説明

封止膜及びその形成方法並びに電気装置及びその製造方法

【課題】封止対象物の凹凸部分を平滑化する平滑化有機高分子層を有する封止膜において、平滑化有機高分子層と無機層との密着性を向上させる技術を提供する。
【解決手段】本発明の封止膜は、デバイス部20上に形成されアルミナからなる無機層15と、無機層15上に形成されポリ尿素からなる下地高分子有機層11と、下地高分子有機層11上に形成され、デバイス部20の凹凸部分を平滑化するためのアクリル樹脂からなる平滑化高分子有機層12とを有する。下地高分子有機層11のポリ尿素が、平滑化高分子有機層12の原料となるアクリルモノマーを下地高分子有機層11中に拡散させる性質を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば薄膜リチウム二次電池や有機EL素子の回路部分を封止するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
図10は、従来の薄膜リチウム二次電池の構成を示す断面図である。
この薄膜リチウム二次電池101は、全固体型のもので、図10に示すように、正極集電体層104に接続された正極層103が基板102上に形成され、この正極層103上に固体電解質層105が形成されている。
【0003】
そして、固体電解質層105上に、リチウムからなり負極集電体層106に接続された負極層107が形成されている。
さらに、このような構成を有する電池本体部を覆うように封止層110が設けられている。
【0004】
ところで、このような従来技術においては、負極層107に凹凸部108やパーティクル109が存在することから、これら凹凸部分を例えばアクリル樹脂からなる第1の封止層111を形成して平滑化し、この第1の封止層111上に、例えばアルミナ(Al23)からなる第2の封止層112を形成することが提案されている。
しかし、この従来技術の場合、第1の封止層111を構成するアクリル樹脂と、第2の封止層112を構成するアルミナとは密着性が悪く、第2の封止層112が剥離しやすく、ひいては封止能力が低下するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−269957号公報
【特許文献2】特開2006−278139号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような従来の技術の課題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、封止対象物の凹凸部分を平滑化する平滑化有機高分子層を有する封止膜において、平滑化有機高分子層と無機層との密着性を向上させる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するためになされた本発明は、封止対象物上に形成された無機層と、前記無機層上に形成された下地高分子有機層と、前記下地高分子有機層上に形成され、当該封止対象物の凹凸部分を平滑化するための平滑化高分子有機層とを有し、前記下地高分子有機層が、前記平滑化高分子有機層の原料となるモノマーを当該下地高分子有機層中に拡散させる性質を有する材料からなる封止膜である。
本発明では、前記無機層の材料がアルミナであり、前記下地高分子有機層の材料がポリ尿素又はポリウレタンであり、前記平滑化高分子有機層の材料がアクリル樹脂である場合にも効果的である。
本発明では、この封止膜上に、アルミナからなる無機層と、ポリ尿素又はポリウレタンからなる密着性高分子有機層が積層されている場合にも効果的である。
また、この封止膜上に、アルミナからなる無機層と、アクリル樹脂からなる平滑化高分子有機層とが積層されている場合にも効果的である。
さらに、この封止膜上に、アクリル樹脂からなる平滑化高分子有機層と、当該アクリル樹脂からなる高分子有機層の両側の面に形成されたポリ尿素からなる密着性高分子有機層と、当該密着性高分子有機層上に形成されたアルミナからなる無機層とが積層されている場合にも効果的である。
一方、本発明は、高分子有機層と無機層とが積層されデバイス部を封止する封止膜を有する電気装置であって、前記デバイス部上に、上述したいずれかの封止膜が設けられているものである。
本発明は、前記デバイス部が、薄膜リチウム二次電池の電池本体部である場合には特に効果的である。
他方、本発明は、上述した封止膜を形成する方法であって、真空中で異なる原料モノマーを蒸発させて前記封止対象物の無機層上に堆積させ、当該無機層上において当該異なる原料モノマーを重合反応させることにより前記下地高分子有機層を形成する下地高分子有機層形成工程と、前記平滑化高分子有機層の原料となるモノマーを気化させて前記下地高分子有機層上に噴霧して凝集堆積させ、当該下地高分子有機層上の当該モノマーに対して紫外線を照射して硬化させることにより前記平滑化高分子有機層を形成する平滑化高分子有機層形成工程とを有する封止膜形成方法である。
また、本発明は、上述した電気装置を製造する方法であって、真空中で異なる原料モノマーを蒸発させて前記デバイス部の無機層上に堆積させ、当該無機層上において当該異なる原料モノマーを重合反応させることにより前記下地高分子有機層を形成する下地高分子有機層形成工程と、前記平滑化高分子有機層の原料となるモノマーを気化させて前記下地高分子有機層上に噴霧して凝集堆積させ、当該下地高分子有機層上の当該モノマーに対して紫外線を照射して硬化させることにより前記平滑化高分子有機層を形成する平滑化高分子有機層形成工程とを有する工程によって前記封止膜を形成する電気装置の製造方法である。
【0008】
本発明の場合、下地高分子有機層が、平滑化高分子有機層の原料となるモノマー(例えばアクリルモノマー)を下地高分子有機層中に拡散させる性質を有する材料(例えばポリ尿素)からなることから、例えば下地高分子有機層上に平滑化高分子有機層の原料となるモノマーを配置して硬化させる際に、下地高分子有機層中に拡散された当該モノマーの硬化によって下地高分子有機層と平滑化高分子有機層との界面において拡散層が形成される。
この拡散層は、下地高分子有機層と強固に密着しており、しかも、例えばアルミナからなる無機層とポリ尿素からなる下地高分子有機層との密着性は強固であるから、結果として、無機層と平滑化高分子有機層との密着性が大幅に向上する。
本発明において、上述した封止膜上に、アルミナからなる無機層と、ポリ尿素又はポリウレタンからなる密着性高分子有機層が積層されている場合、又はアルミナからなる無機層と、アクリル樹脂からなる平滑化高分子有機層とが積層されている場合には、封止膜の全体的な封止能力を更に向上させることができる。
本発明において、上述した封止膜上に、アクリル樹脂からなる平滑化高分子有機層と、当該アクリル樹脂からなる高分子有機層の両側の面に形成されたポリ尿素からなる密着性高分子有機層と、当該密着性高分子有機層上に形成されたアルミナからなる無機層とが積層されている場合には、有機層と無機層の密着性が非常に高く、しかも封止能力の優れた封止膜が得られる。
そして、このような封止膜を薄膜リチウム二次電池のデバイス部即ち電池本体部上に設けることにより、高分子有機層と高分子無機層との密着性が高い封止膜によって充電・放電の際に膨張・収縮する電池本体部に対して確実に封止を行うことができ、信頼性を向上させることができる。
一方、本発明方法によれば、上述した密着性の高い有機・無機積層封止膜を効率良く形成することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、無機層と平滑化高分子有機層との密着性を大幅に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る封止膜を形成する封止膜形成装置の構成を示す平面図
【図2】平滑化高分子有機層形成室の内部構成を示す概略図
【図3】下地高分子有機層形成室の内部構成を示す概略図
【図4】無機層形成室の内部構成を示す概略図
【図5】(a)(b):平滑化高分子有機層の形成工程を示す図
【図6】本発明に係るリチウム二次電池の構成例を示す断面図
【図7】本発明の封止膜の形成方法の実施の形態を示す図
【図8】(a)(b):本発明の作用・原理を説明するための模式図
【図9】(a)〜(c):本発明に係る封止膜の他の実施の形態を示す断面図
【図10】従来のリチウム二次電池の構成例を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
図1は、本発明に係る封止膜を形成する封止膜形成装置の構成を示す平面図である。
図1に示すように、この封止膜形成装置1は、基板8を搬送するための搬送室2を有し、この搬送室2内には、基板搬送ロボット2Aが設けられている。
【0012】
搬送室2の周囲には、仕込み/取出室3、平滑化高分子有機層形成室4、下地高分子有機層形成室5、無機層形成室9が、それぞれゲートバルブ3G、4G、5G、6Gを介して設けられ、基板搬送ロボット2Aによって搬送室2との間において基板8の受け渡しを行うように構成されている。
なお、これら仕込み/取出室3、平滑化高分子有機層形成室4、下地高分子有機層形成室5、無機層形成室9は、図示しない真空排気系に接続されている。
【0013】
図2は、本実施の形態における平滑化高分子有機層形成室4の内部構成を示す概略図である。
図2に示すように、本実施の形態の平滑化高分子有機層形成室4は、後述するアクリルモノマーを気化する気化部30と、UV硬化部40とを有している。なお、本発明においてはアクリルモノマーの他、メタアクリルモノマーも用いることができる。
【0014】
気化部30は、例えば箱形状に形成された本体部31の例えば上部に気化器32が設けられて構成されている。
ここで、気化器32は、図示しないアクリル供給源から液状のアクリルモノマー6を導入するためのアクリル導入路33が、例えば気化器32の上面中央部から気化器32を貫通するように設けられ、本体部31内部に設けられたアクリル放出口34を介して液状のアクリルモノマー6を本体部31内に導くように構成されている。
【0015】
また、気化器32のアクリル導入路33の近傍には、図示しないガス源から例えばアルゴン(Ar)ガス7を導入するためのガス導入路35が設けられている。
そして、気化器32のアクリル導入路33を取り囲むようにガス拡散空間36がガス導入路35と連通して形成され、ガス拡散空間36の上記アクリル放出口34側には、例えばアクリル放出口34を取り囲むようにリング状のガス放出口37が設けられている。
【0016】
このような構成を有する気化器32では、ガス導入路35から導入されたアルゴンガスがガス拡散空間36内において拡散され、加速されてガス放出口37から放出される。これに伴い、アクリル放出口34から放出される液状のアクリルモノマー6が霧吹きの原理によって本体部31内に霧状になって噴霧される(以下、「霧状アクリルモノマー6S」という。)。
【0017】
一方、気化部30の本体部31の例えば下部には、霧状アクリルモノマー6Sを排出する排出口38が設けられ、この排出口38には、例えばパイプ状の蒸気輸送管39の先端部分が挿入されている。
この蒸気輸送管39は、UV硬化部40に向って引き回され、複数(本実施の形態では二つ)の分岐管39a、39bによって分岐して霧状アクリルモノマー6SをUV硬化部40に輸送するように構成されている。
【0018】
本実施の形態のUV硬化部40は、基板8を支持するステージ41と、ステージ41の例えば上方に設けられたアクリルモノマー噴霧部42と、アクリルモノマー噴霧部42の例えば上方に設けられたUV照射源43とを有している。
【0019】
本実施の形態の場合、基板8は、例えばステージ41の中央部分に配置されるようになっている。そして、アクリルモノマー噴霧部42のステージ41の基板8の配置位置の直上の部分には、基板8と同等の大きさの孔部42Aが設けられ、この孔部42Aを覆うように例えば石英からなる平板状の透光部材44が配置されている。
【0020】
さらに、UV照射源43は、この透光部材44の直上の位置に配置され、透光部材44を介してUV光を基板8に照射するように構成されている。
一方、アクリルモノマー噴霧部42は、例えば平板状の部材からなるもので、上述した透光部材44の周囲に、霧状アクリルモノマー6Sを導入する複数(本実施の形態では二つ)のモノマー導入口42a、42bが設けられている。
【0021】
図2に示すように、本実施の形態では、蒸気輸送管39の二つの分岐管39a、39bは鉛直方向に延びるように設けられ、それぞれの先端部が、アクリルモノマー噴霧部42のモノマー導入口42a、42bの直上に配置されるように構成されている。
【0022】
そして、アクリルモノマー噴霧部42の内部には、モノマー導入口42a、42bと連通し且つ例えば孔部42Aを取り囲むようにリング状に形成された霧状アクリルモノマー6Sの流路45が設けられている。
さらに、アクリルモノマー噴霧部42の例えば下部には、上記霧状アクリルモノマー6Sの流路45に連通されたアクリルモノマー放出口46が複数(図中では二つのみ示す)設けられている。
【0023】
これら複数のアクリルモノマー放出口46の下方には、例えば一体的に形成され、ステージ41上における基板8の配置位置の中央部分に向けて下方に傾斜させた板状のガイド部材47が設けられている。このガイド部材47により、霧状アクリルモノマー6Sは、効率良く基板8上に供給される。
【0024】
一方、ステージ41には、基板8上に噴霧され液化したアクリルモノマー(ここでは図示せず)を堰き止めるための突堤部48aと、霧状アクリルモノマー6Sの飛散を防止するための飛散防止部材48bが設けられている。
なお、不要になったアクリルモノマーは、排液ポンプ49によって回収されるように構成されている。
【0025】
図3は、下地高分子有機層形成室5の内部構成を示す概略図である。
図3に示すように、本実施の形態の下地高分子有機層形成室5は、真空槽51と、真空槽51内に配置され、基板8が配置されるステージ52と、ステージの表面52aと対向する位置に配置された放出容器53と、内部に異なる原料モノマーが配置される第一、第二の材料容器54A、54Bと、第一、第二の材料容器の内部空間を放出容器53の内部空間に連通させる第一、第二の配管55A、55Bとを有している。
【0026】
第一、第二の材料容器54A、54Bには、第一、第二のヒーター56a、56bが取り付けられている。これら第一、第二のヒーター56a、56bは、それぞれの発熱によって、第一、第二の材料容器54A、54Bが加熱され、熱伝導により、第一、第二の材料容器54A、54Bの内部に収容された各原料モノマーが加熱されるように構成されている。
第一、第二の配管55A、55Bには、開閉可能な第一、第二のバルブ55a、55bが取り付けられている。
【0027】
これら第一、第二のバルブ55a、55bは、開状態にした場合に、第一、第二の材料容器54A、54Bの内部空間が第一、第二の配管55A、55Bを介して放出容器53の内部空間に連通され、他方、第一、第二のバルブ55a、55bを閉状態にした場合には、第一、第二の材料容器54A、54Bの内部空間が放出容器53の内部空間から遮断されるように構成されている。
【0028】
放出容器53の壁面のうちステージ52の表面52aと対向する部分には、複数の放出口57が設けられ、放出容器53の内部空間は各放出口57を介して真空槽51の内部空間と連通され、放出容器53内に原料モノマーの蒸気が導入された場合に、各放出口57からステージ52の表面52aに向かって蒸気が放出されるように構成されている。
【0029】
また、本実施の形態では、真空槽51内において、放出容器53の放出口57が設けられた部分と、ステージ52の表面52aとの間の空間の周囲を取り囲むように例えば筒状の防着部材58が配置され、この防着部材58によって各放出口57から放出された原料モノマーの蒸気の真空槽51の内側壁面への付着が防止されるようになっている。
【0030】
図4は、無機層形成室9の内部構成を示す概略図である。
図4に示すように、本実施の形態の無機層形成室9は、真空槽61と、真空槽61内に配置され、表面62aに基板8が配置されるステージ62と、ステージ62の表面62aと対向する位置にステージ62の表面62aと平行に配置されたバッキングプレート63と、バッキングプレート63に電気的に接続された電源装置64と、真空槽61内にスパッタガスを導入するスパッタガス源65と、磁石装置66とを有している。
【0031】
本実施の形態の場合、ステージ62は浮遊電位(フローティング)にされている。
バッキングプレート63は、絶縁部材67を介して真空槽61の壁面に取り付けられて支持されており、真空槽61とは電気的に絶縁されている。
そして、バッキングプレート63のステージ62の表面62aと対向する面には、アルミナ(Al23)からなるターゲット68が配置されている。
【0032】
磁石装置66は、バッキングプレート63のターゲット68が配置された面に対して反対側(裏面側)に配置され、これによりバッキングプレート63の裏面と対向する部分に磁極が配置され、ターゲット68の表面には磁場が形成されるように構成されている。
磁石装置66には、磁石回転装置69が取り付けられている。
【0033】
本実施の形態の磁石回転装置69はモーターからなり、磁石装置66をターゲット68表面に対して直角な回転軸線を中心に回転できるように構成されている。そして、磁石回転装置69を動作させて磁石装置66を回転させた場合には、ターゲット68表面に形成された磁場も共にターゲット68表面内で回転するようになっている。
【0034】
図6は、本発明に係るリチウム二次電池の構成例を示す断面図である。
本実施の形態の薄膜リチウム二次電池50は、全固体型のもので、図6に示すように、基板8上に、電池本体部であるデバイス部20が形成されて構成されている。
【0035】
本発明の場合、基板8の材料としては、ガラス、金属箔、シリコン(Si)、雲母、樹脂等を用いることができる。
基板8上には、正極集電体層21に電気的に接続された正極層22が形成され、この正極層22上に、固体電解質層23が形成されている。
正極層22は、例えばコバルト酸リチウム(LiCoO2)からなるもので、例えばコバルト酸リチウムのターゲット(図示せず)を用いてスパッタリング法によって作成することができる。
【0036】
一方、固体電解質層23は、例えば、リン酸リチウムオキシナイトライド(LiPON)からなり、例えばリン酸リチウムオキシナイトライドのターゲット(図示せず)を用いてスパッタリング法によって作成することができる。
固体電解質層23上には、リチウム(Li)からなる負極層24が形成されている。
【0037】
負極層24は、例えばリチウムを蒸発源(図示せず)として真空蒸着法によって作成することができる。この負極層24は、基板8上に形成された負極集電体層25に電気的に接続されている。
図6に示すように、リチウムからなる負極層24には、凹凸部24aやパーティクル26(本明細書では「凹凸部分」と総称する。)が存在している。
【0038】
本実施の形態では、以上の構成を有するデバイス部20を覆うように、以下に説明する封止膜10が設けられている。
以下、本発明の封止膜の形成方法の実施の形態を、図3〜図6並びに図7(a)〜(d)を参照して説明する。
【0039】
<無機層形成工程>
図1に示す搬送ロボット2Aにより、デバイス部20を形成した基板8を無機層形成室9の真空槽61内に搬入する(図4参照)。
図4に示すように、真空槽61内に搬入された基板8を、成膜すべき表面(ここではデバイス部20の表面)が露出するように、ステージ62の表面62aに配置する。
【0040】
この状態で磁石回転装置69を動作させ、磁石装置66をターゲット68表面に対して直角な回転軸線を中心に回転させ、磁場をターゲット68表面内で回転させる。以後、磁石装置66の回転を継続する。
スパッタガス源65から真空槽61内にスパッタガス(ここではArガス)を導入する。
【0041】
そして、電源装置64を動作させ、バッキングプレート63に高周波電圧を印加する。これにより、スパッタガスが電離してプラズマが生成され、プラズマ中のArイオンは、バッキングプレート63が負電位に置かれている場合に、ターゲット68表面に入射して、ターゲット68表面をスパッタする。
【0042】
ターゲット68表面からスパッタされたアルミナ粒子は、基板8の表面に露出するデバイス部20の表面に到達して付着し、これにより、デバイス部20の表面にアルミナからなる無機層が形成される。
【0043】
本実施の形態では、磁石装置66が形成する磁場をターゲット68表面内で回転させており、ターゲット68表面は均一な割合でスパッタされ、デバイス部20表面には均一な膜厚のアルミナ膜からなる無機層15が形成される(図7(a)参照)。
【0044】
本発明の場合、無機層15の厚さは特に限定されることはないが、必要なバリア性を確保し且つプロセス時間を短縮する観点からは、20〜200nmに調整することが好ましい。
【0045】
所定の膜厚の無機層15を形成した後、電源装置64からバッキングプレート63への電圧印加を停止し、スパッタガス源65から真空槽61内へのスパッタガスの導入を停止する。
【0046】
<下地高分子有機層形成工程>
本実施の形態では、無機層15を形成した基板8を真空槽51内にを搬入する前に、予め第一、第二のバルブ55a、55bを閉状態にしておく。
第一の材料容器54A内に、第一の原料モノマーを収容しておくとともに、第二の材料容器54B内に、第二の原料モノマーを収容しておく。
【0047】
本発明の場合、下地高分子有機層は、蒸着重合法によって形成するが、封止膜10の封止特性を低下することがないようにする観点からは、原料モノマーとして、プロセス中に副生成物が生じない材料を選択して重合させることがより好ましい。
【0048】
このような材料としては、イソシアナート基(O=C=N−)を有する原料モノマーと、アミノ基(−NH2)を有する原料モノマーを用いてポリ尿素膜を作成する場合があげられる。
具体的には、例えば、下記化学式(1)で示される化合物である1,3−ビス(イソシアナートメチル)シクロヘキサンからなる脂環族イソシアナート材料と、下記化学式(2)で示される化合物である1,12−ジアミノドデカンからなる脂肪族アミン材料を用いることができる。
【0049】
【化1】

【0050】
【化2】

【0051】
そして、図1に示す搬送ロボット2Aにより、無機層15を形成した基板8を無機層形成室9から取り出し、下地高分子有機層形成室5の真空槽51内に搬入する(図3参照)。
図3に示すように、真空槽51内に搬入された基板8を、成膜すべき表面(ここでは無機層15の表面)が露出するように、ステージ52の表面52aに配置する。
【0052】
そして、第一のヒーター56aを発熱させ、第一の材料容器54A内の第一の原料モノマーを蒸発温度以上の温度に加熱して、第一の原料モノマーの蒸気を発生させる。また、第二のヒーター56bを発熱させ、第二の材料容器54B内の第二の原料モノマーを蒸発温度以上の温度に加熱して、第二の原料モノマーの蒸気を発生させる。
【0053】
さらに、第一、第二のバルブ55a、55bを開状態にして、第一、第二の材料容器54A、54B内の蒸気をそれぞれ第一、第二の配管55A、55Bを介して放出容器53内に導入する。
【0054】
放出容器53内に導入された第一の原料モノマーの蒸気と第二の原料モノマーの蒸気は、放出容器53内で混合された後、各放出口57から真空槽51内に放出され、ステージ52の表面52aに配置された基板8の無機層15の表面に到達する。
【0055】
基板8の無機層15表面に到達した第一及び第二の原料モノマーの蒸気は、当該表面に吸着された後、イソシアナート材料の分子とアミン材料の分子の一部は表面内で拡散し、他の一部は再蒸発する。基板8の無機層15の表面内では、下記化学式(3)で示すように、均一な割合でイソシアナート材料の分子とアミン材料の分子の重付加反応が起こり、第2の有機材料であるポリ尿素からなる下地高分子有機層11が形成される(図7(b)参照)。
【0056】
【化3】

【0057】
また、本発明の場合、下地高分子有機層11を形成するための他の材料として、プロセス中に副生成物が生じない材料である、イソシアナート基(O=C=N−)を有する原料モノマーと、水酸基(−OH)を有する原料モノマーを用い、蒸着重合法によってポリウレタンを作成することもできる。
【0058】
具体的には、例えば、下記化学式(4)で示される化合物である1,3−ビス(イソシアナートメチル)シクロヘキサンからなる脂環族イソシアナート材料と、下記化学式(5)で示される化合物である1,12−ドデカンジオールからなる脂肪族ジオール材料を用いることができる。
【0059】
【化4】

【0060】
【化5】

【0061】
これらの原料モノマーを用いた場合の重合反応は、下記化学式(6)に示すとおりである。
【0062】
【化6】

【0063】
<平滑化高分子有機層の形成工程>
本工程は、減圧下で行う。この場合、図5(a)に示すように、無機層15及び下地高分子有機層11が形成された基板8を、UV硬化部40のステージ41上に配置しておく。
【0064】
そして、アクリル供給源から液状のアクリルモノマー6を気化器32のアクリル導入路33内に供給するとともに、ガス源から例えばアルゴン(Ar)ガス7を気化器32のガス導入路35内に供給する。これにより、高い蒸気圧の霧状アクリルモノマー6Sが本体部31内に導入される。
【0065】
本発明の場合、(メタ)アクリルモノマーの種類は特に限定されることはないが、気化器32によって十分に気化され、本体部31内においてモノマーが残らないようにする観点からは、高い蒸気圧(1Paより大:20℃)で粘度が小さい(20mPa・s未満)材料を用いることがより好ましい。
このような材料としては、下記化学式(7)で示されるネオペンチルグリコールジアクリレートを好適に用いることができる。
【0066】
【化7】

【0067】
次いで、本体部31内に導入された霧状アクリルモノマー6Sを、蒸気輸送管39によって気化部30からUV硬化部40に輸送し、分岐管39a、39bの先(下)端部からアクリルモノマー噴霧部42のモノマー導入口42a、42bにそれぞれ霧状アクリルモノマー6Sを供給する。
【0068】
アクリルモノマー噴霧部42のモノマー導入口42a、42bに供給された霧状アクリルモノマー6Sは、アクリルモノマー噴霧部42の内部の霧状アクリルモノマー流路45を流れ、アクリルモノマー放出口46から下方へ噴霧される。
【0069】
さらに、アクリルモノマー噴霧部42のアクリルモノマー放出口46から下方へ噴霧された霧状アクリルモノマー6Sは、ガイド部材47によって進行方向が変更され、ステージ41上の基板8の中央部分に向って噴霧される。
【0070】
そして、基板8に到達した霧状アクリルモノマー6Sは、基板8の下地高分子有機層11表面において凝集液化して流動し、図7(c)に示すように、下地高分子有機層11上に平坦なアクリルモノマー層12aが形成される。
【0071】
本発明の場合、アクリルモノマー層12aの厚さは特に限定されることはないが、デバイス部20の凹凸を確実に平坦化する観点からは、硬化後において1000nm以上となるようにアクリルモノマー層12aの厚さを調整することが好ましい。
【0072】
この状態において、図5(b)に示すように、アクリルモノマー6とアルゴンガス7の供給を停止する。そして、UV照射源43から紫外線UVを射出し、透光部材44を介して基板8上のアクリルモノマー層12aの表面に紫外線を照射する。
【0073】
これにより、下記化学式(8)に示すように、アクリルモノマー(式中、Mで示す)がラジカル重合反応し、下地高分子有機層11の表面に、第1の有機材料であるアクリル重合体からなる平滑化高分子有機層12が形成される(図7(d)参照)。
【0074】
【化8】

【0075】
図8(a)(b)は、本発明の作用・原理を説明するための模式図である。
上述したように、平滑化高分子有機層12を形成する際には、下地高分子有機層11上に霧状アクリルモノマー6Sを噴霧して供給する。この霧状アクリルモノマー6Sの供給中に、図8(a)に示すように、下地高分子有機層11上に凝集した液状のアクリルモノマー6が、下地高分子有機層11のポリ尿素中に拡散する。
【0076】
そして、この状態でアクリルモノマー層12aに対して紫外線UVを照射すると、下地高分子有機層11とアクリルモノマー層12aとの界面付近の領域において、ポリ尿素中に拡散したアクリルモノマーが硬化して、図8(b)に示すように、拡散層13が形成される。
【0077】
この拡散層13は、ポリ尿素からなる下地高分子有機層11と強固に密着していると考えられ、しかも、アルミナからなる無機層15とポリ尿素からなる下地高分子有機層11との密着性は強固であるから、結果として、無機層15と平滑化高分子有機層12との密着性が大幅に向上すると考えられる。
【0078】
以上述べたように本実施の形態によれば、無機層15と平滑化高分子有機層12との密着性が大幅に向上させることができるので、封止能力の高い薄膜リチウム二次電池50を提供することができる。
【0079】
特に、本実施の形態においては、平滑化高分子有機層12を形成する際に、アクリルモノマー6を気化させて下地高分子有機層11上に噴霧して凝集堆積させ、下地高分子有機層11上のモノマーに対して紫外線を照射して硬化させるようにしたことから、平滑なアクリルモノマー層12aを形成した後に硬化させることによって、より平滑な平滑化高分子有機層12を形成することができるという効果がある。
【0080】
図9(a)〜(c)は、本発明に係る封止膜の他の実施の形態を示す断面図であり、以下、上記実施の形態と対応する部分には同一の符号を付しその詳細な説明を省略する。
【0081】
図9(a)に示す封止膜10Aは、上述した封止膜10、すなわち、デバイス部20/無機層15/下地高分子有機層11/平滑化高分子有機層12の上に、アルミナからなる無機層15とポリ尿素(又はポリウレタン)からなる密着性高分子有機層11aを交互に積層させたものである。
【0082】
この場合、下地となる封止膜10を、基板8上のシールすべき面上に設けることにより当該シール面の封止能力が向上し、さらに全体的な封止能力も向上させることができる。
また、本例によれば、デバイス部20上の凹凸部分をアクリル樹脂からなる平滑化高分子有機層12によってある程度埋め込んだ後、成膜対象物に対し膜の付き回りの良い蒸着重合による密着性高分子有機層11aを積層させることから、少ない積層数でデバイス部20上の凹凸部分を完全に埋め込むことができる。
【0083】
一方、図9(b)に示す封止膜10Bは、下地となる封止膜10の上に、アルミナからなる無機層15とアクリル樹脂からなる平滑化高分子有機層12を交互に積層させたものである。
【0084】
この場合も、下地となる封止膜10を、基板8上のシールすべき面上に設けることにより当該シール面の封止効果が向上し、さらに全体的な封止能力も向上させることができる。
【0085】
図9(c)に示す封止膜10Cは、下地となる封止膜10を含めて、アクリル樹脂からなる平滑化高分子有機層12の両側に必ずポリ尿素からなる密着性高分子有機層11aが積層されるように構成されている。
【0086】
そして、ポリ尿素からなる密着性高分子有機層11aの間には、アルミナからなる無機層15が積層されている。
このような構成によれば、有機層と無機層の密着性が非常に高く、しかも封止能力の優れた封止膜10Cが得られる。
【0087】
なお、本発明は上述の実施の形態に限られることなく、種々の変更を行うことができる。
例えば、上記実施の形態においては、アクリル樹脂からなる平滑化高分子有機層を図2に示す構成の成膜装置を用いたが、本発明はこれに限られず、例えばアクリルモノマーの塗布及びUV硬化によって平滑化高分子有機層を形成することもできる。
【0088】
ただし、塗布法では、デバイス部に対して大気中のガスによるダメージを与えるおそれがあること、また平滑化高分子有機層の平滑度を高める観点からは、図2に示す成膜装置を用い、減圧下で、アクリルモノマーの気化、噴霧、凝集の後にUV硬化することがより好ましい。
また、本発明は薄膜リチウム二次電池の封止膜のみならず、例えば、有機EL装置の封止膜にも適用することができる。
【実施例】
【0089】
<実施例>
ガラス基板上に、スパッタリングによって厚さ50nmのアルミナ膜(無機層)を形成し、次に、原料モノマーとして、1,3−ビス(イソシアナートメチル)シクロヘキサンと1,12−ジアミノドデカンを用い、蒸着重合法によって厚さ500nmのポリ尿素膜(下地高分子有機層)をアルミナ膜上に形成した。
【0090】
さらに、アクリルモノマーとしてネオペンチルグリコールジアクリレートを用い、図2に示す装置によってアクリルモノマーの気化による噴霧・凝集並びにUV硬化を行って厚さ3μmのアクリル樹脂膜(平滑化高分子有機層)をポリ尿素膜上に形成し、実施例のサンプルを作成した。
【0091】
<比較例>
ガラス基板上に、スパッタリングによって厚さ50nmのアルミナ膜を形成し、次に、実施例と同一の方法によって、厚さ3μmのアクリル樹脂膜をポリ尿素膜上に形成し、比較例のサンプルを作成した。
【0092】
<参考例>
ガラス基板上に、スパッタリングによって厚さ50nmのアルミナ膜を形成し、次に、実施例と同一の方法によって、厚さ50nmのポリ尿素膜をアルミナ膜上に形成し、参考例のサンプルを作成した。
【0093】
〔評価〕
実施例、比較例及び参考例のサンプルについて、下地の無機層(アルミナ膜)に対する高分子有機層の密着性を碁盤目テープ試験によって評価した。
この場合、碁盤目の数は100個とし、切り傷の方向は直交方向とした。
【0094】
そして、各サンプルの各碁盤目の部分に接着テープを貼り付け、各接着テープの端部をサンプルの面に対して45°の角度で一気に引き剥がし、各碁盤目のアルミナ膜が剥がれたか否かを目視で観察した。その結果を表1に示す。
【0095】
【表1】

【0096】
なお、碁盤目テープ試験の結果は、試験を3回行った平均値を算出したものである。また、表1から理解されるように、参考例のものは、ポリ尿素膜とアルミナ膜との密着性が非常に高く、アルミナ膜は全く剥がれなかった。また、アルミナ膜と基板との密着性も良好であった。
【0097】
一方、比較例のものは、アルミナ膜とアクリル樹脂膜の界面において全て剥離が生じ、アルミナ膜とアクリル樹脂膜との密着性は低いことが確認された。
これに対し、実施例の場合、ポリ尿素膜とアクリル樹脂膜の界面で剥離したものが生じたが、全サンプル数に対して10%以下であった。これは、アルミナ膜とアクリル樹脂膜との間に、蒸着重合法によるポリ尿素膜を介在させることによって、アルミナ膜に対するアクリル樹脂膜の密着性が飛躍的に向上しているものと考えられる。
以上の結果より、本発明の効果を実証することができた。
【符号の説明】
【0098】
10…封止膜
11…下地高分子有機層
12…平滑化高分子有機層
15…無機層
20…デバイス部(封止対象物)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
封止対象物上に形成された無機層と、
前記無機層上に形成された下地高分子有機層と、
前記下地高分子有機層上に形成され、当該封止対象物の凹凸部分を平滑化するための平滑化高分子有機層とを有し、
前記下地高分子有機層が、前記平滑化高分子有機層の原料となるモノマーを当該下地高分子有機層中に拡散させる性質を有する材料からなる封止膜。
【請求項2】
前記無機層の材料がアルミナであり、前記下地高分子有機層の材料がポリ尿素又はポリウレタンであり、前記平滑化高分子有機層の材料がアクリル樹脂である請求項1記載の封止膜。
【請求項3】
請求項2記載の封止膜上に、アルミナからなる無機層と、ポリ尿素又はポリウレタンからなる密着性高分子有機層が積層されている封止膜。
【請求項4】
請求項2記載の封止膜上に、アルミナからなる無機層と、アクリル樹脂からなる平滑化高分子有機層とが積層されている封止膜。
【請求項5】
請求項2記載の封止膜上に、アクリル樹脂からなる平滑化高分子有機層と、当該アクリル樹脂からなる高分子有機層の両側の面に形成されたポリ尿素からなる密着性高分子有機層と、当該密着性高分子有機層上に形成されたアルミナからなる無機層とが積層されている封止膜。
【請求項6】
高分子有機層と無機層とが積層されデバイス部を封止する封止膜を有する電気装置であって、
前記デバイス部上に、請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載の封止膜が設けられている電気装置。
【請求項7】
前記デバイス部が、薄膜リチウム二次電池の電池本体部である請求項6記載の電気装置。
【請求項8】
請求項1記載の封止膜を形成する方法であって、
真空中で異なる原料モノマーを蒸発させて前記封止対象物の無機層上に堆積させ、当該無機層上において当該異なる原料モノマーを重合反応させることにより前記下地高分子有機層を形成する下地高分子有機層形成工程と、
前記平滑化高分子有機層の原料となるモノマーを気化させて前記下地高分子有機層上に噴霧して凝集堆積させ、当該下地高分子有機層上の当該モノマーに対して紫外線を照射して硬化させることにより前記平滑化高分子有機層を形成する平滑化高分子有機層形成工程とを有する封止膜形成方法。
【請求項9】
請求項6記載の電気装置を製造する方法であって、
真空中で異なる原料モノマーを蒸発させて前記デバイス部の無機層上に堆積させ、当該無機層上において当該異なる原料モノマーを重合反応させることにより前記下地高分子有機層を形成する下地高分子有機層形成工程と、
前記平滑化高分子有機層の原料となるモノマーを気化させて前記下地高分子有機層上に噴霧して凝集堆積させ、当該下地高分子有機層上の当該モノマーに対して紫外線を照射して硬化させることにより前記平滑化高分子有機層を形成する平滑化高分子有機層形成工程とを有する工程によって前記封止膜を形成する電気装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−20893(P2013−20893A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−155188(P2011−155188)
【出願日】平成23年7月13日(2011.7.13)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】