説明

密封装置

【課題】熱負荷によるシールリップ11,12の劣化を抑え、長期にわたって密封性能の健全性を維持する。
【解決手段】ハウジング2に密嵌状態に固定される金属環14と、この金属環14に一体的に設けられて、ハウジング2に挿通された軸3の外周面に全周が摺動可能に密接されるゴム状弾性材料からなるシールリップ11,12とを備える密封装置1において、ハウジング2の外部へ露出される金属環14の外側面に、複数の凹凸14a,14bを形成することによって、金属環14の放熱面積を増大させ、熱の蓄積を防止又は抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸周をシールする密封装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の油圧緩衝器(ショックアブソーバ)のピストンロッド等の軸周シール手段として用いられる密封装置の典型的な従来技術として、例えば下記の特許文献1に記載されたものがある。
【特許文献1】特開2001−173797号公報
【0003】
図3は、上記特許文献1に記載された従来の密封装置を、油圧緩衝器の一部と共に、その軸心を通る平面で切断して示す断面図である。この図3において、密封装置100は、油圧緩衝器のハウジング2とピストンロッド3の間に介在されており、平ワッシャ状の金属環104の内周部にゴム状弾性材料によって一体的に成形された主リップ101及びダストリップ102と、前記金属環104の外周部にゴム状弾性材料によって一体的に成形された外周ガスケット103とを有する。
【0004】
ハウジング2の内部を向いた対油用の主リップ101は、外周に、緊迫力を補償するためのエキステンションスプリング105が装着されており、内周がピストンロッド3の外周面に適当な締め代で密接することによって、内部の作動油Oがハウジング2の外部へ流出するのを阻止するものであり、ダストリップ102は、内周がピストンロッド3の外周面に適当な締め代で密接することによって、外部から異物がハウジング2内へ侵入するのを阻止するものである。
【0005】
ところで、この種の油圧緩衝器は、不図示のピストンに開設されたオリフィスを作動油Oが流動する時の粘性抵抗によって振動に対する減衰を得るものであり、言い換えれば、運動エネルギを熱エネルギに変換することによって振動を減衰させるものである。また、主リップ101及びダストリップ102は、振動の入力によって往復動するピストンロッド3と摺動するので、その摺動部では摩擦熱が発生する。
【0006】
したがって、上述のようなメカニズムによって発生する熱が蓄積されると、ゴム状弾性材料で成形された主リップ101及びダストリップ102の硬化が進行し、すなわち熱負荷によってゴム材質が劣化して、密封性能が低下してしまうおそれがあった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上のような点に鑑みてなされたものであって、その技術的課題とするところは、熱負荷によるシールリップの劣化を抑え、長期にわたって密封性能の健全性を維持することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した技術的課題を有効に解決するための手段として、本発明は、ハウジングに密嵌状態に固定される金属環と、この金属環に一体的に設けられて、前記ハウジングに挿通された軸の外周面に全周が摺動可能に密接されるゴム状弾性材料からなるシールリップとを備える密封装置において、前記ハウジングの外部へ露出される前記金属環の外側面に、複数の凹凸が形成されたものである。
【0009】
すなわち、ハウジングの外部へ露出される金属環の外側面に複数の凹凸を形成することによって、前記外側面の表面積、言い換えればこの金属環に伝熱された場合の放熱面積が増大するので、熱の蓄積が防止又は抑制される。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る密封装置によれば、金属環の外側面に複数の凹凸を形成することによって、外部への放熱量が増大し、このためゴム状弾性材料からなるシールリップの熱負荷が低減されるので、長期にわたって密封性能の健全性を維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明に係る密封装置の好適な実施の形態について、図面を参照しながら説明する。図1は、本発明に係る密封装置の実施の形態を、油圧緩衝器の一部と共にその軸心を通る平面で切断して示す断面図、図2は、図1の密封装置を、その軸心を通る平面で切断して示す未装着状態の片側断面図である。
【0012】
図1において、参照符号2は、油圧緩衝器のハウジング、参照符号3は、ハウジング2の内周に挿通されてこのハウジング2内の不図示のピストンを動作させるピストンロッド、参照符号4は、ハウジング2の内周に固定され、ピストンロッド3を軸方向移動可能に軸支するロッドガイドである。なお、ピストンロッド3は、請求項1に記載された軸に相当する。
【0013】
密封装置1は、ハウジング2の端部に取り付けられて、ピストンロッド3の軸周をシールするものであり、図2に拡大して示されるように、金属環14の内周部にゴム状弾性材料によって一体的に成形された主リップ11及びダストリップ12と、前記金属環14の外周部にゴム状弾性材料によって一体的に成形された外周ガスケット13とを有する。なお、主リップ11及びダストリップ12は、請求項1に記載されたシールリップに相当する。
【0014】
すなわちこの密封装置1は、所定の金型(不図示)内に、予め加硫接着剤を塗布した金属環14を位置決めセットし、型閉じ状態において金属環14と金型内面との間に画成された環状のキャビティ内に、成形用未加硫ゴム材料を充填して加熱・加圧することにより、主リップ11、ダストリップ12及び外周ガスケット13を、加硫成形と同時に金属環14と加硫接着することによって製作したものである。
【0015】
主リップ11は、金属環14の内周端部からハウジング2の内部側へ向けて、先端側が小径になる円錐筒状に延びており、内周面に、V字形の断面形状をなして円周方向へ連続して形成されたシール突条11aが、ピストンロッド3の外周面に適当な締め代で密接されることによって、内部の作動油Oが軸周からハウジング2の外部へ流出するのを阻止する対油用シールである。この主リップ11の外周面には、シール突条11aの外周側に位置して円周方向に連続した溝11bが形成されており、この溝11bには、ピストンロッド3に対する主リップ11の緊迫力を補償するためのエキステンションスプリング15が装着されている。
【0016】
ダストリップ12は、金属環14の内周端部から主リップ11と反対側(外部空間側)へ向けて、先端側が小径になる円錐筒状に延びており、その内周端部がピストンロッド3の外周面に適当な締め代で密接されることによって、外部の異物が軸周からハウジング2内へ侵入するのを阻止するものである。
【0017】
外周ガスケット13は、金属環14の外周部における内側面に加硫接着されて、ハウジング2内部へ向けて延び、ロッドガイド4の外周部とハウジング2の内周面との間に、圧縮状態で介在されることによって、ロッドガイド4の外周側で作動油Oをシールするものである。
【0018】
金属環14は平ワッシャ状に形成されたものであって、その外周部が、ロッドガイド4の外側に、ハウジング2の端部に屈曲形成されたカシメ部2aによってカシメ固定される。そして、この金属環14の外側面には、同心円状の多数の溝14aが形成され、この溝14aと、その間の相対的な突条部14bによって、請求項1に記載された凹凸を構成している。なお、この溝14aは、カシメ部2aと当接される部分と、ダストリップ12の基部12aが加硫接着された部分との間の領域に形成されている。
【0019】
以上の構成において、先に説明したように、この種の油圧緩衝器は、不図示のピストンに開設されたオリフィスを作動油Oが流動する時の粘性抵抗によって、運動エネルギを熱エネルギに変換して振動を減衰させるものであるため、内部に熱を発生し、この熱は、密封装置1にも伝達されることになる。また、この密封装置1における主リップ11及びダストリップ12も、ピストンロッド3との摺動によって熱を発生する。
【0020】
しかしながら、本発明の密封装置1は、ハウジング2の外部へ露出した金属環14の外側面に、同心円状の多数の溝14aと、その間の相対的な突条部14bによる凹凸が形成されているので、大気への放熱面積が増大する。このため上述のような発熱による温度上昇が抑制されるので、ゴム状弾性材料からなる主リップ11及びダストリップ12の熱負荷が低減され、長期にわたって密封性能の健全性を維持することができる。
【0021】
なお、金属環14の外側面の凹凸は、同心円状の溝14a(及び突条部14b)によるものに限定されるものではなく、種々の形状のものが適用可能である。また、本発明は、上述のような油圧緩衝器用の密封装置に限らず、例えば回転軸周をシールする密封装置の場合も、金属環が外部へ露出したものであれば適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る密封装置を、油圧緩衝器の一部と共にその軸心を通る平面で切断して示す断面図である。
【図2】図1の密封装置を、その軸心を通る平面で切断して示す未装着状態の片側断面図である。
【図3】従来の密封装置を、油圧緩衝器の一部と共にその軸心を通る平面で切断して示す断面図である。
【符号の説明】
【0023】
1 密封装置
11 主リップ(シールリップ)
12 ダストリップ(シールリップ)
13 外周ガスケット
14 金属環
14a 溝(凹凸)
14b 突条部(凹凸)
15 エキステンションスプリング
2 ハウジング
2a カシメ部
3 ピストンロッド(軸)
4 ロッドガイド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジング(2)に密嵌状態に固定される金属環(14)と、この金属環(14)に一体的に設けられて、前記ハウジング(2)に挿通された軸(3)の外周面に全周が摺動可能に密接されるゴム状弾性材料からなるシールリップ(11,12)とを備える密封装置(1)において、前記ハウジング(2)の外部へ露出される前記金属環(14)の外側面に、複数の凹凸(14a,14b)が形成されたことを特徴とする密封装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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