説明

容器詰ソバ茶飲料及びその製造方法

【課題】優れた呈味を有し且つ沈殿の発生が抑制された容器詰ソバ茶飲料、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】ソバ実を焙煎する工程と、前記焙煎されたソバ実を抽出して抽出液を得る工程とを具備する容器詰ソバ茶飲料を製造する方法であって、前記焙煎が、前記抽出液に含有される(R)ルチンと(Q)ケルセチンの重量比率A[(R)/(Q)]が25〜64の範囲内となり、且つ、下記(I)式を満たすように行われることを特徴と容器詰ソバ茶飲料の製造方法:
0.5≦ B/A ≦1.5 (I)
ここで、Bは該抽出液に含有される(S)スクロースと(G)グルコースの含有重量比率[(S)/(G)]である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器詰ソバ茶飲料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ソバ実の抽出液はソバ茶として広く飲用されており、現在では容器詰飲料としても提供されている。ソバ茶は嗜好品として好まれるほかに、ルチンなどの有効成分をも含んでおり、機能性食品としても提供されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
通常、ソバ茶に用いられるソバ実は焙煎される。焙煎は、ソバ茶に香味を付与し、呈味を良くするために行われる。しかしながら、焙煎の程度が高すぎると苦味が生じ、一方焙煎の程度が低すぎると香りや呈味が弱く、飲用に適さなくなる。従来、焙煎の程度は焙煎機器等の条件により変化し、生産者の経験に頼るところが多く、呈味が良く安定した品質を維持することが困難であった。
【0004】
また、近年、ペットボトル等の透明な容器が飲料容器として用いられることが多いため、沈殿が生じることは好ましくない。しかしながら、ソバ茶は液中に含まれるルチンのほか、多様な成分によって沈殿を生じることがあり、このような沈殿は商品価値を落とすものとして好ましくないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭60−262585号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のような問題に鑑み、本発明は、優れた呈味を有し且つ沈殿の発生が抑制された容器詰ソバ茶飲料、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一つの側面から、(R)ルチンと(Q)ケルセチンの含有重量比率[(R)/(Q)]をA、(S)スクロースと(G)グルコースの含有重量比率[(S)/(G)]をBとするとき、25≦A≦64、0.5≦B/A≦1.5であることを特徴とする容器詰ソバ茶飲料が提供される。
【0008】
本発明の他の側面から、ソバ実を焙煎する工程と、前記焙煎されたソバ実を抽出して抽出液を得る工程とを具備する容器詰ソバ茶飲料を製造する方法であって、前記焙煎が、前記抽出液に含有される(R)ルチンと(Q)ケルセチンの含有重量比率[(R)/(Q)]をA、(S)スクロースと(G)グルコースの含有重量比率[(S)/(G)]をBとするとき、25≦A≦64、0.5≦B/A≦1.5となるように行われることを特徴とする、容器詰ソバ茶飲料の製造方法が提供される。
【0009】
本発明の他の側面から、ソバ茶の原料となるソバ実の焙煎方法であって、焙煎されたソバ実を抽出して得られる抽出液において、(R)ルチンと(Q)ケルセチンの含有重量比率[(R)/(Q)]をA、(S)スクロースと(G)グルコースの含有重量比率[(S)/(G)]をBとするとき、25≦A≦64、0.5≦B/A≦1.5となるようにソバ実を焙煎することを特徴とする方法が提供される。
【0010】
本発明の他の側面から、ソバ実を焙煎する工程と、前記焙煎されたソバ実を抽出して抽出液を得る工程とを具備する方法によって製造された容器詰ソバ茶飲料における沈殿の発生を抑制する方法であって、前記抽出液に含有される(R)ルチンと(Q)ケルセチンの含有重量比率[(R)/(Q)]をA、(S)スクロースと(G)グルコースの含有重量比率[(S)/(G)]をBとするとき、25≦A≦64、0.5≦B/A≦1.5となるように、ソバ実を焙煎することを特徴とする方法が提供される。
【0011】
使用するソバ実には、ダッタンソバおよび普通ソバ実が用いられる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、優れた呈味を有し、且つ沈殿の発生が抑制された容器詰ソバ茶飲料、及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】ルチンとケルセチンの含有重量比率と焙煎時間の関係を示す図。
【図2】スクロースとグルコースの含有重量比率と焙煎時間の関係を示す図。
【図3】ルチン含有量と焙煎時間の関係を示す図。
【図4】スクロース含有量と焙煎時間の関係を示す図。
【図5】グルコース含有量と焙煎時間の関係を示す図。
【図6】ルチン/ケルセチン比とスクロース/グルコース比の関係を示す図。
【図7】実施例1-1〜4、比較例1-1および1-2についての官能試験の結果を示す図。
【図8】実施例2-1〜4、比較例2-1および2-2についての官能試験の結果を示す図。
【図9】実施例3-1〜4、比較例3-1および3-2についての官能試験の結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の第1の態様において、優れた呈味を有し且つ沈殿の発生が抑制された容器詰ソバ茶飲料の製造方法が提供される。
【0015】
本発明者らは、ソバ実の抽出液に含まれる成分を指標とすることによって、ソバ実の焙煎の程度を管理することが可能であり、これによって優れた呈味を有し且つ沈殿の発生が抑制された容器詰ソバ茶飲料を安定して提供できることを見出した。
【0016】
なお、ソバ実の抽出液は、そのままソバ茶飲料として提供されてもよく、希釈又は濃縮されて提供されてもよい。また、pH調整剤や添加剤を添加されてもよい。本明細書では、ソバ実から抽出して得られた溶液を抽出液と称し、抽出液を加工し或いは加工しないで調製された溶液をソバ茶と称する。
【0017】
第1の態様において、容器詰ソバ茶飲料の製造方法は、ソバ実を焙煎する工程と、前記焙煎されたソバ実を抽出して抽出液を得る工程とを具備し、前記焙煎が、前記抽出液に含有される(R)ルチン(ppm)と(Q)ケルセチン(ppm)の含有重量比率[(R)/(Q)]をA、(S)スクロース(ppm)と(G)グルコース(ppm)の含有重量比率[(S)/(G)]をBとするとき、25≦A≦64、0.5≦B/A≦1.5の範囲内となるように行われる。
【0018】
なお、上記のルチン、ケルセチン、スクロース及びグルコースの濃度はppmで表されるが、各成分を一斉定量しているため、その値は重量比率に相当するものと見なすことができる。
【0019】
(R)ルチンと(Q)ケルセチンの含有重量比率A[A=(R)/(Q)]、(S)スクロースと(G)グルコースの含有重量比率B[B=(S)/(G)]において、25≦A≦64、0.5≦B/A≦1.5である抽出液は、呈味がよく、また、抽出液に含まれる浮遊物が少なく、沈殿を生じにくいという優れた性質を有する。
【0020】
抽出液の含有成分比が上記範囲となるように焙煎条件を決定することにより、焙煎の程度を適切にすることができ、優れた呈味を有し且つ沈殿の発生が抑制された容器詰ソバ茶飲料を安定して提供することができる。なお、ここで焙煎条件とは、焙煎の時間や温度を含む加熱条件を意味する。
【0021】
一方、(R)ルチンと(Q)ケルセチンの重量比率A[(R)/(Q)]が25未満である場合は、焙煎の程度が高すぎることを示す。焙煎の程度が高すぎる場合、苦味やえぐ味が強くなり、呈味が劣化する。また、(R)ルチンと(Q)ケルセチンの重量比率A[(R)/(Q)]が64を超える場合は、焙煎の程度が低すぎることを示す。焙煎の程度が低すぎる場合、酸味やえぐ味が強く、一方で甘みや焙煎香が弱く、呈味が優れない。また、(S)スクロースと(G)グルコースの含有重量比率B[B=(S)/(G)]としたときに、B/Aが1.5を超える場合は、焙煎の程度が高すぎることを示し、一方B/Aが0.5に満たない場合は、焙煎の程度が低いことを示しており、いずれの場合も呈味が劣化する。
【0022】
本態様ではさらに、ソバ茶の原料としてダッタンソバ実と普通ソバ実を含むことが好ましい。ダッタンソバ実は、ビタミンPとして知られるルチンを多く含むが、特有の苦味を有することが知られている。普通ソバ実とダッタンソバ実の両方を用いることによって、ルチンのような健康食品として有用な有効成分を多く含みながら、呈味のよいソバ茶を調製することができる。
【0023】
普通ソバ実とダッタンソバ実は、任意の比率で混合することができる。例えば、ダッタンソバ実100重量部に対して、普通ソバ実を0〜250重量部の割合で混合することができ、普通ソバ実を25〜200重量部の割合で混合することが好ましく、さらに好ましくは40〜180重量部の割合で混合することが好ましい。
【0024】
本態様ではさらに、抽出液中のルチンの含有量が、ブリックス度(Brix)が0.15〜0.3の場合に69ppm以上となるように焙煎条件を決定することが好ましい。抽出液中のルチンの含有量が69ppm以上である場合、焙煎の程度が高すぎず、優れた呈味を有するソバ茶を提供することができる。また、焙煎が高すぎないことにより、ルチン等の有効成分が分解されて含有量が低下することを防ぐことができ、有効成分を多く含むため、機能性食品としての高い効果を維持することができる。
【0025】
本態様ではさらに、以下の測定方法によって測定したとき、ブリックス度(Brix)が0.15〜0.3の場合において、抽出液中のスクロースの含有量が48ppm以上となるように焙煎条件を決定することが好ましい。
【0026】
以下、糖類の含有量の測定方法を説明する。
糖類の含有量は、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)による分離後、検出器のレスポンス比を検量線と比較し定量される。検出器の検出方法には、紫外可視検出、蛍光検出、示差屈折率、電気化学検出等が挙げられる。糖類は紫外吸収が低波長領域に限られること、および発蛍光性を有していないことから、紫外可視領域ならびに蛍光検出による定量は困難であり、蛍光ラベル試薬等による誘導化が必要である。従って、簡便かつ迅速に分析を行うためには示差屈折あるいは電気化学検出による手法が推奨されるが、検出感度に優れていることから電気化学検出による定量が好ましい。本比較例ならびに実施例においては、アンペロメトリ検出器による定量を行っている。
【0027】
抽出液中のスクロースの含有量が48ppm以上である場合、焙煎の程度が高すぎず、優れた呈味を有するソバ茶を提供することができる。
【0028】
本態様ではさらに、ブリックス度(Brix)が0.15〜0.3の範囲内が好ましく、より好ましくは0.2〜0.3、さらに好ましくは0.217〜0.3、特に0.22〜0.3であることが呈味の面から好ましい。
【0029】
本発明において、ブリックス度とは溶液中の固形分の含有量を意味し、市販の糖度計あるいは屈折計にて計測される。
【0030】
ブリックス度が上記範囲内である抽出液は適度な濃度を有し、ソバ茶として好ましく飲用することができる。
【0031】
本態様において好ましい焙煎条件は、例えば160〜210℃で6〜21分の焙煎とすることができ、9〜21分の焙煎がさらに好ましい。しかしながら、焙煎の温度や時間はこれに限定されず、上述したように抽出液に含まれる各成分が上記範囲内となるように決定することができる。
【0032】
本態様に係る容器詰ソバ茶飲料の製造方法では、上記のように、ソバ実の抽出液に含まれる成分を指標とすることによって、適切な焙煎条件を決定し、ソバ実を焙煎する。次いで、焙煎されたソバ実を、抽出し、抽出液を得る。抽出方法は、当該分野で周知の任意の方法、たとえば熱水による加温抽出等によって行うことができる。
【0033】
抽出液は、必要に応じて、ビタミンCやアスコルビン酸ナトリウム等、及び、炭酸水素ナトリウム、重炭酸ナトリウムや炭酸カリウム等のpH調整剤によってpHを調整する。また、必要に応じて、アスコルビン酸やアスコルビン酸ナトリウム等の酸化防止剤、香料、乳化剤、保存料、甘味料、着色料、増粘安定剤、調味料、強化剤等の添加剤を単独又は組み合わせて配合し、適宜希釈するなどしてソバ茶飲料とする。
【0034】
このようにして調製されたソバ茶を容器に充填し、容器詰ソバ茶飲料とする。容器は、容器は密封可能なものが好ましいが、これに限定されず、当該分野で通常用いられるに任意の容器を使用することができる。
【0035】
さらに、必要に応じて製造工程のいずれかの段階で殺菌を行う。殺菌の条件は食品衛生法に定められた条件と同等の効果が得られる方法を選択すればよいが、例えば、容器として耐熱容器を使用する場合にはレトルト殺菌を行えばよい。また、容器として非耐熱性容器を用いる場合は、例えば、調合液をプレート式熱交換機等で高温短時間殺菌後、所定温度まで冷却し、ホットパック充填するか冷却後に無菌充填を行うことができる。
【0036】
以上の方法により、優れた呈味を有し且つ沈殿の発生が抑制された容器詰ソバ茶飲料を製造することができる。
【0037】
さらに、本態様の別の側面から、上記のように焙煎条件を決定することによる、優れた呈味を有し沈殿の発生が抑制された容器詰ソバ茶飲料を製造するためのソバ実の焙煎方法、及び、容器詰ソバ茶飲料における沈殿の発生を抑制する方法が提供される。
【0038】
本発明の第2の態様において、優れた呈味を有し且つ沈殿の発生が抑制された容器詰ソバ茶飲料が提供される。
【0039】
第2の態様における容器詰ソバ茶飲料は、(R)ルチン(ppm)と(Q)ケルセチン(ppm)の含有重量比率[(R)/(Q)]が25〜64の範囲内であり、且つ、(R)ルチンと(Q)ケルセチンの含有重量比率A[A=(R)/(Q)]、(S)スクロースと(G)グルコースの含有重量比率B[B=(S)/(G)]において、0.5≦B/A≦1.5である。
【0040】
25≦A≦64、0.5≦B/A≦1.5である抽出液は、苦味、酸味、及びえぐ味が低く、甘味及び焙煎香が高く、優れた呈味を有し、また、抽出液に含まれる浮遊物が少なく、沈殿を生じにくい。
【0041】
(R)ルチンと(Q)ケルセチンの重量比率[(R)/(Q)]が25未満である場合は、苦味やえぐ味が強く呈味が好ましくない。また、(R)ルチンと(Q)ケルセチンの重量比率[(R)/(Q)]が64を超える場合は、酸味やえぐ味が強く、一方で甘みや焙煎香が弱く、呈味が好ましくない。また、(S)スクロースと(G)グルコースの含有重量比率 [B=(S)/(G)]が、(R)ルチンと(Q)ケルセチンの含有重量比率A[A=(R)/(Q)]としたときにB/Aが0.5未満、または1.5を超える場合は、苦味やえぐ味が強く呈味が好ましくない。
【0042】
本態様に係る容器詰ソバ茶飲料は、さらに、ルチンの含有量が69ppm以上であることが好ましい。ルチンの含有量が69ppm以上であるソバ茶飲料は、機能性食品としてより高い効果を有することができる。
【0043】
また、容器詰ソバ茶飲料におけるスクロースの含有量は、上記第1の態様において説明した方法により測定したとき、48ppm以上であることが好ましい。スクロースの含有量が48ppm以上であるソバ茶飲料は、苦味、酸味、及びえぐ味が低く、甘味及び焙煎香が高く優れた呈味を有する。
【0044】
またさらに、容器詰ソバ茶飲料におけるブリックス度(Brix)が0.15〜0.3の範囲内が呈味の面から好ましく、より好ましくは0.2〜0.3、さらに好ましくは0.217〜0.3、特に0.22〜0.3であることが呈味の面から好ましい。ブリックス度が上記範囲内であるソバ茶は適度な濃度を有し、ソバ茶として好ましく飲用することができる。
【0045】
本態様においては、上記のようなソバ茶が容器に充填された容器詰ソバ茶飲料が提供される。ここで、容器は密封可能なものが好ましいが、これに限定されない。容器には、例えば、金属、ガラス、プラスチック、紙、及び/又は、金属やプラスチックフィルムと複合された紙から作られる容器を含むがこれに限定されない。例えば、透明なガラス瓶、ポリエチレンテレフタレートを主成分とする成形容器(いわゆるPETボトル)、酸素バリヤー層等を設けた多層成形容器等の透明プラスチック容器を使用することができる。
【実施例】
【0046】
焙煎の程度と、抽出液に含まれる成分の含有量及び呈味の関係についての試験を行った。
α化・乾燥されたダッタンソバ実と普通のソバ実を、2:0、2:1、及び2:2の割合で混合し、それぞれ、電熱器(ホットプレート)を用いて、サーモスタットにより表面温度160〜210℃、平均約180℃に制御し、達温180℃で実を投入し3、6、9、15、21及び30分間焙煎した。各条件について、焙煎後のソバ実を抽出し、抽出液のサンプルを得た。次いで、サンプル中に含まれる各成分の含有量を測定した。また、各サンプルについて官能試験を行った。
【0047】
ソバ実の抽出は次のように行った。ソバ実の重量に対し、95℃に加温した温水を30倍量加えた。5分毎に1分程度攪拌しながら95℃の水温を保ち、50分加温抽出した。次いで金属網を用いて抽出液と残渣を分離し、抽出液を25℃まで冷却後、ネル濾過および濾紙濾過(東洋濾紙 No.2)を行なった。次いで、ビタミンCを希釈後における最終濃度300ppmとなるように添加し、炭酸水素ナトリウムを用いてpHを約6.4とした後イオン交換水を加え、表1に記載の最終希釈液あたりのソバ実量となるように希釈した。例えば比較例2-1の場合、3分焙煎したダッタンソバ24g、普通ソバ12gに1080mLの温水を加えて抽出し所定操作後、容量2Lとなるようにイオン交換水にて希釈した。これをホットパックによる加温滅菌ならびにレトルト殺菌し所定の実施例ならびに比較例のサンプルとした。
【0048】
<分析方法>
各サンプルにおける、各成分の含有量は次のように測定した。
<グルコースおよびスクロースの測定>
サンプル原液100μLに100mM 水酸化ナトリウム水溶液を100μL、1000ppm ラクト−ス水溶液を2μL、蒸留水を798μL加え分析用原液とした。分析用原液を、1mLのメタノールおよび10mM 水酸化ナトリウム水溶液で洗浄した固層担体(BOND Elut-SAX、1mL,VARIAN社製)に通液した。最初の100μLは廃棄し、次いで得られる300μLを分析用検体とした。検量線用検体には、スクロース、グルコースおよびラクト−スを各10ppm含有する原液を0.3125ppmまで6段階に希釈した各溶液を調製した。また校正用検体として、分析用原液調製にてサンプルを蒸留水に置き換えた校正用ラクト−ス溶液を調製した。分析用検体、検量線用検体、校正用検体はそれぞれ0.45μmカートリッジフィルターに通液した後、後述の機器・条件を用いてHPLC分析に供した。得られた結果は、校正用検体のラクト−ス値(L’)を各分析用検体のラクトース値(L)で除した補正係数k=(L’)/(L)を、各分析検体のグルコースおよびスクロース分析値に乗じて分析用原液の濃度を求め、さらに希釈率を乗じてサンプル原液中の含量とした。
【0049】
(分析条件)
サンプル注入量:25μL、流量:1.0mL/min、溶離液A:0.2M水酸化ナトリウム水溶液、溶離液B:1M酢酸ナトリウム水溶液、溶離液C:蒸留水、カラム温度30℃。
【0050】
(分析機器)
HPLC装置の構成ユニットの型番は次の通り(全て日本ダイオネクス社製)。検出器:統合アンペロメトリ検出器EC50A、オーブン:TCC−100、ポンプ:GP50、オートサンプラー:AS50、解析用ソフトウェア:CHROMELEON、カラム:Carbopac PA1 (ガードカラム : 径4 x 50mm, 分離用カラム: 径4 x 長さ250mm)。
【0051】
(濃度勾配条件)
時間 (溶離液A/溶離液B/溶離液C)
0〜14分(15/0/85)
30分(100/0/0)
31〜40分(0/100/0)
41〜55分(15/0/85)
【0052】
<ルチンおよびケルセチンの測定>
サンプル原液を0.45μmカートリッジフィルターに通液したものを、そのまま分析用検体とした。検量線用のルチンおよびケルセチンは、市販の試薬(ナカライテスク社製)を用い適宜溶液を調製し検量線用検体とした。分析用検体および検量線用検体は後述の機器・条件を用いてHPLC分析に供した。
【0053】
(分析条件)
サンプル注入量:10μL、流量:0.55mL/min、溶離液A:0.1%リン酸水溶液、溶離液B:0.1%リン酸アセトニトリル溶液、カラム温度40℃。
【0054】
(分析機器)
HPLC装置の構成ユニットの型番は次の通り。検出器:Waters2996フォトダイオードアレイディテクター(日本ウォーターズ社製、検出波長:355nm)、HPLCシステム:Waters2695 allianceセパレ−ションモジュール(日本ウォーターズ社製)、解析用ソフトウェア:Empower(日本ウォーターズ社製)、カラム:Hydrosphere C18 HS-3E3 (ワイエムシィ社製、径3 x 長さ250mm)。
【0055】
(濃度勾配条件)
時間 (溶離液A/溶離液B)
0〜9分(100/0)
10分(95/5)
12分(80/20)
17.5分(70/30)
18〜21.5分(40/60)
22〜30分(100/0)
【0056】
<官能試験>
8名の成年ボランティアに各サンプルを試飲させ、それぞれの評価項目について数値で評価させ、その平均値を算出した。評価項目は、苦味、酸味、えぐ味、焙煎香及び総合評価(好み)であった。呈味の評価は、「1:ない、2:弱い、3:普通、4:やや強い、5:強い」として1〜5の数値で表した。総合評価の評価は5段階で表し、「1:嫌い・まずい、3:普通、5:好き・美味しい」として、評価が高いほど数値が高くなるようにした。
【0057】
<味覚センサーによる評価>
味覚センサーは、株式会社インテリジェントセンサーテクノロジー製SA402B味認識装置を使用した。味認識装置SA402Bでは、ウエーバーの法則に基づき、換算式を用いて試験液の味強度の違いを推定数値化している。推定数値を用いたマッピング中では、数値1の差でヒトが味の差を識別可能であるとされる。焙煎時間の中央値である15分のサンプルで得られた数値を基準値として、各サンプルの測定値を相対値として求めた。
【0058】
<澱の評価>
65℃の恒温乾燥器内に6日間静置したサンプルについて、底部を目視により観察した。
【0059】
<結果>
実施例及び比較例の各サンプルの条件は表1に示した。各サンプルにおける成分の含有量ならびに比を表1及び図1〜6に示した。また、各サンプルについての官能試験及び味覚センサーによる評価の結果を、表2〜4及び図7〜9に示した。さらに、65℃にて6日間放置した後に澱が発生したかどうかを観察し、その結果を表1に示した。視覚的に若干の変化が生じたが容器詰飲料として許容されるサンプルは+で表し、明確な澱が発生した場合は++で表し、変化が観察されなかった場合は−で示した。
【表1】

【0060】
【表2】

【0061】
【表3】

【0062】
【表4】

【0063】
図1に、(R)ルチンと(Q)ケルセチンの含有重量比率R/Qを示す。図1から、焙煎時間が長くなるほど、R/Q値が低下する傾向があることが示された。
【0064】
図2に、(S)スクロースと(G)グルコースの含有重量比率S/Gを示す。図2から、S/G値は、焙煎開始から約6分間は上昇するが、焙煎を続けるに従って低下することが示された。
【0065】
図7〜9は、ダッタンソバ実と普通のソバ実の混合比が異なるサンプル(1群:実施例1-1〜1-4および比較例1-1〜2)、(2群:実施例2-1〜2-4および比較例2-1〜2)、(3群:実施例3-1〜3-4および比較例3-1〜2)のそれぞれについての官能試験の結果を表すグラフである。図7〜9のそれぞれにおいて、総合評価の結果は、焙煎時間が6〜30分のときに評価が高く、焙煎時間が9〜30分の時により評価が高く、焙煎時間が21分であり、焙煎の程度がやや強めであるサンプルが特に高く評価された。
【0066】
一方、味覚センサーによる呈味試験では、試験で行った焙煎時間の中央値(15分)を基準として相対値を求めたところ、焙煎時間30分では2以上の数値の開きが観測された。これは焙煎に伴い苦味が増強した官能試験結果とも一致した。一方、総合評価では官能試験では30分焙煎品も比較的良好な結果を得ているが、これは焙煎香によるマスキング効果によるものと推測され、例えば、味覚および嗅覚が発達していない幼年齢者や若年齢者においては、マスキング効果は期待できず、該飲料の摂取には困難をきたすと予想された。
【0067】
上記の理由により、焙煎時間は30分未満であることが好ましいと考えられる。よって、好ましい焙煎時間は6〜21分とすることができる。
【0068】
図1から、焙煎時間6〜21分におけるR/Q値は、約25〜約64の範囲である。また、図6から、焙煎時間6〜21分におけるS/G値(B)は、R/Q値(A)との比をとった場合、0.5〜1.5の範囲である。
【0069】
よって、R/Qが25〜64の範囲内であり、且つ、R/Q(=A)およびS/G(=B)が0.5≦B/A≦1.5であるとき、本実施例における焙煎時間は6〜21分であり、これを適切な焙煎条件とすることができる。このような適切な焙煎条件に従って焙煎を行った場合、優れた呈味を有し、且つ、沈殿発生の抑制されたソバ茶を製造することができることが示された。
【0070】
図3は焙煎時間とルチン含有量の関係を示すグラフである。図3から、焙煎時間が長くなるほどルチンの含有量が低下することが分かる。焙煎時間21分におけるルチン含有量は約69ppmであり、よって、ルチンの含有量が約69ppm以上となるように焙煎、抽出および希釈することにより、優れた呈味を有し、且つ、沈殿発生の抑制されたソバ茶を製造することができる。
【0071】
図4は焙煎時間とスクロース含有量の関係を示すグラフである。図4から、焙煎時間が長くなるほどスクロースの含有量が低下し、特に焙煎時間が15〜21分の間で急激に低下することが分かる。焙煎時間21分におけるスクロース含有量は約48ppmであり、よって、スクロースの含有量が約48ppm以上となるように焙煎、抽出および希釈することにより、優れた呈味を有し、且つ、沈殿発生の抑制されたソバ茶を製造することができる。
【0072】
スクロースは、140〜150℃以上でカラメル化等による分解が進行して減少し、一方、100℃未満では変化しない性質を有する。官能試験結果でも、焙煎時間が長くなるほど焙煎香が増強されることが示されており、この原因の一つとして、スクロースのカラメル化が挙げられる。一方、苦味やえぐ味が増加する原因の一つとして、スクロース等の「焦げ」が考えられる。
【0073】
図5は焙煎時間とグルコース含有量の関係を示すグラフである。図5から、焙煎初期においてグルコースの含有量が減少するが、その後はあまり変化しないことが示された。グルコースは、加熱によりメイラード反応等に供され、フルフラール等の芳香性化合物を生成することが知られている。6分未満の焙煎では、他のサンプルに比べて多く含まれているが、これは加熱が弱いために同反応が十分に進行せず、芳香性化合物の生成が抑えられたため、グルコースが残存したものと考えられる。官能試験においても、短時間の焙煎では焙煎香が低く、総合評価(好み)も低かった。
【0074】
図6はルチン/ケルセチン比A(=R/Q)とスクロース/グルコース比B(=S/G)の関係を示したグラフである。図6から、各直線は、実線がB/A=0.5、点線がB/A=1.5を示す。各群の比較例はこれら線分により挟まれ定義される範囲の外にある。一方、呈味に優れた実施例は全てこれらの線分範囲内となることから、この範囲に該当するようにソバ実を焙煎、抽出することにより優れた呈味を有するソバ茶を提供することが可能となる。
【0075】
また、表1から、焙煎時間が短いほど澱が発生しやすいことが示された。特に焙煎時間の短いサンプル比較例2-1および3-1は、放置後6日目において、明瞭に澱が観察された。これらのサンプルでは、他のサンプルと比較してR/Q比が高かった。一方、焙煎時間の長いサンプルでは、澱は観察されなかった。
【0076】
官能試験では、焙煎時間の短いサンプルは、酸味・えぐ味が強いと感じられ、総合評価も低かった。一方、焙煎時間の長いサンプルは、えぐ味と苦味が強いと感じられたが、総合評価に比較的高かった。焙煎時間の長いサンプルは、味センサーによる測定では、焙煎時間に比例して苦味が増大した。しかしながら、官能試験では、焙煎時間が長くなっても、苦味は顕著には増加しなかった。これは焙煎香などによって苦味がマスキングされるなどして緩和された可能性を示唆しているが、当該香が強すぎるため、味覚の十分に発達していない幼児や若年層には逆に苦味が直接的に増強される可能性も示唆される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(R)ルチンと(Q)ケルセチンの含有重量比率A[(R)/(Q)]が25〜64の範囲内であり、且つ、下記(I)式を満たすことを特徴とする容器詰ソバ茶飲料:
0.5≦ B/A ≦1.5 (I)
ここで、Bは(S)スクロースと(G)グルコースの含有重量比率[(S)/(G)]である。
【請求項2】
ルチンの含有量が69ppm以上であることを特徴とする、請求項1に記載の容器詰ソバ茶飲料。
【請求項3】
スクロースの含有量が、HPLCを用いた分析方法により測定したとき、48ppm以上であることを特徴とする、請求項1又は2の何れか一項に記載の容器詰ソバ茶飲料。
【請求項4】
ソバ実を焙煎する工程と、
前記焙煎されたソバ実を抽出して抽出液を得る工程と、
を具備する容器詰ソバ茶飲料を製造する方法であって、
前記焙煎が、前記抽出液に含有される(R)ルチンと(Q)ケルセチンの重量比率A[(R)/(Q)]が25〜64の範囲内となり、且つ、下記(I)式を満たすように行われることを特徴とする容器詰ソバ茶飲料の製造方法:
0.5≦ B/A ≦1.5 (I)
ここで、Bは該抽出液に含有される(S)スクロースと(G)グルコースの含有重量比率[(S)/(G)]である。
【請求項5】
前記ソバ実にダッタンソバ実が含まれることを特徴とする、請求項4に記載の容器詰ソバ茶飲料の製造方法。
【請求項6】
前記焙煎が、前記抽出液に含有されるルチンが69ppm以上となるように行われることを特徴とする、請求項4又は5に記載の容器詰ソバ茶飲料の製造方法。
【請求項7】
前記焙煎が、前記抽出液に含有されるスクロースが、HPLCを用いた分析方法により測定したとき、48ppm以上となるように行われることを特徴とする、請求項4〜6の何れか一項に記載の容器詰ソバ茶飲料の製造方法。
【請求項8】
焙煎されたソバ実を抽出して得られる抽出液において、(R)ルチンと(Q)ケルセチンの重量比率A[(R)/(Q)]が25〜64の範囲内となり、且つ、下記(I)式を満たすようにソバ実を焙煎することを特徴とする容器詰ソバ茶飲料の澱発生抑制方法:
0.5≦ B/A ≦1.5 (I)
ここで、Bは該抽出液に含有される(S)スクロースと(G)グルコースの含有重量比率[(S)/(G)]である。
【請求項9】
焙煎されたソバ実を抽出して得られる抽出液において、(R)ルチンと(Q)ケルセチンの重量比率A[(R)/(Q)]が25〜64の範囲内となり、且つ、下記(I)式を満たすようにソバ実を焙煎することを特徴とする容器詰ソバ茶飲料の呈味改善方法:
0.5≦ B/A ≦1.5 (I)
ここで、Bは該抽出液に含有される(S)スクロースと(G)グルコースの含有重量比率[(S)/(G)]である。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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