説明

射出成形方法

【技術課題】スロットルボディの成形において、ボア成形部側とモーターケース成形部側とにおいて均一に樹脂を充填し、この充填時においてボア成形部側とモーターケース成形部側に流入した樹脂に乱流を発生させないことにより、ボア内径の真円度を高める。
【解決手段】ボア成形用キャビティ25内に樹脂を充填するためのシリンダーAとモーターケース成形用キャビティ26内に樹脂を充填するためのシリンダーBとをそれぞれ独立して設ける。樹脂の充填に際しては、充填する樹脂圧と保持圧をボア成形用キャビティ25側よりもモーターケース成形用キャビティ26側において低く設定する。あるいは樹脂の充填タイミングをボア成形用キャビティ25よりモーターケース成形用キャビティ26側を遅らす。このようにして成形を行うと、ボア1の内径の真円度は従来の成形法を用いて行ったものの真円度187μmに対して105μmと良くなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車等の内燃機関(エンジン)の吸気通路の一部を形成し、かつ吸入空気量を制御するボアとモーターケースとが一体となった所謂スロットルボディ等の成形品を熱可塑性樹脂を用いて射出成形する成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の内燃機関(エンジン)には、燃焼用空気をエンジン内にとり込むための吸気通路が形成されていて、この吸気通路には、吸気空気量を制御するためのスロットルボディが取り付けられている。スロットルボディの種類の1つとしてドライブバイワイヤタイプのスロットルボディ(以下「DBWスロットルボディ」と称する。)がある。その構成は、吸入空気量を調整するスロットル弁を内装させるボア部と、スロットル弁を回転させるモーター及びギアを収納するモーターケース部とが一体となったものである。
【0003】
従来、このDBWスロットルボディは、動作時に高い駆動制御精度が必要であることから、アルミなどの金属を切削加工したものが用いられている。
【0004】
しかし、近年になり、環境問題や低燃料化等の経済性の理由などから、自動車部品の軽量化が進められるようになり、上記DBWスロットルボディも射出成形方法を用いて製造する樹脂化が進められるようになった。
【0005】
一般的な射出成形では、溶融した樹脂を金型キャビティ内に充填した後に樹脂圧力を高めて保持圧を付加し、溶融樹脂を冷却固化することにより成形品を得るものであるが、この成形品は、金型キャビティ形状、金型構造、成形条件(特に充填圧力、保持圧力)、金型温度等の様々な要因の影響を受けながら固化するため、特に複雑化された成形品全体の収縮率を完全に同じにすることは難しい。そして、この収縮率の不均一により、射出成形品にヒケやそりなどの変形が発現する。
【0006】
特にスロットルボディの場合、ボアの内径には、空気の流量を制御するスロットル弁が取り付けられることから、高い寸法精度(真円度)が要求される。このため、成形工程中に金型キャビティ内には均一に溶融樹脂を充填することが必要である。
【0007】
さらに、DBWスロットルボディは、スロットル弁を駆動させるモーターを収納するモーターケースも一体成形するため、樹脂を充填した際に、ボア部を形成する樹脂流動とモーターケース部を成形する樹脂流動とが影響し合い、それがボアの真円度を高めるための障害となっている。
【0008】
この様に、DBWスロットルボディを射出成形する場合、前述の理由により、目的のボア内径部の真円度の寸法精度を高めることは非常に難しい。更にDBWスロットルボディの使用環境を踏まえ樹脂の耐熱温度や耐薬品性を考慮すると、成形する樹脂にはガラス繊維やガラスフレークなどの充填材が高含有で添加されていることから、樹脂収縮の不均一に加え充填材の配向の影響も受けて、ますます複雑な変形プロセスとなり、DBWスロットルボディの成形に限らず、成形品の寸法精度を高めるのが困難となっている。
【0009】
樹脂製スロットルボディの射出成形方法に関して、これまで様々な発明が出願されている。例えば、成形用金型の構造に関する発明や、インサート成形を利用した成形方法に関する発明、あるいは成形する樹脂の種類や成分に関する発明などが挙げられるが、いずれの射出成形方法も、成形機動作または金型入子動作により樹脂圧力を高めて保圧を加えており、樹脂収縮不均一による成形品の変形は免れない。
【0010】
そこで、樹脂収縮の不均一を低減する方法として、特開2006−2674号公報には、インサート射出成形用の金型キャビティの表面温度を均一にするための温調回路が紹介されている。この方法により、金型キャビティに充填された樹脂は全体的に均一な温度プロファイルを得て収縮するため、結果成形品の変形を低減することができる。
【0011】
しかし、樹脂の収縮は、温度だけでなく、充填工程、保圧工程時の樹脂圧力の影響を大きく受けるため、上記の方法を用いても成形品全体の収縮率を完全に同じにすることはできない。またこの方法を採用すると、金型構造が複雑となり、金型の製作費用が高くなる問題がある。
【0012】
一方、射出成形において成形品のヒケやそりなどの変形を低減する手法として、不活性ガスを利用する成形方法が提案されている。これは、金型内に溶融樹脂を充填させた後に不活性ガスを注入して成形品の肉厚内部に中空を形成させる方法である。
【0013】
しかし、この成形方法を用いてスロットルボディ成形品を成形した場合、成形品の肉厚内部に中空が形成されるため、成形品の強度が低下し、実用的ではない。
【0014】
更に、特開昭53−47457号公報には、円筒の外部に真円度が要求される成形品形状を用いて、溶融樹脂を金型キャビティに充填した後、円筒内部の非可視裏面から不活性ガスを注入し、ガスで可視面側に押圧することにより、可視面側円筒の真円度精度を向上させる方法が紹介されており、この方法によると、不活性ガスを非可視面側に注入するため、容易に可視面側の寸法精度を高めることができる。
【0015】
しかし、この方法によると、非可視面のガス注入側には樹脂の収縮が起こり、顕著なヒケが発生する。例えば、本発明で取り上げているスロットルボディのボア部内の真円度を向上させるために、溶融樹脂を金型キャビティに充填した後、ボア部の外側に不活性ガスを注入すると、ボア部内の内径部の真円度は向上するものの、ボア部の端面に形成されるフランジの面精度を高めることは難しい。
【特許文献1】特開2006−2674公報
【特許文献2】特開昭53−47457公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
以上のように、円筒状のボア部とモーターケース部とが一体成形されたDBWスロットルボディを従来の射出成形法を用いて成形を行うと、ボア部の周囲に形成されるモーターケース部側の影響を受けて、ボア部内の真円度に影響がでるという問題がある。
【0017】
本説明の目的は、DBWスロットルボディのような複雑な成形品を複数の成形部を持ったキャビティを用いて一体成形する方法において、それぞれの成形部における成形に最適な条件で樹脂の充填と保持圧及び充填タイミングをかけることにより、特にDBWスロットルボディを射出成形する際、ボア内径部の真円度が高められる成形方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明においては、射出成形方法において、複数の成形部をキャビティ内に形成して成る金型において、前記複数の成形部ごとに樹脂充填用のシリンダーを設けると共に、製品成形時にこれら複数のシリンダーから各キャビティ内の成形部にそれぞれ樹脂を同時に充填して複数の成形部を一体成形することを特徴とするものである。
この発明によると、成形部ごとに最適な成形条件を設定して高精度の成形品を得ることができる。
なお、複数のシリンダーを用いる成形方法は、2色成形方法があるが、これは、金型の一部を移動させたり回転させたりして成形を行う方法である。一方、本発明は、異なった複数の成形部ごとに樹脂充填用のシリンダーを設けて成形品の品質向上を図るものである。したがって、金型の一部を移動することはない。
【0019】
更に、請求項2に記載の発明においては、請求項1に記載の射出成形方法において、前記複数のシリンダーから樹脂を充填する際、樹脂の充填圧および(又は)充填タイミングおよび(又は)保持圧を成形部ごとに変更して行うことを特徴とするものである。
この発明によると、成形部ごとに最適な成形条件を設定して高精度の成形品を得ることができる。
【0020】
更に、請求項3に記載の発明においては、請求項1又は2に記載の射出成形方法において、前記複数のシリンダーから樹脂を充填する際、シリンダーごとに樹脂の種類又は色彩を変更して成形部ごとに樹脂の種類又は色彩の違う併合領域を同時に成形することを特徴とするものである。
この発明によると、多様な成形品を低コストにより得ることができる。
【0021】
更に、請求項4に記載の発明においては、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の射出成形方法において、前記複数の成形部は、ボア成形部とボア内の弁を駆動するモーター及びギヤーケースとを一体成形するスロットルボディ成形用キャビティであって、このキャビティは、ボア成形用キャビティ部とモーターケース成形用キャビティ部から成り、シリンダーは、前記ボア成形用キャビティ部とモーターケース成形用キャビティ部ごとに設けられていることを特徴とするものである。
【0022】
更に、請求項5に記載の発明においては、請求項4に記載の射出成形方法において、前記ボア成形用キャビティ部への溶融樹脂の充填開始タイミングは、モーターケース成形用キャビティ部への溶融樹脂の充填開始タイミングと同時であることを特徴とするものである。
【0023】
更に、請求項6に記載の発明においては、請求項4に記載の射出成形方法において、前記モーターケース成形用キャビティ部への溶融樹脂の充填開始タイミングは、ボア成形用キャビティ部への溶融樹脂の充填開始直後であることを特徴とするものである。
【0024】
更に、請求項7に記載の発明においては、請求項4乃至6のいずれか1項に記載の射出成形方法において、前記ボア成形用キャビティ部及びモーターケース成形用キャビティ部へ溶融樹脂を充填する際、各キャビティ部へ均一に溶融樹脂が充填されるように、ボア成形用キャビティ部へ溶融樹脂を充填するシリンダーとモーターケース成形用キャビティ部への溶融樹脂を充填するシリンダーの樹脂圧と保持圧を個別に調整して行うことを特徴とするものである。
【0025】
更に、請求項8に記載の発明においては、請求項4乃至7のいずれか1項に記載の射出成形方法において、前記ボア成形用キャビティ部に形成された複数ゲートを介して溶融樹脂の充填と保持圧をかける際、均一に溶融樹脂が充填され、かつ成形されるように、各々のゲート又はランナー内を通過する樹脂量を制御することを特徴とするものである。
【0026】
更に、請求項9に記載の発明においては、請求項8に記載の射出成形方法において、前記ボア成形用キャビティ部及びモーターケース成形用キャビティ部に形成された複数ゲートを介して溶融樹脂の充填と保持圧をかける際、均一に溶融樹脂が充填され、かつ成形されるように、各々のゲート又はランナーの断面積を調整してキャビティの部位ごとに充填する樹脂圧及び保持圧を制御することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0027】
本発明の効果は次の通りである。
1.請求項1乃至3に記載の発明によると、複雑な成形部を有する製品の成形に際し、成形部ごとに最適な条件で成形を行ない、高精度の成形品を得ることができると共に成形品の部位ごとに樹脂を変えたり、色彩を変えたりすることができる。
【0028】
2.請求項4に記載の発明によると、DBWスロットルボディの成形において、ボア部とモーターケース部とを一体成形する際、各々の成形用キャビティに専用のシリンダーを備えているため、従来一つのシリンダーから各成形部へ溶融樹脂を充填する時よりも低い充填圧力及び保持圧力で射出成形を行うことができる。したがって、それぞれの成形部において、溶融樹脂が均一に充填され且つ、固化時に均一に収縮されるため、特にボア内径部の真円度を高い精度で成形することができる。
【0029】
3.請求項5及び6に記載の発明によると、ボア成形用キャビティとモーターケース成形用キャビティへの溶融樹脂充填開始及び保持圧付荷のタイミングを同時又は遅延いずれかを選択できるので、最適な成形条件を設定できる。
【0030】
4.請求項7乃至9に記載の発明によると、ボア成形用キャビティとモーターケース成形用キャビティへの樹脂充填圧力と保持圧を個別に選択できるので、最適な成形条件を設定できる。
【0031】
5.請求項8及び9に記載の発明によると、ボア成形用キャビティにおける複数ゲートのゲート径及び各ゲートに続くスプルー径又はランナー径を選択することにより、ボア成形用キャビティへ均一に溶融樹脂を充填し、かつ保持圧をかけて高精度の製品を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
本発明のDBWスロットルボディ等の射出成形方法は、成形部ごとに樹脂を充填し、保持圧をかけることができるシリンダーを用いることにより、成形部ごとに溶融樹脂が均一に充填され、且つ保持され、更に固化も成形部ごとになされるため、成形品は均一に収縮されることから、特にボアの内径部の真円度を高めることができる。
【0033】
さらに、溶融樹脂の充填圧、保持圧、ゲート及びスプルー、ランナー等の径を選択することにより、成形部ごとに最適な成形条件の設定を行うことができる。
【0034】
本発明で用いられる樹脂は、スロットルボディの場合に必要とされる樹脂特性(例えば成形性、寸法安定性、耐熱性および耐薬品性等)に優れた熱可塑性樹脂で、例えばポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルイミドが望ましい。その他、上記樹脂特性を満たす熱可塑性樹脂であれば樹脂の種類を問わない。また樹脂の中にガラスフィラー、ガラスフレーク、ガラスビーズ、炭素繊維、タルク、マイカ等のフィラーが混入されていても良い。また、樹脂の色彩を変えることにより、多色成形品を一つのキャビティで同時に成形することができる。
【0035】
次に、本発明に係る射出成形方法をスロットルボディの成形に適用した例を各図に基づいて詳細に説明する。
【実施例1】
【0036】
実施例1では請求項1乃至9に記載した発明に該当する実施例を各図を基に説明する。
図1は本実施例で射出成形したDBWスロットルボディの斜視図、図2は本実施例で用いた射出成形用金型の断面図、図3はDBWスロットルボディを成形するキャビティ形状の説明図、図4はDBWスロットルボディとランナー及びスプルーとが連結されている状態の模式図、図5は射出成形用金型が閉じた様子を示す説明図、図6はシリンダーA及びシリンダーBからボア成形用キャビティ及びモーターケース用キャビティへ溶融樹脂を充填している説明図、図7は溶融樹脂を充填し終わって保圧工程に移行した説明図、図8は射出成形用金型を開いた説明図、図9はエジェクターピンによりDBWスロットルボディを金型から離型させた説明図である。
【0037】
図1により本実施例1で得られたDBWスロットルボディ100について説明する。樹脂はポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂を用いた。この図1において、符号の1は内部にスロットル弁(図示せず)を収納する円筒状のボア、2はマニホールド(図示せず)に組み付ける際、取付け面となるフランジ、3はマニホールドに組み付ける際、取付け用ボルトを貫通させるための中空形状であるボルト取付用ボス、4は回転するスロットル弁の軸を組み込むための軸受け、5はモーターとギアを収めるモーターケース、6は前記モーターケース5の一部であるモーター収納部、7はギア収納部である。前記ボア1の大きさは、内径Wが65mm、フランジ2からの高さHは60mmである。ボア1とモーターケース5の容量はボア1の方が大きい。
【0038】
本実施例1によって成形されたDBWスロットルボディ100は、ボア1内に軸受け4を用いてスロットル弁を組み込み、このスロットル弁を駆動するモーターをモーターケース5のモーター収納部6内に組み付け、このモーターの駆動をスロットル弁に伝達するギヤーをギア収納部7内に組み付けた上で、カバー8をギア収納部7に取り付けて、ギア収納部7内を気密状態に閉塞する。
【0039】
この様な形状のDBWスロットルボディ100を成形する金型を図2に基づいて説明する。
固定側取付板7にはスプルーブッシュ8及びスプルーブッシュ9の2つのスプルーブッシュが設けられている。そして、スプルーブッシュ8にはシリンダーAが、スプルーブッシュ9にはシリンダーBが図2のように樹脂の射出時に接続される。
【0040】
更に、固定側取付板7の正面には、ランナーストリッパープレート10及び固定側型板11が具備されている。
【0041】
12はランナーストリッパープレート10の正面に組み込まれた固定側入子、13はこの入子12の正面に組み込まれた固定側キャビティ成形用入子、14はスプルー、15は十字状の一次ランナー、16は4本の二次ランナー、17は4個のゲートである。
【0042】
図2において18は可動側取付板、19は可動側取付板18の正面側に組み付けられたエジェクトピン20の取付プレート、19aはエジェクトピン20の押えプレート、21は可動側取付板18の正面に可動側型板22を組み付けている受け台である。
【0043】
23は可動側型板22の正面に組み付けられた可動側キャビティ成形用入子であって、前記固定側入子13と対面することにより図4に示したスロットルボディ成形用キャビティ24が形成される。
【0044】
図4において、25は前記スロットルボディ成形用キャビティ24のボア成形部、26はモーター収納部6の成形部であって、このモーター収納部6の成形部26へはシリンダーBからスプルー29、一次ランナー30、二次ランナー31、ゲート27を経由して樹脂の充填が行われる。
【0045】
上記のように、固定側型板11には、製品形状の一部を担う入れ子13が組み込まれている。また、スプルーブッシュ8からは、前記のように入れ子13まで溶融樹脂の湯道であるスプルー14が形成され、更に入れ子12から入れ子13を通過してキャビティ24までスプルー14から4つの湯道に分岐した一次ランナー15、二次ランナー16が形成されている。
【0046】
同様に、スプルーブッシュ9からは、入れ子12まで溶融樹脂の湯道である一次ランナー30、二次ランナー31、ゲート27を通過してキャビティ24のモーターケース5の成形部26面まで樹脂が充填される。
【0047】
可動側取付板18には、製品形状の一部を担う入れ子23が組み付けられた可動側型板22が組み付けられていると共に、受け台21が組み付けられている。さらに、エジェクタープレート19とエジェクタピン20の押えプレート19aとに挟まれる様に複数本のエジェクタピン20が取付けられている。その先端は受け台21及び可動側型板22を貫通してキャビティ24面まで達している。
【0048】
固定側型板11と可動側型板22を閉じることにより、キャビティ24は、図3に示す製品形状となる。
【0049】
図4にDBWスロットルボディ成形用キャビティ24と、スプルー14(29)、一次ランナー15(30)、二次ランナー16(31)、ゲート17(27)の模式図を示した。ボア成形部25側には4つのゲート17を設け、このゲート17にスプルー14、第1ランナー15、第2ランナー16を経由してシリンダーAから樹脂が供給される。また、一方のモーターケース成形部26側には2つのゲート27を設け、このゲート27にスプルー29、一次ランナー30、二次ランナー31を経由してシリンダーBから樹脂が供給される。このように、ボア成形専用のシリンダーAとモーターケース成形専用のシリンダーBとが独立しているためそれぞれのシリンダーAとBから任意の充填圧と保持圧及びタイミングで樹脂の充填を行うことができる。
【0050】
次に図5〜図8を基に実施例1に記載したシリンダーA、Bを用いたDBWスロットルボディ100の射出成形方法を説明する。
【0051】
事前に、ボア成形部25及びモーターケース成形部26とも最終充填位置をE及びF地点に設定し、同時に溶融樹脂が達するように、シリンダーA及びBの射出スピード等を調整した。
【0052】
前記最終充填位置がE及びF地点となるように行う射出成形工程について説明する。
図5に示す如く可動側取付板18を前進させて固定側型板11と可動側型板22を閉じる。この時、シリンダーA及びシリンダーBにおいては、樹脂の計量後、ヒーターによる加熱そしてスクリューによる練り込みにて樹脂が溶融されて待機している。
【0053】
次に図6に示す様に、シリンダーA及びシリンダーBとも同時にキャビティ24内に溶融樹脂の充填を開始する。この時の充填圧力は、シリンダーAは80MPa、シリンダーBは70MPaである。なお、この充填圧の設定は、各成形部の容量に基づくものである。
【0054】
最終的には図7に示す様にボア成形部25のキャビティ内とモーターケース成形部26のキャビティ内には溶融樹脂が同時に満されて充填が完了する。このように、シリンダーA及びシリンダーBの成形条件を定めることにより、ボア成形部25側とモーターケース成形部26側にそれぞれ独自に樹脂が充填され、ボア成形部25とモーターケース成形部26の接合部で樹脂が合流するため、特にボア成形部25において樹脂の合流による乱流の発生が抑えられて溶融樹脂を均一にそれぞれのキャビティ内に充填することができた。
【0055】
保圧工程においては、容量に比例してシリンダーAの保圧力を93Mpa及びシリンダーBの保圧力を48Mpaに設定して樹脂圧を設定時間かけ、更に冷却工程を経過後、可動側取付板17を後退させて固定側取付板7側より離した(図8)。この結果、固定側型板7及びランナーストリッパープレート10が相互に離れ、一次ランナー15(30)及び二次ランナー16(31)がDBWスロットルボディ100から引き剥がされて分離した。
【0056】
その後、図9に示すように、エジェクトプレート19及びエジェクトピン20の押え19aが前進することにより、エジェクトピン20が受け台21及び可動側型板22のガイド穴を移動してDBWスロットルボディ100を突き出して離型する。この成形工程を経て、射出成形が完了し、図1に示すDBWスロットルボディ100を得ることができた。
【0057】
その結果、得られたDBWスロットルボディ100におけるボア1の内径部の真円度(最長内径−最短内径)をシリンダーゲージ(形式:CG-100A 株式会社ミツトヨ製)を用いて測定すると105μmと良好な測定値であった。
【実施例2】
【0058】
本実施例2は、実施例1で成形したDBWスロットルボディ100とその形状は同一であるが、ボア1の内径Wが35mm、フランジ2からの高さHが45mmと小型化されたDBWスロットルボディ100の成形方法である。
【0059】
また、ボア1部分の体積とモーターケース5部分の体積はほぼ同一である。このため、シリンダーAとBの充填圧及び保持圧とも48Mpaに設定した。
【0060】
その結果、実施例1と同様な真円度をもつDBWスロットルボディ100を得ることができた。
【実施例3】
【0061】
前記した実施例1では、シリンダーA及びシリンダーBとも同時にキャビティ24内に対する溶融樹脂の充填を開始したが、本実施例3では、モーターケース成形用キャビティ26への溶融樹脂充填開始タイミングを、ボア成形用キャビティ25への溶融樹脂充填開始後、時間を遅らせて行うタイミングで行った(請求項6)。
【0062】
ボア成形用キャビティ25はモーターケース成形用キャビティ26よりキャビティ容量が大きい場合、最終充填位置に達するまでの時間差が生じ乱流をおこす要因になる。
【0063】
まず、図10に示す如く固定側型板11と可動側型板22を閉じる。この時、シリンダーA及びシリンダーBにおいては、樹脂の計量後、ヒーターによる加熱そしてスクリューによる練り込みにて樹脂が溶融されて待機している。
【0064】
次に、図11に示す様に、シリンダーAからボア成形用キャビティ25内に溶融樹脂の充填を開始する。
【0065】
その後、図12に示すように、シリンダーAからの射出開始から0.7秒後にシリンダーBからの射出を開始する。遅延時間の設定は、予めCAEによる流動解析を行うことにより可能である。
【0066】
最終的に図13に示す様にボア成形用キャビティ25とモーターケース成形用キャビティ26は溶融樹脂で同時に満たされ充填が完了する。各キャビティに応じてシリンダーA及びシリンダーBの成形条件を定めることができるので、ボア成形用樹脂とモーターケース成形用樹脂とは乱流することなくそれぞれの成形部へ溶融樹脂を均一に充填することができた。
【0067】
保圧、冷却工程を経過後、可動側取付板17を後退させて固定側取付板7より離した。固定側型板11及びランナーストリッパープレート10が相互に離れることにより、一次ランナー15(30)及び二次ランナー16(31)がともにDBTスロットルボディ100から引き剥がされて分離した(図14)。
【0068】
その後、図15に示す様に、エジェクトプレート19及びエジェクトピン20の押えプレート19aが前進することにより、エジェクトピン20が受け台21及び可動側型板22のガイド穴を移動してDBWスロットルボディ100を突き出して離型することにより、射出成形が完了しDBWスロットルボディ100を得ることができた。
【0069】
その結果、得られたDBWスロットルボディ100におけるボア1の内径部真円度を測定すると、76μmと良好な測定値であった。
【実施例4】
【0070】
本実施例4では請求項8、9に記載した発明に該当する実施例を各図を基に説明する。
ボア1とモーターケース5が一体になったDBWスロットルボディ100は、ボア成形用キャビティ25とモーターケース成形用キャビティ26とが連結になった箇所がある。先に溶融樹脂が連結部に到達した場合、他のキャビティへ流れ込んでしまい、樹脂量が不足する事態が発生する場合がある。
【0071】
例えば図4においてC部がボア成形用キャビティ25とモーターケース成形用キャビティ26とが連結する場所のうち一番に肉厚になる箇所である。したがって、図4においてC部に直近の二次ランナー16において、ゲート17近傍の断面積を他の二次ランナー16の径に対し、1.0mm太くした。他の二次ランナー16よりも上記直近の二次ランナー16の径を太くする値の設定は、予め、CAEによる流動解析を行うことにより可能である。当然、ゲート17の径も他のゲート17より大きくなる。
【0072】
その結果、得られたDBWスロットルボディ100におけるボア1の内径部の真円度を測定すると、70μmと良好な測定値であった。なお、上記各実施例において、シリンダーAとB内の樹脂は同じであるが、シリンダーAとB内の樹脂を変えたり、色彩を変えることにより、一つの成形品において、組成の違う部位とか色彩の違う製品とすることも可能である(請求項3)。
【比較例1】
【0073】
本比較例では、図4におけるスプルー14とスプルー29とを連結させ、更に、溶融樹脂の注入はスプルー14のみから行った。つまり、シリンダーはAのみを用いた。
他の一次ランナー及び二次ランナー、ゲートは実施例2と同一である。
【0074】
その結果、得られたDBWスロットルボディ100におけるボア1の内径部の真円度を測定すると、187μmとなり、実施例1〜実施例4の測定値に比較すると表1に示すように可成り劣る測定値であった。
【0075】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】スロットルボディの外観説明図
【図2】本発明に係るスロットルボディ成形用金型と射出装置の説明図
【図3】スロットルボディの側面図
【図4】スロットルボディ成形用キャビティ及びこのキャビティに続くランナー及びスプルーの説明図
【図5】金型を用いた状態の説明図
【図6】樹脂を充填している中途の状態の説明図
【図7】樹脂の充填を完了した状態の説明図
【図8】金型を開いた状態の説明図
【図9】製品を離型させている状態の説明図
【図10】実施例2の説明図
【図11】実施例2の説明図
【図12】実施例2の説明図
【図13】実施例2の説明図
【図14】実施例2の説明図
【図15】実施例2の説明図
【符号の説明】
【0077】
100 DBWスロットルボディ
1 ボア
5 モーターケース
11 固定側型板
13 固定側入子
14・29 スプルー
15・30 一次ランナー
16・31 二次ランナー
17・27 ゲート
22 可動側型板
23 可動側入子
24 キャビティ
25 ボア成形部
26 モーターケース成形部
A ボア側シリンダー
B モーターケース側シリンダー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の成形部をキャビティ内に形成して成る金型において、前記複数の成形部ごとに樹脂充填用のシリンダーを設けると共に、製品成形時にこれら複数のシリンダーから各キャビティ内の成形部にそれぞれ樹脂を同時に充填して複数の成形部を一体成形する射出成形方法。
【請求項2】
前記複数のシリンダーから樹脂を充填する際、樹脂の充填圧および(又は)充填タイミングおよび(又は)保持圧を成形部ごとに変更して行う請求項1に記載の射出成形方法。
【請求項3】
前記複数のシリンダーから樹脂を充填する際、シリンダーごとに樹脂の種類又は色彩を変更して成形部ごとに樹脂の種類又は色彩の違う併合領域を同時に成形する請求項1又は2に記載の射出成形方法。
【請求項4】
前記複数の成形部は、ボア成形部とボア内の弁を駆動するモーター及びギヤーケースとを一体成形するスロットルボディ成形用キャビティであって、このキャビティは、ボア成形用キャビティ部とモーターケース成形用キャビティ部から成り、シリンダーは、前記ボア成形用キャビティ部とモーターケース成形用キャビティ部ごとに設けられていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の射出成形方法。
【請求項5】
前記ボア成形用キャビティ部への溶融樹脂の充填開始タイミングは、モーターケース成形用キャビティ部への溶融樹脂の充填開始タイミングと同時であることを特徴とする請求項4に記載の射出成形方法。
【請求項6】
前記モーターケース成形用キャビティ部への溶融樹脂の充填開始タイミングは、ボア成形用キャビティ部への溶融樹脂の充填開始直後であることを特徴とする請求項4に記載の射出成形方法。
【請求項7】
前記ボア成形用キャビティ部及びモーターケース成形用キャビティ部へ溶融樹脂を充填する際、各キャビティ部へ均一に溶融樹脂が充填されるように、ボア成形用キャビティ部へ溶融樹脂を充填するシリンダーとモーターケース成形用キャビティ部への溶融樹脂を充填するシリンダーの樹脂圧と保持圧を個別に調整して行うことを特徴とする請求項4乃至6のいずれか1項に記載の射出成形方法。
【請求項8】
前記ボア成形用キャビティ部に形成された複数ゲートを介して溶融樹脂の充填と保持圧をかける際、均一に溶融樹脂が充填され、かつ成形されるように、各々のゲート又はランナー内を通過する樹脂量を制御することを特徴とする請求項4乃至7のいずれか1項に記載の射出成形方法。
【請求項9】
前記ボア成形用キャビティ部及びモーターケース成形用キャビティ部に形成された複数ゲートを介して溶融樹脂の充填と保持圧をかける際、均一に溶融樹脂が充填され、かつ成形されるように、各々のゲート又はランナーの断面積を調整してキャビティの部位ごとに充填する樹脂圧及び保持圧を制御することを特徴とする請求項8に記載の射出成形方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2010−99858(P2010−99858A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−271077(P2008−271077)
【出願日】平成20年10月21日(2008.10.21)
【特許番号】特許第4352095号(P4352095)
【特許公報発行日】平成21年10月28日(2009.10.28)
【出願人】(591061769)ムネカタ株式会社 (40)
【Fターム(参考)】