説明

実効値測定装置

【課題】周波数が未知の測定対象信号について、より高精度で実効値を測定し得る実効値測定装置を提供する。
【解決手段】測定対象信号S1についての所定数NのサンプリングデータD1(データD2)に対して窓掛け処理を施して窓データD3として出力する窓掛け処理部12と、窓データD3を二乗して二乗データD4として出力する二乗処理部13と、所定数Nの二乗データD4を平均して平均データD6として出力する平均処理部15と、平均データD6の平方根を算出して平方根データD7として出力する平方根算出部16と、平方根データD7に対して窓掛け処理時の減衰分を補正して測定対象信号S1の実効値Drmsとして出力する補正部17とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象信号の実効値を測定する実効値測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の実効値測定装置として、下記の特許文献に記載されている実効値測定装置が知られている。この実効値測定装置は、測定対象信号のサンプリングデータを二乗する二乗回路と、二乗されたサンプリングデータに対してフィルタ処理するRMSディジタルフィルタ(低域通過フィルタ)と、このフィルタ処理されたデータの平方根を算出して実効値として出力する平方根回路とを備えて、周期が未知の測定対象信号についてその周期を知ることなく実効値を測定可能に構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−232250号公報(第4−6頁、第6図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、上記の実効値測定装置には、以下のような解決すべき課題がある。すなわち、実効値の測定精度のさらなる向上が望まれてきているが、この従来の実効値測定装置における現在の測定精度ではこの要望に対応できないという解決すべき課題が存在している。
【0005】
本発明は、上記の課題を解決すべくなされたものであり、周期が未知の測定対象信号について、より高精度で実効値を測定し得る実効値測定装置を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成すべく請求項1記載の実効値測定装置は、測定対象信号についての所定数のサンプリングデータに対して窓掛け処理を施して窓データとして出力する窓掛け処理部と、前記窓データを二乗して二乗データとして出力する二乗処理部と、前記所定数の前記二乗データを平均して平均データとして出力する平均処理部と、前記平均データの平方根を算出して平方根データとして出力する平方根算出部と、前記平方根データに対して前記窓掛け処理時の減衰分を補正して前記測定対象信号の実効値として出力する補正部とを備えている。
【0007】
また、請求項2記載の実効値測定装置は、測定対象信号についての所定数のサンプリングデータを二乗して二乗データとして出力する二乗処理部と、前記二乗データに対して窓掛け処理を施して窓データとして出力する窓掛け処理部と、前記所定数の前記窓データを平均して平均データとして出力する平均処理部と、前記平均データの平方根を算出して平方根データとして出力する平方根算出部と、前記平方根データに対して前記窓掛け処理時の減衰分を補正して前記測定対象信号の実効値として出力する補正部とを備えている。
【0008】
また、請求項3記載の実効値測定装置は、請求項1または2記載の実効値測定装置において、設定されたサンプリング周期で前記測定対象信号をサンプリングして前記サンプリングデータを生成するA/D変換部と、前記A/D変換部によって生成された前記サンプリングデータから前記所定数の前記サンプリングデータを切り出す切り出し部と、前記サンプリング周期を設定するための設定データを入力するための操作部と、前記操作部に対する操作によって入力された前記設定データに基づいて、前記サンプリング周期を前記A/D変換部に設定する制御部とを備えている。
【0009】
また、請求項4記載の実効値測定装置は、請求項1または2記載の実効値測定装置において、設定されたサンプリング周期で前記測定対象信号をサンプリングして前記サンプリングデータを生成するA/D変換部と、前記A/D変換部によって生成された前記サンプリングデータから前記所定数の前記サンプリングデータを切り出す切り出し部と、前記補正部から出力される前記実効値のばらつきの程度に基づいて前記サンプリング周期を決定して前記A/D変換部に設定する制御部とを備えている。
【発明の効果】
【0010】
請求項1記載の実効値測定装置では、測定対象信号についての所定数のサンプリングデータに対して窓掛け処理を実行して窓データとし、この窓データに対して、二乗処理、フィルタリング処理、平均処理および平方根処理という実効値算出のための基本的な処理を施した後、これら処理によって得られた平方根データに対して窓掛け処理時の減衰分を補正する処理を施して、測定対象信号の実効値を算出する。したがって、この実効値測定装置によれば、測定対象信号S1の周期が未知であることに起因して、測定対象信号S1の周期とサンプリング周期とが非同期であっても、窓掛け処理により、所定数のサンプリングデータに含まれる測定対象信号の位相が変動することに起因して発生する誤差を大幅に低減することができる。
【0011】
請求項2記載の実効値測定装置によれば、請求項1記載の実効値測定装置と同様にして、測定対象信号S1の周期が未知であることに起因して、所定数のサンプリングデータに含まれる測定対象信号の波形が変動したとしても、所定数のサンプリングデータに含まれる測定対象信号の位相が変動することに起因して発生する誤差を窓掛け処理によって大幅に低減することができる。
【0012】
また、請求項3記載の実効値測定装置では、操作部に対する操作によって入力された設定データに基づいて、制御部が、サンプリング周期をA/D変換部に設定する。したがって、この実効値測定装置によれば、操作部に対する操作により、A/D変換部のサンプリング周期を変更することができる。したがって、表示部に表示されている測定対象信号の実効値がばらつくなどして、所定数のサンプリングデータに含まれる測定対象信号の波形数が少ないと判断したときには、A/D変換部のサンプリング周期を長くして、含まれる測定対象信号の波形数を増加させることができ、これによって実効値の測定精度の低下を防止することができる。
【0013】
また、請求項4記載の実効値測定装置では、補正部から出力される実効値のばらつきの程度に基づいて、制御部がサンプリング周期を決定してA/D変換部に設定する。したがって、この実効値測定装置によれば、測定対象信号の実効値がばらつくなどして、所定数のサンプリングデータに含まれる測定対象信号の波形数が少ないと制御部が判断したときには、制御部がA/D変換部のサンプリング周期を長くして、含まれる測定対象信号の波形数を自動的に増加させることができ、これによって実効値の測定精度の低下を自動的に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実効値測定装置1,1Aの構成図である。
【図2】実効値演算部3の構成図である。
【図3】実効値演算部3の窓掛け処理部12による窓掛け処理を説明するための波形図である。
【図4】実効値演算部3の二乗処理部13による二乗処理を説明するための波形図である。
【図5】実効値演算部3のLPF14によるフィルタリング処理を説明するための波形図である。
【図6】実効値測定装置1,1Aおよび従来の実効値測定装置で測定される実効値の誤差を示す説明図である。
【図7】実効値演算部3Aの構成図である。
【図8】実効値演算部3Aの二乗処理部13による二乗処理を説明するための波形図である。
【図9】実効値演算部3AのLPF14によるフィルタリング処理を説明するための波形図である。
【図10】実効値演算部3Aの窓掛け処理部12による窓掛け処理を説明するための波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して、本発明に係る実効値測定装置の実施の形態について説明する。
【0016】
最初に、実効値測定装置1の構成について、図面を参照して説明する。
【0017】
実効値測定装置1は、図1に示すように、A/D変換部2、実効値演算部3、操作部4、制御部5および表示部6を備え、入力した測定対象信号S1の実効値Drmsを測定可能に構成されている。
【0018】
A/D変換部2は、A/D変換器およびサンプリングクロック生成部(いずれも図示せず)を備えている。この場合、サンプリングクロック生成部は、制御部5から周期データDtを入力して、この周期データDtで特定される周期でサンプリングクロックを生成する。つまり、サンプリングクロック生成部は、入力した周期データDtに応じてサンプリングクロックの周期を変更可能となっている。A/D変換器は、サンプリングクロック生成部から出力されるサンプリングクロックに同期して、入力している測定対象信号S1をサンプリングしてその振幅を示すサンプリングデータD1を出力する。この構成により、A/D変換部2は、周期(または周波数)および入力タイミングが未知の測定対象信号S1を、この測定対象信号S1とは非同期のサンプリングクロック(測定対象信号S1の周期に対して十分に早い周期のクロック)でサンプリングして、サンプリングデータD1を出力する。
【0019】
実効値演算部3は、一例として、図2に示すように、データ切出し部11、窓掛け処理部12、二乗処理部13、フィルタ処理部14、平均処理部15、平方根処理部16および補正部17を備え、入力したサンプリングデータD1に基づいて、測定対象信号S1の実効値Drmsを算出して出力する。この場合、データ切出し部11は、サンプリングデータD1を入力すると共に、制御部5から入力したデータDpで指定された所定数N(Nは整数)のサンプリングデータD1を切り出してデータD2として出力する。この場合、データ切出し部11は、所定数NのサンプリングデータD1(データD2)を、直前に切り出した所定数NのサンプリングデータD1(データD2)と不連続な状態で切り出す構成でもよいし、連続状態で切り出す構成でもよい。本例では、データ切出し部11は、一例として、連続状態でサンプリングデータD1(データD2)を切り出す。また、データDpで指定される所定数Nは、窓掛け処理部12に予め記憶されている窓掛け処理のための補正データ数と一致するように規定されている。
【0020】
窓掛け処理部12は、入力したデータに対して予め記憶されている窓掛け処理のための所定数N(入力したデータと同数)の補正データDc(図3参照)を用いて窓掛け処理を実行して、補正後のデータを窓データD3として出力する。本例では、窓掛け処理部12は、データ切出し部11から出力されるデータD2を入力すると共に、窓掛け処理のための補正データDcを用いて窓掛け処理を実行して、補正後のデータD2を窓データD3として出力する。この補正データDcとしては、Blackman−Harris窓関数や、Hanning窓関数等の公知の窓関数を用いて窓掛け処理するためのデータを用いている。二乗処理部13は、窓データD3を二乗して、二乗データD4として出力する。フィルタ処理部14は、ローパスフィルタ(例えばカットオフ周波数が数Hz〜百数十Hzに規定されたフィルタ。以下、「LPF14」ともいう)で構成されている。LPF14は、例えば、IIR(無限インパルス応答)フィルタや、FIR(有限インパルス応答)フィルタなどのディジタルフィルタで構成されて、入力したデータに対して、リップル成分を除去するフィルタリング処理を施して出力する。本例では、LPF14は、入力した二乗データD4に対してフィルタリング処理を施して、新たな二乗データD5として出力する。
【0021】
平均処理部15は、所定数Nのデータを入力してそれらの平均を算出し、出力する。本例では、平均処理部15は、所定数Nの二乗データD5を入力してそれらの平均を算出し、平均データD6として出力する。なお、平均を算出する手法としては、入力した全データの総和を全データ数で除算する一般的な平均算出法を採用してもよいし、移動平均法を採用することもできる。平方根処理部16は、開平器で構成されて、入力したデータの平方根を演算して出力する。本例では、平方根処理部16は、平均データD6の平方根を演算して、平方根データD7として出力する。補正部17は、入力したデータ(窓掛け処理したデータ)に対して、窓掛け処理時の減衰分を補正して(減衰前の状態に増幅する補正を行って)出力する。本例では、補正部17は、平方根データD7に対して、窓掛け処理部12での窓掛け処理時のデータ2(所定数NのサンプリングデータD1)に対する窓データD3の減衰分を補正して出力する。これにより、補正部17から出力される補正後のデータは、測定対象信号S1の実効値Drmsを示すデータとなる。
【0022】
操作部4は、A/D変換部2でのサンプリング周期を設定するための設定データDsを選択可能な選択スイッチ(不図示)を備え、選択スイッチに対する操作内容に応じた設定データDsを制御部5に出力する。制御部5は、CPUおよびメモリを備えて構成されて、入力した設定データDsに基づいてA/D変換部2に対するサンプリング周期設定処理を実行する。また、制御部5は、実効値演算部3において算出された実効値Drmsを表示部6に表示させる表示処理も実行する。表示部6は、例えば液晶ディスプレイなどのモニタ装置で構成されて、制御部5から出力された実効値Drmsを数値表示する。なお、表示部6は、モニタ装置に代えて、プリンタなどの印字装置で構成することもできる。
【0023】
次いで、実効値測定装置1による測定対象信号S1についての実効値Drmsの測定動作について説明する。
【0024】
実効値測定装置1では、動作状態において操作部4に対する操作が行われたときには、操作部4が、図1に示すように、操作内容に対応する設定データDsを制御部5に出力する。本例では、操作部4は、設定データDsとして、サンプリング周期を示す周期データDtを制御部5に出力する。制御部5は、周期データDtを入力して、この周期データDtをA/D変換部2に出力することにより(サンプリング周期設定処理を実行することにより)、A/D変換部2でのサンプリング周期を設定する。これにより、A/D変換部2が、設定されたサンプリング周期で測定対象信号S1のサンプリングを開始する。また、制御部5は、実効値演算部3のデータ切出し部11に対してデータDpを出力することにより、切り出すサンプリングデータD1の数を所定数Nに設定する。これにより、A/D変換部2から実効値演算部3へのサンプリングデータD1の出力が開始され、実効値演算部3が、このサンプリングデータD1に基づいて測定対象信号S1の実効値Drmsの演算を開始する。
【0025】
具体的には、実効値演算部3では、まず、データ切出し部11が、図3に示すように、測定対象信号S1のサンプリングデータD1を所定数Nずつ切り出して(分割して)、データD2として順次出力する。この場合、切り出されたデータD2は、測定対象信号S1の分割波形S2についてのデータである。次いで、窓掛け処理部12が、データ切出し部11から出力されるデータD2(所定数NのサンプリングデータD1)を順次入力すると共に、窓掛け処理用の補正データDcを用いてデータD2に対して窓掛け処理を実行して、補正後のデータD2を窓データD3(波形S3を示すデータ)として出力する。なお、図3〜図5では、発明の理解を容易にするため、データD2の切り出し開始および切り出し終了の各タイミングが測定対象信号S1のゼロクロス点に同期(一致)した状態で示しているが、実際には、測定対象信号S1の周期は未知であって、A/D変換部2のサンプリング周期と測定対象信号S1の周期とは非同期であるため、切り出しについての開始および終了の各タイミングは測定対象信号S1のゼロクロス点とは必ずしも一致しない。
【0026】
続いて、二乗処理部13が、所定数Nの窓データD3をそれぞれ二乗して、図4に示す波形S4を表す二乗データD4を出力する。次いで、フィルタ処理部14が、所定数Nの二乗データD4に含まれているリップル成分を除去して、図5に示す波形S5を表すデータを新たな二乗データD5として出力する。続いて、図2に示すように、平均処理部15が、所定数Nの二乗データD5を平均して平均データD6を算出し、平方根処理部16が、この平均データD6の平方根を演算して、平方根データD7として出力する。最後に、補正部17が、平方根データD7に対して窓掛け処理時の減衰分を補正する処理を施して、測定対象信号S1の実効値Drmsとして制御部5に出力する。
【0027】
最後に、制御部5が、実効値演算部3から入力した実効値Drmsを表示部6に表示させる。これにより、実効値測定装置1による実効値Drmsの測定が完了する。なお、実効値演算部3では、実効値Drmsの演算を繰り返し実行して制御部5に出力するため、制御部5は、実効値演算部3から新たな実効値Drmsを入力する都度、表示部6に表示させる。したがって、表示部6には最新の実効値Drmsが表示される。
【0028】
このように、この実効値測定装置1では、切り出された所定数NのサンプリングデータD1(データD2)に対して窓掛け処理を実行して、窓データD3とし、この窓データD3に対して、二乗処理、フィルタリング処理、平均処理および平方根処理という実効値算出のための基本的な処理を施した後、これら処理によって得られた平方根データD7に対して窓掛け処理時の減衰分を補正する処理を施して、測定対象信号S1の実効値Drmsを算出する。したがって、この実効値測定装置1によれば、測定対象信号S1の周期が未知であることに起因して、測定対象信号S1の周期とA/D変換部2でのサンプリング周期とが非同期であっても、窓掛け処理により、所定数NのサンプリングデータD1に含まれる測定対象信号S1の位相が変動することに起因して(言い換えれば、測定対象信号S1に対する切り出し位置の変動に起因して)発生する誤差を大幅に低減することができる。その実験結果(シミュレーション結果)を図6に示す。この図6によれば、窓掛け処理を実行しない従来の実効値測定装置の誤差が約3.6%であるのに対し、本発明に係る実効値測定装置1では、誤差が0.01%未満に大幅に低減されている。
【0029】
また、この実効値測定装置1では、操作部4に対する操作により、A/D変換部2のサンプリング周期を変更することができる。したがって、この実効値測定装置1によれば、表示部6に表示されている測定対象信号S1の実効値Drmsがばらつくなどして、切り出された所定数NのサンプリングデータD1(データD2)に含まれる測定対象信号S1の波形数が少ないと判断したときには、サンプリング周期を長くして、切り出された所定数NのサンプリングデータD1に含まれる測定対象信号S1の波形数を増加させることができ、これによって実効値Drmsの測定精度の低下を防止することができる。逆に、表示部6に表示されている測定対象信号S1の実効値Drmsが殆どばらついていない場合には、切り出された所定数NのサンプリングデータD1に含まれる測定対象信号S1の波形数をより少なくして実効値Drmsの算出周期を短縮してもよいため、サンプリング周期を短くして、切り出された所定数NのサンプリングデータD1に含まれる測定対象信号S1の波形数を減少させることで、実効値Drmsの測定精度を維持しつつ算出周期を短縮することができる(実効値Drmsの更新周期を早めることができる)。
【0030】
なお、本発明は、上記の構成に限定されない。例えば、上記の実効値測定装置1の実効値演算部3では、窓掛け処理の後に二乗処理を行う構成が採用されているが、図7に示すように、二乗処理の後に窓掛け処理を行う構成の実効値演算部3Aを備えて構成することもできる。以下、この実効値演算部3Aを備えた実効値測定装置1Aについて説明する。なお、実効値測定装置1と同一の構成については同一の符号を付して重複する説明を省略する。
【0031】
実効値測定装置1Aは、図1に示すように、実効値演算部3に代えて実効値演算部3Aを備えている点で実効値測定装置1と相違するが、他の構成については同一に構成されている。
【0032】
実効値演算部3Aは、図7に示すように、実効値演算部3と同様にしてデータ切出し部11〜補正部17を備えており、実効値演算部3では、上記したように、窓掛け処理部12が、二乗処理部13およびLPF14の前段に配設されているのに対し、実効値演算部3Aでは、窓掛け処理部12が、二乗処理部13およびLPF14の後段に配設されている。この構成により、実効値演算部3Aでは、二乗処理部13が、データ切出し部11から出力されるデータD2(所定数NのサンプリングデータD1)に対して二乗処理を施して、図8に示す波形S13を表す所定数Nの二乗データD13を出力し、LPF14が、この二乗データD13に対してフィルタリング処理を施して、図9に示す波形S14を表す新たな所定数Nの二乗データD14を出力する。次いで、窓掛け処理部12が、この二乗データD14に対して窓掛け処理のための補正データDcを用いて窓掛け処理を実行して、図10に示す波形S15を表す所定数Nの窓データD15を出力する。続いて、平均処理部15が、所定数Nの窓データD15を平均して、図7に示すように、1つの平均データD6として出力する。その後段では、平方根処理部16および補正部17が実効値演算部3と同様に作動して、最終的に測定対象信号S1の実効値Drmsを算出して出力する。
【0033】
このように、この実効値測定装置1Aにおいても、実効値Drmsの演算に際して窓掛け処理を実行するため、測定対象信号S1の周期が未知であることに起因して、測定対象信号S1とA/D変換部2でのサンプリング周期とが非同期であっても、所定数NのサンプリングデータD1に含まれる測定対象信号S1の位相が変動することに起因して(言い換えれば、測定対象信号S1に対する切り出し位置の変動に起因して)発生する誤差を窓掛け処理によって大幅に低減することができる。その実験結果(シミュレーション結果)を図6に示す。この図6によれば、窓掛け処理を実行しない従来の実効値測定装置(LPF有り)の誤差が約3.6%であるのに対し、本発明に係る実効値測定装置1Aでは、誤差がほぼ0.01%に大幅に低減されている。また、操作部4に対する操作により、A/D変換部2のサンプリング周期を変更することができるため、上記した実効値測定装置1と同様にして、切り出された所定数NのサンプリングデータD1(データD2)に含まれる測定対象信号S1の波形数が少ないと判断したときには、サンプリング周期を長くして、切り出された所定数NのサンプリングデータD1に含まれる測定対象信号S1の波形数を増加させることができる結果、測定精度を向上させることができる。なお、この実効値測定装置1Aでは、窓掛け処理部12の前段にLPF14を配設する構成について上記したが、窓掛け処理部12の後段にLPF14を配設する構成とすることもでき、この構成を採用した場合においても、同様の作用効果を奏することができる。
【0034】
また、上記の実効値測定装置1,1Aでは、LPF14を備えて各実効値演算部3,3Aを構成しているが、サンプリングデータD1に含まれるリップル成分が少ない場合には、LPF14を含めないで各実効値演算部3,3Aを構成することもできる。これにより、装置構成を簡略化することができる。
【0035】
また、上記の実効値測定装置1,1Aでは、操作部4に対する操作により、A/D変換部2のサンプリング周期を変更する構成を採用しているが、制御部5が、実効値演算部3から入力した実効値Drmsのばらつきの程度を判別して、その判別結果(ばらつきの程度)に基づいてサンプリング周期を変更(長くしたり、短くしたり)する構成(この構成では操作部4は不要となる)を採用することもできる。この構成では、例えば、測定対象信号S1の実効値Drmsのばらつきの程度が大きい場合(例えば予め設定された許容範囲を超えてばらついている場合)、制御部5が、切り出された所定数NのサンプリングデータD1に含まれる測定対象信号S1の波形数が少ないと判別して、周期データDtを変更することにより、A/D変換部2のサンプリング周期を長くする。この構成によれば、実効値Drmsのばらつきの程度が大きいときに、所定数NのサンプリングデータD1に含まれる測定対象信号S1の波形数を自動的に増加させることができ、これによって実効値Drmsの測定精度の低下を自動的に防止することができる。
【0036】
また、データ切出し部11が、A/D変換部2から入力したサンプリングデータD1を制御部5から入力したデータDpで指定された所定数Nずつ切り出して、所定数のサンプリングデータD1で構成されるデータD2に分割して順次出力し、その後段に配置された窓掛け処理部12〜平均処理部15が、所定数Nの全データを入力する都度、各処理を実行する構成(バッチ処理の構成)について上記したが、データ切出し部11が、A/D変換部2から入力したサンプリングデータD1を1データずつリアルタイムに所定数N切り出して出力し、その後段に配置された窓掛け処理部12〜フィルタ処理部14が、1データずつリアルタイムに入力しつつ各々の処理を1データに対して順次実行して出力し、平均処理部15が、1データを入力する度に既に入力しているデータとの平均を算出しつつ、所定数N分のデータの平均を算出したときに平均データD6として出力する構成(データ切出し部11〜平均処理部15がリアルタイム処理する構成)を採用することもでき、この構成により、データ切出し部11〜平均処理部15までの処理時間を短縮でき、ひいては実効値Drmsの測定時間を短縮することができる。
【0037】
また、上記の実効値測定装置1,1Aでは、窓掛け処理部12に予め記憶されている窓掛け処理のための補正データ数を固定(一定)としているが、窓掛け処理部12にデータ数の異なる複数の窓掛け処理のための補正データを記憶させておき、これらのうちの1つを任意に選択できる構成とすることもできる。これにより、補正データ数を固定(一定)とした実効値測定装置1,1Aでは、データ切出し部11が切り出すサンプリングデータD1のデータ数も、この補正データ数と同数となる所定数N(一定)とする必要があるため、切り出された所定数NのサンプリングデータD1に含まれる測定対象信号S1の波形数を増加させるためには、サンプリング周期を長くする必要があるが、複数の窓掛け処理のための補正データ(データ数が異なる補正データ)のうちから1つを任意に選択できる構成とした実効値測定装置では、サンプリング周期を固定としたままで、窓掛け処理部12での窓掛け処理のための補正データとしてデータ数の多い補正データを選択し、かつこれに対応してデータ切出し部11が切り出すサンプリングデータD1の所定数Nも増加させることで、データ切出し部11が切り出すサンプリングデータD1(データD2)に含まれる測定対象信号S1の波形数を増加させることができる。また、逆に、窓掛け処理部12での窓掛け処理のための補正データとしてデータ数の少ない補正データを選択し、かつこれに対応してデータ切出し部11が切り出すサンプリングデータD1の所定数Nも減少させることで、データ切出し部11が切り出すサンプリングデータD1(データD2)に含まれる測定対象信号S1の波形数を減少させることができる。
【符号の説明】
【0038】
1,1A 実効値測定装置
3,3A 実効値演算部
11 データ切出し部
12 窓掛け処理部
13 二乗処理部
15 平均処理部
16 平方根処理部
17 補正部
D1 サンプリングデータ
D2 データ
D3 窓データ
D4,D5 二乗データ
D6 平均データ
D7 平方根データ
Dc 補正データ
Drms 実効値
S1 測定対象信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象信号についての所定数のサンプリングデータに対して窓掛け処理を施して窓データとして出力する窓掛け処理部と、
前記窓データを二乗して二乗データとして出力する二乗処理部と、
前記所定数の前記二乗データを平均して平均データとして出力する平均処理部と、
前記平均データの平方根を算出して平方根データとして出力する平方根算出部と、
前記平方根データに対して前記窓掛け処理時の減衰分を補正して前記測定対象信号の実効値として出力する補正部とを備えている実効値測定装置。
【請求項2】
測定対象信号についての所定数のサンプリングデータを二乗して二乗データとして出力する二乗処理部と、
前記二乗データに対して窓掛け処理を施して窓データとして出力する窓掛け処理部と、
前記所定数の前記窓データを平均して平均データとして出力する平均処理部と、
前記平均データの平方根を算出して平方根データとして出力する平方根算出部と、
前記平方根データに対して前記窓掛け処理時の減衰分を補正して前記測定対象信号の実効値として出力する補正部とを備えている実効値測定装置。
【請求項3】
設定されたサンプリング周期で前記測定対象信号をサンプリングして前記サンプリングデータを生成するA/D変換部と、
前記A/D変換部によって生成された前記サンプリングデータから前記所定数の前記サンプリングデータを切り出す切り出し部と、
前記サンプリング周期を設定するための設定データを入力するための操作部と、
前記操作部に対する操作によって入力された前記設定データに基づいて、前記サンプリング周期を前記A/D変換部に設定する制御部とを備えている請求項1または2記載の実効値測定装置。
【請求項4】
設定されたサンプリング周期で前記測定対象信号をサンプリングして前記サンプリングデータを生成するA/D変換部と、
前記A/D変換部によって生成された前記サンプリングデータから前記所定数の前記サンプリングデータを切り出す切り出し部と、
前記補正部から出力される前記実効値のばらつきの程度に基づいて前記サンプリング周期を決定して前記A/D変換部に設定する制御部とを備えている請求項1または2記載の実効値測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−40962(P2013−40962A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−257451(P2012−257451)
【出願日】平成24年11月26日(2012.11.26)
【分割の表示】特願2008−224944(P2008−224944)の分割
【原出願日】平成20年9月2日(2008.9.2)
【出願人】(000227180)日置電機株式会社 (982)
【Fターム(参考)】