説明

対象識別装置

【課題】反射光の光量が比較的小さい場合でも、識別精度が高い。
【解決手段】複数の波長成分を含む光を測定対象へ向けて照射する照射部110と、測定対象からの反射光を受光して電気信号に変換する光電変換部120と、それぞれの波長成分の電気信号を演算して、測定対象を識別する識別部170と、を備えた対象識別装置100であって、光電変換部120は、受光する光の強度に応じた大きさの電気信号を出力する受光素子が、平面状に配された受光領域が並列に複数設けられる受光素子部と、反射光を、第1の方向については位置分解能を持たせつつ、第1の方向とは異なる第2の方向については拡散して複数の受光領域に入射させる光学ユニットと、それぞれの受光領域に対応して設けられ、それぞれの受光領域に入射する反射光のうち、特定の波長成分を選択透過する波長選択フィルタと、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定空間内の対象に照射される光に対する反射光の反射率に基づいて対象を識別する対象識別装置に関し、特に、当該対象識別装置における反射光を受光して電気信号に変換する光電変換部に関する。
【背景技術】
【0002】
障害物など特定の対象を光学的に検知する方法としては、可視光により対象を含む画像を撮像し、当該画像から人や車輌などを形状により判別する方法が知られている。また、夜間においても利用可能な方法として、赤外線サーモグラフィを用いて人物を背景と識別する方法が知られている。また、2つの異なる波長の赤外光を対象に含む領域に照射し、その反射率を利用して対象と背景とを識別する方法が知られている(例えば特許文献1を参照)。
【0003】
これらの方法を利用した装置は、例えば、電動車椅子の走行支援や、視力の弱い者が歩行中に障害物を認識するための補助具としての応用が期待されている。しかしながら、可視光により撮像した画像により対象を判別する方法は、街中で使用する際に、プライバシーの保護や公衆の良俗の保護の観点から問題となる場合がある。
【0004】
また、この方法では、実用的な識別精度を確保するためには処理系に多大な負荷がかかることから、高速で移動する車輌等への実装が難しかった。また、赤外線サーモグラフィを用いて人物を識別する方法は、熱赤外域の水による吸収が極めて大きいことから、雨天時や環境温度が人体の表面温度に近い場合には、識別精度が極端に低下するという課題がある。
【0005】
一方、赤外光の反射率を利用する方法は、上記のような測定環境の影響による識別精度の低下がほとんどなく、処理系への負荷も他の方法と比べて小さい。また、プライバシーの保護や公衆の良俗の保護の観点からも問題が生じにくい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−275477
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記の方法では、反射光から複数の波長成分を抽出してその反射率を求め、それらの反射率を正規化演算することで、人や車、あるいは走路方向の路面の状態などをより高い精度で識別することができる。しかしながら、識別に要する時間を短くするためには処理系の負荷が大きくなることから、例えば各波長成分を別々に受光して並列に反射率を算出することにより識別に要する時間を短くする方法が検討されている。しかしながら、例えばハーフミラーなどで反射光を分光して複数の受光センサで受光させる場合、光学系の構成が複雑となることが課題であった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決することを目的として、複数の波長成分を含む光を測定対象へ向けて照射する照射部と、前記測定対象からの反射光を受光して電気信号に変換する光電変換部と、それぞれの前記波長成分の前記電気信号を演算して前記測定対象を識別する識別部と、を備えた対象識別装置であって、前記光電変換部は、受光する光の強度に応じた大きさの電気信号を出力する受光素子が平面状に配された受光領域が並列に複数設けられる受光素子部と、前記反射光を、第1の方向については位置分解能を持たせつつ、前記第1の方向とは異なる第2の方向については拡散して複数の前記受光領域に入射させる光学ユニットと、それぞれの前記受光領域に対応して設けられ、それぞれの前記受光領域に入射する前記反射光のうち特定の前記波長成分を選択透過する波長選択フィルタと、を有することを特徴とする対象識別装置を提供する。
【0009】
本発明は、かかる特徴を備えることにより、1つの受光素子部で複数の波長成分の光を同時に検出することができるので、各波長成分の検出信号を並列処理することができる。また、測定に用いる光の波長は赤外域を含む少なくとも3つ以上の異なる複数の波長とすることが好ましく、赤外域の波長のみを用いると良い。赤外域の光を用いることで、測定環境の影響による識別精度の低下がほとんどなく、処理系への負荷も小さい。
【0010】
また、前記受光素子部において、前記受光素子は、前記第1の方向および前記第2の方向に沿って配され、それぞれの前記受光領域は、前記第1の方向に沿って配された前記受光素子の列を少なくとも一列含むことが好ましい。
【0011】
また、前記光学ユニットは、前記第1の方向に沿って形成されたレンズ面に入射する光を前記第2の方向に拡散するシリンドリカルレンズが前記第2の方向に複数並列に配されたレンチキュラーレンズを含んでもよい。
【0012】
また、前記光電変換部は、前記レンチキュラーレンズへの前記反射光の入射面積を増減させることにより前記受光素子部による前記反射光の受光量を調整する光量調整部をさらに有し、前記レンチキュラーレンズは、前記光量調整部により前記入射面積が最小となった場合でも、前記反射光を拡散して複数の前記受光領域に入射させ得るレンズピッチで前記シリンドリカルレンズが配されることが好ましい。
【0013】
以上の構成により水平方向の位置分解能を確保しつつ、垂直方向については、複数方向からの光を積分することができるので、反射光の光量が比較的小さい場合でも、識別精度が高い。
【0014】
また、前記光学ユニットは、前記第2の方向に沿って形成されたレンズ面に入射する光を前記第1の方向においてその入射方向に応じた異なる位置に集光させるシリンドリカルレンズを含んでもよい。
【0015】
また、前記波長選択フィルタは、前記受光領域毎に異なる前記波長成分の光を選択透過することが好ましい。
【0016】
また、前記波長選択フィルタの透過面は、対応する前記受光領域に近接または当接してもよい。
【0017】
また、これに替えて、前記波長選択フィルタは、前記受光素子部における対応する前記受光領域と離間して設けられ、前記光学ユニットは、前記波長選択フィルタを透過した前記反射光を対応する前記受光領域に投影させる投影部をさらに含んでもよい。
【0018】
なお、上記の発明の概要は、本発明の必要な特徴の全てを列挙したものではなく、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の対象識別装置によれば、簡単な構成で対象の識別ができ、測定環境の影響による識別精度の低下がほとんどなく、処理系への負荷も小さい。更には、プライバシーの保護や公衆の良俗の保護の観点からも問題が生じることがない。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態に係る対象識別装置100の機能ブロック図を示す。
【図2】光電変換部120の具体的な構成を示す。
【図3】受光素子部240の平面図を示す。
【図4】光電変換部120に入射する反射光の垂直方向における光路の一例を概略的に示す。
【図5】光電変換部120に入射する反射光の水平方向における光路の一例を概略的に示す。
【図6】本実施形態の対象識別装置100が光電変換部120に替えて備え得る光電変換部121の具体的な構成を示す。
【図7】光電変換部121に入射する反射光の垂直方向における光路の一例を概略的に示す。
【図8】光電変換部121に入射する反射光の水平方向における光路の一例を概略的に示す。
【図9】識別部170が複数の異なる対象を識別する際の識別フローを示す。
【図10】識別部170が複数の異なる対象を識別する際の識別フローを示す。
【図11】赤色域を利用する対象識別装置100において、識別部170が複数の異なる対象を識別する際の識別フローの一部を示す。
【図12】5つの異なる赤外域の波長を利用する対象識別装置100において、識別部170が複数の異なる対象を識別する際の識別フローを示す。
【図13】5つの異なる赤外域の波長を利用する対象識別装置100において、識別部170が複数の異なる対象を識別する際の識別フローを示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではなく、また実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0022】
図1は、本発明の実施形態に係る対象識別装置100の機能ブロック図を示す。対象識別装置100は、所定の測定空間へ照射した光が当該空間内に存在する障害物などの測定対象で反射された反射光を受光して当該反射光に含まれる赤外域を含む少なくとも3つ以上の異なる複数の波長についての反射率を測定し、その反射率に基づいて当該測定空間内に存在する複数の異なる対象を識別することのできる装置であって、照射部110、光電変換部120、反射率算出部130、同期回路140、正規化指標算出部150、二次微分値算出部160、および識別部170を備える。
【0023】
上記の測定空間は、例えば、対象識別装置100が乗用車に搭載されて当該乗用車前方の人や障害物を識別することを目的とするものである場合は、当該乗用車前方における走路上の空間であり、また、対象識別装置100が車椅子に搭載されて当該車椅子に接近する人や障害物を識別することを目的とするものである場合は、当該車椅子の前方あるいは周囲の空間である。
【0024】
照射部110は、複数の半導体発光素子111,112,113,114,115、および照射条件調整部118を有し、最大で5つの異なる波長の光を所定の測定空間へ照射することができる。
【0025】
本例において、複数の半導体発光素子111〜115は、例えば所定の大きさの電圧を印加することにより1100nm帯、1200nm帯、1300nm帯、1500nm帯、および1600nm帯の赤外光を発光する発光ダイオードである。また、照射条件調整部118は、複数の半導体発光素子111〜115の輝度を調整して所定の大きさの輝度値に設定するとともに、当該輝度値に関する情報を反射率算出部130へ出力する。
【0026】
光電変換部120は、上記測定空間からの反射光を受光して電気信号に変換する。本例において、光電変換部120は、上記測定空間からの反射光を受光すると、当該反射光に含まれる上記の各波長帯域の成分(波長成分)毎にその受光強度に応じた大きさの電気信号に変換する。
【0027】
反射率算出部130は、光電変換部120からの電気信号と、照射条件調整部118からの上記輝度値に関する情報とに基づいて、上記測定空間からの反射光における上記の各波長成分の反射率を算出する。
【0028】
具体的には、反射率算出部130は、光電変換部120からの1200nm帯の電気信号の大きさと、照射条件調整部118からの上記輝度値に関する情報のうち、1200nm帯の輝度値に関する情報とに基づいて、半導体発光素子111〜115から上記測定空間へ照射された光のうちの1200nm帯における反射率を算出する。
【0029】
また、反射率算出部130は、同様に、光電変換部120からの他の波長成分の電気信号の大きさと、照射条件調整部118からの上記輝度値に関する情報とに基づいて、それぞれの波長成分について反射率を算出する。
【0030】
なお、本例において、反射率算出部130は、上記波長のそれぞれに対応する反射率を時系列で複数算出する。より具体的には、反射率算出部130は、複数のタイミングにおいて光電変換部120から与えられる電気信号と、照射条件調整部118からの上記輝度値に関する情報とに基づいて、上記の各波長成分について反射率を算出する。
【0031】
同期回路140は、照射条件調整部118が複数の半導体発光素子111〜115の輝度値の設定を調整するタイミングと、反射率算出部130が照射条件調整部118からの当該輝度値に関する情報を取得するタイミングとを同期化する。したがって、複数の半導体発光素子111〜115の輝度値が変更された場合でも、反射率算出部130において、当該変更後の輝度値を反映した反射率が算出される。
【0032】
正規化指標算出部150は、反射率算出部130において算出される上記反射率に基づいて正規化指標を算出する。例えば、正規化指標算出部150は、反射率算出部130において時系列の各タイミングで同時に算出される1100nm帯、1200nm帯、1300nm帯、1500nm帯、および1600nm帯の各帯域の反射率のうち、少なくとも3つの異なる波長成分についての反射率に基づいて、複数の正規化指標を算出する。
【0033】
二次微分値算出部160は、反射率算出部130において算出されるそれぞれの反射率と波長との関数の二次微分値を算出する。本例では、二次微分値算出部160は、正規化指標算出部150において算出される複数の上記正規化指標に基づいて、上記二次微分値を近似的に算出する。具体的な算出式については後述する。
【0034】
識別部170は、複数の上記正規化指標および上記二次微分値と、予め設定した識別条件とにより、上記測定空間内に存在する複数の異なる対象を識別する。本例において、識別部170は、正規化指標算出部150において時系列に順次算出される複数の上記正規化指標と、二次微分値算出部160において複数の当該正規化指標に基づいて算出される上記二次微分値とを、予め設定した閾値と比較することにより、時系列に順次、上記測定空間内に存在する対象を識別する。識別部170による具体的な識別フローについては後述する。
【0035】
図2は、光電変換部120の具体的な構成を示す。また、図3は、受光素子部240の平面図を示す。
【0036】
図2に示すように、光電変換部120は、拡散部210と、集光部220と、選択透過部230と、受光素子部240と、電圧値検出部270と、光量調整部280とを有する。拡散部210および集光部220は、本発明における光学ユニットの一例である。なお、図2において、「X」、「Y」、「Z」を付して示す方向は、それぞれ水平方向、垂直方向、およびこれらの各方向に対して直交する方向を示しており、拡散部210、集光部220、選択透過部230、および受光素子部240は、Z方向において互いに重なるように設けられる。
【0037】
拡散部210は、水平方向(X方向)に沿って形成された複数のシリンドリカルレンズ211が垂直方向に複数並列に配されたレンチキュラーレンズである。拡散部210は、例えば、ガラス、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアクリル酸エステル系樹脂、脂環式ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリエーテルスルホン酸系樹脂、トリアセチルセルロース系樹脂等の透明な材料により形成される。
【0038】
拡散部210は、複数のシリンドリカルレンズ211の各々に測定対象からの反射光が入射すると、当該反射光を垂直方向(Y方向)に拡散する。一のシリンドリカルレンズ211に着目すると、当該シリンドリカルレンズ211には、上記測定空間内における様々な方向から反射光が入射する。そして、これらの反射光は、シリンドリカルレンズ211に対する垂直方向の入射角度に応じて屈折される。
【0039】
集光部220は、垂直方向に沿って形成されたレンズ面221が形成されたシリンドリカルレンズであり、上記拡散部210と同様に、ガラス等の透明な材料により形成される。集光部220は、拡散部210によって垂直方向に拡散された反射光を、水平方向において集光させる。より具体的には、集光部220は、レンズ面221が形成された面と反対側の面から入射する反射光について、その入射方向に応じて受光素子部240の受光面における異なる位置に集光させる。
【0040】
選択透過部230は、拡散部210および集光部220を経て入射する反射光のうち特定の波長成分だけを選択透過する複数の波長選択フィルタ231,232,233,234,235が垂直方向に並列に設けられる。本例において、波長選択フィルタ231〜235は、それぞれ1100nm帯、1200nm帯、1300nm帯、1500nm帯、および1600nm帯の各帯域の光だけを選択透過する。
【0041】
受光素子部240は、受光強度に応じた大きさの電気信号を出力する複数の受光素子250が受光面上に平面状に配されたイメージセンサであり、当該受光面が選択透過部230の各波長選択フィルタ231〜235の透過面と近接して設けられる。本例では、受光素子部240の受光面には、図3に示すように、水平方向および垂直方向に沿って格子状に複数の受光素子250が配される。
【0042】
受光素子部240の受光面は、選択透過部230の透過面と大きさが略等しく、波長選択フィルタ231〜235の透過面に対応する複数の受光領域261,262,263,264,265が垂直方向に並列に設けられる。そして、それぞれの受光領域261〜265は、図3に示すように、受光素子部240の受光面における水平方向に並んだ受光素子250の列を含む。例えば、受光領域261は、水平方向に並んだ2列の受光素子(250a−1,・・・250a−10および250b−1,・・・250b−10)を含む。
【0043】
電圧値検出部270は、受光素子部240の各受光素子250から出力される電気信号の電圧値を検出する。光量調整部280は、電圧値検出部270により検出される電圧値に基づいて、受光素子部240の受光面への入射光量を制御する。本例において、光量調整部280は、拡散部210の前面側に設けられる。
【0044】
例えば、電圧値検出部270が受光素子250の性能によって定められる範囲よりも大きい電圧値を検出した場合、光量調整部280は、入射面積(開口面積)を小さくすることにより、受光素子250からの電気信号の電圧値が上記範囲内となるまで受光素子部240の受光面への入射光量を抑える。
【0045】
なお、拡散部210に用いられるレンチキュラーレンズは、光量調整部280により入射面積が最小となった場合でも、反射光を垂直方向に拡散して受光素子部240の受光面全体に入射させることができる程度に十分小さいレンズピッチでシリンドリカルレンズ211が設けられている。したがって、開口面積が小さくなった場合でも、受光素子部240の受光面上で輝度むらが生じるのを防ぐことができる。
【0046】
図4は、光電変換部120に入射する反射光の垂直方向における光路の一例を概略的に示し、図5は、水平方向における光路の一例を概略的に示す。なお、図4および図5では光量調整部280を省略して示す。
【0047】
対象識別装置100の前方に柱状の障害物(測定対象)500が存在する場合、照射部110からの照射光が障害物500の表面において反射した反射光は、それぞれ、拡散部210の前面に配される複数のシリンドリカルレンズ211に入射する。
【0048】
例えば、図4に示すように、障害物500表面の異なる位置511,512,513で反射して拡散部210中央のシリンドリカルレンズ211に入射する反射光L11,L12,L13は、シリンドリカルレンズ211に対する垂直方向の入射角度に応じて屈折される。そして、シリンドリカルレンズ211で垂直方向に拡散された反射光L11〜L13は、後段の選択透過部230を透過して選択透過部230と対向する受光素子部240の受光面に入射する。
【0049】
なお、本例において、拡散部210表面におけるシリンドリカルレンズ211のレンズピッチは、拡散部210と障害物500との距離に比べて十分に小さい。したがって、障害物500表面の異なる位置511〜513からの反射光は、L11〜L13に限られず、拡散部210の他のシリンドリカルレンズ211にも入射して、それぞれのシリンドリカルレンズ211において、その入射角度に応じて様々な方向に屈折される。
【0050】
このように、拡散部210は、障害物500表面の任意の位置からの反射光を垂直方向に拡散することにより、垂直方向に並列に設けられる波長選択フィルタ231〜235の全てを透過させるとともに、波長選択フィルタ231〜235の各々に対応する受光領域261〜265へ入射させることができる。
【0051】
また、集光部220は、障害物500表面の任意の位置からの反射光を、その水平方向の位置に応じて受光素子部240の受光面における水平方向の異なる位置に集光させる。例えば、図5に示すように、集光部220は、照射部110からの照射光が障害物500表面の特定の位置511において異なる方向に反射された反射光W11,W12,W13を、受光素子部240の受光面に配される受光素子250a−2に集光させる。
【0052】
また、集光部220は、図5に破線で示すように、異なる位置に障害物500がある場合、その障害物500のからの反射光W11’,W12’,W13’を、受光素子部240における受光素子250a−2とは異なる受光素子250a−9に集光させる。このように、集光部220は、障害物500のからの反射光を、その水平方向における反射位置に応じて受光素子部240の受光面における水平方向の異なる位置(異なる受光素子)に集光させる。
【0053】
このように、本実施形態の対象識別装置100が備える光電変換部120は、反射光を垂直方向に拡散することにより1つの受光素子部240で複数の波長成分の光を同時に検出することができるだけでなく、水平方向については反射光の入射方向に対する分解能を持つ。したがって、複数波長の同時検出によって測定空間内に存在する障害物などの測定対象をより短時間で識別できるだけでなく、水平方向における何れの位置に測定対象が存在するかについても正確に検出することができる。
【0054】
なお、本例では、選択透過部230と受光素子部240とが互いに近接して配され、それぞれの水平方向および垂直方向の大きさが略等しい形態を示したが、例えば選択透過部230と受光素子部240とは互いに当接していてもよく、また、図6〜図8を参照して以下に説明するように互いに離間して配され、それぞれの大きさが異なってもよい。
【0055】
図6は、本実施形態の対象識別装置100が光電変換部120に替えて備え得る光電変換部121の具体的な構成を示す。また、図7は、光電変換部121に入射する反射光の垂直方向における光路の一例を概略的に示し、図8は、水平方向における光路の一例を概略的に示す。なお、図7および図8では光量調整部280を省略して示す。光電変換部121において、光電変換部120と同じ構成については、同じ符号を付して説明を適宜省略する。
【0056】
光電変換部121は、波長選択フィルタ231〜235を透過した反射光を対応する受光領域261〜265に投影させる投影部290をさらに含む。本例において、投影部290は、垂直方向に沿って形成されたレンズ面221が形成されたシリンドリカルレンズ292、および、シリンドリカルレンズ292の出射光を受光素子部240の受光面に投影する2枚の投影レンズ294,296で構成される。
【0057】
対象識別装置100の前方に柱状の障害物(測定対象)500が存在する場合、照射部110からの照射光が障害物500の表面において反射された反射光のうち、拡散部210で垂直方向に拡散されて選択透過部230におけるいずれかの波長選択フィルタ上で互いに像を結ぶ反射光は、2枚の投影レンズ294,296によって、受光素子部240における当該フィルタに対応する受光領域に集光される。
【0058】
例えば、図7に示すように、障害物500表面の異なる位置521,522,523からの反射光L21,L22,L23は、拡散部210で屈折されて選択透過部230を拡散照射する。そして、選択透過部230を透過した反射光L21,L22,L23は、投影レンズ294,296によって、選択透過部230の像を受光素子部240の受光面に結像する。図7においては、波長選択フィルタ233を照射する反射光L21,L22,L23が、投影レンズ294,296によって、対応する受光領域263に集光される様子を示している。
【0059】
なお、本例では、光電変換部120とは異なり、選択透過部230と受光素子部240との間に投影部290を有するので、受光素子部240の受光面の大きさ(受光領域261〜265の大きさ)と、選択透過部230の透過面の大きさ(波長選択フィルタ231〜235の大きさ)とが異なってもよく、例えば選択透過部230の大きさに比べて受光素子部240を小さくすることができる。
【0060】
集光部220および投影部290(シリンドリカルレンズ292、投影レンズ294,296)は、障害物500表面の任意の位置からの反射光を、その水平方向の位置に応じて受光素子部240の受光面における水平方向の異なる位置に集光させる。例えば、図8に示すように、照射部110からの照射光が障害物500表面の特定の位置521において異なる方向に反射された反射光W11,W12,W13は、集光部220、シリンドリカルレンズ292、および投影レンズ294,296によって、受光素子部240の受光素子250a−8に集光される。なお、集光部220および投影部290による光学系については、以下の関係が成立する。
【0061】
まず、シリンドリカルレンズである集光部220の焦点距離をF220とおき、また、集光部220と集光部220の焦点面との距離をA(図8に「A」で示す長さ)とおき、さらに、障害物500表面と集光部220との距離をB(図8に「B」で示す長さ)とおくと、これらの間には以下の関係が成立する。
【0062】
1/A+1/B=1/F220
【0063】
また、シリンドリカルレンズ292の焦点距離をF292とおき、また、シリンドリカルレンズ292と集光部220の焦点面(実像面)との距離をC(図8に「C」で示す長さ)とおき、さらに、シリンドリカルレンズ292と選択透過部230(虚像面)との間隔をD(図8に「D」で示す長さ)とおくと、これらの間には以下の関係が成立する。
【0064】
1/C−1/D=1/F292
【0065】
このように、本例においても、光電変換部120と同様に、集光部220および投影部290によって、障害物500のからの反射光を、その水平方向における反射位置に応じて受光素子部240の受光面における水平方向の異なる位置(異なる受光素子)に集光させることができる。
【0066】
このように、本実施形態の対象識別装置100は、上記の光電変換部120に替えて光電変換部121を有することにより、光電変換部120により奏される上記の効果に加えて、選択透過部230の透過面の大きさに対して受光素子部240の受光面を小さくすることができる。
【0067】
以下において、本実施形態に係る対象識別装置100による1200nm帯、1300nm帯、および1500nm帯の3つの波長成分の反射率を用いた測定対象(以下、「対象」と略称する)の識別方法についてより具体的に説明する。
【0068】
本識別方法では、正規化指標算出部150は、各タイミングにおいて反射率算出部130において算出される上記3つの波長成分の反射率(R1200、R1300、R1500)に基づいて、以下に示す式により定義される3つの正規化指標(ND1〜ND3)を算出する。
ND1 : (R1300−R1200)/(R1300+R1200)
ND2 : (R1500−R1200)/(R1500+R1200)
ND3 : (R1500−R1300)/(R1500+R1300)
【0069】
そして、二次微分値算出部160は、上記の各反射率(R1200、R1300、R1500)と波長との関数の二次微分値を算出する。本例では、二次微分値算出部160は、上記正規化指標(ND1〜ND3)に基づいて、上記二次微分値を近似的に算出する。具体的には、二次微分値算出部160は、以下に示す式により近似される値(2ndder)を二次微分値として算出する。
ndder : R1500−3×R1300+2×R1200
【0070】
図9および図10は、識別部170が複数の異なる対象を識別する際の識別フローを示す。本識別フローでは、まず、識別部170は、1200nm帯、1300nm帯、および1500nm帯の各帯域の反射率(R1200、R1300、R1500)が近似的に0であるか否か、すなわち、測定空間からの反射光に、これらの帯域の成分がほとんど含まれていないか否かを判別する(ステップS200)。
【0071】
本例では、識別部170は、R1200、R1300、およびR1500のそれぞれの値が0.02よりも小さいか否かにより上記判別を実施する。そして、R1200、R1300、およびR1500の全てが0.02よりも小さい場合(S200:YES)、識別部170は、測定空間内に窓ガラスが存在すると識別する。
【0072】
また、R1200、R1300、およびR1500のいずれかが0.02以上である場合(S200:NO)は、更に、識別部170は、上記2ndderの値が所定の閾値Th1よりも小さいか否かを判別する(ステップS210)。ここで、閾値Th1は、例えば0.09に設定される。
【0073】
そして、上記2ndderの値がTh1以上である場合(S210:NO)、識別部170は、更に、上記ND2の値が所定の閾値Th2よりも大きいか否かを判別する(ステップS220)。ここで、閾値Th2は、例えば0.03に設定される。ステップS210において上記2ndderの値がTh1よりも小さい場合(S210:YES)については後述する。
【0074】
上記ND2の値がTh2よりも大きい場合(S220:YES)、識別部170は、測定空間内にアスファルトが存在すると識別する。また、上記ND2の値がTh2以下である場合(S220:NO)は、識別部170は、更に、上記ND2の値が所定の閾値Th3よりも大きいか否かを判別する(ステップS230)。ここで、閾値Th3は、例えば−0.035に設定される。上記ND2の値がTh3以下である場合(S230:NO)、識別部170は、上記測定空間内における測定空間内にコンクリートまたは石が存在すると識別する。
【0075】
また、上記ND2の値がTh3よりも大きい場合(S230:YES)は、識別部170は、更に、上記ND3の値が0よりも大きいか否かを判別する(ステップS240)。上記ND3の値が0よりも大きい場合(S240:YES)、識別部170は、測定空間内に羊毛(ウール地)が存在すると識別する。また、上記ND2の値が0以下である場合(S240:NO)、識別部170は、測定空間内に金属が存在すると識別する。
【0076】
また、ステップS210において、上記2ndderの値がTh1よりも小さい場合(S210:YES)、識別部170は、更に、上記ND2の値が所定の閾値Th4よりも大きいか否かを判別する(ステップS250)。ここで、閾値Th4は、例えば−0.58に設定される。
【0077】
上記ND2の値がTh4よりも大きい場合(S250:YES)、識別部170は、測定空間内に人肌または植物が存在すると識別する。一方、上記ND2の値がTh4以下である場合(S250:NO)、識別部170は、測定空間内に動物または布地(綿地)が存在すると識別する。そして、識別部170による本識別フローは終了する。なお、上記所定の閾値Th1〜Th4は、予め、金属や人肌など既知の対象に対して測定領域を設定して識別部170による上記識別フローを実施した際に正確に対象を識別できる値を求めて設定されるものである。
【0078】
本実施形態の対象識別装置100が上記の光電変換部120,121を備える場合、識別部170は、例えば、以下のように種々の対象の存在を判定してもよい。すなわち、識別部170は、例えば、測定空間内の隣接する一または複数の測定領域において、羊毛(ウール地)、あるいは動物または布地(綿地)の少なくとも一方と、人肌とが連続的に存在する場合に、上記測定空間内に人が存在するものと判定してもよい。
【0079】
また、識別部170は、例えば、測定空間内における複数の連続する測定領域においてアスファルトが存在する場合に、当該連続する測定領域にアスファルト路面が存在するものと判定してもよい。また、識別部170は、例えば、窓ガラスが存在すると識別された測定領域に隣接する一または複数の測定領域において窓ガラスおよび金属が連続的に存在すると識別された場合に、上記測定空間内に車(例えば乗用車)が存在するものと判定してもよい。
【0080】
このように、本実施形態の対象識別装置100は、所定の測定空間内に存在する対象がどのようなものであるかを高い精度で識別することができる。また、光電変換部120,121を有することにより、水平方向の位置分解能を確保しつつ、垂直方向については、複数方向からの光を積分することができるので、反射光の光量が比較的小さい場合でも、識別精度が高い。また、測定に赤外域の波長のみを用いているので、測定環境の影響による識別精度の低下がほとんどなく、処理系への負荷も小さい。更には、対象の識別に際して、プライバシーの保護や公衆の良俗の保護の観点からも問題が生じることがない。
【0081】
ところで、昼間に使用していた対象識別装置100を夜間に使用する場合、あるいは、晴天時に使用していた対象識別装置100を雨天時に使用する場合、などのように、対象識別装置100の環境条件が大きく変化すると、当該環境条件の変化前に設定した上記閾値(Th1〜Th4)を用いて識別部170が対象の識別を実施すると、識別精度が低下することがある。
【0082】
そこで、本実施形態の対象識別装置100は、上記環境条件の変化後に、予め特定されている既知対象について識別を実施し、その識別結果が当該既知対象を識別するものでない場合に、以下の較正を行う。
【0083】
まず、予め特定されている既知対象について対象識別装置100による識別を実施し、正規化指標算出部150により、当該既知対象からの各波長の反射率に基づいて正規化指標を算出する。次に、識別部170により、上記正規化指標と設定されている閾値との平均値を算出する。そして、識別部170は、その算出値を新たな閾値として設定する。これにより、識別部170に設定される閾値を環境条件の変化に応じた値へと較正することができるので、環境条件の変化の影響により対象の識別精度が低下するのを防ぐことができる。
【0084】
また、この較正を複数回繰り返すことにより、環境条件の変化後の対象の識別精度をより向上させることができる。なお、対象識別装置100は、上記環境条件の変化を検出する較正を備え、当該環境条件の変化に応じて自動的に上記の較正を実施してもよい。また、この場合、対象識別装置100は、較正に用いる既知対象を自身の一部として備えていてもよい。
【0085】
本実施形態の対象識別装置100は、赤外域の波長のみを用いて上記測定空間内の対象を識別する形態に限られない。例えば、上記の3つの赤外域の波長に加えて、更に、植物の葉などに存在するクロロフィルに対して特有の吸収特性を有する680nm帯の赤色域の波長を用いて上記測定空間内の対象を識別してもよい。本形態では、照射部110は、上記赤色域の波長を含む光を上記測定空間へ照射する半導体発光素子を更に有し、また、光電変換部120,121は、上記赤色域の波長の反射光に対応する成分のみを透過する波長選択フィルタを更に有する。
【0086】
また、本形態では、正規化指標算出部150は、上記の3つの正規化指標(ND1〜ND3)に加えて、各タイミングにおいて算出される1200nm帯、1300nm帯、1500nm帯、および680nm帯の各帯域の反射率(R1200、R1300、R1500、R680)に基づいて、以下に示す式により定義される正規化指標(ND4)を算出する。
ND4 : (R1500−R680)/(R1500+R680)
【0087】
以下において、赤色域を利用する対象識別装置100について、識別部170による対象の識別フローをより具体的に説明する。
【0088】
図11は、赤色域を利用する対象識別装置100において、識別部170が複数の異なる対象を識別する際の識別フローの一部を示す。識別部170は、赤外域のみで対象を識別する場合と赤色域を利用する場合とで図9に示す識別フローについては同様であることから説明を省略する。すなわち、図11に示す識別フローは、図10に示す識別フローに代わるものである。
【0089】
本例では、ステップS210において上記2ndderの値がTh1よりも小さい場合(S210:YES)、識別部170は、上記ND4の値が所定の閾値Th5よりも大きいか否かを判別する(ステップS260)。
【0090】
上記ND4の値がTh5よりも大きい場合(S260:YES)、識別部170は、測定空間内に植物が存在すると識別する。一方、上記ND4の値がTh5以下である場合(S260:NO)、識別部170は、更に、上記ND2の値が所定の閾値Th4よりも大きいか否かを判別する(ステップS270)。ここで、閾値Th4の大きさについては上記と同様である。
【0091】
上記ND2の値がTh4よりも大きい場合(S250:YES)、識別部170は、測定空間内に人間の皮膚(人肌)が存在すると識別する。一方、上記ND2の値がTh4以下である場合(S250:NO)、識別部170は、測定領域に動物または布地(綿地)が存在すると識別する。そして、識別部170による本識別フローは終了する。
【0092】
なお、上記閾値Th5についても、予め植物、人肌あるいは動物(綿地)に対して測定領域を設定して識別部170による上記識別フローを実施した際に正確に植物を識別できる値を求めて設定されるものである。
【0093】
このように、赤外域に加えて680nm帯の赤色域を対象の識別に用いることにより、人肌あるいは動物(綿地)と、植物とを識別することができる。
【0094】
本実施形態の対象識別装置100は、上記のように、3つの赤外域を利用する形態、および赤色域を更に利用する形態に替えて、5つの異なる赤外域の波長を用いて対象を識別してもよい。例えば、濡れたアスファルトおよび濡れたコンクリートを正確にアスファルトおよびコンクリートと識別することを目的として、上記の3つの赤外域の波長に加えて、更に、1100nm帯および1600nm帯の波長を用いて上記測定空間内の対象を識別してもよい。
【0095】
また、本形態では、正規化指標算出部150は、各タイミングにおいて算出される1100nm帯、1200nm帯、1300nm帯、1500nm帯、および1600nm帯の各帯域の反射率(R1100、R1200、R1300、R1500、R1600)に基づいて、以下に示す式により定義される4つの正規化指標(ND1〜ND3)を算出する。
ND1 : (R1500−R1300)/(R1500+R1300)
ND2 : (R1500−R1200)/(R1500+R1200)
ND3 : (R1600−R1300)/(R1600+R1300)
ND4 : (R1300−R1100)/(R1300+R1100)
【0096】
また、二次微分値算出部160は、上記反射率と波長との関数の二次微分値を算出する。本形態では、二次微分値算出部160は、正規化指標算出部150において算出される4つの上記正規化指標に基づいて、以下に示す式により近似される値(2ndder1、2ndder2)を二次微分値として算出する。
ndder1 :
[{(R1500−R1300)/(R1500+R1300)}/200]
−[{(R1300−R1200)/(R1300+R1200)}/100]
ndder2 :
[{(R1500−R1200)/(R1500+R1200)}/300]
−[{(R1200−R1100)/(R1200+R1100)}/100]
【0097】
以下において、本形態の対象識別装置100において、識別部170による対象の識別フローについてより具体的に説明する。
【0098】
図12および図13は、5つの異なる赤外域の波長を利用する対象識別装置100において、識別部170が複数の異なる対象を識別する際の識別フローを示す。本識別フローでは、まず、識別部170は、1100nm帯、1200nm帯、1300nm帯、1500nm帯、および1600nm帯の各帯域の反射率(R1100、R1200、R1300、R1500、R1600)が近似的に0であるか否か、すなわち、測定領域からの反射光に、これらの帯域の成分がほとんど含まれていないか否かを判別する(ステップS310)。
【0099】
本形態では、識別部170は、R1100、R1200、R1300、R1500、およびR1600のそれぞれの値が0.02よりも小さいか否かにより上記判別を実施する。そして、これらの反射率の全てが0.02よりも小さい場合(S310:YES)、識別部170は、測定領域に窓ガラスが存在すると識別する。
【0100】
また、R1100、R1200、R1300、R1500、およびR1600の全てが0.02以上である場合(S310:NO)は、更に、識別部170は、上記2ndder1に上記ND1と上記ND3との和を乗じた値{2ndder1×(ND1+ND3)}が所定の閾値Th11よりも小さいか否かを判別する(ステップS320)。
【0101】
そして、上記の値がTh11以上である場合(S320:NO)、識別部170は、更に、上記ND2の値が所定の閾値Th12よりも大きいか否かを判別する(ステップS330)。ステップS320において上記の値がTh11よりも小さい場合(S320:YES)については後述する。
【0102】
上記ND2の値がTh12よりも大きい場合(S330:YES)、識別部170は、測定領域に動物または布地(綿地)が存在すると識別する。また、上記ND2の値がTh12以下である場合(S330:NO)は、識別部170は、更に、上記2ndder2の値が所定の閾値Th13よりも小さいか否かを判別する(ステップS340)。
【0103】
そして、上記2ndder2の値がTh13よりも小さい場合(S340:YES)は、識別部170は、測定領域に植物が存在すると識別する。また、上記2ndder2の値がTh13以上である場合(S340:NO)は、識別部170は、上記測定空間内における測定領域に人肌が存在すると識別する。
【0104】
また、ステップS320において、上記の値{2ndder1×(ND1+ND3)}がTh11よりも小さい場合(S320:YES)、識別部170は、更に、上記ND3の値が所定の閾値Th14よりも小さいか否かを判別する(ステップS350)。
【0105】
上記ND3の値がTh14よりも小さい場合(S350:YES)、識別部170は、更に、上記ND4の値が所定の閾値Th15よりも小さいか否かを判別する(ステップS360)。また、上記ND3の値がTh14以上である場合(S350:NO)、識別部170は、更に、上記ND2の値が所定の閾値Th16よりも小さいか否かを判別する(ステップS370)。
【0106】
ステップS360において、上記ND4の値がTh15よりも小さい場合(S360:YES)、識別部170は、測定領域に濡れた金属(例えば濡れた車のボディー表面)が存在すると識別する。また、上記ND4の値がTh15以上である場合(S360:NO)は、識別部170は、上記測定空間内における測定領域にコンクリートまたは石が存在すると識別する。
【0107】
ステップS370において、上記ND2の値がTh16よりも小さい場合(S370:YES)、識別部170は、測定領域にアスファルトが存在すると識別する。また、上記ND2の値がTh16以上である場合(S370:NO)は、識別部170は、上記測定空間内における測定領域に濡れたコンクリートまたは石が存在すると識別する。そして、識別部170による本識別フローは終了する。
【0108】
本形態の対象識別装置100は、5つの異なる赤外域の波長における反射率に基づいて算出される複数の正規化指標、とりわけ1300nm帯および1600nm帯の反射率を用いて算出される正規化指標を利用することにより、雨などで濡れた金属や濡れたコンクリートを正確に識別することができる。
【0109】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることができることは当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0110】
100,101,102…対象識別装置
110…照射部
111,112,113,114,115…半導体発光素子
118…照射条件調整部
120,121…光電変換部
130…反射率算出部
140…同期回路
150…正規化指標算出部
160…二次微分値算出部
170…識別部
210…拡散部
211…シリンドリカルレンズ
220…集光部
230…選択透過部
231,232,233,234,235…波長選択フィルタ
240…受光素子部
250…受光素子
261,262,263,264,265…受光領域
270…電圧値検出部
280…光量調整部
290…投影部
292…シリンドリカルレンズ
294,296…投影レンズ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の波長成分を含む光を測定対象へ向けて照射する照射部と、
前記測定対象からの反射光を受光して電気信号に変換する光電変換部と、
それぞれの前記波長成分の前記電気信号を演算して前記測定対象を識別する識別部と、
を備えた対象識別装置であって、
前記光電変換部は、
受光する光の強度に応じた大きさの電気信号を出力する受光素子が平面状に配された受光領域が並列に複数設けられる受光素子部と、
前記反射光を、第1の方向については位置分解能を持たせつつ、前記第1の方向とは異なる第2の方向については拡散して複数の前記受光領域に入射させる光学ユニットと、
それぞれの前記受光領域に対応して設けられ、それぞれの前記受光領域に入射する前記反射光のうち特定の前記波長成分を選択透過する波長選択フィルタと、
を有することを特徴とする対象識別装置。
【請求項2】
前記受光素子部において、
前記受光素子は、前記第1の方向および前記第2の方向に沿って配され、
それぞれの前記受光領域は、前記第1の方向に沿って配された前記受光素子の列を少なくとも一列含むことを特徴とする請求項1に記載の対象識別装置。
【請求項3】
前記光学ユニットは、
前記第1の方向に沿って形成されたレンズ面に入射する光を前記第2の方向に拡散するシリンドリカルレンズが前記第2の方向に複数並列に配されたレンチキュラーレンズを含むことを特徴とする請求項1または2に記載の対象識別装置。
【請求項4】
前記光電変換部は、
前記レンチキュラーレンズへの前記反射光の入射面積を増減させることにより前記受光素子部による前記反射光の受光量を調整する光量調整部をさらに有し、
前記レンチキュラーレンズは、前記光量調整部により前記入射面積が最小となった場合でも、前記反射光を拡散して複数の前記受光領域に入射させ得るレンズピッチで前記シリンドリカルレンズが配されることを特徴とする請求項3に記載の対象識別装置。
【請求項5】
前記光学ユニットは、
前記第2の方向に沿って形成されたレンズ面に入射する光を前記第1の方向においてその入射方向に応じた異なる位置に集光させるシリンドリカルレンズを含むことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の対象識別装置。
【請求項6】
前記波長選択フィルタは、前記受光領域毎に異なる前記波長成分の光を選択透過することを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の対象識別装置。
【請求項7】
前記波長選択フィルタの透過面は、対応する前記受光領域に近接または当接することを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の対象識別装置。
【請求項8】
前記波長選択フィルタは、
前記受光素子部における対応する前記受光領域と離間して設けられ、
前記光学ユニットは、
前記波長選択フィルタを透過した前記反射光を対応する前記受光領域に投影させる投影部をさらに含むことを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の対象識別装置。
【請求項9】
前記複数の波長成分のそれぞれについての反射率を算出する反射率算出部と、
前記複数の波長成分のそれぞれについての反射率に基づいて正規化指標を算出する正規化指標算出部と、
前記反射率と前記波長との関数の二次微分値を算出する二次微分値算出部と、
をさらに備え、
前記識別部は、前記正規化指標および前記二次微分値と、予め設定した識別条件とにより、前記測定対象を識別することを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の対象識別装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−2304(P2011−2304A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−144648(P2009−144648)
【出願日】平成21年6月17日(2009.6.17)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】