説明

宝飾部材およびその製造方法

【課題】遊色効果に加え、ピンク色ないし金赤色の色調をさらに呈する宝飾部材およびその製造方法を提供する。
【解決手段】規則的に三次元配列している非晶質珪酸からなる複数の球状体2と、該複数の球状体2が互いに隣接することによって形成されている間隙4に位置している金3と、を備える、宝飾部材1とその製造方法である。複数の球状体2は、単純立方構造、面心立方構造、六方最密構造、体心立方構造、およびこれらが部分的に共存している複合構造から選ばれる少なくとも1種の構造をなすように配列している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遊色効果を呈する宝飾部材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
遊色効果を呈する宝飾部材として、天然オパールが知られている。天然オパールは、非晶質珪酸からなる複数の球状体が規則的に三次元配列している構造を有しており、上述した複数の球状体と、これら複数の球状体が互いに隣接することによって形成されている間隙とによって入射光がブラッグ反射し、これにより独特な遊色効果を呈することから、指輪、ネックレス、イヤリング、ブローチ、ペンダント、宝飾板等の宝飾部材として好適に使用されている。
しかしながら、天然オパールには、産出量が少ないという問題がある。また、天然オパールのうち全体が遊色効果を呈し、かつ透明度の高い良質なものは、非常に稀少である。
【0003】
この天然オパールの問題を解決するために、特許文献1では、非晶質珪酸からなる複数の球状体を規則的に三次元配列させるとともに、この配列によって形成されている間隙内にジルコニウムを0.005〜8.0質量%の割合で充填させ、これにより天然オパールと同等の発色と遊色効果を呈し、かつ透明度の高い宝飾部材を得ている。
【0004】
また、特許文献2には、黄色やオレンジ色や褐色を呈するファイヤーオパールに酷似した色調、遊色効果および深い透明感を有する宝飾部材として、非晶質珪酸からなる複数の球状体を規則的に三次元配列させるとともに、この配列によって形成されている間隙内に鉄を0.00005〜0.0006質量%、ジルコニウムを0.002〜0.5質量%の割合でそれぞれ充填させたものが記載されている。
【0005】
ここで、宝飾部材が、上述した遊色効果に加え、ピンク色ないし金赤色の色調をさらに呈するものであれば、その価値を高めることができてよいと考えられる。
しかしながら、特許文献1,2に記載されている宝飾部材では、遊色効果に加えて上述した特定の色調をさらに呈することは困難であった。
【0006】
一方、特許文献3には、透明ガラスと着色材とからなり、この着色材が、透明ガラスと着色材との合計量を100質量部としたとき、銀0.01〜5質量部、金0.01〜5質量部、および錫またはクロム0.01〜5質量部の組成域で、イオン、コロイド、金属錯塩、金属酸化物を単体あるいは混合物として、上述の透明ガラスに溶融させてなる透明なレッドガラス組成物が記載されている。
【0007】
また、特許文献4には、二酸化チタンを2〜20モル%および三酸化二アンチモンを0.1〜1.2モル%の割合で含有するホウケイ酸塩系ガラスまたはケイ酸塩系ガラス100質量部に対し、金を0.01質量部以上の割合で含有する無鉛赤色ガラスと、その製造方法として、上述したガラスの組成となるように配合した原料混合物を、溶融および徐冷してガラス化させた後、450〜650℃に加熱して無鉛ガラスを赤色に発色させることが記載されている。
【0008】
上述した特許文献3,4に記載されているように、ガラスに金を含有させると、赤色の色調を呈することが従来から知られている。
しかしながら、特許文献3に記載されているようなガラス組成物において、所望の鮮やかな赤色の色調を発色させるためには、有害な鉛ガラスを使用する必要があった。また、鉛ガラスに代えて無鉛ガラスで赤色の色調を発色させるためには、特許文献4に記載されているように、二酸化チタンおよび三酸化二アンチモン等をさらに含有させる必要があり、それゆえ組成が3原系になってしまい、組成制御が難しくなるという問題があった。さらに、特許文献3,4に記載されているようなガラスでは、オパールのような遊色効果を呈することはできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特公平4−22871号公報
【特許文献2】特開2003−73170号公報
【特許文献3】特開平9−268027号公報
【特許文献4】特開2009−107885号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、遊色効果に加え、ピンク色ないし金赤色の色調をさらに呈する宝飾部材およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、以下の構成からなる解決手段を見出し、本発明を完成するに至った。
(1)規則的に三次元配列している非晶質珪酸からなる複数の球状体と、該複数の球状体が互いに隣接することによって形成されている間隙に位置している金と、を備える、宝飾部材。
(2)前記複数の球状体は、単純立方構造、面心立方構造、六方最密構造、体心立方構造、およびこれらが部分的に共存している複合構造から選ばれる少なくとも1種の構造をなすように配列している、前記(1)に記載の宝飾部材。
(3)前記金は、イオンまたは粒子の状態で前記隙間に位置している、前記(1)または(2)に記載の宝飾部材。
(4)前記金の含有量は、10〜5,000ppmである、前記(1)〜(3)のいずれかに記載の宝飾部材。
(5)前記球状体の直径は、前記金の直径よりも大きい、前記(1)〜(4)のいずれかに記載の宝飾部材。
(6)前記球状体の平均直径は、5〜450nmである、前記(1)〜(5)のいずれかに記載の宝飾部材。
(7)前記金の粒子の平均直径は、1〜50nmである、前記(3)〜(6)のいずれかに記載の宝飾部材。
(8)前記間隙に位置している銀と、をさらに備える、前記(1)〜(7)のいずれかに記載の宝飾部材。
(9)非晶質珪酸からなる複数の球状体を規則的に三次元配列させるとともに、前記複数の球状体が互いに隣接することによって形成されている間隙に金を配置させる、宝飾部材の製造方法。
(10)前記間隙に銀をさらに配置させる、前記(9)に記載の宝飾部材の製造方法。
(11)前記(1)〜(8)のいずれかに記載の宝飾部材を含む、装飾品。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、遊色効果に加え、ピンク色ないし金赤色の色調をさらに呈する宝飾部材を提供できるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】(a),(b)は、本発明の一実施形態にかかる宝飾部材を示す部分拡大概略断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<宝飾部材>
以下、本発明の一実施形態にかかる宝飾部材について、図1を参照して詳細に説明する。図1(a)に示すように、本実施形態にかかる宝飾部材1は、複数の球状体2を備えている。複数の球状体2は、いずれも非晶質珪酸からなり、規則的な三次元配列をなしている。本明細書において複数の球状体2の「規則的な三次元配列」とは、入射光がブラッグ回折可能なように複数の球状体2が配列されていることをいい、より具体的には、単純立方構造、面心立方構造、六方最密構造、体心立方構造、およびこれらが部分的に共存している複合構造から選ばれる少なくとも1種の構造をなすように複数の球状体2が配列されていることをいう。
【0015】
宝飾部材1には、複数の球状体2が互いに隣接することによって間隙4が複数形成されている。間隙4には、図1(b)に示すように、金3が配置されている。これにより、入射光が複数の球状体2および間隙4によってブラッグ反射し、それゆえ宝飾部材1が遊色効果を呈するようになり、かつ間隙4に位置している金3によってピンク色ないし金赤色の色調を呈するようになる。
【0016】
本明細書において「遊色効果」とは、宝飾部材1を見る角度によって、その色調が様々に変化することをいう。また、本明細書において「金赤色」とは、真紅のことをいう。本明細書において「ピンク色ないし金赤色」とは、ピンク色よりも淡い色調である淡いピンク色と、金赤よりも濃い色調である赤褐色とを含む色調をいう。
【0017】
金3は、イオンまたは粒子の状態で隙間4に位置しているのが好ましい。これにより、間隙4に金3を配置させ易くなるとともに、入射光のブラッグ回折が金3によって妨げられるのを抑制することができる。
【0018】
金3の含有量は、宝飾部材1の総量に対して10〜5,000ppmであるのが好ましい。これにより、金3を宝飾部材1に対して過不足なく使用することができる。すなわち、金3の含有量を上述した割合に調整すると、宝飾部材1に形成されている複数の間隙4のうち、金3が配置される隙間4の割合が適度なものなり、それゆえ宝飾部材1が十分な遊色効果に加えて所望の鮮やかな特定の色調を呈するようになる。宝飾部材1の色調は、金3の含有量が多くなるにつれて濃くなる傾向にある。なお、宝飾部材1が特定の色調を呈する限り、複数の間隙4の全てに金3が配置される必要はない。
【0019】
本実施形態では、球状体2の(平均)直径が、金3の(平均)直径よりも大きい。これにより、間隙4に金3を配置させ易くなるとともに、入射光のブラッグ回折が金3によって妨げられるのを抑制することができる。
【0020】
球状体2の平均直径は、5〜450nmであるのが好ましい。これにより、宝飾部材1が十分な遊色効果に加えて所望の鮮やかな特定の色調を呈するようになり、かつ間隙4に金3を配置させ易くなる。
【0021】
特に所望の鮮やかな特定の色調とともに、可視光領域での遊色効果を発現させる上で、球状体2の平均直径は、100〜400nmであるのが好ましい。宝飾部材1の色調は、球状体2の平均直径が大きくなるにつれて濃くなる傾向にある。また、複数の球状体2を規則的に三次元配列させる上で、球状体2の粒径のばらつきは、±15%以内、望ましくは±10%以内であるのが好ましい。
【0022】
一方、球状体2の平均直径があまり小さいと、宝飾部材1が白濁した状態になって遊色効果が現れないおそれがある。また、球状体2の平均直径があまり大きいと、宝飾部材1が透明体となって遊色効果が現れないおそれがある。
【0023】
金3の粒子の平均直径は、1〜50nmであるのが好ましい。これにより、宝飾部材1が所望の鮮やかな特定の色調を呈するようになり、かつ間隙4に金3を配置させ易くなる。宝飾部材1の色調は、金3の粒子の平均直径が大きくなるにつれて濃くなる傾向にある。
【0024】
間隙4には、金3とともに、結晶質組成物や非晶質組成物等が配置されていてもよい。また、間隙4には、金3とともに、エルビウムやジルコニウム等が充填されているのが好ましい。エルビウムを隙間4に充填すると、宝飾部材1にピンク色を付与することができ、ジルコニウムを隙間4に充填すると、宝飾部材1の遊色効果を高めることができるとともに、互いに隣接する球状体2同士を結合させることができる。
【0025】
エルビウムの充填量としては、宝飾部材1の総量に対して0.1〜6.0質量%程度、ジルコニウムの充填量としては、宝飾部材1の総量に対して0.005〜5.000質量%程度が適当である。エルビウムやジルコニウムとともに、微量成分としてナトリウム、カリウム、銅、マグネシウム、アルミニウム、クロム、亜鉛、鉛、鉄、ニッケル、イットリウム、ジスプロシウム、ホルミウム、ツリウム、イッテルビウム等、およびこれらの化合物もしくは酸化物等が間隙4に充填されていてもよい。特に間隙4には、金3とともに、ジルコニウムおよびエルビウムを含む混合物、混晶あるいは非晶質が充填されているのが好ましい。
【0026】
<宝飾部材の製造方法>
次に、本発明の一実施形態にかかる宝飾部材の製造方法について、上述した宝飾部材1を製造する場合を例に挙げ、詳細に説明する。本実施形態にかかる宝飾部材の製造方法は、オパールを作製する工程と、金イオン水を作製する工程と、オパールに金イオン水を含浸させる工程と、を含むものである。以下、各工程について順に説明する。
【0027】
(オパールの作製)
まず、規則的に三次元配列している複数の球状体2からなるオパールを作製する。具体的には、所定の平均直径を有する非晶質珪酸からなる球状体2と、この球状体2を分散させる分散媒とを所定の割合で攪拌混合し、球状体2の分散液を得る。球状体2と分散媒の割合としては、球状体2を10〜30体積%、分散媒を70〜90体積%とするのが好ましい。分散媒としては、例えば水等が挙げられる。
【0028】
次いで、得られた分散液を放置して球状体2を自然沈降させ、これにより球状体2が規則正しく配列されているゼリー状物を生成させる。このゼリー状物を空気中にて自然乾燥させて乾燥物を得、この乾燥物を700〜900℃程度の温度で仮焼し、球状体2の三次元配列構造体を得る。この三次元配列構造体を、1,000〜1,300℃程度の温度で25時間〜35時間程度かけて焼成し、これにより規則的に三次元配列している複数の球状体2からなる素焼原石のオパールを得る。
【0029】
得られたオパールにおいて、隣接している球状体2同士は、一部で相互に溶融しあっていてもよい。すなわち、本明細書における「球状体2」は、その形状が明確に球状ではない場合をも含む。したがって、例えば焼成温度が高い場合において、焼成後の隣接している球状体2同士が相互に溶融しあって、シリカのマトリックス中に間隙4のみが略等間隔で存在しているような場合であっても、本発明の効果を奏することができる。
【0030】
なお、間隙4に上述したエルビウムおよびジルコニウムを充填する場合には、まず、焼成前の三次元配列構造体を所定濃度のエルビウム塩水溶液に浸漬し、一度700〜900℃程度の温度で仮焼して仮焼体を得る。
【0031】
次いで、この仮焼体を、ジルコニウムアルコキシドをアルコールで所定濃度に希釈したジルコニウム溶液に浸漬する。ジルコニウム溶液におけるジルコニウムアルコキシドとしては、例えばジルコニウム−n−プロポキシド等が挙げられ、アルコールとしては、例えばn−プロピルアルコール等が挙げられる。
【0032】
次いで、ジルコニウム溶液に仮焼体を浸漬させて構造体内部の間隙4にジルコニウムアルコキシドを含浸させるとともに、該ジルコニウムアルコキシドの加水分解を行う。加水分解は、水70〜90体積%およびアルコール10〜30体積%のアルコール溶液を用いて、3日〜5日程度かけて行うのが好ましい。アルコールとしては、例えばイソプロピルアルコール(IPA)、メタノール、エタノール等が挙げられる。
【0033】
加水分解をした後、仮焼体を自然乾燥させ、次いで、1,000〜1,300℃程度の温度で25時間〜35時間程度かけて焼成し、間隙4にエルビウムおよびジルコニウムが充填された素焼原石のオパールを得る。
【0034】
(金イオン水の作製)
金イオン水は、金箔片を浮遊させた高圧水中で水素と酸素の混合ガスを燃焼させ、その燃焼ガスで金箔片を加熱、溶融することによって得られる。この金イオン水の濃度を調整すると、得られる宝飾部材1の色調を、所望の特定の色調に制御することができる。金イオン水の濃度としては、10〜20,000ppmであるのが好ましい。
【0035】
金イオン水は、市販のものを用いることができ、例えばファイテン社製の「アクアゴールド」等が好適である。また、金イオン水は、金イオン水製造装置を用いて製造することもできる。金イオン水製造装置は、金箔片を浮遊させる高圧水を収容する収容タンクと、水素および酸素の混合ガスを噴射する噴射ノズルと、点火栓および燃焼室を備える耐圧容器と、を備えるのが好ましい。金イオン水製造装置には、水素および酸素の混合ガスを製造する水電気分解装置と、残余の金箔片および金微粒子を除去するろ過装置と、を付設してもよい。
【0036】
金イオン水製造装置を用いて金イオン水を製造する際、混合ガス組成、燃焼状態、金箔片の加熱状態、溶融状態、反応時間等を調節すると、金イオン水中の金の粒子の平均直径を調整することができる。具体的には、混合ガス組成を水素:酸素(体積比)=1〜3:1とするのが好ましく、圧力を2〜4気圧とするのが好ましく、反応時間を0.1時間〜5時間とするのが好ましい。
【0037】
(オパールへの金イオン水の含浸)
まず、得られた金イオン水をバット等の容器内に収容する。容器内の金イオン水の量は、オパール下部が浸漬する程度の量であってもよいし、オパール全体が浸漬する量であってもよいが、コストを削減する上で、オパール下部が浸漬する程度の量であるのが好ましい。
【0038】
次いで、得られた素焼原石のオパールを、金イオン水を収容している容器内に載置する。これにより、毛管現象によって金イオン水がオパールに吸収され、オパールに金イオン水を含浸させることができる。このとき、素焼原石のオパールを、予め80〜120℃程度の温度で30分〜90分程度かけて乾燥させておくと、オパールへの金イオン水の含浸をスムーズに行うことができる。
【0039】
オパールに金イオン水を含浸させる時間としては、0.01時間〜2時間程度が好ましい。この含浸時間を調整すると、得られる宝飾部材1の色調を、所望の特定の色調に制御することができる。
【0040】
オパールへの金イオン水の含浸は、加圧条件下で行ってもよい。これにより、金イオン水がオパールに吸収され易くなる。圧力としては、1.0〜12気圧程度が適当である。宝飾部材1における金3の含有量は、圧力を高くするにつれて高くなる傾向にある。
【0041】
金イオン水の量をオパール下部が浸漬する程度の量にする場合には、オパール全体に金イオン水を含浸させた後、オパールを傾けてオパール上部が金イオン水に浸漬するようにするのが好ましく、この工程を複数回繰り返すのが好ましい。繰り返す回数としては、通常、2回程度が適当である。
【0042】
オパールへの金イオン水の含浸を行った後、金イオン水中の金の定着を行う。定着は、金イオン水を含浸させたオパールを、室温(23℃)で10時間〜14時間程度かけて乾燥させた後、焼付けることによって行う。焼付けは、昇温速度を80〜120℃/時間程度、焼付け温度を650〜850℃程度、焼付け時間を5時間〜7時間程度とするのが好ましい。これにより、隙間4に金3をイオンまたは粒子の状態で定着させることができる。
【0043】
焼付けした後、温度を室温まで下げ、宝飾部材1を得る。このときの降温速度としては、300〜500℃/時間程度であるのが好ましい。
【0044】
得られた宝飾部材1は、ジルコニアを含浸させて焼成する仕上げ処理を行うのが好ましい。これにより、隙間4内に金、ジルコニアおよびシリカ等が混合した焼結体が形成されるので、宝飾部材1中の水を吸う経路を塞ぐことができ、その結果、宝飾部材1の色合いを安定させることができ、かつ宝飾部材1の透明感を向上させることができる。
【0045】
宝飾部材1へのジルコニアの含浸は、ジルコニア濃度が20〜30質量%程度のジルコニア溶液を用いて行うのが好ましい。含浸させる時間としては、5時間〜30時間程度が適当である。
【0046】
また、宝飾部材1にジルコニアを含浸させた後に、加水分解を行うのが好ましい。加水分解は、水70〜90体積%およびアルコール10〜30体積%のアルコール溶液を用いて、3日〜5日程度かけて行うのが好ましい。アルコールとしては、例えばIPA、メタノール、エタノール等が挙げられる。
【0047】
宝飾部材1にジルコニアを含浸させた後に行う焼成は、昇温速度を90〜110℃/時間程度、焼成温度を1000〜1100℃程度、焼成時間を25時間〜35時間程度とするのが好ましい。
【0048】
得られる宝飾部材1は、例えば指輪、ネックレス、イヤリング、ブローチ、ペンダント、宝飾板等の装飾品における宝飾部材として好適に使用することができる。また、宝飾部材1の用途は、例示したこれらの用途に限定されるものではなく、遊色効果に加え、ピンク色ないし金赤色の色調が要求される用途において、好適に使用することができる。
【0049】
以上、本発明にかかる好ましい実施形態について説明したが、本発明は以上の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載の範囲内において、種々の改善や変更が可能である。
【0050】
例えば上述した一実施形態にかかる間隙4には、金3とともに、図示しない銀がさらに配置されていてもよい。これにより、宝飾部材1が遊色効果に加え、橙色ないし金赤色か、この色とピンク色ないし金赤色との混合色の色調を呈するようになる。本明細書において「橙色」とは、黄色に近い橙色を含む色調をいう。
【0051】
銀は、上述した金3で説明したのと同じ理由から、イオンまたは粒子の状態で隙間4に位置しているのが好ましく、含有量が宝飾部材1の総量に対して10〜5,000ppmであるのが好ましく、(平均)直径が球状体2の(平均)直径よりも小さいのが好ましく、平均直径が1〜50nmであるのが好ましい。宝飾部材1の色調は、銀の含有量が少なくなるにつれて濃くなる傾向にある。特に間隙4には、金3および銀とともに、ジルコニウムおよびエルビウムを含む混合物、混晶あるいは非晶質が充填されているのが好ましい。
【0052】
間隙4への銀の配置は、金3の配置と同様にして行えばよい。すなわち、銀イオン水を作製するとともに、得られた銀イオン水をオパールに含浸させればよい。銀イオン水の作製およびオパールへの銀イオン水の含浸はいずれも、上述した金イオン水の作製およびオパールへの金イオン水の含浸と同様にして行えばよい。オパールへの銀イオン水の含浸は、金イオン水とともに行ってもよいし、金イオン水の含浸よりも前か後に行ってもよい。その他の構成は、上述した一実施形態にかかる宝飾部材1と同様である。
【0053】
以下、実施例を挙げて本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0054】
<宝飾部材の製造>
表1中の試料番号1〜21にかかる宝飾部材を製造した。各試料番号にかかる宝飾部材の製造は、次のようにして行った。
【0055】
・試料番号1:下記の試料番号3〜21にかかる宝飾部材と同様にして金イオン水を作製し、溶融石英ガラスであるシリカガラスに金イオンを表1に示す含有量となるように拡散させて宝飾部材を得た。
・試料番号2:下記の試料番号3〜21にかかる宝飾部材と同様にしてオパールを作製し、該オパールからなる宝飾部材を得た。
・試料番号3〜21:オパールおよび金イオン水をそれぞれ作製するとともに、得られたオパールに金イオン水を含浸させて宝飾部材を得た。
【0056】
上述した試料番号1〜21にかかる宝飾部材の具体的な製造方法は、次の通りである。
(オパールの作製)
まず、表1に示す平均直径を有する非晶質珪酸からなる球状体20体積%と、水80体積%とを攪拌混合し、球状体の分散液を得た。表1中の「平均直径」の値は、透過型電子顕微鏡(TEM)によって50,000倍の電子顕微鏡写真を撮影し、写真内に観察される複数の球状体のうち、任意に選定した20個の球状体の直径をそれぞれ測定し、その平均値を算出して得た値である。
【0057】
次いで、得られた分散液を放置して球状体を自然沈降させ、これにより球状体が規則正しく配列されているゼリー状物を生成させた。このゼリー状物を空気中にて自然乾燥させて乾燥物を得、この乾燥物を約800℃の温度で仮焼し、球状体の三次元配列構造体を得た。
【0058】
この三次元配列構造体を濃度3質量%のエルビウム塩水溶液に浸漬し、一度約800℃の温度で仮焼して仮焼体を得た。この仮焼体を、ジルコニウム−n−プロポキシドをn−プロピルアルコールで希釈した濃度20質量%のジルコニウム溶液に浸漬し、構造体内部の間隙にジルコニウム−n−プロポキシドを含浸させるとともに、該ジルコニウム−n−プロポキシドの加水分解を行った。加水分解は、水20体積%およびIPA80体積%のアルコール溶液を用いて4日間かけて行った。
【0059】
加水分解をした後、仮焼体を自然乾燥させ、次いで、約1150℃の温度で約30時間焼成し、母材となる素焼原石のオパールを得た。
【0060】
(金イオン水の作製)
金箔片を浮遊させた高圧水中で水素と酸素の混合ガスを燃焼させ、その燃焼ガスで金箔片を加熱、溶融することによって金イオン水を得た。金イオン水の濃度は、10,000ppmに調整した。
【0061】
金イオン水の作製には、上述した金イオン水製造装置を用いた。このとき、混合ガス組成、圧力および反応時間を表1に示す値にすることによって、金イオン水中の金の粒子を、表1に示す平均直径に調整した。なお、表1中の混合ガス組成の欄における「水素:酸素」は、体積比を示す。また、表1中の「平均直径」の値は、上述した球状体と同様に、TEMを用いて得た値である。
【0062】
(オパールへの金イオン水の含浸)
まず、得られた金イオン水をバット内に収容した。バット内の金イオン水の量は、オパール下部が浸漬する程度の量にした。次いで、得られた素焼原石のオパールを予め100℃の温度で1時間かけて乾燥させた後、金イオン水を収容しているバット内に載置し、毛管現象によってオパールに金イオン水を含浸させた。
【0063】
このとき、含浸の時間および圧力を表1に示す値にすることによって、得られる宝飾部材中の金含有量が表1に示す割合となるように調整した。表1中の「金含有量」は、EPMA(Electron Probe Micro Analysis)によって測定した値である。なお、オパール全体に金イオン水を含浸させた後、オパールを傾けてオパール上部を金イオン水に浸漬させる工程を2回行った。
【0064】
オパールへの金イオン水の含浸を行った後、金イオン水中の金の定着を行った。定着は、金イオン水を含浸させたオパールを、室温(23℃)で約12時間かけて乾燥させた後、焼付けることによって行った。
【0065】
焼付けは、昇温速度を100℃/時間、焼付け温度を750℃、焼付け時間を6時間として行った。焼付け後、温度を400℃/時間の降温速度で室温まで下げ、宝飾部材を得た。得られた宝飾部材について、仕上げ処理を次のようにして行った。
【0066】
仕上げ処理は、宝飾部材にジルコニアを含浸させて焼成することにより行った。具体的には、宝飾部材に対してジルコニア濃度24質量%のジルコニア溶液で12時間〜24時間かけて含浸を行い、加水分解を水20体積%およびIPA80体積%のアルコール溶液を用いて4日間行い、焼成を昇温速度100℃/時間、焼成温度1060℃、焼成時間30時間で行った。
【0067】
<評価>
得られた各宝飾部材について、外観評価を行った。評価方法を以下に示すとともに、その結果を表1に示す。
【0068】
(外観評価)
宝飾部材の外観を評価した。具体的には、遊色効果を呈しているか否か、および特定の色調を呈しているか否かを目視観察によって評価した。特定の色調を呈しているか否かについては、次のようにして判定した。すなわち、色調の淡いものから順に淡いピンク色、ピンク色、濃いピンク色、赤ピンク色、赤色、金赤色および赤褐色から選ばれる1種に該当すれば特定の色調を呈していると判定し、ピンク色、濃いピンク色、赤ピンク色、赤色および金赤色から選ばれる1種に該当すれば鮮やかな特定の色調を呈していると判定した。
【0069】
外観評価の判定基準は以下のように設定した。
○:遊色効果に加えて鮮やかな特定の色調をさらに呈している。
△:遊色効果に加えて特定の色調をさらに呈している。
×:遊色効果および特定の色調のうち、少なくとも一方を満たしていない。
【0070】
【表1】

【0071】
表1から明らかなように、母材がシリカガラスからなる試料番号1の宝飾部材は、特定の色調は呈しているものの、遊色効果を呈していなかった。金を含有していない試料番号2の宝飾部材は、遊色効果は呈しているものの、特定の色調を呈していなかった。これに対し、試料番号3〜21の宝飾部材は、遊色効果に加えて特定の色調をさらに呈していた。特に試料番号3〜21のうち、試料番号4〜8,11〜15,18〜20の宝飾部材は、遊色効果に加えて鮮やかな特定の色調をさらに呈していた。
【実施例2】
【0072】
銀イオン水を作製するとともに、得られた銀イオン水をオパールに含浸させた以外は、上述した実施例1における試料番号6と同様にして試料番号22〜24にかかる宝飾部材を製造した。
【0073】
なお、銀イオン水の作製は、上述した実施例1における金イオン水の作製と同様に、銀箔片を浮遊させた高圧水中で水素と酸素の混合ガスを燃焼させ、その燃焼ガスで銀箔片を加熱、溶融することによって行った。
【0074】
銀イオン水の濃度は、10,000ppmに調整した。銀イオン水の作製には、上述した実施例1における金イオン水製造装置と同様の製造装置を用いた。このとき、混合ガス組成を水素:酸素(体積比)=2:1、圧力を3.5気圧、反応時間を2時間にすることによって、銀イオン水中の銀の粒子を、表2に示す平均直径に調整した。この平均直径の値は、上述した実施例1における球状体と同様に、TEMを用いて得た値である。
【0075】
オパールへの銀イオン水の含浸は、オパールへの金イオン水の含浸後に行うとともに、含浸の時間および圧力を以下に示す値とし、得られる宝飾部材中の銀含有量が表2に示す割合となるように調整した以外は、上述した実施例1におけるオパールへの金イオン水の含浸と同様にして行った。なお、表2中の「銀含有量」は、上述した実施例1における金含有量と同様に、EPMAによって測定した値である。
・試料番号22:含浸の時間を1時間とし、圧力を5気圧とした。
・試料番号23:含浸の時間を0.5時間とし、圧力を5気圧とした。
・試料番号24:含浸の時間を0.5時間とし、圧力を1気圧とした。
【0076】
得られた各宝飾部材について、外観評価を行った。外観評価は、判定基準を以下のように設定した以外は、上述した実施例1と同様にして行った。その結果を、実施例1における試料番号1,2とともに、表2に示す。
○:遊色効果に加えて橙色ないし赤色に近い橙色の色調をさらに呈している。
△:遊色効果に加えて黄色に近い橙色の色調をさらに呈している。
×:遊色効果および特定の色調のうち、少なくとも一方を満たしていない。
【0077】
【表2】

【0078】
表2から明らかなように、試料番号22〜24の宝飾部材は、遊色効果に加えて特定の色調をさらに呈していた。
【符号の説明】
【0079】
1 宝飾部材
2 球状体
3 金
4 間隙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
規則的に三次元配列している非晶質珪酸からなる複数の球状体と、
該複数の球状体が互いに隣接することによって形成されている間隙に位置している金と、
を備える、宝飾部材。
【請求項2】
前記複数の球状体は、単純立方構造、面心立方構造、六方最密構造、体心立方構造、およびこれらが部分的に共存している複合構造から選ばれる少なくとも1種の構造をなすように配列している、請求項1に記載の宝飾部材。
【請求項3】
前記金は、イオンまたは粒子の状態で前記隙間に位置している、請求項1または2に記載の宝飾部材。
【請求項4】
前記金の含有量は、10〜5,000ppmである、請求項1〜3のいずれかに記載の宝飾部材。
【請求項5】
前記球状体の直径は、前記金の直径よりも大きい、請求項1〜4のいずれかに記載の宝飾部材。
【請求項6】
前記球状体の平均直径は、5〜450nmである、請求項1〜5のいずれかに記載の宝飾部材。
【請求項7】
前記金の粒子の平均直径は、1〜50nmである、請求項3〜6のいずれかに記載の宝飾部材。
【請求項8】
前記間隙に位置している銀と、をさらに備える、請求項1〜7のいずれかに記載の宝飾部材。
【請求項9】
非晶質珪酸からなる複数の球状体を規則的に三次元配列させるとともに、前記複数の球状体が互いに隣接することによって形成されている間隙に金を配置させる、宝飾部材の製造方法。
【請求項10】
前記間隙に銀をさらに配置させる、請求項9に記載の宝飾部材の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜8のいずれかに記載の宝飾部材を含む、装飾品。

【図1】
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【公開番号】特開2012−211036(P2012−211036A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−77195(P2011−77195)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(509149530)ファイテン株式会社 (3)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】