説明

容器入りの液体洗浄剤およびその香気保持方法

【課題】ポリエチレン製の容器に充填されて用いられる、硬質表面洗浄用の強酸性の香料含有液体洗浄剤であって、密閉保存中に該ポリエチレン製の容器から香料香気が揮散ないし染み出すことが少なく、かつ強酸性下でも劣化、変質することが少ない、香気保持性の高い香料含有液体洗浄剤およびその香気保持方法を提供すること。
【解決手段】(a)カルボニル基を有する特定の香料群から選ばれる1種以上の香料を香料総量の40重量%以上含有する香料組成物、(b)カチオン系界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はアルキルアミンオキシドから選ばれる1種以上の界面活性剤、(c)水及び無機酸を含有する液体洗浄剤であり、該液体洗浄剤のpHが20℃で1以下である、ポリエチレン製容器入りの硬質表面洗浄用の香料含有液体洗浄剤、および該液体洗浄剤を用いる液体洗浄剤の香気保持方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液体洗浄剤に関する。より詳しくは、便器やタイル等の硬質表面の洗浄に用いられる香料化合物を含有する液体洗浄剤およびその香気保持方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トイレや浴室、台所、ゴミ集積室等で用いられる液体洗浄剤として、便器やタイル床面・壁面の硬質表面に付着した汚れの洗浄力を高めるために強酸性の液体洗浄剤が用いられている。該液体洗浄剤には消臭機能や心地よい香りを付与する目的で香料化合物が配合されることが多い。
これらの液体洗浄剤は通常プラスティック容器に充填されて使用されることが多く、その容器の材質としては経済性や加工性、更には耐酸性、落下強度の観点からポリエチレン製の容器が用いられている。
【0003】
上記のポリエチレン製の容器に充填された、香料化合物を含有する液体洗浄剤は、容器に密閉保存されている間に液体洗浄剤中の香料化合物が該容器の外に揮散ないしは染み出してしまい、香料本来の香気を保持できなくなる問題がしばしば起こる。
【0004】
これ等に関連した先行技術として、ポリエチレン(以下、PEともいう)樹脂やポリプロピレン樹脂を材質とした容器に充填しても、容器の劣化や香料の染み出しを引き起こさない水性液体組成物(特許文献1)が報告されている。
【0005】
特許文献1に開示されている技術は、PE樹脂等の容器から染み出し易いリモネン等の特定構造の香料化合物(炭化水素系香料)の含有量を少なく抑えて、かつ特定構造の非イオン界面活性剤を併用するものである。特許文献1には、容器から染み出し難い香料としてエステル系をはじめ多種多様の香料が例示されているが、これらの香料の全てが前記炭化水素系香料に比べて格段に優れている訳ではなく、比較的染み出し易い香料もある。従って、PE樹脂の容器から香気の染み出し難い液体洗浄剤を調整しようとする場合、前記炭化水素系香料以外の多数の香料の中から適当な香料を選択して配合し、その配合物が染み出し難いものであることを確認する試行錯誤の作業が必要であり、その作業に多大の労力を要する問題があった。また、該先行技術の水性液体組成物は、好ましくはpH5〜9程度の中性領域で使用されるものであり、pH1以下の強酸性の条件下での使用に耐えられるものではない問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−29755号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、ポリエチレン製の容器に充填されて用いられる、硬質表面洗浄用の強酸性の香料含有液体洗浄剤であって、密閉保存中に該ポリエチレン製の容器から香料香気が揮散ないし染み出すことが少なく、かつ該液体洗浄剤に含有されている香料がpH1以下の強酸性下でも劣化、変質することが少ない、香気保持性の高い香料含有液体洗浄剤およびその香気保持方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意研究の結果、特定種類の界面活性剤と、カルボニル基を有する香料群の中から選ばれる特定の香料とを共に用いれば、上記課題の解決に有効である知見を得て、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、(a)下記のカルボニル基を有する特定の香料群から選ばれる1種以上の香料を香料総量の40重量%以上含有する香料組成物、(b)カチオン系界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、アルキルアミンオキシドから選択される1種以上の界面活性剤、(c)水及び無機酸を含有する液体洗浄剤であり、該液体洗浄剤のpHが20℃で1以下である、ポリエチレン製容器入りの硬質表面洗浄用の香料含有液体洗浄剤である。
[カルボニル基を有する特定の香料群]
カンファー、メチル−β−ナフチルケトン、ラズベリーケトン、2−メチルウンデカナール(アルデヒドC12MNA)、シンナミックアルデヒド、ヘキシルシンナミックアルデヒド、クマリン、γ−デカラクトン、γ−ノナラクトン、メントン、2−シクロペンチルシクロペンタノン、トナリド
【0010】
また、本発明は、ポリエチレン製容器に密閉保存された香料を含有する液体洗浄剤の香気を保持する方法であって、液体洗浄剤として(a)下記カルボニル基を有する特定の香料群から選ばれる1種以上の香料を香料総量の40重量%以上含有する香料組成物、(b)カチオン系界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、アルキルアミンオキシドから選択される1種以上の界面活性剤、(c)水及び無機酸を含有し、該液体洗浄剤のpHが20℃で1以下である硬質表面洗浄用の香料含有液体洗浄剤を用いることを特徴とする液体洗浄剤の香気保持方法である。
[カルボニル基を有する特定の香料群]
カンファー、メチル−β−ナフチルケトン、ラズベリーケトン、2−メチルウンデカナール(アルデヒドC12MNA)、シンナミックアルデヒド、ヘキシルシンナミックアルデヒド、クマリン、γ−デカラクトン、γ−ノナラクトン、メントン、2−シクロペンチルシクロペンタノン、トナリド
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、香料含有液体洗浄剤が強酸性状態でポリエチレン製の容器に密閉充填され長期間保存された場合でも、密閉保存中に該ポリエチレン製の容器から香料香気が揮散ないし染み出すことが少なく、かつ該洗浄剤に含有されている香料が塩酸等の強酸により劣化、変質することも少なく、長い間該液体洗浄剤の香料本来の香気が保持できる香料含有液体洗浄剤を得ることができる。また、該香料含有液体洗浄剤の調製には、限られた数少ない特定の香料を特定量以上用いればよいので、調製に要する作業時間が大幅に短縮される効果がある。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の(a)で示される香料組成物について説明する。
本発明の香料組成物に用いられるカルボニル基を有する特定香料(以下、本発明の特定香料ともいう。)は、カンファー、メチル−β−ナフチルケトン、ラズベリーケトン、2−メチルウンデカナール(アルデヒドC12MNA)、シンナミックアルデヒド、ヘキシルシンナミックアルデヒド、クマリン、γ−デカラクトン、γ−ノナラクトン、メントン、2−シクロペンチルシクロペンタノン、トナリドから選ばれる1種または2種以上である。
【0013】
本発明の特定香料は、ポリエチレン製容器からの香気の揮散や染み出しが極めて少なく、また耐酸性に強く強酸による劣化や変質も極めて少ないものである。
【0014】
本発明の特定香料は既知の方法で合成することができる。また、上記の香料を含む天然物から抽出された精油などの市販品を用いてもよい。
本発明では、前記カルボニル基を有する香料群から選ばれる1種または2種以上の特定香料は、香料組成物中において香料総量の40重量%以上含有されて用いられる。特に好ましくは50重量%以上含有されて用いられる。前記カルボニル基を有する特定の香料の含有量が香料総量の40重量%に満たない場合は、液体洗浄剤がポリエチレン製の容器に密閉保存されている間に、前記特定香料以外の香料がポリエチレン製の容器から揮散ないし染み出してしまい、液体洗浄剤の香料本来の香気が失われてしまい、著しく商品価値を落とす。
【0015】
香料組成物中には、本発明の特定香料の他に、ケトン系香料、アルコール系香料、エステル系香料やその他各種構造の香料や天然精油などを、香料総量の60重量%を越えない限り、適宜使用することができる。具体的には、特許庁発行の「周知・慣用技術集(香料)第三部、香粧品用香料」(平成13年6月15日発行)や、「印藤元一著 合成香料 化学と商品知識」化学工業日報社刊(2005年3月22日増補改訂版発行)に掲載の各香料等を参考にして選ぶことができる。
これ等の香料等もできるだけ強酸に安定なものを使用することが望ましい。
【0016】
本発明の香料組成物には、匂いを有していないか又はかすかな匂いを有する物質が希釈剤または増量剤(以下、希釈剤という)として用いられることがある。このような物質の具体例として、ジプロピレングリコール(DPG)、へキシレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールなどが挙げられる。これらの希釈剤は、例えば、粘稠香料成分を可溶化または希釈するために、または蒸気圧を減少することによって揮発成分を安定化するなどのために使用される。これらの希釈剤は、本発明における香料の分類に属さない。従って、本発明の香料組成物中における香料総量に対する特定香料の割合を算出する場合の、香料総量の中には上記希釈剤は除外される。すなわち香料総量に対する特定香料の割合を算出するときに、上記希釈剤の含有量は香料総量に含めないものとする。
【0017】
本発明の液体洗浄剤は、上記香料組成物と以下に記載の種々の配合物とを混合して調製される。該液体洗浄剤中の香料の含有量(以下、賦香率ともいう)は、0.01〜0.5重量%であり、好ましくは0.02〜0.1重量%である。0.01重量%に満たなければ該洗浄剤の消臭効果あるいは賦香効果が発揮されず、また0.5重量%を越えれば、溶解するために多量の界面活性剤を必要とし、多量の界面活性剤を配合した場合には、泡切れの悪い洗浄剤となる。
【0018】
次に(b)で示される特定種類の界面活性剤について説明する。
本発明の液体洗浄剤には、香料の乳化剤あるいは洗浄成分として界面活性剤が用いられるが、強酸性下での安定性からカチオン系界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、アルキルアミンオキシドなどが用いられるが、特に、特公昭59−25870号公報に記載のとおり、塩酸による刺激臭を抑制する観点からカチオン系界面活性剤が好ましい。
【0019】
カチオン系界面活性剤としては、カチオン系界面活性剤が使用可能であるが、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩が好ましい。具体的には、ラウリルトリメチルアンモニウム塩、ジデシルジメチルアンモニウム塩が挙げられる。
これらの界面活性剤は、液体洗浄剤に対して0.05〜1重量%の割合で使用するのが良い。
【0020】
次に(c)の無機酸について説明する。
本発明の液体洗浄剤は、硬質表面汚れの洗浄力を高めるために強酸性で使用される。無機酸としては、塩酸、硫酸等を単独もしくは混合して用いられるが、特に塩酸を用いることが好ましい。本発明の洗浄剤は、これらの無機酸の配合により、pHが20℃で1以下に調製して使用される。pHが20℃で1を越える場合は、汚れの強い硬質表面を洗浄する能力が劣り本発明の目的は達成されない。
【0021】
無機酸の配合量は、酸の重量として、液体浄剤中に好ましくは1重量%以上、好ましくは2〜10重量%配合して、pHが20℃で1以下に調製される。
【0022】
本発明の液体洗浄剤には、上記成分の他、更に必要に応じて、増粘剤、着色剤、殺菌剤、防腐剤、金属イオン封鎖剤、防汚剤、洗浄助剤等を、本発明の効果を損なわない範囲で配合することができる。また、更に、必要に応じて、本発明の機能を損なわない範囲で、防汚、消泡、殺菌、撥水、増粘等の目的で、特定の界面活性剤以外の界面活性剤を配合しても良い。
【0023】
本発明の洗浄剤は上記の各成分を混合することにより調製される。
液体洗浄剤の製造方法は、特に限定されないが、通常、香料等溶解の必要な成分に注意して、添加順序を定めて、各成分を投入、混合し、攪拌して調製される。
【0024】
本願発明の香料含有液体洗浄剤は、経済性や加工性、更には耐酸性、落下強度等の観点からPE樹脂製の容器に充填されて使用される。
PE樹脂としては、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン又は高密度ポリエチレン、
更にはエチレンを主成分とするエチレンと他のモノマーとの共重合体が、適宜、製品の形態に応じて選択され、用いられる。
【0025】
前記PE製容器は、美観を高めるために各種の顔料をPE樹脂に配合して着色することも可能である。また、帯電防止のために各種の帯電防止剤や、内容物の貯蔵安定性を高めるために各種の紫外線吸収剤などをPE樹脂に配合することも可能である。
【0026】
PE製容器の製造は、PE樹脂と所望により顔料、帯電防止剤や紫外線吸収剤などを混錬した樹脂組成物を射出成型や(延伸)ブロー成型などの成型法により得ることができる。
【実施例】
【0027】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。
(実施例1)
表2に記載の各種香料について、表1に記載の処方で液体洗浄剤を調製した。該液体洗浄剤の20℃におけるpHは−0.57である。
調製した各液体洗浄剤をPE製の容器(硬質ポリエチレン;胴部厚み約0.5mm)に入れ密閉して、40℃の下で4週間保存した。
保存後の液体洗浄剤と、同一液体洗浄剤をガラス容器に入れ5℃にて4週間保存したものとを、熟練したパネリスト5名が嗅ぎ比べて、香りの質と強さとを官能評価した。
その結果を表2に示した。
【0028】
【表1】

【0029】
【表2】

【0030】
(実施例2)
表3に示す処方にて、本発明の特定香料の含有量、界面活性剤の種類等を変更した液体洗浄剤を調製した。該液体洗浄剤の20℃におけるpHは−0.57である。
実施例1と同様に、PE製の容器に入れ密閉して、40℃の下で4週間保存した液体洗浄剤と、ガラス容器に入れて5℃にて4週間保存したものとを、熟練したパネリスト5名が嗅ぎ比べて、香りの質と強さとを官能評価した。
【0031】
表3に評価結果を示した通り、界面活性剤無添加の液体洗浄剤やアニオン系界面活性剤を用いた液体洗浄剤は、香料が均一に混合しない上、香料本来の香りが損なわれていた。また、特定香料の使用量が、香料総量中40%に満たない液体洗浄剤は、保存後は香料本来の香りと強度が保持されてなかった。しかしながら、本発明品は、表3に評価結果を示した通りほぼ同等の香りを有していた。
【0032】
【表3】

【0033】
(実施例3)
表5に示す香料組成物(処方例1〜5)を調整し、それらを用いて表4に示す液体洗浄剤を調整した。表4の本発明品1,6,11には表5の処方例1の香料組成物を、表4の本発明品2,7,12には表5の処方例2の香料組成物を、表4の本発明品3,8,12には表5の処方例3の香料組成物を、表4の本発明品4,9,13には表5の処方例4の香料組成物を、表4の本発明品5,10,15には表5の処方例5の香料組成物を、用いた。いずれも、該液体洗浄剤の20℃におけるpHは−0.57である。
該液体洗浄剤をPE製の容器(硬質ポリエチレン;胴部厚み約0.5mm)に入れ密閉し、室温にて室内に放置した。調整直後、1週間後及び2ヶ月後に、陶器製便器の汚れに該液体洗浄剤を散布して洗浄したところ、いずれの場合も便器の汚れはきれいに除去された上、トイレ内にはいずれも調整直後の該液体洗浄剤の香気と同様の心地よい香気が漂った。
【0034】
【表4】

【0035】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)下記のカルボニル基を有する特定の香料群から選ばれる1種以上の香料を香料総量の40重量%以上含有する香料組成物、(b)カチオン系界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はアルキルアミンオキシドから選ばれる1種以上の界面活性剤、(c)水及び無機酸を含有する液体洗浄剤であり、該液体洗浄剤のpHが20℃で1以下である、ポリエチレン製容器入りの硬質表面洗浄用の香料含有液体洗浄剤。
[カルボニル基を有する特定の香料群]
カンファー、メチル−β−ナフチルケトン、ラズベリーケトン、2−メチルウンデカナール(アルデヒドC12MNA)、シンナミックアルデヒド、ヘキシルシンナミックアルデヒド、クマリン、γ−デカラクトン、γ−ノナラクトン、メントン、2−シクロペンチルシクロペンタノン、トナリド
【請求項2】
ポリエチレン製容器に密閉保存された香料を含有する液体洗浄剤の香気を保持する方法であって、該液体洗浄剤として(a)下記カルボニル基を有する特定の香料群から選ばれる1種以上の香料を香料総量の40重量%以上含有する香料組成物、(b)カチオン系界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はアルキルアミンオキシドから選ばれる1種以上の界面活性剤、(c)水及び無機酸を含有し、該液体洗浄剤のpHが20℃で1以下である硬質表面洗浄用の香料含有液体洗浄剤を用いることを特徴とする液体洗浄剤の香気保持方法。
[カルボニル基を有する特定の香料群]
カンファー、メチル−β−ナフチルケトン、ラズベリーケトン、2−メチルウンデカナール(アルデヒドC12MNA)、シンナミックアルデヒド、ヘキシルシンナミックアルデヒド、クマリン、γ−デカラクトン、γ−ノナラクトン、メントン、2−シクロペンチルシクロペンタノン、トナリド

【公開番号】特開2010−285503(P2010−285503A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−139302(P2009−139302)
【出願日】平成21年6月10日(2009.6.10)
【出願人】(000207584)大日本除蟲菊株式会社 (184)
【出願人】(000121512)塩野香料株式会社 (23)
【Fターム(参考)】