない為、低消費電力の画像形成装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の第1実施形態に係る画像形成装置の全体の構成を示す説明図である。
【図2】第1実施形態に係る定着装置の構成を示す説明図である。
【図3】前記定着装置においてレーザ光の焦点位置をずらした状態を示す説明図である。
【図4】前記画像形成装置の構成を示すブロック図である。
【図5】本発明の第2実施形態に係る定着装置の構成を示す説明図である。
【図6】前記定着装置においてレーザ光の焦点位置をずらした状態を示す説明図である。
【図7】前記定着装置を構成するレーザ照射手段の構成を示す説明図である。
【図8】本発明に係る定着装置の実施例によるトナーの定着性の測定結果を示す表である。
【図9】前記実施例による色差の測定結果を示すグラフである。
【図10】前記実施例による色差測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0038】
(第1実施形態)
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明する。
図1は発明を実施する形態の一例であって、本発明の第1実施形態に係る画像形成装置の全体の構成を示す説明図である。
【0039】
第1実施形態は、図1に示すように、用紙(記録部材)P上に形成されたトナー像に光を照射することでトナー像を用紙Pに定着させる定着装置40を備えた画像形成装置100において、定着装置40として、本発明に係る特徴的な定着装置の構成を採用したものである。
【0040】
まず、第1実施形態に係る画像形成装置100の全体構成について説明する。
第1実施形態の画像形成装置100は、乾式電子写真方式のカラー画像形成装置であって、図1に示すように、例えば、ネットワーク上の各端末装置から送信される画像データ等に基づいて、所定の用紙Pに対して多色又は単色の画像を形成する。
【0041】
画像形成装置100は、可視像形成ユニット50(50Y,50M,50C,50B)、用紙搬送手段30、定着装置40を備えている。
【0042】
画像形成装置100は、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(B)の各色に対応して、4つの可視像形成ユニット50Y,50M,50C,50Bが並設されている。つまり、可視像形成ユニット50Yは、イエロー(Y)のトナーを用いて画像形成を行い、可視像形成ユニット50Mは、マゼンダ(M)のトナーを用いて画像形成を行い、可視像形成ユニット50Cは、シアン(C)のトナーを用いて画像形成を行い、可視像形成ユニット50Bは、ブラック(B)のトナーを用いて画像形成を行う。
具体的な配置としては、用紙Pの搬送路に沿って4組の可視像形成ユニット50を配設した、所謂タンデム式である。
【0043】
可視像形成ユニット50は、それぞれ実質的に同一の構成を有し、すなわち、それぞれに、感光体ドラム51、帯電器52、レーザ光照射手段53、現像槽54、転写ローラ55、ドラムクリーナユニット56、が設けられており、搬送される用紙Pに各色トナーを多重転写する。
【0044】
ここで、感光体ドラム51は、形成される画像を担持するものである。
帯電器52は、感光体ドラム51表面を所定の電位に均一に帯電させるものである。
レーザ光照射手段53は、画像形成装置に入力された画像データに応じて、帯電器52によって帯電した感光体ドラム51表面を露光して、該感光体ドラム51表面に静電潜像を形成する。
現像槽54は、感光体ドラム51表面に形成された静電潜像を、各色のトナーによって顕像化する。静電潜像を現像する方法としては、磁性1成分現像剤または非磁性1成分現像剤を用いる1成分現像方式と、トナーとキャリアとを含む2成分現像剤を用いる2成分現像方式とがある。
【0045】
2成分現像方式は、キャリアと呼ばれる磁性粒子とトナーとを撹拌して互いに摩擦帯電させることによってキャリアの表面にトナーを担持させ、トナーを担持するキャリア(現像剤)で磁石部材を内包する現像ローラの表面に穂を形成し、穂中のトナーを現像ローラから電子写真感光体の静電潜像へ移行させて現像する。
【0046】
また、2成分現像方式は、1成分現像方式に比べて装置が若干複雑になるが、トナーの電位設定が比較的容易であり、高速対応性および安定性に優れるので、多用され、本実施例にも用いている。そして、カラートナー(イエロー、マゼンタ、シアン)はモノクロトナーに比べてレーザ光の吸収率が低いことから、赤外線吸収剤(例えば、シアニン化合物)を添加することでモノクロトナーと同じ吸収率を確保している。
【0047】
転写ローラ55は、トナーとは逆極性のバイアスが印加されており、後述する用紙搬送手段30により搬送された用紙Pに、形成されたトナー像を転写させている。
【0048】
ドラムクリーナユニット56は、現像槽54での現像処理、及び、感光体ドラム51に形成された画像の転写後に、感光体ドラム51表面に残留したトナーを除去・回収する。
以上のような用紙Pに対するトナー像の転写は、4色について4回繰り返される。
【0049】
用紙搬送手段30は、駆動ローラ31、アイドリングローラ32、搬送ベルト33からなり、用紙Pに可視像形成ユニット50にてトナー像が形成されるように、用紙Pを搬送するものである。
【0050】
駆動ローラ31およびアイドリングローラ32は、無端状の搬送ベルト33を架張するものであり、駆動ローラ31が所定の周速度に制御されて回転することで、無端状の搬送ベルト33を回転させている。搬送ベルト33は、外側表面に静電気を発生させており、用紙Pを静電吸着させながら、用紙Pを搬送している。
【0051】
用紙Pは、このようにして、搬送ベルト33に搬送されながらトナー像を転写されたあと、駆動ローラ31の曲率により搬送ベルト33から剥離され、定着装置40に搬送される。
【0052】
定着装置40は、用紙Pに適度な熱を与えて、トナーを溶解して用紙に固定することで、堅牢な画像を形成する。
【0053】
次に、第1実施形態に係る特徴的な定着装置40の構成について、図面を参照して詳細に説明する。
図2は第1実施形態に係る定着装置の構成を示す説明図、図3は前記定着装置においてレーザ光の焦点位置をずらした状態を示す説明図である。
【0054】
第1実施形態の定着装置40は、図2に示すように、レーザ照射手段(光照射手段)L1と、用紙搬送装置L2とを備えている。定着装置40は、用紙Pの表面に形成された未定着トナー像に熱を加えることによって用紙Pに定着させる。
【0055】
具体的には、定着装置40は、用紙搬送装置L2により所定の定着搬送速度に基づき、用紙搬送装置L2上のレーザ光が照射される領域(レーザ照射エリア)Aに未定着トナー像を担持した用紙Pを搬送して、レーザ照射手段L1からレーザ光を照射して、そのレーザ光の熱によってトナー像の定着を行う。
【0056】
用紙搬送装置L2は、定着駆動ローラ102、定着従動ローラ107、電源104、分離チャージャ105、除電チャージャ106、及び定着搬送ベルト103を備えている。
【0057】
定着搬送ベルト103は、無端状のベルトであり、ポリカーボネート、フッ化ビニリデン又はポリイミド等の樹脂にカーボン等の導電性部材を分散させた素材から構成されている。また、定着搬送ベルト103は、定着駆動ローラ102と定着従動ローラ107によって張架されている。
【0058】
また、定着搬送ベルト103は、後述する定着制御部602(図4を参照)からの信号によって図示しない定着部モータによる駆動が制御される。定着制御部602による制御によって、定着搬送ベルト103の用紙搬送速度は可変され、各条件に応じて任意に調節できるように構成されている。尚、本実施形態では、定着搬送ベルト103の用紙搬送速度を220mm/secに設定する。
【0059】
レーザ照射手段L1は、定着搬送ベルト103上のレーザ照射エリアAに搬送された用紙Pに担持された未定着トナー像にレーザ光を照射して、トナー像を用紙Pに定着させる。
【0060】
レーザ照射手段L1は、図2,図3に示すように、複数のレーザ素子(半導体レーザ素子)200、複数のコリメートレンズ210、コリメートレンズホルダー211、集光レンズ201、集光レンズホルダー202と、フォトダイオード203と、シリコン基板204、ワイヤーボンド線205(図7を参照)、表面電極206及びセラミック基板207、放熱板(ヒートシンク)208、温度センサ(サーミスタ)209、レーザ制御回路(図示せず)を備えている。
【0061】
本実施形態に係る放熱板208は、アルミニウム合金で構成されている。図2,図3に示すように、各レーザ素子200の近傍に受光素子(フォトダイオード)203を配設して、レーザ素子200の発光量を検出し、フォトダイオード203の検出した発光量をレーザ照射手段L1内のレーザ制御回路(図示せず)にフィードバックして、各レーザ素子200の光量の出力を可変し、または一定にするという制御を行う。
【0062】
レーザ制御回路、フォトダイオード203は、一体に形成(モノリシック)され、シリコン基板204を構成し、さらにレーザ素子200がマウントされる。レーザ素子200とシリコン基板204は、ワイヤーボンド線205で電気的に接続される。
【0063】
また、シリコン基板204上には、各レーザ素子200の温度を測定するための温度センサ(サーミスタ)209が備えられている。尚、制御回路は、温度センサ209によって検出された温度に基づき、各レーザ素子200の光量の出力を可変する構成を取っても良い。
【0064】
また、レーザ素子200がマウントされたシリコン基板204を、セラミックで構成するセラミック基板207上に複数個配置する。複数のシリコン基板の電極(図示せず)とセラミック基板207の表面電極206とは、ワイヤーボンディング等により電気的に接続される。
【0065】
集光光学系の複数のコリメートレンズ210、集光レンズ201は、集光レンズホルダー202に配設される。各レーザ素子200から出射されたレーザ光は、対応するコリメートレンズ210及び集光レンズ201を通過し、レーザ照射エリアA上の用紙Pに照射される。
【0066】
以上のように、レーザ照射手段L1は、レーザ素子200がマウントされた複数のシリコン基板204が並べられたセラミック基板207と、放熱板208(ヒートシンク)と、複数のコリメートレンズ210及び集光レンズ201が配設されたコリメートレンズホルダー211,集光レンズホルダー202とによって構成されている。
【0067】
集光レンズホルダー202は、図2,図3に示すように、複数の集光レンズ201を並設して保持するとともに、集光レンズ201を挟んで両端部にコイル214が内包されている。そして、コイル214の外側上方にはコイル214に近接して永久磁石212が設置されている。
【0068】
すなわち、集光レンズホルダー202は、コイル214に電流を流した時に発生する電磁力と永久磁石との吸引力(反発力)とにより、集光レンズ201を光照射方向B(図2の上下方向)に沿って移動することで、レーザ光の焦点位置と用紙Pの表面位置とを合せたり(図2を参照)、ずらしたり(図3を参照)することができるような構成となっている。
【0069】
定着装置40をこのように構成することで、レーザ照射手段L1により瞬時に集光レンズ201の位置を制御することができる。これにより、同じ用紙P上において、図2,図3に示すように、印字位置に応じてレーザ光の焦点位置を瞬時に制御することができる。
【0070】
ここで、本実施形態の画像形成装置100の特徴的な構成についてブロック図を参照して説明する。
図4は本実施形態の画像形成装置の構成を示すブロック図である。
【0071】
画像形成装置100は、図2に示すように、例えば、スキャナとプリンタと周辺機器とを備えた複合機であり、電気的構成として、図4に示すように、画像形成装置100の動作を制御する制御部601、定着装置40の動作を制御する定着制御部(制御手段)602、画像形成装置の操作部である入力部603、表示部604、原稿画像を読み取る読取部605、読み取った原稿画像を適正な電気信号に変換して画像データを生成する画像処理部606、生成された画像データを印刷出力する画像形成部607、用紙搬送速度と用紙搬送開始信号を検出するアクチュエータの信号を元に印字開始信号を受信してから記録部材が定着装置内のレーザ照射部までの到達時間を記憶しているとともに、レーザの出力値及び集光レンズ(又は用紙搬送装置)の光照射方向の移動量を決定するテーブルを記憶している記憶部609、後処理装置であるフィニッシャーやソーターなどの周辺機器を制御する周辺機器制御部608を備えている。
【0072】
制御部601は、画像処理部606から受信した画像情報の印字情報(印刷ジョブに対して、1ページ毎のどの位置に何色のトナーを印字するか(つまり各印字位置にどのくらいのトナー量を現像するか)といった信号を指す。以後、印字位置情報とする)をもとにレーザ光出力タイミング及びレーザ出力値を定着制御部602へ送信する。
【0073】
ここで、第1実施形態の特徴的な定着制御部602について説明する。
定着制御部602は、レーザ照射手段L1によるレーザ光照射を制御するとともに、レーザ照射手段L1から照射される光出力を一定として、用紙P上の単位面積当りのトナー重量に応じて、用紙Pの単位面積当りの光出力を制御するようにされている。
【0074】
第1実施形態では、定着制御部602は、集光レンズ201を光照射方向(図2の上下方向)に動かして焦点位置を制御することで、レーザ照射手段L1による単位面積当りの光出力を制御するようにされている。
【0075】
具体的には、定着制御部602は、受信した印字位置情報とレーザ光の出力値に基づいて、集光レンズホルダー202に設置したコイル214へ通電することで集光レンズホルダー202を変位させてレーザ光の焦点位置を移動するとともに、定着搬送ベルト103を駆動して、レーザ光を照射するように構成されている。また、定着制御部602は、用紙Pの搬送を検出する図示しないアクチュエータの信号を監視し、この信号に基づいて定着搬送ベルト103に対して電圧を印加する制御を行う。
【0076】
この焦点位置の制御は、制御部601からの指令に基づき、レーザ照射手段L1における集光レンズホルダー202の位置を決定する。
【0077】
以上のように構成したので、第1実施形態によれば、定着装置40の構成として、レーザ照射手段L1と用紙搬送装置L2とを備え、レーザ照射手段L1の構成として、複数のレーザ素子200のレーザ光を集光する複数の集光レンズ201を保持する集光レンズホルダー202を備え、その集光レンズホルダー202の両端部にコイル214を内包するとともに、そのコイル214の外側上方にコイル214に近接して永久磁石212を設置する構成とし、定着制御部602により、レーザ照射手段L1から照射される光出力を所定値で一定にした状態で、用紙P上の単位面積当りのトナー重量に応じて、コイル214に電流を流した時に発生する電磁力と永久磁石との吸引力(反発力)とにより、集光レンズ201を光照射方向に沿って移動することで、レーザ光の焦点位置と用紙Pの表面位置とを合せたり(図2を参照)、ずらしたり(図3を参照)することにより、用紙Pの単位面積当りの光出力(W/cm)を制御することで、トナー像を形成するトナー付着量に応じた条件でトナー像を加熱溶融できる。
これにより、用紙Pに形成されるトナー像のトナー重量が多いときでもプロセス速度を落とさずに、定着性を確保し、かつトナー表面の色変化を抑えてトナー像を用紙Pに定着させることができる。
【0078】
なお、第1実施形態では、レーザ照射手段L1から照射されるレーザ光の焦点位置を変えるために、集光レンズ201を光照射方向に沿って上下方向に移動するようにしているが、レーザ照射手段L1から照射されるレーザ光の用紙P上の焦点位置をずらす目的であれば、上述した第1実施形態の構成に限定されるものではない。
【0079】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態に係る光定着装置について、図面を参照して詳細に説明する。
図5は本発明の第2実施形態に係る定着装置の構成を示す説明図、図6は前記定着装置においてレーザ光の焦点位置をずらした状態を示す説明図、図7は前記定着装置を構成するレーザ照射手段の構成を示す説明図である。
なお、第2実施形態の定着装置において、上述した第1実施形態と同様な構成については同一の符号を付することで説明を省略する。
【0080】
第2実施形態は、光照射の焦点位置を制御する方法として、図5,図6に示すように、定着装置140として、レーザ照射手段(光照射手段)L101と、用紙搬送装置(記録部材搬送手段)L102とを備え、レーザ照射手段L101に対する用紙搬送装置L102の位置を制御して、レーザ照射手段L101から照射されるレーザ光の用紙P上の焦点位置を変位させるように構成したものである。
【0081】
用紙搬送装置L102は、定着駆動ローラ102、定着従動ローラ107、電源104、分離チャージャ105、除電チャージャ106、及び定着搬送ベルト103を備え、さらに、定着駆動ローラ102と定着従動ローラ107とを図示しないベアリングを介して回転可能に支持するとともに用紙搬送装置L102全体を保持するアーム113を備えている。
【0082】
定着駆動ローラ102、定着従動ローラ107は、図示しないギアを介して図示しない第1駆動部と接続されている。
【0083】
アーム113の両端部には、図5に示すように、アーム113を図中の上方に付勢するばね部材(引っ張りばね)111が設けられるとともに、アーム113を図中の上下方向に変位させる偏芯カム(移動手段)112が配置されている。図中の符号112Pは軸芯を示す。
【0084】
アーム113は、両端に設置したばね部材111により上方に引き上げられて偏芯カム112と当接した状態となっている。そして、偏芯カム112が回転することにより、アーム113が上下方向に変位することで、用紙搬送装置L102が上下方向に移動する。
これにより、レーザ照射手段L101に対する用紙搬送装置L102のベルト表面位置を変化させることができるので、レーザ光の焦点位置と用紙Pの表面位置とを合わせたり(図5を参照)、ずらしたり(図6を参照)することができる。
【0085】
偏芯カム112は、図示しない第2駆動部と接続されており、図示しない第2駆動部によって、制御部601から送られてきたトナー付着量の情報に応じて回転角度(回転量)が制御されるようになっている。
【0086】
レーザ照射手段L101は、図5,図6に示すように、複数のレーザ素子200、複数のコリメートレンズ210、コリメートレンズホルダー211、集光レンズ201、集光レンズホルダー1202と、フォトダイオード203と、シリコン基板204、ワイヤーボンド線205、表面電極206及びセラミック基板207、放熱板(ヒートシンク)208、温度センサ(サーミスタ)209、レーザ制御回路(図示せず)を備えている。
【0087】
レーザ照射手段L101は、図7に示すように、所定のサイズの用紙(例えば、A4サイズの用紙)上の未定着トナー像を定着する場合、用紙に対して平行に1列状に配列された複数のレーザ素子200が使用される。複数のレーザ素子200は、定着搬送ベルト103の幅方向に平行で、且つ、用紙搬送方向と直交する方向に一列に配置されている。
【0088】
具体的には、レーザ素子列の領域W1に配設されているレーザ素子200は、波長780mmのレーザ光を出射するものであって、隣接するレーザ素子200間の配列ピッチP1を1.0mmとして300個並設されている。
【0089】
なお、レーザ素子200の波長は、上記の値に限定されず、半導体素子の配合や材料等を替えることで400nm〜1000nmの範囲で選択できる構成となっている。
【0090】
すなわち、第2実施形態におけるレーザ照射手段L101は、複数のレーザ素子200が定着搬送ベルト103の幅方向に平行で、かつ、用紙搬送方向に垂直な方向に沿って一列に配列された半導体レーザ素子アレイにより構成されている。
【0091】
例えば、1つのレーザ光源で、用紙Pの全面を光照射する場合、用紙Pの幅方向にレーザ光をスキャンさせる必要がある。そのため、定着プロセスに時間がかかるため高速で定着させるには限界がある。また、レーザ光をスキャンさせるには、装置が複雑化するとともに、コストアップになる。
【0092】
これに対して、第2実施形態のようにレーザ照射手段L101を複数のレーザ素子200を備えた半導体レーザ素子アレイによる構成とすることによって、用紙Pの幅方向にレーザ光をスキャンさせる必要がないため、簡単な装置構成で高速定着が可能となる。
【0093】
また、1つのレーザ光源により高出力で光照射を行うよりも、複数のレーザ素子200を備える構成で高出力化したほうが、レーザ照射手段L101における放熱部の面積が大きくなる。また、放熱部であるヒートシンク208への熱移動効率を向上することができる。
【0094】
用紙Pは、レーザ照射エリアAにおいてトナー像の定着が行われた後、定着搬送ベルト103に静電吸着された状態で分離チャージャ105と定着駆動ローラ102との間に搬送される。
【0095】
定着駆動ローラ102は、導電性材料で構成され且つ接地されている。従って、分離チャージャ105により、用紙Pの除電を行って定着搬送ベルト103と用紙Pとの間の静電吸着力を弱める。
【0096】
定着搬送ベルト103は、定着駆動ローラ102の駆動により静電吸着力を弱めた状態で搬送される。定着搬送ベルト103は、大きな曲率を有するため、用紙Pの先端部は定着搬送ベルト103から浮く。さらに、分離爪(図示せず)によって用紙Pは、完全に定着搬送ベルト103から分離する。
【0097】
このように構成された定着装置140は、定着制御部1602(図4を参照)により動作制御される。
【0098】
ここで、第2実施形態の特徴的な定着制御部1602について説明する。
定着制御部1602は、レーザ照射手段L101によるレーザ光照射を制御するとともに、レーザ照射手段L101から照射される光出力を一定として、用紙P上の単位面積当りのトナー重量に応じて、用紙Pの単位面積当りの光出力を制御するようにされている。
【0099】
第2実施形態では、定着制御部1602は、用紙搬送装置L102を光照射方向(図5の上下方向)に沿って移動して焦点位置を制御することで、レーザ照射手段L101による単位面積当りの光出力を制御するようにされている。
【0100】
具体的には、定着制御部1602は、受信した印字位置情報とレーザ光の出力値に基づいて、図示しない駆動モータにより偏芯カム112を回転させることによりアーム113を変位させることで用紙搬送装置L102を上下方向に変位させてレーザ光の焦点位置を移動するとともに、定着搬送ベルト103を駆動して、レーザ光を照射するように構成されている。また、定着制御部1602は、用紙Pの搬送を検出する図示しないアクチュエータの信号を監視し、この信号に基づいて定着搬送ベルト103に対して電圧を印加する制御を行う。
【0101】
この焦点位置の制御は、制御部601からの指令に基づき、用紙搬送装置L102のベルト表面位置が決定される。
【0102】
以上のように構成したので、第2実施形態によれば、定着装置140の構成として、レーザ照射手段L101と用紙搬送装置L102とを備え、用紙搬送装置L102の構成として、定着駆動ローラ102と定着従動ローラ107とを図示しないベアリングを介して回転可能に支持するとともに用紙搬送装置L102全体を保持するアーム113を備え、そのアーム113の両端部に、アーム113を図中の上方に付勢するばね部材(引っ張りばね)111を設けるとともに、アーム113を図中の上下方向に変位させる偏芯カム112を配置して、定着制御部1602により、レーザ照射手段L101から照射される光出力を一定にするとともに、用紙P上の単位面積当りのトナー重量に応じて、偏芯カム112を回転させることにより、アーム113を上下方向に変位させることで用紙搬送装置L102を光照射方向に沿って上下方向に移動することで、レーザ照射手段L101に対する用紙搬送装置L102のベルト表面位置を変化させてレーザ光の焦点位置と用紙Pの表面位置とを合せたり(図5を参照)、ずらしたり(図6を参照)することにより、用紙Pの単位面積当りの光出力(W/cm)を制御することで、トナー像を形成するトナー付着量に応じた条件でトナー像を加熱溶融できる。
これにより、第1実施形態と同様に、トナー重量が多いときでもプロセス速度を落とさずに、定着性を確保し、かつトナー表面の色変化を抑えトナー像を記録部材に定着させることができる。
【0103】
次に、本発明に係る定着装置を用いた場合のトナーの定着性と色の変化について、実施例を挙げて具体的に説明する。
図8は本発明に係る定着装置の実施例によるトナーの定着性の測定結果を示す表、9は前記実施例による色差の測定結果を示すグラフ、図10は前記実施例による色差測定結果を示すグラフである。
【0104】
本実施例は、図2に示すように、第1実施形態に係る定着装置40を備えた画像形成装置100を用いて、フォーカスレンズとして集光レンズ201を動かすことで用紙P上に照射するレーザ光の照射領域を変化させて定着性と色の変化を考察したものである。
【0105】
具体的には、レーザ照射手段L1に300Wから最大975Wまで電力(レーザ出力)を変化させて投入し、プロセス速度22(cm/sec)で、カラー画像単層(色変化が見やすいイエロー)の未定着トナー像(トナー付着量0.4(mg/cm))及びカラー画像多層(イエローとマゼンタ)の未定着トナー像(トナー付着量0.8(mg/cm))のべた画像を作成し、定着させた。
【0106】
この時のレーザ照射幅(図2のレーザ照射エリアA:紙搬送方向におけるレーザ照射幅)Aを、カラー画像単層(トナー像単層)の時の0.006cm、0.012cm、0.024cmの3つの条件と、カラー画像多層(トナー像多層)の時の0.006cm、0.012cm、0.024cm、0.048cmと4つの条件とでトナーの定着性の比較を行い、与えた定着エネルギー(J/cm)と定着性との関係を検討した。
【0107】
なお、今回の実験では、レーザ照射幅Aを0.006cm以下に集光させることができないので、この条件が今回の焦点位置とした。また、用紙搬送方向とこれに対して垂直方向のレーザ照射幅は、30cmで一定とした。
【0108】
ここで、レーザ出力一定の下、レーザ照射幅Aを増やすと、ワット密度(W/cm)は小さくなる。また、同様に用紙搬送装置L2で搬送される用紙P上の未定着トナー像は、照射時間が長くなる。
【0109】
例えば、定着エネルギー(J/cm)は、ワット密度(W/cm)×照射時間(秒)で決まるので、レーザ照射幅Aが0.006cmで300Wのレーザ出力で照射した時の定着エネルギーは、
定着エネルギー(J/cm)=ワット密度(W/cm)×照射時間(sec)
で与えられる。
【0110】
ここで、
ワット密度(W/cm)=レーザ出力(W)÷照射領域(紙搬送方向の幅A(0.006cm)×垂直方向の幅(30cm))
照射時間(sec)=紙搬送方向の幅A(0.006cm)÷プロセス速度(22cm/sec)
であるので、定着エネルギーは、0.45(J/cm)となる。
(定着エネルギー(J/cm)=レーザ出力(300W)÷垂直方向の幅(30cm)÷プロセス速度(22cm/sec))
【0111】
また、トナーの定着強度の確認としては、画像表面に白紙を載せその上におもり(10cm×10cm 1kgfの荷重)をのせた時、白紙と画像表面の接触部にトナーが付着するかを確認し、トナーが付着していれば、定着不良として「△」、付着しなければ定着性が良好として「○」とした。なお、全くトナーが定着していないもの(指で画像を軽くふれただけでトナーがとれるもの)は、「×」とした。
【0112】
また、カラー画像を定着させた時のトナー表面の色変化を測定するために、分光測色計(X−Rite939)を用いて色度(L*,a*,b*)を測定し、最も低い定着エネルギーで定着できた画像を基準とした時、定着エネルギーを増加させた時の色の変化(色差)を検討した。色差が3以下を色変化として合格とした。
【0113】
例えば、基準となる色の色度を、(L*=L0、a*=a0、b*=b0)、得られた定着画像の色度(L*=L1,a*=a1,b*=b1)とした時、色差ΔE={(L0-L1)^2+(a0-a1)^2+(b0-b1)^2}^0.5で与えられる。
【0114】
本実施例において、実験したときのカラー画像単層及びカラー画像多層のときのトナー付着量とレーザ照射幅Aの条件(No.1からNo.7)を下記に示す。
No.1:カラー画像単層(0.4mg/cm)、レーザ照射幅A0.006cm
No.2:カラー画像単層(0.4mg/cm)、レーザ照射幅A0.012cm
No.3:カラー画像単層(0.4mg/cm)、レーザ照射幅A0.024cm
No.4:カラー画像多層(0.8mg/cm)、レーザ照射幅A0.006cm
No.5:カラー画像多層(0.8mg/cm)、レーザ照射幅A0.012cm
No.6:カラー画像多層(0.8mg/cm)、レーザ照射幅A0.024cm
No.7:カラー画像多層(0.8mg/cm)、レーザ照射幅A0.048cm
ここで、カラー画像単層はモノクロ画像単層であってもよい。
【0115】
そして、No.1からNo.7の条件に対して、レーザ出力を300W,375W,413W,450W,525W,600Wと変化させて行った。
【0116】
上記条件で定着した時の結果を図8に示す。
カラー画像単層(No.1〜No.3)での定着性を比較検討した結果、図8に示すように、No.1の条件(レーザ照射幅が0.006cmの時)が最も低い定着エネルギー0.57(J/cm)で定着できることが確認できた。
【0117】
詳しくは、図8に示すように、レーザ照射幅Aが大きくなるにつれて、定着性がOKになるのに必要な定着エネルギーは大きくなることが確認できた。したがって、省エネの観点で考えた場合、最も集光させた条件(レーザ照射幅Aが0.006cm)が望ましい。
【0118】
次に、トナー表面の色変化について色度を測定した結果を図9に示す。
なお、図9に示すグラフにおける灰色の領域が、定着性OKかつ色差が3以下の領域である。色差が3を超えると、トナー表面の色が変化していることが目視で確認できる。
【0119】
トナー表面の色変化について色度を測定した結果、No.1の条件では、図9に示すように、定着エネルギーが0.57(J/cm)以上から0.85(J/cm)付近までが色差が3以下になることが確認できた。したがって、カラー画像単層の場合は、定着性や色変化の観点から、レーザ光を最も集光した条件で定着させることが色変化も無く、省エネになることが解った。
【0120】
次に、カラー画像多層(No.4〜No.7)での定着性を比較検討した結果、図8に示すように、No.4〜No.6の条件で0.8(J/cm)以上の定着エネルギーで定着できることが確認できた。しかしながら、No.7の条件では、更に定着エネルギーが増加するため、上述した範囲では定着性OKの条件が無かった。
【0121】
なお、本実施例では、これ以上レーザ光を照射する出力を高出力にしなかったが、更に高出力にすれば、定着性OKの条件が現れるが、省エネの観点から望ましくない。
【0122】
これはトナー付着量が大きくなると、レーザ光で照射した光がトナーの下層まで届かず表面で光を吸収し表面が加熱源となるため、その加熱されたトナー表面から伝熱により用紙界面まで到達するからと考えられる。
【0123】
次に、No.4〜No.6のトナー表面の色変化について色度を測定した結果を図10に示す。
なお、図10に示すグラフにおける灰色の領域が、定着性OKかつ色差が3以下の領域である。また△印がNo.4、□印がNo.5、×印がNo.6の条件をプロットしたものである。
【0124】
トナー表面の色変化について色度を測定した結果、図10に示すように、No.4の条件では、定着性OKかつ色差が3以下の領域が存在せず、No.6の条件が定着性OKかつ色差が3以下の領域が広く存在することが確認できた。
【0125】
これは、(1)高ワット密度×短加熱時間(この実験ではNo.4)よりも(2)低ワット密度×長時間加熱(今回の実験ではNo.6)の方が、トナー表面と下層との温度差が少なくなるため、トナー下層の温度がNo.4とNo.6とが同じ条件であった場合、No.4の方はトナー表面温度が高くなると予想できる。
【0126】
つまり、定着性はトナー下層(用紙との界面)温度できまるので、トナー下層がある温度以上になる条件で、かつ、トナー表面温度がトナー分解しない温度以下に抑える必要がある。したがって、カラー画像多層で定着性を確保しつつ色変化を少なくするには、(2)の条件、すなわち焦点位置をぼかして低ワット密度で長時間加熱する条件で定着させることが望ましい。
【0127】
なお、図5,図6に示すように、第2実施形態に係る定着装置140のように用紙搬送装置L102の高さを制御するようにした装置を用いて上記条件で実験しても同じような効果が得られる。
【0128】
また、本発明に係る定着装置の構成を、図2に示すような用紙P上に形成されたトナー像にレーザ光を照射することでトナー像を用紙Pに定着させる定着装置40に適用した例について説明したが、光を照射する光照射手段と、光照射手段による光の照射を制御する制御手段と、光照射手段から照射された光を用紙上に集光する集光レンズとを備える定着装置であれば、上述したような構成に限定されるものではなく、半導体レーザ素子以外の光源を用いてトナーを定着するようにした装置にも展開が可能である。
【0129】
以上のように、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0130】
40,140 定着装置
100 画像形成装置
103 定着搬送ベルト
111 ばね部材
112 偏芯カム(移動手段)
113 アーム
200 レーザ素子
201 集光レンズ
202,1202 集光レンズホルダー
212 永久磁石
214 コイル
601 制御部
602,1602 定着制御部(制御手段)
A レーザ照射エリア(レーザ照射幅)
L1,L101 レーザ照射手段(光照射手段)
L2,L102 用紙搬送装置(記録部材搬送手段)
P 用紙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トナー像が形成された記録部材を搬送する記録部材搬送手段と、前記記録部材上に形成されたトナー像に光を照射する光照射手段と、前記光照射手段による光の照射を制御する制御手段と、前記光照射手段から照射された光を前記記録部材上に集光する集光レンズとを備える定着装置において、
前記制御手段は、前記光照射手段から照射される光出力を一定として、前記記録部材上の単位面積当りのトナー重量に応じて、前記記録部材の単位面積当りの光出力を制御することを特徴とする定着装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記光照射手段から照射される光出力を一定として、前記記録部材上の単位面積当りのトナー重量が多くなるにつれて、単位面積当りの光出力を小さくするように制御することを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記集光レンズを光照射方向に沿って移動して焦点位置を制御することで、前記定着装置の単位面積当りの光出力を制御することを特徴とする請求項1または2に記載の定着装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記記録部材搬送手段を光照射方向に沿って移動して焦点位置を制御することで、前記定着装置の単位面積当りの光出力を制御することを特徴とする請求項1または2に記載の定着装置。
【請求項5】
前記光照射手段として、レーザ光を用いることを特徴とする請求項1から4のうちの何れか一項に記載の定着装置。
【請求項6】
前記光照射手段は、光源として半導体レーザ素子を用いることを特徴とする請求項5に記載の定着装置。
【請求項7】
前記光照射手段は、光源として複数の半導体レーザ素子を前記記録部材の搬送方向と略直交する方向に沿って並べた半導体レーザ素子アレイからなることを特徴とする請求項6に記載の定着装置。
【請求項8】
トナー像が形成された記録部材を搬送する記録部材搬送手段と、前記記録部材上に形成されたトナー像に光を照射する光照射手段と、前記光照射手段による光の照射を制御する制御手段と、前記光照射手段から照射された光を前記記録部材上に集光する集光レンズとを備える定着装置を備えた画像形成装置において、
前記定着装置として、請求項1から7のうちの何れか一項に記載の定着装置を備えたことを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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