説明

密封装置

【課題】シリンダヘッドカバー等のハウジング2の開口3の周縁部3aと、開口3に挿入されるプラグチューブ等の挿入部材6との間をシールする密封装置1において、密封装置1の構成部品がハウジング2の内側へ抜け落ちることがなく外側へ外れることもなく、しかも部品点数の増大や構造の複雑化と云った不都合を生じることもない密封装置1を提供することを目的とする。
【解決手段】第一リップシール11およびその外側に配置される第二リップシール31を有し、両リップシール11,31は何れもハウジング2の外側から開口周縁部3aに装着される。外側の第二リップシール31は、ハウジング2の開口周縁部3aに固定される固定部材32を有し、この固定部材32により第一リップシール11の抜け止めを兼ねる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、密封技術に係る密封装置に係り、更に詳しくは、相手部材に密接するリップシールを有する密封装置に関するものである。本発明の密封装置は、自動車関連分野または一般産業機械の分野等において用いられ、例えば自動車関連分野においては、内燃機関におけるシリンダヘッドカバーとインジェクションパイプとの間またはシリンダヘッドカバーとプラグチューブとの間をシールするために用いられる。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車等車両における内燃機関のシリンダヘッドカバーには、インジェクションパイプやプラグチューブ等の挿入部材を挿入するための開口(挿通孔)が設けられており、この開口に挿入部材を挿入した状態において、開口の周縁部と挿入部材との間をシールするよう密封装置が装着されている。
【0003】
図2は、このような密封装置の一例としてのインジェクションパイプシール51を示しており、このシール51は、シリンダヘッドカバー61に設けた開口62の内周面に嵌着されつつ該開口62の内周面のシールを行なう第1嵌着部53と、インジェクションパイプ63の外周面に追随自在に設けられつつ該インジェクションパイプ63の外周面をシールするシールリップ54と、を有する第1シール部材52と、前記第1嵌着部53の内周面に嵌着されつつ該第1嵌着部53の内周面のシールを行なう第2嵌着部56と、前記インジェクションパイプ63の外周面をシールするダストリップ57と、を有する第2シール部材55と、の組み合わせによって構成されており、シールリップ54およびダストリップ57がともにシリンダヘッドカバー61の外側(図では上側)に向けて配置されていることから、この二重構造のリップ54,57によって、優れたシール作用を発揮することが可能とされている。
【0004】
しかしながら、上記シール51は、図示するようにシリンダヘッドカバー61に対してその内側(図では下側)から装着される構成(装着方向を矢印Aにて示す)であるために、以下のような問題を有している。
(1)上記したようにシール51はシリンダヘッドカバー61に対してその内側から装着される構成であるために、装着後、シール51がシリンダヘッドカバー61の内側へ抜け落ちる可能性がある。特にシリンダヘッドカバー61が樹脂材質により成形されていてその開口周縁部の寸法バラツキが大きい場合には、シール51が抜け落ちる可能性が高い。
(2)シール51の抜け落ちを防止するためには、抜け防止部材を別部品として設ける必要がある。したがって、シール51の部品点数が増大したり構造が複雑化したりすることがある。
【0005】
【特許文献1】特開2003−106455号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は以上の点に鑑みて、密封装置の構成部品がシリンダヘッドカバー等のハウジングの内側へ抜け落ちることがなく外側へ外れることもなく、しかも部品点数の増大や構造の複雑化と云った不都合を生じることもない密封装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の密封装置は、ハウジングにおける開口の周縁部と、前記開口に挿入される挿入部材との間をシールする密封装置において、前記ハウジングに装着されて前記挿入部材に密接する第一リップシールと、前記第一リップシールの外側にて前記ハウジングに装着されて前記挿入部材に密接する第二リップシールとを有し、前記第一および第二リップシールは何れも前記ハウジングの外側から前記開口周縁部に装着されるものであり、前記第二リップシールは、前記ハウジングに固定される固定部材と、前記固定部材に保持されて前記挿入部材に密接するシールリップとを有するとともに、前記固定部材により前記第一リップシールの抜け止めを兼ねることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、以下の効果を奏する。
【0009】
すなわち、上記構成を有する本発明の密封装置においては、第一リップシールおよびその外側に配置される第二リップシールがともにハウジングの外側からハウジングの開口周縁部に装着されるものであるために、装着方向反対側であるハウジングの内側へは抜け落ちることがない構成とされている。また装着後、ハウジングに装着された第二リップシールはその固定部材が第一リップシールの抜け止めを兼ねることから、この固定部材による抜け止め作用によって第一リップシールはハウジングの外側へ外れることがない。一方、第二リップシールはその固定部材がハウジングに強固に固定されることから、やはりハウジングの外側へ外れることがない。したがって、第一および第二リップシールともにハウジングの内側へ抜け落ちることがなくハウジングの外側へ外れることもないダブルリップタイプの密封装置を提供することができる。
【0010】
また、第一リップシールは第二リップシールの固定部材によって抜け止めされるとともに、第二リップシールはその固定部材によって自ら抜け止めされる構成であるために、これらリップシールの抜け防止のために抜け防止部材を別部品として設ける必要がない。したがって、専用の抜け防止部材を設けることによって密封装置の部品点数が増大したり構造が複雑化したりするのを未然に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
つぎに本発明の実施例を図面にしたがって説明する。
【0012】
図1は、本発明の実施例に係る密封装置1の半裁断面を示している。当該実施例に係る密封装置1は、自動車等車両の内燃機関におけるシリンダヘッドカバー2に設けた開口3の周縁部3aと、この開口3に挿入されるプラグチューブ6の周面との間の環状の隙間をシールするものであって、以下のように構成されている。尚、当該密封装置1は、その用途からして、プラグチューブガスケットと称されることもある。
【0013】
すなわち先ず、上記ヘッドカバー2の開口周縁部3aに固定されてプラグチューブ6の周面に密接する第一リップシール(ガスケットまたはガスケット本体とも称する)11が設けられるとともに、この第一リップシール11の外側(図では上側)において同じくヘッドカバー2の開口周縁部3aに固定されてプラグチューブ6の周面に密接する第二リップシール(ダストシールまたは泥水シールとも称する)31が設けられており、この両リップシール11,31はそれぞれヘッドカバー2の外側(図では上側)から開口周縁部3aに装着されるように構成されている。
【0014】
また、第一リップシール11は、ヘッドカバー2の開口周縁部3aの円筒状内周面に予め設けた環状を呈する段差状の軸方向位置決め部4と第二リップシール31の固定部材32との間に挟まれることによってヘッドカバー2に装着される用に構成されており、一方、第二リップシール31は、その構成要素である固定部材32がヘッドカバー2に固定されることによってヘッドカバー2に装着されるように構成されている。段差状の軸方向位置決め部4はヘッドカバー2の外側へ向けて設けられている。
【0015】
上記第一リップシール11は、ヘッドカバー2における開口周縁部3aの円筒状内周面に圧入嵌合される環状の外周取付部12と、プラグチューブ6の周面に密接する環状のシールリップ部19と、外周取付部12およびシールリップ部19間に設けられた環状の偏心追随部22とを一体に有している。
【0016】
このうち、外周取付部12は、筒状部13aの軸方向一端(外端)に径方向内方へ向けてフランジ部13bを一体成形した断面L字形の金属環13と、この金属環13の外周面に被着されたゴム状弾性材製の外周ゴム部14と、金属環13の内周面に被着された同じくゴム状弾性材製の内周ゴム部15とを一体に有しており、外周ゴム部14の更に外周側に、当該第一リップシール11のヘッドカバー2に対する挿入方向(図上B方向)とは逆方向(軸方向反対方向)に傾くようにして環状の外周リップ16が一体成形されている。
【0017】
外周ゴム部14は、その外径寸法φAをヘッドカバー2における開口3の内径寸法φBよりも小さく形成されており(φA<φB)、これによりこの外周ゴム部14は、ヘッドカバー2に対する締め代を零に設定されている。これに対して外周リップ部16は、その外径寸法φCをヘッドカバー2における開口3の内径寸法φBよりも大きく形成されていて(φC>φB)、ヘッドカバー2に対する締め代を零よりも大きな値に設定されており、これにより圧入時に径方向内方へ倒れるように弾性変形してヘッドカバー2における開口3の内径寸法φBの寸法誤差を吸収することが可能とされている。これは、ヘッドカバー2が樹脂材質よりなり、よってその成形時の寸法誤差が金属材質のものよりも大きいことに対処するためである。
【0018】
外周ゴム部14における圧入方向前方側端部の外周部位には、圧入時に第一リップシール11をヘッドカバー2に対して径方向に位置決めするための環状を呈するテーパ状の径方向位置決め部17が設けられている。このテーパ状の径方向位置決め部17は、圧入時に、ヘッドカバー2の段差状軸方向位置決め部4の外周部位に予め対応して設けた環状を呈するテーパ状の径方向位置決め部5に当接し、これにより当該第一リップシール11をヘッドカバー2に対して径方向に位置決めする。
【0019】
偏心追随部22は、外周取付部12の内周ゴム部15から軸方向一方(図では下方)へ向けて一体成形された膜部23と、その先端に一体成形された断面U字形の反転部24とを一体に有しており、この反転部24の先端に軸方向他方(図では上方)へ向けてシールリップ部19が一体成形されている。シールリップ部19には、プラグチューブ6に対する締め代調整用のガータスプリング20が設けられている。尚、偏心追随部22は、その形状がベロー状である場合には、ベロー部と称されることもある。
【0020】
上記したように、ヘッドカバー2における開口3の内周面には、段差状の軸方向位置決め部4が設けられており、これにより第一リップシール11が軸方向に位置決めされるように構成されている。すなわち第一リップシール11は、ヘッドカバー2の外側から開口3に挿入されるが、この挿入時に第一リップシール11の外周ゴム部14が位置決め部4に当接することによって、第一リップシール11がヘッドカバー2に対して軸方向に位置決めされる。また、この位置決め部4の外周部位には、上記したようにテーパ状の径方向位置決め部5が設けられているので、第一リップシール11はヘッドカバー2に対して径方向についても位置決めされる。
【0021】
また、第一リップシール11の外側(図では上側)には、ダストシールとして機能する第二リップシール31が設けられており、これによりダストの侵入を防止し、かつ第一リップシール11がヘッドカバー2から外れるのが防止されている。すなわちこの第二リップシール31は、環状を呈する樹脂製の固定部材32と、この固定部材32の内周部に被着されたゴム状弾性材製のダストリップ部33とを一体に有しており、樹脂材質よりなる固定部材32か同じく樹脂材質よりなるヘッドカバー2に溶着固定されて第一リップシール11を押さえ込むことによって、第一リップシール11を抜け止めし、かつダストリップ部33がプラグチューブ6の周面に密接することによりダストの侵入を防止するように構成されている。
【0022】
上記構成の密封装置1においては、第一リップシール11およびその外側に配置される第二リップシール31がともにヘッドカバー2の外側(図では上側)からヘッドカバー2の開口周縁部3aに装着されるものとされているために、装着方向反対側であるヘッドカバー2の内側(図では下側)へは抜け落ちることがない構成とされている。また装着後、ヘッドカバー2に装着された第二リップシール31はその固定部材32が第一リップシール11の抜け止め部を兼ねることから、この固定部材32による抜け止め作用によって第一リップシール11はヘッドカバー2の外側へ外れることがない。一方、第二リップシール31はその固定部材32がヘッドカバー2に強固に固定されることから、やはりヘッドカバー2の外側へ外れることがない。したがって、第一リップシール11および第二リップシール31がヘッドカバー2の内側へ抜け落ちるのを有効に防止することができるとともにヘッドカバー2の外側へ外れるのを有効に防止することもできる。
【0023】
また、第一リップシール11は第二リップシール31の固定部材32によって抜け止めされるとともに、第二リップシール31はその固定部材32によって自ら抜け止めされる構成であるために、これらリップシール11,31の抜け防止のために抜け防止部材を別部品として設ける必要がない。したがって、専用の抜け防止部材を設けることによって密封装置1の部品点数が増大したり構造が複雑化したりするのを未然に防止することができる。
【0024】
また、ヘッドカバー2の開口周縁部3aに段差状の軸方向位置決め部4が設けられているために、この段差状の軸方向位置決め部4とヘッドカバー2に固定される第二リップシール31の固定部材32との間に第一リップシール11を挟み込んで固定することによって、第一リップシール11を位置決め精度良くかつ作業上容易にヘッドカバー2に固定することが可能とされている。したがって、当該密封装置1の装着作業、特に第一リップシール11の圧入および位置決め作業を容易化することができる。
【0025】
また、第二リップシール31の固定部材32が樹脂材質とされて同じく樹脂材質よりなるヘッドカバー2に溶着固定されることから、固定部材32をヘッドカバー2に対して強固に固定することが可能とされている。したがって、この第二リップシール31による第一リップシール11の抜け止め効果は大きく、かつ第二リップシール31自体もヘッドカバー2に対して強固に固定される。
【0026】
また、上記構成の密封装置1においては、第一リップシール11に設けた外周リップ部16がヘッドカバー2との間のシール作用をなし、シールリップ部19がプラグチューブ6との間のシール作用をなし、偏心追随部22がプラグチューブ6の偏心に対する追随作用をなすが、特に外周リップ部16が上記シール作用とともにヘッドカバー2に対する嵌合作用をなし、かつこの外周リップ部16が圧入時に弾性変形して開口3の内径寸法φBの寸法誤差を吸収可能とされているために、樹脂製のヘッドカバー2における開口3の内径寸法φBに締め代を増大させるような寸法誤差があっても、このリップ部16が倒れて縮径するよう弾性変形することによって、寸法誤差を吸収することが可能とされている。リップ部16は、第一リップシール11のヘッドカバー2に対する圧入方向とは逆方向に傾くように設けられているので、第一リップシール11をヘッドカバー2に圧入するときに倒れ易く、弾性変形し易いものである。したがって、樹脂製のヘッドカバー2における開口3の内径寸法φBに締め代を増大させるような寸法誤差があっても、圧入時の高圧縮荷重をリップ部16が倒れるように弾性変形して吸収することから、第一リップシール11をヘッドカバー2に圧入するときに外周ゴム部14が毟れたり、あるいは第一リップシール11をヘッドカバー2に圧入することができなかったりすると云った不都合が発生するのを未然に防止することができ、そのうえで、上記リップ部16により第一リップシール11をヘッドカバー2に対して径方向に位置決め固定することができる。また、このようにリップ部16は第一リップシール11のヘッドカバー2に対する圧入方向とは逆方向に傾くように設けられているので、圧入荷重も低減される。
【0027】
また、上記したように第一リップシール11を、その外周に設けたリップ部16によってヘッドカバー2に固定する構成とすると、従来のスクィーズ状の外周ゴム部によって固定する場合と比較して、ヘッドカバー2に対する嵌合力が低下することが懸念されるが、上記構成の密封装置1においては、第一リップシール11の外側に第二リップシール31が配置されていて、その構成要素である樹脂製の固定部材32が同じく樹脂製のヘッドカバー2に溶着固定されるために、この固定部材32による抜け止め作用によって、第一リップシール11がヘッドカバー2から抜け出るのを有効に防止することができる。
【0028】
更にまた、第一リップシール11の外側に、固定部材32およびダストリップ部33を一体に有する第二リップシール31が配置されていると、この第二リップシール31によるシール作用によって外部のダストがヘッドカバー2内へ侵入するのを有効に防止することができる。第一リップシール11の外側に第二リップシール31が配置されていないと、泥水等の外部ダストが偏心追随部22の外側空間25に侵入して泥分等が堆積することにより偏心追随部22のプラグチューブ6に対する偏心追随性が損なわれることがあるが、上記構成によればこのようなことがなく、よって偏心追随部22のプラグチューブ6に対する偏心追随性を長期間に亙って確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施例に係る密封装置の半裁断面図
【図2】従来例に係る密封装置の断面図
【符号の説明】
【0030】
1 プラグチューブガスケット(密封装置)
2 シリンダヘッドカバー(ハウジング)
3 開口
3a 周縁部
4 軸方向位置決め部
5,17 径方向位置決め部
6 プラグチューブ(挿入部材)
11 第一リップシール
12 外周取付部
13 金属環
14 外周ゴム部
15 内周ゴム部
16 外周リップ部
19 シールリップ部
20 ガータスプリング
22 偏心追随部
23 膜部
24 反転部
25 外側空間
31 第二リップシール
32 固定部材
33 ダストリップ部(シールリップ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジング(2)における開口(3)の周縁部(3a)と、前記開口(3)に挿入される挿入部材(6)との間をシールする密封装置(1)において、
前記ハウジング(2)に装着されて前記挿入部材(6)に密接する第一リップシール(11)と、前記第一リップシール(11)の外側にて前記ハウジング(2)に装着されて前記挿入部材(6)に密接する第二リップシール(31)とを有し、
前記第一および第二リップシール(11)(31)は何れも前記ハウジング(2)の外側から前記開口周縁部(3a)に装着されるものであり、
前記第二リップシール(31)は、前記ハウジング(2)に固定される固定部材(32)と、前記固定部材(32)に保持されて前記挿入部材(6)に密接するシールリップ(33)とを有するとともに、前記固定部材(32)により前記第一リップシール(11)の抜け止めを兼ねることを特徴とする密封装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2007−85414(P2007−85414A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−273093(P2005−273093)
【出願日】平成17年9月21日(2005.9.21)
【出願人】(000004385)NOK株式会社 (1,527)
【出願人】(000185617)小島プレス工業株式会社 (515)
【Fターム(参考)】