説明

射出成形方法

【課題】ベース樹脂となるペレット状のポリ乳酸樹脂と粉体状の添加剤とを混合した成形材料をダイレクトミキシング方式で成形した場合でも、ベース樹脂と添加剤との混練・分散性を高めつつ高品質の成形品を得る。
【解決手段】ペレット状のポリ乳酸樹脂と粉体状の添加剤とを混合してホッ5に収容する。サークルフィーダ7と定量切り出し装置8からなる材料供給装置をホッパ5の底部に設ける。インラインスクリュ型の射出成形機を用い、計量工程中のスクリュ3の回転に同期して材料供給装置を作動させる。予め混合されたホッパ5内の成形材料は、標準的な計量時間T100の1.3倍〜2.0倍の計量時間Tsをかけてマスフローとなってシリンダ3の供給口2aから連続供給される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はベース樹脂としてペレット状のポリ乳酸樹脂を用いながらも、耐衝撃性及び耐脆弱性を改善して機械的な強度を高めるとともに、難燃性にも優れた成形品を簡便に成形することができる射出成形方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
大気汚染、地球温暖化、オゾン層破壊などの問題を改善して自然環境への負担を軽減する一つの方法として、石油系の樹脂材料に代えて植物などの生物由来の樹脂材料を用いることが様々な分野で試みられている。このような樹脂材料はバイオプラスチックとも称され、中でもポリ乳酸樹脂(PLA)はカーボンニュートラルであることからその実用化が検討されている。ポリ乳酸樹脂製の成形品は、一般樹脂の成形品と比較して耐熱性と耐衝撃性に乏しいという難点がある。これらの難点を改善すべく、ポリ乳酸樹脂をベース樹脂として何種類かの添加剤とともに利用する試みもなされている。
【0003】
ところで、ベース樹脂に添加剤を混合した材料を射出成形に用いる場合には、ベース樹脂と添加剤とを混練機に投入して充分に混合・分散させてペレット状材料とし、このペレットを射出成形機に供給するのが一般である。しかし、上記ポリ乳酸樹脂にこの手法を用いると、ポリ乳酸樹脂単体での最初のペレット化処理時、そして添加剤とともに混練機に投入したときの再ペレット化処理時、さらに射出成形機での可塑化処理時と三回の加熱処理を受けることになる。そして、このような熱履歴はポリ乳酸樹脂を劣化させ、分子量の低下や着色を生じさせて成形品の品質を落とす原因となる。
【0004】
熱履歴の回数を減らすには、すでにペレット化されているポリ乳酸樹脂に添加剤を混合して再ペレット化する混練処理を止め、例えば粉体状の添加剤をポリ乳酸樹脂のペレットとともに射出成形機のシリンダに供給する手法を採ることもできる。このような成形手法は例えば特許文献1などでも知られ、「直接材料投入混練成形法(Direct Mixing:DM成形法)」として利用されている。このDM成形法では、前述のように複数種類の成形材料をブレンドしてペレット化する前処理が不要となり、成形材料の熱履歴を減らすことによって成形品の品質を高く維持し、かつ工程コストの低減も図ることができる。
【0005】
一方、複数種類の成形材料をそれぞれシリンダに供給して成形を行う際には、最終的に得られる成形品に成形材料のむらがでないように複数種類の成形材料をシリンダ内で充分に混練・分散させておく必要がある。このため特許文献2では、成形材料となるベース樹脂と添加剤とをそれぞれシリンダに供給するにあたり、ベース樹脂は自重でシリンダに供給し、添加剤はスクリュ部に直接供給する工夫が提案されている。添加剤は、ベース樹脂の計量工程だけでなく射出工程や保圧工程でも供給し続けられ、これによりシリンダの長さ方向での添加剤の濃度むらを改善するようにしている。
【0006】
さらに、シリンダに供給された成形材料をスクリュの回転により溶融(可塑化)・混練する過程では成形材料からガスが発生する。このガスを成形材料から分離する空間がシリンダ内に形成されるように、成形材料を自重供給ではなく定量フィーダ機構により定量供給する、いわゆるハングリフィードの手法が特許文献3で知られている。これにより、シリンダ内には空間が形成されるようになり、成形材料を詰まらせることなく、確実にガス抜きを行って高い品質の成形品を安定に製造することができるようになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−316832号公報
【特許文献2】特開2001−277296号公報
【特許文献3】特開2005−319813号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし特許文献1のDM成形法は、複数種類の成形材料を混練・ペレット化(コンパウンド化)する際に、独特な物性の保持が困難である例えばガラス繊維などのような材料や、均一な混練が困難である材料が含まれている場合、これらの材料に限ってはコンパウンド化の対象から外してシリンダには別途に供給して成形するという限定的な利用形態に留まるものである。また、特許文献1あるいは特許文献2記載のいずれの成形方法においても、ベース樹脂としてペレット状のポリ乳酸樹脂を用い、そして添加剤として他の複数種類の材料をシリンダに同時に供給する場合、これらの材料をシリンダ内で可塑化しながら充分に混練・分散させ、しかもポリ乳酸樹脂の劣化を抑えることは非常に困難である。
【0009】
特に、ペレット状のポリ乳酸樹脂と粉体状の各種の添加剤をともにホッパに収容し、材料供給装置を用いてホッパからシリンダに材料供給を行おうとする際には、粉体状の成形材料がホッパ内での圧縮力を受けてブリッジ状になり、ホッパ出口で詰まって安定した供給がしにくくなるおそれがある。この点、例えば特開2009−263090号公報などで知られるサークルフィーダと定量切り出し装置とを組み合わせた材料供給装置を用いることによって、ペレット状のポリ乳酸樹脂と粉体状の各種添加剤とを決まった比率で定量供給することができるようになる。
【0010】
ところが、射出成形機のシリンダにベース樹脂となるペレット状のポリ乳酸樹脂と粉体状の添加剤とを定量ずつ同時に供給したとしても、形態が異なるこれらの材料はシリンダ内で分離しやすく、シリンダ内で単にスクリュを回転させるだけではこれらを均一に混練することは難しい。特に粉体状の成形材料が多量になるとシリンダへの直接供給では均一な混練は極めて困難となり、粉体材料が成形材料全体の30重量%を越えると、従来の手法では均一な混練は不可能である。なお、特許文献3記載の成形方法では、シリンダ内で成形材料を詰まらせずにガス抜きを行うことは可能であるが、ペレット状のベース樹脂と粉体状の添加剤とをシリンダ内で充分に混練・分散させることはできず、成形品の品質を安定に維持することはできない。
【0011】
一般に、ペレット状のベース樹脂に大量の粉体状の添加剤を組み合わせた成形材料を用い、特許文献2,3の技術を適用して直接投入成形法で射出成形した場合、得られた成形品を検査してみると、添加剤がベース樹脂に均一に分散されておらず、目的とする品質の成形品は得られていない。また、粉体材料とペレット状材料とを攪拌機などにより充分に混合してホッパに貯留し、これらの成形材料をホッパからシリンダに直接供給する方法もあり得る。しかし、射出成形を繰り返している間には、射出成形装置の振動や各成形材料の形状や比重差などにより各成形材料がホッパ内で分離してホッパからシリンダ内に供給される各材料の比率が設計値どおりにならず、均一な品質の成形品を安定的に製造することができなくなる。
【0012】
こうした背景から、ベース樹脂としてポリ乳酸樹脂を用いる場合には、すでにペレット化されたポリ乳酸樹脂と適宜の粉体状の添加剤とを混練機で混練して再ペレット化し、このペレットを射出成形装置に投入して成形せざるを得ないのが実情となっている。この結果、混練機による前処理でポリ乳酸樹脂には熱劣化による分子量の低下や着色が現れ、最終的に得られる成形品の品質が充分に高いレベルに保たれているとは言い難い。
【0013】
本発明は上記事情を考慮してなされたもので、その目的は、ベース樹脂となるペレット状のポリ乳酸樹脂と、粉体状の添加剤とからなる成形材料をホッパを介してシリンダに供給して射出成形を行うにあたり、ホッパ内やシリンダ内でこれらの成形材料が詰まったり偏在したりすることがなく、シリンダ内では充分に混練分散させながらも、熱変化による品質劣化のない高品質のポリ乳酸樹脂の成形品を得ることができる射出成形方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は上記目的を達成するにあたり、計量工程、型締工程、射出工程、保圧工程、冷却工程、離型工程とからなる一連の成形工程の中で、特に計量工程の制御が課題の解決に密接に関連していることに着目したものである。計量工程は、一回の射出工程で金型内に射出される成形材料の量を正確に計量してシリンダの先端部に貯蔵するための工程である。計量工程では、シリンダ内に供給された成形材料をスクリュの回転によってシリンダの先端側に送り込んで貯留するが、貯留の進行とともに成形材料自身の背圧は徐々に大きくなってゆく。スクリュにはシリンダの先端方向に押圧する一定の背圧がかけられており、成形材料から受ける背圧が設定された背圧よりも大きくなるとスクリュは徐々に後退してゆく。そしてスクリュが予め定められた計量完了位置まで後退した時点でスクリュの回転が停止され計量が終了することになる。
【0015】
通常の計量工程では、シリンダの供給口に接続されたホッパには充分な量の成形材料が用意され、回転するスクリュの送り能力に合わせて成形材料を自重で落下させ、シリンダ内に空間ができないように供給が行われる。したがって、設定背圧が一定であれば、スクリュの回転数が高いほど成形材料の貯留が進むから計量時間は短くなり、回転数が低いほど計量時間は長くなる。逆に、スクリュの回転数が一定であれば、設定背圧を低く設定するほど計量時間が短く、逆に背圧を高くするほど計量時間が長くなる。ただし、背圧を低くし過ぎるとシリンダの先端側に貯留される成形材料に空気混入などの不都合が生じ、また高くし過ぎると必要以上に計量時間が長くなり成形サイクルの効率低下の要因となる。
【0016】
そして、本発明において特徴的なことは、ベース樹脂となるペレット状のポリ乳酸樹脂と、添加剤となる粉体状材料からなる成形材料を射出成形装置のシリンダ内に供給して射出成形を行うにあたり、所定の設定背圧に対し、前記シリンダに成形材料を100%供給する間に要する標準の計量時間をT100としたとき、「1.3≦Ts/T100<2.0」を満たす延長された計量時間Tsの間に定量の成形材料の供給を行うものである。
【0017】
シリンダへの成形材料の供給にあたっては、予め混合した成形材料をホッパに収容しておき、ホッパからマスフローで成形材料を流下させつつ定量切り出しを行うことにより、定量工程中のスクリュの回転中に一定量の連続した流れを作ってシリンダに定量供給を行うように構成される。射出成形装置のシリンダ内スクリュの形態としては、例えばその計量機能ゾーンにダルメージエレメントなどの剪断攪拌部位を2ピッチ以上、10ピッチ以下を有していることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ベース樹脂となるペレット状のポリ乳酸樹脂と、添加剤となる少なくとも一種類の粉体材料とからなる成形材料を用いて射出成形を行った際に、従来の成形手法では生じがちだったポリ乳酸樹脂と添加剤との不完全な混練分散をなくすと同時に、ベース樹脂であるポリ乳酸樹脂の熱履歴に伴う品質の劣化を防ぎ、高品質の成形品を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施に用いられる射出成形システムの一例を示す概念図である。
【図2】本発明による成形工程の一例を示す説明図である。
【図3】計量工程におけるスクリュの移動を示す説明図である。
【図4】本発明における成形品の重量と計量時間との相関を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明方法を実施するための成形システムの一例は概略的に図1に示されるとおりで、シリンダ2の内部に回転自在にスクリュ3が組み込まれ、インラインスクリュ型の射出成形機が用いられている。シリンダ2に成形材料の供給口2aが形成され、この供給口2aを通してシリンダ2内に成形材料が供給される。
【0021】
成形材料は、ベース樹脂の材料となるペレット状のポリ乳酸樹脂と、粉体状の少なくとも一種類の添加剤とからなる。なお、添加剤は二種類以上であってもよく、ペレット状の添加剤を含んでいてもよい。ベース樹脂材料を含むこれらの材料は、予め一定の比率となるように計量して混ぜ合わされ、攪拌により充分に混合された状態でホッパ5に投入される。ホッパ5への成形材料の投入は、ホッパ5内における残量を監視しながら適宜のタイミングで行われる。
【0022】
ホッパ5の底部には、特開2009−263090号公報などで知られるサークルフィーダ7が設けられている。このサークルフィーダ7は、ホッパ5の底部外周と円板状の底板との間にスリット状の隙間を有し、混ぜ合わされた成形材料はこの隙間から放射状に漏出して所定の安息角を保って底板との間に堆積する。そして、モータ7aを駆動して前記隙間から先端を突出させたスポーク状の回転羽根を回転させることによって、ホッパ5内における形成材料の混合状態に全く影響を与えることなく、成形材料をホッパ5からマスフローとして連続的に排出することが可能となる。
【0023】
サークルフィーダ7の排出口とシリンダ2の供給口2aとの間に定量切り出し装置8が設けられ、この定量切り出し装置8とサークルフィーダ7によって材料供給装置9が構成される。定量切り出し装置8は専用のモータで駆動されるブレード付きの切り出しロータを備え、モータ7aが駆動している間にサークルフィーダ7から排出されてくる成形材料を単位時間あたりの連続的な流量が一定になるように整流してシリンダ2に供給する。
【0024】
なお、定量切り出し装置8及び上述のサークルフィーダ7は、シリンダ2の内部に設けられたスクリュ3の回転に同期して駆動される。このためコントローラ11は、スクリュ3の回転やスラスト移動を制御するスクリュ駆動機構10からの信号を監視しながらサークルフィーダ7及び定量切り出し装置8の作動を制御する。こうして材料供給装置9の作動を制御することにより、成形材料はスクリュ3が回転している期間中にのみ、一定の流れを保ちつつ連続的に供給口2aを通してシリンダ2に供給されるようになる。シリンダ2の外周を取り囲むように成形材料加熱用のヒータが設けられており、後述する計量工程においてスクリュ3を回転して成形材料15をシリンダ2の先端側へと移送する間に成形材料15を溶融する。
【0025】
スクリュ3には、成形材料15を先端側に送るための螺旋状の羽根4aが設けられ、また長手方向の一部には高剪断攪拌用としてダルメージ型のエレメント4bが設けられている。このエレメント4bは羽根4aの3ピッチ分に相当しているが、計量工程中に成形材料15を充分に混練する目的では2〜10ピッチ分程度設けておくのが好ましい。それ以上のピッチ数になると、過度の混練による発熱により成形材料の熱劣化が懸念される。
【0026】
図2に上記の射出成形機による基本的な成形工程を表す。最初の型締工程から最終の離型工程までの全工程時間Ttの中には互いに重複する部分も一部含まれているが、成形工程は型締工程、射出工程、保圧工程、冷却工程、計量工程、離型工程からなる。型締工程では、金型12を閉じてその内部に溶融した成形材料15を充填するキャビティを形成し、さらに金型12のゲートにシリンダ2のノズル2aを連結する。
【0027】
この時点では、図1にも示すようにシリンダ2の先端側には一定量の溶融した成形材料15が貯留されている。したがって、次の射出工程でスクリュ駆動機構10を作動させ、スクリュ3を図示した計量完了位置から射出完了位置まで移動させることによって、溶融した一定量の成形材料15を金型12のキャビティ内に満たすことができる。
【0028】
その後、スクリュ3を成形材料15の送り出し方向に回転させ、金型12のキャビティ内に成形材料15を一定の圧力で押し込む保圧工程が行われる。この保圧工程は、金型12内を満たしている成形材料15が金型12を冷却している間に収縮してキャビティ内に空間ができることを防ぐためのものである。保圧工程は、冷却工程の開始後、溶融した成形材料15がガラス転移点よりも低くなった時点で完了するが、金型12から成形品を取り外すことができるような温度に達するまで冷却工程は引き続き行われる。
【0029】
金型12の冷却工程と並行し、成形材料の可塑化とともに、次の射出成形に用いられる成形材料15を計量してシリンダ2内に貯留する計量工程が行われる。計量工程は、図3(A)に示すようにスクリュ3がノズル2b側に最も移動した射出完了位置にあり、またシリンダ2内に成形材料15が残された状態で開始される。計量工程では、スクリュ3に軸方向への力はかけられておらず、一体化された羽根4aによってシリンダ内の成形材料15をノズル2b側に向けて送る方向にスクリュ3が回転される。
【0030】
スクリュ駆動機構10は、計量工程中にスクリュ3を上記方向に回転させるほかに、スクリュ3に背圧、すなわちスクリュ3が図中右方向に移動しようとする際に抵抗となる一定の圧力をかけている。このようにスクリュ3が回転されることに伴い、供給口2aから入ってくる成形材料15は羽根4aでかき混ぜられながら徐々にノズル2b側に送られる。そして、シリンダ2の外周を取り囲むようにヒータが設けられているから、計量工程で成形材料15がシリンダ2の先端側に送られてゆく間に成形材料15は加熱され、溶融した状態となる。溶融した成形材料15は羽根4a及び高剪断攪拌用のエレメント4bによって充分に混練され、徐々にシリンダ2の先端部分に貯留されてゆく。
【0031】
シリンダ2の先端部分における成形材料15の貯留量が増えてくると貯留圧が徐々に高くなる。成形材料15の貯留圧がスクリュ駆動機構10に設定された背圧を越えるようになると、スクリュ3は図3(B)に示すように図中右方向へと押し戻される。そしてスクリュ3が計量完了位置まで後退したことがスクリュ駆動機構10によって検知されるとスクリュ3の回転が停止され、また軸方向への移動も停止して計量工程が完了する図3(C))。計量工程の完了時には、シリンダ2の先端部分に次の射出工程で射出される一定量の成形材料15が確保されている。この時点では冷却工程が完了して金型12内で成形品は充分に冷やされているから、金型12を開いて成形品を取り出す離型工程が行われ、成形工程の1サイクルが完了する。
【0032】
上述した計量工程は、シリンダ2に固形状や粉体状で供給される成形材料15を可塑化し、次の射出工程で必要とされる一定量の成形材料15をシリンダ2の先頭部分に蓄えるために行われる。この計量工程に要する計量時間Tsは、スクリュ3の回転速度、シリンダ2への単位時間当たりの成形材料供給量、スクリュ3に加えられる背圧によって左右される。シリンダ2への背圧は金型への成形材料の充填圧に相当し、成形品のサイズや形状等に応じた適切な範囲に設定しておく必要がある。これに対し、計量時間Tsはスクリュ3の回転速度とシリンダ2への成形材料の供給の仕方との双方を考慮しつつ調整することが可能である。本実施形態では、スクリュ3の回転速度に対し、シリンダ2内に連続的に供給される成形材料15の供給量を低く抑え、計量時間Tsが長くなるように調整している。
【0033】
標準的な成形材料の供給手法では、上述したサークルフィーダ7や定量切り出し装置8を省略し、ホッパ5の底板に開けた排出用の開口をシリンダ2の供給口2aに直接的に連通させ、ホッパ5から自重で落下してマスフローとなった成形材料15を供給口2aから淀みなくシリンダ2に導入する。これにより、シリンダ2とスクリュ3との間に形成される成形材料15の移送空間がほぼ100%稠密に満たされるように成形材料15が供給され、この場合の計量時間T100は背圧を一定とすればスクリュ3の回転速度に応じて決まる。
【0034】
このように、シリンダ2内に成形材料15を充満させつつ供給するときの標準的な計量時間をT100としたとき、上記実施形態における計量時間Tsが「1.3×T100≦Ts<2.0×T100」の範囲に収まるように成形材料15の供給を制御するようにしている。計量時間Tsを標準的な計量時間T100の1.3倍以上、2倍未満に延長するには、単位時間当たりの成形材料15の供給を減らすほかに、スクリュ3の回転速度を遅くすることでも対応可能である。
【0035】
しかし、成形材料15が複数種類の材料を混合したものであり、シリンダ2内で充分に混練する必要があることから、必要以上にスクリュ3の回転速度を落とすことは現実的でない。スクリュ3の回転速度は、標準的な計量時間T100で計量工程が行われるときの回転速度の許容範囲内に留めておくことが好ましい。スクリュ3の回転速度が高すぎると、成形材料15を可塑化する際に混練が必要以上に行われることに伴い、すでに熱履歴を受けているペレット状材料が熱劣化しやすくなる。
【0036】
また、計量時間TsがT100の1.3倍未満であると、混練が不十分で成形材料15を構成する複数種類の材料の分散が不均一となり、成形品を高い品質に仕上げることができない。また、計量時間TsがT100の2倍以上になると、成形材料15の分散性・均一性は満たされるものの、ペレット状材料として供給されるベース樹脂が熱劣化し、やはり成形品の品質を実用レベルに維持することができない。加えて1サイクルの成形工程が長くなり過ぎて効率化を図ることが難しくなる。
【実施例】
【0037】
以下、本発明の射出成形方法が効果的であることを確認するためのテスト成形を行ったので、そのテストデータを示すとともに結果について考察する。
【0038】
[成形材料]
テストに用いた成形材料は、ベース樹脂としてペレット状になっているポリ乳酸樹脂を用いた。さらに、難燃性を高めたり衝撃強度の向上などを目的とする5種類の材料を混合して成形材料とした。その内訳は以下のとおり。
ポリ乳酸樹脂(ペレット状)/ユニチカ製(製品名「テラマックTE7000」)
・・・100重量部
ポリリン酸アンモニウム系難燃剤(粉体)/クラリアント社製(製品名「AP423」)
・・・・40重量部
相溶化剤(ホスファゼン誘導体)(粉体)/伏見製薬所製(製品名「ラビトルFP110」)
・・・・10重量部
酸化防止剤(粉体)/チバスペシャリティケミカルズ社製(製品名「イルガノックス245」) ・・・0.5重量部
加水分解防止剤(粉体)/日清紡製(製品名「カルボジライトLA1」)
・・・・3重量部
エラストマー(ペレット状)/三菱レイヨン社製(製品名「メタブレンSRK200」)
・・・15重量部
合計・・・168.5重量部
なお、ポリ乳酸樹脂は予め熱風乾燥機で80°C、5時間乾燥したものを使用した。また、難燃剤は予め減圧乾燥機で80°C、5時間乾燥したものを使用した。
【0039】
上記の成形材料を攪拌機で充分に混合した上で、図1に示すようにホッパ5に収容し、サークルフィーダ7及び定量切り出し装置8を利用することにより、計量工程におけるスクリュ3の回転中にだけ成形材料を一定の連続した流れとしてシリンダ3に供給した。
【0040】
[射出成形機]
射出成形機には、住友重機械社製のインラインスクリュ型射出成形機(製品名「SG150」)を用いた。この射出成形機は、シリンダ内径が45mm、スクリュ長が1240mm、スクリュ径が44.8mmである。なお、スクリュの計量領域に設けられる高剪断部形状として、4ピッチ分のダルメージエレメントをもつものを用いている。
【0041】
この射出成形機では、成形品の最大重量が300gまでの成形が可能であるが、ペレット状あるいは粉体状などの形態が異なる異種の材料を同時にシリンダに投入するダイレクトミキシング(DM)成形法では、成形可能な成形品の最大重量は230gとなる。ヒータ温度の設定は、ノズル側から順に、溶融した成形材料の貯留領域は195°C(成形温度)、計量領域は同じく195°C、圧縮領域は190°C、供給領域は180°Cである。また、成形機型締め力は150tである。
【0042】
以上の射出成形機を用いてテスト成形を行うにあたり、金型内に入れ子を組み合わせ一回の射出量が35g、75g、135g、230gの4段階に調節できるようにした金型を用いるが、射出量の異なるこれら4種類のサンプルを射出成形するにあたり、その計量時間Tsを標準的な計量時間T100よりも段階的に少しずつ長くなるように設定してその都度テスト成形を行った。この結果、射出量35gのグループAのサンプルA1〜A10、同様に、射出量75gのグループBではB1〜B10のサンプル、射出量135gのグループCではサンプルC1〜C12、射出量230gのグループDではサンプルD1〜D12を得た。
【0043】
上記グループA〜Dの各サンプル成形品は、金型に入れ子を組み合わせることによって、いずれのサンプルであっても一回の射出成形工程で3種類の試験片が同じ金型から得られるようにした。なお、射出量の調整は金型内にセットされる入れ子の種類で切り替えるようにし、こうして得られた3種類の試験片を用いて以下に挙げる試験を行った。なお、成形品重量(射出量)にかかわらず、スクリュの回転速度は50rpm、背圧は20kg/cm、射出速度は50mm/sec、保圧は100kg/cmで一定にしている。また、飢餓状態での成形材料の供給を計量時間Tsで表す代わりに、単位時間あたりの成形材料の供給量として表すことも可能で、この場合にはサークルフィーダ7と定量切り出し装置8の回転数を調節することで対応することができる。
【0044】
[シャルピー衝撃試験]
シャルピー衝撃試験片をJISK−7111に準じ、長さ80mm±2mm、幅10mm±0、厚さ4mm±0.2mmとし、ノッチ加工(ノッチ半径0.25mm±0.05mm、ノッチ部の幅8.0mm±0.2mm)を行った。ノッチ付き試験片の質量は4.2gであった。試験装置はTOYOSEIKI社製のIMPACTTESTER(アナログ式)を用いた。そして、上記の実施例及び比較例で得られた試験片をJISK−7111に準じてシャルピー衝撃試験に供し、5(kJ/m)以上を合格とする。
【0045】
[燃焼試験:UL94−V]
試験片のサイズは、長さ127mm、幅12.7mm、厚さ1.6mmである。UL94−Vは、プラスチック部品などの燃焼性試験のうちで最も基本的なもので、規定された寸法の試験辺にガスバーナの炎を当てて試験片の燃焼の程度を調べる。その等級は、難燃性の高い方から順に5VA、5VB、V−0、V−1、V−2、そしてHBがあり、V−1以上(5VA〜V−1)を合格とした。
【0046】
[ダンベル引張試験]
試験片の形状やサイズは、JIS K7139の多目的試験片B形を採用した。試験法の概要はJIS K7113による。評価の仕方はJIS K7113の引張破断伸び(%)を適用し、ダンベル伸びが95%以上の場合には成形品質(分散)が良好、ダンベル伸びが95%未満の場合には成形品質(分散)が劣るものとした
【0047】
[混練・分散性試験]
試験片は、UL94−Vの燃焼試験のものを流用した。燃焼試験を行う前に、この試験片を照度3800Lx〜4200Lxのライトテーブル(白色光)上に置き、試験片を透過する透過光によって分散性の良否を目視にて観察した。評価の基準は以下のとおりで、「△」以上を合格とした。なお、この評価基準は、製品の用途や要求される性能を考慮して変更することも可能である。
【0048】
「◎」 試験片中に凝集体が見られず、色味も均一状態である。
「○」 試験片中に凝集体は見られないが、色味にムラが観察される。
「△」 試験片中に長さ0.5mm以上の微小な凝集体がわずかに観察される。
「×」 試験片中に長さ0.5mm以上の微小な凝集体が5〜9個観察される。
「××」試験片中に長さ0.5mm以上の微小な凝集体が10個以上観察される。
【0049】
上記のテスト成形では、グループA〜Dでは成形品重量(射出量)が異なるだけで、その他の条件は共通である。また、一つのグループ内では計量時間Tsが段階的に異なるだけであるから、グループ単位では計量時間Tsの変化が各試験にどのような影響を与えているかが分かる。得られた各グループのサンプルについてそれぞれの試験で評価を行った結果は表1〜表4のとおりである。
【0050】
【表1】

【0051】
【表2】

【0052】
【表3】

【0053】
【表4】

【0054】
以上の各表から、グループAでは計量時間Tsが8秒〜12秒の範囲、グループBでは計量時間Tsが13秒〜19秒の範囲、グループCでは計量時間Tsが22秒〜36秒の範囲、グループDでは計量時間Tsが39秒から60秒未満の範囲が各試験をクリアする条件になっていることが分かる。表1〜表4の結果に基づいて、射出量と計量時間Tsとの相関を検討すると図4のようにグラフ化することができる。なお、計量時間Tsが60秒に達するまで長くなると、一連の射出成形工程の全工程時間Ttが長くなり過ぎて、300g以下という成形品重量を考慮すると効率的な射出成形方法とは言えなくなる。
【0055】
図4に示すように、標準計量時間T100は、スクリュ回転速度や背圧の条件を意図的に変更しない限りでは成形品重量(射出量)にほぼ比例する。これに対し、上記のテスト成形の結果では、ドットを付した領域Xが各試験をクリアする好適な計量時間Tsの範囲を表している。この領域Xは、成形品重量が75g、135g、230gの場合には、ほぼT100の1.3倍〜2.0倍未満の範囲と重なっている。したがって、成形品重量がほぼ50g以上であるなら、「1.3×T100≦ Ts < 2.0×T100」の条件で計量時間Tsを設定すれば、上記の成形材料を用いて良好な射出成形品を得るのに効果的であると言える。なお、計量時間Tsが2.0×T100に達するようになると、混練・分散性は良好になるものの、特に成形品重量が230gと大きくなってくるとベース樹脂の熱劣化が進み易く、所期の物性が得られない。
【0056】
成形品重量が35gと著しく小さくなると、「1.3×T100≦ Ts < 2.0×T100」の条件で計量時間Tsを延長しても、本来の標準的な計量時間T100と比較して延長時間の絶対量が足らずに、充分な混練・分散ができなくなることが原因であると解される。そこで、現実的な対処法としては、成形品重量が50gに達しないような場合には、計量時間Tsの下限値を8秒、上限値を12秒に設定し、T100の1.3倍〜2.0倍の範囲よりも計量時間Tsが長くなる方にシフトさせればよい。
【0057】
表5には、上述したテスト成形の結果について、各グループA〜Dのサンプルの中で、計量時間Tsを下限値,上限値に設定した上で一連のテスト成形を行ったサンプルの試験結果がまとめられている。
【0058】
【表5】

【0059】
次の表6は比較例をまとめたものである。比較例1,2は、成形品重量135gのグループCの中で、計量時間Tsを標準計量時間T100に設定したものと(サンプルC1と同じ)、計量時間Tsを54秒と著しく長く設定したものを示し、他の条件はこれまでのテスト成形と全く共通にしている。また、比較例3は計量時間Tsを良好な成形結果が得られる範囲の上限である36秒に設定されているが、使用したスクリュにダルメージなどの高剪断部がなく、図1に示す通常の羽根4aが一連に設けられただけのスクリュで計量し、射出成形を行ったものを示す。
【0060】
【表6】

【0061】
これらの比較例1〜3から明らかなように、計量時間Tsを適切な範囲で延長してシリンダ内を適度な飢餓状態にしながら計量を行い、しかもスクリュの一部にダルメージユニットに代表される高剪断攪拌部位を設けることは、特に、ペレット状のポリ乳酸樹脂をベース樹脂に用い、他に粉体状の添加剤をダイレクトミキシング方式でシリンダに供給して成形を行う場合には、非常に有効となる。
【0062】
比較例4は特許文献1の方式で成形材料をシリンダに供給した例に相当し、成形材料のうち他の材料とのコンパウンド化が困難な溶融しない無機系粉体の難燃剤を除く他の材料についてはベース樹脂とともに混合したペレット状材料として用意し、シリンダへの供給時にはこのペレット状材料と残りの溶融しない無機系粉体の難燃剤とを別系統で供給している。また、比較例5は特許文献2記載のようにベース樹脂となるペレット状のポリ乳酸樹脂と、それ以外の添加剤とをシリンダに別系統で供給している例である。これらの比較例は、DM方式で成形材料の供給を行う点で効率的ではあるが、シリンダへの供給時点では充分にミキシングがなされている訳ではなく、しかもシリンダ内でスクリュによって充分に混練・分散しているとは言い難いことから、成形品の品質を高めることは非常に困難である。
【0063】
以上に述べてきたとおり、本発明の射出成形方法は、ベース樹脂となるペレット状のポリ乳酸樹脂と、添加剤として加えられる少なくとも一種類の粉体状材料とを混合した成形材料を用いる際に有効である。また本発明は、ポリ乳酸樹脂以外であってもベース樹脂として熱劣化しやすいものを用いるときにも効果的に用いることができる。例えば、PETなどの加水分解を起こすポリエステル系樹脂や、ナイロンなどのポリアミド系樹脂は、ポリ乳酸樹脂と同様に成形温度で滞留しておくと熱分解しやすい。
【0064】
さらに、分解を促進する添加剤を入れたもの、例えばポリリン酸アンモニウム、水酸化アルミニウムなどのアルカリ性を示す難燃剤などを混入するときは、従来のように2軸混練機などを用いて予めペレット化してしまうと、射出成形時にシリンダ内でさらに成形温度に加熱されることから、熱履歴が増えて劣化しやすくなることが避けられない。この点、本発明ではダイレクトミキシング方式でシリンダに供給できるから、余計なコンパウンド化をせずに熱履歴を1回にするとともに、混練時の剪断を少なくしてベース樹脂の劣化を抑えることができる。
【0065】
ポリ乳酸樹脂以外に本発明の適用が効果的なベース樹脂の耐熱性を評価する一つの目安として、ダンベル引張試験が利用できる。例えば、そのベース樹脂を成形温度の環境下で3分間滞留させた後に射出成形を行って得た第1ダンベル試験片と、前記成形温度での滞留が無かったベース樹脂で射出成形を行って得た第2ダンベル試験片のそれぞれについて引張試験を行って比較したとき、第1ダンベル試験片の方が第2ダンベル試験片よりも破断伸びが10%以上低下するようなベース樹脂を含む成形材料に対して本発明は有効である。
【0066】
本発明に好適に使用できる射出成形装置としては、インラインスクリュ型のものであって、スクリュに高剪断攪拌部位を2〜10ピッチの範囲で有するものがよい。高剪断攪拌部位には、ダルメージ型エレメントのほかに、マドック、ピン、逆フライトなどのエレメントを用いることができる。また、複数種類の材料を混合した成形材料をダイレクトミキシング方式でホッパからシリンダに供給するにあたっては、公知のサークルフィーダを用いてスクリュの回転に同期させ、スクリュの回転中に成形材料を一定の流れに保ちながら連続供給するのがよい。
【符号の説明】
【0067】
2 シリンダ
2a 供給口
3 スクリュ
4a 羽根
4b ダルメージエレメント
5 ホッパ
7 サークルフィーダ
8 定量切り出し装置
10 スクリュ駆動機構
11 コントローラ
12 金型
15 成形材料


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベース樹脂となるペレット状のポリ乳酸樹脂と、粉体状の添加剤とを含む複数の材料を混合した成形材料を供給口からシリンダに供給し、シリンダ内部でスクリュを回転することによって前記成形材料を混練分散しながらノズルに向かって移送して1回の射出成形に必要な成形材料の計量を行う計量工程の後に射出成形する成形方法において、
前記シリンダとスクリュとの間に形成される成形材料の移送空間が稠密に満たされるように前記供給口から成形材料を供給する標準の計量工程に要する時間をT100としたとき、1.3×T100≦ Ts < 2.0×T100を満たす計量時間Tsとなるように前記供給口からシリンダ内に連続的に供給される成形材料の供給量を調節することを特徴とする射出成形方法。
【請求項2】
前記成形材料は、計量工程中、実質的に増減のない一定の流れで前記供給口からシリンダ内に定量供給されることを特徴とする請求項1記載の射出成形方法。
【請求項3】
前記成形材料を構成するペレット状のポリ乳酸樹脂と粉体状の添加剤を含む複数の材料は混合した状態でホッパに収容され、前記スクリュの回転に同期して作動する材料供給装置によって前記供給口からシリンダ内に供給されることを特徴とする請求項2記載の射出成形方法。
【請求項4】
前記スクリュは、その計量機能ゾーンに高剪断攪拌機能をもつエレメントを2〜10ピッチ備えていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の射出成形方法。
【請求項5】
前記エレメントがダルメージエレメントであることを特徴とする請求項4記載の射出成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−1079(P2013−1079A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−137684(P2011−137684)
【出願日】平成23年6月21日(2011.6.21)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】