説明

室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物及び気体分離膜

【解決手段】(I)下記(A)成分と(B)成分との縮合反応生成物であるオルガノポリシロキサン、
(A)R3SiO1/2単位及びSiO4/2単位からなり、ケイ素原子に結合したヒドロキシ基を0.02〜0.12mol/100g有するオルガノポリシロキサン、
(B)両末端にヒドロキシ基を有する重合度5,000以上のジオルガノポリシロキサン生ゴム、
(II)ケイ素原子に結合した加水分解性基を1分子中に平均2個以上有するオルガノシラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合物、
(III)溶剤、
(IV)ブランチ構造により表面修飾されたシリカナノ粒子
を含む室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
【効果】本発明によれば、無機ナノ粒子による硬化阻害を起こさず、無機ナノ粒子による気体分離性能を妨げず、かつ補強性充填剤を配合せずに高強度の皮膜を与えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス分離能に優れた皮膜を与える室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物、及び該組成物を硬化させてなる気体分離膜に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ナノテクノロジー研究の一還として、平均粒子径が1nm位から数百nm位までのナノメートルオーダーの粒子径を有する微粒子(ナノ粒子)に関する研究が盛んに行われている。素材をナノサイズ化したナノ粒子では、従来のバルク材料とは異なり、様々な機能・特性を発現・付与できることが知られており、幅広い産業分野での応用が期待されている。ナノ粒子は一次粒子としての製造は可能であるが、その微細さに由来して凝集性が強く、放置しておくとマイクロメートルオーダーの粒子径を有する凝集体となってしまう。例えば、上述したような無機物ナノ粒子を有機成分中に添加した場合、耐熱性の向上や機械的強度の向上が期待できる一方で、無機物粒子はその凝集性の強さから、そのままでは有機溶媒中や高分子マトリクス中でマイクロメートルオーダーの凝集体を形成し、結果として期待したような有機−無機複合材料の特性・性能を得られない可能性がある。このため、一次粒子としての分散性を維持するために、粒子表面に対して均一な化学修飾を行うことが提案されている(例えば、特許文献1:特開2007−99607号公報参照)。
【0003】
加えて現在、無機成分と有機成分をナノレベル又は分子レベルで混ぜ合わせることによって、両者のメリットを相乗的に高めることのできる有機−無機複合材料が注目を集めている。この概念は、エネルギー・環境問題を解決する上でその有用性が注目されている高分子気体分離膜にも適応がなされており、高分子マトリクス中に無機物ナノ粒子を添加した有機−無機複合材料の作製によって、既存の方法では達成できなかった高い機械的強度や熱的安定性、気体透過特性の達成が望まれている。
【0004】
高分子膜の気体透過特性を利用して気体を分離する方法は、気体の相変化を伴わずに気体の分離・回収ができ、他の気体分離法に比べて操作が簡便で装置の小型化が可能であり、また連続的に気体分離を行うことができるため、環境負荷が少ないという特性を有している。このような省エネルギー型の高分子気体分離膜法は、近年、特に温室効果ガスの分離・回収や酸素富化空気の作製、天然ガスの精製技術として注目を集め、実用化が期待されているが、更に気体分離性能及び気体透過量の点での改善が必要とされる。
【0005】
前記したように、高分子膜に無機物ナノ粒子を含有させることにより気体透過特性を改善する試みもなされているが、前記ナノ粒子の凝集の問題は、有機−無機複合気体分離膜の作製においても同様に問題となっており、既存の有機−無機複合気体分離膜では、高分子マトリクス中で無機物ナノ粒子が凝集することにより、膜強度の低下や、高粒子含有率を達成できないことから、気体透過性を数倍程度までしか向上できないことが課題となっている。
【0006】
例えば、高分子膜に無機物ナノ粒子を含有させて気体分離膜特性を改善する方法として、シリカナノ粒子表面をアミノ基含有シランカップリング剤で処理して表面をシリル化し、更にこのシリル化粒子をポリマーで処理することによりポリマーグラフトシリカ粒子を作製し、こうして得られたれポリマーグラフトシリカ粒子をポリマー中に分散させて樹脂膜とし、この膜の気体分離膜としての性能を調べた報告もなされている(非特許文献1:ポリマー(Polymer),47(2006),pp.7535−7547参照)が、気体の透過量等において十分といえる結果は得られていない。
【0007】
本発明者らは、無機ナノ粒子表面に対して嵩高いハイパーブランチ高分子又はデンドリマー高分子を結合させることにより、均一分散性に優れ、気体の気体透過量が大きく改善された気体分離膜を形成することができることを見出している(特許文献2:特開2010−222228号公報参照)。
【0008】
気体透過膜の作製にはマトリクス樹脂が必須である。使用されるマトリクス樹脂としては、例えばポリイミド、ポリスルホン、ポリジメチルシロキサン、ポリ置換アセチレン、ポリ−4−メチルペンテン−1、天然ゴムなど種々のものが挙げられる。しかし、強度、耐久性、耐熱性に優れるポリイミド樹脂は気体透過性が低く、また、気体透過性に優れるポリジメチルシロキサンは一般的に有機ゴム、樹脂に比較して強度の点で劣っているためマトリクス樹脂として簡便に適用できる材料はなかった。
【0009】
本発明者らは、先に特開2004−143331号(特許文献3)において、R3SiO1/2単位(式中、Rは独立に非置換又は置換の炭素原子数1〜6の1価炭化水素基を表す)及びSiO4/2単位からなるオルガノシロキサンと分子鎖両末端が水酸基で封鎖された直鎖状ジオルガノポリシロキサンの縮合物をベースにした縮合硬化型のコーティング組成物を提案している。当該組成物は補強性の充填剤を使用することなく高強度の硬化皮膜を与えることが可能であるが、電気電子用のコーティング剤、防汚性のコーティング剤を目的に開発されたものであり、分離膜のような特定の機能を有する粒子のマトリクス成分としての応用については全く触れられていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2007−99607号公報
【特許文献2】特開2010−222228号公報
【特許文献3】特開2004−143331号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】ポリマー(Polymer),47(2006),pp.7535−7547
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、気体分離能に優れた皮膜を与える室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物、及び該組成物を硬化させてなる気体分離膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
ポリジメチルシロキサンを主鎖とするシリコーンゴムはポリマー間の相互作用が小さいため、一般の有機ゴム、樹脂と比較してポリマー単独での硬化物は強度の点で劣っている。強度を向上させるには補強性シリカ等の補強性充填剤が必須であるが、補強性充填剤の添加は組成物の粘度上昇をもたらし、気体分離膜の膜成形性の低下に繋がる。よって、補強性充填剤を配合したシリコーンゴム組成物を本発明に適用すると、表面に対して嵩高いハイパーブランチ高分子又はデンドリマー高分子を結合させた無機ナノ粒子の添加量の上限が制限されるため、本発明の気体分離膜のマトリクス成分としては適当ではない。
【0014】
両末端にビニル基を有するジオルガノポリシロキサンポリマーとビニルジメチルシロキシ単位及びSiO4/2単位からなるオルガノシロキサンを架橋剤としてヒドロシリル基を有するオルガノポリシロキサン、触媒として白金族触媒を用いた付加硬化型のシリコーンゴム組成物は補強性充填剤を配合せずに高強度の皮膜を与えることができる。しかし、本発明では無機ナノ粒子の表面修飾にアミノ基を有する化合物を用いており、アミノ基を有する化合物は白金族触媒を被毒して硬化阻害を起こすため、やはり本発明の気体分離膜のマトリクス成分としては適当ではない。
【0015】
本発明者らは、マトリクス樹脂について鋭意検討を行ったところ、本発明の無機ナノ粒子と特定の縮合硬化型ポリジメチルシロキサン樹脂をハイブリッドすることで気体分離性能と機械強度に優れ、かつポリジメチルシロキサン本来の性質である耐久性、耐熱性を兼ね備える優れた気体分離膜を与えることを見出し、この知見に基づいて本発明を成したものである。
【0016】
即ち、本発明は下記の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物及び気体分離膜を提供するものである。
〔請求項1〕
(I)下記(A)成分80〜20質量部と(B)成分20〜80質量部(但し、(A),(B)成分の合計は100質量部)との縮合反応生成物であるオルガノポリシロキサン:100質量部、
(A)R3SiO1/2単位(式中、Rは独立に非置換又は置換の炭素原子数1〜6の1価炭化水素基を表す)及びSiO4/2単位からなり、SiO4/2単位1モルに対するR3SiO1/2単位のモル数が0.6〜1.2モルであり、更にR2SiO2/2単位及びRSiO3/2単位(前記各式中、Rは前記の通り)を、SiO4/2単位1モルに対し、それぞれ0〜1.0モルの範囲で有していてもよく、かつケイ素原子に結合したヒドロキシ基を0.02〜0.12mol/100g有するオルガノポリシロキサン、
(B)両末端にヒドロキシ基を有する重合度5,000以上のジオルガノポリシロキサン生ゴム、
(II)ケイ素原子に結合した加水分解性基を1分子中に平均2個以上有するオルガノシラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合物:10〜50質量部、
(III)溶剤:500〜1,500質量部、
(IV)ブランチ構造により表面修飾されたシリカナノ粒子:10〜150質量部
を含む室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
〔請求項2〕
前記(B)成分が、下記一般式(1):
HO−(R12SiO)n−H (1)
(式中、R1は独立に非置換又は置換の炭素原子数1〜10の1価炭化水素基であり、nは5,000以上の整数である。)
で表される直鎖状ジオルガノポリシロキサンである請求項1記載の組成物。
〔請求項3〕
前記(II)成分が、下記一般式(2)で示されるケイ素原子に結合した加水分解性基を1分子中に平均2個以上有するオルガノシラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合物である請求項1又は2記載の組成物。
2aSiX4-a (2)
(式中、R2は非置換又は置換の1価炭化水素基であり、Xは加水分解性基であり、aは0,1又は2を表す。)
〔請求項4〕
前記(II)成分のR2がビニル基である請求項3記載の組成物。
〔請求項5〕
(IV)成分が、シリカナノ粒子の表面を下記一般式(3)
【化1】

(式中、R5はメチル基又はエチル基を表し、R6は−NH−基を介在してもよい炭素原子数1〜5のアルキレン基を表す。)
で表される、末端にアミノ基を有する化合物により処理してシリカナノ粒子表面をアミノ基で修飾し、次いで下記一般式(4)
【化2】

(式中、R7は3価の飽和脂肪族基又は芳香族基を表す。)
で表されるハイパーブランチモノマーを上記アミノ基で修飾されたシリカナノ粒子に作用させることによって得られたものである請求項1乃至4のいずれか1項記載の組成物。
〔請求項6〕
更に、(V)縮合反応触媒を0.1〜5質量部含有する請求項1乃至5のいずれか1項記載の組成物。
〔請求項7〕
(V)縮合反応触媒が、下記一般式(5)で示されるアミノシランカップリング剤である請求項6記載の組成物。
2N−(CH2b−SiR8c(OR93-c (5)
(式中、R8は炭素原子数1〜6の1価炭化水素基であり、R9はメチル基又はエチル基であり、bは1〜3の整数、cは0又は1である。)
〔請求項8〕
請求項1乃至7のいずれか1項記載の組成物を硬化させてなる気体分離膜。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、縮合硬化型のポリジメチルシロキサン組成物をマトリクス樹脂として用いることで無機ナノ粒子による硬化阻害を起こさず、また、オルガノポリシロキサンからなるマトリクス樹脂の気体透過性は一般の有機ゴム、樹脂に比較して高いため無機ナノ粒子による気体分離性能を妨げず、かつ補強性充填剤を配合せずに高強度の皮膜を与える特定の縮合硬化型オルガノポリシロキサンを用いることで無機ナノ粒子の配合量の上限が制約を受けず、高強度のため気体分離膜の成型可能が容易な室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物及び該組成物を硬化させてなる気体分離膜が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】合成例5における表面ハイパーブランチ修飾コロイダルシリカ6(世代数3)のFT−IR測定結果を示した図である。
【図2】表面未修飾コロイダルシリカのFT−IR測定結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明について詳細に説明する。
[(I)成分]
本発明組成物の(I)成分であるオルガノポリシロキサンは、本組成物のベースポリマー(主剤)であり、後述する(A)成分と(B)成分との縮合反応生成物である。
【0020】
<(A)成分>
(A)成分は、R3SiO1/2単位(式中、Rは独立に非置換又は置換の炭素原子数1〜6の1価炭化水素基を表す)及びSiO4/2単位からなり、SiO4/2単位1モルに対するR3SiO1/2単位のモル数が0.6〜1.2モルであり、更にR2SiO2/2単位及びRSiO3/2単位(前記各式中、Rは前記の通り)を、SiO4/2単位1モルに対し、それぞれ0〜1.0モルの範囲で有していてもよく、かつケイ素原子に結合したヒドロキシ基を0.02〜0.12mol/100g有する、三次元網状(樹脂状)構造のオルガノポリシロキサンである。
【0021】
上記Rとしては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;ビニル基、アリル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基等のアルケニル基;フェニル基等のアリール基;クロロメチル基、3−クロロプロピル基、1−クロロ−2−メチルプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基等のハロゲン化アルキル基等が挙げられ、中でもメチル基、ビニル基、フェニル基が好ましく、特にメチル基が好ましい。
【0022】
上記(A)成分のオルガノポリシロキサン自体は、公知の方法により、上記各単位に対応するアルコキシ基含有シラン化合物を有機溶媒中で共加水分解し、縮合させて得ることができる。例えば、R3SiOMeとSi(OMe)4とを、所望により、R2Si(OMe)2及び/又はRSi(OMe)3と共に有機溶媒中で共加水分解し、縮合させればよい(なお、前記各式中、Rは独立に上記の通りであり、Meはメチル基を表す)。
【0023】
上記有機溶媒としては、共加水分解・縮合反応により生成するオルガノポリシロキサンを溶解することのできるものが好ましく、典型的にはトルエン、キシレン、ナフサミネラルスピリット等を挙げることができる。
【0024】
上記(A)成分に係る各単位の含有モル比については、例えば、各単位に対応するシラン化合物の仕込みモル比を調整することによって適宜設定することができる。
【0025】
(A)成分中のSiO4/2単位1モルに対する上記R3SiO1/2単位のモル数は0.6〜1.2モルの範囲とする必要があり、好ましくは0.65〜1.15モルの範囲である。前記モル数が0.6モル未満であると(A)成分の合成中にゲル化等が発生して製造が困難となり、また、1.2モルを超えると本発明組成物から得られる硬化物の強度が不十分なものとなる。なお、上述したように、R2SiO2/2単位、RSiO3/2単位は、SiO4/2単位1モルに対し、それぞれ0〜1.0モル、より好ましくは0〜0.7モル、更に好ましくは0〜0.5モルの範囲で有してもよい。これらの単位が多すぎると、硬化物の機械的強度が低下する。
【0026】
上記(A)成分を共加水分解・縮合反応により調製する際にケイ素原子に結合したヒドロキシ基が生成する。このヒドロキシ基を含有することは、上記(B)成分との縮合反応のために必要とされるが、その(A)成分中の含有量は0.02〜0.12mol/100gとする必要があり、特に好ましくは0.03〜0.10mol/100gである。前記ヒドロキシ基の含有量は、共加水分解・縮合反応条件を調整することにより設定することができる。前記含有量が0.12mol/100gを超えると、本発明組成物から得られる硬化物の硬度が高くなりすぎて、ゴム弾性が損なわれる。また、0.02mol/100g未満では本発明組成物から得られる硬化物の強度が不十分となる。
【0027】
(A)成分の分子量は、2,000〜10,000、特に3,000〜7,000程度であることが好ましい。分子量が小さすぎると目的とする塗膜の伸びが十分得られない場合があり、大きすぎると(B)成分との反応時にゲル化して目的とする縮合反応生成物が得られない場合がある。
【0028】
なお、本発明において、分子量又は重合度は、通常、トルエン等を展開溶媒としたゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)分析におけるポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)あるいは重量平均重合度(Nw)として測定できる。
【0029】
<(B)成分>
上記(A)成分と縮合反応させる(B)成分は、両末端にヒドロキシ基を有する(即ち、分子鎖両末端にヒドロキシジオルガノシロキシ基(HO)R12SiO1/2(R1は独立に非置換又は置換の炭素原子数1〜10の1価炭化水素基である)を有する)重合度5,000以上のジオルガノポリシロキサン生ゴムであり、特に下記一般式(1)
HO−(R12SiO)n−H (1)
(式中、R1は独立に非置換又は置換の炭素原子数1〜10、特に1〜6の1価炭化水素基であり、nは5,000以上の整数である。)
で表される直鎖状ジオルガノポリシロキサンであることが好ましい。
【0030】
上記式(1)中、R1としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;ビニル基、アリル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基等のアルケニル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基;クロロメチル基、3−クロロプロピル基、1−クロロ−2−メチルプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基等のハロゲン化アルキル基等が挙げられ、これらの中でもメチル基が好ましい。
【0031】
上記式(1)中、n(重合度)は5,000以上、好ましくは5,000〜200,000、より好ましくは5,000〜20,000、特に好ましくは6,000〜12,000の整数である。重合度5,000未満では伸びが低下して目的とする高強度が得られず、200,000を超えると組成物の粘度が溶剤希釈しても製膜に適さないほど高くなる場合がある。
【0032】
<(A)成分と(B)成分との縮合反応>
(I)成分のオルガノポリシロキサンは、上記(A)成分80〜20質量部(即ち、(A),(B)成分の合計中80〜20質量%)に対して、上記(B)成分を20〜80質量部(即ち、(A),(B)成分の合計中20〜80質量%)の範囲で用いて縮合反応させることにより得ることができる。上記(A)成分の使用量が20質量%未満であると本発明組成物から得られる硬化物がゴム強度を有するものとはならず、また、80質量%を超えて用いると、得られる硬化物の伸びが低下し、ゴム弾性が損なわれることとなる。なお、(A),(B)成分のより好ましい使用割合は、(A)成分70〜30質量部((A),(B)成分の合計中70〜30質量%)に対して(B)成分30〜70質量部(同じく30〜70質量%)、更に好ましくは(A)成分45〜55質量部(同じく、45〜55質量%)に対して(B)成分55〜45質量部(同じく、55〜45質量%)である。
【0033】
(A)成分と(B)成分との縮合反応においては、縮合反応触媒を用いることが好ましい。前記縮合反応触媒としては、チタン化合物、錫化合物、アミン化合物、アルカリ金属化合物等が挙げられるが、好ましくはアミン化合物であり、具体的には、エチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ブチルアミン、ジエチルアミン、ジブチルアミン、トリエチルアミン、アンモニア水等が例示される。
【0034】
この縮合反応触媒の使用量は、触媒としての有効量であればよく、特に制限されないが、(A)成分と(B)成分の合計100質量部に対して、通常、0.5〜3.0質量部程度でよい。
【0035】
また、縮合反応温度は、特に限定されるものではないが、通常、1〜120℃、好ましくは10〜80℃の範囲とすればよい。反応時間も特に限定されないが、1〜24時間程度で十分である。
【0036】
縮合反応終了後は、可能であれば触媒の除去を行うことが望ましい。アンモニア水を用いた場合はトルエン等の共沸脱水可能な溶媒を用いてエステルトラップで溜去することができる。有機アミンを用いた場合は減圧加熱による除去が有効である。
【0037】
得られた(A)成分と(B)成分との縮合反応生成物は、その分子量が大きく異なるためGPC測定における重量平均分子量(Mw)での判断は困難である。基本的には、好ましくは重量平均分子量2,000〜10,000である(A)成分中のヒドロキシ基が、重合度5,000以上(重量平均分子量370,000以上に相当)の(B)成分が有する両末端ヒドロキシ基に縮合反応した構造を有する。
【0038】
[(II)成分]
本発明組成物の(II)成分は、本組成物の架橋剤として作用するものであり、ケイ素原子に結合した加水分解性基を1分子中に平均2個以上、好ましくは3個又は4個含有するオルガノシラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合物(即ち、1分子中に残存加水分解性基を平均2個以上有するオルガノポリシロキサン)であり、下記一般式(2)で示されるケイ素原子に結合した加水分解性基を1分子中に平均2個以上有するオルガノシラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合物を用いることができる。
【0039】
2aSiX4-a (2)
(式中、R2は非置換又は置換の1価炭化水素基であり、Xは加水分解性基であり、aは0,1又は2、好ましくは0又は1を表す。)
【0040】
上記式(2)中、R2としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;ビニル基、アリル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基等のアルケニル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基;クロロメチル基、3−クロロプロピル基、1−クロロ−2−メチルプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基等のハロゲン化アルキル基等の炭素原子数1〜10、特に1〜6のものが挙げられ、これらの中でもメチル基、ビニル基、フェニル基が好ましく、特には加水分解反応性の高いビニル基が好ましい。
【0041】
ケイ素原子に結合した加水分解性基(上記式(2)中のX)としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等の炭素原子数1〜4、特に1又は2のアルコキシ基、ジメチルケトオキシム基、メチルエチルケトオキシム基、メチルイソブチルケトオキシム基等のジアルキルケトオキシム基、イソプロペノキシ基等の炭素原子数2〜4のアルケノキシ基、アセトキシ基等のアシロキシ基等が例示できる。好ましくは下記式(2a)で示されるケトオキシム基である。
2aSi(O−N=CR344-a (2a)
(式中、R2、aは上記の通り。R3、R4は炭素原子数1〜6のアルキル基、シクロアルキル基といった1価の飽和炭化水素基である。)
【0042】
この(II)成分の具体例としては、例えば、メチルトリス(ジメチルケトオキシム)シラン、メチルトリス(メチルエチルケトオキシム)シラン、エチルトリス(メチルエチルケトオキシム)シラン、メチルトリス(メチルイソブチルケトオキシム)シラン、ビニルトリス(メチルエチルケトオキシム)シラン等のジアルキルケトオキシムシラン;メチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン等のアルコキシシラン;メチルトリイソプロペノキシシラン等のアルケノキシシラン;メチルトリアセトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン等のアセトキシシランなどの各種シラン及びその部分加水分解縮合物が挙げられる。これらは1種単独でも2種以上組み合わせても使用することができる。薄膜での硬化性、臭気等の点から、特にはジアルキルケトオキシムシラン系の加水分解性シラン及びその部分加水分解物、特に好適にはビニルトリスメチルエチルケトオキシムシランが使用される。
【0043】
この(II)成分の配合量は、上記(I)成分100質量部に対して10〜50質量部、好ましくは15〜45質量部の範囲である。前記配合量が10質量部未満では十分な架橋・硬化が生じないため、ゴム弾性を有する硬化物が得られず、また経時で増粘、ゲル化のおそれも生じる。また、50質量部を超えると伸びの低下と硬さの上昇が起こり、結果的に機械的特性に劣るものとなる。
【0044】
[(III)成分]
本発明組成物には、上記(I)及び(II)成分に加えて、更に(III)溶剤が配合される。本配合成分は材料に適度な粘度を与え、気体分離膜の作製時の作業性を調整する効果を有する。本組成物には、通常の縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物に使用される溶剤が好適に用いられる。具体的には、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、イソオクタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、溶剤揮発油等の飽和炭化水素、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、酢酸エチル等のエステル類、オクタメチルシクロテトラシロキサン等の低分子環状シロキサン、イソパラフィン類等が挙げられる。これらは1種を単独で使用しても2種以上の混合物として使用してもよい。
【0045】
この(III)成分の配合量は、上記(I)成分100質量部に対して500〜1,500質量部であり、600〜1,200質量部であることが好ましい。前記配合量が500質量部未満では十分な作業性が得られないことがあり、1,500質量部を超えると生成する塗膜の膜厚が低下し、塗膜強度に劣るものとなることがある。
【0046】
[(IV)成分]
本発明組成物の(IV)成分は表面ブランチ修飾シリカナノ粒子であり、これをマトリクス樹脂に添加することで高い気体透過特性を有した気体分離膜が得られる。
【0047】
本発明において用いられる無機シリカナノ粒子は、ナノオーダーの粒子径(本発明においては、粒子径は平均粒子径である。)を有するものであればよいが、気体透過特性等を考えると、粒子径は通常1〜100nm程度、好ましくは1〜20nm程度、より好ましくは1〜10nm程度である。なお、粒子径は例えばレーザー光回折法による粒度分布測定における累積重量平均径D50(又はメジアン径)等として測定し得る。
【0048】
シリカナノ粒子は、ハイパーブランチモノマー又はデンドリマー形成性モノマーと反応する官能基を有するシランカップリング剤でまず処理されて、シリカナノ粒子の表面に反応性官能基が付加される。シランカップリング剤として、例えば、下記一般式(3)
【化3】


(式中、R5はメチル基又はエチル基を表し、R6は−NH−基を介在してもよい炭素原子数1〜5のアルキレン基を表す。)
で表される、末端にアミノ基を有する化合物を用いてシリカナノ粒子表面をアミノ基で修飾する例を説明する。この処理により、シリカナノ粒子のシラノール基とシランカップリング剤の反応により、シリカの表面にアミノ基が結合される。
【0049】
上記一般式(3)で表される化合物としては、例えば、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。その他の、アミノ基を有するシランカップリング剤としては、例えば、3−(2−アミノエチルアミノ)プロピルトリエトキシシラン、3−(2−アミノエチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン等が代表的なものとして挙げられる。
【0050】
こうして調製された官能基を表面に有するシリカナノ粒子に、ブランチ構造が付加される。例えば、上記で調製された表面アミノ基修飾シリカナノ粒子にハイパーブランチ高分子を付加する方法を、以下に模式的に示す。なお、下記反応式中、ハイパーブランチ高分子付加シリカナノ粒子においては、記載の複雑さを避けるため、シリカと−NH−基との間の−R6−Si(−O−)3基の記載が省略されている。また、シリカナノ粒子上には、多くのアミノ基が存在するが、下記式においてはそのうちの4個を例示として示している。
【0051】
【化4】

【0052】
上記例においては、ハイパーブランチモノマーとして、下記一般式(4):
【化5】


(式中、R7は3価の飽和脂肪族基又は芳香族基を表す。)
で示されるカルボキシル基を1個、アミノ基を2個有する化合物が用いられているが、アミノ基を3個以上有する化合物であってもよいし、R7は3価の飽和脂肪族基、芳香族基以外の3価の基であってもよい。上記一般式(4)で表されるハイパーブランチモノマーの例としては、3,5−ジアミノ安息香酸、3,5−ジアミノ−4−メチル安息香酸等が挙げられる。
【0053】
こうして調製された表面ブランチ修飾シリカナノ粒子に1回以上、好ましくは更に段階的に複数回、特に3〜5回ハイパーブランチモノマーを付加させることで複数の修飾回数(なお、修飾回数を以下、世代又は世代数と称することがある。)、特に世代数3〜5のブランチ修飾シリカナノ粒子となる。修飾回数(又は世代数)は高いほど好ましいが、合成が困難、収率が低下するといった問題点がある。
【0054】
この(IV)成分の配合量は、上記(I)成分100質量部に対して10〜150質量部であり、好ましくは25〜100質量部の範囲である。前記配合量が10質量部未満では気体透過性能の向上が不十分であり、150質量部を超えると生成する気体分離膜の膜強度が低下する。
【0055】
[(V)成分]
本発明組成物には、更に縮合反応触媒を配合してもよい。縮合反応触媒としては、例えば、テトライソプロポキシチタン、テトラブトキシチタン、チタンビスアセチルアセトナート等の有機チタン化合物;テトラメチルグアニジン、テトラメチルグアニジルプロピルトリメトキシシラン等の強塩基類;γ−アミノプロピルトリエトキシシラン等のアミノシランカップリング剤;オクタン酸亜鉛、2−エチルヘキサン酸鉛、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジラクテート、ジオクチル錫ジラウレート、オクタン酸第一錫、ナフテン酸亜鉛、オクタン酸第一鉄等のカルボン酸金属塩等が挙げられる。触媒活性、入手の容易さ等から特に好適に用いられるのは下記一般式(5)で示されるアミノシランカップリング剤であり、代表例はγ−アミノプロピルトリエトキシシランである。
【0056】
2N−(CH2b−SiR8c(OR93-c (5)
(式中、R8は炭素原子数1〜6の1価炭化水素基であり、R9はメチル基又はエチル基であり、bは1〜3の整数、cは0又は1である。)
【0057】
この縮合反応触媒を配合する場合、その配合量は触媒としての有効量でよく、特に限定されないが、上記(I)成分100質量部に対して、通常0.01〜10質量部、好ましくは0.1〜5質量部程度使用される。
【0058】
[組成物の調製]
本発明の組成物は、上記(I)〜(IV)成分及び必要に応じてその他の成分を均一に混合することにより得ることができる。
【0059】
[組成物の用途]
本発明の組成物は、気体分離膜の気体透過特性、気体選択性、特に改質された混合ガスからの水素の選択透過特性、空気中からの酸素の選択透過特性や、温室効果ガスからの二酸化炭素の選択透過特性、天然ガスからのメタンの選択透過特性等に関して顕著に改善された効果を持つ。この要因としては表面ブランチ修飾シリカナノ粒子を含有することからブランチ鎖間に自由体積の形成がなされ、これにより、特に気体透過性は著しく向上する。
【0060】
ここで、本生成物の適用例としては、上述したように、これらの特性に基づいて、改質された混合ガスからの水素の選択透過特性、空気中からの酸素の回収や燃焼系への高濃度酸素の供給、発電所や鉄鋼プラントから排出される温室効果ガスの分離・回収、天然ガスからのメタンの選択透過やバイオガスからのメタン回収等に用いられる。
【0061】
組成物の製膜方法は特に限定されるものではなく、例えば、キャスト、スピンコート、バーコーターによる塗布、スクリーン印刷、スプレーコート、ディップコート、刷毛塗り等、通常の皮膜形成方法が採用されるが、例えば下記のような処方により複合膜を得ることができる。
【0062】
(I)成分を100質量部に対して500〜1,500質量部の(III)成分に溶解した後、この溶液に(I)成分100質量部に対して10〜150質量部の(IV)成分を添加し、1時間の超音波処理を行う。このポリマー溶液を例えば撹拌速度1,200rpmで12時間程度撹拌し、(I)成分100質量部に対して10〜50質量部の(II)成分を加えた後にテフロン(登録商標)シャーレ上にキャストする。このテフロン(登録商標)シャーレを3〜5日間常温で静置し複合膜を得、作製した複合膜は例えば50℃,15時間で真空乾燥を行う。
【0063】
組成物の標準硬化条件は23℃,50%RH×7日程度であるが、通常の室内(例えば、20℃±15℃、25〜80%RH)で2時間程度養生すれば硬化皮膜を得ることができる。また、溶剤の乾燥を速めるため、120℃の乾燥を行えば30分程度で硬化皮膜を得ることができる。
【0064】
なお、成形される気体分離膜の厚みは目的によって異なるが、温室効果ガスの分離・回収を例とすると、60%濃度の二酸化炭素を二段階で99%に濃縮し、回収するためには二酸化炭素透過流量が105(GPU)必要であることが知られている。現状性能の場合、これを達成するためには気体分離膜の厚みを1μm以下とする必要がある。
【実施例】
【0065】
以下、本発明を合成例、実施例及び比較例によって更に詳述するが、本発明はこれによって限定されるものではない。なお、各成分の重合度、分子量は、GPC分析(溶媒:トルエン)におけるポリスチレン換算の重量平均値(重量平均重合度、重量平均分子量)である。
【0066】
[合成例1]((I)成分の未架橋ポリジメチルシロキサンの調製)
温度計、撹拌棒、還流冷却管を備えた四つ口セパラブルフラスコに、(A)成分として(CH33SiO1/2単位及びSiO4/2単位からなり、(CH33SiO1/2単位/SiO4/2単位(モル比)=0.75、ケイ素原子に結合したヒドロキシ基含有量が0.10mol/100gである三次元網状構造のオルガノポリシロキサン(分子量;約3,200)を固形分が60質量%となるようにトルエンに溶解した溶液を1,167gと、(B)成分として重合度約8,000(分子量;約600,000)の両末端シラノール基封鎖の直鎖状ジメチルポリシロキサン300gを均一に撹拌混合した後、アンモニア水5.0gを添加して20℃で12時間縮合反応を行った。次いで、セパラブルフラスコにエステルトラップ管を取り付け、120℃に加熱して共沸脱水を行い、アンモニア、水、トルエンを溜去した。外観無色透明、105℃で3時間乾燥後の不揮発分80質量%である(A)成分と(B)成分の縮合反応物のトルエン溶液を得た。更に得られた溶液200gにトルエンを120g加えて不揮発分質量を50%に調整し、これを(I)成分の未架橋ポリジメチルシロキサンとした。
【0067】
[合成例2](表面3−アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)修飾コロイダルシリカの合成)
【化6】

【0068】
三つ口フラスコ中に4.5gのコロイダルシリカ(粒子径:15nm)、150mLのトルエン、12.6mLの3−アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)を加えて、80℃,24時間の還流を行った。この反応溶液を5,000rpmで1時間遠心分離し、上澄み溶液を破棄した後、この反応溶液から未反応APTESを除くために数度トルエンで粒子の洗浄を行い、表面APTES修飾粒子を得た。回収した表面APTES修飾粒子は80℃,15時間の真空乾燥を行った。
【0069】
[合成例3](表面ハイパーブランチ修飾コロイダルシリカの合成)
【化7】

【0070】
合成例2で作製したAPTES修飾コロイダルシリカは使用前に70℃,12時間の乾燥を行った。この粒子1.2g(TGA測定により算出した質量内訳Silica:1.122g、APTES:0.078g)を予め窒素フローした三つ口フラスコに量り取り、5.9mLの精製したNMPを加えた後、1,200rpmで30分間撹拌、30分間の超音波処理を行い、予め触媒となる0.489gの(2,3−ジヒドロ−2−チオキソ−3−ベンゾオキサゾリル)ホスホン酸ジフェニルと、0.16mLのトリエチルアミンを加えて添加した触媒が完全に溶解するまで撹拌した。続いて、この反応溶液に0.301gの3,5−ジアミノ安息香酸を加えて室温で48時間撹拌した。この時点での表面修飾粒子を表面ハイパーブランチ修飾コロイダルシリカ1(世代数1)とする。
【0071】
48時間の撹拌の後、反応溶液に2.3mLの精製したNMPを加え、触媒となる1.091gの(2,3−ジヒドロ−2−チオキソ−3−ベンゾオキサゾリル)ホスホン酸ジフェニルと、0.33mLのトリエチルアミンを加えて添加した触媒が完全に溶解するまで撹拌した。続いて、この反応溶液に3,5−ジアミノ安息香酸0.602gを加えて室温で48時間撹拌した。この時点での表面修飾粒子を表面ハイパーブランチ修飾コロイダルシリカ2(世代数2)とする。
【0072】
48時間後、反応溶液に4.7mLの精製したNMPを加え、触媒となる2.183gの(2,3−ジヒドロ−2−チオキソ−3−ベンゾオキサゾリル)ホスホン酸ジフェニルと、0.66mLのトリエチルアミンを加えて添加した触媒が完全に溶解するまで撹拌した。続いて、この反応溶液に3,5−ジアミノ安息香酸1.203gを加えて室温で48時間撹拌した。この時点での表面修飾粒子を表面ハイパーブランチ修飾コロイダルシリカ3(世代数3)とする。
【0073】
この反応溶液中から、触媒である(2,3−ジヒドロ−2−チオキソ−3−ベンゾオキサゾリル)ホスホン酸ジフェニルや未反応及び重合した3,5−ジアミノ安息香酸を除くため、遠心分離によって目的物を沈殿させた後、上澄み溶液を破棄し、NMPを加えるという工程を数回繰り返すことで粒子を洗浄し、表面ハイパーブランチ修飾コロイダルシリカを得た。粒子の回収は同様に遠心分離機で行った。また、回収した粒子は120℃,15時間の真空乾燥を行った。
【0074】
[合成例4](表面3−アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)修飾コロイダルシリカの合成)
三つ口フラスコ中に1.5gのコロイダルシリカ(粒子径:10nm)、500mLの2,2,4−トリメチルペンタン、1.58mLの3−アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)を加えて、室温で24時間撹拌を行った。
【0075】
[合成例5](表面ハイパーブランチ修飾コロイダルシリカの合成)
合成例4で作製した反応溶液に200mLのテトラヒドロフラン(THF)、触媒となる1.883gの(2,3−ジヒドロ−2−チオキソ−3−ベンゾオキサゾリル)ホスホン酸ジフェニルと、0.56mLのトリエチルアミンを加えて添加した触媒が完全に溶解するまで撹拌した。続いて、この反応溶液に1.026gの3,5−ジアミノ安息香酸を加えて室温で48時間撹拌した。この時点での表面修飾粒子を表面ハイパーブランチ修飾コロイダルシリカ4(世代数1)とする。
【0076】
48時間の撹拌の後、触媒となる2.217gの(2,3−ジヒドロ−2−チオキソ−3−ベンゾオキサゾリル)ホスホン酸ジフェニルと、0.67mLのトリエチルアミンを加えて添加した触媒が完全に溶解するまで撹拌した。続いて、この反応溶液に3,5−ジアミノ安息香酸1.222gを加えて室温で48時間撹拌した。この時点での表面修飾粒子を表面ハイパーブランチ修飾コロイダルシリカ5(世代数2)とする。
【0077】
48時間後、触媒となる4.435gの(2,3−ジヒドロ−2−チオキソ−3−ベンゾオキサゾリル)ホスホン酸ジフェニルと、1.34mLのトリエチルアミンを加えて添加した触媒が完全に溶解するまで撹拌した。続いて、この反応溶液に3,5−ジアミノ安息香酸2.444gを加えて室温で48時間撹拌した。この時点での表面修飾粒子を表面ハイパーブランチ修飾コロイダルシリカ6(世代数3)とする。
【0078】
この反応溶液中から、触媒である(2,3−ジヒドロ−2−チオキソ−3−ベンゾオキサゾリル)ホスホン酸ジフェニルや未反応及び重合した3,5−ジアミノ安息香酸を除くため、遠心分離によって目的物を沈殿させた後、上澄み溶液を破棄し、NMPを加えるという工程を数回繰り返すことで粒子を洗浄し、表面ハイパーブランチ修飾コロイダルシリカを得た。粒子の回収は同様に遠心分離機で行った。また、回収した粒子は120℃,15時間の真空乾燥を行った。
【0079】
<表面ハイパーブランチ修飾コロイダルシリカのFT−IR測定>
作製した表面ハイパーブランチ修飾コロイダルシリカ6(世代数3)のFT−IR測定結果を図1に、比較として表面未修飾コロイダルシリカのFT−IR測定結果を図2にそれぞれ示す。図1では3,5−ジアミノ安息香酸の三置換ベンゼンのものと思われるピークが1,600cm-1、1,500cm-1付近に確認できた他、APTESと3,5−ジアミノ安息香酸のアミド結合に由来するピークが3,400cm-1、1,500cm-1付近に確認できた。この結果から、表面APTES修飾粒子に対する3,5−ジアミノ安息香酸の付加反応の進行が確認された。
【0080】
[実施例1](ポリジメチルシロキサンと表面ハイパーブランチ修飾コロイダルシリカを用いた有機−無機複合気体分離膜の製膜)
1.5gの合成例1で得られた未架橋ポリジメチルシロキサンを6.921mLのトルエンに溶解した後、このポリマー溶液にポリマーに対する含有量が20質量%となるように、合成例5で得られた表面ハイパーブランチ修飾コロイダルシリカ6(世代数3)を添加し、1時間の超音波処理を行った。このポリマー溶液を撹拌速度1,200rpmで一晩撹拌し、0.25gの架橋剤であるビニルトリスメチルエチルケトオキシムシランとγ−アミノプロピルトリエトキシシランの10:1(質量比)混合物を加えた後にテフロン(登録商標)シャーレ上にキャストした。このテフロン(登録商標)シャーレを数日間常温で静置し複合膜を得た。作製した複合膜は50℃,15時間で真空乾燥を行った。得られた膜の膜厚は500μmであった。
【0081】
<ポリジメチルシロキサン/表面ハイパーブランチ修飾コロイダルシリカ複合気体分離膜の気体透過特性>
上記で得られた複合膜の気体透過測定を行った。測定には、理科精機工業(株)製、K−315N−01Cを用い、測定温度35℃、測定圧力76cmHg、供給気体を酸素、窒素、二酸化炭素として測定を行った。結果を表1に示す。
【0082】
[実施例2](ポリジメチルシロキサンと表面ハイパーブランチ修飾コロイダルシリカを用いた有機−無機複合気体分離膜の製膜)
添加する表面ハイパーブランチ修飾コロイダルシリカとして合成例5で得られた表面ハイパーブランチ修飾コロイダルシリカ4(世代数1)を用いて、実施例1と同様に行い、有機−無機複合気体分離膜を作製した。得られた複合膜の気体透過測定を実施例1と同様にして行った。結果を表1に示す。
【0083】
[比較例1](ポリジメチルシロキサン気体分離膜の製膜)
表面ハイパーブランチ修飾コロイダルシリカの添加量を0質量%とすることを除いて、即ち表面ハイパーブランチ修飾コロイダルシリカを添加することなく、他は実施例1と同様に行い、ポリジメチルシロキサン気体分離膜を作製した。得られた複合膜の気体透過測定を実施例1と同様にして行った。結果を表1に示す。
【0084】
【表1】

【0085】
表1から、表面ハイパーブランチ修飾コロイダルシリカの世代数の増大に伴って複合膜の気体透過係数は増大し、最大で粒子非添加時の約2倍まで気体透過係数を増大したことが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(I)下記(A)成分80〜20質量部と(B)成分20〜80質量部(但し、(A),(B)成分の合計は100質量部)との縮合反応生成物であるオルガノポリシロキサン:100質量部、
(A)R3SiO1/2単位(式中、Rは独立に非置換又は置換の炭素原子数1〜6の1価炭化水素基を表す)及びSiO4/2単位からなり、SiO4/2単位1モルに対するR3SiO1/2単位のモル数が0.6〜1.2モルであり、更にR2SiO2/2単位及びRSiO3/2単位(前記各式中、Rは前記の通り)を、SiO4/2単位1モルに対し、それぞれ0〜1.0モルの範囲で有していてもよく、かつケイ素原子に結合したヒドロキシ基を0.02〜0.12mol/100g有するオルガノポリシロキサン、
(B)両末端にヒドロキシ基を有する重合度5,000以上のジオルガノポリシロキサン生ゴム、
(II)ケイ素原子に結合した加水分解性基を1分子中に平均2個以上有するオルガノシラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合物:10〜50質量部、
(III)溶剤:500〜1,500質量部、
(IV)ブランチ構造により表面修飾されたシリカナノ粒子:10〜150質量部
を含む室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
【請求項2】
前記(B)成分が、下記一般式(1):
HO−(R12SiO)n−H (1)
(式中、R1は独立に非置換又は置換の炭素原子数1〜10の1価炭化水素基であり、nは5,000以上の整数である。)
で表される直鎖状ジオルガノポリシロキサンである請求項1記載の組成物。
【請求項3】
前記(II)成分が、下記一般式(2)で示されるケイ素原子に結合した加水分解性基を1分子中に平均2個以上有するオルガノシラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合物である請求項1又は2記載の組成物。
2aSiX4-a (2)
(式中、R2は非置換又は置換の1価炭化水素基であり、Xは加水分解性基であり、aは0,1又は2を表す。)
【請求項4】
前記(II)成分のR2がビニル基である請求項3記載の組成物。
【請求項5】
(IV)成分が、シリカナノ粒子の表面を下記一般式(3)
【化1】

(式中、R5はメチル基又はエチル基を表し、R6は−NH−基を介在してもよい炭素原子数1〜5のアルキレン基を表す。)
で表される、末端にアミノ基を有する化合物により処理してシリカナノ粒子表面をアミノ基で修飾し、次いで下記一般式(4)
【化2】

(式中、R7は3価の飽和脂肪族基又は芳香族基を表す。)
で表されるハイパーブランチモノマーを上記アミノ基で修飾されたシリカナノ粒子に作用させることによって得られたものである請求項1乃至4のいずれか1項記載の組成物。
【請求項6】
更に、(V)縮合反応触媒を0.1〜5質量部含有する請求項1乃至5のいずれか1項記載の組成物。
【請求項7】
(V)縮合反応触媒が、下記一般式(5)で示されるアミノシランカップリング剤である請求項6記載の組成物。
2N−(CH2b−SiR8c(OR93-c (5)
(式中、R8は炭素原子数1〜6の1価炭化水素基であり、R9はメチル基又はエチル基であり、bは1〜3の整数、cは0又は1である。)
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項記載の組成物を硬化させてなる気体分離膜。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−224777(P2012−224777A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−94690(P2011−94690)
【出願日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【出願人】(305027401)公立大学法人首都大学東京 (385)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】