説明

密封装置

【課題】保護フランジ3と第二の密封要素2のダストリップとの密接摺動部及び第二の密封要素2と第一の密封要素のダストリップとの密接摺動部に大気B側からの泥水やダスト等が侵入するのを防止して、密封装置の耐久性を向上させる。
【解決手段】静止側200に装着された第一の密封要素1と、回転側300に装着され、第一の密封要素1と摺動可能に密接された第二の密封要素2と、これら第一及び第二の密封要素1,2の大気B側に配置され、前記第二の密封要素2と摺動可能に密接された保護フランジ3と、保護フランジ3の外側面に密接状態に配置されると共に、回転側300にホルダ4を介して密封的に装着された合成樹脂リング5とを備える。泥水等の侵入は、保護フランジ3とその外側に配置された合成樹脂リング5との密接摺動部によって遮断される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸周をシールする密封装置において、特に、外部のダストや泥水の条件が過酷な環境で使用されるものに関する。
【背景技術】
【0002】
耕耘機やトラクタ等のような農業機械や建設機械の足回りを密封するために用いられる密封装置は、泥水等による過酷な環境で使用される。図4は、このような条件で使用される従来の密封装置を、軸心Oを通る平面で切断して示す片側断面図である。
【0003】
この種の密封装置は、ハウジング200に装着された第一の密封要素101と、軸300に装着され、前記第一の密封要素101と摺動可能に密接された第二の密封要素102と、これら第一及び第二の密封要素101,102の大気B側に配置され、第二の密封要素102と摺動可能に密接された保護フランジ103とを備える。
【0004】
詳しくは、第一の密封要素101は、軸300側の第二の密封要素102におけるスリーブ102aの外周面に摺動可能に密接されることにより機内Aの油脂類を密封する対油リップ101aと、その外側に位置し、前記スリーブ102aの外周面及びこのスリーブ102aから展開したシールフランジ102bに摺動可能に密接された複数のダストリップ101b〜101eと、前記シールフランジ102bに一体的に設けられて、保護フランジ103に前記シールフランジ102bの外側で摺動可能に密接された複数のダストリップ102c〜102eとを備える。すなわち、厳しい泥水条件に対して、ゴム状弾性材料からなる多数のダストリップによって対応している。
【0005】
しかしながら、従来の密封装置では、ゴム状弾性材料からなるダストリップのみでは、外部の泥水やダスト等による過酷な環境に対する十分な耐久性を確保することが困難であった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述のような問題に鑑みてなされたもので、その技術的課題は、保護フランジ103と第二の密封要素102のダストリップ102c〜102eとの密接摺動部及び第二の密封要素102と第一の密封要素101のダストリップ101b〜101eとの密接摺動部に、大気B側の泥水やダスト等が侵入するのを防止して、耐久性に優れた密封装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した技術的課題を有効に解決するための手段として、請求項1の発明に係る密封装置は、静止側及び回転側のうちの一方に装着された第一の密封要素と、前記静止側及び回転側のうちの他方に装着され、前記第一の密封要素と摺動可能に密接された第二の密封要素と、これら第一及び第二の密封要素の大気側に配置され、前記第二の密封要素と摺動可能に密接された保護フランジとを備える密封装置において、前記保護フランジの外側面に密接状態に配置されると共に、前記静止側及び回転側のうちの一方にホルダを介して密封的に装着された合成樹脂リングとを備えるものである。
【0008】
請求項2の発明に係る密封装置は、請求項1に記載の構成において、合成樹脂リングが金属製のホルダに押圧されて、保護フランジの外側面に平面同士で密接されるものである。
【発明の効果】
【0009】
請求項1の発明に係る密封装置によれば、外部の泥水やダストが、保護フランジとその内側の第二の密封要素との密接摺動部及び第二の密封要素と第一の密封要素との密接摺動部へ侵入するのを、保護フランジとその外側に配置された合成樹脂リングとの密接摺動部によって遮断するため、泥水やダストの侵入による密封性の低下を防止して、過酷な環境での耐久性を有効に向上することができる。
【0010】
請求項2の発明に係る密封装置によれば、請求項1の構成において、所要の密封面圧と、広い密封摺動面が確保されるので、外部の泥水やダストに対する安定した密封性を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明に係る密封装置の好適な実施の形態について、図面を参照しながら説明する。まず図1は、本発明に係る密封装置の第一の形態を、その軸心Oを通る平面で切断して示す片側断面図である。
【0012】
図1において参照符号200はハウジング、参照符号300はハウジング200の内周に同心的に挿通された軸である。ここでは、ハウジング200は、請求項1に記載された静止側に相当し、軸300は、請求項1に記載された回転側に相当するものとして説明する。
【0013】
本発明に係る密封装置は、ハウジング200と軸300の間の環状空間に配置されるものであって、ハウジング200に装着された第一の密封要素1と、軸300に装着され、前記第一の密封要素1と摺動可能に密接された第二の密封要素2と、これら第一及び第二の密封要素1,2の大気B側に配置され、第二の密封要素2と摺動可能に密接された保護フランジ3と、この保護フランジ3の外側面に密接状態に配置されると共に、軸300側にホルダ4を介して密封的に装着された合成樹脂リング5とを備える。
【0014】
第一の密封要素1は、補強環11にゴム状弾性材料からなる第一のシールリング12を一体に成形したものである。
【0015】
詳しくは、第一の密封要素1における補強環11は、金属のプレス成形品であって、円筒部11aと、その機内A側の端部から内周側へ延びる内向き鍔部11bと、円筒部11aの大気B側の端部に外周側へ凸の折り返し形状に形成されたカシメ部11cからなる。
【0016】
また、第一の密封要素1における第一のシールリング12は、機内A側を向くと共に外周にエキステンションスプリング127が装着された対油リップ121と、それより外側(大気B側)に位置して対油リップ121と反対側を向いた複数のダストリップ122〜125とを備える。これら対油リップ121及びダストリップ122〜125は、補強環11を埋設状態に一体に有する共通の基部126から延びており、この基部126の外周部が、ハウジング200の内周面に適当なつぶし代をもって密嵌されている。
【0017】
第二の密封要素2は、スリーブ21にゴム状弾性材料からなる第二のシールリング22を一体に成形したものである。
【0018】
詳しくは、第二の密封要素2におけるスリーブ21は、金属のプレス成形品であって、円筒状のスリーブ本体部21aと、その大気B側を向いた端部から外周側へ円盤状に展開したシールフランジ21bからなる。そして、第一の密封要素1(第一のシールリング12)における対油リップ121及びダストリップ122,123が、スリーブ本体部21aの外周面に摺動可能に密接され、ダストリップ124,125が、シールフランジ21bの内側面(機内A側を向いた面)に摺動可能に密接されている。
【0019】
また、第二の密封要素2における第二のシールリング22は、大気B側を向いた複数のダストリップ221〜223を備える。これらダストリップ221〜223は、スリーブ21に加硫接着されたゴム層224から延びており、このゴム層224のうち、スリーブ本体部21aの内周側を覆うように円筒状に形成された部分は、軸300の外周面に適当なつぶし代をもって密嵌されている。
【0020】
保護フランジ3は、金属のプレス成形品であって、その外周端3aは、第一の密封要素1における補強環11のカシメ部11cに、そのカシメにより結合されている。そして、第二の密封要素2におけるダストリップ221,222が、保護フランジ3の内側面(機内A側を向いた面)に摺動可能に密接され、最も内周側のダストリップ223が、保護フランジ3の内周端部に円筒状に形成された突縁部3bの内周面に摺動可能に密接されている。
【0021】
ホルダ4は、金属板のプレス成形品であって、第二の密封要素2におけるゴム層224の内周に圧入される。その圧入筒部41は、軸300の外周面との間にクリアランス(不図示)を持たせてあり、その大気B側の端部から外周側へ円盤状に展開した支持フランジ42が形成され、その外周端部に略L字形に屈曲したカシメ部43が形成されている。
【0022】
合成樹脂リング5は、例えばPTFEのような、耐摩耗性に優れると共に摩擦係数の低い合成樹脂材で成形されたものであって、軸心Oを通る平面で切断した断面形状(図示の断面形状)が略長方形をなし、ホルダ4と保護フランジ3との間で挟持されている。そしてこの合成樹脂リング5は、支持フランジ42と反対側を向いた端面5aが、保護フランジ3の外側面に適当な面圧で摺動可能に密接されている。
【0023】
以上の構成において、第一の密封要素1及びこれに結合された保護フランジ3は、静止側であるハウジング200に装着されているので非回転であり、第二の密封要素2とホルダ4及びこれに固定された合成樹脂リング5は、回転側である軸300と共に軸心Oの周りに回転する。
【0024】
そして、第二の密封要素2におけるダストリップ221〜223は、軸300と共に回転することによって非回転の保護フランジ3と密接摺動し、非回転の第一の密封要素1におけるダストリップ122〜125及び対油リップ121は、回転する第二の密封要素2のスリーブ21と密接摺動し、これによってそれぞれシール機能を営む。
【0025】
そして、本発明によれば、ホルダ4によって軸300側に密封的に装着された合成樹脂リング5が、最も外側のダストリップ223の更に外側で、軸300と共に回転しながら、非回転の保護フランジ3の外側面に密接摺動しており、これによって大気B側の泥水や土埃等のダストの侵入を有効に遮断する。そしてこの合成樹脂リング5は、PTFE等の低摩擦合成樹脂材からなり、しかも平坦な端面5aを摺動面としているので、シール面積(摺動面積)が広く、このため、前記泥水等に対する優れた密封機能を発揮する。
【0026】
したがって、泥の堆積や固着等によるダストリップ223の早期摩耗が防止され、ひいては、それよりも内側にある各ダストリップの摩耗も有効に抑制されることになる。
【0027】
図2及び図3は、それぞれ本発明に係る密封装置の他の形態を、その軸心Oを通る平面で切断して示す片側断面図である。この図2及び図3に示される形態は、ホルダ4における支持フランジ42の外周部に、図示の断面において略コ字形に屈曲した環状の嵌合部44を形成し、合成樹脂リング5を、この嵌合部44に嵌着することによって、保護フランジ3の外側面に対する合成樹脂リング5の密接状態を一層安定化させたものであり、特に図3の形態は、上記構成に加えて、合成樹脂リング5に保護フランジ3の外側面と摺動可能に密接されるシールリップ5bを形成することによって、密封性の向上を図ったものである。
【0028】
なお、上述の形態においては、ハウジング200が静止側、軸300が回転側に相当するものとして説明したが、逆に軸300が非回転で、ハウジング200が軸300の周りに回転されるローラのようなものである場合にも、本発明に係る密封装置を用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係る密封装置の第一の形態を、その軸心Oを通る平面で切断して示す片側断面図である。
【図2】本発明に係る密封装置の他の形態を、その軸心Oを通る平面で切断して示す片側断面図である。
【図3】本発明に係る密封装置の他の形態を、その軸心Oを通る平面で切断して示す片側断面図である。
【図4】従来の技術による密封装置を、その軸心Oを通る平面で切断して示す片側断面図である。
【符号の説明】
【0030】
1 第一の密封要素
11 補強環
12 第一のシールリング
121 対油リップ
122〜125 ダストリップ
2 第二の密封要素
21 スリーブ
22 第二のシールリング
221〜223 ダストリップ
224 ゴム層
3 保護フランジ
4 ホルダ
5 合成樹脂リング
5a 端面
5b シールリップ
200 ハウジング(静止側)
300 軸(回転側)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
静止側(200)及び回転側(300)のうちの一方に装着された第一の密封要素(1)と、前記静止側(200)及び回転側(300)のうちの他方に装着され、前記第一の密封要素(1)と摺動可能に密接された第二の密封要素(2)と、これら第一及び第二の密封要素(1,2)の大気(B)側に配置され、前記第二の密封要素(2)と摺動可能に密接された保護フランジ(3)とを備える密封装置において、前記保護フランジ(3)の外側面に密接状態に配置されると共に、前記静止側(200)及び回転側(300)のうちの一方にホルダ(4)を介して密封的に装着された合成樹脂リング(5)を備えることを特徴とする密封装置。
【請求項2】
合成樹脂リング(5)が金属製のホルダ(4)に押圧されて、保護フランジ(3)の外側面に平面同士で密接されることを特徴とする請求項1に記載の密封装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate