説明

定着装置用ローラ、定着装置、及び、画像形成装置

【課題】芯金の通紙領域に発泡シリコーンゴムからなる弾性層と離型層とが順次形成されたローラにおける通紙領域端部での破壊発生を防止して長寿命の定着装置用ローラを提供する。
【解決手段】芯金表面に発泡シリコーンゴムからなる弾性層と、前記弾性層の表面中央の通紙領域に離型層と、前記弾性層表面の両端付近の非通紙領域にスリップ防止のためのグリップ層と、を有する定着装置用ローラにおいて、前記離型層の両端付近に前記非通紙領域に近づくに従い拡径された拡径部が形成され、かつ、前記拡径部以外の前記離型層の弾性層側面が前記弾性層に接着されている定着装置用ローラ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真方式を用いた複写機、プリンタ、ファクシミリなどに用いられ、未定着トナー画像を定着させる定着装置において用いられる断熱加圧ローラなどの定着装置用ローラに関する。
【背景技術】
【0002】
複写機、プリンタ、ファクシミリなどの電子写真方式を採用する画像形成装置では、転写紙やOHP用シートなどの記録材上の未定着トナー画像を加熱定着する定着装置を備えている。定着装置には、これまでヒートロール方式が広く用いられてきた。ヒートロール方式では、加熱された定着ローラに加圧ローラを圧接させてニップ部を形成し、ニップ部に記録材を通過させて未定着トナー画像を定着する。
【0003】
このような定着装置の一部ではウォーミングアップタイムの短縮による省エネ効果を出すために、定着ローラもしくは加圧ローラを、連続気泡を有する発泡体からなる発泡弾性層を構成することにより低熱容量化させている。また、この様な構成により低硬度化による広いニップ幅が確保できるので、優れた定着性を得ることができる。
【0004】
また、定着ローラもしくは加圧ローラの通紙領域には、未定着トナーや紙粉の付着を防止するために、表面層をPFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)やFEP(テトラフルオロエチレン・ヘキサ フルオロプロピレン共重合体)等のフッ素系樹脂などの離形性の高い材質で構成されている。
【0005】
しかしながら、このような発泡弾性層と離型層とではそれぞれ、線膨張係数が、弾性層2×10-4、離型層が12×10-5と大きく異なるために、定着プロセス温度(通常150℃程度)では、発泡弾性層が膨らみ、離型層を径方向に拡張しようとする力が生じる。このとき、通紙領域では発泡弾性層の膨張を離型層が抑えることになるが、離型層の端部では、発泡弾性層の膨張の影響を大きく受けるために、離型層に亀裂が生じ、その後の亀裂進行によって離型層全体が破壊される、あるいは、離型層と発泡弾性層との界面に応力が集中し、このとき発泡体の強度が弱いために発泡弾性層自体に破壊が生じ、いずれにしてもローラの寿命が短くなると云う問題がある。
【0006】
ここで、特許第3382611号(特許文献1)で提案された技術では、芯金、弾性層、離型層を順次形成する際に、非加熱時の離型層に皺が生じるように形成する。このような、いわば”余裕”を持たせた構成により、加熱時の離型層に大きな応力が集中するのを防ぐ。なお、前記離型層の皺は加熱時(使用時)に弾性層が膨張することで離型層が平滑化して解消される。
【0007】
この技術では、長時間使用すると発泡ゴムは圧縮永久歪により、ローラ径が収縮する。そのため、加熱しても離型層は平滑にはならず、良好な定着性が得られない。また、両端にグリップ層を設けていないため膨張時にクラウン形状になるとしているが、両端にグリップ層を設ける形状では、離型層のチューブがないため、グリップ層の膨張が大きく、逆クラウン形状になるので、離型層端部に膨張による歪が発生し、ローラの寿命が短くなると云う問題が依然として残る。
【0008】
また、特開2005−49812公報(特許文献2)では、芯金の周りにダンベル形状(鼓形状。両端の径が中央より大きい)の発泡ゴム層、金属導電層、シリコーンゴム層、離型層を順次形成する技術が提案されている。通紙部の発泡ゴム層と金属導電層の間に空隙が形成されており、加熱時には熱膨張した発泡ゴム層が金属導電層を押し上げることで、ローラ硬度が不均一になることを防ぐ。
【0009】
この技術では、非加熱時、昇温時の加圧をダンベル形状の弾性層の両端部で受けるために、また、ダンベル形状の弾性層の両端部と金属発熱層が接着されているために、加熱時は両端部の軸方向に膨張ができず、径方向にのみ膨張するために、膨張が金属発熱層で押さえ込まれ、通紙部以上に圧縮されるために、弾性層端部の劣化が早くなるので、ローラの寿命が短くなると云う問題が依然として残る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記のように芯金の通紙領域に発泡シリコーンゴムからなる弾性層と離型層とが順次形成されたローラにおける通紙領域端部での破壊発生を防止して長寿命の定着装置用ローラを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の定着装置用ローラは、上記課題を解決するため、請求項1に記載のように、芯金表面に発泡シリコーンゴムからなる弾性層と、前記弾性層の表面中央の通紙領域に離型層と、前記弾性層表面の両端付近の非通紙領域にスリップ防止のためのグリップ層と、を有する定着装置用ローラにおいて、前記離型層の両端付近に前記非通紙領域に近づくに従い拡径された拡径部が形成され、かつ、前記拡径部以外の前記離型層の弾性層側面が前記弾性層に接着されていることを特徴とする定着装置用ローラである。
【0012】
本発明の定着装置用ローラは、請求項2に記載のように、請求項1に記載の定着装置用ローラにおいて、前記グリップ層の形成部分が前記通紙領域に対して太径とされていることを特徴とする。
【0013】
本発明の定着装置用ローラは、請求項3に記載のように、請求項2に記載の定着装置用ローラにおいて、前記離型層の両端部が前記被通紙領域まで延長された延長部が形成され、該延長部により前記グリップ層の一部が覆われていることを特徴とする。
【0014】
本発明の定着装置用ローラは、請求項4に記載のように、請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の定着装置用ローラにおいて、前記グリップ層が弾性体で構成されていることを特徴とする。
【0015】
本発明の定着装置用ローラは、請求項5に記載のように、請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の定着装置用ローラにおいて、前記離型層がフッ素製樹脂のチューブで構成されていることを特徴とする。
【0016】
本発明の定着装置は請求項6に記載の通り、請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の定着装置用ローラを有することを特徴とする定着装置である。
【0017】
本発明の画像形成装置は、請求項7に記載の通り、請求項6に記載の定着装置を有することを特徴とする画像形成装置である。
【発明の効果】
【0018】
本発明の定着装置用ローラによれば、離型層の両端付近に前記非通紙領域に近づくに従い拡径された拡径部が形成され、かつ、前記拡径部以外の前記離型層の弾性層側面が前記弾性層に接着されている、すなわち拡径部が前記弾性層に接着されていない構成により、トナー定着の温度による非通紙領域の発泡弾性層の熱膨張が離型層の両端部の周方向の引張応力の上昇に結びつくことが少なく、このために離型層の両端部の破壊が未然に防止されている。
【0019】
請求項2に記載の定着装置用ローラによれば、前記グリップ層の形成部分が前記通紙領域に対して太径とされている構成により、前記拡径部によるグリップ層の機能である相手側ローラ(定着ベルトを介しての場合を含む)へのグリップ力の低下を未然に防止することができる。
【0020】
請求項2に記載の定着装置用ローラによれば、離型層端部がグリップ層で密閉される構造になるので、飛散したトナーが離型層端部未接着部へ溜まり、地汚れなどの不具合の発生を未然に防止できる。このとき、離型層とグリップ層とは接着されておらず互いに摺動が可能であり、膨張差により離型層端部にかかる応力を緩和させることができるで、離型層の破壊は発生しない。
【0021】
請求項4に記載の定着装置用ローラによれば、前記グリップ層が弾性体により構成されているにより、前記グリップ層グリップ層が形成された部分が前記通紙領域から段を形成して太く設けられているにも係わらず、前記通紙領域において相手方ローラとの間にニップ部を形成することができるので、十分な定着性能を得ることができる。
【0022】
請求項5に記載の定着装置用ローラによれば、前記離型層がフッ素製樹脂のチューブにより構成されている構成により、離型層の該端部の拡径部を容易に構成することができる。
【0023】
請求項5に記載の定着装置によれば、上記定着装置用ローラを有しているために、耐久性に優れた定着装置となる。
【0024】
請求項6に記載の画像形成装置によれば、上記定着装置を有しているために、耐久性に優れた画像形成装置となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係る画像形成装置をモデル的に示す図である。
【図2】本発明に係る定着装置をモデル的に示す図である。
【図3】定着ベルトの一例の断面を示すモデル図である。
【図4】本発明に係る加圧ローラの回転軸に垂直な断面を示すモデル図である。
【図5】離型層の両端の拡径部の形成方法を説明するモデル図である。図5(a)離型層となるPFAチューブを被覆した状態を示す図である。図5(b)PFAチューブの不要部分を切断している状態を示す図である。図5(c)PFAチューブの不要部分とスペーサを除去している状態を示す図である。図5(d)本発明に係る定着装置用ローラの一例を示すモデル断面図である。
【図6】従来技術に係る定着装置用ローラの製造方法の一例を示すモデル断面図である。
【図7】本発明に係る定着装置用ローラの他の一例を示すモデル断面図である。
【図8】本発明に係る定着装置用ローラの他の一例を示すモデル断面図である。
【図9】図9(a)本発明に係る定着装置用ローラの他の一例の製造方法を示すモデル断面図である。図9(b)図9(a)の本発明に係る定着装置用ローラのモデル断面図である。
【図10】比較例の定着装置用ローラのモデル断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の実施形態を図に基づいて説明する。まず、図1を用いて、画像形成装置(プリンタ)全体の構成・動作について説明する。
【0027】
このプリンタは、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの4色のトナー像をそれぞれ対応した感光体ドラム1Y、1M、1C、1Bk(像担持体)の表面上に形成するために電子写真方式の4組の画像形成部10Y、10M、10C、10Bk(像形成手段)を備えている。
【0028】
これら画像形成部10Y、10M、10C、10Bkの下方には、各画像形成部を通して用紙(記録材)を搬送するための搬送ベルト20が張架されている。
【0029】
各画像形成部10Y、10M、10C、10Bkの感光体ドラム1Y、1M、1C、1Bkは、搬送ベルト20にそれぞれ転接配置され,用紙(記録材)は搬送ベルト20の表面に静電的に吸着される。
【0030】
4組の画像形成部10Y、10M、10C、10Bkは、略同じ構造を有する。よって、ここでは用紙の搬送方向最上流側に配設されたイエロー用の画像形成部10Yについて代表して説明し、他の色用の画像形成部10M、10C、10Bkについては同一符号を付して詳細な説明を省略する。
【0031】
画像形成部10Yは、その略中央位置に搬送ベルト20に転接された感光体ドラム1Yを有する。感光体ドラム1Yの周囲には、感光体ドラム1Yの表面を所定の電位に帯電させる帯電装置2Y、帯電されたドラム表面を色分解された画像信号に基づいて露光し、ドラム表面上に静電潜像を形成する露光装置3Y、ドラム表面上に形成された静電潜像にイエロートナーを供給して現像する現像装置4Y、現像したトナー像を搬送ベルト20を介して搬送される用紙上に転写する転写ローラ5Y(転写装置)、転写されずにドラム表面に残留した残留トナーを除去するクリーナ6Y、および図示しないドラム表面に残留した電荷を除去する除電ランプが、感光体ドラム1Yの回転方向に沿って順に配設されている。
【0032】
搬送ベルト20の図中右下方には、用紙を搬送ベルト20上に給紙するための給紙機構30が配設されている。
【0033】
搬送ベルト20の図中左側には、後述する本発明の実施の形態に係る定着装置40が配設されている(この図中では、励磁コイルなどは省略)。搬送ベルト20によって搬送された用紙は、搬送ベルト20から連続して定着装置40を通って延びた搬送路を搬送され、定着装置40を通過する。
【0034】
定着装置40は、搬送された用紙、すなわちその表面上に各色のトナー像が転写された状態の用紙を加熱および加圧する。そして、各色のトナー像を溶融して用紙に浸透させて定着させる。また、定着装置40の搬送経路下流側に排紙ローラを介して排紙する。
【0035】
次に、本発明に係る定着装置を図2にて説明する。
【0036】
ハロゲンヒータ5を内部に備えた加熱ローラ1と、加熱ローラ1と並行に配置された定着ローラ2と、加熱ローラ1と定着ローラ2とで張り渡され、これらの何れかのローラの回転により矢印A方向に回転駆動される無端帯状の耐熱性の定着ベルト3と、定着ベルト3を介して定着ローラ2に圧接されるとともに定着ベルト3に対して順方向に回転する加圧ローラ4とから構成されている。
【0037】
加熱ローラ1は、ローラ内部のハロゲンヒータ5からの熱を当接する定着ベルトへ伝熱することを目的とする。そのため、内面に黒色塗装を施すことで、ハロゲンヒータからの熱を効率良く集光しローラの発熱効率を向上させることができる。
【0038】
材質はアルミニウム、炭素鋼等の金属からなり、特にアルミニウムは金属の中でも熱伝導率が高いことから、加熱ローラに使用するに適している。また、ベルト基材との摺動面にはフッ素樹脂等の摩擦係数の小さい樹脂で被覆し、ベルトの磨耗を低減することが好ましい。
【0039】
定着ローラ2は、例えばステンレス、炭素鋼等の金属製の芯金2aと、耐熱性を有するシリコーンゴム等をソリッド状または発泡状にして芯金を被覆した弾性部材2bとからなる。そして、加圧ローラ4からの押圧力で加圧ローラ4と定着ローラ2の間に所定幅の接触部(定着ニップ部N)を形成する。定着ローラの外径は30〜40mm程度、弾性部材は肉厚を3〜10mm程度、硬度を10〜50°(JIS−A)程度としている。
【0040】
定着ベルト3について図3の断面図を用いて詳細に説明する。図3に示すように定着ベルト3は、基材31の上に弾性層32、離型層33をこの順で積層して構成されている。
【0041】
基材31に求められる特性として、定着ベルト3を構成したときの耐久性、柔軟性、及び、定着温度での使用に耐え得る耐熱性が挙げられる。本発明では支持ローラ1を誘導加熱するため基材31は絶縁性の耐熱樹脂材料、すなわち、ポリイミド、ポリイミドアミド、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、フッ素樹脂等が適している。厚さは定着ベルトを構成したときの要求される熱容量、強度の関係から30μm以上200μm以下であることが望ましい。
【0042】
弾性層32は光沢むらのない均一な画像を得るために、ベルト表面に柔軟性を与える目的で形成され、ゴム硬度は5〜50°(JIS−A)、厚さは50〜500μmが望ましい。また、定着温度における耐熱性から、材質としてはシリコーンゴム、フロロシリコーンゴム等が用いられる。
【0043】
また、離型層33に使用される材料として、四フッ化エチレン樹脂(PTFE)、四フッ化エチレン・パーフロロアルキルビニルエーテル共重合体樹脂(PFA)、および、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(FEP)などのフッ素樹脂、もしくはこれらの樹脂の混合物、あるいは一般的な耐熱性樹脂にこれらフッ素系樹脂を分散させたものが挙げられる。
【0044】
弾性層32を離型層33が被覆することにより、シリコーンオイル等を使用しなくとも定着ベルトのトナー離型性が高まり、紙粉固着防止が可能となる(オイルレス化)。しかし、これらの離型性を有する樹脂は一般にゴム材料のような弾性を持たないことから、弾性層32上に離型層33を厚く形成するとベルト表面の柔軟性を損ない、形成される画像に光沢むらが発生してしまう。離型性と柔軟性とを両立させるためには、離型層33の膜厚を5μm以上50μm以下、特に10μm以上30μm以下とすることが好ましい。
【0045】
また、必要に応じて、各層間にプライマー層を設けても良く、また、基材の内面に摺動時の耐久性を向上させる層、例えば、フッ素樹脂のPFAやPTFEからなる層を設けても良い。
【0046】
図4にモデル的に断面(中央付近の、回転軸に垂直な断面)を示す加圧ローラ4は、本発明に係る定着装置用ローラであり、金属製の円筒部材からなる芯金41の側面の中央の通紙領域に、連続気泡を有する発泡シリコーンゴムからなる弾性層42、離型層43の順にそれぞれ積層された構造を有しており、ベルト3を介して定着ローラ2を押圧して定着ニップ部Nを形成している。加圧ローラ4の外径は一般的に30〜40mm程度である。
【0047】
図5(d)に本発明に係る加圧ローラ4の回転軸を含む平面における断面図を示す。加圧ローラ4は芯金41、連続気泡を有する発泡シリコーンゴムから構成された弾性層42、離型層43、グリップ層44から構成されている。離型層43の両端付近に非通紙領域に近づくに従い拡径された拡径部43aが形成されており、この拡径部43aを除き、離型層43と弾性層42とは接着されている。
【0048】
芯金41にはステンレス鋼、炭素鋼など剛性の高い金属材料を用いる。芯金の肉厚については本発明では弾性層に発泡シリコーンゴムを適用することで断熱性を有しており、中空、中実は問わない。本例では肉厚2mmのSTKM材を用いた。
【0049】
弾性層42は連続気泡を有する発泡シリコーンゴムを用いることで断熱性を得ることができ、加熱ローラへの伝熱を低減することで機器の立ち上げ時間短縮や省エネ(TEC値低減)化が可能となる。
【0050】
弾性層には熱伝導率0.1〜0.2W/(m・K)、硬度35〜60°(アスカーC)のセル径5〜100μmの発泡シリコーンゴムを用いる。特に本発明では発泡シリコーンゴムとして水発泡シリコーンゴムを用いることがこのましい。
【0051】
発泡ゴムを得る方法としては発泡剤を添加させ発泡構造を形成する化学発泡と液状シリコーンゴム中に水を乳化させ加熱することで水を揮発させ発泡構造を形成する水発泡が一般的に知られている。化学発泡ではセルのサイズが大きいため複写機の定着用回転体として用いた場合、トナーに対して均一な圧力負荷ができないため画像ムラや耐久不足(硬度低下、破断など)が起こりやすいという問題がある。一方、水発泡では微細なセルを均一に形成することできるため、先の課題を解決することができる。
【0052】
弾性層は芯金41の周りにエマルジョン組成物である液状シリコーンゴムを注型・加硫することで発泡体を得て形成することができる。
【0053】
このように成形した弾性層の側面のうち、ローラ中央の通紙領域に一液熱硬化型の接着剤を均一に塗布しPFAチューブを被覆し離型層43とする。離型層43にはPTFE、FEPなどの離型性及び耐熱性の良い材料を用いることができる。
【0054】
グリップ層44は通紙領域Wtと同じ幅の離型層43の外側から通紙領域ローラ端部まで形成する。成形方法はスプレー塗装、ディップ塗装、ロールコートなどを用いる。
【0055】
グリップ層の材料としては、グリップ力を得るためタック性を有すること、ニップ部を形成するために弾性体であること、定着温度に対する耐熱性を有すること、の3つの特性を満足することが必要となる。このような材料として、シリコーンゴム、フッ素ゴムなどのゴム材料が挙げられる。
【0056】
次に、離型層43の両端の拡径部の形成方法を図5で説明する。芯金41の周りに弾性層42を注型・加硫した後、所定のローラ径になるように弾性層42に対して研削加工を行い、通紙領域Wtの両外側からローラ両端部までにそれぞれグリップ層44を形成する。そして、このグリップ層44の上にこの例では厚さ0.5mmのスペーサ51を被せ、通紙領域Wtに接着剤を塗布し、その後、通紙領域Wt及びスペーサ全体に係るように離型層43となるPFAチューブを被覆する(図5(a)参照)。このとき、離型層43はスペーサ51に近づくに従い拡径され、かつ、この拡径部では弾性層42から離間して空間Sが形成されているために離型層43と弾性層42とは接着されない。
【0057】
次に図5(b)に示すように、上記空間Sの位置にカッターCを当てて、離型層43を形成するPFAチューブを切断する。
【0058】
PFAチューブを切断した後、端部のPFAチューブとスペーサ51とをローラ端部側に引っ張ることで(図5(c)参照)、本発明に係る加圧ローラ4が得られる。
【0059】
ここで、通紙領域Wtとグリップ層44との間に段差を設けない場合には、図6に示すように、通紙領域Wtに離型層43を形成するためにPFAチューブにカッターを切り込ませると、カッターCがPFAチューブを突き破り、弾性層42にくい込む。このとき、弾性層42にはカッターCによる切れ目が生じ、このようにして作製したローラを用いると上記の切れ目から破断が生じるおそれがある。このように破断が生じると、水発泡シリコーンゴムの強度が化学発泡ゴムの強度より低いために、破談が短時間でローラ全体に広がり、破壊されてしまう。
【0060】
しかしながら、図5(b)に示されるように、通紙領域Wtとグリップ層44との間に段差がある場合、カッターCの食い込み量を空間Sまでとすることにより、弾性層42に達する切れ込みを防止でき、このとき、切れ込みを原因とするローラ破壊をあらかじめ防ぐことができる。
【0061】
また、このようにして形成された離型層43は、その両端がグリップ層の定着装置用ローラ中央側の端にそれぞれ接しており、離型層43の両端部付近が端に近づくに従いそれぞれ拡径され、かつ、該離型層の該端部の拡径部が前記弾性層に接着されていない状態となっている。
【実施例】
【0062】
以下に、本発明の実施例を示す。
【0063】
[実施例1]
芯金に径φ24mm、肉厚2mmのSTKM材を用い、その外側面に肉厚3mmの連続気泡を有する発泡シリコーンゴム層(特願2011−027433(公開前)に詳細が記載されている)を成形し、この発泡シリコーンゴム層の側面のうち、ローラとして用いたときに通紙領域外となる両端部分に膜厚50μmのグリップ層(硬度60°(アスカーC)となるシリコーンゴムから構成される)を形成し、次いで、このグリップ層の外周に厚さ0.5mmのスペーサをかぶせた。
【0064】
さらに通紙領域となる発泡シリコーンゴム層の側面部分に接着剤を塗布し、その後、図5(c)に示すように通紙領域及びスペーサ全体に係るように離型層となる30μmのPFAチューブを被覆し、図5(b)に示すように空間Sの位置にカッターCを当てて、離型層43を形成するPFAチューブを切断し、次いで図5(c)に示すように両端の不要部分の離型層43及びスペーサを除去して図5(d)にモデル的に示す本発明に係る加圧ローラを得た。
【0065】
[実施例2]
芯金に径φ24mm、肉厚2mmのSTKM材を用い、その外側面に通紙領域Wtは肉厚3mm、通紙領域Wtの両端外側の領域では肉厚3.1mmになるように発泡シリコーンゴム層(弾性層)を成形した。この外側の領域に膜厚50μmのグリップ層(硬度60°(アスカーC)となるシリコーンゴムから構成される)を積層し、次いで、このグリップ層の外周に厚さ0.5mmのスペーサをかぶせた。次いで、通紙領域にのみ接着剤を塗布し、以下、上記実施例1同様にして、図7にその断面をモデル的に示す本発明に係る加圧ローラを得た。
【0066】
[実施例3]
実施例1と同様にして芯金外側面に弾性層を形成した。この弾性層の側面のうち、ローラとして用いたときに通紙領域外となる両端部分に発泡成分を有しない以外は弾性層を形成したものと同じ液状シリコーンゴムで作製した膜厚0.3mmのチューブをグリップ層(硬度60°(アスカーC)として積層し、次いで、このグリップ層の外周に厚さ0.5mmのスペーサをかぶせた。以下、上記実施例1同様にして、図8にその断面をモデル的に示す本発明に係る加圧ローラを得た。
【0067】
[実施例4]
実施例4と同様にして芯金外側面に弾性層及びグリッド層を形成した。
【0068】
さらに通紙領域に接着剤を塗布し、その後、図9(a)に示すように通紙領域及びグリッド層全体に係るように離型層となる30μmのPFAチューブを被覆し、図示するようにグリップ層のローラ中央側端から1mmの位置にカッターを当てて(このときのグリップ層への切れ込み量は0.5mmとした)、離型層43を形成するPFAチューブを切断し、図9(b)に示すように両端の不要部分の離型層を除去して本発明に係る加圧ローラを得た。
【0069】
この例では離型層43の両端は、拡径部43aを越えてさらに延長部43bが形成され、延長部43によりグリップ層45の一部(通紙領域側の一部)が覆われている。
【0070】
[比較例]
実施例1と同様にして芯金外側面に弾性層を形成し、その通紙領域のみに離型層として30μmのPFAチューブを接着により被覆した。グリップ層には硬度60°(アスカーC)となるシリコーンゴムを用い、ローラ両端の露出している弾性層上にのみ実施例1同様の膜厚50μmのグリップ層を形成した(図10参照)。
【0071】
[評価]
上記で作製した実施例1〜4および比較例に係る加圧ローラについて耐久試験を実施した。
【0072】
耐久試験は図2にモデル的に示した定着ユニット構成を有するリコー社製画像形成装置imagio MPC 2201を用い、加圧ローラを上記で制作したローラと交換して行った。
【0073】
A4サイズ用紙の400k(400000)枚通紙による耐久試験を実施し、離型層とグリップ層との境界における亀裂の発生の有無を確認した。
【0074】
その結果、比較例に係る加圧ローラのみに亀裂が発生した。このことより、本発明に係る加圧ローラすべてで、離型層端部とグリップ部との境界で発生するせん断応力による弾性層破壊が抑制され、耐久性が向上されることが確認された。
【0075】
実施例1〜4に係る加圧ローラでは上記のように亀裂は発生しなかったが、可撓性回転体とのグリップ力が小さいとニップ部でのスリップが起こり、定着画像不良の発生の懸念が生じる。このようにグリップ力の向上は定着装置において肝要な問題となっている。
【0076】
ここで、グリップ力の確認実験を行った。使用する定着装置・試験条件については先の耐久試験と同様であり、始動時の定着ローラの回転トルクを計測することでグリップ力計測に代えた。
【0077】
その結果、実施例2に係る加圧ローラにおいては、グリップ層下の弾性層42が厚いためにニップ形成部での押圧力が高まるために、表面摩擦力が大きくなり、比較例に係る加圧ローラに比べグリップ力が高く、グリップ力向上効果が得られることが判った。
【0078】
実施例3に係る加圧ローラについては、グリップ層の径が通紙領域より大きいことでニップ形成部での押圧力が高まること、および、ソリッドゴム(発泡されていないゴム)を用いているために押圧による変形が小さいことより接触面での圧力が高くなり、比較例に係る加圧ローラに比べグリップ力が高く、グリップ力の向上効果が得られることが判った。
【0079】
実施例4に係る加圧ローラについては実施例3と同じ構成であるが、グリップ層に切れ込みがあっても破壊が生じずに、比較例に係る加圧ローラに比べグリップ力が高く、グリップ力の向上効果が得られることが判った。
【0080】
そして、実際に実施例1〜4に係る加圧ローラを用いた画像定着評価において、比較例に係る加圧ローラを用いた場合に比べて定着画像不良の発生が著しく少なくなっていた。
【0081】
このように実施例1〜4に係る加圧ローラではいずれも、比較例に係る加圧ローラに比べ、耐久性が向上しており、かつ、グリップ力向上により定着画像品質の向上が得られることが確認された。
【符号の説明】
【0082】
1 加熱ローラ
2 定着ローラ
3 定着ベルト
4 加圧ローラ
5 ハロゲンヒータ
40 定着装置
41 芯金
42 弾性層
43 離型層
43a 拡径部
43b 延長部
Wt 通紙領域
【先行技術文献】
【特許文献】
【0083】
【特許文献1】特許第3382611号
【特許文献2】特開2005−49812公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯金表面に発泡シリコーンゴムからなる弾性層と、前記弾性層の表面中央の通紙領域に離型層と、前記弾性層表面の両端付近の非通紙領域にスリップ防止のためのグリップ層と、を有する定着装置用ローラにおいて、
前記離型層の両端付近に前記非通紙領域に近づくに従い拡径された拡径部が形成され、かつ、
前記拡径部以外の前記離型層の弾性層側面が前記弾性層に接着されている
ことを特徴とする定着装置用ローラ。
【請求項2】
前記グリップ層の形成部分が前記通紙領域に対して太径とされていることを特徴とする請求項1に記載の定着装置用ローラ。
【請求項3】
前記離型層の両端部が前記被通紙領域まで延長された延長部が形成され、該延長部により前記グリップ層の一部が覆われていることを特徴とする請求項2に記載の定着装置用ローラ。
【請求項4】
前記グリップ層が弾性体で構成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の定着装置用ローラ。
【請求項5】
前記離型層がフッ素製樹脂のチューブで構成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の定着装置用ローラ。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の定着装置用ローラを有することを特徴とする定着装置。
【請求項7】
請求項6に記載の定着装置を有することを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−73066(P2013−73066A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−212620(P2011−212620)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】