説明

家屋ユニットの杭基礎

【課題】被災地等においてユニット建物によって仮設住宅を構築する場合に、大型、高重量の重機類、基材を使用せずに、非専門技術者による簡易な作業によって、地盤面に必要十分な強度を備えた基礎を設置することができる家屋ユニットの杭基礎を提供する。
【解決手段】少なくとも四隅に柱5を備えた家屋ユニット3と、各柱の底部を夫々支持する杭基礎20と、を備えたユニット建物1であって、杭基礎は、先部を含む少なくとも一部が地盤100内に打ち込まれる杭部21と、杭部が地盤内に打ち込まれる過程で地盤面と接することにより該杭部の打ち込み深さの限界を定める接地部材30と、杭部の上部、或いは該接地部材から上方へ突設されて各柱の底部に対して固定される連結部材40と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ユニット建物の四隅に位置する柱の底部を地盤に固定するための技術に関し、例えば被災地等において仮設住居用等として利用されるユニット建物を比較的軟弱な地盤面に固定する場合においても垂直方向及び水平方向への支持強度を十分に確保して設置安定性を高めることができる家屋ユニットの杭基礎に関する。
【背景技術】
【0002】
ユニット建物は、工場で製造されてから設置現場に運送され、現場で比較的簡易に設置、組立てできるため、住居、事務所、店舗、倉庫等として多用されている。
特に、箱形に形成されたユニット建物は、4本の柱と上下の梁から成る軸組に対して、底板、天井板、側壁等を組み付けた単純構造を備えており、高耐久性、設置移設の容易性、低コスト、加工、内装及び外装の容易性、ユニット建物間の組付けの容易性等、種々の利点を有している(特許文献1、2、3、4)。
ところで、従来のユニット建物を地震の被災地等に仮設住居用として設置する場合には、基礎工事に際して、地盤の掘削工事、地盤改良、コンクリート基礎の形成、数m〜30m程度の長尺な杭の打ち込みが必要となるため、大型、高重量の重機類、基材や、熟練した作業員が必要となり、工期の長期化やコストアップの原因となる。
仮に、強度、耐久性を犠牲にした簡易、且つ低コストな基礎工事で間に合わせた場合には、余震や風雨に対するユニット建物の設置安定性を確保することが難しくなる。特に、被災地では、十分な人数の熟練した作業人員を確保できず、素人が設置作業に従事することも多々あるため、簡単な道具を用いた素人によっても構築できる十分な強度を有した基礎が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−60005号公報
【特許文献2】特開2006−104890公報
【特許文献3】特開2010−106459公報
【特許文献4】特開平11−93273号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
被災地等においてユニット建物によって仮設住居を構築する場合に、基礎工事に地盤の掘削、地盤改良、コンクリート基礎の形成、長尺な杭の打ち込み等が必要となるとすれば、迅速な被災者救済活動が困難となることが明かである。一方、強度、耐久性を犠牲にした簡易、且つ低コストな基礎工事で間に合わせた場合には、ユニット建物の設置安定性を確保することが難しくなる。
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、被災地等においてユニット建物によって仮設住宅を構築する場合に、大型、高重量の重機類、基材を使用せずに、非専門技術者による簡易な作業によって、地盤面に必要十分な強度を備えた基礎を設置することができる家屋ユニットの杭基礎を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、請求項1の発明は、少なくとも四隅に柱を備えた家屋ユニットの前記各柱の底部を夫々支持する杭基礎であって、先部を含む少なくとも一部が地盤内に打ち込まれる杭部と、該杭部が地盤内に打ち込まれる過程で地盤面と接することにより該杭部の打ち込み深さの限界を定める接地部材と、前記杭部の上部、或いは該接地部材から上方へ突設されて前記各柱の底部に対して固定される連結部材と、を備えていることを特徴とする。
請求項2の発明では、前記接地部材は、前記杭部に対して固定、又は非固定であることを特徴とする。
請求項3の発明では、前記各柱の少なくとも下部は中空であり、その底面には連結穴が形成され、且つその周壁には夫々前記連結穴と連通する作業用開口部が形成されており、前記連結部材は中空であり、その上面には前記連結穴と連結される被連結穴が形成され、且つその周壁には夫々前記被連結穴と連通する作業用開口部が形成されていることを特徴とする。
【0006】
請求項4の発明は、少なくとも四隅に柱を備えた家屋ユニットの前記各柱の底部を夫々支持する杭基礎であって、先部を含む少なくとも一部が地盤に打ち込まれる杭部と、該杭部の上部に固定されて各柱の底部に対して固定される連結部材と、前記各柱の底部と対応する位置に杭部を差し込む位置決め穴を有した位置決めベース部材と、前記杭部が位置決めベース部材の位置決め穴に差し込まれた時に杭部の差込み長を規制するために該杭部の上部に設けられた係止突起と、を備えたことを特徴とする。
請求項5の発明では、前記位置決めベース部材は、前記杭部に対して固定、又は非固定であることを特徴とする。
請求項6の発明では、前記位置決めベース部材は、環状の板材であることを特徴とする。
【0007】
請求項7の発明では、前記接地部材、又は前記位置決めベース部材の上面、又は/及び、底面に補強用のリブが突設されていることを特徴とする。
請求項8の発明では、前記接地部材、或いは前記位置決めベース部材に対する前記連結部材の位置を調整する位置調整機構を備えたことを特徴とする。
請求項9の発明では、前記杭部と前記連結部材は同一軸線上、又は非同一軸線上に配置されていることを特徴とする。
請求項10の発明は、少なくとも四隅に設けた柱、隣接する前記柱の下部間を連結する下梁、及び隣接する前記柱間に配置されて下部を前記下梁に固定された間柱を有した家屋ユニットの前記各柱、及び前記間柱の底部を夫々支持する杭基礎であって、前記間柱を支持する前記杭基礎は、先部を含む少なくとも一部が地盤内に打ち込まれる杭部と、該杭部が地盤内に打ち込まれる過程で地盤面と接することにより該杭部の打ち込み深さの限界を定める接地部材と、前記杭部の上部、或いは該接地部材から上方へ突設されて前記間柱の下部と対応する前記下梁の底部に対して固定される連結部材と、を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
以上のように本発明によれば、家屋ユニットの柱の下部を地盤に固定する基礎工事において、杭部が短尺な簡易構造の杭基礎を使用しているので、運搬に便利であり、被災地等のように十分な重機、機材、専門の作業員を確保することができない状況下においても、比較的容易、且つ短期間に家屋ユニットを地盤に設置することができる。
杭基礎は、杭部を地盤面に打ち込んだときに接地部材が地盤面と接して垂直下向きの荷重を支持するため、家屋ユニットが地盤内に陥没することを防止でき、また杭部が水平方向への荷重を支持することができる。
また、接地部材上における連結部材の固定位置を変更可能に構成することにより、杭部を地盤に打ち込んだ後で、家屋ユニットの柱と連結部材との位置ずれによる不具合(杭部の打ち込み位置の微修正作業)をなくすることができる。
接地部材の上面、或いは下面に補強用のリブを設けても良い。接地部材の下面に設けたリブはアンカー効果を発揮することができる。
【0009】
位置決めベース部材を用いることにより、地盤面に杭部を打ち込む際の位置を測定する必要がなくなり、位置決めベース部材に設けた位置決め穴に各杭基礎を打ち込んでから、連結部材上に柱を正確に位置合わせすることが可能となる。接地部材に対する杭部材の固定位置は、接地部材の中心部に相当する位置でなくてもよい。また、杭部材と連結部材の位置がずれていてもよい。位置決めベースは広い接地面積を確保できるので、垂直方向への加重を支持する面積を拡大して家屋ユニットの設置安定性を高めることができる。
また、複数の柱に跨って適用される位置決めベース部材を用いることにより、地盤の段差に対応して家屋ユニットを安定して設置することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】(a)(b)及び(c)は本発明に係る杭基礎を備えたユニット建物を地盤に設置した状態を一部断面で示す正面図、基礎部の拡大断面図、及び分解斜視図である。
【図2】(a)及び(b)は杭基礎と柱底部との接続構造を説明するための分解斜視図、及び断面図であり、(c)は杭基礎に打撃を加えている状態を示す説明図である。
【図3】(a)及び(b)は他の実施形態に係る杭基礎の構成を示す分解斜視図、及び地盤の打ち込んだ状態を示す断面図である。
【図4】杭基礎の変形実施形態を示す斜視図である。
【図5】柱底部と連結部材との連結構造の他の例を示す断面図である。
【図6】(a)及び(b)は補強用リブを接地部材の下面に突設した状態を示した説明図である。
【図7】(a)及び(b)は本発明の他の実施形態に係る杭基礎を備えたユニット家屋の構成例を示す分解斜視図、設置状態を示す正面図であり、(c)は変形例に係る位置決めベース部材の構成説明図である。
【図8】(a)及び(b)は位置決めベース部材の他の構成例を示す図である。
【図9】杭基礎の他の構成例を示す説明図である。
【図10】(a)及び(b)は本発明の他の実施形態に係る杭基礎構造を備えたユニット建物の一部断面正面図、及び要部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を図面に示した実施の形態に基づいて詳細に説明する。
図1(a)(b)及び(c)は本発明に係る杭基礎を備えたユニット建物を地盤に設置した状態を一部断面で示す正面図、基礎部の拡大断面図、及び分解斜視図であり、図2(a)及び(b)は杭基礎と柱底部との接続構造を説明するための分解斜視図、及び断面図であり、(c)は杭基礎に打撃を加えている状態を示す説明図である。
ユニット建物1は、少なくとも四隅に鋼製角パイプからなる柱5を備えた家屋ユニット3と、各柱5の底部に対して夫々締結具50を用いて固定される杭基礎20と、を概略備えている。
柱5の底部と、杭基礎20は、本発明のユニット建物の基礎構造を構成している。
家屋ユニット3は、四隅に立設された中空四角柱状の柱5と、隣接し合う各柱5の上部間に架設された上梁6と、隣接し合う各柱5の下部間に架設された下梁7と、から構成されている。各柱5と上梁6と下梁7との間に形成される各側面には側板が夫々固定され、底面及び天面には夫々底板及び天板が固定される。
【0012】
杭基礎20は、尖った先端部を含む少なくとも一部が地盤100内に打ち込まれることにより地盤内において主として水平方向への荷重を受ける杭部21と、杭部21が地盤内に打ち込まれる過程で地盤面100aと接することにより杭部の打ち込み深さの限界を定め、且つ地盤面と接することにより垂直方向への荷重を受ける接地部材30と、杭部21の上部、或いは接地部材30から上方へ突設されて各柱5の底部に対して締結具50によって固定される連結部材40と、を備えている。
本例では、四角形状の平板である接地部材30はその中央部下面を杭部21の上部に一体化され、連結部材40は杭部21の軸方向延長上にある設置部材30の上面に固定されている。杭部21と連結部材40が同一軸心状に配置されていることにより、柱5から連結部材40を経由して杭部21に加わる各種応力を効率的に杭部21が受けて支持することができる。
杭基礎20は、鉄鋼等の金属材料から構成されている。杭部21は、四角柱状(その他の多角形、或いは円柱状等々任意の断面形状でよい)の本体22と、本体22の先端部に一体化された尖端部23と、を備える。本例では杭部21の一辺の幅は30mm程度、長さは1m程度である。
【0013】
接地部材30は、杭部21の上端部に溶接等によって一体化された平板状の部材であり、下面で地盤面100aと接することにより、家屋ユニット3の重量によって杭基礎20が必要以上に地盤内に埋没することを防止するために必要十分な面積を備える。
連結部材40は、杭部21の上端部に相当する接地部材30の上面に固定されており、柱5の平坦な底面を支持し易いように連結部材の上面は平坦状に構成されている。
本実施形態では、中空四角柱状の柱5の底面には連結穴6が形成され、中空四角柱状の連結部材40の上面には連結穴6と締結部材50を介して連結される被連結穴41が形成されている。更に、柱5の下部周壁には連結穴6と連通する作業用開口部9が形成されると共に、連結部材40の周壁には被連結穴41と連通する作業用開口部42が形成されている。本例では、柱5及び連結部材40の各4つの周壁に、夫々作業用開口部9、42が形成されている。
【0014】
締結具50としては、例えばツイストロック、ワンサイドボルト等を用いる。ツイストロックを用いる場合には連結穴6、及び被連結穴41を長方形状の開口とする。ツイストロック51は、例えば図2に示すように軸部材52と、軸部材の一端部に固定され連結穴6及び被連結穴41に挿通可能な固定係止片53と、軸部材の他端に回動自在に軸支され且つ連結穴6及び被連結穴41に挿通可能な可動係止片54と、を備える。ツイストロック51を用いて柱底部と連結部材40とを連結する場合には、連結穴6と被連結穴41とが連通状態となるように連結部材上面に柱底面を位置合わせした状態で、柱5に形成した作業用開口部9からツイストロック50を柱内部に差し込んでから固定係止片53を連通状態にある連結穴6及び被連結穴41の内部に差し込む。固定係止片53を連結部材の内部に入り込ませた後で、可動係止片54を90度回動させてロックすることにより、連結穴及び被連結穴から固定係止片53が脱落することなく柱と連結部材とが一体化される。
ワンサイドボルトを用いた締結作業も、作業用開口部を利用して行われる。
ユニット建物1を地盤100上に設置する工事においては、まず、家屋ユニット3の4本の柱5の底面に相当する地盤面に、接地部材30の下面が地盤面と接するように杭基礎20の杭部21を打ち込み、その後、各杭基礎20の連結部材上面に各柱底面が一対一で対応するように、クレーン等を用いて家屋ユニット3を移載する。この状態で、締結具50を用いて各柱底部と各連結部材とを連結一体化する。
【0015】
このような簡易な作業によって、ユニット建物1の地盤への設置が完了する。
或いは、クレーン等によって家屋ユニット3を空中に保持した状態で、各柱5の底部に杭基礎20を固定し、この状態で地盤面に家屋ユニットを下降させて杭部21を地盤内に打ち込むようにしてもよい。この場合には、杭基礎を地盤に固定してから、クレーン等により吊った家屋ユニットの各柱底部を各連結部材上に位置あわせして固定するという作業がなくなり、便利である。
本発明の杭基礎20にあっては、杭部21が1m〜2m程度と比較的短尺であるため、非熟練者によっても、大型ハンマー等があれば打ち込みが十分に可能であり、杭打ち用の機械や専門技術は不要である。大型ハンマーによって杭基礎を打ち込む場合には、連結部材40に直接打撃を加えても良いが、図2に示すように鉄鋼などからなる打撃用カバー45を連結部材40に被せた上で打撃用カバー及び接地部材30を介して杭部21に打撃が伝わるようにするのが好ましい。
【0016】
また、地盤の硬さを示すN値が3程度の軟弱な地盤であっても、地盤に打ち込まれた杭部21によって水平方向への応力に対する支持力を十分に維持することができる。
また、接地部材30はその下面で地盤面と接することにより、家屋ユニット3の垂直荷重を分散して支持することができる。
なお、上記実施形態では、本発明の杭基礎からなる基礎構造を適用可能な家屋ユニット3として、四隅に柱5を有したタイプを例示したが、本発明は5本以上の柱を有した家屋ユニットに対しても適用できることは言うまでもない。
【0017】
次に、図3(a)及び(b)は他の実施形態に係る杭基礎の構成を示す分解斜視図、及び地盤の打ち込んだ状態を示す断面図である。
なお、図3に示すように杭部21と連結部材40を予め一体的に製造し、杭部と連結部材との境界部分に溶接によって接地部材30を固定してもよい。この場合、接地部材30の中央部に、杭部21の本体22を挿通可能な四角形の挿通穴31を形成し、この挿通穴内に杭部の本体22を挿通した状態で両者を溶接により一体化する。また、接地部材30を位置決めするための係止突起(フランジ部)24を杭部の上部外周に設けて、接地部材30を位置決めした上で溶接してもよい。
或いは、杭部の係止突起24に対して接地部材30を固定せずに家屋ユニット3の重量によって接地部材30を地盤面100aに圧接するようにしてもよい。
【0018】
このように工場において予め杭部21、及び連結部材40と一体化すると共に、別体構造の接地部材30を現場で杭部に挿通するようにしても良い。即ち、杭部の上部外周適所に接地部材を係止する係止突起24を設けておき、接地部材に設けた挿通穴内に杭部をその尖端側から挿通した際に係止突起24によって接地部材が係止されるように構成する。この場合、接地部材を杭部(係止突起)に対して溶接により固定してもよいし、固定しなくてもよい。接地部材を杭部に固定しない場合には、杭部に対して着脱自在であり、杭部を接地部材の挿通穴31に挿通した状態で地盤面に打ち込むことにより、係止突起24と地盤面との間で接地部材を挟圧保持することとなる。
このように接地部材と杭部とを固定しない場合には、杭基礎を2つのパーツに分けて運搬することができるため、取扱性が高まる。また、杭部に対して接地部材を溶接等によって固定しない場合には溶接作業を省略することができ、製造手数、製造コストを低減できる。
【0019】
次に、図4は本発明の杭基礎の変形例を示す斜視図である。
この杭基礎20は、接地部材30に対して連結部材40を着脱自在、或いは位置変位自在に構成した点が特徴的である。
連結部材40には外周から鍔状に張り出した被固定板43が一体化されており、被固定板43の適所、本例では四隅に取付け穴43aが貫通している。一方、接地部材30側には各取付け穴43aと対応する位置に十字状の穴30aが貫通形成されており、ボルト(例えば、高テンションボルト)44を取付け穴43aと穴30aに挿通してナットにより締結することにより、連結部材40を接地部材30に固定できる。杭部21を地盤面に打ち込んだ後で、各連結部材の上面を家屋ユニットの柱底部と位置合わせする際に微妙に位置が合わない場合には、ナットを緩めて十字の穴30aに沿ってボルト44の位置を移動させることにより、各連結部材の上面を家屋ユニットの柱底部と位置合わせが可能となる。
取付け穴43aの形状は十字に限定されるものではなく、多様な方向へ連結部材40の位置を調整できる形状であればよい。
取付け穴43aとボルト44とナットは、連結部材の位置を調整する位置調整機構を構成している。
なお、接地部材に対する連結部材の位置を微調整するための上記構造は、他の実施形態における接地部材と連結部材との関係にも適用することができる。
【0020】
次に、図5は柱底部と連結部材との連結構造の他の例を示す断面図であり、この例に係る連結部材40は上面が開放した四角柱であり、連結部材40の上面開口内に柱5の下部が嵌合し得るように寸法設定されている。連結部材の周壁と柱下部の周壁には夫々互いに連通する連結穴9、43が形成されており、両連結穴9、43内に、ワンサイドボルト56等の締結具を挿着して両部材を固定する。ワンサイドボルト56はその一端部を両連結穴9、43内に外部から差し込んだあとで他端部を操作することにより、一端部に設けた拡開片が外径方向へ突出して連結穴9、43から抜け落ちることがないように固定される。
次に、接地部材を補強するリブをその上面、或いは下面に設けても良い。図6(a)(b)は補強用リブ35を接地部材30の下面に突設した状態を示しており、リブ35の先端をV字状に尖らせることにより、地盤面に食い込むアンカー効果によって水平方向への位置ずれを防止する効果を期待することができる。
【0021】
次に、図7(a)及び(b)は本発明の他の実施形態に係る杭基礎20を備えたユニット家屋の構成例を示す分解斜視図、設置状態を示す正面図であり、(c)は変形例に係る位置決めベース部材の構成説明図である。
実施形態に係るユニット建物1は、少なくとも四隅に柱5を備えた箱状の家屋ユニット3と、各柱5の底部に対して夫々締結具50を用いて固定される杭基礎20と、を備える。
杭基礎20は、地盤に打ち込まれる杭部21と、杭部21の上部に固定されて各柱5の底部に対して締結具50によって固定される連結部材40と、各柱の底部と対応する位置に杭部21を差し込む位置決め穴61を有した位置決めベース部材(接地部材)60と、杭部が位置決めベース部材60の位置決め穴61に差し込まれた時に杭部の差込み長を規制するために杭部21の上部に設けられた係止突起(フランジ部)24と、を備える。そして、地盤面に位置決めベース部材60を定置した状態で各位置決め穴61を介して地盤面に各杭基礎の杭部を打ち込むように構成されている。
【0022】
位置決めベース部材60は、図1の実施形態における接地部材30と同様に垂直方向下方へ向かう荷重を支持する機能を果たす。必要に応じて、位置決めベース部材60の上面、或いは下面に図6に示した如き補強用のリブを突設してもよい。
図7(a)(b)に示した位置決めベース部材60は、家屋ユニット3の底面の周縁に沿った四角い環状板であり、家屋ユニットの各柱5の底部に対応する位置には杭部21を差し込むための位置決め穴61が貫通形成されている。
位置決めベース部材60を用いることにより、地盤面に位置決めベース部材60を定置しておき、杭部21を位置決め穴61に打ち込みさえすれば、杭部の位置決めが完了する。このため、巻き尺等を用いて事前に杭を打ち込む位置を正確に測量する作業が不要となり、被災地等において非専門家が家屋ユニット3の基礎工事を極めて容易に実施することが可能となる。この場合、位置決めベース部材60は杭基礎の一部として、家屋ユニット3に組み付けられる。また、地盤に段差がある場合であっても、平板状の位置決めベースを地盤面に定置することにより段差が家屋ユニットに与える影響を緩和することができる。
【0023】
或いは、工場、或いは現場において予め、位置決めベース部材60の各位置決め穴61内に、連結部材40、係止突起24を備えた杭部21を打ち込んだ状態で溶接しておき、この位置決め部材ユニットを地盤面に定置する際に杭部21を地盤内に打ち込むことにより位置決め部材を含んだ杭基礎の設置を完了するようにしてもよい。
或いは、位置決め穴を有しない位置決めベース部材(接地部材)の四隅の上面と下面に夫々連結部材と杭部を溶接により固定した位置決め部材ユニットを予め構築しておき、これを現場に運搬して利用するようにしてもよい。
なお、位置決めベース部材60は係止突起24、或いは杭部21と溶接により一体化してもよいが、一体化しなくてもよい。仮に、位置決めベース部材と杭部とを一体化しない場合においても、位置決めベース部材は係止突起24と地盤面との間に挟まれた状態で家屋からの荷重を受けるので、垂直方向下方への荷重を支持する機能は十分に維持することができる。
【0024】
或いは、位置決めベース部材60を地盤面に配置して各位置決め穴から露出した地盤面にマークを形成しておき、その後位置決めベース部材を除去してから図1の実施形態に係る杭基礎20(接地部材30を備えている)をマークした地盤部分に打ち込むようにしてもよい。この場合の位置決めベース部材は単なる杭基礎の位置合わせ手段として用いられており、基礎の一部として組み込まれることはない。このため、金属製とする必要はなく、木製、あるいは樹脂製であってもよい。
なお、四角い環状の位置決めベース部材60の形状は図7(a)に示したものに限定される訳ではなく種々変形が可能である。例えば、図7(c)のように位置決めベースの内周の各コーナー部に張出し部63を設けて杭部21が打ち込まれる部分周辺の接地面積を広く確保するようにしてもよい。
【0025】
本例に係る位置決めベース部材60は四角い環状板として構成されているが、図8(a)に示すように家屋ユニット3の底面全体をカバーする面積を有した非環状の板材としてもよいし、同図(b)に示すように2つの隣接する柱5の下部に対応した長さを有した細幅の板材であってもよい。
なお、図8の位置決めベース部材60に位置決め穴61を設けずに、家屋ユニットの柱下部に対応する部位に、杭部21及び連結部材40を溶接により一体化した位置決めベースユニットを構築してもよい。
何れにしても位置決めベース部材を杭基礎の一部として家屋ユニットの基礎に組み込むことにより、面積の広い接地部材として利用することが可能となる。即ち、図1の実施形態のように杭部と接地部材を予め一体する場合には、運搬や取扱上の理由から接地部材として極端に面積の広いものを使用することに限界があるが、別体構造の位置決めベースを現場で組み付けることにより、広い接地面積を確保することができる。
【0026】
家屋ユニットの軸組を構成する柱が三本、或いは五本以上ある場合には、各柱に対応した位置に杭基礎20を用いて基礎を構築する。
なお、上記各実施形態では、家屋ユニット3の外周縁から接地部材30、或いは位置決めベース部材60の一部が外側に突出した構成例を示したが、接地部材30上における連結部材40の位置、或いは位置決めベース部材上における位置決め穴61の位置を種々調整することにより、家屋ユニット外周縁からの接地部材30、或いは位置決めベース部材の突出幅を減少させるようにしてもよい。
具体的には、例えば図9に示すように杭部21に対する連結部材40の位置をずらしておくことにより、家屋ユニット外周縁から接地部材30がはみ出ることがないようにすることができる。
このように杭部と連結部材は必ずしも同一軸線上に配置しなくてもよい。
【0027】
次に、図10(a)及び(b)は本発明の他の実施形態に係る杭基礎構造を備えたユニット建物の一部断面正面図、及び要部拡大断面図である。なお、図1と同一部分には同一符号を付して説明する。
本実施形態に係るユニット建物1を構成する家屋ユニット3は、四隅に設けた鋼製角パイプからなる柱5とは別に、隣接する柱間に間柱70を備えている。間柱70は、上下位置関係にて対向する上梁6と下梁7との間に跨って配置されている。この間柱7の下部を地盤面に固定するために、図1等に示した杭基礎20を適用することができる。
即ち、ユニット建物1は、少なくとも四隅に設けた柱5、隣接する柱の下部間を連結する下梁7、及び隣接する柱5間に配置されて下部を下梁に固定された間柱70を有した家屋ユニット3と、各柱5、及び間柱70の底部を夫々支持する杭基礎20と、を備え、間柱を支持する杭基礎20は、先部を含む少なくとも一部が地盤内に打ち込まれる杭部21と、杭部が地盤内に打ち込まれる過程で地盤面と接することにより該杭部の打ち込み深さの限界を定める接地部材30と、杭部の上部、或いは該接地部材から上方へ突設されて間柱の下部と対応する下梁の底部に対して固定される連結部材40と、を備えている。
【0028】
杭基礎20は、尖った先端部を含む少なくとも一部が地盤100内に打ち込まれることにより地盤内において主として水平方向への荷重を受ける杭部21と、杭部21が地盤内に打ち込まれる過程で地盤面100aと接することにより杭部の打ち込み深さの限界を定め、且つ地盤面と接することにより垂直方向への荷重を受ける接地部材30と、杭部21の上部、或いは接地部材30から上方へ突設された連結部材40と、を備えている。
四隅に位置する柱5の下部は杭基礎の上部と直接連結可能であるが、間柱70の下部と杭基礎20の上部との間には下梁7が介在している。本例では間柱70の下部は下梁7の上面とボルト等により固定する一方で、杭基礎20の上部を下梁7の下面とボルト等により固定することにより、下梁を介して間柱と杭基礎20とを連結している。
即ち、工場においてユニット家屋3を製造する際に、予め間柱70の下面にフランジ状に連接板71を溶接等によって予め一体化すると共に、この連接板71を下梁の上面にボルト、或いは溶接により固定する。
【0029】
また、杭基礎20としては図1の実施形態に係るものを流用し、工場において杭基礎20上部の連結部材40の上面に溶接等によってフランジ状に連接板73を一体化しておく。
現場では、間柱直下に位置する下梁7の下面に杭基礎20の連接板73をボルト等により固定する作業を実施すれば、間柱に対する杭基礎の組付けが完了する。
間柱70の下部と接する下梁7には必要に応じて、下梁を補強するための補強部材7aを固定しておく。
間柱に対して組み付けられる杭基礎を構成する杭部21は、横方向荷重を支持し、接地部材30は垂直方向への荷重を支持する機能を発揮する。
なお、間柱に対して組み付け可能な杭基礎としては、図1の実施形態に係るものの他に、図3、図6、図9に示したタイプも含まれる。
【0030】
或いは、柱5の下部に固定される杭部21(連結部材40)と、位置決めベース部材60とを組み合わせた図7、図8のユニット建物において柱間に間柱を設ける場合には、柱用の位置決めベース部材を間柱用の接地部材として共用してもよい。即ち、位置決めベース部材6の位置決め穴61間に間柱用の杭部を差し込む位置決め穴を形成することにより、位置決めベースを間柱用の杭部にも共用することが可能となる。
本発明に係る杭基礎を備えたユニット建物は、家屋ユニットの柱の下部を地盤に固定する基礎工事において、杭部が短尺(例えば、1m〜2m)な簡易な構造の杭基礎を使用しているので、運搬に便利であり、被災地等のように十分な重機、機材、専門の作業員を確保することができない状況下においても、比較的容易、且つ短期間に家屋ユニットを地盤に設置することができる。
【0031】
杭基礎は、杭部を地盤面に打ち込んだときに接地部材が地盤面と接して垂直下向きの荷重を支持するため、家屋ユニットが地盤内に陥没することを防止でき、また杭部が水平方向への荷重を支持することができる。
杭部による水平方向荷重に対する支持力と接地部材による垂直方向荷重の支持力とにより、地盤の硬さと関係なく適用できる。地盤の硬さが、例えばN値3のような小さい値であっても基礎としての十分な耐久性を確保できる。N値が3程度の地盤に適用する場合、接地部材は例えば1.5m角の四角形とする。
被災地等での運搬性を考慮し、杭部の長さを1m前後、2m以内に設定し、接地部材の面積は杭部の横断面積や地盤の硬さ、更には家屋ユニットの重量等との関係で決定する。
震災地等の被災地において仮設住居を設置する場所として地盤が必要十分な強度を有していないことがあり、従来の手法では基礎の構築が難しかったが、本発明の基礎構造を採用することにより、軟弱な地盤であっても設置することができる。家屋ユニットの地盤への埋没や、基礎に作用する転倒モーメントによって倒れることがなくなる。また、基礎重量を軽減し、基礎の構造を単純化することにより、工事が容易となる。
【0032】
また、接地部材上における連結部材の固定位置を変更可能に構成することにより、杭部を地盤に打ち込んだ後で、家屋ユニットの柱と連結部材との位置ずれによる不具合(杭部の打ち込み位置の微修正作業)をなくすることができる。
接地部材の上面、或いは下面に補強用のリブを設けても良い。接地部材の下面に設けたリブはアンカー効果を発揮することができる。
位置決めベース部材を用いることにより、地盤面に杭部を打ち込む際の位置を測定する必要がなくなり、位置決めベース部材に設けた位置決め穴に各杭基礎を打ち込んでから、連結部材上に柱を正確に位置合わせすることが可能となる。接地部材に対する杭部材の固定位置は、接地部材の中心部に相当する位置でなくてもよい。また、杭部材と連結部材の位置がずれていてもよい。位置決めベースは広い接地面積を確保できるので、垂直方向への加重を支持する面積を拡大して家屋ユニットの設置安定性を高めることができる。
また、複数の柱に跨って適用される位置決めベース部材を用いることにより、地盤の段差に対応して家屋ユニットを安定して設置することが可能となる。
【符号の説明】
【0033】
1…ユニット建物、3…家屋ユニット、5…柱、6…上梁、7…下梁、8…連結穴、9…作業用開口部、10、43…連結穴、20…杭基礎、21…杭部、22…本体、23…尖端部、24…係止突起、30…接地部材、31…挿通穴、35…補強用リブ、40…連結部材、41…被連結穴、42…作業用開口部、43…被固定板、43a…穴、44…ボルト、45…打撃用カバー、50…締結部材、51…ツイストロック、52…軸部材、53…固定係止片、54…可動係止片、56…ワンサイドボルト、60…位置決めベース部材、61…位置決め穴、70…間柱、71、73…連接板、100…地盤、100a…地盤面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも四隅に柱を備えた家屋ユニットの前記各柱の底部を夫々支持する杭基礎であって、
先部を含む少なくとも一部が地盤内に打ち込まれる杭部と、該杭部が地盤内に打ち込まれる過程で地盤面と接することにより該杭部の打ち込み深さの限界を定める接地部材と、前記杭部の上部、或いは該接地部材から上方へ突設されて前記各柱の底部に対して固定される連結部材と、を備えていることを特徴とする家屋ユニットの杭基礎。
【請求項2】
前記接地部材は、前記杭部に対して固定、又は非固定であることを特徴とする請求項1に記載の家屋ユニットの杭基礎。
【請求項3】
前記各柱の少なくとも下部は中空であり、その底面には連結穴が形成され、且つその周壁には夫々前記連結穴と連通する作業用開口部が形成されており、
前記連結部材は中空であり、その上面には前記連結穴と連結される被連結穴が形成され、且つその周壁には夫々前記被連結穴と連通する作業用開口部が形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の家屋ユニットの杭基礎。
【請求項4】
少なくとも四隅に柱を備えた家屋ユニットの前記各柱の底部を夫々支持する杭基礎であって、
先部を含む少なくとも一部が地盤に打ち込まれる杭部と、該杭部の上部に固定されて各柱の底部に対して固定される連結部材と、前記各柱の底部と対応する位置に杭部を差し込む位置決め穴を有した位置決めベース部材と、前記杭部が位置決めベース部材の位置決め穴に差し込まれた時に杭部の差込み長を規制するために該杭部の上部に設けられた係止突起と、を備えたことを特徴とする家屋ユニットの杭基礎。
【請求項5】
前記位置決めベース部材は、前記杭部に対して固定、又は非固定であることを特徴とする請求項4に記載の家屋ユニットの杭基礎。
【請求項6】
前記位置決めベース部材は、環状の板材であることを特徴とする請求項4又は5に記載の家屋ユニットの杭基礎。
【請求項7】
前記接地部材、又は前記位置決めベース部材の上面、又は/及び、底面に補強用のリブが突設されていることを特徴とする請求項1乃至6の何れか一項に記載の家屋ユニットの杭基礎。
【請求項8】
前記接地部材、或いは前記位置決めベース部材に対する前記連結部材の位置を調整する位置調整機構を備えたことを特徴とする請求項1乃至7の何れか一項に記載の家屋ユニットの杭基礎。
【請求項9】
前記杭部と前記連結部材は同一軸線上、又は非同一軸線上に配置されていることを特徴とする請求項1乃至8の何れか一項に記載の家屋ユニットの杭基礎。
【請求項10】
少なくとも四隅に設けた柱、隣接する前記柱の下部間を連結する下梁、及び隣接する前記柱間に配置されて下部を前記下梁に固定された間柱を有した家屋ユニットの前記各柱、及び前記間柱の底部を夫々支持する杭基礎であって、
前記間柱を支持する前記杭基礎は、先部を含む少なくとも一部が地盤内に打ち込まれる杭部と、該杭部が地盤内に打ち込まれる過程で地盤面と接することにより該杭部の打ち込み深さの限界を定める接地部材と、前記杭部の上部、或いは該接地部材から上方へ突設されて前記間柱の下部と対応する前記下梁の底部に対して固定される連結部材と、を備えていることを特徴とする家屋ユニットの杭基礎。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2012−46897(P2012−46897A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−187504(P2010−187504)
【出願日】平成22年8月24日(2010.8.24)
【出願人】(509037075)
【出願人】(591280197)株式会社構造計画研究所 (59)
【Fターム(参考)】