説明

密封装置

【課題】軸方向両側の圧力関係によって装着溝41内でシールリング1が円滑に移動することができ、これによって、吹き抜け漏れを有効に防止し得る密封装置を提供する。
【解決手段】互いに同心的かつ相対運動可能に配置された外周部材3と内周部材4の対向周面のうち一方の周面4aに円周方向へ連続して形成された装着溝41内に装着される密封装置であって、他方の周面3aと摺動可能に配置されるシールリング1と、このシールリング1と装着溝41の底面41cとの間に介在されるバックリング2を備え、シールリング1の端面1a,1bに、装着溝41の側面41a,41bとの対向領域内と対向領域外の間を延びる圧力導入溝11,12と、前記対向領域内で円周方向へ延びると共に圧力導入溝11,12と連通する受圧溝13,14が形成されたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば油圧機器などに用いられる密封装置であって、特に、低摩擦樹脂材からなるシールリングを、弾性を有するバックリングで支持した構造のものに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば油圧機器のピストンやピストンロッドの外周隙間を密封するための密封装置として、従来から、図6に示すようなものがある。この図6において、参照符号200は油圧機器などのシリンダ、参照符号300はこのシリンダ200の内周に軸方向往復動可能に挿通されたピストンである。
【0003】
密封装置100は、ピストン300の外周面300aに形成された装着溝301に装着されており、シリンダ200の内周面に対して摺動可能に密接されるPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等の低摩擦の合成樹脂からなるシールリング101と、その内周側に位置するゴム状弾性材料(ゴム材料又はゴム状弾性を有する合成樹脂材料)からなるバックリング102を備える。なお、図6と近似する構成を備える密封装置としては、下記の特許文献に開示されたものがある。
【0004】
シールリング101の両端面101a,101bには、それぞれ複数の圧力導入溝101c,101dが形成されている。この圧力導入溝101c,101dは、端面101a,101bの外径端からピストン300の外周面300aよりも内径側まで延びるものであって、互いに異なる位相上に形成されている。
【0005】
上記構成を備える密封装置100は、図7に示すように、例えば軸方向一側(図中右側)からの油圧をP、軸方向他側(図中左側)からの油圧をPとすると、P>Pである場合は、シールリング101及びバックリング102が装着溝301の側面301aに押し付けられると共に、このバックリング102に生じる径方向拡張力によって、シールリング101の外周面がシリンダ200の内周面200aに対して摺動可能に押し付けられ、バックリング102の外周面及び内周面がシールリング101の内周面及び装着溝301の底面301cに密接され、これによってシール性が確保される。
【0006】
また、図7に示す状態から軸方向両側の圧力関係が逆転してP<Pとなった場合は、油圧Pがシールリング101の圧力導入溝101cに導入されることによって、図8に示すように、シールリング101の端面101aのうちピストン300の外周面300aより外径側の領域(受圧面S)だけでなく、圧力導入溝101cのうちピストン300の外周面300aより内径側の領域(受圧面S)にも油圧Pが軸方向の推力として作用するので、この油圧Pがシールリング101及びバックリング102の端面へ導入され、シールリング101及びバックリング102が、図9に示すように装着溝301内を低圧側(図中右側)へ移動して側面301bに押し付けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−174105号公報
【特許文献2】WO2008/126866
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが上記従来の密封装置100によれば、例えば図7に示す状態からP<Pとなっても、シールリング101の端面101bに作用している油圧Pによる背圧の受圧面(シールリング101の軸方向投影面)Sが、シールリング101の端面101aに作用する油圧Pの受圧面S+Sより著しく大きいため、油圧PとPの圧力差が小さい場合は、シールリング101を図中右側へ向けて移動させる推力P(S+S)が、背圧による抗力Pより小さい状態となりやすく、したがってシールリング101が移動することができなくなる。このため、装着溝301内へ油圧Pが導入されにくく、その結果、油圧によるバックリング102の径方向拡張力が得られず、シリンダ200の内周面200aに対するシールリング101の密接力が不足して吹き抜け漏れを生じるおそれがある。そしてこの吹き抜け漏れは、いったん発生すると多量の漏れが長時間続く場合もあり、厄介な現象である。
【0009】
また、この吹き抜け漏れは、油圧P又は油圧Pの上昇によってシールリング101の一部がシリンダ200の内周面200aとピストン300の外周面300aの間の隙間へはみ出した場合や、シールリング101及びバックリング102の締め代が低下した場合にも発生しやすくなる。
【0010】
本発明は、以上のような点に鑑みてなされたものであって、その技術的課題は、軸方向両側の圧力関係によって装着溝内でシールリングが円滑に移動することができ、これによって、吹き抜け漏れを有効に防止し得る密封装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した技術的課題を有効に解決するための手段として、本発明に係る密封装置は、互いに同心的かつ相対運動可能に配置された外周部材と内周部材の対向周面のうち一方の周面に円周方向へ連続して形成された装着溝内に、他方の周面と摺動可能に配置されるシールリングと、このシールリングと前記装着溝の底面との間に介在されるバックリングを備え、前記シールリングの端面に、前記装着溝の側面との対向領域内と対向領域外の間を延びる圧力導入溝と、前記対向領域内で円周方向へ延びると共に前記圧力導入溝と連通する受圧溝が形成されたものである。
【0012】
上記構成において、シールリングの軸方向一方の端面が装着溝の軸方向一方の側面に密接した状態において、シールリングの軸方向一方からの流体圧力が、このシールリングに背圧として作用している軸方向他方の流体圧力より高くなると、高圧側の流体圧力は、前記端面における装着溝の側面との対向領域外、言い換えれば内周部材と外周部材の対向周面間の隙間に露出した面に作用し、さらに、この面から前記装着溝の側面との対向領域内へ延びる圧力導入溝を介して、前記対向領域内で円周方向へ延びる受圧溝へ導入されるので、シールリングを装着溝の軸方向他方の側面へ向けて移動させる推力として作用する前記高圧側の流体圧力の受圧面積が大きく、シールリングの移動が円滑に行われる。このため、装着溝内への高圧側の流体圧力の導入が速やかに行われ、この流体圧力を受けることによりバックリングに発生する径方向拡張力によって、シールリングの密接力も高まり、優れたシール性が確保される。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る密封装置によれば、軸方向両側の圧力関係の可逆変化に応じたシールリングの移動が円滑に行われ、流体圧力によるバックリングの径方向拡張力が確実に得られるので、吹き抜け漏れを有効に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る密封装置の好ましい実施の形態の概略構成を、軸心Oを通る平面で切断して示す半断面図である。
【図2】本発明に係る密封装置の好ましい実施の形態におけるシールリングの正面図、背面図及びA−O−B断面図である。
【図3】本発明に係る密封装置の好ましい実施の形態においてシールリング及びバックリングが装着溝内の一方の側面に密接した状態を、軸心Oを通る平面で切断して示す半断面図である。
【図4】本発明に係る密封装置の好ましい実施の形態におけるシールリングの受圧面を示す説明図である。
【図5】本発明に係る密封装置の好ましい実施の形態においてシールリング及びバックリングが図3と反対側の側面に密接した状態を、軸心Oを通る平面で切断して示す半断面図である。
【図6】従来例に係る密封装置の概略構成を、軸心Oを通る平面で切断して示す半断面図である。
【図7】従来例に係る密封装置においてシールリング及びバックリングが装着溝内の一方の側面に密接した状態を、軸心Oを通る平面で切断して示す半断面図である。
【図8】従来例に係る密封装置におけるシールリングの受圧面を示す説明図である。
【図9】従来例に係る密封装置においてシールリング及びバックリングが装着溝内の他方の側面に密接した状態を、軸心Oを通る平面で切断して示す半断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る密封装置の好ましい実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。まず図1は本発明に係る密封装置の好ましい実施の形態の概略構成を、軸心を通る平面で切断して示す半断面図である。
【0016】
この図1において、参照符号3はシリンダ、参照符号4はこのシリンダ3の内周に同心的かつ軸方向移動可能に配置されたピストンで、ピストン4の外周面4aには円周方向へ連続した装着溝41が形成されており、装着溝41内には本発明に係る密封装置が装着されている。なお、シリンダ3は請求項1に記載の外周部材に相当するものであり、ピストン4は請求項1に記載の内周部材に相当するものである。
【0017】
本発明に係る密封装置は、低摩擦係数の合成樹脂、典型的にはPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)からなるシールリング1と、このシールリング1と装着溝41の底面41cとの間に介在されたゴム状弾性材料(ゴム材料又はゴム状弾性を有する合成樹脂材料)からなるバックリング2を備える。
【0018】
シールリング1は外周面及び内周面が円筒面をなすものであって、内径がピストン4の外周面4aより小径かつ装着溝41の底面41cより大径であると共に、外径がピストン4の外周面4aよりわずかに大径であり、装着溝41に軸方向移動可能な状態で保持されており、外周面がシリンダ3の内周面3aに摺動可能に密接されている。シールリング1の軸方向両端面1a,1bには、それぞれ圧力導入溝11,12と、受圧溝13,14が形成されている。受圧溝13,14は円周方向へ延びるものであり、圧力導入溝11,12は、受圧溝13,14から径方向へ延びて、外径端がシールリング1の外径に達している。なお、シリンダ3の内周面3a及びピストン4の外周面4aは、請求項1に記載された対向周面に相当するものである。
【0019】
圧力導入溝11,12は、シールリング1の端面1a,1bのうち装着溝41の側面41a,41bとの対向領域内と対向領域外の間を延びており、受圧溝13,14は、前記対向領域内、言い換えればピストン4の外周面4aよりも内径側に位置している。また、図2に示すように、圧力導入溝11,12は、それぞれ180度対称位置に各一対、かつ互いに90度異なる位相上に形成されている。
【0020】
圧力導入溝11,12を互いに90度異なる位相上に形成している理由は、同じ位相上に形成した場合、圧力導入溝11,12間がくびれた形状となって、拡張力を受けた場合に応力が集中しやすくなってしまうからである。図示の例では、圧力導入溝11,12は、それぞれ180度対称位置に各一対形成されているため、互いに最も離れた位置となるように、90度異なる位相上に形成している。
【0021】
バックリング2は、断面形状が略長方形又は略正方形をなす、いわゆる角リングであって、装着溝41に軸方向移動可能な状態で保持されており、外周面がシールリング1の内周面に摺動可能に密接されると共に、内周面が装着溝41の底面41cに摺動可能に密接されている。
【0022】
図3は、シールリング1及びバックリング2が図中右側からの油圧Pによって装着溝41における図中左側の側面41aに密接した状態を示している。この状態において、図中左側からシリンダ3の内周面3aとピストン4の外周面4aの間の隙間を介して作用する油圧Pが、シールリング1及びバックリング2に図中右側から背圧として作用している油圧Pよりも所定値以上高くなると、この場合の正圧である油圧Pは、図中左側を向いたシールリング1の端面1aのうちピストン4の外周面4aより外径側の領域(装着溝41の側面41aとの対向領域外)に作用し、そこから圧力導入溝11を介して、ピストン4の外周面4aより内径側の領域(装着溝41の側面41aとの対向領域)内で円周方向へ延びる受圧溝13へ導入される。
【0023】
すなわち、シールリング1を装着溝41における図中右側の側面41bへ向けて移動させる推力としてシールリング1の端面1aに作用する油圧Pの受圧面Sは、図4に多数の点々を付して示すように、ピストン外周面4aより外径側の領域Sに加え、圧力導入溝11を介してピストン外周面4aより内径側の領域にある受圧溝13の全域に及ぶため、背圧Pの受圧面(シールリング1の軸方向投影面)Sよりは小さいものの、図8に示す従来構造における受圧面S+Sに比較して大幅に増大する。したがって、正圧である油圧Pと背圧である油圧Pの圧力差が小さくても、シールリング1を低圧側である図中右側へ移動させる推力PSが、背圧による抗力Pより小さい状態になりにくく、したがってシールリング1の移動が円滑に行われる。
【0024】
そしてこのシールリング1の移動に伴い、装着溝41の側面41aとシールリング1の端面1aとの間に隙間を生じて、装着溝41の側面41aとバックリング2との間へ正圧としての油圧Pが速やかに導入され、図5に示すように、バックリング2もシールリング1と共に装着溝41内を図中右側へ向けて移動する。
【0025】
その結果、シールリング1及びバックリング2が装着溝41の図中右側の側面41bに押し付けられると共に、側面41bに押し付けられることによりバックリング2に生じる径方向拡張力によって、シールリング1の外周面がシリンダ3の内周面3aに対して摺動可能に押し付けられ、バックリング2の外周面及び内周面がシールリング1の内周面及び装着溝41の底面41cに押し付けられ、優れたシール性が確保される。
【0026】
またこのとき、図中右側を向いたシールリング1の端面1bは、装着溝41の図中右側の側面41bに対して、受圧溝14の内径側の、円周方向へ連続したシール面ばかりでなく、受圧溝14の外径側の領域の一部も密接されるため、油圧Pが高圧になっても、前記シール面にのみ荷重が集中することがなく、したがってシールリング1の変形が抑制される。
【0027】
次に、この状態から再び圧力関係が逆転して、図中右側からの油圧Pが、図中左側からの油圧Pより相対的に高くなった場合も同様であり、すなわちシールリング1を装着溝41における図中左側の側面41aへ向けて移動させる推力としてシールリング1の端面1bに作用する油圧Pの受圧面積は、図4に多数の点々を付して示すように、ピストン外周面4aより外径側の領域Sに加え、圧力導入溝12を介してピストン外周面4aより内径側の領域にある受圧溝14の全域に及ぶため、この場合の正圧である油圧Pと背圧である油圧Pの圧力差が小さくても、シールリング1を低圧側である図中左側へ移動させる推力PSが、背圧による抗力Pより小さい状態になりにくく、したがってシールリング1の移動が円滑に行われる。
【0028】
そしてこのシールリング1の移動に伴い、装着溝41の側面41bとシールリング1の端面1bとの間に隙間を生じて装着溝41の側面41bとバックリング2との間へ油圧Pが速やかに導入され、図3に示すように、バックリング2もシールリング1と共に装着溝41内を図中左側へ向けて移動する。
【0029】
その結果、シールリング1及びバックリング2が装着溝41の図中左側の側面41aに押し付けられると共に、側面41aに押し付けられることによりバックリング2に生じる径方向拡張力によって、シールリング1の外周面がシリンダ3の内周面3aに対して摺動可能に押し付けられ、バックリング2の外周面及び内周面がシールリング1の内周面及び装着溝41の底面41cに押し付けられる。
【0030】
またこのとき、図中左側を向いたシールリング1の端面1aは、装着溝41の図中左側の側面41aに対して、受圧溝13の内径側の、円周方向へ連続したシール面ばかりでなく、受圧溝13の外径側の領域の一部も密接されるため、図中右側からの油圧Pが高圧になっても、前記シール面にのみ荷重が集中することがなく、したがってシールリング1の変形が抑制される。
【0031】
したがって、本発明の密封装置によれば、軸方向両側の油圧P,Pの変化に応じたシールリング1及びバックリング2の移動が円滑に行われるのに加え、シールリング1及びバックリング2の密接力が不足して吹き抜け漏れを生じるといったおそれがなくなり、さらには油圧によるシールリング1の変形や、シリンダ3の内周面3aとピストン4の外周面4aの間の隙間へのシールリング1のはみだしが抑制され、優れたシール性が確保される。
【0032】
なお、図示の形態では内周部材としてのピストン4の外周面4aに形成された装着溝41内に、外周部材としてのシリンダ3の内周面3aと摺動可能なシールリング1と、このシールリング1と前記装着溝41の底面41cとの間に介在されるバックリング2を備えるものについて説明したが、これとは逆に、外周部材の内周面に形成された装着溝に、内周部材の外周面と摺動可能なシールリングと、前記装着溝の底面との間に介在されるバックリングを備えるものについても、本発明は適用可能である。
【符号の説明】
【0033】
1 シールリング
1a,1b 端面
11,12 圧力導入溝
13,14 受圧溝
2 バックリング
3 シリンダ(外周部材)
4 ピストン(内周部材)
41 装着溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに同心的かつ相対運動可能に配置された外周部材と内周部材の対向周面のうち一方の周面に円周方向へ連続して形成された装着溝内に、他方の周面と摺動可能に配置されるシールリングと、このシールリングと前記装着溝の底面との間に介在されるバックリングを備え、前記シールリングの端面に、前記装着溝の側面との対向領域内と対向領域外の間を延びる圧力導入溝と、前記対向領域内で円周方向へ延びると共に前記圧力導入溝と連通する受圧溝が形成されたことを特徴とする密封装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−177424(P2012−177424A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−40482(P2011−40482)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(000004385)NOK株式会社 (1,527)
【Fターム(参考)】