説明

密閉型圧縮機及び冷凍サイクル装置

【課題】密閉ケース内に低圧の作動流体を一旦貯留し、その作動流体を密閉ケース内に配置された圧縮機構部に導いて圧縮する密閉型圧縮機において、液体状の作動流体が圧縮機構部に導かれる液バック現象の発生を防止する。
【解決手段】密閉型圧縮機2は、密閉ケース7内に電動機部8と圧縮機構部9とが収容され、電動機部8と圧縮機構部9とを連結する回転軸12に、密閉ケース7の上部空間A内の作動流体を圧縮機構部9に導く吸込通路26が形成されている。上部空間A内に開口する吸込通路26の吸込部26aが、作動流体を上部空間Aに導く吸込管31における上部空間Aに開口する出口部31aより上方に位置している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、密閉型圧縮機及びこの密閉型圧縮機を用いた冷凍サイクル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
密閉ケース内に電動機部と圧縮機構部とを収容し、循環するガス冷媒(作動流体)を密閉ケース内に一旦流入させ、密閉ケース内に流入したガス冷媒を圧縮機構部に導いて圧縮する密閉型圧縮機として、例えば、下記特許文献1に記載されたものが知られている。
【0003】
特許文献1に記載された密閉型圧縮機では、密閉ケース内の電動機部より上方の空間に連通された吸込管により密閉ケース内にガス冷媒を導き、このガス冷媒を電動機部と圧縮機構部とを連結する回転軸内に形成された吸込通路を経由して圧縮機構部に導いている。吸込通路には圧縮機構部より上方の空間に開口した吸込部が設けられ、回転軸には吸込部の上方を覆う回転板が取付けられている。この回転板は、蒸発していない液冷媒がガス冷媒と共に吸込管から密閉ケース内に導かれた場合、液冷媒が吸込通路内に入り込むことを防止している。
【0004】
液冷媒が吸込通路内に入り込むと、その液冷媒が圧縮機構部に導かれて所謂液バック現象を発生し、液バック現象が発生した場合には圧縮機構部の損傷に繋がる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−125193号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された密閉型圧縮機では、ガス冷媒を密閉ケース内に導く吸込管の出口部が、吸込通路の吸込部より上方に位置している。このため、吸込部の上方を覆う回転板が設けられていても、ガス冷媒と共に液冷媒が密閉ケース内に導かれた場合には、その液冷媒が吸込通路内に入り込み易く、吸込通路内に入り込んだ液冷媒が圧縮機構部に導かれて液バック現象が生じ易い。
【0007】
本発明の実施形態の目的は、気体状の作動流体と共に液体状の作動流体が密閉ケース内に導かれた場合、液体状の作動流体が圧縮機構部に導かれることを防止することができる密閉型圧縮機及びこの密閉型圧縮機を用いた冷凍サイクル装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態の密閉型圧縮機によれば、密閉ケースと、密閉ケース内に収容される電動機部と、密閉ケース内に電動機部より下方に位置して収容され、回転軸を介して電動機部に連結される圧縮機構部と、密閉ケース内の電動機部より上方の上部空間に連通され、密閉ケース内に作動流体を導く吸込管と、を有し、上部空間内の作動流体を圧縮機構部に導く吸込通路が回転軸に形成され、上部空間内に開口する回転軸の吸込通路の吸込部が、上部空間内に開口する吸込管の出口部より上方に位置している。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】第1の実施形態の密閉型圧縮機を含む冷凍サイクル装置の概略図である。
【図2】第2の実施形態の密閉型圧縮機を含む冷凍サイクル装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0011】
(第1の実施形態)
第1の実施形態について、図1に基づいて説明する。冷凍サイクル装置1は、密閉型圧縮機2と、密閉型圧縮機2に接続された油分離器3と、油分離器3に接続された凝縮器4と、凝縮器4に接続された膨張装置5と、膨張装置5と密閉型圧縮機2との間に接続された蒸発器6とを有している。この冷凍サイクル装置1では、作動流体である冷媒が気体状のガス冷媒と液体状の液冷媒とに相変化しながら循環し、ガス冷媒から液冷媒に相変化する過程で放熱され、液冷媒からガス冷媒に相変化する過程で吸熱され、これらの放熱や吸熱を利用して暖房、冷房、加熱、冷却等が行われる。
【0012】
密閉型圧縮機2は、略円筒状に形成された気密状態の密閉ケース7を有し、この密閉ケース7内に電動機部8と圧縮機構部9とが収容されている。密閉ケース7は、円筒の中心を上下方向に向けて設置され、密閉ケース7内の上方側に電動機部8が配置され、その下方に圧縮機構部9が配置されている。密閉ケース7内の底部には、潤滑油が貯留されている。密閉ケース7内の空間は、圧縮機構部9で圧縮される前のガス冷媒で満たされている。
【0013】
電動機部8は、固定子10と回転子11と回転軸12とを有している。固定子10は円筒状に形成され、密閉ケース7の内周部に焼嵌めや圧入又は溶接等により固定されている。回転子11は、固定子10の内側に回転可能に挿入され、回転子11の中心部に回転軸12が嵌合されている。回転軸12は、圧縮機構部9に設けられた後述する軸受(主軸受19、副軸受20)により回転可能に軸支され、回転軸12と回転子11とが一体に回転する。回転軸12の上端側は、密閉ケース7内における電動機部8の上方に形成された上部空間A内に延出している。また、回転軸12には、この回転軸12の外周側に向けて偏心して張り出した二つの偏心部13、14が形成されている。これらの偏心部13、14は、回転軸12の軸方向に沿って設定寸法離間した位置に形成されるとともに回転軸12の回転方向に沿って180°離間した位置に形成されている。
【0014】
圧縮機構部9は、低圧のガス冷媒を圧縮して高圧・高温のガス冷媒とする部分であり、上下に配置された一対のシリンダ15、16と、シリンダ15、16の間に配置された上下一対の仕切板17、18と、一方のシリンダ15の上方に配置された主軸受19と、他方のシリンダ16の下方に配置された副軸受20と、副軸受20の下側にねじ止めされた吸込カバー21とを有している。
【0015】
一方のシリンダ15内には、上端側を主軸受19により閉止されて下端側を仕切板17により閉止されたシリンダ室22が形成されている。他方のシリンダ16内には、上端側を仕切板18により閉止されて下端側を副軸受20により閉止されたシリンダ室23が形成されている。
【0016】
シリンダ室22、23には回転軸12が挿通され、回転軸12に形成された一方の偏心部13がシリンダ室22内に位置し、回転軸12に形成された他方の偏心部14がシリンダ室23内に位置している。偏心部13にはローラ24が嵌合され、偏心部14にはローラ25が嵌合されている。これらのローラ24、25は、回転軸12の回転に伴い外周部の一部をシリンダ室22、23の内周面に当接させながらシリンダ室22、23内を転動する。さらに、シリンダ室22、23内には、スライド可能にブレード(図示せず)が設けられており、ブレードの先端部がスプリング等の付勢体により付勢されてローラ24、25の外周面に当接されている。シリンダ室22、23の内周面にローラ24、25の外周面の一部が当接され、ローラ24、25の外周面にブレードの先端部が当接されることにより、シリンダ室22、23内はローラ24、25の転動に伴って容積が変動する二つの空間に仕切られている。一方の空間にガス冷媒が流入し、その空間の容積がローラ24、25の転動に伴って小さくなることにより、その空間内のガス冷媒が圧縮される。
【0017】
回転軸12の内部には、回転軸12の軸心に沿ってガス冷媒を導く吸込通路26が形成されている。吸込通路26の上端部には、密閉ケース7内における電動機部8より上方の上部空間Aに開口する吸込部26aが形成され、吸込通路26の下端部には、吸込カバー21内のカバー内空間Bに開口する出口部26bが形成されている。
【0018】
副軸受20とシリンダ16と仕切板17、18とシリンダ15とには、カバー内空間Bとシリンダ室22、23とを連通する連通路27が形成されている。吸込通路26を経由して上部空間A内からカバー内空間B内に導かれたガス冷媒は、連通路27を経由してシリンダ室22、23に導かれる。シリンダ室22、23に導かれたガス冷媒は、上述したようにシリンダ室22、23内でローラ24、25が転動することに伴って圧縮される。
【0019】
仕切板17、18には、シリンダ室22、23内で圧縮された高圧・高温のガス冷媒が吐出される吐出室28が形成されている。シリンダ室22、23と吐出室28との間には、シリンダ室22、23内のガス冷媒の圧力が所定値に上昇した場合に開弁される吐出弁(図示せず)が設けられている。吐出室28には、圧縮されたガス冷媒を油分離器3に導く吐出管29が接続されている。
【0020】
油分離器3では、圧縮機構部9で圧縮されたガス冷媒に含まれる潤滑油が分離される。油分離器3の下部と圧縮機構部9との間には、油分離器3でガス冷媒中から分離された高圧の潤滑油を圧縮機構部9に導く油戻し管30が接続されている。
【0021】
凝縮器4では、油分離器3において潤滑油を分離されたガス冷媒が凝縮され、液冷媒となる。
【0022】
膨張装置5では、凝縮器4で凝縮された液冷媒が減圧される。
【0023】
蒸発器6では、膨張装置5で減圧された液冷媒が蒸発し、ガス冷媒となる。
【0024】
蒸発器6と密閉型圧縮機2とは吸込管31により接続され、蒸発器6内で蒸発したガス冷媒は、吸込管31を経由して密閉ケース7内の上部空間Aに導かれる。吸込管31の先端部には出口部31aが形成され、この出口部31aは密閉ケース7内の上部空間Aに開口している。
【0025】
密閉ケース7内の上部空間Aに開口している吸込通路26の吸込部26aと、吸込管31の出口部31aとの位置関係は、吸込部26aが出口部31aより上方に位置している。
【0026】
このような構成において、この冷凍サイクル装置1では、圧縮機構部9が電動機部8によって駆動されることにより圧縮機構部9においてガス冷媒の圧縮が行われ、圧縮された高圧・高温のガス冷媒が吐出管29を経由して油分離器3に導かれる。油分離器3ではガス冷媒中に含まれる潤滑油が分離され、潤滑油を分離されたガス冷媒が凝縮器4に導かれる。油分離器3で分離された高圧の潤滑油は、油戻し管30を経由して圧縮機構部9に導かれ、圧縮機構部9内の摺動部分、例えば、主軸受19や副軸受20と回転軸12との摺動部分の潤滑に用いられる。
【0027】
油分離器3で潤滑油を分離されたガス冷媒は、凝縮器4で凝縮されて液冷媒となり、この液冷媒が膨張装置5で減圧され、蒸発器6内で蒸発してガス冷媒となる。蒸発器6内のガス冷媒は吸込管31を経由して密閉ケース7内の上部空間Aに導かれる。吸込管31から上部空間Aに導かれたス冷媒は、上部空間Aから回転軸12に形成された吸込通路26を経由して吸込カバー21内のカバー内空間Bに導かれ、カバー内空間Bから連通路27を経由してシリンダ室22、23に導かれ、再び圧縮される。
【0028】
蒸発器6において液冷媒がガス冷媒となる過程において、液冷媒を蒸発させるための熱量の不足等により、一部の液冷媒が蒸発されずに液冷媒の状態で上部空間A内に導かれる場合がある。
【0029】
上部空間A内においては、吸込通路26の吸込部26aが、吸込管31の出口部31aより上方に位置している。このため、液冷媒がガス冷媒と共に吸込管31を経由して出口部31aから上部空間A内に導かれた場合であっても、その液冷媒は吸込管31の出口部31aから下方に向けて自重により落下し、出口部31aより上方に位置する吸込部26aから吸込通路26内に入り込みにくい。これにより、液冷媒がシリンダ室22、23内に導かれる液バック現象の発生を防止することができ、液バック現象の発生に伴う圧縮機構部9の損傷を防止することができる。
【0030】
(第2の実施形態)
第2の実施形態を図2に基づいて説明する。なお、第1の実施形態において説明した構成要素と同じ構成要素には同じ符号を付け、重複する説明は省略する。
【0031】
第2の実施形態の密閉型圧縮機2Aの基本的な構成は第1の実施形態の密閉型圧縮機2と同じである。第2の実施形態の密閉型圧縮機2Aと第1の実施形態の密閉型圧縮機2との異なる点は、密閉型圧縮機2Aでは、回転軸12の上端側であって上部空間A内に位置し、かつ、吸込管31の出口部31aより上方の位置に、出口部31aと吸込部26aとの間を仕切る仕切体である円板32が固定されている点である。
【0032】
このような構成において、吸込管31の出口部31aから上部空間A内にガス冷媒と共に液冷媒が導かれた場合、その液冷媒が上部空間A内で舞い上げられたり回転軸12の回転等に伴って跳ね上げられたりする場合がある。上部空間A内で液冷媒が舞い上げられたり跳ね上げられたりした場合でも、液冷媒が吸込部26aから吸込通路26内に入り込むことが円板32により阻止される。これにより、液冷媒がシリンダ室22、23内に導かれる液バック現象の発生をより一層確実に防止することができ、液バック現象の発生に伴う圧縮機構部9の損傷の発生をより一層確実に防止することができ、密閉型圧縮機2Aの信頼性を高めることができる。
【0033】
なお、本実施形態では仕切体として円板32を例に挙げて説明したが、仕切板は、吸込管31の出口部31aから上部空間A内に液冷媒が導かれた場合、その液冷媒が吸込通路26の吸込部26aから入り込むことを阻止する液入り込み阻止部材として機能すればよく、扇形や矩形に形成した仕切体を用いてもよい。
【0034】
また、本実施形態では、仕切体である円板32を回転軸12の上端側に固定した場合を例に挙げて説明したが、仕切体を回転軸12以外の部材、例えば、密閉ケース7や吸込管31に固定してもよい。
【0035】
以上説明した各実施形態によれば、電動機部8と圧縮機構部9とを連結する回転軸12に密閉ケース7の上部空間A内の作動流体を圧縮機構部9に導く吸込通路26が形成され、上部空間Aに開口する吸込通路26の吸込部26aが、上部空間Aに作動流体を導く吸込管31の出口部31aより上方に位置している。このため、液冷媒がガス冷媒と共に吸込管31を経由して出口部31aから上部空間A内に導かれた場合であっても、その液冷媒は吸込部26aから吸込通路26内に入り込みにくく、液冷媒がシリンダ室22、23内に導かれる液バック現象の発生を防止することができ、液バック現象の発生に伴う圧縮機構部9の損傷を防止することができる。
【0036】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、様々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0037】
2…密閉型圧縮機、2A…密閉型圧縮機、4…凝縮器、5…膨張装置、6…蒸発器、7…密閉ケース、8…電動機部、9…圧縮機構部、12…回転軸、26…吸込通路、26a…吸込部、31…吸込管、31a…出口部、32…円板(仕切体)、A…上部空間


【特許請求の範囲】
【請求項1】
密閉ケースと、
前記密閉ケース内に収容される電動機部と、
前記密閉ケース内に前記電動機部より下方に位置して収容され、回転軸を介して前記電動機部に連結される圧縮機構部と、
前記密閉ケース内の前記電動機部より上方の上部空間に連通され、前記密閉ケース内に作動流体を導く吸込管と、
を有し、
前記上部空間内の作動流体を前記圧縮機構部に導く吸込通路が前記回転軸に形成され、前記上部空間内に開口する前記回転軸の吸込通路の吸込部が、前記上部空間内に開口する前記吸込管の出口部より上方に位置していることを特徴とする密閉型圧縮機。
【請求項2】
前記密閉ケース内に、前記吸込管の出口部と前記回転軸の吸込通路の吸込部との間を仕切る仕切体が設けられていることを特徴とする請求項1記載の密閉型圧縮機。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の密閉型圧縮機と、前記密閉型圧縮機に接続される凝縮器と、前記凝縮器に接続される膨張装置と、前記膨張装置と前記密閉型圧縮機との間に接続される蒸発器とを備えた冷凍サイクル装置。



【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−76325(P2013−76325A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−214916(P2011−214916)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(505461072)東芝キヤリア株式会社 (477)
【Fターム(参考)】