説明

容器詰め無菌穀類加工食品の製造方法及び容器詰め無菌穀類加工食品

【課題】何らかの原因でボツリヌス菌、更にはこれと共存するカビや枯草菌に汚染された場合であっても、少なくとも毒化先行の状態とはならないようにすることができる、したがって消費者が安全な製品であると誤認識して摂食してしまうことを防止できる容器詰め無菌穀類加工食品の製造方法及びこの製造方法によって得られる容器詰め無菌穀類加工食品を提供する。
【解決手段】容器に穀類加工食品製造用の資材を入れ、所定条件下で加熱処理した後、該容器をシールする容器詰め無菌穀類加工食品の製造方法において、穀類加工食品のpHが4.0以上5.0未満の範囲内となるようにすると共に、容器のヘッドスペースの酸素濃度が3〜19容量%の範囲内となるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は容器詰め無菌穀類加工食品の製造方法及び容器詰め無菌穀類加工食品に関する。容器に穀類加工食品製造用の資材を入れ、所定条件下で加熱処理した後、該容器をシールして、容器詰め無菌穀類加工食品を製造することが行なわれる。例えば、自立性を有する耐熱性プラスチック製の容器に、水に浸漬して水切りした所要量の米と、所要量の炊水とを入れ、加熱加圧チャンバー内にて所定条件下で加熱処理することにより炊飯した後、クリーンルームに移して該容器をシールし、容器詰め無菌米飯を製造することが行なわれる。本発明は、かかる容器詰め無菌穀類加工食品の製造方法の改良に関し、またこの改良された製造方法によって得られる容器詰め無菌穀類加工食品に関する。
【背景技術】
【0002】
前記のような容器詰め無菌穀類加工食品を製造するとき、殺菌不良、作業環境の管理不良、シール不良等、何らかの原因により、製造した容器詰め無菌穀類加工食品が菌汚染される可能性がある現状の下では、最も問題となるのがボツリヌス菌による菌汚染であり、なかでもボツリヌス菌が産生するボツリヌス毒素による危害である。そのため、容器詰め無菌穀類加工食品の製造では、ボツリヌス菌の挙動について研究がなされ、例えば容器詰め無菌米飯にボツリヌス菌を単独接種したときの挙動として、米飯のpHが5.0以上の場合には、容器のヘッドスペースの酸素濃度が3容量%未満であると、外観で認識できる変敗よりも外観では認識できないボツリヌス毒素の産生が先行する毒化先行の状態となり、逆に容器のヘッドスペースの酸素濃度が3容量%以上であると、外観では認識できないボツリヌス毒素の産生よりも外観で認識できる変敗が先行する変敗先行の状態となるが、米飯のpHが5.0未満の場合には、容器のヘッドスペースの酸素濃度が3容量%未満であっても、また3容量%以上であっても、前記のような毒化先行や変敗先行の状態とならず、変化を生じないことが知られている。
【0003】
前記のような知見に基づいて従来から、容器詰め無菌穀類加工食品の製造方法として、容器詰めする穀類加工食品、具体的には米飯のpHと該容器のヘッドスペースの酸素濃度に着目した製造方法が複数提案されている(例えば特許文献1〜7参照)。これらの従来法では概ね、容器詰めする米飯のpHを5.0未満とし、また該容器のヘッドスペースの酸素濃度を、好気性微生物の繁殖や酸化による香味の変化等を防止する観点から3容量%未満としている。しかし本発明者らは、殺菌前の穀物加工食品製造用の資材には、カビや枯草菌などが存在していることから、通常の製造条件下では菌汚染の原因となり易いカビや枯草菌とボツリヌス菌とが共存した場合の状態を研究した結果、米飯のpHが5.0未満であっても、毒化先行の状態になったり、また変敗先行の状態となったりすることを見出した。特に、毒化先行の状態になることが、消費者が安全な製品であると誤認識して摂食してしまう可能性が大きいことから問題であった。
【特許文献1】特開平5−176693号公報
【特許文献2】特開平5−176694号公報
【特許文献3】特開平5−176696号公報
【特許文献4】特開平8−173066号公報
【特許文献5】特開平10−257862号公報
【特許文献6】特開平7−67559号公報
【特許文献7】特開平10−42806号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、何らかの原因でボツリヌス菌に汚染された場合であっても、少なくとも毒化先行の状態とはならない無菌穀類加工食品の製造方法を提供するところにあり、またかかる製造方法によって得られる無菌穀類加工食品を提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記の課題を解決する本発明は、容器内に穀類加工食品製造用の資材を入れ、所定条件下で加熱処理した後、該容器をシールする容器詰め無菌穀類加工食品の製造方法において、穀類加工食品のpHが4.0以上5.0未満の範囲内となるようにすると共に、容器のヘッドスペースの酸素濃度が3〜19容量%の範囲内となるようにすることを特徴とする容器詰め無菌穀類加工食品の製造方法に係る。また本発明は、かかる製造方法によって得られる無菌穀類加工食品に係る。
【0006】
本発明に係る無菌穀類加工食品の製造方法(以下、単に本発明の製造方法という)において、対象となる穀類としては、米、麦、豆等の五穀、これらの混合物が挙げられる。したがって穀類加工食品としては、米飯、麺、パスタ、煮豆等が挙げられるが、概して米飯やパスタに対し効果の発現が高い。またかかる穀類加工食品製造用の資材としては、前記の穀類、その粉粒状物や成形品のような一次加工品の他に、炊水、煮液、調味料、副資材等が挙げられる。
【0007】
本発明の製造方法でも、一般的には加熱加圧チャンバーとこれに接続されたクリーンルームとを備える装置を用いて、容器詰め無菌穀類加工食品を製造する。例えば容器詰め無菌米飯の場合、多段の棚に各々に所要量の米と所要量の炊水とを入れた多数の容器を並べ、この状態で加熱加圧チャンバー内へ装入し、加熱加圧チャンバー内にて各容器毎で米を炊飯した後、クリーンルームへ装出して、クリーンルーム内にて各容器をシールする。加熱加圧チャンバーとしてはバッチ式のものでも又は連続式のものでも用いることができる。米としては水に浸漬して水切りしたものを用いるが、場合によっては水で洗浄し、水に浸漬して、水切りしたものを用いる。容器としては通常は耐熱性を有するプラスチック製の個食トレイを用いる。容器のシールは例えば容器にフィルムを被せてヒートシールすることにより行なう。
【0008】
本発明の製造方法では、容器詰めする穀類加工食品のpHが4.0以上5.0未満の範囲内となるようにすると共に、容器のヘッドスペースの酸素濃度が3〜19容量%の範囲内となるようにする。前記したように、容器詰め無菌穀類加工食品の製造では、例えば容器詰め無菌米飯の製造では、容器詰め無菌米飯にボツリヌス菌を単独接種すると、米飯のpHが5.0以上である場合には、容器のヘッドスペースの酸素濃度が3容量%未満であるか又は3容量%以上であるかによって、毒化先行の状態となるか又は変敗先行の状態となるが、米飯のpHが5.0未満である場合には変化を生じない。
【0009】
しかし本発明者らは、殺菌前の穀物加工食品製造用の資材には、カビや枯草菌などが存在していることから、通常の製造条件下では菌汚染の原因となり易いカビや枯草菌とボツリヌス菌とが共存した場合の状態を研究した結果、米飯のpHが5.0未満であっても、毒化先行の状態となったり、また変敗先行の状態となったりすることを見出した。詳しくは、容器詰め無菌米飯の製造において、容器詰め無菌米飯にボツリヌス菌と枯草菌とを接種すると、米飯のpHが5.0以上の場合にはボツリヌス菌を単独接種したときと同様であるが、米飯のpHが4.0以上5.0未満の場合には、ボツリヌス菌を単独接触したときとは異なり、容器のヘッドスペースの酸素濃度が3容量%未満であると、毒化先行の状態となり、また容器のヘッドスペースの酸素濃度が3容量%以上であると、変敗先行の状態となって、米飯のpHが4.0未満の場合には再びボツリヌス菌を単独接種したときと同様になることを見出した。そしてかかる現象は、麺やパスタ等、他の穀物加工食品についても同様であった。
【0010】
したがって、容器詰め無菌穀類加工食品の製造では、何らかの原因でボツリヌス菌、更にはこれと共存するカビや枯草菌などに汚染された場合であっても、少なくとも毒化先行の状態とはならないようにするため、無菌穀類加工食品のpHを4.0以上5.0未満とし、また容器のヘッドスペースの酸素濃度を3容量%以上にするか、又は無菌穀類加工食品のpHを4.0未満とすることが考えられるが、無菌穀類加工食品のpHを4.0未満にまでしてしまうと、酸味が強くなり過ぎて摂食するのに不適であり、また容器のヘッドスペースの酸素濃度が19容量%を超えてしまうと、貯蔵中における香味の酸化劣化が激しくてこれもまた摂食するのに不適である。
【0011】
そこで本発明の製造方法では、前記したように、容器詰めする穀類加工食品のpHが4.0以上5.0未満の範囲内となるようにすると共に、容器のヘッドスペースの酸素濃度が3〜19容量%の範囲内となるようにし、同様の意味で好ましくは容器詰めする穀類加工食品のpHが4.4以上5.0未満の範囲内となるようにし、また容器のヘッドスペースの酸素濃度が7〜15容量%の範囲内となるようにする。容器詰めする穀類加工食品のpHの調整は所要量のクエン酸やグルコン酸等の有機酸及び/又はその塩を用いて行なうことができ、また容器のヘッドスペースの酸素濃度の調整は、シール直前の容器内雰囲気ガスを窒素ガス及び/又は炭酸ガス、又はそれらと空気との混合ガスで置換する方法等で行なうことができる。
【0012】
本発明に係る容器詰め無菌穀類加工食品は、以上説明した本発明の製造方法によって得られるものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、製造した容器詰め無菌穀類加工食品が何らかの原因でボツリヌス菌、更にはこれと共存するカビや枯草菌などに汚染された場合であっても、少なくとも毒化先行の状態とはならないようにすることができるという効果がある。
【実施例】
【0014】
試験区分1(容器詰め無菌米飯の製造)
内容量460mLの耐熱性プラスチック製の容器に、水に浸漬して水切りした所定量の米と、炊飯後の米飯のpHが表1に記載のpHとなるよう所要量のグルコン酸を溶解した所定量の炊水とを入れた。表1に記載の各例で同様のものを20個用意し、これらを加熱加圧チャンバー内へ装入して、加圧加熱水蒸気の雰囲気下にFo値0.5で炊飯した後、加熱加圧チャンバーに接続のクリーンルーム内へ装出した。クリーンルール内にて、各容器の米飯を冷却した後、各容器をヒートシールした。各容器の米飯量は110gであり、ヘッドスペースは160±5mLであった。
【0015】
試験区分2(官能評価)
クリーンルーム内にて、試験区分1で製造した各例で3個の容器詰め無菌米飯を開封して、米飯を容器ごとベセーラ(クレハ社の登録商標)製の袋に入れ、ガス置換装置(東静電気社製のV400)を用いて袋内の雰囲気ガスを表1に記載した酸素濃度の空気と窒素ガスとの混合ガスで置換し、袋を密封した。これらを20℃で270日間保管し、男性10名及び女性10名の合計20名の評価員による官能評価に供すると共に、そのpHを測定した。官能評価は、表1に記載した実施例3を基準とし、この基準と他の各例とを2点比較して、どちらが好ましいかを選択させ、他の各例の方が好ましいと選択した人数を表1に示した。尚、比較例2の*印は基準に対し0.1%の危険率で有意であることを示している。またpHは、後述する試験区分3と同様の方法で測定した。

【0016】
【表1】

【0017】
試験区分3(菌接種試験)
試験区分1で製造した各例で15個の容器詰め無菌米飯について、以下の1)〜4)の手順で菌接種を行ない、5)及び6)の手順で評価した。結果を表2にまとめて示した。尚、変敗しているか否かは外観で判断した。
【0018】
1)ボツリヌス菌(Clostridium botulinum)の調製
ボツリヌス菌は、A型毒素を産生する5株(56A、62A、97A、Hall、Renkon−1)とB型毒素を産生する5株(9B、213B、407−1、Fukuyama、Okra)の計10株を用いた。各々をTPY broth培地(Trypticase Pepton:5%(W/V)、Bacto Peptone:0.5%(W/V)、Bacto Yeast extract:0.1(W/V))を用いて既報の方法で培養し、芽胞数10/mLの芽胞液を調製した。
2)枯草菌(Bacillus subtilis)の調製
枯草菌は、IFO13719株を用いた。これを2×SG培地(Nutrient broth:16%(W/V)、塩化カリウム:2%(W/V)、硫酸マグネシウム:0.5%(W/V)、寒天:17%(W/V)の水溶液をpH7.0に調整後、121℃で15分間の条件でオートクレーブ滅菌した後、別途滅菌した1M硝酸カルシウム水溶液1mL、1mM硝酸鉄溶液1mL、50%(W/V)グルコース水溶液2mLを加えたもの)を用いて既報の方法で培養し、芽胞数10/mLの芽胞液を調製した。
3)菌液の調製
前記の10株のボツリヌス菌を、1株あたり10/mLで合計10/mL、また前記の枯草菌を10/mLとなるように混合し、これを80℃で10分間加熱処理して発芽させ、菌液とした。
4)菌液の接種方法
クリーンルーム内にて、試験区分1で製造した各例で15個の容器詰め無菌米飯を開封し、各容器の無菌米飯に前記の菌液を100μLずつ10箇所(合計1mL)接種した。菌液を接種した米飯を容器ごとベセーラ(クレハ社の登録商標)製の袋に入れ、ガス置換装置(東静電気社製のV400)を用いて袋内の雰囲気ガスを表2に記載した初発酸素濃度の空気と窒素ガスとの混合ガスで置換し、袋を密封した。
【0019】
5)培養及びサンプリング
菌液を接種し、袋に密封した米飯を、30℃で保管し、1週間ごとに3検体ずつ、評価に供した。
6)各検体の評価
各検体は、ガスクロマトグラフ(日立ハイテクノロジーズ社製のG−5000A)を用いて気相測定した後、米飯を採取して細菌検査用ポリ袋(オルガノ社製の内容量400mLのもの)に80g入れ、リン酸緩衝液(pH6.2)を80mL加えて、1分以上、手で米粒を潰さないように解した後、上澄み液を生菌数測定用とマウスアッセイ用とに取り分けて、各評価に供した。ボツリヌス菌の生菌数測定は、生菌数測定用に取り分けた上澄み液を滅菌生理食塩水にて段階稀釈した後、クロストリジア測定用培地(日水製薬社製)を用いて行なった。また枯草菌の生菌数測定は、ボツリヌス菌の生菌数測定で用いた希釈液をPCA培地(日水製薬社製)で混釈培養して行なった。マウスアッセイはFDA Bacteriological Analysis Manual(Food and Administration,1995)に準じて次のように行なった。マウスアッセイ用に取り分けた上澄み液を15000Gで10分間遠心分離し、上清液1.8mLを別のチューブに移した。体重20gの雄DDYクリーンマウス2匹に、それぞれ上清液0.5mL及び毒素型決定のための血清(区分1:2U/mLに調製したボツリヌスA型毒素血清、区分2:2U/mLに調製したB型毒素血清、区分3:両毒素血清がそれぞれ2U/mLとなるように調製した混合血清)0.5mLを腹腔内投与し、5日間観察した。pH測定は、米飯を採取して細菌検査用ポリ袋(オルガノ社製、80mL容量)に5g入れ、滅菌蒸留水を5mL加え、ホモミキサー(日本精機製作所社製)を用いて均一化処理(10000rpm×3分間)した後、ガラス電極式水素イオン濃度計(堀場製作所社製)を用いて測定した。1検体あたり5回行なって、その平均値を検体のpHとした。
【0020】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器内に穀類加工食品製造用の資材を入れ、所定条件下で加熱処理した後、該容器をシールする容器詰め無菌穀類加工食品の製造方法において、穀類加工食品のpHが4.0以上5.0未満の範囲内となるようにすると共に、容器のヘッドスペースの酸素濃度が3〜19容量%の範囲内となるようにすることを特徴とする容器詰め無菌穀類加工食品の製造方法。
【請求項2】
穀類加工食品が米飯及び/又はパスタである請求項1記載の容器詰め無菌穀類加工食品の製造方法。
【請求項3】
穀類加工食品製造用の資材として食用有機酸及び/又はその塩を用い、穀類加工食品のpHが4.0以上5.0未満の範囲内となるようにする請求項1又は2記載の容器詰め無菌穀類加工食品の製造方法。
【請求項4】
容器をシールする直前に、容器内の雰囲気ガスを窒素ガス及び/又は炭酸ガス、又はそれらと空気との混合ガスでガス置換し、容器のヘッドスペースの酸素濃度が3〜19容量%の範囲内となるようにする請求項1〜3のいずれか一つの項記載の容器詰め無菌穀類加工食品の製造方法。
【請求項5】
穀類加工食品のpHが4.4以上5.0未満の範囲内となるようにする請求項1〜4のいずれか一つの項記載の容器詰め無菌穀類加工食品の製造方法。
【請求項6】
容器のヘッドスペースの酸素濃度が7〜15容量%の範囲内となるようにする請求項1〜5のいずれか一つの項記載の容器詰め無菌穀類加工食品の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一つの項記載の容器詰め無菌穀類加工食品の製造方法によって得られる容器詰め無菌穀類加工食品。

【公開番号】特開2009−5667(P2009−5667A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−172640(P2007−172640)
【出願日】平成19年6月29日(2007.6.29)
【出願人】(000104113)カゴメ株式会社 (50)
【出願人】(598000231)日東アリマン株式会社 (1)
【Fターム(参考)】