説明

室内油汚れ分解装置と室内油汚れ分解方法

【課題】室内の床面や壁面等に付着した油汚れを効果的に分解することができる室内油汚れ分解装置と室内油汚れ分解方法を提供する。
【解決手段】室内の壁面や床面等の表面に設けられ、この壁面や床面等に付着した油汚れを光照射による触媒酸化作用で分解する光触媒と、この光触媒に向けて界面活性剤を含む水分を噴霧する霧化手段とを備えていることとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、室内油汚れ分解装置と室内油汚れ分解方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
住宅等の台所や調理場においては、調理行為に伴って調理に使用される油分が飛散し、壁面や床面等が汚染する。このような油汚れを分解・洗浄する方法のひとつとして、酸化チタンに代表される光触媒を汚染される表面に担持させ、光触媒の触媒酸化作用によって油分を分解する方法が知られている(たとえば、特許文献1参照)。また、別の方法としては、前記の光触媒に水を噴霧、吸着させることによって、油分解反応に寄与する水分、および溶存酸素を補給して、油汚れを分解する方法が知られている(たとえば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平9−47658号公報
【特許文献2】特許第3399682号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前者の方法によれば、光触媒による触媒酸化作用は、光触媒表面に光が照射されることにより発現するが、大量の油汚れが付着すると油分により光が遮断されて触媒酸化作用を発現するのに十分な光量が光触媒表面に到達しない場合があった。このような場合には、触媒酸化作用による分解速度が低下するため、油汚れを十分に分解・洗浄することができない場合があった。また、後者の方法によれば、油汚れの分解を効率よく進めることができるものであるが、大量の油汚れが発生するような環境下では、さらに効果的に油汚れを分解する方法が求められていた。
【0004】
そこで、本願発明は、以上の通りの背景から、室内の床面や壁面等に付着した油汚れを効果的に分解することができる室内油汚れ分解装置と室内油汚れ分解方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願発明は、上記の課題を解決するものとして、第1には、室内油汚れ分解装置として、室内の壁面や床面等の表面に設けられ、この壁面や床面等に付着した油汚れを光照射による触媒酸化作用で分解する光触媒と、この光触媒に向けて界面活性剤を含む水分を噴霧する霧化手段とを備えていることを特徴とする。
【0006】
第2には、上記の室内油汚れ分解装置において、界面活性剤を含む水分は、粒子径1μm以下の微粒子水であることを特徴とする。
【0007】
第3には、上記の室内油汚れ分解装置において、霧化手段は、界面活性剤を含む水分を霧化し帯電微粒子水を発生させる静電霧化装置であることを特徴とする。
【0008】
第4には、室内油汚れ分解方法として、室内の壁面や床面等の表面に設けられた光触媒に向けて界面活性剤を含む水分を噴霧し、壁面や床面等に付着した油汚れを光触媒によって分解することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
上記第1の発明によれば、室内油汚れ分解装置として、室内の壁面や床面等の表面に設けられ、この壁面や床面等に付着した油汚れを光照射による触媒酸化作用で分解する光触媒と、この光触媒に向けて界面活性剤を含む水分を噴霧する霧化手段とを備えていることにより、壁面や床面等に付着した油汚れに界面活性剤を浸透させて、油汚れを形成している油分を薄膜化させることができる。そして、この薄膜化によって、光触媒表面に到達する光量が十分に確保されるとともに光触媒表面と接する油分の面積が拡大されるため、油汚れを効果的に分解することができる。また、以上の光触媒は、光の照射下においてヒドロキシラジカルやスーパーオキサイドイオン等の活性酸素種を発生させて、この活性酸素種により強力な酸化作用を発現させて油汚れを分解しているが、本願発明では前記活性酸素種の発生源である水が光触媒表面に潤沢に供給されるため、光触媒の触媒酸化作用がより効率的に発揮される。したがって、室内の床面や壁面等に付着した油汚れを効果的に分解することができる。
【0010】
上記第2の発明によれば、界面活性剤を含む水分は、粒子径1μm以下の微粒子水であることにより、上記の効果に加え、壁面や床面等に付着した油汚れに界面活性剤をさらに効果的に浸透させて、油汚れを形成している油分を薄膜化させることができる。また、以上の微粒子水が光触媒表面に付着した際には水滴を形成しないため、表面に水漏れを生じさせて不快感や絶縁不良等の不具合を発生させることがない。
【0011】
上記第3の発明によれば、霧化手段は、界面活性剤を含む水分を霧化し帯電微粒子水を発生させる静電霧化装置であることにより、上記の効果に加え、壁面や床面等に付着した油汚れに界面活性剤をより一層効果的に浸透させるとともに光触媒表面に水分を供給することができる。
【0012】
上記第4の発明によれば、室内油汚れ分解方法として、室内の壁面や床面等の表面に設けられた光触媒に向けて界面活性剤を含む水分を噴霧し、壁面や床面等に付着した油汚れを光触媒によって分解することにより、室内の床面や壁面等に付着した油汚れを簡便かつ効果的に分解することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本願発明は上記のとおりの特徴をもつものであるが、以下にその実施の形態について詳しく説明する。
【0014】
本願発明の室内油汚れ分解装置は、室内の壁面や床面等の表面に設けられ、この壁面や床面等に付着した油汚れを光照射による触媒酸化作用で分解する光触媒と、この光触媒に向けて界面活性剤を含む水分を噴霧する霧化手段とを備えている。
【0015】
本願発明における光触媒としては、TiO、ZnO、WO、FeO、ZnS、Pt/TiOなどが例示されるが、特に、入手のしやすさ、コスト等を考慮するとTiO(酸化チタン)が好ましく、室内で使用することを考慮すると、酸素欠陥型酸化チタン、色素増感型酸化チタン、金属担持型酸化チタン等の可視光型光触媒であることがより好ましい。たとえば、酸化チタンの酸素サイトの一部を窒素原子で置換、あるいは酸化チタン結晶の格子間、結晶粒界に窒素原子またはNOxを配してなる、Ti、O、Nの元素で構成されている窒素ドープ型酸化チタンや、これらに助触媒として白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウムなどの白金族金属や、NiOx、RuOx、RhOxなどを担持させたものなどが挙げられる。これらは粉体であってもゾル状のものであってもよい。ゾル状のものとする場合、水分散性であっても、アルコールなどの非水系有機溶媒分散性であってもよい。そして、たとえば、以上の光触媒を含んだ塗料を床面や壁面等に塗布することにより、床面や壁面等の表面に光触媒を設けている。
【0016】
霧化手段で噴霧された界面活性剤を含む水分は、粒子径5μm以下の微粒子水であることが考慮される。これによって、床面や壁面等の表面に設けられた光触媒まで効果的に到達させることができる。特に粒子径を1μm以下の微粒子水とした場合には、光触媒表面に付着した際に水滴を形成することがないため、表面に水漏れを生じさせて不快感や絶縁不良等の不具合を発生させることがないため好ましい。
【0017】
本願発明では、界面活性剤を含む水分が光触媒に到達することで、付着した油汚れに界面活性剤が浸透し、油汚れを形成している油分を薄膜化させている。この薄膜化によって、光触媒表面に到達する光量が十分に確保されるとともに光触媒表面と接する油分の面積が拡大されるため、油汚れを効果的に分解することができる。また、以上の光触媒は、光の照射下においてヒドロキシラジカルやスーパーオキサイドイオン等の活性酸素種を発生させて、この活性酸素種により強力な酸化作用を発現させて油汚れを分解しているが、前記活性酸素種の発生源である水が光触媒表面に潤沢に供給されるため、光触媒の触媒酸化作用がより効率的に作用する。したがって、室内の床面や壁面等に付着した油汚れを効果的に分解することができる。
【0018】
以上の界面活性剤としては、一般的には陰イオン系、非イオン系等の界面活性剤が例示されるが、付着した油汚れに浸透し、油汚れを形成している油分を薄膜化させるものであれば特に制限されるものではない。たとえば、石けんをはじめ各種の洗浄剤に用いられるようなものであってよく、具体的には、高級アルコールやアルキルフェノール等、水酸基をもつ原料に主として酸化エチレン(エチレンオキシド)を付加重合したもの、あるいは後述の実施例で用いたポリオキシエチレンラウリルエーテル等を例示することができる。また、水に対する含有率としては、特に制限するものではなく、たとえば、水に対して界面活性剤の重量固形分が0.5〜5%程度含まれるようにすることが考慮される。
【0019】
界面活性剤を含む水分を噴霧する霧化手段としては、界面活性剤を含む水分をミスト状にして床面や壁面等の表面に設けられた光触媒に向けて放出可能なものであれば、特に制限されるものではなく、一般に市販されているものを用いることができる。たとえば、界面活性剤を含む水分に超音波の振動エネルギーを与え、キャビテーションを発生させることにより、液体の表面張力を減少させて規則的分裂を行うような超音波霧化方式であってもよいし、あるいは静電霧化方式であってもよい。この静電霧化方式とする静電霧化装置は、たとえば、特開2003−79714号公報に記載されているように、界面活性剤を含む水分の液溜め部とキャピラリ電極と高電圧発生部とで構成されており、キャピラリ電極に高電圧を印加することにより静電霧化するようにしている。この静電霧化装置によって霧化することにより、室内の床面や壁面に付着し易い帯電微粒子水とすることができる。したがって、壁面や床面等に付着した油汚れに界面活性剤をより一層効果的に浸透させるとともに光触媒表面に水分を供給することができる。
【0020】
以上の霧化手段の設置場所としては、霧化手段によって霧化された界面活性剤を含む水分が床面や壁面等に到達するような場所であれば制限されるものではない。たとえば、床面や壁面に直接設置してもよいし、室内に給気を行うダクト内に設置してもよい。
【0021】
以下に本願発明の実施例を示すが、本願発明はこれらに制限されるものではない。
【実施例】
【0022】
<実施例1>
テトラエトキシシラン(商品名:エチルシリケート28 コルコート株式会社製)34部にメタノール60部を加え、さらに水3部および0.01Nの塩酸3部を混合し、ディスパーを用いてよく混合し、60℃恒温槽中にて2時間加熱することにより、無機系塗膜のレジンとなる有機ケイ素アルコキシドの加水分解物および部分加水分解物を得た。ここに光触媒であるアナターゼ型酸化チタン(商品名:ST−01 石原産業株式会社製)20部を添加した後に全固形分が5%になるようにメタノールで希釈することによって、光触媒含有無機系塗料を得た。この光触媒含有無機系塗料を脱脂洗浄した亜鉛鋼板にスプレーで20g/m塗布し、150℃1分の条件で乾燥させることにより、表面に光触媒を含有する塗膜を有する亜鉛鋼板(試験用サンプル1)を得た。この亜鉛鋼板を調理場の壁面にシリコンコーキング剤を用いて接着して設置した。
【0023】
また、非イオン系界面活性剤であるポリオキシエチレンラウリルエーテル(商品名:エマルゲン108 花王株式会社製)を重量固形分で1%含む水を粒径10〜100nmの微粒子水として0.5g/h発生させる静電霧化装置を調理場に設置した。
【0024】
なお、参考例として、光触媒含有無機系塗料を塗布しない亜鉛鋼板(試験用サンプル2)を作製し、上記の試験用サンプル1と同様に調理場の壁面に設置した。
【0025】
この状態で1ヶ月間調理場を一般的な使い方で使用し、その使用前後で試験用サンプル1と試験用サンプル2の色差変化を分光測色計(CM−2600d:コニカミノルタ社製)により測定した。
<比較例1>
実施例1において静電霧化装置を調理場に設置しなかった以外は、実施例1と同様である。試験用サンプル1と試験用サンプル2を調理場の壁面に設置し、この状態で1ヶ月間調理場を一般的な使い方で使用し、その使用前後で試験用サンプル1と試験用サンプル2の色差変化を分光測色計(CM−2600d:コニカミノルタ社製)により測定した。
【0026】
以上の結果より、実施例1では、試験用サンプル1の色差は△E=0.6であったのに対し、試験用サンプル2の色差は△E=2.4であった。この値が大きいほど使用前の試験用サンプルに対して着色していることを示しており、試験用サンプル1は試験用サンプル2に比べてあまり着色していないことが確認された。この着色は油汚れによるものであるため、試験用サンプル1の方が試験用サンプル2と比べて効果的に油汚れが分解されていることが確認された。
【0027】
なお、比較例1では、試験用サンプル1の色差は△E=1.9で、試験用サンプル2の色差は△E=2.7であった。試験用サンプル1の方が試験用サンプル2に比べてその値が小さいものの、実施例1の試験用サンプル1と比べるとその値が大きく、油汚れが分解されていないことがわかる。
【0028】
以上、室内の壁面や床面等の表面に設けられ、この壁面や床面等に付着した油汚れを光照射による触媒酸化作用で分解する光触媒と、この光触媒に向けて界面活性剤を含む水分を噴霧する霧化手段とを備えていることにより、壁面に付着した油汚れを効果的に分解することができることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
室内の壁面や床面等の表面に設けられ、この壁面や床面等に付着した油汚れを光照射による触媒酸化作用で分解する光触媒と、この光触媒に向けて界面活性剤を含む水分を噴霧する霧化手段とを備えていることを特徴とする室内油汚れ分解装置。
【請求項2】
界面活性剤を含む水分は、粒子径1μm以下の微粒子水であることを特徴とする請求項1に記載の室内油汚れ分解装置。
【請求項3】
霧化手段は、界面活性剤を含む水分を霧化し帯電微粒子水を発生させる静電霧化装置であることを特徴とする請求項1または2に記載の室内油汚れ分解装置。
【請求項4】
室内の壁面や床面等の表面に設けられた光触媒に向けて界面活性剤を含む水分を噴霧し、壁面や床面等に付着した油汚れを光触媒によって分解することを特徴とする室内油汚れ分解方法。

【公開番号】特開2007−289850(P2007−289850A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−120291(P2006−120291)
【出願日】平成18年4月25日(2006.4.25)
【出願人】(000005832)松下電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】