説明

寿命予知可能なタイミングベルト及びその製造方法

【課題】近い将来に破断することを、ユーザが予知できるタイミングベルト、及びタイミングベルトの製造方法を供給する。
【解決手段】タイミングベルト10に埋設された異音発生部材16は、歯布14の摩耗や、クラックの発生等によりベルト表面に露出すると、プーリ歯28と接触して異音が生じる。タイミングベルト10の表面の摩耗やクラックは、近い将来においてタイミングベルト10の歯欠けや切断等の故障を引き起す。従って、タイミングベルト10からの異音を検出してユーザに報知することにより、ユーザは、何らかの原因によるタイミングベルト10の故障を予知できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車エンジン、一般産業用動力伝達装置等で用いられるタイミングベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車や、一般産業用動力伝達装置の動力伝達に用いられるタイミングベルトには、長期間の使用により、歯布等の摩耗やクラックが生じる。そして、摩耗やクラックが進行すると、歯欠けや破断により動力の伝達に支障をきたすため、ある期間使用されたタイミングベルトは交換が必要となる。この交換が必要となる時期をユーザに知らせるため、ベルト寿命を予知する方法が知られている(例えば特許文献1)。
【0003】
一方で、タイミングベルトの寿命を延ばすために、歯部の表面を金属繊維により保護することにより、耐摩耗性や耐熱性を高めたタイミングベルト(例えば特許文献2)、及びその製造方法(例えば特許文献3)が公開されている。
【特許文献1】特開平11−247951号公報(図3)
【特許文献2】特開2003−130138号公報(図1)
【特許文献3】特開2003−191345号公報(図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
タイミングベルトの歯部表面を保護して耐久性を高めても、長期に渡る使用の後には、表面の摩耗やクラック等により、ベルトには歯欠けが生じたり、切断してしまう。この場合、一般に破断のしばらく前から異音を生じるチェーンと異なり、タイミングベルトは、異音等のユーザへの警告なしに突然破断することがある。従って、ユーザにとっては、突然に修理が必要となる等、予測できない問題が生じることがある。
【0005】
そこで本発明は、近い将来に歯欠け等により故障することを、ユーザに予知させるタイミングベルト及びタイミングベルトの製造方法を供給することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のタイミングベルトは、歯部を形成する歯ゴムと、歯部の表面を被覆する歯布とを備え、歯ゴムと歯布との間には、針金により形成された隙間を有するメッシュ状であり、歯ゴムおよび歯布に接着された異音発生部材を備えている。そして、異音発生部材は、歯布の摩耗によりタイミングベルトの表面に露出すると、プーリと接触することにより異音を生じる。
【0007】
タイミングベルトは、歯ゴムと歯布との間に、有機金属塩を含むゴムにより形成される接着層をさらに有していることが好ましい。また、歯ゴム及び歯布との接着性を向上させるため、異音発生部材が、有機金属塩を含むゴムにより接着処理を施されていることが望ましい。
【0008】
接着層による、異音発生部材と歯ゴム、及び異音発生部材と歯布との接着性向上をより効果的にするため、異音発生部材はメッシュ状であることが望ましい。また、タイミングベルトが接着層を有しない場合、及び異音発生部材が有機金属塩を含むゴムにより接着処理を施されていない場合には、異音発生部材と歯ゴム、及び異音発生部材と歯布を接着させるために、歯ゴムは、有機金属塩を含むゴムを主成分とする接着成分を含むことが好ましい。また、歯ゴムと歯布とは、異音発生部材の隙間を介して互いに接着されていることが好ましい。
【0009】
本発明のタイミングベルトの製造方法においては、歯部の表面を被覆する歯布と、針金により形成された隙間を有するメッシュ状の異音発生部材と、接着層とを、円筒状の外周面に所定のピッチで歯溝が設けられた予成型ドラムの表面に配して、一体的、連続的にコルゲート状に予成型させて歯布成型体とし、歯布成型体の形状に応じて、歯部を形成するための歯ゴムを連続的に押圧し、歯布成型体と一体化して歯ゴム一体化物とする予成型工程を備える。そして、さらに歯ゴム一体化物を、所定の長さに切断して切断縁辺を互いに当接させて無端状とし、無端状の歯ゴム一体化物を、円筒状の外周面に所定のピッチで歯溝が設けられた成型金型に装着し、歯ゴム一体化物の外周部に心線を巻き付け、さらに背ゴム層の材料となる背ゴム材料を積層させてタイミングベルト中間体とし、タイミングベルト中間体に加硫処理を施してタイミングベルトスラブを形成する加硫工程を備えている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、近い将来において使用できなくなることをユーザに知らせるタイミングベルト、及びタイミングベルトの製造方法が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明におけるタイミングベルトの実施形態を、図面を参照して説明する。図1は、本実施形態のタイミングベルトを示す断面図である。
【0012】
タイミングベルト10は、歯部を形成する歯ゴム層12と、歯ゴム層12を保護するための歯布14とを備えている。そして、歯ゴム層12と歯布14との間には、薄層状の異音発生部材16と、異音発生部材16を接着するための第1接着ゴム層18、及び第2接着ゴム層20とが設けられている。さらに、タイミングベルト10には、背ゴム層22が設けられており、歯ゴム層12と背ゴム層22との間には、心線24が埋設されている。
【0013】
歯ゴム層12及び背ゴム層22は、いずれも水素化ニトリルゴム(以下H−NBRという)により形成される。ただし、歯ゴム層12及び背ゴム層22とは、異なる材質により形成されても良い。また、歯布14の素材は、アラミド繊維である。異音発生部材16は、メッシュ状のステンレス(SUS304)により形成されており、その厚さは0.084mmである。そして、異音発生部材16は、第1及び第2接着ゴム層18、20により覆われている。第1及び第2接着ゴム層18、20は、有機金属塩であるメタクリル酸亜鉛や、パーオキサイド系加硫剤、硫黄系加硫剤を含むH−NBRにより形成されている。異音発生部材16と歯ゴム層12、異音発生部材16と歯布14との接着性を高めるためにH−NBRに添加されるこれらの成分は、歯ゴム層12に含まれていても良い。
【0014】
異音発生部材16はメッシュ状であるため、第1接着ゴム層18と第2接着ゴム層20とは、それぞれ完全に独立してはおらず、異音発生部材16を構成する多数の針金(図示せず)の隙間において、互いに一体的である。なお、心線24は、ガラス繊維により形成されている。
【0015】
図2は、プーリに係合するタイミングベルト10であって、長期間に渡り使用された例を示す断面図であり、歯布14及び第1接着ゴム層18が、摩耗により局部的に消失している。
【0016】
タイミングベルト10と金属製のプーリ26とのかみ合いにおいて、異音発生部材16がプーリ歯28と接する場合があり、この接触により異音が発生する。さらに、メッシュ状の異音発生部材16を形成するステンレスの針金が、プーリ歯28との摩擦により破断すると、その針金の破断部位が、プーリ歯28の表面を引っ掻くことにより、より大きい異音が発生する。また、歯布14や第1接着ゴム層18の摩耗が進行していなくても、クラックの発生等により、異音発生部材16がタイミングベルト10の表面に露出すると、やはり異音が生じる。
【0017】
タイミングベルト10の表面の摩耗が進行すると、歯部の強度が低下して、歯欠けや切断等の故障の原因となる。また、クラック等、摩耗以外の原因で異音発生部材16がタイミングベルト10の表面に露出した場合も、近い将来においてタイミングベルト10は故障する可能性が高い。本実施形態では、タイミングベルト10から異音が発生するので、何らかの原因によるタイミングベルト10の故障をユーザに予知させることができる。
【0018】
次に、タイミングベルト10の製造方法について説明する。図3は、予成型を示す図である。異音発生部材16は、ステンレス製であって伸びないため、加硫工程における加圧、加熱により歯ゴム層12の材料や心線24と一体的に成型することは困難である。従って、加硫工程に先立って、異音発生部材16は、歯布14、第1及び第2接着ゴム層の材料である接着ゴム層材料30と共に、連続的にコルゲート状に予成型される。
【0019】
歯布14、異音発生部材16、及び接着ゴム層材料30は、重ねられた状態で予成型ドラム32上に連続的に送り出される。予成型ドラム32の表面には、所定のピッチで歯溝が設けられている。予成型ドラム32は、矢印Aの示す方向に回転する。歯付ローラ34は、予成型ドラム32と係合しながら矢印Bの方向に回転する。このため、積層された歯布14、異音発生部材16、及び接着ゴム層材料30は、予成型ドラム32と共に矢印Aの示す方向に移動しながら、予成型ドラム32と歯付ローラ34とが係合する領域において、予成型ドラム32の歯部36と、歯付ローラ34の歯部38との協働作用により、一体的に、かつ連続的にコルゲート状に成型され、歯布成型体42となる。
【0020】
図4は、歯ゴム層材料の押圧工程を示す図である。
【0021】
予成型ドラム32上にある歯布成型体42の表面を覆うように、板状の歯ゴム層材料44が連続的に供給される。そして、矢印Cの示す方向に移動する押圧部材40によって押圧された歯ゴム層材料44は、変形して、歯ゴム層12に近い形状となりながら、歯布成型体42と一体化され、歯ゴム一体化物43となり、予成型工程が終了する。
【0022】
図5は、タイミングベルト中間体を示す図である。
【0023】
歯ゴム一体化物43は、所定の長さに切断された後に切断縁辺同士が当接されて無端状になる。無端状になった歯ゴム一体化物43は、タイミングベルト10の歯部を形成するための凹部52が設けられた成型金型46上に装着される。そして、歯ゴム層材料44の外周部に心線24が巻きつけられ、さらに心線24の上に背ゴム層22の材料である背ゴム材料48が積層されることにより、タイミングベルト中間体50が形成される。
【0024】
成型金型46の表面にあるタイミングベルト中間体50は、矢印Dの方向に加圧され、同時に加熱される(加硫工程)。その結果、タイミングベルト中間体50の構成要素のうちで、主として歯布成型体42と歯ゴム層材料44及び背ゴム材料48が変形して、タイミングベルト中間体50が、成型金型46の表面に完全に接するように、すなわちタイミングベルト10のスラブを形成するように、成型が行われる。
【0025】
加硫工程においては、歯布成型体42を形成していた接着ゴム層材料30の一部が、歯ゴム層材料44側から、メッシュ状の異音発生部材16の隙間を通り、歯布14側に流動する(図1及び3を参照)。そして、歯布14側に流動した接着ゴム層材料30により第1接着ゴム層18が形成され、歯ゴム層12側に留まった接着ゴム層材料30により第2接着ゴム層20が形成される(図1及び3を参照)。なお、加硫工程は、ステンレス製の異音発生部材16を含む歯ゴム一体化物43を用いる点以外は、従来公知の技術に基づく。
【0026】
加硫工程により、タイミングベルト10と同一の断面形状となったタイミングベルトスラブ50は、冷却された後に、背面の研磨処理等が施される。そして、所定の幅となるように輪切り状に切断されることにより、タイミングベルト10が製造される。
【0027】
次に、発生した異音の検出について説明する。図6は、タイミングベルト寿命予知システム55を示す概略図である。
【0028】
タイミングベルト寿命予知システム55は、マイクロフォン56、CPU58、及び警告ランプ59を含む。タイミングベルト10から生じる音は、マイクロフォン56によって検出される。マイクロフォン56は、タイミングベルト10の作動時には常にタイミングベルト10からの音を検出している。そして、マイクロフォン56によって検出された音データは、CPU58に送られる。
【0029】
タイミングベルト10の摩耗により、異音発生部材16が露出すると、露出した異音発生部材16とプーリ26との接触により大きい音が生じる。この音は、タイミングベルト10が正常に作動し、プーリ26と異音発生部材16との接触がない場合に生じる音に比べると音圧が高い音となる。CPU58には、予め、異音を判断するための音圧の上限値が設定されており、その上限値よりも高い音圧の音データが入力されると、その音を異音であると判断する。
【0030】
タイミングベルト10からの音が異音であると判断されると、警告ランプ59を点灯させる信号が、CPU58から警告ランプ59に送信される。その結果、警告ランプ59が点灯し、ユーザは、タイミングベルト10が近い将来において破断するため、タイミングベルト10の交換が必要であることを知らされる。
【0031】
以上のように、本実施形態によれば、歯布14と歯ゴム層12との間に異音発生部材16を備えたタイミングベルト10が製造される。そして、タイミングベルト10を用いたタイミングベルトの寿命予知システムにより、ユーザは、タイミングベルト10の破断及び交換必要性を予知できる。
【0032】
異音発生部材16が、成型性の良い材質である場合、予成型を実施せずに、加硫工程において異音発生部材16を所定の形状に成型する汎用的な製造方法によって、タイミングベルト10が製造されても良い。
【0033】
異音発生部材の厚さは、0.05mm〜0.2mmであることが好ましい。この範囲の下限である0.05mmよりも薄い場合、ベルト表面の摩耗等により、異音発生部材が瞬時に切断されてしまい、異音を生じない可能性がある。また、上限の0.2mmよりも厚い場合、タイミングベルト製造時の成型性が低下したり、ベルト完成後のベルトの柔軟性が低下する場合がある。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本実施形態のタイミングベルトを示す断面図である。
【図2】プーリに係合する本実施形態のタイミングベルトを示す断面図である。
【図3】予成型を示す図である。
【図4】歯ゴム層材料の押圧工程を示す図である。
【図5】タイミングベルト中間体を示す図である。
【図6】タイミングベルト寿命予知システムを示す概略図である。
【符号の説明】
【0035】
10 タイミングベルト
12 歯ゴム層(歯ゴム)
14 歯布
16 異音発生部材
18 第1接着ゴム層(接着層)
20 第2接着ゴム層(接着層)
24 心線
32 予成型ドラム
42 歯布成型体
43 歯ゴム一体化物
50 タイミングベルト中間体
55 タイミングベルト寿命予知システム
56 マイクロフォン(音センサ)
58 CPU(異音判断手段)
59 ランプ(警告手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯部を形成する歯ゴムと、
前記歯部の表面を被覆する歯布と、
前記歯ゴムと前記歯布との間に、針金により形成された隙間を有するメッシュ状であり、前記歯ゴムおよび前記歯布に接着された異音発生部材とを備え、
前記異音発生部材が、前記歯布の摩耗によりタイミングベルトの表面に露出すると、プーリとの接触により異音を生じることを特徴とするタイミングベルト。
【請求項2】
前記歯ゴムと前記歯布との間に、有機金属塩を含むゴムにより形成される接着層をさらに有することを特徴とする請求項1に記載のタイミングベルト。
【請求項3】
前記異音発生部材が、有機金属塩を含むゴムにより接着処理を施されたことを特徴とする請求項1に記載のタイミングベルト。
【請求項4】
前記歯ゴムが、有機金属塩を含むゴムを主成分とする接着成分を含むことを特徴とする請求項1に記載のタイミングベルト。
【請求項5】
前記歯ゴムと前記歯布とが、前記隙間を介して互いに接着されていることを特徴とする請求項1に記載のタイミングベルト。
【請求項6】
歯部の表面を被覆する歯布と、針金により形成された隙間を有するメッシュ状の異音発生部材と、接着層とを、円筒状の外周面に所定のピッチで歯溝が設けられた予成型ドラムの表面に配して一体的にかつ連続的にコルゲート状に予成型させて歯布成型体とし、
前記歯布成型体の形状に応じて、前記歯部を形成するための歯ゴムを連続的に押圧させて前記歯布成型体と一体化して歯ゴム一体化物とする予成型工程と、
前記歯ゴム一体化物を所定の長さに切断して切断縁辺を互いに当接させて無端状とし、無端状の前記歯ゴム一体化物を、円筒状の外周面に所定のピッチで歯溝が設けられた成型金型に装着し、前記歯ゴム一体化物の外周部に心線を巻き付け、さらに背ゴム層の材料となる背ゴム材料を積層させてタイミングベルト中間体とし、
前記タイミングベルト中間体に加硫処理を施す加硫工程とを備えることを特徴とするタイミングベルトの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−286402(P2008−286402A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−171275(P2008−171275)
【出願日】平成20年6月30日(2008.6.30)
【分割の表示】特願2003−371808(P2003−371808)の分割
【原出願日】平成15年10月31日(2003.10.31)
【出願人】(000115245)ゲイツ・ユニッタ・アジア株式会社 (101)
【Fターム(参考)】