説明

射出成形品の二次加工方法

【構成】 射出成形品の二次加工方法では、射出成形されたリブ付管用枝付管10の支管12側方のリブ15間にゴム輪19を嵌めてから、枝付管10を油槽21に浸漬して支管12を加熱し拡径する。
【効果】 枝付管10の支管12側方のリブ15間など射出成形に固有に起因する表面状態部分をゴム輪19により断熱することにより、枝付管10を加熱してもその部分の温度上昇が抑えられるため、加熱による外観不良の発生は防がれる。また、二次加工する支管12だけでなくその回りの枝付管10も加熱しても、このような外観不良を防止できるため、汎用性のある加熱設備を用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、射出成形品の二次加工方法に関し、特にたとえば、射出成形品を加熱して二次加工する、射出成形品の二次加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の射出成形品の二次加工方法に用いられる加熱装置の一例が、特許文献1に開示されている。この特許文献1の加熱装置では、赤外線ヒータを配置した加熱炉に合成樹脂管の端部を搬入し加熱して、合成樹脂管の二次加工を行っている。
【特許文献1】特開平7−256653号公報[B29C 35/02、B29C 57/00、B29L 23:00]
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1の従来技術は拡径加工する樹脂管端部だけを加熱する専用品であり、製造コストが嵩んでしまう。
【0004】
これに対して、汎用性のある大きな加熱設備を用いて射出成形品を加熱すれば、製造の低コスト化が図られる。しかし、この場合、射出成形品の二次加工部分だけでなく、その周囲も加熱される。このため、加工部分周囲の加熱部分に射出成形に固有に起因する表面状態部分が含まれていると、外観不良が生じてしまう。すなわち、射出成形品では、樹脂の表層すべりが金型に接する成形品の表面付近と内面部との間に生じ、あるいはウエルド、フローラインやゲート周囲のフラッシュ状の肌荒れなどが生じることがある。これらは射出成形に固有に起因する表面状態部分であり、この部分を加熱すると残留応力などにより製品の表層のめくれ、ウエルドの分離または肌荒れの悪化など外観不良が発生してしまう。
【0005】
それゆえに、この発明の主たる目的は、二次加工製品の外観を損なわず、しかも簡単かつ安価に二次加工できる、射出成形品の二次加工方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の発明は、射出成形品を加熱して二次加工する、射出成形品の二次加工方法において、射出成形に固有に起因する表面状態部分を断熱材で被覆した状態で、射出成形品を加熱するようにしたことを特徴とする、射出成形品の二次加工方法である。
【0007】
請求項1の発明では、射出成形品には樹脂の表層すべり、ウエルドおよびゲート周囲のフラッシュ状の肌荒れなどが発生しやすく、この部分を加熱すると表層のめくれやウエルドの分離、肌荒れの悪化など外観不良が生じるため、このような射出成形に固有に起因する表面状態部分を断熱材で被覆した状態で射出成形品を加熱することにより、被覆した部分の温度上昇を抑えて二次加工による外観不良を防止する。
【0008】
また、二次加工する部分だけでなく、この加工部分周囲にある射出成形に固有に起因する表面状態部分も含めて射出成形品を加熱しても、固有部分を断熱材で被覆することにより外観不良の発生が抑制される。このため、加工部分だけを加熱する専用の加熱設備を用いる必要がなく、射出成形品の加工部分だけを加熱する場合、ならびに射出成形品の加工部分およびその周囲を加熱する場合のいずれの場合も汎用性のある加熱設備を利用することができる。
【0009】
請求項2の発明は、射出成形品がリブ付管またはリブ付管継手であるとき、断熱材をリブ間に嵌めるようにした、請求項1記載の射出成形品の二次加工方法である。
【0010】
請求項2の発明では、リブ付管の結合に用いられるゴム輪はリブ間に嵌めて使用されるため、たとえばこれを表面にリブが形成される射出成形品の断熱材として用いれば、射出成形に固有に起因する表面状態部分であるリブ間に断熱材を簡単に嵌められる。このため、表面にリブが形成される射出成形品に対して専用の断熱材を用意する必要がなく、製造における低コスト化が図られる。
【0011】
また、ゴム輪は射出成形品を締め付けて固定されるのでなくリブ面の摩擦力で固定されるため、ゴム輪を簡単に脱着でき、しかもゴム輪を装着した射出成形品を加熱しても射出成形品はゴム輪により変形されない。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、射出成形に固有に起因する表面状態部分を断熱材で被覆した状態で、射出成形品を加熱することにより、二次加工のための加熱による外観不良を防止し、しかも簡単かつ安価に二次加工することができる。
【0013】
この発明の上述の目的,その他の目的,特徴および利点は、図面を参照して行う以下の実施例の詳細な説明から一層明らかとなろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
この発明の一実施例である射出成形品の二次加工方法では、図1(A)および図1(B)に示すリブ付管用枝付管10の支管12をスリーブ拡径する。
【0015】
まず、リブ付管用枝付管10を原材料として準備する。このリブ付管用枝付管10は硬質塩化ビニルなどの合成樹脂を射出成形して形成され、両端が拡径受口である本管14および本管14の側壁に接続する本管14より小径の支管12を含む。この本管14および支管12の表面にリブが形成される。
【0016】
そして、枝付管10における射出成形に固有に起因する表面状態部分に断熱材を被覆する。すなわち、枝付管10の射出成形時リブ15によりリブ15間の樹脂の流動性は悪く、リブ15間の管壁の表層、中間層および下層では樹脂の流れる方向が異なる。これは残留応力として射出成形された枝付管10に生じる。このため、枝付管10のリブ15間の管壁の表層が中間層に引っ張られることによる、いわゆる樹脂の表層すべりが発生する。これを二次加工のために加熱すると、管壁の表層がめくれたり肌荒れが生じたりして外観不良となる。このような樹脂の表層すべりは射出成形に固有に起因する表面状態部分であり、この他にも、射出成形で樹脂を流入するゲート17周囲で発生するフラッシュ状の肌荒れ、樹脂のぶつかる場所に発生するウェルドラインなどがある。これらを加熱すると残留応力により肌荒れの悪化やウェルドラインの分離などが生じ、射出成形品の外観が損なわれてしまう。このため、二次加工のために加熱される範囲内で外観不良が生じる恐れがある枝付管10の支管12側方の本管14表面に形成されたリブ15間に断熱材を嵌める。断熱材にはリブ付管同士を連結する際に用いるSBR(スチレン・ブタジエンゴム)製ゴム輪19を略半分程度に切断し、枝付管10との接触面を平滑に加工したものを用いる。ゴム輪19はリブ15に圧縮されて摩擦力により、リブ15間に固定される。
【0017】
次に、図2に示すように、この本管14の両端から本管14の拡径受口と同径の金属製の支持管16をそれぞれ挿入して、支管12を拡径する際に本管14が変形したり、割れたりしないように本管14を保護する。
【0018】
そして、図3に示すように支管12を下に向けて、枝付管10の半分程度を、たとえば塩化ビニル樹脂の熱変形温度100〜150度に温めた油槽21に1〜2分程度浸漬させて加熱する。この油槽21の中に台23を予め入れておき、枝付管10をオイルに浸漬する高さを調整する。
【0019】
加熱後、リブ15間からゴム輪19を取り外して、支管12内にたとえば100〜150度程度まで加熱した図4に示す拡径用金型18を挿入する。拡径用金型18は、支管12の内径と同径または小径の円柱形状の小径部20、本管14と同径の円柱形状の大径部24、および小径部20と大径部24とを繋ぐ拡径部22を備える。この大径部24の高さH1は枝付管10の支管12の高さH2より大きい。この拡径用金型18の小径部20を枝付管10の支管12内に挿入し、さらに拡径部22を圧入して支管12の径を拡径させてから、大径部24まで挿入する。
【0020】
このとき、拡径用金型18の圧入により、図5に示すように、本管14の側壁上部における支管12の基部12aの周囲は本管14の内側へ落ち込みたるんでしまい、この部分26の本管14が縮径してしまう。このため、図6に示すようにたるみ整形用治具28を配置して、本管14のたるみ部分26を本管14の内側から外側に向かって押し上げる。このたるみ整形用治具28は、図7に示すように、角柱形状であり、その上面は円頂形状、つまり本管14の管軸方向および管軸直交方向に円弧形状である。
【0021】
本管14を整形すると、図8に示すように、本管14の側壁のたるんだ部分26は少し拡径して、本管14の有効断面積は減少せずに維持される。
【0022】
このように、樹脂の表層すべりおよびウエルドなど射出成形に固有に起因する表面状態部分をゴム輪19で予め被覆してから射出成形品を加熱することにより、被覆した部分の温度上昇が抑えられて加熱による表層のめくれや肌荒れの悪化、ウエルドの分離など外観不良は防がれる。
【0023】
また、射出成形に固有に起因する表面状態部分を断熱材で被覆することにより外観不良が抑制されるため、射出成形品の加工部分だけを加熱する場合、ならびに射出成形品の加工部分およびその周囲を加熱する場合のいずれの場合も既存の加熱用設備をそのまま利用して射出成形品を加熱することができ設備投資を抑えられる。
【0024】
さらに、リブ付管の結合に用いられるゴム輪19を断熱材として加工し、これを枝付管10のリブ15とリブ15との間に嵌めることにより、専用の断熱材を用意する必要がなく、製造における低コスト化が図られる。
【0025】
さらに、ゴム輪19はリブ15による摩擦力で固定されるため、簡単にゴム輪19を脱着でき、しかも枝付管10はゴム輪19により力を加えられず、ゴム輪19を装着した枝付管10を加熱しても枝付管10はゴム輪19により変形されない。
【0026】
なお、断熱材としてリブ付管の結合用のゴム輪19を用いたが、断熱材は油や加熱温度でも溶けず、断熱効果があるものであればよく、木材、粘土、樹脂、合成ゴム、グラスウールなどを用いた断熱材を形成することもできる。
【0027】
また、この断熱材はリブ15による摩擦力により枝付管10に固定されたが、粘着材など枝付管10に力を加えない方法で断熱材を固定することもできる。
【0028】
この発明の他の実施例である射出成形品の二次加工方法では、図9(A)および図9(B)に示すマンホール30の立上り部32の上側開口部をゴム輪受口に二次加工する。
【0029】
まず、立上り部32の上側開口が筒状のマンホール30を準備する。マンホール30は硬質塩化ビニルなど樹脂製の小型マンホールであり、立上り部32および流出部34を含み、流出部34は立上り部32の側壁から立上って開口する。この立上り部32および流出部34が射出成形により一体成形されたマンホール30には、立上り部32の加工部分近傍(この実施例では、流出部34の裏側で立上り部32上部の加工部分の下側)にゲート36が配置されるものがある。この場合、ゲート36周囲にフラッシュ状の肌荒れ38などが発生しゲート36周囲が肌荒れしていると、その肌荒れは二次加工のための加熱により悪化してしまうため、ゲート36周囲に図10に示す断熱材40を取り付ける。
【0030】
断熱材40にはゴムやグラスウールなどの矩形状の可撓性断熱板42を用いる。断熱板42の中心に出っ張ったゲート36を収めるための窪み44が形成される。断熱板42の両端に伸縮性のあるバンド46などが接続され、バンド46の他端に固定用のベルクロ48やホックなどが取り付けられる。
【0031】
図11に示すように、この断熱板42の窪み44を立上り部32のゲート36に当て、バンド46を立上り部32の周囲に巻き、ベルクロ48で断熱材40を立上り部32に固定して、断熱材40をゲート36周囲に密着させる。そして、立上り部32を加熱し、図12に示すようにスリーブ加工などによりゴム輪受口50に加工する。それから、断熱材40を立上り部32から外す。
【0032】
このように、立上り部32のゲート36周囲に断熱材40を巻いた状態で立上り部32を加熱すると、ゲート36周囲の温度上昇は抑えられるため、ゲート36周囲が肌荒れしていても、その肌荒れは二次加工のための加熱により悪化しない。
【0033】
この発明のさらに別の実施例である射出成形品の二次加工方法では、図13に示す副管用または取付管用支管類、たとえば副管用90度支管52の支管部54の上部に受口を形成するための二次加工をする。
【0034】
まず、支管部54の上部が筒状の副管用90度支管52を用意する。この副管用90度支管52は硬質塩化ビニル樹脂などで形成され、たとえば、本管(図示せず)と副管(図示せず)とを接続するものであり、本管の表面に沿うサドル部56および副管と接続する支管部54を有す。支管部54は円筒形状で、サドル部56から立上り開口する。このサドル部56および支管部54が射出成形により一体成形され、加工部分近傍(この実施例では、支管部54の上部の加工部分に対して支管部の54の下部)にゲート36が配置される場合、ゲート36周囲に図14に示す断熱材58を装着する。
【0035】
断熱材58は断熱部60および固定部62を備える。図14および図15に示すように、断熱部60は略円筒形状で、その内径は支管部54の外径と同じまたは少し大きめであり、支管部54を囲むように固定部62から立上る。断熱部60の長さは支管部54の長さより短く、支管部54のゲート36位置を覆う長さである。固定部62はサドル部56の表面を覆う形状であり、木材や金属など二次加工の加熱により変形しないもので形成される。固定部62には断熱部60の位置を挟んで取り付紐64などが取り付けられる。
【0036】
図15に示すように、断熱部60の中に支管部54を挿入して、固定部62をサドル部56に沿わせ、取り付紐64を結んで断熱材58を副管用90度支管52に固定する。このとき、断熱部60は支管部54の表面に密着して支管部54のゲート36周囲を覆う。そして、支管部54を加熱し、図16に示すようにスリーブ加工などによりゴム輪受口50に加工する。それから、断熱材58を支管部54から外す。
【0037】
このように、支管部54のゲート36周囲に断熱材58を密着させて支管部54を加熱すると、ゲート36周囲の温度上昇は抑えられるため、二次加工のための加熱によるゲート36周囲の外観不良の発生が抑えられる。
【0038】
なお、副管用90度支管52の支管部54をゴム輪受口50に加工したが、支管部54の受口形状に拘らず、図17(A)に示すようにブロー加工などにより球体受口66に加工することもできるし、図17(B)に示すようにスリーブ加工により他の部品を接着するための拡径受口68に加工することもできる。
【0039】
なお、上述の実施例では、特に図3に示すように、特定表面部分を断熱材19で被覆した後、二次加工が必要な支管12を含んで、リブ付管用枝付管10の略半分を加熱するようにした。しかしながら、射出成形品を加熱するには、二次加工に必要な該当部分だけ加熱することも考えられるし、さらには特に該当部分が2箇所以上あるときなど、射出成形品の全体を加熱するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】(A)はこの発明の一実施例の射出成形品の二次加工方法に用いられるゴム輪をリブ付管用枝付管に装着した状態を示す側面の平面図であり、(B)は(A)の上面の平面図である。
【図2】枝付管の両端部に支持管を挿入した状態を示す断面図である。
【図3】支管および枝付管を油槽に浸漬させた状態を示す断面図である。
【図4】枝付管の支管内に拡径用金型を挿入した状態を示す断面図である。
【図5】枝付管の支管を拡径した状態を示す断面図である。
【図6】枝付管のたるみ部分をたるみ整形用治具で整形した状態を示す断面図である。
【図7】たるみ整形用治具を示す斜視図である。
【図8】たるみ部分が整形された枝付管を示す断面図である。
【図9】(A)はこの発明の他の実施例の射出成形品の二次加工方法に用いられるマンホールの前方斜視図であり、(B)はマンホールの後方斜視図である。
【図10】断熱材を示す平面図である。
【図11】マンホールの立上り部に断熱材を取り付けた状態を示す後方斜視図である。
【図12】マンホールの立上り部をゴム輪受口に二次加工した状態を示す後方斜視図である。
【図13】この発明のさらに別の実施例の射出成形品の二次加工方法に用いられる副管用90度支管の斜視図である。
【図14】断熱材を示す斜視図である。
【図15】断熱材を副管用90度支管の支管部に取り付けた状態を示す斜視図である。
【図16】副管用90度支管の支管部をゴム輪受口に二次加工した状態を示す平面図である。
【図17】(A)は副管用90度支管の支管部を球体受口に二次加工した状態を示す平面図であり、 (B)は副管用90度支管の支管部を拡径受口に二次加工した状態を示す平面図である。
【符号の説明】
【0041】
10…リブ付管用枝付管
15…リブ
19…ゴム輪
30…マンホール
40、58…断熱材
52…副管用90度支管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
射出成形品を加熱して二次加工する、射出成形品の二次加工方法において、
射出成形に固有に起因する表面状態部分を断熱材で被覆した状態で、前記射出成形品を加熱するようにしたことを特徴とする、射出成形品の二次加工方法。
【請求項2】
前記射出成形品がリブ付管またはリブ付管継手であるとき、前記断熱材をリブ間に嵌めるようにした、請求項1記載の射出成形品の二次加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2006−82306(P2006−82306A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−267694(P2004−267694)
【出願日】平成16年9月15日(2004.9.15)
【出願人】(505142964)クボタシーアイ株式会社 (192)
【Fターム(参考)】