説明

射出成形方法および射出成形装置

【課題】成形品が深絞り形状の場合であっても、転写フィルムの破れやしわの発生を防止することができる射出成形方法を提供する。
【解決手段】第1金型の一例である可動金型10と第2金型の一例である固定金型11の型締め時に、成形空間(キャビティ)のコーナー部における転写フィルム12の温度を、成形空間の隣接するコーナー部間における転写フィルム12の成形空間の外側での温度よりも低くする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形により成形品を得ると同時に、金型内に配置された転写フィルムの転写層をその成形品の表面に転写させる射出成形方法および射出成形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
射出成形により成形品を得ると同時に、その成形品の表面に転写層を形成することにより、成形品の表面を加飾したり、成形品の表面に所望の機能を付与する箔転写同時射出成形プロセスが従来より知られている。具体的には、例えば色、絵柄、模様等の意匠が印刷された意匠膜を有する転写層、あるいは、例えば抗菌、シールド効果、指紋レスなどの機能を持つ機能膜を有する転写層が基材上に積層された構造の転写フィルム(箔)を金型のキャビティ(成形空間)に配置して、キャビティに樹脂を射出注入した後、型開きすることで、基材から転写フィルムを剥離して、射出成形された成形品の表面に転写させる。
【0003】
このような箔転写同時射出成形プロセスを実行する射出成形装置において、立ち上がりの深い成形品を得る場合には、転写フィルムを金型のキャビティの内壁に沿い易くする工夫が必要となる。そこで、射出成形前に転写フィルムを予備加熱する方法が従来より提案されている。
【0004】
図8は特許文献1に記載された従来の射出成形装置を示す図である。
【0005】
この従来の射出成形装置は、キャビティ形成面101に臨む射出口102を有する雄型103と、該雄型103と対向的に位置する雌型104と、基体フィルム上に転写層を有する長尺の転写箔105を一ピッチ毎に送る箔送り手段106とを備えており、箔転写同時射出成形プロセスにおいて、雄型103と雌型104との間に一ピッチ分の転写箔105を送り込み、型閉めをした後、射出口102から溶融樹脂をキャビティ内に射出し、その冷却を待って型開きを行い、雄型103のキャビティ形成面101に付着した成形品110から基体フィルムを剥離することにより、成形品110の表面に転写層が転写された射出成形同時絵付け品を得るものである。
【0006】
また、この従来の射出成形装置は、雄型103と雌型104との間に出入可能なアーム107の先端に成形品取り出し機構108と加熱機構109とを背向的に有する加熱取り出し兼用手段を備えており、型開きの際には、型内にアーム107を導き、雄型103側で成形品110を把持すると共に雌型104側で転写箔105を加熱し、型締めの際には型外にアーム107を出して、成形品取り出し機構108が把持した成形品110を取り外す構成となっている。
【0007】
このように、この従来の射出成形装置は、成形品取り出し機構108と加熱機構109とを背向的に有する加熱取り出し兼用手段を備え、型開きの際に、成形品取り出し機構108で成形品110を把持すると共に、加熱機構109で転写箔105を加熱することにより、金型が開く僅かな時間と空間を利用して、予備加熱を行う構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平1−26420号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記した従来の射出成形装置の構成では、型内に配置された転写フィルムを均一に加熱している。そのため、型締め圧力により転写フィルムを引き伸ばしながら金型の成形空間(キャビティ)に引き込む構成の場合には、転写フィルムが受ける引っ張り応力に起因して、転写フィルムに破れやしわが発生するおそれがある。さらに、型内に配置された転写フィルムを均一に加熱しているため、型内に配置された転写フィルムの厚みが、成形品の表面に転写される部分も含めて均一に薄くなる。そのため、転写層が意匠膜を有する場合には、意匠膜に印刷されている色や絵柄、模様等が薄くなって所望の意匠で成形品を加飾できないおそれがある。また、転写層が機能膜を有する場合には、所望の機能を成形品の表面に付与できないおそれがある。これらの問題は、特に成形品が深絞り形状の場合に顕著に表れる。
【0010】
図9は従来の射出成形装置の型締め途中の状態を説明するための側面断面図である。この射出成形装置では、可動金型111と固定金型112との間に転写フィルム113が配置され、箔押さえプレート114と固定金型112とで転写フィルム113の一部が挟み込まれて、転写フィルム113が固定金型112に拘束された後、型内に配置された転写フィルム113が均一に加熱される。その後、可動金型111が型閉め動作を開始し、可動金型111の凸形状のキャビティ形成面111aが転写フィルム113に接触して、型締め圧力により、転写フィルム113は引き伸ばされながら、固定金型112の凹形状のキャビティ形成面112a内に引き込まれる。
【0011】
図10は従来の射出成形装置における転写フィルムの型締め途中の状態を説明するための平面図である。図10に示すように、型内に配置された転写フィルム113が均一に加熱された場合、型締め時には、転写フィルム113に作用する引っ張り応力のうち、凹形状のキャビティ形成面112aのコーナー部115に引き込まれる部分に作用する引っ張り応力が、そのコーナー部115以外の箇所に引き込まれる部分に作用する引っ張り応力116よりも小さくなる。したがって、凹形状のキャビティ形成面112aのコーナー部115以外の箇所に引き込まれる部分が主に引き伸ばされるため、コーナー部115に引き込まれる部分には圧縮応力117が生じ、それにより、しわ118が発生する。特に、立ち上がりの深い成形品の場合、凹形状のキャビティ形成面112a内に引き込まれる転写フィルムの量が多くなるため、しわの発生する範囲が広がり、かつ、しわの量が多くなる。
【0012】
さらに、型締め時には、可動金型111の凸形状のキャビティ形成面111aの底面の角部119(図8を参照)に応力が集中するため、そこにおいて転写フィルム113が伸び性能以上に伸ばされて、転写フィルム113の伸びの限界による破れが発生する。特に、立ち上がりの深い成形品の場合、凸形状のキャビティ形成面111aの底面の角部119に大きな引っ張り応力が発生するので、破れやすくなる。
【0013】
本発明は、上記従来の問題を解決するもので、成形品が深絞り形状の場合であっても、転写フィルムの破れやしわの発生を防止するとともに、成形品の表面に所望の意匠または機能を付与することが可能となる射出成形方法および射出成形装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本発明の射出成形方法は、第1金型と第2金型との間に転写フィルムを配置し、前記第1金型と前記第2金型とを型締めして形成した成形空間内に樹脂を注入した後、型開きすることにより、成形品を得ると同時に、その成形品の表面に前記転写フィルムの転写層を転写する射出成形方法において、前記第1金型と前記第2金型の型締め時に、前記成形空間のコーナー部における前記転写フィルムの温度を、前記成形空間の隣接するコーナー部間における前記転写フィルムの前記成形空間の外側での温度よりも低くすることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の射出成形方法において、前記成形空間のコーナー部における前記転写フィルムの温度を、前記第1金型の凸形状のキャビティ形成面の側面のコーナー部および底面の角部と前記転写フィルムとを接触させて制御してもよい。
【0016】
また、本発明の射出成形方法において、前記成形空間の隣接するコーナー部間における前記転写フィルムの前記成形空間の外側での温度を、前記第2金型の凹形状のキャビティ形成面の周囲の表面と前記転写フィルムとを接触させて制御してもよい。
【0017】
また、本発明の射出成形方法において、前記転写フィルムに第1方向の張力を与えて前記第1金型と前記第2金型との間に配置し、前記第1方向に交差する第2方向の両端において前記転写フィルムを拘束した後、前記第1方向において前記転写フィルムに作用している張力を解放し、成形品を得た後に、その張力を復帰させてもよい。
【0018】
また、上記目的を達成するために、本発明の射出成形装置は、第1金型と第2金型との間に転写フィルムを配置し、前記第1金型と前記第2金型とを型締めして形成した成形空間内に樹脂を注入した後、型開きすることにより、成形品を得ると同時に、その成形品の表面に前記転写フィルムの転写層を転写する射出成形装置において、前記成形空間のコーナー部における前記転写フィルムの温度を、前記成形空間の隣接するコーナー部間における前記転写フィルムの前記成形空間の外側での温度よりも低くするための温度制御手段を、前記第1金型および前記第2金型に設けたことを特徴とする。
【0019】
また、本発明の射出成形装置において、前記第1金型に設けた温度制御手段は、前記第1金型の凸形状のキャビティ形成面の側面のコーナー部および底面の角部の温度を制御してもよい。
【0020】
また、本発明の射出成形装置において、前記第2金型に設けた温度制御手段は、前記第2金型の凹形状のキャビティ形成面の周囲の温度を制御してもよい。
【0021】
また、本発明の射出成形装置において、前記転写フィルムに第1方向の張力を与えて前記第1金型と前記第2金型との間に配置するフィルム送り装置と、前記第1方向に交差する第2方向の両端において前記第1金型または前記第2金型に前記転写フィルムを拘束する箔押さえプレートと、をさらに設け、前記箔押さえプレートによって前記転写フィルムが拘束された後、前記フィルム送り装置が、前記第1方向の張力を解放し、成形品が得られた後に、その張力を復帰させてもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、転写フィルムを均一に加熱する従来の構成に対して、転写フィルムの温度分布を制御して、転写フィルムの伸ばしたい部分および伸ばしたくない部分ごとに温度を制御できる。したがって、転写フィルムの伸ばしたい部分を伸ばし、伸ばしたくない部分の伸びを抑えることができるので、成形品が深絞り形状の場合であっても、転写フィルムの破れやしわの発生を防止するとともに、成形品の表面に所望の意匠または機能を付与することが可能となる。
【0023】
また、本発明によれば、箔転写同時射出成形プロセスにおいてフィルム送り装置が転写フィルムへ与える張力を解放して、転写フィルムに作用する引張り応力を緩和することができる。したがって、上記した転写フィルムの温度制御によって、転写フィルムの伸ばしたい部分をより伸ばし、伸ばしたくない部分の伸びをより抑えることができるようになり、転写フィルムの破れやしわの発生を防止する性能や、成形品の表面に所望の意匠または機能を付与する性能をさらに向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施の形態1における射出成形装置の要部を示す側面断面図
【図2】本発明の実施の形態1における射出成形装置の固定金型の要部を示す平面図
【図3】本発明の実施の形態1における射出成形装置の可動金型の要部を示す平面図
【図4】本発明の実施の形態1における転写フィルムの型締め途中の状態を説明するための平面図
【図5】本発明の実施の形態1における射出成形装置の要部の型締め途中の状態を説明するための側面断面図
【図6】本発明の実施の形態2における射出成形装置の要部を示す側面断面図
【図7】本発明の実施の形態2における可動金型の要部を示す平面図
【図8】従来の射出成形装置を示す図
【図9】従来の射出成形装置の型締め途中の状態を説明するための側面断面図
【図10】従来の射出成形装置における転写フィルムの型締め途中の状態を説明するための平面図
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、同じ構成要素には同じ符号を付して、重複する説明を省略する場合もある。また、図面は、理解しやすくするために、それぞれの構成要素を主体に模式的に示している。また図示された各構成要素の厚み、長さ等は図面作成の都合上から、実際とは異なる。
【0026】
(実施の形態1)
図1は本発明の実施の形態1における射出成形装置の要部を示す側面断面図、図2は本発明の実施の形態1における射出成形装置の固定金型の要部を示す平面図、図3は本発明の実施の形態1における射出成形装置の可動金型の要部を示す平面図である。
【0027】
図1に示すように、この射出成形装置は、第1金型である可動金型10と、第2金型である固定金型11を備える。また、図示しないが、可動金型10と固定金型11との間に転写フィルム12を成形ショットごとに1ピッチ分ずつ送って配置するためのフィルム送り装置を備えている。
【0028】
転写フィルム12は、転写層12aが基材12b上に積層された構造となっている。転写層12aは、例えば色、絵柄、模様等の意匠が印刷された意匠膜を有しており、フィルム送り装置によって1ピッチ分ずつ送られることにより、所望の意匠を施した範囲が、可動金型10と固定金型11との間の所定位置に配置される。
【0029】
固定金型11には凹形状のキャビティ形成面11aが設けられており、可動金型10には、固定金型11の凹形状のキャビティ形成面11aに対向して凸形状のキャビティ形成面10aが設けられている。
【0030】
また、この射出成形装置は、箔押さえプレート13を備えている。箔押さえプレート13は、固定金型11側へ移動して、転写フィルム12の一部を固定金型11とともに挟み込み、転写フィルム12を固定金型11に拘束する。可動金型10には、可動金型10が固定金型11側へ移動して型締めがなされるときに箔押さえプレート13を収納する収納窪み10bが形成されている。この実施の形態1では、箔押さえプレート13が、固定金型11の凹形状のキャビティ形成面11aの周囲において転写フィルム12を固定金型11とともに挟み込む枠形状の場合について説明する。なお、箔押さえプレートは、転写フィルム12の長手方向に直交する両端を固定金型11とともに挟み込む形状であってもよい。
【0031】
続いて、この射出成形装置による箔転写同時射出成形プロセスについて説明する。可動金型10と固定金型11との間に転写フィルム12が配置され、可動金型10と固定金型11とが型締めされると、固定金型11の凹形状のキャビティ形成面11aと可動金型10の凸形状のキャビティ形成面10aによって成形空間(キャビティ)が形成される。その成形空間に、可動金型10に設けられている樹脂射出孔10cから溶融樹脂が射出注入される。成形空間が溶融樹脂で充填され、その充填された溶融樹脂が冷却されて固化されると、可動金型10が固定金型11から離間して型開きがなされる。この動作により、成形品が得られると同時に、転写フィルム12の基材12bから転写層12aが剥離して、成形品の表面に転写される。
【0032】
続いて、この射出成形装置における金型の温度分布(転写フィルムの温度分布)の制御機構について説明する。
【0033】
固定金型11は、その金型温度を部分的に制御できるように、金型本体部分と複数の固定側温度制御インサート14からなる分割構造体となっている。温度制御手段の一例である固定側温度制御インサート14は、箔転写同時射出成形プロセスにおいて最も応力が集中する部分以外の箇所であって、転写フィルム12に作用する引っ張り応力が比較的大きくなる箇所に対応させて配置する。型締め圧力によって転写フィルム12を引き伸ばしながら成形空間に引き込む構成の場合、可動金型10と固定金型11との間に配置された転写フィルム12のうち、成形品の底面の角部に転写される部分に最も応力が集中する。また、成形品の側面に転写される部分が引き伸ばされながら成形空間に引き込まれるとともに、そこに成形空間の外側で続く部分(成形空間には引き込まれず、成形品に転写されない部分)も引き伸ばされる。そして、その引き伸ばされる部分のうち、成形品の側面のコーナー部以外に転写される部分やそこに成形空間の外側で連続する部分に作用する引っ張り応力が比較的大きくなる。そこで、成形空間の外側で、成形空間のコーナー部に対面する位置から外れる位置(成形空間の外側で、成形空間のコーナー部に向かって転写フィルムが引っ張られる範囲を除いた範囲)に固定側温度制御インサート14を配置する。例えば、図1および図2に示すように、転写フィルム12の長手方向およびその長手方向に直交する幅方向のそれぞれにおいて対向しているキャビティ形成面11a(成形空間)の直線形状部15に対応させて、キャビティ形成面11a(成形空間)の外側に配置する。この配置により、固定金型11の凹形状のキャビティ形成面11aの周囲の温度を制御することができる。
【0034】
固定側温度制御インサート14の温度制御は、例えば固定金型11に、固定側温度制御インサート14ごとに温度測定器を設け、それらの温度測定器から生成される信号を用いて、所定の温度となるようにフィードバック制御してもよい。固定側温度制御インサート14には、例えばヒータ等を使用することができる。
【0035】
同様に、可動金型10は、その金型温度を部分的に制御できるように、金型本体部分と複数の可動側温度制御インサート16からなる分割構造体となっている。温度制御手段の一例である可動側温度制御インサート16は、箔転写同時射出成形プロセスにおいて最も応力が集中する部分と、転写フィルム12に作用する引っ張り応力が比較的小さくなる箇所に対応させて配置する。上述したように、型締め圧力によって転写フィルム12を引き伸ばしながら成形空間に引き込む構成の場合、可動金型10と固定金型11との間に配置された転写フィルム12のうち、成形品の底面の角部に転写される部分に最も応力が集中する。また、成形品の側面に転写される部分が引き伸ばされながら成形空間に引き込まれるとともに、そこに成形空間の外側で続く部分(成形空間には引き込まれず、成形品に転写されない部分)も引き伸ばされる。そして、その引き伸ばされる部分のうち、成形品の側面のコーナー部に転写される部分やそこに成形空間の外側で連続する部分に作用する引っ張り応力が比較的小さくなる。そこで、成形空間の内側で、成形空間のコーナー部に対向する位置に可動側温度制御インサート16を配置する。例えば、図1および図3に示すように、キャビティ形成面10aのコーナー部17(側面のコーナー部および底面の角部を含む)に配置する。この配置により、可動金型10の凸形状のキャビティ形成面10aの側面のコーナー部および底面の角部の温度を制御することができる。
【0036】
可動側温度制御インサート16の温度制御は、例えば可動金型10に、可動側温度制御インサート16ごとに温度測定器を設け、それらの温度測定器から生成される信号を用いて、所定の温度となるようにフィードバック制御してもよい。可動側温度制御インサート16には、例えばヒータ等を使用することができる。
【0037】
続いて、この射出成形装置における金型の温度分布(転写フィルムの温度分布)の制御方法について説明する。
【0038】
この射出成形装置は、転写フィルム12の破れやしわを防止するために、可動金型10と固定金型11の型締め時に、可動金型10と固定金型11との間に配置された転写フィルム12のうち、最も応力が集中する部分と、比較的小さい引っ張り応力が作用する部分の温度を相対的に低くする。すなわち、成形品の底面の角部および成形品の側面のコーナー部に転写される部分(成形空間のコーナー部に引き込まれた部分)の温度を相対的に低くする。この温度制御は、可動金型10の凸形状のキャビティ形成面10aの側面のコーナー部および底面の角部に転写フィルム12が接触することで実施される。つまり、可動金型10の凸形状のキャビティ形成面10aのコーナー部17の温度(可動側温度制御インサート16の温度)を相対的に低くする。さらに、可動金型10と固定金型11との間に配置された転写フィルム12のうち、成形空間の外側において比較的大きな引張り応力が作用する部分の温度を相対的に高くする。つまり、成形空間の外側で、成形空間のコーナー部に対面しない部分の温度を相対的に高くする。この温度制御は、固定金型11の凹形状のキャビティ形成面11aの周囲の表面に転写フィルム12が接触することで実施される。つまり、固定金型11の凹形状のキャビティ形成面11aの直線形状部15の外側付近の温度(固定側温度制御インサート14の温度)を相対的に高くする。
【0039】
以上の温度制御によって、箔転写同時射出成形プロセスの型締め動作時の相対的な温度分布は、温度の低い順に、
可動側温度制御インサート16<可動金型10=固定金型11<固定側温度制御インサート14
となり、これらに接触している転写フィルム12も同等の温度分布となる。
【0040】
なお、可動金型10と固定金型11の温度は同一でなくてもよい。また、可動側温度制御インサート16と可動金型10の温度が同一または固定金型11と固定側温度制御インサート14の温度が同一であってもよい。
【0041】
つまり、
可動側温度制御インサート16<可動金型10≦固定金型11<固定側温度制御インサート14
または、
可動側温度制御インサート16=可動金型10≦固定金型11<固定側温度制御インサート14
または、
可動側温度制御インサート16<可動金型10≦固定金型11=固定側温度制御インサート14
であってもよい。
【0042】
以上のように、可動金型10に可動側温度制御インサート16を設け、固定金型11に固定側温度制御インサート14を設けて、それらの温度制御インサートの温度を制御することで、箔転写同時射出成形プロセスにおいて転写フィルム12の温度を部分的に制御することができ、それにより、転写フィルム12の伸ばしたい部分を伸ばし、伸ばしたくない部分の伸びを抑制することができる。したがって、成形品が深絞り形状であっても、転写フィルムの破れやしわの発生を防止し、かつ、成形品の表面を加飾する色や絵柄、模様等の意匠の劣化を防止することができる。
【0043】
図4は本発明の実施の形態1における転写フィルムの型締め途中の状態を説明するための平面図である。この実施の形態1によれば、固定金型11の凹形状のキャビティ形成面11aの直線形状部15の外側付近に設けた固定側温度制御インサート14が他の部分よりも相対的に温度が高くなるため、転写フィルム12のうち、凹形状のキャビティ形成面11aの直線形状部15の外側付近に位置する部分の伸び性能が向上し、型締め時には主にその部分が伸びる。したがって、凹形状のキャビティ形成面11aの直線形状部15の外側付近で作用している引っ張り応力18が緩和される。その結果、凹形状のキャビティ形成面11aのコーナー部19(成形空間のコーナー部)の外側付近で作用している圧縮応力20が小さくなり、しわ21の量が少なくなる。さらに、しわ21の発生する範囲が、凹形状のキャビティ形成面11aのコーナー部(成形空間のコーナー部)19から遠ざかるため、成形品の表面に発生するしわが抑制される。このように、しわ21の発生する範囲を成形空間のコーナー部から遠ざけるためには、可能な限り、固定側温度制御インサート14を凹形状のキャビティ形成面11aの直線形状部15から離すのが好適である。
【0044】
図5は本発明の実施の形態1における射出成形装置の要部の型締め途中の状態を説明するための側面断面図である。
【0045】
この実施の形態1によれば、可動金型10の凸形状のキャビティ形成面10aのコーナー部17に設けた可動側温度制御インサート16が他の部分よりも相対的に温度が低くなる。すなわち、応力が集中する凸形状のキャビティ形成面10aの底面の角部22が他の部分よりも相対的に温度が低くなる。その結果、応力が集中しても、キャビティ形成面10aの底面の角部22の周囲における転写フィルム12の伸び量が増加し、キャビティ形成面10aの底面の角部22における転写フィルム12の伸びは抑制されるため、伸びの限界による破れが抑制される。
【0046】
さらに、この実施の形態1によれば、転写フィルム12のうち、固定金型11の凹形状のキャビティ形成面11aの直線形状部15の外側付近において可動金型10の表面に接触する部分が他の部分よりも伸び性能が向上する。その結果、成形品の表面に転写される色や絵柄、模様等の意匠の歪みが少なくなる。また、特に深絞り形状の成形品で問題となる意匠の位置ずれを抑制することもできる。このように、成形品の表面に転写される意匠の歪みや位置ずれを抑制するためには、可能な限り、固定側温度制御インサート14を凹形状のキャビティ形成面11aの直線形状部15から離して、可動金型10と固定金型11との間に配置された転写フィルム12のうち、成形品の側面に転写される部分の伸びを抑えるのが好適である。
【0047】
以上のように、可動金型10に設けた可動側温度制御インサート16と固定金型11に設けた固定側温度制御インサート14の温度を制御して、型締め時に、成形空間のコーナー部における転写フィルム12の温度を、成形空間の隣接するコーナー部間における転写フィルム12の成形空間の外側での温度よりも低くすることで、転写フィルムの破れやしわの発生の防止および成形品の表面を加飾する意匠の劣化の防止を図ることができる。
【0048】
なお、固定金型11を、金型本体部分と複数の固定側温度制御インサート14からなる分割構造体としたが、固定金型は、分割構造体の場合と同等の温度分布に制御できるのであれば、一体構造体であってもよい。例えば、温度制御手段として、温調回路を、各固定側温度制御インサート14を配置する各箇所に別回路にて配置して、各温調回路を個別に制御することにより、分割構造体の場合と同等の温度分布とすることも可能である。無論、固定金型11と同様に、可動金型10を、分割構造体の場合と同等の温度分布に制御できる一体構造体としてもよい。
【0049】
また、固定金型11の凹形状のキャビティ形成面11aの周囲に固定側温度制御インサート14を設けたが、固定側温度制御インサート14に代えて、固定金型11の凹形状のキャビティ形成面11aの周囲に転写フィルム12を拘束する枠形状の箔押さえプレート13の全部分または一部分の温度を制御して、固定側温度制御インサート14を配置した場合と同等の温度分布を実現してもよい。
【0050】
(実施の形態2)
図6は本発明の実施の形態2における射出成形装置の要部を示す側面断面図である。この実施の形態2は、フィルム送り装置23の動作が実施の形態1と異なる。以下、実施の形態1と異なる点を中心に説明し、実施の形態1と重複する説明は適宜省略する。
【0051】
図6において、箔押さえプレート13は、固定金型11側へ移動して、転写フィルム12の長手方向に直交する両端を固定金型11とともに挟み込み、転写フィルム12を固定金型11に拘束する。図7は、この実施の形態2における可動金型10の収納窪み10bを示す平面図である。
【0052】
また、図6において、フィルム送り装置23は、転写フィルム12の長手方向に張力を与えた状態で、可動金型10と固定金型11との間に転写フィルム12を成形ショットごとに1ピッチ分ずつ送って配置する。
【0053】
より詳しくは、フィルム送り装置23は、箔転写同時射出成形プロセスの始めに、可動金型10と固定金型11との間に、ロール状態の転写フィルム12から、1ピッチ分の転写フィルム12を、その長手方向に張力を与えた状態で供給する。そして、箔押さえプレート13が可動して、フィルム送り装置23の張力が発生している方向と交差する方向の両端において転写フィルム12を拘束した後、可動金型10が型締め動作を開始して、可動金型10の凸形状のキャビティ形成面10aが転写フィルム12に接触するまでに、転写フィルム12に与えている張力を解放する。その後、成形品が得られた後に、その張力を復帰させて、次の箔転写射出同時成形プロセスを実行するために転写フィルム12を1ピッチ分順送りする。フィルム送り装置23の張力の解放は、例えば、フィルム送り装置23の駆動を停止させて、ロール状態の転写フィルムを回動自在にすることによって実現してもよい。
【0054】
この実施の形態2によれば、箔転写同時射出成形プロセスにおいてフィルム送り装置23の張力から転写フィルム12が解放されるため、転写フィルム12の破れやしわの発生を防止する性能や、成形品の表面に所望の意匠を付与する性能を向上させることができる。
【0055】
すなわち、箔転写同時射出成形プロセスは、始めに、可動金型と固定金型との間に、ロール状態の転写フィルムから、1ピッチ分の転写フィルムが、フィルム送り装置によって張力を与えられて供給される。そのため、一般的には、箔転写同時射出成形プロセスの間、常時、転写フィルムにフィルム送り装置の張力が作用している。その結果、型締め圧力による引っ張り応力が転写フィルムに作用している間も、フィルム送り装置の張力が作用するため、転写フィルムに作用する引張り応力が増大する。これにより、応力が集中する箇所で転写フィルムの伸びが限界に達して破れが発生する。
【0056】
以上のように、箔転写同時射出成形プロセスの間に転写フィルムにフィルム送り装置の張力が作用すると、転写フィルムの破れが促進する。
【0057】
これに対して、この実施の形態2によれば、前述の実施の形態1で説明した転写フィルム12の温度制御に加えて、箔転写同時射出成形プロセスの間にフィルム送り装置23の張力が解放される。したがって、箔転写同時射出成形プロセスにおいて転写フィルムに作用する引っ張り応力を緩和することができるので、転写フィルム12の温度制御によって転写フィルム12の伸びをさらにコントロールできるようになり、転写フィルム12の伸ばしたい部分をより伸ばし、伸ばしたくない部分の伸びをより抑えることができるようになる。その結果、転写フィルムのしわや破れを防止する性能や、成形品の表面を加飾する色や絵柄、模様等の意匠の劣化を防止する性能をさらに向上させることができる。
【0058】
なお、以上説明した実施の形態1および2における射出成形装置の動作(金型の温度制御も含む。)は、記憶部にあらかじめ記憶されている、装置全体の動作を規定するプログラムに従って、制御部が装置全体の動作を制御することで実現することができる。
【0059】
また、上記実施の形態1および2においては、可動金型10に凸形状のキャビティ形成面10aが設けられており、固定金型11に凹形状のキャビティ形成面11aが設けられている場合を例に説明したが、無論、可動金型に凹形状のキャビティ形成面を設け、固定金型に凸形状のキャビティ形成面を設けてもよい。
【0060】
また、上記実施の形態1および2においては、可動金型10に樹脂射出孔10cが形成されている場合を例に説明したが、無論、固定金型に樹脂射出孔を形成してもよい。
【0061】
また、上記実施の形態1および2においては、一対の金型のうちの一方のみが他方に接近および離間する場合を例に説明したが、無論、両方の金型が互いに他方に接近および離間する構成であってもよい。
【0062】
また、上記実施の形態1および2においては、箔押さえプレート13が、転写フィルム12を固定金型11に拘束する場合を例に説明したが、無論、箔押さえプレートを、可動金型側へ移動させて、転写フィルムを可動金型に拘束させてもよい。
【0063】
また、上記実施の形態1および2においては、転写フィルム12の転写層12aが、例えば色、絵柄、模様等の意匠が印刷された意匠膜を有する場合を例に説明したが、本発明は、転写フィルムの転写層が、例えば抗菌、シールド効果、指紋レスなどの機能を持つ機能膜を有する場合にも適用可能である。この場合には、深絞り形状の成形品であっても、その表面に所望の機能を付与することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の射出成形方法および射出成形装置は、成形品が深絞り形状の場合であっても、転写フィルムの破れやしわの発生を防止するとともに、成形品の表面に所望の意匠または機能を付与することが可能となり、様々な外装成形品に有用である。
【符号の説明】
【0065】
10 可動金型
10a キャビティ形成面
10b 収納窪み
10c 樹脂射出孔
11 固定金型
11a キャビティ形成面
12 転写フィルム
12a 転写層
12b 基材
13 箔押さえプレート
14 固定側温度制御インサート
15 直線形状部
16 可動側温度制御インサート
17 コーナー部
18 引っ張り応力
19 コーナー部
20 圧縮応力
21 しわ
22 角部
23 フィルム送り装置
101 キャビティ形成面
102 射出口
103 雄型
104 雌型
105 転写箔
106 箔送り手段
107 アーム
108 成形品取り出し機構
109 加熱機構
110 成形品
111 可動金型
111a キャビティ形成面
112 固定金型
112a キャビティ形成面
113 転写フィルム
114 箔押さえプレート
115 コーナー部
116 引っ張り応力
117 圧縮応力
118 しわ
119 角部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1金型と第2金型との間に転写フィルムを配置し、前記第1金型と前記第2金型とを型締めして形成した成形空間内に樹脂を注入した後、型開きすることにより、成形品を得ると同時に、その成形品の表面に前記転写フィルムの転写層を転写する射出成形方法において、
前記第1金型と前記第2金型の型締め時に、前記成形空間のコーナー部における前記転写フィルムの温度を、前記成形空間の隣接するコーナー部間における前記転写フィルムの前記成形空間の外側での温度よりも低くすることを特徴とする射出成形方法。
【請求項2】
前記成形空間のコーナー部における前記転写フィルムの温度を、前記第1金型の凸形状のキャビティ形成面の側面のコーナー部および底面の角部と前記転写フィルムとを接触させて制御することを特徴とする請求項1記載の射出成形方法。
【請求項3】
前記成形空間の隣接するコーナー部間における前記転写フィルムの前記成形空間の外側での温度を、前記第2金型の凹形状のキャビティ形成面の周囲の表面と前記転写フィルムとを接触させて制御することを特徴とする請求項1もしくは2のいずれかに記載の射出成形方法。
【請求項4】
前記転写フィルムに第1方向の張力を与えて前記第1金型と前記第2金型との間に配置し、前記第1方向に交差する第2方向の両端において前記転写フィルムを拘束した後、前記第1方向において前記転写フィルムに作用している張力を解放し、成形品を得た後に、その張力を復帰させることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の射出成形方法。
【請求項5】
第1金型と第2金型との間に転写フィルムを配置し、前記第1金型と前記第2金型とを型締めして形成した成形空間内に樹脂を注入した後、型開きすることにより、成形品を得ると同時に、その成形品の表面に前記転写フィルムの転写層を転写する射出成形装置において、
前記成形空間のコーナー部における前記転写フィルムの温度を、前記成形空間の隣接するコーナー部間における前記転写フィルムの前記成形空間の外側での温度よりも低くするための温度制御手段を、前記第1金型および前記第2金型に設けたことを特徴とする射出成形装置。
【請求項6】
前記第1金型に設けた温度制御手段は、前記第1金型の凸形状のキャビティ形成面の側面のコーナー部および底面の角部の温度を制御することを特徴とする請求項5記載の射出成形装置。
【請求項7】
前記第2金型に設けた温度制御手段は、前記第2金型の凹形状のキャビティ形成面の周囲の温度を制御することを特徴とする請求項5もしくは6のいずれかに記載の射出成形装置。
【請求項8】
前記転写フィルムに第1方向の張力を与えて前記第1金型と前記第2金型との間に配置するフィルム送り装置と、前記第1方向に交差する第2方向の両端において前記第1金型または前記第2金型に前記転写フィルムを拘束する箔押さえプレートと、をさらに設け、前記箔押さえプレートによって前記転写フィルムが拘束された後、前記フィルム送り装置が、前記第1方向の張力を解放し、成形品が得られた後に、その張力を復帰させることを特徴とする請求項5ないし7のいずれかに記載の射出成形装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−245680(P2012−245680A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−118544(P2011−118544)
【出願日】平成23年5月27日(2011.5.27)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】