説明

定着装置

【課題】長期の使用にも耐えうる耐熱安定性の高いシート状摺動部材を用いて、安定的なフィルム管状体(ベルト)の走行を実現する画像定着装置を提供すること。
【解決手段】 押圧部材Aと樹脂フィルム管状体2との間に介在させるシート状摺動部材33として、少なくとも摺動面が耐熱性樹脂を含んで構成される非多孔質状シートからなり、表面に凹凸を有する基材上に非多孔質シートが設けられるシート状摺動部材を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複写機、プリンタ、ファクシミリなどの画像形成装置において未定着画像を加熱加圧定着するのに用いられる定着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プリンタ−、複写機、ファクシミリ等における電子写真画像形成では、未定着トナー像を形成した記録紙等を画像定着装置に通して加熱加圧することにより、トナー像を定着させる過程を経ることが必要であるかかる画像定着装置として耐熱性プラスチック製のフィルム管状体を用いたベルトニップ方式が公知となっている。このベルトニップ方式では、駆動式の定着ロールにフィルム管状体を外接させ、その外接部位のフィルム管状体部分に対し弾性押圧部材を内接させ、これらの間に摺動シートを設置し、オイルを塗布し、定着ロールと前記フィルム管状体との間にニップ部を形成しており、記録紙が前記ニップ部を通過する間にトナー像が定着される。
【0003】
このようなベルトニップ方式において、優れた定着画像や定着性を保証するには、定着ロールと記録紙との間でのスリップ、記録紙とフィルム管状体との間でのスリップを防止することが不可欠である。このため、定着ロールと記録紙との間の摩擦係数をμa、記録紙とフィルム管状体との摩擦係数をμb、フィルム管状体と弾性押圧部材との間での摩擦係数をμcとすると、少なくとも、μa>μc、μb>μc関係を満たす必要がある。このように摩擦係数μcを低減するため、従来、フッ素樹脂を塗布・焼成したガラス繊維シートよりなる被覆層(低摩擦シート)を前記弾性押圧部材上に被覆し、かつその被覆層とフィルム管状体との間に潤滑剤として種種の変性シリコーンオイルを介在させることが提案されている(例えば、特開平10−213984号公報、特開2001−249558号公報)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−213984号公報
【特許文献2】特開2001−249558号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような、従来、使用されているフッ素樹脂を塗布・焼成したガラス繊維シートよりなる被覆層(低摩擦シート)は、潤滑剤を保持させるために、少なくともフィルム管状体内面との摺動面は多孔質状で構成されている。しかしながら、低摩擦シートの摺動面が、多孔質状で構成されているが故に、以下に示す点が十分ではないことがわかってきた。
【0006】
即ち、長期の使用において最表層のコーティングされたフッ素樹脂層が磨耗し、補強基材であるガラス繊維シートが剥き出しとなり、この表面がベルト内面を磨耗させてしまう現象が発生し、ベルトの信頼性を損なうことや、磨耗紛の蓄積、ガラス繊維面とベルト内面との直接接触の機械が生じ、フィルム管状体(エンドレスベルト)の内周面と低摩擦シート表面間の摩擦係数が増大し、定着ロールの駆動トルクが大きくなる。その結果、薄肉の定着ロールコアのギア受け部に働く応力が大きくなり、ギアやコアの破損を引き起こす。また、当然のことながら、モーターへの負担も大きくなる。
【0007】
従って、本発明は、前記従来における諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明の目的は、長期の使用にも耐えうる耐熱安定性の高いシート状摺動部材を用いた、安定的なフィルム管状体(ベルト)の走行を実現する画像定着装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく、摺動部材の信頼性向上に焦点を向け、この摺動部材を構成する材料特性(強度、弾性、塑性、低摩擦性、耐熱性、熱伝導性、反応性、幾何学的特性、フィラー粒径、フィラー形状、フィラー添加量、フィラー種類など)に関して鋭意研究を重ねた結果、摺動面を非多孔質の耐熱性樹脂層で構成すること、さらには、これにフィラーを添加させることで、長期の使用における信頼性が向上することを見出し、本発明を完成するに至った。上記課題は、以下の手段により解決される。即ち、本発明は、
【0009】
(1)回転可能な回転部材と、
前記回転部材に圧接配置され、前記回転部材との間に形成されるニップ部に未定着トナー像を担持した記録媒体を挟持することで当該未定着トナー像が当該記録媒体に定着される、回転可能な樹脂フィルム管状体と、
前記樹脂フィルム管状体の内側に配置され、前記回転部材側に向けて当該定着用管状体を押圧する押圧部材と、
前記樹脂フィルム管状体と押圧部材との間に介在し、少なくとも摺動面が耐熱性樹脂を含んで構成される非多孔質状シートからなり、表面に凹凸を有する基材上に前記非多孔質シートが設けられるシート状摺動部材と、
を備えたことを特徴とする定着装置。
【0010】
(2)前記摺動面の表面粗さ深度Rtが、1.0μm〜50.0μmの範囲にあることを特徴とする前記(1)に記載の定着装置。
【0011】
(3)前記耐熱性樹脂が、フッ素樹脂であることを特徴とする前記(1)又は(2)に記載の定着装置。
【0012】
(4)前記フッ素樹脂が、ポリテトラフロオロエチレン(PTFE)、パーフルオロアルコキシ樹脂(PFA)、及びこれらの変性体から選択される少なくとも1種であることを特徴とする前記(3)に記載の定着装置。
【0013】
(5)前記フッ素樹脂が、電離性放射線を照射して得られる改質ポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)であることを特徴とする前記(3)に記載の定着装置。
【0014】
(6)前記非多孔質状シートに、前記耐熱性樹脂と共にフィラーを含有することを特徴とする前記(1)〜(5)のいずれかに記載の定着装置。
【0015】
(7)前記フィラーが、層状構造を持った潤滑性フィラーであることを特徴とする前記(6)に記載の定着装置。
【0016】
(8)前記フィラーが、導電性を有するフィラーであることを特徴とする前記(6)又は(7)に記載の定着装置。
【0017】
(9)前記フィラーが、耐熱性樹脂を含んで構成され、該耐熱性樹脂がイミド系樹脂、アミド系樹脂、及び芳香族ポリエステル系樹脂から選択されることを特徴とする前記(6)〜(8)のいずれかに記載の定着装置。
【0018】
(10)前記フィラーが、針状、繊維状、又はテトラポット状構造を持った補強性フィラーであることを特徴とする前記(6)〜(9)のいずれかに記載の定着装置。
【0019】
(11)前記フィラーとして、少なくとも一種類以上のフィラーを含有することを特徴とする前記(6)〜(10)のいずれかに記載の定着装置。
【0020】
(12)前記フィラーの添加量が、前記耐熱性樹脂100質量部に対して1.0質量部〜30質量部の範囲にあることを特徴とする前記(6)〜(11)のいずれかに記載の定着装置。
【0021】
(13)前記基材が、織布を含んで構成されることを特徴とする前記(1)〜(12)のいずれか1項に記載の定着装置。
【0022】
(14)前記基材が、ガラス繊維からなる織布を含んで構成されることを特徴とする前記(1)〜(12)のいずれか1項に記載の定着装置。
【0023】
(15)前記非多孔質シートと前記基材とは、前記基材に熱可塑性樹脂を含浸させ、当該熱可塑性樹脂を接着剤として、加熱・加圧して積層させてなることを特徴とする前記(1)〜(14)のいずれかに記載の定着装置。
【0024】
(16)前記押圧部材と前記シート状摺動部材とは一体化されてなることを特徴とする前記(1)〜(15)のいずれか1項に記載の定着装置。
【0025】
(17)前記樹脂フィルム管状体と前記シート状摺動部材との間に介在させる潤滑剤を有し、
前記潤滑剤が、合成潤滑油グリース、ジメチルシリコーンオイル、有機金属塩添加ジメチルシリコーンオイル、ヒンダードアミン添加ジメチルシリコーンオイル、有機金属塩及びヒンダードアミン添加ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、有機金属塩添加アミノ変性シリコーンオイル、ヒンダードアミン添加アミノ変性シリコーンオイル、パーフルオロポリエーテルオイル、変性パーフルオロポリエーテルオイルの中から選ばれることを特徴とする前記(1)〜(16)に記載の定着装置。
【0026】
本発明の定着装置において、摺動部材は、その摺動面(定着用管状体内面との接する面)を、耐熱性樹脂を含んで構成される非多孔質状シートで構成し、摺動部材内部(シート内部)に潤滑剤を含浸させず、例えば、その摺動面の幾何学的形状や化学的親和性で潤滑剤を保持させつつ、樹脂フィルム管状体内面との摩擦低減を図る。このため、長期の使用にも耐えうる耐熱安定性を高い摺動部材となる。また、潤滑剤による表面膨潤などによる化学的変質を招来されず、ニップ形状のばらつきによる定着画像乱れなどの画質欠陥を防止することができる。
【発明の効果】
【0027】
以上説明したように本発明によれば、摺動部材として、長期の使用にも耐え得る耐熱性樹脂(例えば耐熱安定性及び低摩擦性に優れたフッ素樹脂)を含んで構成される非多孔質シートを用いた、安定的なベルトの走行を実現する画像定着装置を提供することができる。
また、非多孔質シート中に、フィラーを適量添加した場合には所望の表面粗さ深度Rtや導電性、強度、潤滑性等のより好適な特性を同時に付与できるため、機器の長期使用において、より信頼性の高い定着装置の提供を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施の形態に係る定着用管状体を備える定着装置を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。なお、実質的に同様の機能を有するものには、全図面通して同じ符号を付して説明し、場合によってはその説明を省略することがある。
【0030】
図1は、本発明の実施の形態に係る定着用管状体(樹脂フィルム管状体)を備える定着装置を示す概略構成図である。
【0031】
図1に示す定着装置は、駆動式の定着ロール1(駆動部材)に樹脂フィルム管状体2を外接させ、その外接部位の樹脂フィルム管状体2(定着用管状体)部分に対し、支持体31上に弾性体32を装着しシート状摺動部材33を被せて一体化させた押圧部材Aを内接させ、定着ロール1と前記樹脂フィルム管状体2との間にニップ部nを形成しており、記録媒体4が前記ニップ部nを通過する間にトナー像41が定着される。また、走行ガイド35は支持体31に固定されている。更に、シート状摺動部材33の樹脂フィルム管状体2に対する摺接面には潤滑剤が介在している。ベルト走行ガイド35の両端には、樹脂フィルム管状体2の寄りを規制する鍔(つば)状の部材(図示しない)が設けられている。
【0032】
定着ロール1及び樹脂フィルム管状体2は、加熱源11及び21で所定の温度に加熱され、それぞれ矢印の方向に回転する。シート状摺動部材33の樹脂フィルム管状体2に対する摺接面には潤滑剤が介在しており、樹脂フィルム管状体2の内面に潤滑剤が供給される。樹脂フィルム管状体2の内面に供給された潤滑剤は連れ回され、ニップ部の摺接面側供給される。なお、樹脂フィルム管状体2は、非張架状態で支持されるものであってもよいし、例えば、複数のロールに掛け渡すなどして張架支持されるものであってもよい。
【0033】
シート状摺動部材33は、耐熱性樹脂からなる非多孔質シートで構成されている。ここで、非多孔質とは、潤滑剤が内部に含浸する孔が無いものを示し、その指標としてオイル含浸量で示すと0.01mg/mm3〜0.2mg/mm3(好ましくは0.01mg/mm3〜0.15mg/mm3)のものを示す。なお、このオイル含浸量は、シート上にオイルを塗布し、その表面に紙を巻きつけたロールを5kg/cm2の力で押し当てながら1分間回転させた後の重量と乾燥重量との差分にて算出された値である。
【0034】
耐熱性樹脂としては、定着温度に対し十分な耐熱性を有するものであれば特に限定しないが、具体的には、熱硬化性ポリイミド、熱可塑性ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、シリコーン樹脂、フッ素樹脂などが挙げられる。これらの中でも、加工性、摩擦特性、また潤滑剤との化学的親和性が高いなどの観点から、フッ素樹脂が好適である。
【0035】
フッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)、パーフルオロポリビニルエーテル樹脂(PFA)、又はこれらの変性体(例えば、ポリテトラフルオロエチレンとパーフルオロポリビニルエーテルとを共重合させたものなどが挙げられる。これのフッ素樹脂は、加工性、摩擦特性に優れ、特に好適である。

【0036】
また、フッ素樹脂としては、電離性放射線(例えば、電子線、γ線、中性子線、X線、高エネルギーイオン等)を照射して得られる改質ポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)を用いることも好ましい。この改質ポリテトラフルオロエチレン樹脂は、耐摩耗性、耐久性を向上させることが可能であり、より長期安定性を向上させることが可能となる。
【0037】
なお、改質ポリテトラフルオロエチレン樹脂は、例えば、市販のPTFE粉体を、300℃以上で、不活性雰囲気下において、103〜10722s-2(1kGy〜10MGy)の電離性放射線照射し、既述の体積平均粒径となるようにジェットミル等で粉砕して作製することができる。ここで、不活性雰囲気とは、例えば、希ガスやN2ガスを主とする雰囲気をいう。300℃以上に加熱することは、フッ素樹脂を構成する主鎖の分子運動を活発化させることになり、その結果、分子間の架橋反応を効率良く促進させることが可能となる。但し、過度の加熱は、逆に分子主鎖の切断と分解を招くようになるので、このような解重合現象の発生を抑制するため、当該加熱温度は、310〜340℃とすることが好ましい。
【0038】
これらフッ素樹脂は、1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
【0039】
非多孔質シートは、例えば、以下ようにして作製することがすることができる。まず、PTFEモールディングパウダー(商品名:テフロン(R)7−J(三井デュポンフロロケミカル社製))を所定の金型に充填し、圧縮成型し、次いで融点以上の温度で加熱焼成し成型体を得る。その後金属刃物によって所定の厚みにスカイビングし、シートを得る。また、フィラーを充填する場合にはパウダーと混合分散した後に同様の工程を得てシートを得る。凹凸形状を具備した基材上にシートを積層する場合にはシート内面を化学的或いは物理的に処理し、接着剤を塗布し、加熱しながら圧着する方法と、シートを融点以上に加熱した状態で融着する方法でも良い
【0040】
非多孔質シートの摺動面、即ちシート状摺動部材33の表面粗さ深度Rtは、摺動面で潤滑剤を保持する観点から、1.0μm〜50.0μmの範囲にあることが好ましく、より好ましくは、1.0〜30.0μmであり、さらに好ましくは1.0〜20.である。この表面粗さ深度Rtが1.0μm未満であると摺動面における潤滑剤保持効果が弱くなり摩擦抵抗が大きくなってしまうことがあり、一方、50μmを超えると凹凸が激しすぎて画像ディフェクトを発生させてしまうことがある。
【0041】
ここで、表面粗さ深度Rtは、旧JIS82規格B0601に基づいて測定されるものであり、具体的には、シート表面を触診式の表面粗さ測定器(サーフコム;東京精密社製)を用いて測定される。そのときの測定条件は、測定長さ2.5mm、カットオフ波長0.25mm、測定速度0.06mm/s、最小二乗直線算出による傾斜補正、25℃/50%である。
【0042】
非多孔質シートには、所望の表面粗さ深度Rtや導電性、強度、潤滑性等を付与する目的で、フィラーを含有させることも好適である。このフィラーとしては、層状構造を持った潤滑性フィラー(例えば、二硫化モリブデン、六方晶窒化硼素、マイカ、グラファイト、二硫化タングステン、タルク)、導電性を有するフィラー(例えば、カーボンブラック、黒鉛)、耐熱性樹脂を含んで構成されるフィラー(例えば、耐熱性樹脂がイミド系樹脂、アミド系樹脂、及び芳香族ポリエステル系樹脂から選択されるフィラー:例えばポリイミド、液晶ポリマー、アラミド)などが挙げられる。
【0043】
これらフィラーは、シート状摺動部材の強度を向上させる観点から、針状、繊維状、又はテトラポット状構造を持った補強性フィラーであることがよい。また、フィラーは、1種単独で用いてもよいが、複数の機能を付与する観点から、2種以上併用することがよい。
【0044】
フィラーの添加量は、フッ素樹脂100質量部に対し、1.0〜30.0質量部の範囲が好ましく、より好ましくは、2.0〜25.0質量部、さらに好ましくは5.0〜20.0質量部である。この添加量が1.0重量部未満であると例えば導電性・補強・潤滑付与効果が弱くなることがあり、30重量部を超えるとフッ素樹脂の特性である潤滑特性が低下及び表面汚染性の増加が発生してしまうことがある。
【0045】
シート状摺動部材33は、表面に凹凸を有する基材(以下、単に「基材」と称す)上に、当該非多孔質シートを設けた複層構成が採用される。この基材上に、非多孔質シートを設けることで、基材表面の凹凸に沿った表面形状が非多孔質シート表面(摺動面)にも現れ、上記表面粗さ深度Rtなどの表面形状を付与することが可能となる。シート状摺動部材33を上記積層構造とすることで、非多孔質シート表面(摺動面)の上記表面粗さ深度Rtなどの表面形状を長期に渡って維持することが可能となる。なお、基材表面の凹凸の大きさは、所望とする非多孔質シートの上記表面粗さ深度Rtなどの表面形状によって適宜選択する。
【0046】
ここで、基材に非多孔質シートを設ける場合、非多孔質シートの厚みは、積層する基材表面の凹凸に沿った表面形状が非多孔質シートの表面(摺動面)にも現れ易いように、10〜50μmであることが好ましく、より好ましくは10〜30μmである。この厚みが厚過ぎると、十分に基材の凹凸が再現できず、薄すぎると摩耗等が発生した場合に、基材が剥き出しとなり、摺動抵抗の上昇につながることがある。
【0047】
このような表面に凹凸を有する基材としては、例えば、多孔質繊維シートが挙げられる。多孔質繊維シートとしては、多数の微細な孔を有する樹脂からなるもので、例えば、樹脂を発泡させて多孔質化したものや、樹脂を1軸或いは2軸方向に延伸し多孔質化したもの、或いは焼成成型等によって製造したものが使用でき、例えば、これら多孔質樹脂にて織られた繊維や多孔質樹脂を薄膜化したものを使用することができる。
【0048】
多孔質繊維シートは繊維自体を多孔質化したものでなくとも、当該繊維を織ることによって、多孔質化された樹脂製の繊維織布から構成されたものであることも好適である。織布は、表面凹凸間隔が等間隔で有ることと、縦糸と横糸の繊維の太さを任意に設定することで、表面凹凸の制御がし易い点が利点として挙げられ、特に好適な形態である。
【0049】
多孔質繊維シートの材質としては、ポリエチレン樹脂、フッ素樹脂等より適宜選定して差し支えないが、耐熱性、耐久性等を考慮すると、多孔質化したPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PFA(テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)、FEP(テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体)を用いることが好ましい。これらの中でも、ガラス繊維、アラミド繊維が強度を付加できる点から好ましく、特に好ましくはガラス繊維である。
【0050】
これらの観点から、基材としては、ガラス繊維の織布で構成することが最も好適である。
【0051】
表面に凹凸を有する基材上に当該非多孔質シートを設けた複層構成のシート状摺動部材33の製造方法としては、基材の表面に非多孔質シートを直接加熱圧着する方法や、基材の表面に非多孔質シートを接着剤により接着する方法、などが挙げられる。基材の表面に非多孔質シートを直接加熱圧着する方法では、非多孔質シートの一部が凹凸を有する基材に含浸し、通常基材凸部と接着するが、この方法では、必要なフィルム状の非多孔質材の厚みが確保できない場合や、基材表面の凹凸に沿った表面形状がフィルム状の非多孔質材の摺動面に現れ難い等の問題が生じることがある。また、反応性接着剤を用いる方法では、定着に際し加えられる熱に対して十分な耐熱性が確保できるものが少なく、且つ、反応性接着剤は保存安定に乏しい等、取り扱い上の制約があるのが現状である。、また、溶剤を揮発させ接着性を発現させるタイプの接着剤を用いる方法では基材の表面形状を非多孔質シートの表面(摺動面)に現れさせる為に、圧着する必要が有る為、溶剤の揮発が十分でなかったり、ガスによる膨れが発生するなどの問題が生じることがある。
【0052】
このため、表面に凹凸を有する基材に熱可塑性樹脂を浸透させ、これを接着剤として、基材と非多孔質シートとを加熱・加圧することで圧着させ、積層させる方法が最も好ましい。
【0053】
この方法では、定着に際し加えられる熱に対して十分な耐熱性が確保できる熱可塑性樹脂を接着剤として用い、製造工程では熱可塑性を発現する温度にて加熱・圧着することで、定着部材として使用した際の耐熱性を確保することができる。
【0054】
また、この方法では熱可塑性樹脂を接着剤として使用するため、非多孔質シートの一部が凹凸を有する基材に含浸しにくく、必要な非多孔質シートの厚みが確保できない問題や、基材表面の凹凸に沿った表面形状が非多孔質シートの表面(摺動面)に現れ難い等の問題は発生しない。
【0055】
また、この方法では、基材に熱可塑性樹脂を浸透させ、これを接着剤として使用するため、反応性接着剤の保存安定に乏しい問題や取り扱い上の制約等少なく、溶剤を揮発させる工程や溶剤の揮発が十分でない事によるガス膨れの発生等の問題が発生しない。
【0056】
また、この方法では、基材に熱可塑性樹脂を浸透させる為、基材強度の向上や基材織布の縦糸と横糸のズレや解れ(ほつれ)が回避できるとともに、シート状摺動部材33を定着装置に組み込む為に必要な形状に裁断する際に発生する断面からの潤滑剤の浸透を防止出来、潤滑剤のロスを防止できる。
【0057】
ここで、基材に熱可塑性樹脂を浸透させる方法としては、予め凹凸を有する基材に含浸乾燥させる方法や、フィルム状の熱可塑性樹脂シートを基材と非多孔質シートとの間に挟み、過熱下圧着する際に、熱可塑性樹脂を浸透させつつ接着加工する方法等が挙げられる。さらに、必要に応じて、非多孔質シートの接着面には、接着面積を大きくする為に微細な凹凸形状(無論凹凸を有する基材の凹凸よりはるかに小さな凹凸)を付与したり、化学処理や電子線処理或は紫外線処理等を施すこともできる。
【0058】
また、熱可塑性樹脂としては、例えば、低分子量のフッ素樹脂(PFA、PTFE、EFA、MFA、FEP)が挙げられる。なお、使用する熱可塑性樹脂の融点は、フィルム状の非多孔質材の融点以下であることは言うまでも無い。
【0059】
以下、本実施形態のその他の部材について説明する。
定着部材としての定着ロール1としては、その形状、構造、大きさ等につき特に制限はなく、目的に応じてそれ自体公知のものの中から適宜選択して使用することができる。前記加熱定着ロールは、一般には、円筒状のコアと、その表面に形成された弾性層とを有し、コアの内部に加熱源を備えてなる。また、弾性層の表面に離型層が形成されていてもよい。離型層が形成されていると、トナー像のオフセットを好適に防止でき、安定した状態で画像定着装置を運転することができる点で有利である。
【0060】
コアの材質としては、機械的強度に優れ、伝熱性が良好である材質ならば特に制限はないが、例えば、アルミ、SUS、鉄、銅等の金属、合金、セラミックス、FRMなどが挙げられる。
【0061】
弾性層の材質としては、該弾性層として公知の材質のものの中から適宜選択できるが、例えば、シリコーンゴム、フッ素ゴムなどが挙げられる。本発明においては、これらの材質の中でも、表面張力が小さく、弾性に優れる点でシリコーンゴムが好ましい。該シリコーンゴムとしては、例えば、RTVシリコーンゴム、HTVシリコーンゴムなどが挙げられ、具体的には、ポリジメチルシリコーンゴム(MQ)、メチルビニルシリコーンゴム(VMQ)、メチルフェニルシリコーンゴム(PMQ)、フルオロシリコーンゴム(FVMQ)などが挙げられる。
【0062】
弾性層の厚みとしては、通常、3mm以下であり、好ましくは0.5〜1.5mmである。弾性層をコアの表面に形成する方法としては、特に制限はなく、例えば、それ自体公知のコーティング法などが採用できる。コーティング法としては、例えば、ニーダーコーティング、バーコーティング、カーテンコーティング、スピンコーティング、ディップコーティング等が挙げられる。本発明においては、これらの中でもディップコーティングが好適に採用できる。
【0063】
離型層の材質としては、トナー像に対し適度な離型性を示すものであれば特に制限はなく、例えば、フッ素ゴム、シリコーンゴム、フッ素樹脂等が挙げられる。これらの材質の中でもフッ素樹脂が好適に挙げられる。前記フッ素樹脂としては、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロメチルビニルエーテル共重合体(MFA)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロエチルビニルエーテル共重合体(EFA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、ポリエチレン・テトラフルオロエチレン(ETFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリクロロ三フッ化エチレン(PCTFE)、フッ化ビニル(PVF)等のフッ素樹脂挙げられ、特に耐熱性、機械特性等の面からポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、及びテトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)テトラフルオロエチレン−パーフルオロメチルビニルエーテル共重合体(MFA)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロエチルビニルエーテル(EFA)共重合体が好適に用いられる。
【0064】
離型層の厚みとしては、通常、10〜100μmであり、好ましくは20〜30μmである。前記離型層を前記コアの表面に形成する方法としては、特に制限はなく、例えば、上述したコーティング法などが挙げられる。また、押出し成型によって形成されたチューブを被覆する方法が挙げられる。
【0065】
なお、定着部材は、定着ロール1に限られず、回転可能に配設されるものであれば、ロール状、ベルト状等適宜選定して差し支えない。
【0066】
加熱源11、21としては、ニップ部を加熱するものであれば、例えば、定着ロール1を内部加熱するタイプに限られず、また定着ロール1を外部加熱するタイプのように、定着部材を介してニップ部を加熱するものは勿論のこと樹脂フィルム管状体2や押圧部材Aを加熱することでニップ部を加熱するもの、あるいはベルト状の定着部材自体が電磁誘導加熱等によって発熱するもの等、適宜選定して差し支えない。
【0067】
樹脂フィルム管状体2としては、その形状、大きさ等については特に制限はなく、目的に応じてそれ自体公知のものの中から適宜選択して使用することができる。前記樹脂フィルム管状体2としては、帯状かつ無端に形成されたベルトが一般的である。樹脂フィルム管状体2の構造としては、単層構造であってもよいし、多層構造であってもよい。多層構造の樹脂フィルム管状体2としては、ベース層と離型層とを少なくとも有するものなどが挙げられる。
【0068】
樹脂フィルム管状体2の材質としては、例えば、熱硬化性ポリイミド、熱可塑性ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド等などが挙げられる。これらの中でも、耐熱性、耐磨耗性、耐薬品性等に優れる点で熱硬化性ポリイミドが好ましい。前記離型層の材質としては、例えば、パーフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、ポリエチレン・テトラフルオロエチレン(ETFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリクロロ三フッ化エチレン(PCTFE)、フッ化ビニル(PVF)等のフッ素樹脂、ポリジメチルシリコーンゴム(MQ)、メチルビニルシリコーンゴム(VMQ)、メチルフェニルシリコーンゴム(PMQ)、フルオロシリコーンゴム(FVMQ)等のシリコーンゴム、フッ化ビニリデン系ゴム、テトラフルオロエチレン−プロピレン系ゴム、フルオロホスファゼン系ゴム、テトラ
フルオロエチレン−パーフルオロビニルエーテル系ゴム等のフッ素ゴム、などが挙げられる。
【0069】
押圧部材Aは、支持体31上に弾性体32を装着し、上述のシート状摺動部材33を被せた構成であり、固定配設されて定着ロールに向けて樹脂フィルム管状体2を押圧するものであれば適宜選定して差し支えないが、定着時の熱による劣化を防止するという観点からすれば、耐熱性を具備するもので構成することが好ましい。
【0070】
支持体31は、例えば、スプリングなどの耐熱性であり、弾性体32を固定する機能を有する。また、押圧部材Aの弾性体32の材質としては、目的に応じて適宜公知のものの中から選択できる。特に硬度の点からJIS−A硬度10〜40°のシリコーンゴムが好適に用いられる。
【0071】
なお、押圧部材Aの形状、構造、大きさ等については特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば押圧パッドは、単一の部材からなる構造であってもよいし、異なる機能を有する複数の部材からなる構造であってもよい。
【0072】
潤滑剤は、潤滑性が優れている点が重要であるが、この指標としては動粘度があり、定着装置で使用する場合、耐熱性、揮発性等を考慮する必要がある。この点より、シリコーンオイルが好ましく、更に濡れ性に優るアミノ変性シリコーンオイルがより好ましい。また、耐熱性により優れた性能が必要な場合、メチルフェニルシリコーンオイルを使用することも好適である。尚、耐熱性を向上させるためにシリコーンオイル中に微量の酸化防止剤を添加することも可能である。
【0073】
潤滑剤は、特に、酸化防止剤入りのアミノ変性シリコーンオイルを用いることが望ましいが、アミノ変性シリコーンオイル、ジメチルシリコーンオイル、メルカプト変性シリコーンオイル、酸化防止剤入りのアミノ変性シリコーンオイルであるヒンダードアミンオイルなどが使用可能であり、長期間の使用において、高い耐熱性を有し、熱的な劣化の少ないヒンダードアミンオイルを用いるのが、特に望ましい。
【0074】
潤滑剤としてシリコーンオイルを用いる態様にあっては、その粘度が常温で50〜3000csであることが好ましい。ここで、この下限値はシリコーンオイルの不必要な蒸発を防止するという観点に基づいて定められたものであり、一方、上限値はシリコーンオイルが摺動抵抗を大きくさせる要因となってしまうのを防止する観点に基づいて定められたものである。さらに高温下において使用する場合には耐熱安定性に優れるパーフルオロポリエーテルオイルを使用することが最も望ましい。
【0075】
また、潤滑剤としては、潤滑材を内部に保持しないタイプの上記シート状摺動部材を用いるので、従来よりも粘度の高い潤滑剤、例えば、グリース(例えば、フッ素オイルを基油としたフッ素グリース(例えばスミテックF950(住鉱潤滑社製))も使用することができ、さらには用いる潤滑剤量を低減させることも可能である。
【0076】
潤滑剤として具体的に適用可能なものを列挙すると、グリース、ジメチルシリコーンオイル、有機金属塩添加ジメチルシリコーンオイル、ヒンダードアミン添加ジメチルシリコーンオイル、有機金属塩及びヒンダードアミン添加ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、有機金属塩添加アミノ変性シリコーンオイル、ヒンダードアミン添加アミノ変性シリコーンオイル、パーフルオロポリエーテルオイルなどが挙げられる。
【0077】
なお、上記何れの実施の形態においても、限定的に解釈されるものではなく、本発明の要件を満足する範囲内で実現可能であることは、言うまでもない。
【実施例】
【0078】
以下、本発明を、実施例を挙げてさらに具体的に説明する。ただし、これら各実施例は、本発明を制限するものではない。
【0079】
(参考例1)
図1に示す定着装置と同様な構成の評価装置(カラープリンターC2220富士ゼロックス(株)製)を用い、フルカラーのパターン画像をJ紙に出力したものを試験に供した。具体的構成は、以下の通りである。
定着ロール1は、外径30mm、肉厚1.8mm、長さ360mmの円筒状アルミ製のコアの外周面に、弾性層としてシリコーンHTVゴム(ゴム硬度35度:JIS−A)を600μmの厚みに被覆され、該弾性層の表面に離型層としてテトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)が30μmの厚みにチューブ被覆されてなり、鏡面状態に近い表面に仕上げられている。コアの内部には、加熱源11として600wのハロゲンランプが配設されている。定着ロール1の表面温度は、該加熱定着ロール10の表面に当接した状態で配置された感温素子の温度センサーと、図示しない温度コントローラーとにより175℃に制御された。
【0080】
樹脂フィルム管状体2は、周長94mm、肉厚75μm、長さ320mmの熱硬化性ポリイミドを基材とし、該基材の外周面にテトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)を30μmの厚みにコーティングして離型層を形成してなる。
【0081】
押圧B剤Aは、支持体31と、支持体31の上に配置された弾性体32と、弾性体32の樹脂フィルム管状体2との接触面に張られたシート状摺動部材33と、樹脂フィルム管状体2がスムーズに回転するように設けられたベルト走行ガイド35とから構成されている。弾性体32は、幅10mm、肉厚5mm、長さ320mmのシリコーンゴムでありベルト走行ガイド35の表面には、ベルト回転方向のリブが設けられており、樹脂フィルム管状体2の内周面との接触面積を少なくしている。支持体31は、薄膜状の樹脂フィルム管状体2を介して圧縮コイルスプリング(図示しない)により定着ロール1を35kgの荷重で押圧している。
【0082】
定着ロール1への樹脂フィルム管状体2の巻き付け角度は、約40°であり、この時ニップ部16の幅は、約10mmであった。モーターからの駆動力が定着ロール1に伝達され、定着ロール10及び樹脂フィルム管状体2は、194mm/secの速度で回転した。
【0083】
押圧部材A表面には、シート状摺動部材33としてPTFE樹脂(三井デュポンフロロケミカル社製PTFE樹脂:テフロン(R)モールディングパウダー)薄膜シートからなる非多孔質フッ素樹脂シート(オイル含浸量0.015mg/mm3)が被覆されており、このときの表面粗さRtは2.0μmであった。このときシート状摺動部材33表面と樹脂フィルム管状体2の内面との間には、潤滑剤としてメチルフェニルシリコーンオイル(KF53;信越化学社製、粘度400セントストークス)が介在されている。
【0084】
この状態で画像定着装置を稼動させ、初期と経時(200,000枚プリント後)でプリントした際の駆動トルクとプリントの画質とを確認した。その結果、初期と経時で駆動トルクに変動がなく、画質も極めて良好であった。
【0085】
(参考例2)
参考例1において、シート状摺動部材33として参考例1同様のPTFE樹脂中に層状構造からなる潤滑フィラーである窒化硼素(昭和電工社製窒化硼素パウダー:ショウビーエヌUHP)を5wt%添加させてシート作製したフィラー含有非多孔質フッ素樹脂シートを用いた(オイル含浸量0.03mg/mm3)こと以外は、参考例1と同様の条件で画像定着装置を構成し、稼動させ、初期と経時でプリントした際のプリントの画質と駆動トルクを確認した。なお、このときのシート状摺動部材33の表面粗さRtは5.0μmであった。その結果、初期と経時で駆動トルクに変動がなく、画質も極めて良好であった。
【0086】
(参考例3)
参考例1において、シート状摺動部材33として参考例1同様のPTFE樹脂中に耐熱性樹脂であるポリイミド樹脂(宇部興産社製ポリイミドパウダーUIP−S)を10wt%添加させてシート作製したフィラー含有非多孔質フッ素樹脂シートを用いた(オイル含浸量0.04mg/mm3)こと以外は、参考例1と同様の条件で画像定着装置を構成し、稼動させ、初期と経時でプリントした際のプリントの画質と駆動トルクを確認した。なお、このときのシート状摺動部材33の表面粗さRtは11.5μmであった。その結果、初期と経時で駆動トルクに変動がなく、画質も極めて良好であった。
【0087】
(参考例4)
参考例1において、シート状摺動部材33として参考例1同様のPTFE樹脂中に導電性フィラーであるグラファイト(日本黒鉛社製黒鉛粉末:ACP)を15質量部(PTFE樹脂100質量部に対する量)添加させて形成した非多孔質フッ素樹脂シートを用いた(オイル含浸量0.05mg/mm3)こと以外は、参考例1と同様の条件で画像定着装置を構成し、稼動させ、初期と経時でプリントした際のプリントの画質と駆動トルクを確認した。このときのシート状摺動部材33の表面粗さRtは18.0μmであった。その結果、初期と経時で駆動トルクに変動がなく、画質も極めて良好であった。
【0088】
(参考例5)
参考例1において、シート状摺動部材33として参考例1同様のPTFE樹脂中に補強性フィラーである酸化亜鉛ウイスカ(松下アムテック社製酸化亜鉛粉末:パナテトラWZ−0501)を10質量部(PTFE樹脂100質量部に対する量)添加させて形成した非多孔質フッ素樹脂シートを用いた(オイル含浸量0.06mg/mm3)こと以外は、参考例1と同様の条件で画像定着装置を構成し、稼動させ、初期と経時でプリントした際のプリントの画質と駆動トルクを確認した。このときのシート状摺動部材33の表面粗さRtは15.0μmであった。その結果、初期と経時で駆動トルクに変動がなく、画質も極めて良好であった。
【0089】
(参考例6):エネルギー線で改質したPTFEの参考例
参考例1において、シート状摺動部材33として架橋されたPTFEパウダーを含有させたPTFE樹脂(商品名;XF−1A(日立電線社製))こと以外(オイル含浸量0.012mg/mm3)は、参考例1と同様の条件で画像定着装置を構成し、稼動させ、初期と経時でプリントした際のプリントの画質と駆動トルクを確認した。このときのシート状摺動部材33の表面粗さRtは2.0μmであった。その結果、初期と経時で駆動トルクに変動がなく、画質も極めて良好であった。
【0090】
(実施例7)
以下に示すシート状摺動部材33を使用した以外は、参考例1と同じ条件で画像定着装置を構成し、稼動させ、初期と経時(本実施例では、200000枚プリント後)でプリントした際のプリントの画質と駆動トルクを確認した。
【0091】
まず、変性PTFE(ダイキン工業社製:ニューポリフロンM111:融点310℃)を所定の金型に充填し、圧縮成型し、次いで融点以上の温度で加熱焼成し成型体を得た後、金属刃物によって25.0μm薄膜シート(非多孔質シート)を得た。この非多孔質シートのオイル含浸量は0.070mg/mm3であった。
【0092】
次に、ガラスクロス基材(有沢製作所製、商品名EPC073、繊維径:縦22.2/横11.2、繊維密度:縦60本/inch、横64本/inch)を準備し、これに非多孔質シートを融着サンドさせて、シート状摺動部材33を得た。このときのシート状摺動部材33の表面粗さRtは2.8μmであった。
【0093】
その結果、初期と経時で駆動トルクに変動がなく、画質も極めて良好であった。また、200000枚プリント後でもシート状摺動部材33の摺動面の表面形状に変化はなかった。
【0094】
(実施例8)
以下に示すシート状摺動部材33を使用した以外は、参考例1と同じ条件で画像定着装置を構成し、稼動させ、初期と経時(本実施例では、200000枚プリント後)でプリントした際のプリントの画質と駆動トルクを確認した。
【0095】
まず、PTFE樹脂(商品名:テフロン(R)7−J(三井デュポンフロロケミカル社製PTFE樹脂:テフロン(R)モールディングパウダー):融点330℃)を所定の金型に充填し、圧縮成型し、次いで融点以上の温度で加熱焼成し成型体を得た後、金属刃物によって20μm薄膜シート(非多孔質シート)を得た。この非多孔質シートのオイル含浸量は0.06mg/mm3であった。
【0096】
次いで、ガラスクロス(商品名:ガラスクロスKS1231(カネボウ社製、繊維径縦糸:22.5g/1000m、横糸:22.5g/1000m、密度縦方向:41本/inch、横方向:41本/inch、平織り)に、フッ素樹脂ディスパージョン(商品名:ネオフロンFEPディスパージョンND−1(ダイキン工業社製):融点260℃)をデッピングコートし、290℃にて溶融含浸させ、凹凸を有するガラスクロス基材を得た。
【0097】
表面に凹凸を有するガラスクロス基材を非多孔質シートで挟み込むように重ね合わせ、300℃−60kg/cm2の条件で加熱圧着を行った。この際、基材表面の凹凸に沿った表面形状が非多孔質シートの表面(摺動面)に現れ易いように、2mmの厚みのフッ素ゴムシートをプレス板とシート状摺動部材のと間に挟んで加工を行い、シート状摺動部材33を得た。このときのシート状摺動部材33の表面粗さRtは13.2μmであった。
【0098】
その結果、初期の駆動トルクが低く、且つ、初期と経時で駆動トルクに変動がなく、画質も極めて良好であった。また、200000枚プリント後でもシート状摺動部材33の摺動面の表面形状に変化はなかった。
【0099】
(実施例9)
以下に示すシート状摺動部材33を使用した以外は、参考例1と同じ条件で画像定着装置を構成し、稼動させ、初期と経時(本実施例では200000枚プリント後)でプリントした際のプリントの画質と駆動トルクを確認した。なお、シート状摺動部材33の摺動面と樹脂フィルム管状体2の内面との間には、潤滑剤としてアミノ変性シリコーンオイル(KF8009A;信越化学社製400センチストークス)を介在させた。
【0100】
まず、PI樹脂フイルム樹脂(商品名:ユーピレックス−S(宇部興産社製))25μm薄膜シート裏面を、サンドペーパーで粗面化し、非多孔質シートを得た。この非多孔質シートのオイル含浸量は0.02mg/mm3であった。
【0101】
次いで、実施例8と同様のガラスクロス基材を非多孔質シートで挟み込むように重ね合わせ、300℃−60kg/cm2の条件で加熱圧着を行ってシート状摺動部材33を得た。この際、サンドペーパーで粗面化した非多孔質シートの粗面化面が、ガラスクロス基材側に向くように積層した。このときのシート状摺動部材33の表面粗さRtは34.8μmであった。
【0102】
その結果、初期の駆動トルクは実施例8と比較しやや高めであったが、初期と経時で駆動トルクに変動がなく、画質も極めて良好であった。また、200000枚経時後でもシート状摺動部材33の摺動面の表面形状に変化はなかった。
【0103】
(実施例10)
以下に示すシート状摺動部材33を使用した以外は、参考例1と同じ条件で画像定着装置を構成し、稼動させ、初期と経時(本実施例では、200000枚プリント後)でプリントした際のプリントの画質と駆動トルクを確認した。なお、シート状摺動部材33の摺動面と樹脂フィルム管状体2の内面との間には、潤滑剤としてアミノ変性シリコーンオイル(KF8009A;信越化学社製400センチストークス)を介在させた。
【0104】
まず、変性PTFE樹脂(商品名:ニューポリフロンPTFEモールディングパウダーM−111、ダイキン工業社製)を所定の金型に充填し、圧縮成型し、次いで融点以上の温度で加熱焼成し成型体を得た後、金属刃物によって30μm薄膜シート(非多孔質シート)を得た。この非多孔質シートのオイル含浸量は0.08mg/mm3であった。
【0105】
次いで、実施例8と同様のガラスクロス基材を非多孔質シートで挟み込むように重ね合わせ、300℃−60kg/cm2の条件で加熱圧着を行って、シート状摺動部材33を得た。このときのシート状摺動部材33の表面粗さRtは12.5μmであった。
【0106】
その結果、初期の駆動トルクは低く、且つ、初期と経時で駆動トルクに変動がなく、画質も極めて良好であった。200000枚プリント後でもシート状摺動部材33の摺動面の表面形状に変化はなかった。
【0107】
(参考例11)
以下に示すシート状摺動部材33を使用した以外は、参考例1と同じ条件で画像定着装置を構成し、稼動させ、初期と経時(本参考例では200000枚プリント後)でプリントした際のプリントの画質と駆動トルクを確認した。
【0108】
PTFE樹脂(商品名:テフロン(R)7−J(三井デュポンフロロケミカル社製PTFE樹脂:テフロン(R)モールディングパウダー))を所定の金型に充填し、圧縮成型し、次いで融点以上の温度で加熱焼成し成型体を得た後、金属刃物によって100μm薄膜シートを得た。
【0109】
この薄膜シートを、プレス機を用い、表面に市販の金属100メッシュ網にて凹凸形状を付与し、非多孔質シートを得た。これを、シート状摺動部材33とした。このときのシート状摺動部材33の表面粗さRtは42.3μm、オイル含浸量0.05mg/mm3であった。
【0110】
その結果、200,000枚プリント後までは、初期と経時で駆動トルクに変動がなく、画質も極めて良好であった。一方、200,000枚プリント以降、若干の画像乱れが認められ、記録媒体に紙しわが若干発生した。また、200,000枚プリント以降、駆動トルクが時間の経過と共に若干上昇する結果となった。評価の後、シート状摺動部材33の表面を観察したところ、金属100メッシュ網にて付与した凹凸形状が若干ではあるが消失していた。
【0111】
(比較例1)
参考例1において、シート状摺動部材33としてガラス繊維にフッ素樹脂を含浸させた多孔質シート(オイル含浸量0.21mg/mm3:表面粗さRt5.9μm)を用いたこと以外は、参考例1と同様の条件で画像定着装置を構成し、稼動させ、初期と経時でプリントした際の、プリントの画質と駆動トルクを確認した。その結果、画質は初期においては良好であったが、経時では、大きな画像乱れが認められ、記録シートの紙しわも発生した。また、駆動トルクは、初期では低いものの、時間の経過と共に駆動トルクが上昇する結果となった。また、シート表面を観察すると表面のフッ素樹脂が磨耗し、ガラス繊維が剥き出しとなっていた。
【符号の説明】
【0112】
1 定着ロール
2 樹脂フィルム管状体
4 記録媒体
11 加熱源
31 支持体
32 弾性体
33 シート状摺動部材
35 走行ガイド
41 トナー像
A 押圧部材
n ニップ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転可能な回転部材と、
前記回転部材に圧接配置され、前記回転部材との間に形成されるニップ部に未定着トナー像を担持した記録媒体を挟持することで当該未定着トナー像が当該記録媒体に定着される、回転可能な樹脂フィルム管状体と、
前記樹脂フィルム管状体の内側に配置され、前記回転部材側に向けて当該定着用管状体を押圧する押圧部材と、
前記樹脂フィルム管状体と押圧部材との間に介在し、少なくとも摺動面が耐熱性樹脂を含んで構成される非多孔質状シートからなり、表面に凹凸を有する基材上に前記非多孔質シートが設けられるシート状摺動部材と、
を備えたことを特徴とする定着装置。
【請求項2】
前記摺動面の表面粗さ深度Rtが、1.0μm〜50.0μmの範囲にあることを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
【請求項3】
前記耐熱性樹脂が、フッ素樹脂であることを特徴とする請求項1又は2に記載の定着装置。
【請求項4】
前記フッ素樹脂が、ポリテトラフロオロエチレン(PTFE)、パーフルオロアルコキシ樹脂(PFA)、及びこれらの変性体から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項3に記載の定着装置。
【請求項5】
前記フッ素樹脂が、電離性放射線を照射して得られる改質ポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)であることを特徴とする請求項3に記載の定着装置。
【請求項6】
前記非多孔質状シートに、前記耐熱性樹脂と共にフィラーを含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の定着装置。
【請求項7】
前記フィラーが、層状構造を持った潤滑性フィラーであることを特徴とする請求項6に記載の定着装置。
【請求項8】
前記フィラーが、導電性を有するフィラーであることを特徴とする請求項6又は7に記載の定着装置。
【請求項9】
前記フィラーが、耐熱性樹脂を含んで構成され、該耐熱性樹脂がイミド系樹脂、アミド系樹脂、及び芳香族ポリエステル系樹脂から選択されることを特徴とする請求項6〜8のいずれかに記載の定着装置。
【請求項10】
前記フィラーが、針状、繊維状、又はテトラポット状構造を持った補強性フィラーであることを特徴とする請求項6〜9のいずれかに記載の定着装置。
【請求項11】
前記フィラーとして、少なくとも一種類以上のフィラーを含有することを特徴とする請求項6〜10のいずれかに記載の定着装置。
【請求項12】
前記フィラーの添加量が、前記耐熱性樹脂100質量部に対して1.0質量部〜30質量部の範囲にあることを特徴とする請求項6〜11のいずれかに記載の定着装置。
【請求項13】
前記基材が、織布を含んで構成されることを特徴とする請求項1〜12のいずれか1項に記載の定着装置。
【請求項14】
前記基材が、ガラス繊維からなる織布を含んで構成されることを特徴とする請求項1〜12のいずれか1項に記載の定着装置。
【請求項15】
前記非多孔質シートと前記基材とは、前記基材に熱可塑性樹脂を含浸させ、当該熱可塑性樹脂を接着剤として、加熱・加圧して積層させてなることを特徴とする請求項1〜14のいずれかに記載の定着装置。
【請求項16】
前記押圧部材と前記シート状摺動部材とは一体化されてなることを特徴とする請求項1〜15のいずれか1項に記載の定着装置。
【請求項17】
前記樹脂フィルム管状体と前記シート状摺動部材との間に介在させる潤滑剤を有し、
前記潤滑剤が、合成潤滑油グリース、ジメチルシリコーンオイル、有機金属塩添加ジメチルシリコーンオイル、ヒンダードアミン添加ジメチルシリコーンオイル、有機金属塩及びヒンダードアミン添加ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、有機金属塩添加アミノ変性シリコーンオイル、ヒンダードアミン添加アミノ変性シリコーンオイル、パーフルオロポリエーテルオイル、変性パーフルオロポリエーテルオイルの中から選ばれることを特徴とする請求項1〜16に記載の定着装置。

【図1】
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【公開番号】特開2010−211220(P2010−211220A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−96041(P2010−96041)
【出願日】平成22年4月19日(2010.4.19)
【分割の表示】特願2003−414298(P2003−414298)の分割
【原出願日】平成15年12月12日(2003.12.12)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】