説明

対人用液体含浸シート用積層体

【課題】 液体を含浸させることができ、含浸させた液体の徐放性に優れ、かつ放出された液体を均一に放出させて皮膚に塗る又は浸透させることができる、対人用液体塗布シート用積層体を提供する。
【解決手段】 液体を含浸し得る液体保持層Aの少なくとも一方の表面に、1μm以上40μm以下の範囲内にある多孔シートである液体徐放層B、および平均孔径(P)が前記液体徐放層Bの平均孔径(P)よりも大きい繊維集合層である、皮膚当接層Cをこの順に積層することにより、対人用液体含浸シート用積層体を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を含浸でき、液体を含浸させた場合には液体を徐々に放出させて、人の皮膚に液体を塗布する又は浸透させる、あるいは人の皮膚を湿潤させる液体含浸シートとして使用可能である、対人用液体含浸シート用積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
人の皮膚に液体を塗布するためのシートとして、例えば、特許文献1(特開2003−93152号公報)には、特定構造の繊維構造体に化粧料を含浸してなる化粧料含浸シートが提案されている。特許文献1は、繊維構造体として、疎水性繊維を主成分とする繊維集合体からなる内層と、親水性成分を主成分とする繊維集合体からなる上下外層とで構成された3層構造の構造体が提案されている。さらに、特許文献1には、内層として、ポリプロピレン(PP)サーマルボンド不織布、PPスパンボンド不織布、ポリエチレンテレフタレート(PET)スパンボンド不織布、またはPP/ポリエチレン(PE)エアースルー不織布を用いることができると記載され、外層として、湿式もしくは乾式パルプシート、親水性繊維からなる湿式不織布シート、または超極細繊維を用いたメルトブローン不織布を用いることができると記載されている。この化粧料含浸シートにおいて、外層は、化粧料を保持し、肌に押し付けたときに化粧料を肌に適量放出する作用を有し、内層は、肌に押し当てたときに、比較的均一に化粧料を放出するとともに、シートが水性の化粧料を含浸した状態でもコシのある柔らかい触感を与える作用を有する。
【特許文献1】特開2003−93152号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1に記載の化粧料含浸シートのように、化粧料の放出量を外層のみで調整しようとすると、押し付け圧力によっては化粧料が一度に大量に放出されることとなる。そのため、このシートは、時間をかけて広い皮膚面積にわたって1枚のシートで化粧料等を塗布する、または1枚のシートを繰り返し使用する用途には適していない。また、特許文献1のシートは、内層自体も化粧料を一部保持する機能は有するものの十分ではない。したがって、特許文献1に記載の化粧料含浸シートは、化粧料の放出量を調整して、長時間にわたって使用することができないという不都合を有していた。
【0004】
また、人の皮膚には化粧料以外の液体(例えば、皮膚病の治療用薬剤および皮膚の保湿剤等)を長時間にわたって、少量ずつ継続的に塗布することを要する場合もある。その場合には、液体を一定時間ごとに少量ずつ塗布する、あるいは液体をしみこませた紙または布(例えばガーゼ)を所定の部位に貼付する処置がとられる。しかし、決まった時間に液体を塗布することは煩わしく、また、ガーゼ等にしみこませた液体は十分に皮膚に移行しない(例えば、ガーゼ等にしみこんだままである)ことが多い。
【0005】
本発明は、従来の化粧料含浸シートが有する問題に鑑みて、また、液体を少量ずつ長時間にわたって人の皮膚に良好に移行させ得る液体含浸シートが存在しない現状に鑑みてなされたものであり、液体を含浸させることができ、含浸させた液体を良好に徐放する性質を有し、かつ徐放された液体を皮膚に移行させ得るシート状物を得ることを課題としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明は、液体を含浸し得る液体保持層Aの少なくとも一方の表面に、液体徐放層Bおよび皮膚当接層Cがこの順に積層されて成り、
液体徐放層Bが、その平均孔径(P)が1μm以上40μm以下の範囲内にある多孔シートであり、
皮膚当接層Cが、その平均孔径(P)が前記液体徐放層Bの平均孔径(P)よりも大きい繊維集合層である、
対人用液体含浸シート用積層体を提供する。ここで、「対人用」という用語は、ワイパー等の分野において使用される用語であって、「対物用」と対をなす用語であり、主として人に適用されることを意味する。したがって、「対人用液体含浸シート」とは、人の皮膚、毛髪または粘膜にあてて液体を付与するシートを意味する。但し、本発明の対人用液体含浸シート用積層体は、所望の場合には、動物用としても用いられることに留意されたい。
【0007】
本発明の対人用液体含浸シート用積層体は、上記構成を採ることにより、液体保持層Aに含浸された液体の放出量が、液体徐放層Bにより調整され、調整された放出量の液体が液体徐放層Bから皮膚当接層Cに移動し、皮膚当接層Cにおいて均一に拡散されることを可能にする。したがって、皮膚当接層Cを皮膚にあてて、要すれば圧力を加えることにより、適当な量の液体を均一に皮膚に塗布または浸透等させることができる。
【0008】
本発明の特徴は、多孔性シートが有する液体徐放効果がその平均孔径に依存すること、ならびに平均孔径が上記範囲内にあると、良好な液体徐放性が得られることを見出したことに存する。ここで、平均孔径は、ASTM F 316 86に準拠してバブルポイント法によって測定されるものをいう。さらに、本発明は、徐放される液体を均一に皮膚へ移行させるための皮膚当接層として、平均孔径が液体徐放層のそれよりも大きい繊維集合層を設けた点に特徴を有する。
【0009】
液体徐放層Bの平均孔径(P)が1μm未満であると、液体徐放層Bから皮膚当接層Cへ液体が移行しにくくなり、液体が適当な量で放出されない。液体徐放層Bの平均孔径(P)が40μmを超えると、徐放効果が低下し、液体保持層Aに含浸させた液体が早期に放出される。
【0010】
皮膚当接層Cは、この積層体に液体を含浸させて実際に使用するときに、人の皮膚と接触する層である。皮膚当接層Cの平均孔径(P)を液体徐放層Bの平均孔径(P)よりも大きくすることは、液体を液体徐放層Bから皮膚当接層Cへスムースに移行させるために必要とされる。皮膚当接層Cの平均孔径(P)が液体徐放層Bの平均孔径(P)よりも小さいと、皮膚当接層Cから均一に液体を放出させて、皮膚に均一に液体を付与することができない。
【0011】
本発明の対人用液体含浸シート用積層体において、液体保持層Aは、好ましくは、0.03g/cm以上0.2g/cm以下の見掛け密度(ρ)を有する不織布である。液体保持層Aの見掛け密度(ρ)が0.03g/cm未満であると、液体を保持しにくい傾向にあり、0.2g/cmを超えると、液体が液体徐放層Bの側へ移行しにくい傾向にある。ここで、見掛け密度は、1cmあたり2.94cNの荷重を加えて測定した不織布の厚さおよび目付から算出されるものをいう。
【0012】
本発明の対人用液体含浸シート用積層体において、上記範囲の平均孔径(P)を有する液体徐放層Bは、好ましくは5g/m以上50g/m以下の目付を有し、0.03g/cm以上0.3g/cm以下の見掛け密度(ρ)を有するメルトブローン不織布である。かかるメルトブローン不織布は、風合いが柔軟であることから、対人用途に好ましく使用される。メルトブローン不織布の目付が5g/m未満であると、含浸した液体が早期に放出されてしまうことがある。メルトブローン不織布の目付が50g/mを超えると、経済的に不利になる、あるいは積層体全体の厚さが大きくなって積層体を皮膚表面に沿わせにくくなることがある。また、メルトブローン不織布は、一般に目付が高くなるほど見掛け密度が低くなる傾向にあり、見掛け密度が低いほど、安定して液体を放出することができる。したがって、メルトブローン不織布は、上記範囲の目付を有する場合には、上記範囲内にある見掛け密度を有することが好ましい。
【0013】
本発明の対人用液体含浸シート用積層体において、皮膚当接層Cは、好ましくは親水性繊維を30mass%以上含んで成る。親水性繊維は、例えばビスコースレーヨン、溶剤紡糸セルロース繊維、およびキュプラ等の再生繊維、コットン等の天然繊維、または親水性を付与した合成繊維である。皮膚当接層Cが親水性繊維を含むことにより、積層体の肌触りが良くなり、長時間皮膚に貼付して使用する場合でも使用者に不快感を与えにくい。また、皮膚当接層Cが親水性繊維を含むと、繊維自体が液体保持機能を有する。したがって、体温等でシート表面から液体が蒸発しやすい場合に、皮膚当接層Cの親水性繊維に過剰量の液体を保持させておき、これを蒸発した液体を補うために使用することができる。このように親水性繊維を含む皮膚当接層Cは補助的な液体含浸層として機能し得る。
【0014】
本発明の対人用液体含浸シート用積層体において、皮膚当接層は、好ましくは繊度が0.5dtex以下の極細繊維を10mass%以上含んで成る。皮膚当接層Cが極細繊維を含むことにより、皮膚への刺激が少なくなる。極細繊維は、異なる2以上の成分からなる分割型複合繊維を割繊させることにより得られる極細繊維であることが好ましい。分割型複合繊維は、例えば水流交絡処理により割繊されるとともに交絡が進むので、複雑なラビリンス形状の繊維間空隙を形成するのに適しており特に好ましい。分割型複合繊維を構成する成分の組合せとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート/ナイロン6、ポリプロピレン/ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート/ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート/ポリエチレン等が挙げられる。
【0015】
本発明の対人用液体含浸シート用積層体において、皮膚当接層Cは、好ましくは水流交絡不織布である。水流交絡不織布は、前述のように、繊維同士が三次元的に交絡されて、繊維間空隙が入り組んだラビリンス形状を形成する。そのため、水流交絡不織布を皮膚当接層Cとして使用すると、皮膚当接層Cもまた一種の液体徐放層として作用し、液体徐放層Bを通過した液体が皮膚当接層C内を三次元的に移動し、拡散されて表面に放出されるので好ましい。また、水流交絡不織布はソフトな風合いを有するので、皮膚と当接したときに良好な触感を与える。
【発明の効果】
【0016】
本発明の対人用液体含浸シート用積層体は、液体保持層Aの少なくとも一方の面に特定の平均孔径を有する液体徐放層Bおよび皮膚当接層Cを設けることにより、液体保持層Aに含浸させた液体を、少量ずつ放出面(即ち、皮膚当接層Cの表面)から均一に放出させることを可能にしている。したがって、この積層体の液体保持層Aに液体を含浸させることにより、長期間にわたって一定量の液体を皮膚に塗布する、あるいは浸透させることが可能な対人用液体含浸シートが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の対人用液体含浸シート用積層体(本明細書において単に「積層体」とも呼ぶ)においては、液体を含浸させ得る液体保持層Aの少なくとも一方の表面に液体徐放層Bおよび皮膚当接層Cがこの順に積層されている。液体徐放層Bおよび皮膚当接層Cは、液体保持層Aの一方の表面にのみ位置してよい。その場合には、液体保持層Aの他方の表面には液体不透過性フィルムなど他のシートを積層してよい。他のシートは、液体が揮発性である場合には、液体の蒸発を防止するガス不透過性フィルムとしてよい。液体徐放層Bおよび皮膚当接層Cが、液体保持層Aの両方の面に位置する場合(即ち、液体保持層Aを2つの液体徐放層Bで挟んでなる構造物が、さらに2つの皮膚当接層Cで挟まれた構成である場合)、両方の面を皮膚に当てて液体を塗布するために使用できる。
【0018】
液体保持層Aは、所望の液体を含浸および保持し得る限りにおいて、その材料および構造は特に限定されない。したがって、液体保持層Aとして、例えば、繊維から成るシートおよびスポンジ状シート等、空隙を有する構造のものを任意に使用できる。
【0019】
液体保持層Aは、繊維ウェブを作製し、当該繊維ウェブを構成する繊維同士を交絡させる、あるいは熱接着等により接合させることによって得られる不織布であることが好ましい。不織布を製造するために作製される繊維ウェブは、例えば、カードウェブ、エアレイウェブおよびスパンボンドウェブなど、繊維間空隙(即ち、孔径)の大きいウェブであることが好ましい。不織布としては具体的には、繊維ウェブをニードルパンチ処理または水流交絡処理等に付すことにより得られる交絡不織布、繊維ウェブを熱風処理(エアスルー処理)または熱ロール処理等に付すことにより得られるサーマルボンド不織布、および繊維同士をバインダー樹脂により接着したレジンボンド不織布等が挙げられる。あるいは、繊維の脱落の問題が生じなければ(例えば、液体徐放層Bが繊維の脱落が防止している場合)、液体保持層Aはカードウェブまたはエアレイウェブ等の繊維ウェブであってよい。
【0020】
液体保持層Aを構成する繊維は、コットン、パルプおよび麻などの天然繊維、ビスコースレーヨンおよび溶剤紡糸セルロースなどの再生繊維、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィンおよびアクリルなどの合成繊維等から、1種または2種以上選択される。本発明においては、液体保持層Aは、特に、ビスコースレーヨン、パルプおよびコットンから選択される1種または2種以上の繊維から成ることが好ましい。これらの繊維は親水性および保液性を有するので、これらの繊維から成る液体保持層Aは液体の移行を調整する作用を有し、液体含浸シートをより長時間に亘って使用することを可能にする。
【0021】
パルプで液体保持層Aを構成する場合には、パルプ繊維と熱接着性繊維から成るエアレイウェブを熱風処理して繊維同士を熱接着したサーマルボンド不織布を液体保持層Aとすることが好ましい。そのようなサーマルボンド不織布は、その製造過程において均一なウェブを作製することが容易であることから、好ましく使用される。レーヨンまたはコットンで液体保持層Aを構成する場合には、液体保持層Aは水流交絡不織布とすることが好ましい。水流交絡不織布は、柔軟な風合いを有するから、対人用途に適している。
【0022】
液体保持層Aの目付は、20g/m以上100g/m以下であることが好ましく、40g/m以上70g/m以下であることがより好ましい。液体保持層Aの目付が20g/m未満であると、液体の含浸量が少なくなる傾向にあり、目付が100g/mを超えると、経済的に不利である。また、液体保持層Aの目付が大きくなると、積層体全体が厚くなって取り扱いにくくなることがあり、例えば、この積層体に液体を含浸させたシートを湾曲または凹凸を有する部位に貼り付けにくくなることがある。液体保持層Aは、好ましくは、0.03g/cm以上0.2g/cm以下の見掛け密度(ρ)を有し、より好ましくは0.04g/cm以上0.15g/cm以下の見掛け密度(ρ)を有し、さらにより好ましくは0.04g/cm以上0.1g/cm以下の見掛け密度(ρ)を有する。その理由は先に説明したとおりである。
【0023】
液体徐放層Bは、前述したとおり、平均孔径(P)が1μm以上40μm以下である多孔性シートである。平均孔径(P)は、好ましくは10μm以上25μm以下である。平均孔径(P)は、液体保持層Aに含浸させようとする液体の種類、および所望の液体徐放効果に応じて、適宜選択される。一般には、平均孔径(P)が小さいほど、徐放効果は高くなる。ここで、徐放効果が高いとは、液体保持層Aに含浸させた液体がより少量ずつ、より長期間にわたって放出されることをいう。より具体的には、一定量の液体を液体保持層Aに保持させて対人用液体含浸シートを作製し、一定面積の塗布面に繰り返し液体を塗布できる回数を測定したときに、この回数が多いほど、徐放効果は高いといえる。徐放効果の高い対人用液体含浸シートは、フェイスマスクのように皮膚に貼付して長時間貼付した状態を維持したときに、皮膚への液体の浸透が持続するという作用を有する。したがって、徐放効果は、可能であれば、皮膚に貼付した対人用液体含浸シートから液体が皮膚へ浸透または移行し続ける時間の長短によっても評価することができる。
【0024】
上記範囲の平均孔径(P)を有する液体徐放層Bとして、微多孔膜、メルトブローン不織布、水流交絡不織布又は湿式不織布が好ましく使用される。
液体徐放層Bとして、メルトブローン不織布を使用する場合には、目付が5g/m以上50g/m以下であることが好ましく、5g/m以上30g/m以下であることがより好ましく、5g/m以上20g/m以下であることがさらにより好ましい。その理由は先に説明したとおりである。また、メルトブローン不織布の見掛け密度(ρ)は、0.03g/cm以上0.3g/cm以下であることが好ましく、0.05g/cm以上0.2g/cm以下であることがより好ましい。その理由は先に説明したとおりである。
【0025】
メルトブローン不織布を構成する繊維としては、例えば、ポリプロピレンおよびポリエチレンなどのポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル、ならびにナイロン6などのポリアミド等が挙げられる。これらの材料から選択される1または複数の材料から成るメルトブローン不織布であって、上記範囲の平均孔径(P)を有するものは、具体的には、例えば平均繊維径が0.5〜10μmである繊維から成る、上記範囲の目付を有するメルトブローン不織布である。
【0026】
液体徐放層Bとして、分割型複合繊維の割繊により得られる繊度0.5dtex以下の極細繊維を含む不織布もまた好ましく用いられる。そのような不織布は、分割型複合繊維を含む湿式抄紙ウェブ、カードウェブまたはスパンボンドウェブ等の繊維ウェブを、水流交絡処理に付して分割型複合繊維を割繊させるとともに繊維同士を交絡させることにより製造される。分割型複合繊維を構成する成分の組合せとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート/ナイロン6、ポリプロピレン/ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート/ポリプロピレン等が挙げられる。あるいは、液体徐放層Bは、平均孔径(P)が上記範囲内にある限りにおいて、パルプを含むパルプ紙を水流交絡処理に付して得た不織布であってよい。
【0027】
皮膚当接層Cは、その平均孔径(P)が液体徐放層Bの平均孔径(P)よりも大きい限りにおいて任意の形態とすることができる。皮膚当接層Cは、例えば、繊維ウェブ、織物、編物、または不織布等の繊維集合物から成る層である。皮膚当接層Cは、前述のとおり、水流交絡不織布であることが好ましい。その理由は、先に説明したとおりである。一般的な製造方法により得られる不織布等の平均孔径を考慮すれば、皮膚当接層Cの平均孔径(P)は、液体徐放層Bの平均孔径(P)の例えば1.2倍〜80倍程度とすることが好ましい。平均孔径(P)が平均孔径(P)の1.2倍未満であると、液体徐放層Bから皮膚当接層Cへ液体が移行しにくくなることがある。平均孔径(P)が平均孔径(P)の80倍を超えると、液体が早期に放出されることがあり、あるいは液体を均一に放出することが困難となる場合がある。尤も、Pは必ずしもこの範囲に限定されず、P>Pを満たす限りにおいて、この範囲外であってよい。皮膚当接層Cの平均孔径(P)は、具体的には、例えば10〜80μmとしてよいが、液体徐放層Bの平均孔径(P)に応じてこの範囲外の寸法としてよい。
【0028】
皮膚当接層Cの見掛け密度(ρ)は、0.03g/cm以上0.3g/cm以下であることが好ましく、0.04g/cm以上0.15g/cm以下であることがより好ましい。皮膚当接層Cの見掛け密度(ρ)が0.03g/cm未満であると、液体が皮膚当接層Cに均一に拡散する前に外部に放出されて、皮膚に均一に液体を塗る又は浸透させることができないことがある。一方、皮膚当接層Cの見掛け密度(ρ)が0.3g/cmを超えると、液体が放出されにくくなる、液体が拡散しにくくなる、あるいは液体が放出され易い部分と放出されにくい部分とが生じる等の理由により、やはり液体を皮膚に均一に塗る又は浸透させることができないことがある。
【0029】
皮膚当接層Cは、親水性繊維を30mass%以上含むことが好ましい。その理由は先に説明したとおりである。具体的な親水性繊維は先に例示したとおりである。
【0030】
あるいは、皮膚当接層Cは、繊度が0.5dtex以下の極細繊維を含むことが好ましい。その理由は先に説明したとおりである。極細繊維は、より好ましくは、0.3dtex以下の繊度を有する。極細繊維は、皮膚当接層Cに10〜80mass%の割合で含まれることが好ましく、10〜70mass%の割合で含まれることがより好ましい。極細繊維の割合が10mass%未満であると、皮膚当接層Cが極細繊維を含むことによる効果(皮膚への刺激性が少ないこと)を十分に得ることができず、80mass%を越えると、不織布が緻密となりすぎて液体保持層Aに保持した液体を皮膚表面に放出させるときに、液体の放出量が小さくなりすぎることがある。皮膚当接層Cは、極細繊維と親水性繊維をともに含んでよい。あるいは、皮膚当接層Cは、合成繊維のみから成る繊維集合層であってよく、その場合には、皮膚当接層Cの繊維により液体が吸収されにくいため、液体徐放層Bから徐放される液体が安定して放出される。
【0031】
前記極細繊維は、異なる2以上の成分からなる分割型複合繊維を割繊させることにより得られる極細繊維であることが好ましい。分割型複合繊維は、前述したように、水流交絡処理により割繊されるとともに交絡が進むので、複雑なラビリンス形状の繊維間空隙を形成するのに適しており特に好ましい。分割型複合繊維を構成する成分の組合せの例は、液体徐放層Bに関連して説明したとおりである。
【0032】
前述のとおり、本発明の積層体は、液体保持層Aの片面または両面に、液体徐放層Bおよび皮膚当接層Cがこの順に積層され、一体化された構成を有する。本発明の積層体は、液体の放出性を阻害しない限りにおいて、他の不織布またはシートをさらに積層してもよい。層同士は、例えば、バインダー樹脂を用いて接合される。あるいは、層を構成する繊維が熱接着性を有する場合には、当該繊維の熱接着性を利用して、層同士を接合させてよい。あるいは、最終的に得られる積層体において、液体徐放層Bの平均孔径(P)および皮膚当接層Cの平均孔径(P)が上記条件を満たす限りにおいて、各層を構成する繊維同士を交絡させることによって、層同士を接合させてよい。あるいはまた、繊維同士を交絡させる接合手法と、バインダー樹脂を用いる接合手法とを併用して、層同士を接合させてよい。
【0033】
本発明の積層体は、液体を含浸させて使用する。含浸させる液体は、流動性を有する限りにおいて、いずれの液体であってよい。具体的には、液体は、化粧料、薬液、洗浄液、または消毒液等であってよく、あるいはこれらの液体から選択される2以上の液体を混合したものであってよい。本発明の積層体に化粧料を含浸させた液体含浸シートは、例えば顔に化粧料を塗布するために使用する場合に、最初にシートを当てた部分においてのみ化粧料が多量に塗布されることを防止して、顔全体に均一に化粧料が塗布されることを可能にする。化粧料は、例えば、保湿成分、クレンジング成分、制汗成分、香り成分、美白成分、血行促進成分、紫外線防止成分および痩身成分から選択される1または複数の有効成分を含む。本発明の積層体に洗浄液を含浸させた液体含浸シートは、濡れタオルのように皮膚当接層Cで身体に洗浄液を塗布しながら、汚れを拭き取るように使用することができる。薬液または消毒液を含浸させた液体塗布シートは、例えば、皮膚病、創傷、擦傷または炎症の治療のために使用でき、所定の部位にあてて使用することにより、薬液または消毒液を長時間にわたって少量ずつ放出させることができ、薬液等を頻繁に塗る手間を省ける。いずれの液体も、必要に応じて、水または界面活性剤等の有効成分以外の成分を含んでいてよい。さらに、いずれの液体も、必要に応じて、用途等に応じて所望の粘度が得られるように、粘度調整剤として粘性物質を含んでよい。
【0034】
液体の含浸量は、液体の種類および用途等に応じて決定される。例えば、本発明の積層体にクレンジング剤を含む化粧料を含浸させてクレンジングシートとする場合には、シート100質量部に対して、化粧料を100質量部以上400質量部以下の割合で含浸させるとよい。本発明の積層体に美白成分または保湿成分等を含む化粧料を含浸させてフェイスマスクシートとする場合には、シート100質量部に対して、化粧料を500質量部以上800質量部以下の割合で含浸させるとよい。
【0035】
前記液体は、工業的に一般に用いられている加工方法を使用して、本発明の積層体に含浸させることができる。具体的には、例えば、スプレー法、ロールタッチ法、コーティング法、または浸漬(ディップ)法等の公知の方法を使用することができる。
【実施例】
【0036】
液体保持層Aとして、下記の3種類の不織布を用意した。
A−1 :構成繊維がパルプ85mass%、熱融着繊維15mass%であるエアレイウェブを熱風処理することにより作製した、パルプが熱接着性繊維により接着されているエアスルー不織布であって、目付が100g/mであり、厚さ(2.94cN/cm荷重)が1.7mmであり、見掛け密度(ρ)が0.06g/cmである不織布。
A−2 :構成繊維がパルプ80mass%、熱融着繊維20mass%であり、エアレイウェブを熱風処理することにより作製した、パルプが熱接着性繊維により接着されているエアスルー不織布であって、目付が60g/mであり、厚さ(2.94cN/cm荷重)が0.95mmであり、見掛け密度(ρ)が0.06g/cmである不織布。
A−3 :構成繊維が1.7dtexのレーヨン繊維のみであるカードウェブを水流交絡処理することにより作製した水流交絡不織布であって、目付が60g/mであり、厚さ(2.94cN/cm荷重)が0.83mm、見掛け密度(ρ)が0.07g/cmである不織布。
【0037】
液体徐放層Bとして、下記の3種類の不織布を用意した。
B−1 :構成繊維が5μmのポリプロピレン繊維であり、平均孔径が15.1μmであり、目付が20g/mであり、厚さ(2.94cN/cm荷重)が0.12mmであり、見掛け密度(ρ)が0.17g/cmであるメルトブローン不織布。
B−2 :構成繊維が5μmのポリプロピレン繊維であり、平均孔径が13.1μmであり、目付が50g/mであり、厚さ(2.94cN/cm荷重)が0.57mmであり、見掛け密度(ρ)が0.09g/cmであるメルトブローン不織布
B−3 :ポリエチレンテレフタレート/ナイロン6の2成分からなる16分割型複合繊維からなるカードウェブを水流交絡処理して割繊することにより得られた、繊度が約0.2dtexの極細繊維を約80mass%含み、平均孔径が28.7μmであり、目付が100g/mであり、厚さ(2.94cN/cm荷重)が0.92mmであり、見掛け密度(ρ)が0.11g/cmである水流交絡不織布。
【0038】
皮膚当接層Cとして下記の2種類の不織布を用意した。
C−1 :コットン繊維からなるカードウェブを水流交絡処理することにより作製した水流交絡不織布であって、平均孔径が70μmであり、目付が60g/mであり、厚さ(2.94cN/cm荷重)が0.98mmであり、見掛け密度(ρ)が0.06g/cmである不織布。
C−2 :ポリエチレンテレフタレート/ナイロン6の2成分からなる16分割型複合繊維からなるカードウェブを水流交絡処理して割繊することにより得られた、繊度が約0.2dtexの極細繊維を約80mass%含み、平均孔径が65μmであり、目付が40g/mであり、厚さ(2.94cN/cm荷重)が0.42mmであり、見掛け密度(ρ)が0.10g/cmである水流交絡不織布。
【0039】
上記において、平均孔径はいずれも、パームポロメータ(Porous Materials Inc.製)を使用して、ASTM F 316 86に準拠してバブルポイント法により測定した値である。また、見掛け密度は、2.94cN/cm荷重で測定した厚さと目付とから求めた値である。
【0040】
(実施例1)
不織布A−1の一方の面にシートB−1および不織布C−1をこの順に積層した、A−1/B−1/C−1のシート構成を有する積層体を作製した。層と層との間は、接着剤(コニシ(株)製、商品名「ボンドG17」)を、10cmあたり約0.1gの量で、ヘラを用いて、一方の層の表面に均一に塗布して貼り合わせることにより接着一体化して、対人用液体含浸シート用積層体を得た。
【0041】
(実施例2)
積層体の構成をA−2/B−1/C−2としたこと以外は実施例1と同様にして、対人用液体含浸シート用積層体を得た。
【0042】
(実施例3)
積層体の構成をA−3/B−2/C−1としたこと以外は実施例1と同様にして、対人用液体含浸シート用積層体を得た。
【0043】
(実施例4)
積層体の構成をA−3/B−3/C−1としたこと以外は実施例1と同様にして、対人用液体含浸シート用積層体を得た。
【0044】
(比較例1)
積層体の構成をA−1/C−1としたこと以外は実施例1と同様にして、対人用液体含浸シート用積層体を得た。
【0045】
(比較例2)
積層体の構成をA−2/B−1としたこと以外は実施例1と同様にして、対人用液体含浸シート用積層体を得た。
【0046】
(比較例3)
積層体の構成をA−2/C−1/B−3としたこと以外は実施例1と同様にして、対人用液体含浸シート用積層体を得た。この積層体は、皮膚当接層として作製した不織布を液体徐放層として使用し、液体徐放層として作製した不織布を皮膚当接層として使用するものである。
【0047】
実施例1〜4および比較例1〜3で得られた対人用液体含浸シート用積層体に以下の手順で液体を含浸させて、対人用液体含浸シートとし、これを評価した。評価方法は次のとおりである。
【0048】
<液体放出性>
1)各実施例または比較例で得た対人用液体含浸シート用積層体(たて200mm×よこ300mm)を、花王(株)製、化粧水「キュレル」(商品名)が入った液体槽に、シート全体が浸漬するようにディップし、2時間放置した。
2)シートに対して、化粧水が約600mass%となるように、ロールで絞って均一に化粧水を含浸させた。
3)液体含浸シートをたて30cm×よこ50cmサイズのガラス面に、シートのよこ方向がガラス板のたて方向と一致するように置き、シートに荷重がかからないようにシートの端を手で引っ張り、ガラス面を3回往復させた。
4)3往復させた後、ガラス面に付着した液体量を観察し、下記の基準で評価した。
【0049】
[評価の基準:液体放出性]
◎:ガラス面に液体が少量ずつ塗布することができ、且つ均一に塗布されていた。
○:ガラス面に液体が少量ずつ塗布することができたが、一部不均一に塗布されていた。
△:カラス面に液体が少量ずつ塗布できるが、かなり不均一に塗布されていた。
×:ガラス面に液体が大量に、且つ不均一に塗布されていた。
【0050】
<拭き心地>
上記対人用液体含浸シートを、5名のモニターで手の甲を10回軽く擦ったときの拭き心地を、下記の基準で評価した。
【0051】
[評価基準:拭き心地]
◎:すべりがよく、拭き心地が軽い。
○:すべりはよいが、拭き心地がやや重い。
△:すべりがやや悪く拭き心地がやや重い。
×:すべりが悪く拭き心地が重い。
【0052】
【表1】

【0053】
実施例1〜4の対人用液体含浸シートは、いずれも液体徐放層Bおよび皮膚当接層Cが前述した範囲の平均孔径を有していたため、液体放出性が良好であった。また、実施例1〜4の対人用液体含浸シートは、皮膚当接層Cが親水性繊維(コットン)または極細繊維を含んで成る水流交絡不織布であったために、良好な拭き心地を使用者に与えた。比較例1の対人用液体含浸シートは、液体徐放層Bを有していなかったために液体放出性が劣っていた。比較例2の対人用液体含浸シートは、皮膚当接層Cを有していなかったために、拭き心地が悪く、また、液体放出性も実施例のものより劣っており、このことは、皮膚当接層Cが液体徐放効果をある程度有することを示している。比較例3のシートは、不織布構成をA−1/C−1/B−3としたために、液体徐放層の平均孔径が皮膚当接層の平均孔径よりも大きくなってしまい、その結果、液体放出性が悪くなったと考えられる。また、比較例3のシートは、極細繊維を含む水流交絡不織布が皮膚当接層として使用されている点では実施例2と共通しているものの、平均孔径が小さかったために、皮膚に十分な量の化粧水が行き渡らず、その結果、やや重い拭き心地を与えたものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の積層体は、液体を含浸することができ、含浸させた液体を徐々に放出させ、かつ放出された液体を均一に皮膚に移行させることを可能にするものである。したがって、本発明の積層体は、有効成分を適宜選択し、これを水または有機溶媒に溶解または分散させた液体を含浸させることにより、当該有効成分を、一定時間をかけて一定量ずつ塗布または投与することが可能なシート(例えば、化粧料含浸シートまたは薬液含浸シート)を製造するのに適している。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を含浸し得る液体保持層Aの少なくとも一方の表面に、液体徐放層Bおよび皮膚当接層Cがこの順に積層されて成り、
液体徐放層Bが、その平均孔径(P)が1μm以上40μm以下の範囲内にある多孔シートであり、
皮膚当接層Cが、その平均孔径(P)が前記液体徐放層Bの平均孔径(P)よりも大きい繊維集合層である、
対人用液体含浸シート用積層体。
【請求項2】
前記液体保持層Aが、0.03g/cm以上0.2g/cm以下の見掛け密度(ρ)を有する不織布である、請求項1に記載の対人用液体含浸シート用積層体。
【請求項3】
前記液体徐放層Bが、5g/m以上50g/m以下の目付を有し、0.03g/cm以上0.3g/cm以下の見掛け密度(ρ)を有するメルトブローン不織布である、請求項1または2に記載の対人用液体含浸シート用積層体。
【請求項4】
前記皮膚当接層Cが、親水性繊維を30mass%以上含んで成る水流交絡不織布である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の対人用液体含浸シート用積層体。
【請求項5】
前記皮膚当接層Cが、極細繊維を10mass%以上含んで成る水流交絡不織布である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の対人用液体含浸シート用積層体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の対人用液体含浸シート用積層体に液体を含浸させた対人用液体含浸シート。


【公開番号】特開2006−110796(P2006−110796A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−298898(P2004−298898)
【出願日】平成16年10月13日(2004.10.13)
【出願人】(000002923)大和紡績株式会社 (173)
【出願人】(300049578)ダイワボウポリテック株式会社 (120)
【Fターム(参考)】