説明

射出モールド成形システム用の射出ノズルに取付ける加熱シリンダ

【課題】射出モールド成形機のノズルにおける溶湯温度の管理のためにノズルに取付けられる加熱システムを、余計なスペースをとらず、費用を節減できるように改良することである。
【解決手段】射出モールド成形システム用の噴射ノズルに取付けられる中空加熱シリンダの外側に、細長い加熱カートリッジを螺旋状に巻きつける。この加熱カートリッジは互いに電気的に絶縁された第一および第二の電気的に加熱できる熱導体を有し、それらの熱導体は加熱カートリッジの長手方向の実質的に異なる領域に配置されるように、すなわち、第一の加熱カートリッジは噴射ノズルのマウス領域を加熱するために、また第二の加熱導体は噴射ノズルの軸領域を加熱するために配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は射出モールド成形システムの射出ノズル用の加熱シリンダに関するものである。
【背景技術】
【0002】
本発明が関わる問題の理解を得るために、図面の図1および図2が参照される。図1は模式的に射出モールド成形システムを示している。給送ブッシュを介して連結された射出モールド成形機3から高温の溶湯(すなわち、溶融されたプラスチック材料)が、流路を高温に加熱された分配ブロック2の流路4を通して二つ以上のノズル10へ導かれる。噴射ノズル10はモールド型工具6の噴射元側の部分5Aの受入れ穴8の中に配置されている。噴射ノズルはいわゆるマウス13(すなわちオリフィス)を経てモールド製品を形成するキャビティ7に連結されており、キャビティは通常、工具6の噴射先側の部分5Bに見られる。
【0003】
溶湯に要求される温度と工具の温度とはかなり相違する。例えば、溶湯の処理温度は250゜とされ得るのに対し、工具の温度は50゜とされ得る。この温度差はノズルから、特にノズルと工具との接触点においてかなり大きな熱流を生じることになる。この熱損失はノズルを絶えず加熱することで補償しなければならない。この加熱は、ノズルに取付けることのできる加熱シリンダで行われており、本発明はそれに関するものである。溶湯を過冷却する危険に関して最も重要な点は、マウス13にある。それは、ノズルの直径が次第に小さくなっていること、また実際にノズルと工具とが密接に接触していることで、周囲のノズル材料の熱吸収容量が小さいからである。
【0004】
これらの状態が要求することは、マウス領域12におけるノズルの加熱が軸部11におけるよりも大きくなければならないことである。マウス領域12で求められる熱供給は、作動状態、溶湯および工具の材料、およびマウス13の形状にも大きく影響される。さらに、熱供給は効果的に制御されねばならない。それは、いくつかの溶湯の処理温度範囲は非常に狭いからである。さらに、例えば工具が冷間状態にあれば、非常に多量の熱をマウス領域12に供給しなければならない。
【0005】
ノズルは、例えば図2に示すように2個の別個の加熱シリンダ20A,20Bを、特に1個はマウス領域12に、1個は軸部11に備え得ることが既に知られている。2個の加熱シリンダの熱導体はそれぞれ別々に制御および(または)調整できる。この加熱シリンダは、内部に熱導体が埋め込まれた加熱カートリッジを収容する螺旋溝を備えた中空の支持シリンダを基本的に含む。マウス領域12用の加熱シリンダの支持シリンダにおける螺旋溝のピッチは、一般に軸部11用の支持シリンダにおける螺旋溝のピッチよりも小さい。加熱シリンダの外面には金属製保護ジャケット23が見られる。図2で、ノズルの図示に加えて、工具の受入れ穴8も示されている。
【0006】
この既知のシステムの一つの欠点は、2個の別々の加熱シリンダ20A,20Bが必要なことである。他の欠点は、マウス領域用の加熱シリンダ20Aの電気接続34がマウスへ向かう前方の離れた位置にあり、受入れ穴8内の工具の噴射先側の部分5Aに受入れられるために相応の長手方向溝9(図2)を備えなければならない。この必然性は、費用が加算されることを別にしても、いくつかの工具ではスペースの問題を生じる。さらに、ノズルを工具の受入れ穴8に挿入することで電気接続34を損傷してしまう危険が大きい。図2で、符号35Aは加熱シリンダ20B用の温度センサーに対する電気接続を示す。加熱シリンダ20A用の同様の温度センサーは図示されていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、射出モールド成形機のノズル用の改良された加熱システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のシステムは、現在のシステムで知られている2個の別々な加熱シリンダに代えて1個の加熱シリンダのみ使用する。本発明に寄れば、細長い加熱カートリッジが中空の加熱シリンダの外面上に螺旋状に巻かれる。この加熱カートリッジは2個の電気的に加熱できる熱導体を収容し、それらの熱導体は互いに電気的に絶縁され、加熱カートリッジの長手方向の基本的に異なる領域に配置される。一方の熱導体はノズルのマウス(オリフィス)領域を加熱するために配置され、他方はノズルの軸領域を過熱するために配置される。従って、従来技術のマウス領域にて加熱シリンダのシリンダ部材から半径方向に突出していた電気接続34はなくなる。その結果、工具のノズル受入れ穴8内でのこの接続用の受入れ溝9は省略できる。さらに、システムの配線溝に要求されるスペースは減少する。それは、2個の加熱接続用に1本のISOケーブルしか必要とされないからだ。本発明によれば、かなりの費用節減が達成される。
【0009】
本発明は図目を参照して詳細に説明される。
【実施例1】
【0010】
本発明の加熱カートリッジの典型例理が図4に示される。このカートリッジ30は2個の加熱導体32,33を含み、それらは螺旋状の加熱コイルを形成するように巻かれている。この加熱コイルは金属スリーブ31に受入れられ、その内部で通常、の電気絶縁化合物40に埋め込まれる。加熱コイル32はスリーブ31の前側(工具側)部分B1にあり、その加熱コイル32から電気的に絶縁された加熱コイル33はスリーブ31の残された部分B2にある。2個の加熱コイルの電気接続34,35は加熱コイル32と反対側の端部にて金属スリーブ31の外側に担持されている。
【0011】
加熱カートリッジ30は直径に比べて長く、図4では容易に明白とならないが、図4は単に模式的に加熱カートリッジの構造を示している。実際に、カートリッジ30は長い熱可塑的に変形するロッドまたはワイヤーとされ、図5に示される例示シリンダ21のような中空支持シリンダ上に巻かれている。巻かれる加熱カートリッジを説明するために、支持シリンダ21の外面には螺旋溝22が備えられており、そのマウス側領域B1では軸領域B2よりもかなり小さいピッチとされている。加熱コイル32,33は支持シリンダに密接しており、マウス側領域B1で互いに接近して位置する螺旋溝22の螺条は、加熱コイル32で実質的に受入れられ、またそれより大きなピッチで備えられている軸領域B2での螺旋溝22の螺条は、加熱コイル33で実質的に受入れられる。2個の加熱コイルの電気接続34,35は、A(図5)で加熱シリンダ20の外部に担持される。図5に示されていないが図3に示されるように、加熱カートリッジ30を備えた支持シリンダ21の半径方向外側には保護ジャケット23が配置されている。
【0012】
図3は本発明の中空加熱シリンダ20が取付けられた噴射ノズル100を示している。完全な噴射ノズル100は、図2の既知の噴射ノズル10が有するような半径方向に突出するいかなる部分もその全長に沿って有さないことが見られる。さらに、工具の示された受入れ穴8は、従来技術で必要とされるような溝9(図2参照)を必要としないことが見られる。2個の加熱コイルの電気接続34,35は工具から離れたノズル端部に位置し、受入れ穴8の外側にある。マウス領域および軸領域における温度センサー用の細い接続線はそれぞれ保護ジャケット23の小さな長手方向溝24,25内に配置され、これにより半径方には拡張箇所がまったくない。
【0013】
従来技術のように、加熱はノズルのマウス領域および軸領域で別々に制御または調整される。マウス側領域B1における支持シリンダ21上の加熱カートリッジ30の巻き線は太いことが好ましいが、本発明で要求することではない。しかしながら、そのほうが有利である。それは、両方の領域で似たようなピッチが使用されると、加熱コイル32の電流容量は加熱コイル33のそれよりも大きくしなければならなくなり、この結果として両方の領域の加熱コイルを電気的に異なるように寸法決めしなければならなくなるからだ。
【0014】
本願発明の特徴は以下のとおりである。
(1)射出モールド成形システム用の噴射ノズルに取付けられる中空加熱シリンダであって、外側に螺旋状に巻かれた細長い加熱カートリッジを有し、前記加熱カートリッジは第一および第二の電気的に加熱できる熱導体を有し、前記熱導体は互いに電気的に絶縁されており、前記加熱カートリッジの長手方向の実質的に異なる領域に配置され、前記第一の加熱カートリッジは噴射ノズルのマウス領域を加熱するために配置され、前記第二の加熱導体は噴射ノズルの軸領域を加熱するために配置される中空加熱シリンダ。
(2)前記第一および第二の熱導体が、前記熱導体と反対側の加熱カートリッジの端部に位置する電気接続を有している(1)に記載された中空加熱シリンダ。
(3)前記熱導体が螺旋状の加熱コイルを含む(1)に記載された中空加熱シリンダ。
(4)前記加熱カートリッジが前記加熱シリンダの外面上の螺旋溝内に位置される(1)に記載された加熱シリンダ。
(5)前記第一の熱導体に隣接する領域の前記螺旋溝が残りの部分よりも小さなピッチを有する(1)に記載された加熱シリンダ。
(6)前記加熱シリンダを取囲む外側の保護ジャケットをさらに含む(1)に記載された加熱シリンダ。
(7)ノズルのマウス領域および軸領域に温度センサーを配置するために前記保護ジャケットの長手溝をさらに含む(6)に記載された加熱シリンダ。
(8)少なくとも一つのモールド成形工具および少なくとも一つの噴射ノズルを含む射出モールド成形システムであって、前記噴射ノズル上に配置された中空加熱シリンダを含み、前記中空加熱シリンダは本体部材と、前記本体部材の回りに螺旋状に巻かれた細長い加熱カートリッジとを含み、前記加熱カートリッジの内部には第一の熱導体および第二の熱導体が配置され、前記第一および第二の熱導体は前記本体部材の長手方向の異なる領域に配置される射出モールド成形システム。
(9)前記本体部材が外面に螺旋状の溝を有し、前記細長い加熱カートリッジが前記螺旋溝に配置されている(8)に記載された射出モールド成形システム。
(10)前記螺旋溝が前記第一の熱導体を配置する第一のピッチと、前記第二の熱導体を配置する前記第一のピッチと異なる第二のピッチとを有する(9)に記載された射出モールド成形システム。
(11)前記第一および第二の熱導体のそれぞれが螺旋状の加熱コイルを含む(9)に記載された射出モールド成形システム。
(12)前記中空加熱シリンダの上に配置されたジャケット部材をさらに含む(8)に記載された射出モールド成形システム。
(13)前記ジャケット部材に配置された温度センサー部材をさらに含む(12)に記載された射出モールド成形システム。
【0015】
本発明のさまざまな実施例が示され、説明されたが、多くの変形家および代替実施例が当業者に考えられるであろう。従って、本発明は特許請求の範囲によってのみ制限されることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】従来技術の射出モールド成形システムの概略図を示す。
【図2】従来技術の2個の別々の加熱シリンダを有する噴射ノズルを示す。
【図3】本発明の加熱シリンダの典型例を備えた噴射ノズルを示す。
【図4】本発明の加熱シリンダ用の加熱カートリッジの典型例を示す。
【図5】本発明の加熱シリンダ用の支持シリンダの典型例を示す。
【符号の説明】
【0017】
2 分配ブロック
3 射出モールド成形機
4 流路
5A 噴射元側の部分
5B 噴射先側の部分
6 モールド型工具
7 キャビティ
8 受入れ穴
9 受入れ溝
10 噴射ノズル
11 軸部
12 マウス領域
13 マウス
20A,20B 加熱シリンダ
21 シリンダ
22 螺旋溝
23 保護ジャケット
24,25 長手方向溝
30 加熱カートリッジ
31 金属スリーブ
32,33 加熱導体
34,35 電気接続
40 電気絶縁化合物
100 噴射ノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
射出モールド成形システム用の噴射ノズルに取付けられる1個の中空の加熱シリンダであって、
外側に螺旋状に巻かれた細長い加熱カートリッジを有し、前記加熱カートリッジは電気的に加熱できる第一の加熱導体および電気的に加熱できる第二の加熱導体を有し、前記第一および第二の加熱導体は互いに電気的に絶縁されて、前記加熱シリンダの長手方向の実質的に異なる領域に配置され、前記第一の加熱導体は噴射ノズルのマウス領域のみを加熱するために配置され、前記第二の加熱導体は噴射ノズルの軸領域のみを加熱するために配置され、
前記第一の領域の前記加熱カートリッジの巻線のピッチは、前記第二の領域の前記加熱カートリッジの巻線のピッチよりも大きくされて、前記第一の加熱導体の電流容量が前記第二の加熱導体の電流容量と等しくなっている加熱シリンダ。
【請求項2】
前記第一の加熱シリンダは、前記第二の加熱シリンダに対して側方に間隔をおいて配置されている請求項1に記載された加熱シリンダ。
【請求項3】
少なくとも一つのモールド成形工具および少なくとも一つの噴射ノズルを含む射出モールド成形システムであって、
前記噴射ノズル上に配置された1個の中空の加熱シリンダを含み、前記加熱シリンダは本体部材と、前記本体部材の回りに螺旋状に巻かれた細長い加熱カートリッジとを含み、前記加熱カートリッジの内部には第一の加熱導体および別個の第二の加熱導体が配置され、前記第一の加熱導体は前記本体部材の第一の領域のみを加熱するために配置され、かつ、前記第二の加熱導体は前記本体部材の長手方向の異なる第二の領域のみを加熱するために前記第二の領域に配置され、
前記第一の領域の前記加熱カートリッジの巻線のピッチは、前記第二の領域の前記加熱カートリッジの巻線のピッチよりも大きくされて、前記第一の加熱導体の電流容量が前記第二の加熱導体の電流容量と等しくなっている射出モールド成形システム。
【請求項4】
前記第一の加熱シリンダは、前記第二の加熱シリンダに対して側方に間隔をおいて配置されている請求項3に記載された射出モールド成形システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−196974(P2012−196974A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−162577(P2012−162577)
【出願日】平成24年7月23日(2012.7.23)
【分割の表示】特願2006−240818(P2006−240818)の分割
【原出願日】平成18年8月9日(2006.8.9)
【出願人】(503148878)インコー コーポレイション (4)
【Fターム(参考)】