説明

室内空間の換気量測定方法

【課題】 本発明は、トレーサーガスを十分に吸着、脱離でき、高精度に気中濃度及び換気量を測定できる換気量の測定方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明に係る室内空間の換気量測定方法の第1の構成は、トレーサーガスを用いて室内空間の換気量を測定する方法において、トレーサーガスとしてフッ素系の揮発性有機化合物を放散し、放散したフッ素系の揮発性有機化合物を吸着剤に吸着回収後、化学分析により、室内空間のフッ素系の揮発性有機化合物の気中濃度Cを求め、フッ素系の揮発性有機化合物の放散速度Mと気中濃度Cから換気量Qを算出する室内空間の換気量測定方法であり、
化学分析法が溶媒を用いる溶媒脱離方法であり、かつ溶媒脱離方法で用いる脱離溶媒が、対象とする少なくともヘキサフルオロベンゼン及びオクタフルオロトルエンを含む2種類以上のトレーサーガスについて脱離回収率が70%以上であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トレーサーガスを用いた室内空間の換気量測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の換気量測定方法として、炭酸ガスを用いた屋内換気量測定法(JIS1406)が知られている。しかし、この測定方法は、目安程度の換気量の測定方法に過ぎない。そこで、より高精度で詳細な換気量の測定方法として、PFT(Perfluorocarbon Tracer)法が非特許文献1に提案されている。
【0003】
上記非特許文献1のPFT法は、大気中に存在しないフッ素系の揮発性有機化合物類をトレーサーガスとして、極微量の気中濃度レベルになるように空間(室内)に一定速度で発生させる。定常状態になった時点で、トレーサーガスを吸着剤に吸着させて、その吸着剤から加熱脱離によってトレーサーガスを脱離する。そして、脱離したトレーサーガスを分析して気中濃度を測定することにより、換気量を算出する方法が開示されている。
【0004】
また、一般的にガス成分を吸着させた吸着剤からのガス成分の脱離方法として、加熱脱離法と溶媒脱離法とが、特許文献1(特開2002−357517)に記載されている。加熱脱離方法として、吸着剤を市販の熱脱離チューブ(パーキンエルマー、ゲステル、クロムパック製等)に移し、熱脱離装置に装着し、加熱することによりガスクロマトグラフ(GC)やガスクロマトグラフ/質量分析計(GC/MS)等によって吸着していたガス成分を同定、定量する。溶媒脱離法では、吸着したガス成分を、溶媒として二硫化炭素、メタノールを用いて、抽出・溶出する。次に、溶媒脱離によって溶出された被測定物質を含む溶液は、必要によって濃縮された後、高速液体クロマトグラフ、GC、GC/MS等によって、吸着したガス成分を同定、定量することが開示されている。
【0005】
【非特許文献1】Duets, R. N., Goodrich, R. W., Cote, E.A.,and Wieser, R. F 著、「DetailedDescription and Performance of a Passive Perfluorocarbon Tracer System for Building Ventilation and Air Exchange Measurements」、Measured Air Leakage of Buildings, ASTM STP904、1986年、P.203-264
【特許文献1】特開2002−357517号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
換気量をより高精度に測定しようとすると、室内空気からのガス成分の十分な量の吸着と分析測定前のガス成分の吸着剤からの十分な回収が求められる。しかしながら、非特許文献1に記載の加熱脱離法を用いたPFT法では、加熱脱離用の吸着剤を用いる必要があるが、一般に市販されている加熱脱離用吸着剤(例えばスペルコ製のVOC-TD)は吸着容量が少なく、例えば1日以上の長時間測定を行った場合、十分にガス吸着ができないという問題があり、結果として気中濃度の測定精度が悪くなり、換気量の測定精度も悪いという問題があった。
【0007】
また、PFT法の分析方法として、特許文献1に記載の溶媒脱離法を用いた場合、溶媒脱離用の吸着剤にトレーサーガスを吸着させた後、溶媒で脱離を行なうことになる。この場合、一般に市販されている溶媒脱離用吸着剤(柴田科学、スペルコ製等)には、十分な量のトレーサーガスが吸着できることになるが、特許文献1記載の溶媒である二硫化炭素、メタノールでは、トレーサーガスであるフッ素系の揮発性有機化合物は十分に脱離回収できないという問題があり、結果として気中濃度の測定精度が悪くなり、換気量の測定精度も悪いという問題があった。
【0008】
そこで本発明は、トレーサーガスを十分に吸着回収後、吸着されたトレーサーガスを十分に脱離でき、高精度に気中濃度を測定することにより、精度の高い換気量の測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明に係る室内空間の換気量測定方法の第1の構成は、トレーサーガスを用いて室内空間の換気量を測定する方法において、前記トレーサーガスとしてフッ素系の揮発性有機化合物を放散し、放散した前記フッ素系の揮発性有機化合物を吸着剤に吸着回収後、化学分析により、前記室内空間のフッ素系の揮発性有機化合物の気中濃度を求め、前記フッ素系の揮発性有機化合物の放散速度と気中濃度から換気量を算出する室内空間の換気量測定方法であり、前記化学分析法が溶媒を用いる溶媒脱離方法であり、かつ前記溶媒脱離方法で用いる脱離溶媒が、少なくともヘキサフルオロベンゼン及びオクタフルオロトルエンを含む2種類以上のトレーサーガスについて脱離回収率が70%以上であることを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る室内空間の換気量測定方法の第2の構成は、トレーサーガスを用いて室内空間の換気量を測定する方法において、前記トレーサーガスとしてフッ素系の揮発性有機化合物を放散し、放散した前記フッ素系の揮発性有機化合物を吸着剤に吸着回収後、化学分析により、前記室内空間のフッ素系の揮発性有機化合物の気中濃度を求め、前記フッ素系の揮発性有機化合物の放散速度と気中濃度から換気量を算出する室内空間の換気量測定方法であり、前記化学分析法が溶媒を用いる溶媒脱離方法であり、かつ前記溶媒脱離方法で用いる脱離溶媒が、
【化2】


(式中R、R、R3、、R、Rはそれぞれ、H、CH3、C2H5、C3H7 、C4H9、C5H11、シクロヘキシル、アルケニル、OCH3、ハロゲン、NH2、NO2、CH2OH、からなる群より選ばれた基を表し、R〜Rのうち少なくとも1つは、H以外の基から選ばれる)で示される芳香族炭化水素化合物であることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る室内空間の換気量測定方法の第3の構成は、前記第1又は第2の室内空間の換気量測定方法において、トレーサーガスとなるフッ素系の揮発性有機化合物が、パーフルオロカーボン類であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように、第1の構成の室内空間の換気量測定方法では、トレーサーガスを十分に脱離でき、高精度に気中濃度及び換気量を測定できる。
【0013】
また、第2の構成の室内空間の換気量測定方法では、トレーサーガスは、室内空間に放出されるとともに捕集剤に強く吸着し、脱離溶媒によって、十分に脱離でき、高精度に気中濃度を測定することにより、精度の高い換気量の測定ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明に係る室内空間の換気量測定方法の実施形態について、図を用いて説明する。図1は本実施形態にかかるトレーサーガスを用いた室内空間の換気量測定方法の説明図である。図1(a)は建物の平面図である。図1(b)は空気の移動量を表す建物の概略断面図である。図2(a)は溶媒脱離法におけるGC/MS測定条件を示す図である。図2(b)は加熱脱離法における加熱脱離条件を示す図である。図2(c)は加熱脱離法におけるGC/MS測定条件を示す図である。図3(a)、図3(b)は、それぞれ実施例に該当する溶媒脱離法と比較例に該当する溶媒脱離法および加熱脱離法における脱離回収率の実験結果である。
【0015】
(換気量の測定方法)
PFT(Perfluorocarbon Tracer)法を用いた、より高精度で詳細な換気量の測定方法の実例を以下に示す。図1(a)に示す邸宅1の換気量の測定を行った。邸宅1は、ペントハウスのある2階建の建物であり、1階、2階の部屋の所定の位置に給気口1a、排気口1bが設けられている。邸宅1の室内(換気量を測定する空間)に、2種類の放散源2と吸着剤3を図1(a)で示したように配置した。放散源2は、1階用(M)と2階用(M)とで異なる化合物とすることで、1階および2階それぞれの空間における換気量と家全体の換気量を測定することを目的とした。
【0016】
図1(b)に本実験で想定している換気流れの模式図を示す。図1(b)に示したように1,2階それぞれに設置した2種の放散源のそれぞれの放散速度M及びM(μg/hr)と各階に設置した吸着剤の回収、分析結果から求められる気中濃度CA1、CB1及びCA2、CB2(μg/m)を実測する。得られた放散速度および気中濃度により、トレーサーガスの物質収支に基づく連立方程式から、図1(b)で示した各階と外気及び1、2階間の換気量Q1,O、Q O, 1、Q2,O、Q O,2、Q1,2、Q2,1が算出される。邸宅1全体の換気量Q(m/hr)は、Q1,OとQ2,Oの和として求められる。
【数1】

【0017】
放散源2は、大気中に存在しないトレーサーガスを極微量、一定の放散速度M(μg/hr)で放散する。邸宅1の窓等を閉めた状態にして、放散源2を給気口1aの近くに配置する。そして、所定時間(約1日)放置することで、邸宅1内のトレーサーガスの気中濃度を定常状態とする。
【0018】
放散源2は、1階、2階で異なる種類のものを用いることにより、1階から2階への空気の移動と、2階から1階への空気の移動を測定することができる。同様にして、部屋によって放散源2の種類を変えることで、部屋間での空気の移動を測定することもできる。
【0019】
吸着剤3は、放散源2から放散されたトレーサーガスを吸着する。定常状態となった邸宅1の各部屋の中央に、吸着剤3を配置する。そして、所定時間(約1日〜1ヶ月)放置し、トレーサーガスを十分に吸着し、捕集する。
【0020】
その後、以下に示す化学分析法でトレーサーガスの気中濃度を求める。すなわち、吸着剤3を所定時間(約1時間)、脱離溶剤4に入れ、吸着したトレーサーガスを溶媒中に抽出、溶出して脱離する。トレーサーガスを含む溶液をガスクロマトグラフ質量分析計(GC/MS)等で測定し定量分析して、トレーサーガスの捕集量m(μg)を求める。気中濃度Cは、別途求められた吸着剤3の特性値であるサンプリングレイトk(m/hr)を用いて、吸着時間t(hr)とから、気中濃度C=トレーサーガスの捕集量m(μg)/{サンプリングレイトk(m/hr)×吸着時間t(hr)}(式2)、で求める。
【0021】
そして、放散速度M(μg/hr)と、求められた気中濃度C(μg/m)を、Q=M/C(式3)に代入することにより、邸宅1の換気量Q(m/hr)を測定できる。また、この換気量Q(m/hr)及び邸宅1の気積V(m)から、換気回数N(回/hr)を、N=Q/V(式4)から求めることができる。
【0022】
(吸着剤3)
ここで、吸着剤3について、具体的に説明する。溶媒脱離が可能な吸着剤3として、活性炭系、カーボン系(カーボンモレキュラーシーブ、グラファイトカーボン)、シリカゲル系、ポーラスポリマー系の吸着剤を用いることができる。
【0023】
1.活性炭系の吸着剤としては、1)椰子殻活性炭、2)石油系活性炭、3)アルカリ処理活性炭、がある。2.カーボン系(カーボンモレキュラーシーブ、グラファイトカーボン)の吸着剤としては、1)Carbosieve、2)Carbotrap、3)Carboxen、がある。3.シリカゲル系の吸着剤としては、1)活性シリカゲル、2)シリカゲル、がある。4.ポーラスポリマー系の吸着剤としては、1)TenaxTA、2)Amberlite XAD、3)Chromosorb、がある。
【0024】
(脱離溶剤4)
ここで、脱離溶剤4について、具体的に説明する。脱離溶剤4として、溶媒脱離方法で用いる脱離溶媒の対象とする少なくともヘキサフルオロベンゼン及びオクタフルオロトルエンを含む2種類以上のトレーサーガスの脱離回収率(以下、回収率と略す。)が70%以上である溶媒を用いることができる。このような脱離溶剤4として、トルエン、キシレン等がある。なお、トレーサーガスの回収率R(%)は、吸着剤に添加したトレーサーガス添加量A(μg)と溶媒脱離法または加熱脱離法の実験で求められる定量分析値B(μg)とから、回収率R(%)={定量分析値B(μg)/トレーサーガス添加量A(μg)}×100(式5)、で求める。
【0025】
また、脱離溶剤4として、次式で示される芳香族炭化水素化合物を用いることができる。
【化3】

【0026】
(式中R、R、R3、、R、Rはそれぞれ、H、CH3、C2H5、C3H7 、C4H9、C5H11、シクロヘキシル、アルケニル、OCH3、ハロゲン、NH2、NO2、CH2OH、からなる群より選ばれた基を表し、R〜Rのうち少なくとも1つは、H以外の基から選ばれる)
化合物の例として、トルエン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、クメン、ブチルベンゼン、イソブチルベンゼン、sec−ブチルベンゼン、t−ブチルベンゼン、ペンチルベンゼン、シクロヘキシルベンゼン、キシレン(o、m、p−キシレン及びこれら異性体の混合物)、エチルトルエン、シメン、ブチルトルエン、ジエチルベンゼン、1,2,3−トリメチルベンゼン、1,2,4−トリメチルベンゼン、1,3,5−トリメチルベンゼン、1,2,3,4−テトラメチルベンゼン、1,2,3,5−テトラメチルベンゼン、1,2,4,5−テトラメチルベンゼン、ペンタメチルベンゼン、ヘキサメチルベンゼン、ヘキサエチルベンゼン、スチレン、1−プロペニルベンゼン、イソプロペニルベンゼン、アリルベンゼン、ジビニルベンゼン、フェニルアセチレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、テトラクロロベンゼン、ブロモベンゼン、ブロモフルオロベンゼン、ジブロモベンゼン、トリブロモベンゼン、ヨードベンゼン、ジヨードベンゼン、フルオロトルエン、クロロトルエン、ブロモトルエン、ヨードトルエン、アニソール、ニトロベンゼン、クロロニトロベンゼン、ニトロトルエン、ニトロキシレン、アニリン、トルイジン、キシリジン、ベンジルアルコール等が挙げられる。好ましくは、アルキルベンゼン類、特に好ましくはトルエン、キシレンである。
【0027】
(トレーサーガスの種類)
ここで、トレーサーガスについて具体的に説明する。使用されるトレーサーガスとして、フッ素系の揮発性有機化合物が用いられる。前記フッ素系の揮発性有機化合物は、常温で液体であり、蒸気圧の高いフッ素化有機化合物が好ましく用いられる。さらに好ましくは、パーフルオロカーボン類であり、例えば、パーフルオロベンゼン(ヘキサフルオロベンゼン)、パーフルオロメチルシクロヘキサン、パーフルオロシクロヘキサン、パーフロオロジメチルシクロブタン、パーフルオロジメチルシクロヘキサン、パーフルオロトルエン(オクタフルオロトルエン)、パーフルオロメチルシクロペンタン等が挙げられる。
【0028】
(溶媒脱離法の実験)
ここで、溶媒脱離法を用いた場合のトレーサーガスの回収率の実験について説明する。トレーサーガス(放散源2)として、ヘキサフルオロベンゼン(HFB)、オクタフルオロトルエン(OFT)を用意する。吸着剤3として、活性炭チューブ(柴田科学 チャコールチューブ・ジャンボ型)、吸着粒子が多孔質のポリテトラフルオロエチレンチューブに入っているパッシブサンプラー(スペルコ製 VOC-SD)を用意する。脱離溶剤4として、芳香族炭化水素化合物であるトルエン、キシレン、溶媒脱離法で一般的に用いられる二硫化炭素、ハロゲン系化合物であるジクロロメタン、ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)、脂肪族炭化水素化合物であるヘキサン、シクロヘキサンを用意して以下の添加回収実験に用いた。
【0029】
そして、HFBとOFTのメタノール溶液(1000ppm)からマイクロシリンジを用いて各10μlを各吸着剤3に添加(トレーサーガスの添加量Aとして10μg相当)する。
【0030】
活性炭チューブは添加後すぐにポンプに接続して、5L(1L/分で5分)の清浄空気を流す。VOC-SDは添加後、清浄空気中で5分静置する。
【0031】
清浄空気を流した後、直ちに吸着剤3を全量回収し、各脱離溶剤4を1〜2ml添加する。これにより、得られた抽出液(トレーサーガスを含む溶液)に内部標準(フルオロベンゼン)を10μg添加し、図2(a)の条件でガスクロマトグラフ質量分析計(GC/MS)で測定し、定量分析値B(μg)を求める。
【0032】
(加熱脱離法の実験)
次に、加熱脱離法を用いた場合のトレーサーガスの回収率の実験について説明する。トレーサーガス(放散源2)として、ヘキサフルオロベンゼン(HFB)、オクタフルオロトルエン(OFT)を用意する。吸着剤3として、VOC-SDを用意する。
【0033】
そして、VOC-SDから吸着粒子を取り出して加熱脱離装置用のガラスチューブに全量移す。HFBとOFTのメタノール溶液(20000ppm)からマイクロシリンジを用いて各0.5μlを添加(トレーサーガス10μg相当)する。そして、前記ガラスチューブを加熱脱離装置に装着する。そして、図2(b)の条件で加熱脱離し、図2(c)の条件でガスクロマトグラフ質量分析計(GC/MS)で測定し、定量分析値B(μg)を求める。
【0034】
図3は上記溶媒脱離法、加熱脱離法の実験の結果を示す図である。評価に用いたトレーサーガスは、ヘキサフルオロベンゼン(HFB)、オクタフルオロトルエン(OFT)である。
【0035】
実施例として図3(a)に示すように、溶媒脱離法でトルエン、キシレンを脱離溶剤4に用いた場合には、各吸着剤3に対して式5から求めた回収率Rは70%以上の良好な回収率でトレーサーガスを回収できた。また、この場合でしか、HFBと活性炭チューブ又はパッシブサンプラーの組み合わせで、70%以上の回収率を実現できなかった。なお、回収率が100%を超えたものは、測定誤差である。
【0036】
一方、比較例として図3(b)に示すようにその他の二硫化炭素、ジクロロメタン、HFIP、ヘキサン、シクロヘキサンを溶媒に用いた場合や、加熱脱離法を用いた場合には、いずれかのトレーサーガスと吸着剤3の組み合わせで、低い回収率になったり逆に大きすぎる値を示したりとばらつきが大きく測定精度に問題があった。
【0037】
上記実験から、トルエン、キシレンは、他の脱離溶剤に比べて極めて良好な回収率を実現でき、非常に優れている。溶媒脱離法で脱離溶剤4としてトルエン、キシレンを用いた場合には、いずれのトレーサーガス、吸着剤3の組み合わせであっても良好な回収率を実現できる。従って、建物の換気量の測定において、フロア間、部屋間の空気の移動を測定するために、フロア毎、部屋毎に、トレーサーガスの種類を変えた場合でも、トレーサーガスの種類にあわせて脱離溶剤4を変える必要がない。
【0038】
(換気量の測定実験)
次に、上記溶媒脱離法、加熱脱離法を用いた換気量(換気回数)の測定実験について説明する。トレーサーガス(放散源2)として、ヘキサフルオロベンゼン(HFB)、オクタフルオロトルエン(OFT)を用意する。吸着剤3としてパッシブサンプラー(スペルコ製VOC-SD)を用意する。脱離溶剤4としてトルエンを用意する。
【0039】
図1(a)に示す実際の住宅を用いて換気量測定を行った。本実験に用いた住宅の床面積は1階が64.28m、2階が56.65m、R階(ペントハウス)が4.47mであった。吹抜け部を考慮した延床面積は134.7mとなり、これに天井高2.4mを乗じた値323mをこの住宅全体の気積とした。この住宅に設置されていた換気扇風量は、風量測定器(コーナー札幌社製KNS-300)を用いた実測から、排気扇風量合計が217m/hr、給気扇風量合計が114m/hrであった。風量合計が大きかった排気扇風量が、この住宅全体の換気量の支配的因子と考え、排気扇風量を住宅の気積で除して求めた換気回数は、0.67回/hrであった。次に、トレーサーガスとして、1階用にHFBを2階用にOFTを放散させ、約24時間の養生を行った。そして、気中に放散されたトレーサーガスであるHFBとOFTを吸着剤3を用いて24時間の捕集を行った。
【0040】
その後、吸着剤3をガラスバイアルに全量回収し、脱離溶剤4としてトルエン1mlを加えて1時間静置した。このトルエン溶液をガスクロマトグラフ質量分析計(GC/MS)で定量分析を行う。
【0041】
同様にして、トレーサーガスの捕集を24時間行った後、吸着剤3をガラスバイアルに全量回収し、脱離溶剤4として二硫化炭素1mlを加えて1時間静置した。このトルエン溶液をガスクロマトグラフ質量分析計(GC/MS)で定量分析を行った結果を比較例とした。
【0042】
図4は上記換気量の測定実験の結果を示す図である。図4に示すように、溶媒脱離法でトルエンを脱離溶剤4に用いた場合、定量分析で得られた値を基に式1から式4を用いて換気回数を計算したところ、0.67回/hrであり、換気扇風量の実測値から求めた換気回数とよく一致した。
【0043】
一方、比較例として溶媒脱離法で二硫化炭素を脱離溶剤4に用いた場合、定量分析で得られた値を基に式1から式4を用いて換気回数を計算したところ、1.08回/hrであり、給排気の実測値から求めた換気回数とは一致しなかった。
【0044】
以上説明したように、本発明によれば、トレーサーガスを十分に脱離でき、高精度に気中濃度及び換気量を測定できる。特に、トルエン、キシレンを脱離溶剤として用いて脱離することで、高精度に気中濃度及び換気量を測定できる。
【0045】
また、放散されたトレーサーガスを、活性炭に吸着することにより、トレーサーガスを十分に吸着でき、高精度に気中濃度及び換気量を測定できる。
【0046】
また、放散されるトレーサーガスを、パーフルオロカーボン類とすることにより、トレーサーガスは、捕集剤に強く吸着し、脱離溶媒によって、十分に脱離でき、高精度に気中濃度及び換気量を測定できる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の活用例として、住宅内の状態により変わる必要な換気量を正確に測定する試験に適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本実施形態にかかるトレーサーガスを用いた空間の室内空間の換気量測定方法の説明図並びに換気量測定実験に用いた住宅の平面図である。
【図2】(a)溶媒脱離法におけるGC/MS測定条件を示す図である。(b)加熱脱離法における加熱脱離条件を示す図である。(c)加熱脱離法におけるGC/MS測定条件を示す図である。
【図3】(a)本実施形態にかかる溶媒脱離法におけるヘキサフルオロベンゼン(HFB)及びオクタフルオロトルエン(OFT)の脱離回収率の実験の結果を示す図である。(b)比較例の溶媒脱離法、加熱脱離法におけるヘキサフルオロベンゼン(HFB)及びオクタフルオロトルエン(OFT)の脱離回収率の実験の結果を示す図である。
【図4】(a)実際の住宅の本実施形態における換気回数の測定実験の結果を示す図である。(b)実際の住宅の比較例における換気回数の測定実験の結果を示す図である。
【符号の説明】
【0049】
C…気中濃度、M…放散速度、Q…換気量、V…気積、1…邸宅、1a…給気口、1b…排気口、2…放散源、3…吸着剤、4…脱離溶剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレーサーガスを用いて室内空間の換気量を測定する方法において、前記トレーサーガスとしてフッ素系の揮発性有機化合物を放散し、放散した前記フッ素系の揮発性有機化合物を吸着剤に吸着回収後、化学分析により、前記室内空間のフッ素系の揮発性有機化合物の気中濃度を求め、前記フッ素系の揮発性有機化合物の放散速度と気中濃度から換気量を算出する室内空間の換気量測定方法であり、
前記化学分析法が溶媒を用いる溶媒脱離方法であり、かつ前記溶媒脱離方法で用いる脱離溶媒が、少なくともヘキサフルオロベンゼン及びオクタフルオロトルエンを含む2種類以上のトレーサーガスについて脱離回収率が70%以上であることを特徴とする室内空間の換気量測定方法。
【請求項2】
トレーサーガスを用いて室内空間の換気量を測定する方法において、前記トレーサーガスとしてフッ素系の揮発性有機化合物を放散し、放散した前記フッ素系の揮発性有機化合物を吸着剤に吸着回収後、化学分析により、前記室内空間のフッ素系の揮発性有機化合物の気中濃度を求め、前記フッ素系の揮発性有機化合物の放散速度と気中濃度から換気量を算出する室内空間の換気量測定方法であり、
前記化学分析法が溶媒を用いる溶媒脱離方法であり、かつ前記溶媒脱離方法で用いる脱離溶媒が、
【化1】



(式中R、R、R3、、R、Rはそれぞれ、H、CH3、C2H5、C3H7 、C4H9、C5H11、シクロヘキシル、アルケニル、OCH3、ハロゲン、NH2、NO2、CH2OH、からなる群より選ばれた基を表し、R〜Rのうち少なくとも1つは、H以外の基から選ばれる)で示される芳香族炭化水素化合物であることを特徴とする室内空間の換気量測定方法。
【請求項3】
トレーサーガスとなるフッ素系の揮発性有機化合物が、パーフルオロカーボン類であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の室内空間の換気量測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−10363(P2007−10363A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−188808(P2005−188808)
【出願日】平成17年6月28日(2005.6.28)
【出願人】(303046244)旭化成ホームズ株式会社 (703)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【出願人】(899000068)学校法人早稲田大学 (602)
【Fターム(参考)】