説明

対象者におけるメラニン形成を誘導するための組成物および方法

ここで記載されているのは、α‐MSHアナログを含んでなる組成物と、これら組成物の局所投与により対象者においてメラニン形成を誘導する、および/またはUV光誘導皮膚障害を防止するための経皮送達系および方法である。

【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
メラノコルチン類は、表皮でメラノコルチン‐1のレセプター(MC1R)との相互作用により色素沈着を誘導する、一群のペプチドホルモンを包含している。一部の非ヒト動物において脳下垂体の中間部から、およびヒト皮膚においてUV照射ケラチン細胞から放出される一次色素ホルモンは、α-メラニン形成細胞刺激ホルモン(α‐MSH)である。この13アミノ酸ペプチドはMC1Rと結合して、サイクリックAMP媒介シグナル伝達を誘導する。これにより、DOPA前駆体からのメラニンポリマーの合成に至る。2種類のメラニンがヒトで発現されている。褐色様黒色色素ユーメラニンは日光障害から防御すると考えられ、一方赤色様イオウ含有色素フェオメラニンは、日光への日焼け応答に乏しい白色皮膚ヒト群でしばしば発現される。これらの日焼けしにくく、火傷しやすい群は、MC1R遺伝子に欠陥を有していることがしばしばあり、黒色腫(melanoma)および非黒色腫(non-melanoma)皮膚癌双方を発生する危険性が大きいと通常考えられている4,5
【0002】
α‐MSHの非常に強力な誘導体である、メラノタン(Nle‐D‐Phe‐α‐MSH、ここでは“メラノタン‐1”または“MT1”とも称される)はヒトボランティアで日焼けを誘導しうることが、これまでに開示されている。メラノタンは二つのアミノ酸置換を含み、カエル皮膚バイオアッセイのような実験系または培養ヒトケラチン細胞で色素沈着を誘導する際には、天然ホルモンより約100〜1000倍強力である。ヒトにおいて、メラノタンは、その日焼け効果と関連して皮膚でユーメラニン合成を主に誘導する。メラノトロピン類は免疫学的変化をもたらすと言われてきたが9,10,11、日焼けに必要とされる量より多い用量が投与されない限り、これまでの全ての試験は顔面紅潮および一過性GI不良のような最小の副作用を報告したに過ぎなかった12
【0003】
メラニン親和性ペプチドがヒト皮膚のメラニン色素沈着を増加させる可能性をもっているかもしれない、という強力な証拠が存在している。合成MSHは、正常または色白の個体の皮膚色素沈着を高めて、太陽光の危険から彼らを防御するために用いられる。いくつかの研究より、皮膚が日光への暴露で容易に火傷しやすく、容易に日焼けしない個体が、非黒色腫(non-melanoma)皮膚腫瘍および皮膚黒色腫(melanoma)双方で高い危険を有していることを示した16,17,18。UV光がヒトにおいて皮膚癌に関与しうる明白な証拠がある。オゾン層の崩壊増加と皮膚癌の発生頻度および死亡率増加を考慮すると、日焼けの皮膚自体の“防御メカニズム”を刺激する能力は、光からの防御戦略として極めて重要かもしれない。
【0004】
したがって、ここに記載されているのは、対象者にα‐MSHアナログを局所投与することにより、ヒト対象者においてメラニン形成を誘導し、意外にも対象者においてメラニンの密度水準の増加をもたらすための組成物および方法である。対象者においてメラニンの水準を増加させることにより、対象者においてUV光誘導皮膚障害の出現を減少または防止することが可能となる。
【発明の概要】
【0005】
ここに記載されているのは、対象者においてメラニン形成を誘導するための組成物および方法である。本発明の利点は以下の記載で一部が説明され、一部はその記載から明らかになるか、または以下で記載された各態様の実施により判明するであろう。以下で記載された利点は、添付された請求項で特に指摘された要素および組合せにより実現および達成されるであろう。前記の一般的な説明と以下の詳細な説明は双方とも、例示および説明にすぎず、限定されないことが、理解されるであろう。
【発明の具体的説明】
【0006】
本化合物、組成物、および/または方法が開示および記載される前に、以下で記載されている各態様は特定の化合物、合成法、または使用そのものに限定されず、当然ながら、多様である、と理解されるべきである。ここで用いられている専門用語は具体的態様のみを記載する目的であり、限定するためではないことも、理解されるべきである。
【0007】
この明細書と以下の請求項では、いくつかの用語に言及しているが、それらは以下の意味を有していると定義される:
この明細書を通して、文脈がそれ以外を要求していない限り、“含んでなる”という用語または“含む”または“含んでいる”との態様は、記載された構成もしくは工程、または構成もしくは工程の群を包含していることを意味し、いずれか他の構成もしくは工程または構成もしくは工程の群が除外されることを意味するものではない、と理解される。
【0008】
文脈が明らかにその他を示していない限り、明細書および添付された請求項で用いられている単数形“a”、“an”、および“the”は複数の対象も含むことに留意しなければならない。そのため、例えば“薬学上の担体”との言及は、2種以上のこのような担体の混合物を含む、などである。
【0009】
“任意の”または“場合により”とは、後で記載される事項または事象が生じたりまたは生じないことにより、その記載には前記事項または事象が生じる場合とそれが生じない場合とを含むことを意味している。
【0010】
範囲は、“約”の付くある具体値から、および/または、“約”の付く他の具体値までとして表現される。このような範囲が表されている場合、他の態様では、このある具体値から、および/または、この他の具体値までを含む。同様に、値が前置語“約”の使用により概算で表されている場合、具体な値は他の態様を形成していることと理解される。範囲の各々の終点は、他の終点との関連で、および他の終点とは無関係に、双方とも重要であることが、更に理解されるであろう。
【0011】
組成物または物品中の具体的要素、または成分の重量部に関する明細書および請求項での言及は、重量部が表されている組成物または物品中における要素または成分、といずれか他の要素または成分との重量関係を意味している。このように、2重量部の成分Xと5重量部の成分Yを含有している化合物の場合、XおよびYは2:5の重量比で存在し、追加の成分が化合物中に含有されているかどうかに関係なく、このような比率で存在している。
【0012】
成分の重量%は、特に反対のことに言及していない限り、前記成分が含有されている処方物または組成物の総重量に対するものである。
【0013】
“予防”または“予防する”とは、望ましくない状態へ向かう危険性をもつ対象者または系への組成物の投与を意味する。前記状態には、病気または病気になりやすい傾向を含む。予防は、前記状態の重篤度の軽減から前記状態の完全な離脱にわたる。
【0014】
“有効な量および時間”とは、望ましい結果を得る、例えば対象者においてメラニン形成を誘導するために必要な治療量および時間を意味する。
【0015】
“誘導する”とは、誘導工程前に存在しなかった望ましい応答または結果を生じさせることを意味する。“誘導する”という用語は“増強する”という用語も含んでいる。
【0016】
“増強する”という用語は、増強工程前と同程度で望ましい応答が持続すること、または望ましい応答が一定期間にわたって増加することを意味する。
【0017】
ここで言及されている“メラニン形成”という用語は、メラニン産生細胞、すなわちメラノサイトによりメラニンを産生しうる対象者の能力として定義される。
【0018】
ここで言及されている“同種脱感作”という用語は、アゴニストへの連続暴露時における細胞応答の阻害として定義される。
【0019】
ここで言及されている“表皮組織”という用語は、特に対象者の皮膚を含む。
【0020】
ここで言及されている“経皮”という用語は、局所用処方剤、口腔(buccal)パッチ、皮膚パッチ、または経皮パッチに限定されないが、そのような処方剤を用いて皮膚へ入る、またはそこを通過する化合物の投与を包含している。
【0021】
ここで用いられている“局所”という用語は、局所経皮送達用のローション、スプレー、クリーム、ゲル、または溶液のような通常の局所用製剤の適用による、および/または対象者の表皮組織への全身および/または局所送達用の溶液による投与を包含している。
【0022】
ここで言及されている“対象者”という用語には、特に哺乳動物、最も具体的にはヒトを含む。
【0023】
開示された方法および組成物に用いられる、それと一緒に用いられる、その製造に用いられる、またはその製品である、化合物、組成物、および成分が開示されている。これらおよび他の物質がここでは開示され、これら物質の組合せ、サブセット、相互作用、群などが開示されている場合、これら化合物の様々な個別的、集合的組合せ、ならびに置換への具体的言及は明記されていないかもしれないが、各々がここでは具体的に考慮および記載されていると理解される。例えば、いくつかの異なるα‐MSHアナログおよび経皮送達系が開示および検討されていれば、特に反対のことに言及していない限り、α‐MSHアナログおよび経皮送達系の各々および全組合せおよび置換が特に考えられる。この概念は、開示された組成物を製造するおよび用いる方法の各工程に限定されないが、それらを含めたこの開示の全ての態様に該当する。そのため、実施される様々な追加工程があれば、これら追加工程の各々が開示された方法の具体的態様または各態様の組合せで行え、このような各組合せが特に考えられ、開示されていると考えるべきである、と理解される。
【0024】
ここで記載されているのは、ヒト対象者においてメラニン形成を誘導するための組成物および方法である。前記組成物および方法は、対象者のメラノコルチン‐1レセプターの同種脱感作を誘導せずに、メラニン産生を増加させる。これは、低濃度のα‐MSHアナログが対象者の血漿中に存在するように、α‐MSHアナログを対象者に投与することにより行われる。一般的に、対象者においてメラニン産生を増加させるためには、より高用量のα‐MSHアナログが必要とされる。しかしながら、高用量のα‐MSHアナログが投与された場合は、望ましくない副作用が生じうる。対象者においてメラニン産生を増加させることにより、UV光誘導皮膚障害を通常受けやすい対象者において、このような障害の発生を防止することが可能である。
【0025】
一つの態様において、本発明は:
(i)経皮送達系(TDS)および
(ii)α‐MSHアナログ
を含んでなる、対象者においてメラニン形成を誘導するか、または対象者においてUV光誘導皮膚障害を防止するための局所投与用の組成物を提供する。
【0026】
他の態様において、本発明は:
(i)経皮送達系(TDS)および
(ii)α‐MSHアナログ
を含んでなる組成物を対象者に局所投与することからなる、対象者においてメラニン形成を誘導するか、または対象者においてUV光誘導皮膚障害を防止するための方法も提供する。
【0027】
好ましくは、対象者のメラノコルチン‐1レセプターの同種脱感作を誘導することなく、対象者の表皮組織においてメラノサイトによりメラニン形成を誘導する上で有効な量および時間、α‐MSHアナログを供給するために、前記組成物が投与される。
【0028】
更に好ましくは、対象者の表皮組織においてメラノサイトによりメラニン形成を誘導する上で有効量の前記α‐MSHアナログを供給するために前記組成物が投与され、その際にα‐MSHアナログが対象者の血漿中で少なくとも4時間にわたり10μg/mLを超えない水準で投与される。
【0029】
更に他の態様において、本発明は、対象者においてメラニン形成を誘導するか、または対象者においてUV光誘導皮膚障害を防止するための局所用製剤の製造に際しての:
(i)経皮送達系(TDS)および
(ii)α‐MSHアナログ
を含んでなる組成物の使用にも及ぶ。
【0030】
好ましくは、対象者はヒト対象者である。
【0031】
ここで言及されている“α‐MSHアナログ”という用語は、α‐MSHが結合するメラノコルチン‐1レセプター(MC1R)でアゴニスト活性を示し、メラノサイト内でメラニンの産生を開始させる、α‐MSHの誘導体として定義される。このような誘導体には、(i)N末端、C末端、または双方で天然α‐MSH分子から一以上のアミノ酸残基を欠失している誘導体、および/または(ii)天然α‐MSH分子の一以上のアミノ酸残基が、他の天然、非天然、または合成アミノ酸残基で置き換えられている誘導体、および/または(iii)分子内相互作用が環状誘導体として形成する誘導体が包含される。
【0032】
いかなるα‐MSHアナログの使用もここで記載された組成物および方法で考えられる。α‐MSHのいくつかの誘導体が合成されてきた19。米国特許第4,457,864号、4,485,039号、4,866,038号、4,918,055号、5,049,547号、5,674,839号、および5,714,576号とオーストラリア特許第597630号および618733号において記載されたα‐MSHアナログが、それらはα‐MSHアナログおよびそれらの合成に関するそれらの開示は、引用することにより本明細書の開示の一部とされ、ここで記載された組成物および方法で用いられる。
【0033】
一つの態様において、α‐MSHアナログは下記から選択される、オーストラリア特許第597630号で開示されているような化合物である:
(a)下記式の化合物:
Ac‐Ser‐Tyr‐Ser‐M‐Gln‐His‐D‐Phe‐Arg‐Trp‐Gly‐Lys‐Pro‐Val‐NH
(Mは、Met、Nle、またはLysである)および
(b)下記式の化合物:
‐W‐X‐Y‐Z‐R
(前記式中
は、Ac‐Gly‐、Ac‐Met‐Glu‐、Ac‐Nle‐Glu‐、またはAc‐Tyr‐Glu‐であり、
Wは、‐His‐または‐D‐His‐であり、
Xは、‐Phe‐、‐D‐Phe‐、‐Tyr‐、‐D‐Tyr‐、または‐(pNO)D‐Phe‐であり、
Yは、‐Arg‐または‐D‐Arg‐であり、
Zは、‐Trp‐または‐D‐Trp‐であり、および
は、‐NH、‐Gly‐NH、または‐Gly‐Lys‐NHである)。
【0034】
他の態様において、α‐MSHアナログは、(ジスルフィド結合または他の共有結合のような)分子内相互作用が(1)4位のアミノ酸残基と10位または11位のアミノ酸残基との間に、および/または(2)5位のアミノ酸残基と10位または11位のアミノ酸残基との間に存在している、オーストラリア特許第618733号で開示されている環状アナログから選択される。
【0035】
前記α‐MSHアナログは、下記からなる群より選択される、米国特許第5,674,839号で開示されているような直鎖状のアナログでもよい:
Ac‐Ser‐Tyr‐Ser‐Nle‐Glu‐His‐D‐Phe‐Arg‐Trp‐Lys‐Gly‐Pro‐Val‐NH
Ac‐Ser‐Tyr‐Ser‐Nle‐Asp‐His‐D‐Phe‐Arg‐Trp‐Lys‐Gly‐Pro‐Val‐NH
Ac‐Nle‐Glu‐His‐D‐Phe‐Arg‐Trp‐Lys‐Gly‐Pro‐Val‐NH
Ac‐Nle‐Asp‐His‐D‐Phe‐Arg‐Trp‐Lys‐Gly‐Pro‐Val‐NH
Ac‐Nle‐Asp‐His‐D‐Phe‐Arg‐Trp‐Gly‐NH
Ac‐Nle‐Glu‐His‐D‐Phe‐Arg‐Trp‐Lys‐NH
Ac‐Nle‐Asp‐His‐D‐Phe‐Arg‐Trp‐Lys‐NH
Ac‐Nle‐Glu‐His‐D‐Phe‐Arg‐Trp‐Orn‐NH
Ac‐Nle‐Asp‐His‐D‐Phe‐Arg‐Trp‐Orn‐NH
Ac‐Nle‐Glu‐His‐D‐Phe‐Arg‐Trp‐Dab‐NH
Ac‐Nle‐Asp‐His‐D‐Phe‐Arg‐Trp‐Dab‐NH
Ac‐Nle‐Glu‐His‐D‐Phe‐Arg‐Trp‐Dpr‐NH
Ac‐Nle‐Glu‐His‐Phe‐Arg‐Trp‐Lys‐NH
Ac‐Nle‐Asp‐His‐Phe‐Arg‐Trp‐Lys‐NH
【0036】
α‐MSHアナログは、下記からなる群より選択される、米国特許第5,674,839号で開示されているような環状アナログでもよい:
【化1】

【0037】
ここで言及されている箇所において、Ala=アラニン、Arg=アルギニン、Dab=2,4‐ジアミノ酪酸、Dpr=2,3‐ジアミノプロピオン酸、Glu=グルタミン酸、Gly=グリシン、His=ヒスチジン、Lys=リジン、Met=メチオニン、Nle=ノルロイシン、Orn=オルニチン、Phe=フェニルアラニン、(pNO)Phe=p‐ニトロフェニルアラニン、Plg=フェニルグリシン、Pro=プロリン、Ser=セリン、Trp=トリプトファン、TrpFor=N‐ホルミルトリプトファン、Tyr=チロシン、Val=バリンである。全てのペプチドは左にアシル末端および右にアミノ末端で記載されている、アミノ酸の前に存在する接頭語“D”はD‐異性体立体配置を表し、特にそれ以外で表されていない限り、全てのアミノ酸はL‐異性体立体配置で存在している。
【0038】
一つの態様において、α‐MSHアナログは下記である:
〔D‐Phe〕‐α‐MSH
〔Nle,D‐Phe〕‐α‐MSH
〔D‐Ser,D‐Phe〕‐α‐MSH
〔D‐Tyr,D‐Phe〕‐α‐MSH
〔D‐Ser,D‐Phe〕‐α‐MSH
〔D‐Met,D‐Phe〕‐α‐MSH
〔D‐Glu,D‐Phe〕‐α‐MSH
〔D‐His,D‐Phe〕‐α‐MSH
〔D‐Phe,D‐Arg〕‐α‐MSH
〔D‐Phe,D‐Trp〕‐α‐MSH
〔D‐Phe,D‐Lys11〕‐α‐MSH
〔D‐Phe,D‐Pro12〕‐α‐MSH
〔D‐Phe,D‐Val13〕‐α‐MSH
〔D‐Ser,Nle,D‐Phe〕‐α‐MSH
〔D‐Tyr,Nle,D‐Phe〕‐α‐MSH
〔D‐Ser,Nle,D‐Phe〕‐α‐MSH
〔Nle,D‐Glu,D‐Phe〕‐α‐MSH
〔Nle,D‐His,D‐Phe〕‐α‐MSH
〔Nle,D‐Phe,D‐Arg〕‐α‐MSH
〔Nle,D‐Phe,D‐Trp〕‐α‐MSH
〔Nle,D‐Phe,D‐Lys11〕‐α‐MSH
〔Nle,D‐Phe,D‐Pro12〕‐α‐MSH
〔Nle,D‐Phe,D‐Val13〕‐α‐MSH
【化2】

〔Nle,D‐Phe〕‐α‐MSH4‐10
〔Nle,D‐Phe〕‐α‐MSH4‐11
〔D‐Phe〕‐α‐MSH5‐11
〔Nle,D‐Tyr〕‐α‐MSH4‐11
〔(pNO)D‐Phe〕‐α‐MSH4‐11
〔Tyr,D‐Phe〕‐α‐MSH4‐10
〔Tyr,D‐Phe〕‐α‐MSH4‐11
〔Nle〕‐α‐MSH4‐11
〔Nle,(pNO)D‐Phe〕‐α‐MSH4‐11
〔Nle,D‐His〕‐α‐MSH4‐11
〔Nle,D‐His,D‐Phe〕‐α‐MSH4‐11
〔Nle,D‐Arg〕‐α‐MSH4‐11
〔Nle,D‐Trp〕‐α‐MSH4‐11
〔Nle,D‐Phe,D‐Trp〕‐α‐MSH4‐11
〔Nle,D‐Phe〕‐α‐MSH4‐9、または
〔Nle,D‐Phe,D‐Trp〕‐α‐MSH4‐9
【0039】
別の態様において、α‐MSHアナログは下記である:
〔Nle,D‐Phe〕‐α‐MSH4‐10
〔Nle,D‐Phe〕‐α‐MSH4‐11
〔Nle,D‐Phe,D‐Trp〕‐α‐MSH4‐11、または
〔Nle,D‐Phe〕‐α‐MSH4‐9
【0040】
特に好ましい態様において、α‐MSHアナログは〔Nle,D‐Phe〕‐α‐MSHである。
【0041】
具体的事例でα‐MSHアナログの実際に好ましい量が、利用される具体的化合物、処方される具体的組成物、適用の様式、ならびに治療される具体的部位および対象者に応じて変わることは、明らかであろう。所定ホストの投与量は、通常の考察を用いて、例えば適切な通常の薬理手順で、例えば対象化合物および既知剤の異なる活性の慣行的比較により定められる。医薬化合物の用量を定める、当分野の専門家である医者および処方者であれば、ここで記載された方法によりメラニン形成を誘導するための用量を定める上で、何ら問題を有しないであろう。一つの態様において、α‐MSHアナログは、対象者のメラノコルチン‐1レセプターの同種脱感作を誘導することなく、メラニン形成を誘導する量で投与される。他の態様において、α‐MSHアナログは対象者の血漿中で少なくとも4時間にわたり、10ng/mLを超えない水準で投与される。様々な他の態様において、α‐MSHアナログは対象者の血漿中で少なくとも4時間にわたり、9ng/mL、8ng/mL、7ng/mL、6ng/mL、5ng/mL、4ng/mL、3ng/mL、2ng/mL、1ng/mL、または0.5ng/mLを超えない水準で投与される。
【0042】
ここで有用なα‐MSHアナログは、いずれも当業界で知られている様々な投与または送達技術を用いて、対象者に投与される。対象者においてメラニン形成を誘導するために、対象者の血漿中で低濃度のα‐MSHアナログを維持することが望ましい。したがって、投与の様式は、治療される対象者および選択されるα‐MSHアナログに依存する。
【0043】
本発明によると、α‐MSHアナログは、経皮送達系(TDS)も含んでなる組成物または処方物で投与される。
【0044】
好ましくは、経皮送達系(TDS)は米国特許第6,444,234号(Kirbyら)および6,787,152号(Kirbyら)で開示された系であり、双方ともTransdermal Technologies,Inc.に譲渡され、それらの開示は引用することにより本明細書の開示の一部とされる。これらの開示は、ヒトまたは他の動物の皮膚への組成物の局所適用による薬剤または他の活性剤の経皮投与のための組成物について記載している。活性剤の非常に速い取込み、ならびに皮膚へ入りそこから脂肪組織または脈管系への移行を行わせて、皮膚および/または免疫応答への刺激を最少化させるような組成物を処方するために開示された方法論は、皮膚安定剤と組み合わせて特定の溶媒、ならびに溶媒および溶質変性剤から形成された複合体中で真の溶液を形成するように活性剤が変性される経皮送達系(TDS)に基づいている。活性剤の取込みは、フォルスコリンまたは他の細胞エネルギー源を含有する、すなわちcAMPまたはcGMPを誘導することで、更に促進および迅速化される。具体的な溶媒、溶媒および溶質変性剤、他の機能性成分の選択とそれらの量は、送達系のモル‐モーメント〔(各個別成分のモル量)×(前記成分の双極子モーメント)〕の合計と活性剤が溶解される組成物のモル‐モーメントの合計との間でバランスがとれるように選ばれる。好ましくは、送達系のファンデルワールス力も同様に、全組成物、すなわち活性剤を加えた送達系のファンデルワールス力と合わせられる。
【0045】
米国特許第6,444,234号および6,787,152号で開示された経皮送達系は、活性剤および溶媒に対する生体応答性の物理的、化学的、および生体電気的障壁として皮膚の設計を取り扱う、活性剤の経皮送達のための局所用処方剤を提供する。したがって、薬剤または他の活性剤と永続的な、または強い共有結合が形成されずに、生きた皮膚を通り過ぎて血液、リンパ、または神経の最適な標的内部循環系へのまたはこれらの系を越える複合体の動きを形成された複合体が促進し、複合体および変性剤が所定の適用部位で活性剤からすぐに取り除かれ、こうして放出されると活性剤を解放して適切なレセプターへ向かわせるように、溶媒および変性成分が選択される。
【0046】
同時に、活性剤および溶媒を変性させてそれらの反応性および感受性を最少に抑え、同時に活性剤をより“滑りやすく”させることで皮膚からの移行を促進するように、処方剤が設計される。移行を促進して、皮膚からの活性剤および他の系成分の拡散速度を増加させることにより、処方剤が組織で長く留まらずに済み、生理学的応答も減る。従来、これは、溶媒および変性剤を選択して真の溶液、すなわち溶媒系中分子水準で様々な成分の溶液を形成させ、同時に活性剤と保護“コーティング”または一時的複合体を形成して皮膚からのその完全な移行を促進させることにより行われている。
【0047】
一つの広範な態様において、無傷な皮膚からの活性剤の急速経皮送達のための局所用処方剤は、(1)活性剤、(2)活性剤が可溶性である溶媒系、(3)場合により、アデノシン3′,5′‐サイクリック一リン酸(cAMP)またはサイクリックグアノシン3′,5′‐一リン酸(cGMP)のインビボ刺激を行える物質、および(4)場合により、皮膚安定剤を含有している。
【0048】
インビボでcAMPまたはcGMP刺激を行える物質は、好ましくはコレウス・フォルスコリ(Coleus forskohlii)の抽出物、特にラブダンジテルペン、例えばフォルスコリン(コルホルシン)またはコレオノールである。
【0049】
処方剤は、完全な生物活性形で活性剤の経皮吸収を高める上で有効な1種以上の追加成分も含有してよく、好ましくは含有する。このような追加剤には、例えば活性剤(溶質)および/または溶媒用の1種以上の変性剤、例えばメチルスルホニルメタン、テルペン化合物、皮膚浸透促進剤、モノラウリン酸グリセリン、四級カチオン系界面活性剤、N,N‐ジエチルエタノールアミンのようなN,N‐ジアルキルアルカノールアミン類、デヒドロエピアンドステロンのようなステロイド類、エイコサペンタン酸のような油性物質、およびA、D、E、Kのようなビタミン類がある。
【0050】
経皮送達系(TDS)は、局所用組成物で長期吸収曲線をもたらすための追加成分、更に詳しくは無傷の皮膚からの経皮送達で活性剤の吸収を増加させるための活性剤も含有してよい。このような吸収変性剤には、例えばミリスチン酸イソプロピル、ベンゾフェノン、およびジメチルスルホンから選択される1種以上の化合物がある。
【0051】
好ましくは、本発明によると、TDSは、
(a)α‐MSHアナログが(i)可溶性または少なくとも実質的に可溶性である、または(ii)1種以上の溶媒および/または溶質変性剤の追加により可溶化されるまたはより可溶性となる、溶媒系、
(b)場合により、細胞活性化エネルギー源、および
(c)場合により、皮膚安定剤
を含んでなる。
【0052】
一つの具体的な態様において、本発明は、活性剤がα‐MSHアナログであり、組成物が下記を含んでなる、活性剤の経皮送達のための局所用処方剤を提供する:
(A)活性剤が可溶性であるか、または活性剤を溶解させるように変性されて、活性剤を加えた溶媒系の組合せの場合と実質的に同様の双極子モーメントを有する、少なくとも1種の溶媒、
(B)活性剤の場合と共通した構造特徴を有して、酸素、窒素、およびイオウからなる群より選択される少なくとも一つのヘテロ原子を含有した少なくとも一つの官能基を含有するエチレン性不飽和極性基を含んでなる、少なくとも1種の溶媒変性剤、
(C)活性剤と一時的に(非共有結合)複合体を形成しうる化合物を含んでなる、少なくとも1種の代謝性溶質変性剤、
(D)少なくとも1種の細胞活性化エネルギー源、および場合により
(E)皮膚から活性剤の経皮移動に応答して体修復メカニズムを刺激するための、少なくとも1種の皮膚安定剤。
【0053】
具体的な態様において、活性剤がα‐MSHアナログである、活性剤の経皮送達のための局所用処方剤は下記を含んでなる:
(a)低級脂肪族モノヒドロキシ化合物およびポリヒドロキシ化合物からなる群より選択される、少なくとも1種の非水性無毒性溶媒、
(b)リモネンまたはレモン油、
(c)メチルスルホニルメタン、
(d)3,3′‐チオジプロピオン酸またはそのエステルもしくは塩、オキシインドールアルカロイド、ポリフェノール系フラボノイド、グルコヌリドの糖付加物、イソフラボン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルコリン、ビタミンD、およびビタミンKからなる群より選択される、少なくとも1種の化合物を含んでなる溶質変性剤、
(e)cAMPまたはcGMPの現場(in situ)生成を誘導する、少なくとも1種の物質、および
(f)約8〜約32の炭素原子を有する脂肪族カルボン酸、1〜約20の炭素原子を有する脂肪族アルコールとの前記脂肪族カルボン酸のエステル(前記エステルは全部で約9〜約36の炭素原子を有している)およびビタミンDからなる群より選択される少なくとも1種の化合物を含んでなる皮膚安定剤。
【0054】
特に好ましい態様によると、成分(e)はフォルスコリン(コルホルシン)であるか、またはそれを含んでなる。
【0055】
本発明の好ましいTDSの更なる詳細と、このような系を処方する方法論は、米国特許第6,444,234号および6,787,152号で開示され、それらの開示は引用することにより本明細書の開示の一部とされる。
【0056】
本発明の局所用組成物に配合されるα‐MSHアナログの量は、TDSの選択および対象者に送達されるα‐MSHの量に応じて変化する。一つの態様において、組成物中におけるα‐MSHアナログの量は組成物の0.001〜20重量%、0.05〜10重量%、または0.1〜5重量%である。
【0057】
他の薬学上許容される成分も、α‐MSHアナログと組み合わせて組成物中に配合される。例えば、薬学上の上許容される成分としては、脂肪酸、糖、塩、水溶性ポリマー、例えばポリエチレングリコール、タンパク質、多糖、またはカルボキシメチルセルロース、界面活性剤、可塑剤、高分子量ポロシゲンまたは低分子量ポロシゲン、例えばポリマー、塩、または糖、あるいは疎水性低分子量化合物、例えばコレステロールまたはワックスがあるが、それらに限定されない。
【0058】
一つの態様において、ここで記載されたα‐MSHアナログはいずれも、医薬組成物を製造する上で、適切なTDS、および場合により少なくとも1種の薬学上許容される担体と混合される。医薬組成物は当業界で公知の技術を用いて製造される。薬学上許容される担体は当業者に公知である。これらで最も典型的には、生理的pHの無菌水、塩水、および緩衝液のような溶液を含めた、ヒトへの投与用の標準的担体である。医薬組成物は、選択分子に加えて、増粘剤、希釈剤、緩衝剤、保存剤、界面活性剤なども含有してよい。医薬組成物は1種以上の活性成分、例えば抗菌剤、抗炎症剤、麻酔剤なども含有してよい。局所投与用の製剤には、水性溶液または非水性溶液、懸濁液、およびエマルジョンがある。非水性担体の例としては、水、アルコール/水性溶液、エマルジョン、または懸濁液、例えば塩水および緩衝液を含む。保存剤および他の添加剤は、例えば抗菌剤、抗酸化剤、キレート剤なども存在してよい。
【0059】
局所投与用の処方剤には、ローション、スプレー、クリーム、ゲル、滴剤、軟膏、坐剤、液剤、および粉末がある。通常の製剤担体、水性、粉末基剤または油性基剤、増粘剤などが必要または所望なこともある。TDSおよびα‐MSHアナログは、必要なまたは所望の生理学上許容される担体および何らかの保存剤、緩衝剤、噴射剤、または吸収促進剤と無菌条件化で混合してもよい。局所適用向け組成物、例えばクリームまたは軟膏のような粘稠組成物の製造に関しては、ここで引用された文献、例えば米国特許第5,990,091号、WO98/00166号、およびWO99/60164号が参照される。
【0060】
ここで記載されている方法は、対象者においてメラニン形成を誘導する(すなわち、メラニン産生細胞からのメラニン産生を増加させる)。本方法は、対象者のメラノコルチン‐1レセプターの同種脱感作を誘導することなく、メラニン産生を増加させる。対象者の血漿中において低濃度のα‐MSHアナログを維持することにより、対象者のメラノコルチン‐1レセプターの同種脱感作を誘導することなく、メラニン産生を増加させることが可能であり、こうしてUV光への暴露による皮膚障害の発生を対象者において防止できるのである。一つの態様において、ここで記載されているのは、対象者のメラノコルチン‐1レセプターの同種脱感作を誘導することなく、対象者においてメラニン形成を誘導する水準でα‐MSHアナログが投与されるように、TDSおよびα‐MSHアナログを含んでなる組成物を対象者に局所投与することからなる、ヒト対象者におけるUV光誘導皮膚障害を防止するための方法である。他の態様において、ここで記載されているのは、α‐MSHアナログが対象者の血漿中で少なくとも4時間にわたり10ng/mLを超えない水準で投与されるように、TDSおよびα‐MSHアナログを含んでなる組成物を対象者に局所投与することからなる、ヒト対象者におけるUV光誘導皮膚障害を防止するための方法である。
【実施例】
【0061】
下記の実施例は、ここでの記載および特許請求の範囲された化合物、組成物、および方法がどのように製造および評価されるかの完全な開示および記載を当業者に提供するために示されており、単なる例示であって、発明者らが発明とみなす範囲を限定するものではない。(例えば、量、温度など)の数値について正確性を保証する努力が払われてきたが、一部では誤差および偏差が考慮されねばならない。別記されていない限り、部は重量部、温度は℃または室温であり、圧力は大気圧またはほぼ大気圧である。反応条件、例えば成分濃度、成分混合物、望ましい溶媒、溶媒混合物、温度、圧力と、記載された工程から得られる生成物純度および収率を最良にするために用いられる他の反応範囲および条件は、多数の態様および組合せがある。妥当なルーチンの実験のみが、このような工程の条件を最適にする上で求められる。
【0062】
1.序論
無毛色素沈着モルモットにより、皮膚に浸透しうるメラノタンの局所適用スプレー式の処方剤の能力を評価するために、これらの研究を行った。メラノタン(MT)の定量のために、処方剤の適用後1、2、4、8、および24時間目に血液試料を集めた。この研究は、IMVSおよび王立アデレード病院(Royal Adelaide Hospital)の倫理委員会(Ethics Committee)の承認を得て行われた。
【0063】
2.方法
2.1.動物
全ての実験は、これら研究のため特別に交配された異系交配無毛色素沈着モルモットで行われた(下記参照)。全動物が成体であった。雌4匹および雄8匹を用いた。それらは下敷きにおがくずをひいた個別ケージで飼育され、水および標準食料を自由に摂取するようにした。動物3匹ごとの4群に分け、そのため各適用は動物3匹で行われた。2種の処方剤を各実験日で試験し、したがって動物6匹/日を2日間かけて試験した。
【0064】
本研究で用いられたモルモットの発生は、Bologniaら(1990)28によって以前に報告された交配操作に基づいた。前記モルモットは、Hr/Hrと称される赤/褐色毛の異系交配IMVS色モルモットと、Charles River Laboratoriesから得られたhr/hrと称されるHartley系からの異系交配無毛アルビノ(Crl:IAF/HA無毛)との交配から得られた。次いで、兄弟(姉妹)または従兄弟(従姉妹)交配を避けるために、これら交配のF異型接合子孫(Hr/hr)を互いにまたは無毛アルビノ動物と交配させた。異型接合動物の交配から、同型接合有毛:異型接合有毛:同型接合無毛について予想比率1:2:1となる。一様に薄褐色の無毛色素沈着動物(F2)と更なる交配を行った。得られた動物は、小胞間表皮メラノサイトを保有しており、正常胸腺(euthymic)である。
【0065】
2.2.薬物処方剤および用量
試験物質:Melanotan TDS(MT)
TDS:米国特許第6,444,234号および6,787,152号(TransDermal Technologies Inc.,米国)に従い調製された標準TDS溶液
処方剤:
A)MT10mg/mL
B)MT10mg/mL+2gミリスチン酸イソプロピル
C)MT10mg/mL+2gベンゾフェノン
E)MT10mg/mL+1gジメチルスルホン
200μL/スプレーを送達するポンプパックで全処方剤を与えた。全動物が3回のスプレーでMT6mg相当分を受容した(推奨貯蔵:25℃以下)。
【0066】
2.3.測定
経時的な処方剤間の統計的差異は、ANOVAを用いてTukey post-hoc試験(GraphpadPrism Software)により計算した。
【0067】
2.4.適用および採血
全採血をハロタン(Zeneca Ltd.,Macclesfield,イギリス)麻酔下で行った。23g針を用いて血液試料(可能な場合、1.0mL)を心穿刺により採取した。KEDTAおよび1000μL トラジロール(Trasylol)(10000KIU/mL)を含有した管に試料を集めた。血液試料を直ちに遠心(10000rpmで5分間)し、血漿試料を分析するまで−20℃で貯蔵した。4時間値の試料採取(動物1〜6)後、4および6時間値の試料採取(動物7〜12)後および24時間値の試料採取(飼育されている全て)後にscで塩水1mLを動物に投与した。
【0068】
2.5.処置手順
手順は下記の通りであり、採血手順は表1で示された通りであった。
1)動物の体重を量り、臨床記録紙に体重を記録する。
2)全ての血液管にラベルを必ず付し、トラジロール(Trasylol)を加える(1×KEDTA管、試料の遠心には2×エッペンドルフ(Eppendorfs)‐1、分析の場合は1)。
3)動物用の臨床記録紙に全て記載する。
4)処方剤を適用する(全動物が“3回の噴射”を受ける、これは600μLであり、試験処方剤が10mg/mLであるとして6mgのメラノタンに相当する)。
5)全てのエアゾルを動物の背中に適用し、逃げ出さないようにする(優しく撫でることが必要かもしれない)。
6)臨床記録紙に適用時間を書き留める。
7)麻酔動物で心穿刺により必要時に血液試料(可能な場合、1.0mL)を集める。
8)血液を直ちに遠心(5分間@10000rpm)し、血漿を除去して、必要時まで−20℃で貯蔵する。
【0069】
2.6.血漿試料分析
試料を液体クロマトグラフィーとタンデムマススペクトル測定(LC/MS/MS)によるメラノタン分析のためBioanalytical Sciences,アラバマ、米国へ送った。
【表1】

【0070】
3.結果
3.1.一般要約
ポンプを始動させた後、動物に約40mmの距離からスプレーした。この距離は、コントロールモルモットで試験することにより、エアゾル損失の少ない距離として確認された。
【0071】
少量のエアゾルが周辺に失われた。動物をまっすぐに立たせてスプレーし、直ちに長いすに置いた。小滴がわずかな製剤から形成され、手袋をはめた指でそれをそっとすり込んだ。処方剤は十分に吸収されたようである。動物の背中に覆いをかけず、乾燥時におがくずを含有したケージに動物を置いた。処方剤は全て“シトラス様”の香りを有し、処方剤Cも“殺虫剤スプレー様”の香りであった。
【0072】
集められた血液試料60個のうち2個は少し溶血した。これらの試料において操作上の問題は何も生じなかった。1日目に、動物6匹のうち2匹は目から軽度の分泌(色は白い)があり、1匹は2時間値の試料採取の前に、他の一匹は6時間値の試料採取時にあった。双方の動物とも次の試料時間には澄んだ目をしていた。
【0073】
1日目に、体重の軽い動物2匹は体調を一部崩し、24時間値の試料採取時には痩せて見えた。加えて、これら動物のうち1匹(動物No.2、処方剤A、雌)は直腸から出血し、脱腸のようであった。2日目、他の動物(処方剤E、No.11、雄)も経直腸出血を有していた。この群で他の雄(処方剤E、動物No.12)はペニスを露出(持続勃起症)させていたが、これは乾燥おがくずで覆われていた。この群からの全ての動物を犠牲にした。
【0074】
投与量は8.4〜13.9mg/kgであり、各群の平均用量は13.0(処方剤A)、11.3(処方剤B)、9.3(処方剤C)、および9.5(処方剤E)mg/kgであった。
【0075】
3.2.血漿中のメラノタン濃度
表2は各試料で得られた血漿濃度を示している。得られた結果からみられるように、メラノタン血漿水準が検出不能であった動物が何匹かいた。各群の結果が個別に図1(a〜d)で示され、投与量mg/kgで補正して得られた水準について示された対応結果が図2(a〜d)で示されている。4時間時点における動物1(処方剤A)の結果はいかなる計算またはグラフにも含まれていない。これは見掛け上高い結果であるが、試料容量が足りないため、試料を繰り返せるほど十分でなかった。メラノタンの平均(+SEM)血漿濃度が図3で示され、用量補正結果が図4で示されている(エラーバー(error bars)は明確化のために省略した)。用量補正データではどの処方剤間にも有意差がない。
【表2】

【0076】
4.要約および結論
全ての処方剤は適用が非常に単純であり、周辺にほとんど失われなかった。加えて、それらは全て皮膚へ迅速かつ容易に浸透したようである。なぜ、処方剤Aを受容した動物1匹と処方剤Eを受容した1匹が直腸から出血したかは不明である。動物がこれほど多く出血した以前の研究でこれは見られなかったため、それはストレス関連ではないと考えられる。処方剤Aを受容した雌は死体解剖したが、胃腸管で出血が多いという証拠はなく、明確な原因は不明であった。
【0077】
各群で試験された実験数が少なく(n=3)、各群内で得られた血漿メラノタン濃度に大きな個体間差異があった。予想血漿濃度が1〜10ng/mLであったため、アッセイの定量限界は、血漿中でこれらの水準を検出するために、6ng/mLより低いことが必要である。
【0078】
参考文献:



【図面の簡単な説明】
【0079】
添付図面は、この明細書の一部を構成し、以下で記載されたいくつかの態様を説明している。同一の数字または文字は、図面を通して同一の要素を表している。
【図1】図1は、メラノタン/TDS(MT)処方剤A、B、C、およびEの局所投与後、モルモットの血漿中におけるメラノタン濃度を表す。
【図2】図2は、MT処方剤A、B、C、およびEの局所投与後、モルモットの血漿中における用量補正メラノタン濃度を表す。
【図3】図3は、MT処方剤A、B、C、およびEの平均血漿メラノタン濃度を表す。
【図4】図4は、MT処方剤A、B、C、およびEの平均用量補正血漿メラノタン濃度を表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)経皮送達系(TDS)および
(ii)α‐MSHアナログ
を含んでなる、対象者においてメラニン形成を誘導するための、局所投与用組成物。
【請求項2】
(i)経皮送達系(TDS)および
(ii)α‐MSHアナログ
を含んでなる、対象者においてUV光誘導皮膚障害を防止するための、局所投与用組成物。
【請求項3】
前記α‐MSHアナログが、
(a)下記式の化合物:
Ac‐Ser‐Tyr‐Ser‐M‐Gln‐His‐D‐Phe‐Arg‐Trp‐Gly‐Lys‐Pro‐Val‐NH
(Mは、Met、Nle、またはLysである)、および
(b)下記式の化合物:
‐W‐X‐Y‐Z‐R
(前記式中
は、Ac‐Gly‐、Ac‐Met‐Glu‐、Ac‐Nle‐Glu‐、またはAc‐Tyr‐Glu‐であり、
Wは、‐His‐または‐D‐His‐であり、
Xは、‐Phe‐、‐D‐Phe‐、‐Tyr‐、‐D‐Tyr‐、または‐(pNO)D‐Phe‐であり、
Yは、‐Arg‐または‐D‐Arg‐であり、
Zは、‐Trp‐または‐D‐Trp‐であり、および
は、‐NH、‐Gly‐NH、または‐Gly‐Lys‐NHである)
から選択されるものである、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記α‐MSHアナログが、分子内相互作用が(1)4位のアミノ酸残基と10位または11位のアミノ酸残基との間に、および/または(2)5位のアミノ酸残基と10位または11位のアミノ酸残基との間に存在している、環状アナログである、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項5】
前記分子内相互作用がジスルフィド結合または他の共有結合である、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記α‐MSHアナログが下記からなる群より選択される、請求項1または2に記載の組成物:
Ac‐Ser‐Tyr‐Ser‐Nle‐Glu‐His‐D‐Phe‐Arg‐Trp‐Lys‐Gly‐Pro‐Val‐NH
Ac‐Ser‐Tyr‐Ser‐Nle‐Asp‐His‐D‐Phe‐Arg‐Trp‐Lys‐Gly‐Pro‐Val‐NH
Ac‐Nle‐Glu‐His‐D‐Phe‐Arg‐Trp‐Lys‐Gly‐Pro‐Val‐NH
Ac‐Nle‐Asp‐His‐D‐Phe‐Arg‐Trp‐Lys‐Gly‐Pro‐Val‐NH
Ac‐Nle‐Asp‐His‐D‐Phe‐Arg‐Trp‐Gly‐NH
Ac‐Nle‐Glu‐His‐D‐Phe‐Arg‐Trp‐Lys‐NH
Ac‐Nle‐Asp‐His‐D‐Phe‐Arg‐Trp‐Lys‐NH
Ac‐Nle‐Glu‐His‐D‐Phe‐Arg‐Trp‐Orn‐NH
Ac‐Nle‐Asp‐His‐D‐Phe‐Arg‐Trp‐Orn‐NH
Ac‐Nle‐Glu‐His‐D‐Phe‐Arg‐Trp‐Dab‐NH
Ac‐Nle‐Asp‐His‐D‐Phe‐Arg‐Trp‐Dab‐NH
Ac‐Nle‐Glu‐His‐D‐Phe‐Arg‐Trp‐Dpr‐NH
Ac‐Nle‐Glu‐His‐Phe‐Arg‐Trp‐Lys‐NH、または
Ac‐Nle‐Asp‐His‐Phe‐Arg‐Trp‐Lys‐NH
【請求項7】
前記α‐MSHアナログが下記からなる群より選択される、請求項1または2に記載の組成物:
【化1】

【請求項8】
前記α‐MSHアナログが下記である、請求項1または2に記載の組成物:
〔D‐Phe〕‐α‐MSH
〔Nle,D‐Phe〕‐α‐MSH
〔D‐Ser,D‐Phe〕‐α‐MSH
〔D‐Tyr,D‐Phe〕‐α‐MSH
〔D‐Ser,D‐Phe〕‐α‐MSH
〔D‐Met,D‐Phe〕‐α‐MSH
〔D‐Glu,D‐Phe〕‐α‐MSH
〔D‐His,D‐Phe〕‐α‐MSH
〔D‐Phe,D‐Arg〕‐α‐MSH
〔D‐Phe,D‐Trp〕‐α‐MSH
〔D‐Phe,D‐Lys11〕‐α‐MSH
〔D‐Phe,D‐Pro12〕‐α‐MSH
〔D‐Phe,D‐Val13〕‐α‐MSH
〔D‐Ser,Nle,D‐Phe〕‐α‐MSH
〔D‐Tyr,Nle,D‐Phe〕‐α‐MSH
〔D‐Ser,Nle,D‐Phe〕‐α‐MSH
〔Nle,D‐Glu,D‐Phe〕‐α‐MSH
〔Nle,D‐His,D‐Phe〕‐α‐MSH
〔Nle,D‐Phe,D‐Arg〕‐α‐MSH
〔Nle,D‐Phe,D‐Trp〕‐α‐MSH
〔Nle,D‐Phe,D‐Lys11〕‐α‐MSH
〔Nle,D‐Phe,D‐Pro12〕‐α‐MSH
〔Nle,D‐Phe,D‐Val13〕‐α‐MSH
【化2】

〔Nle,D‐Phe〕‐α‐MSH4‐10
〔Nle,D‐Phe〕‐α‐MSH4‐11
〔D‐Phe〕‐α‐MSH5‐11
〔Nle,D‐Tyr〕‐α‐MSH4‐11
〔(pNO)D‐Phe〕‐α‐MSH4‐11
〔Tyr,D‐Phe〕‐α‐MSH4‐10
〔Tyr,D‐Phe〕‐α‐MSH4‐11
〔Nle〕‐α‐MSH4‐11
〔Nle,(pNO)D‐Phe〕‐α‐MSH4‐11
〔Nle,D‐His〕‐α‐MSH4‐11
〔Nle,D‐His,D‐Phe〕‐α‐MSH4‐11
〔Nle,D‐Arg〕‐α‐MSH4‐11
〔Nle,D‐Trp〕‐α‐MSH4‐11
〔Nle,D‐Phe,D‐Trp〕‐α‐MSH4‐11
〔Nle,D‐Phe〕‐α‐MSH4‐9、または
〔Nle,D‐Phe,D‐Trp〕‐α‐MSH4‐9
【請求項9】
前記α‐MSHアナログが下記である、請求項1または2に記載の組成物:
〔Nle,D‐Phe〕‐α‐MSH4‐10
〔Nle,D‐Phe〕‐α‐MSH4‐11
〔Nle,D‐Phe,D‐Trp〕‐α‐MSH4‐11、または
〔Nle,D‐Phe〕‐α‐MSH4‐9
【請求項10】
前記α‐MSHアナログが〔Nle,D‐Phe〕‐α‐MSHである、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項11】
処方中におけるα‐MSHアナログの量が0.001〜20重量%である、請求項1〜10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
処方中におけるα‐MSHアナログの量が0.05〜10重量%である、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
前記TDSが、
(a)前記α‐MSHアナログが(i)可溶性または少なくとも実質的に可溶性である、または(ii)1種以上の溶媒および/または溶質変性剤の追加により可溶化される、またはより可溶性となる、溶媒系、
(b)場合により、細胞活性化エネルギー源、および
(c)場合により、皮膚安定剤
を含んでなる、請求項1〜12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
活性剤の経皮送達のための局所用組成物であって、前記活性剤がα‐MSHアナログであり、前記組成物が下記を含んでなる、局所用組成物:
(A)前記活性剤が可溶性であるか、または前記活性剤を溶解させるように変性されて、活性剤を加えた溶媒系の組合せの場合と実質的に同様の双極子モーメントを有する、少なくとも1種の溶媒、
(B)前記活性剤と共通した構造特徴を有し、酸素、窒素、およびイオウからなる群より選択される少なくとも一つのヘテロ原子を含有した、少なくとも一つの官能基を含有するエチレン性不飽和極性基を含んでなる、少なくとも1種の溶媒変性剤、
(C)前記活性剤と一時的に(非共有結合)複合体を形成しうる化合物を含んでなる、少なくとも1種の代謝性溶質変性剤、
(D)少なくとも1種の細胞活性化エネルギー源、および場合により
(E)皮膚から活性剤の経皮移動に応答して体修復メカニズムを刺激するための、少なくとも1種の皮膚安定剤。
【請求項15】
活性剤の経皮送達のための局所用組成物であって、前記活性剤がα‐MSHアナログであり、前記組成物が下記を含んでなる、局所用組成物:
(a)低級脂肪族モノヒドロキシ化合物およびポリヒドロキシ化合物からなる群より選択される、少なくとも1種の非水性無毒性溶媒、
(b)リモネン、レモン油、またはリモネンとレモン油との混合物、
(c)メチルスルホニルメタン、
(d)3,3′‐チオジプロピオン酸またはそのエステルもしくは塩、オキシンドールアルカロイド、ポリフェノール系フラボノイド、グルコヌリドの糖付加物、イソフラボン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルコリン、ビタミンD、およびビタミンKからなる群より選択される少なくとも1種の化合物を含んでなる溶質変性剤、
(e)cAMPまたはcGMPの現場(in situ)生成を誘導する、少なくとも1種の物質、および
(f)約8〜約32の炭素原子を有する脂肪族カルボン酸、〜約20の炭素原子を有する脂肪族アルコールとの前記脂肪族カルボン酸のエステル(前記エステルは全部で約9〜約36の炭素原子を有している)、およびビタミンDからなる群より選択される少なくとも1種の化合物を含んでなる皮膚安定剤。
【請求項16】
対象者においてメラニン形成を誘導するための方法であって、請求項1〜15のいずれか一項に記載された組成物を前記対象者へ局所投与することからなる、メラニン形成を誘導するための方法。
【請求項17】
前記対象者のメラノコルチン‐1レセプターの同種脱感作を誘導することなく、前記対象者の表皮組織においてメラノサイトによりメラニン形成を誘導する上で有効な量および時間、α‐MSHアナログを供給するために、前記組成物が投与される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記α‐MSHアナログが前記対象者の血漿中において、少なくとも4時間にわたり10ng/mLを超えない水準で投与される、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
対象者においてUV光誘導皮膚障害を防止するための方法であって、請求項1〜15のいずれか一項に記載された組成物を前記対象者に局所投与することからなる、UV光誘導皮膚障害を防止するための方法。
【請求項20】
前記対象者のメラノコルチン‐1レセプターの同種脱感作を誘導することなく、前記対象者の表皮組織においてメラノサイトによりメラニン形成を誘導する上で有効な量および時間、α‐MSHアナログを供給するために、前記組成物が投与される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
α‐MSHアナログが前記対象者の血漿中において、少なくとも4時間にわたり10ng/mLを超えない水準で投与される、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
α‐MSHアナログが前記対象者の血漿中において、少なくとも4時間にわたり5ng/mLを超えない水準で投与される、請求項18または21に記載の方法。
【請求項23】
α‐MSHアナログが前記対象者の血漿中において、少なくとも4時間にわたり2ng/mLを超えない水準で投与される、請求項18または21に記載の方法。
【請求項24】
前記対象者がヒト対象者である、請求項16〜23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
対象者においてメラニン形成を誘導するための局所用製剤の製造に際しての、請求項1〜15のいずれか一項に記載された組成物の使用。
【請求項26】
前記対象者のメラノコルチン‐1レセプターの同種脱感作を誘導することなく、前記対象者の表皮組織においてメラノサイトによりメラニン形成を誘導する上で有効な量および時間、製剤により前記対象者へα‐MSHアナログを投与する、請求項25に記載の使用。
【請求項27】
前記対象者の血漿中において、少なくとも4時間にわたり10ng/mLを超えない水準で、製剤により前記対象者へα‐MSHアナログを投与する、請求項25に記載の使用。
【請求項28】
前記対象者においてUV光誘導皮膚障害を防止するための、局所用製剤の製造に際しての、請求項1〜15のいずれか一項に記載された組成物の使用。
【請求項29】
前記対象者のメラノコルチン‐1レセプターの同種脱感作を誘導することなく、前記対象者の表皮組織においてメラノサイトによりメラニン形成を誘導する上で有効な量および時間、製剤により前記対象者へα‐MSHアナログを投与する、請求項28に記載の使用。
【請求項30】
前記対象者の血漿中において、少なくとも4時間にわたり10ng/mLを超えない水準で、製剤により前記対象者へα‐MSHアナログを投与する、請求項28に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2008−515815(P2008−515815A)
【公表日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−534976(P2007−534976)
【出願日】平成17年10月7日(2005.10.7)
【国際出願番号】PCT/AU2005/001552
【国際公開番号】WO2006/037188
【国際公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【出願人】(506176652)クリヌベール、ファーマスーティカルズ、リミテッド (3)
【氏名又は名称原語表記】CLINUVEL PHARMACEUTICALS LIMITED
【Fターム(参考)】