説明

射出成形機における射出シリンダ保温方法及び保温ジャケット

【課題】射出シリンダの外周面に断熱カバーを巻き付けて保温する場合に比べて射出シリンダを高い精度で温度制御することができ、高品質の成形品を成形することができる。射出シリンダに対して保温ジャケットを簡易に着脱することができ、成形作業を効率化することができる。
【解決手段】ノズルタッチ部を除いた射出シリンダの外周面に対し、断熱材が内包された保温ジャケットを所要幅の空隙を介して全体的に巻き付けて取付けて射出シリンダの各部位を所定の設定温度に保つ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形機における射出シリンダの保温方法及びこれに使用する保温ジャケットに関する。
【背景技術】
【0002】
射出成形機において金型内に射出される合成樹脂は、電気ヒータにより加熱された射出シリンダ内に供給された樹脂ペレットを、加熱しながら内部に設けられた射出スクリューにより加圧混練することにより所定の溶融状態に形成している。その際、射出シリンダは、電気ヒータにより200℃〜300℃近くの温度に加熱されるが、放熱により温度低下するため、所定の温度に維持するには、射出シリンダに設けられた温度センサからの検知信号に基づいて電気ヒータに電流を印加して所定温度に保つように制御している。
【0003】
このため、射出シリンダを所定の温度に保つには、電気ヒータによる消費電力が増大し、成形コストが高コスト化する問題を有している。特に、冬季においては、射出シリンダの雰囲気温度が低いため、放熱量が多くなって電気ヒータの消費電力が増大している。
【0004】
射出シリンダを加熱するための消費電力を低減するため、従来は、射出シリンダの外周面に、グラスウール等により形成された断熱カバーを直接、巻き付けて放熱量を低減する試みが行われていた。しかし、上記のように射出シリンダに直接、断熱カバーを巻き付けた場合には、電気ヒータへの通電を中断した場合であっても、射出シリンダの中間部位においては、温度が上昇し続ける問題を有している。
【0005】
これは、射出シリンダ内に設けられた射出スクリューの回転に伴って樹脂ペレットを加圧混練する際に、射出スクリューによる樹脂ペレットのせん断に伴ってせん断熱が発生し、このせん断熱により温度上昇するとみられる。このため、射出シリンダの中間部位においては、所定温度に保つ温度制御が困難になり、例えばポリカーボネイト樹脂やポリアミド樹脂等にあっては、射出シリンダが所定の温度範囲以上に上昇すると、溶融した合成樹脂が変質したり、焼けて変色する問題を有している。この結果、成形された成形品を不良品化する要因になっている。
【0006】
この問題を解決するには、射出シリンダの温度が所定の温度範囲以上に上昇した際には、空気を吹き付けて所定の温度範囲になるように冷却して温度制御する必要があるが、上記したように射出シリンダに断熱カバーを直接巻き付けた場合にあっては、空冷による冷却効果も悪く、射出シリンダを所定の温度に保つことが事実上、できなかった。
【0007】
また、特に外気温が高い夏季においては、射出シリンダを、特に保温する必要性がなかった。しかし、射出シリンダの外周面に断熱カバーを直接巻き付ける従来の保温方法にあっては、高温化した射出シリンダから断熱カバーを取外すには、射出シリンダの温度が低下するまで待って行う必要があると共に取外し作業に手間がかかって作業性が悪かった。なお、射出シリンダに対して断熱カバーを取り付ける際にも、同様な問題点を有している。
【特許文献1】特開平−号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
解決しようとする問題点は、射出シリンダの外周面に断熱カバーを巻き付けて保温する場合には、射出シリンダが所定の温度になるように温度制御することが困難な点にある。射出シリンダに対して断熱カバーを巻き付けたり、外したりするには、射出シリンダの温度で低下するまで、待つ必要があり、着脱作業性が悪い点にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の請求項1は、射出成形機の射出シリンダにおいて、ノズルタッチ部を除いた射出シリンダの外周面に対し、断熱材が内包された保温ジャケットを所要幅の空隙を介して全体的に巻き付けて取付けて射出シリンダの各部位を所定の設定温度に保つことを可能にしたことを特徴とする。
【0010】
請求項4は、射出成形機の射出シリンダを、ノズルタッチ部を除いた状態で、かつ外周面に対して所定の間隙を保つ大きさからなり、断熱繊維布により断熱材を被覆してなる保温カバーと、保温カバーの端部を固定する固定部材とを備え、ノズルタッチ部を除いた射出シリンダの外周に対して上記間隙を設けて取り付け可能にしたとを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、射出シリンダの外周面に断熱カバーを巻き付けて保温する場合に比べて射出シリンダを高い精度で温度制御することができ、高品質の成形品を成形することができる。また、射出シリンダに対して保温ジャケットを簡易に着脱することができ、成形作業を効率化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、ノズルタッチ部を除いた射出シリンダの外周面に対し、断熱材が内包された保温ジャケットを所要幅の空隙を介して全体的に巻き付けて取付けて射出シリンダの各部位を所定の設定温度に保つことを最良の形態とする。
【実施例】
【0013】
以下に実施形態を示す図に従って本発明を説明する。
図1に示すように、射出成形機の射出シリンダ1は、該射出成形機の本体フレーム(図示せず)に対して射出成形機の中心軸線方向へ所定のストロークが往復移動するように支持され、その先端部には、射出成形機の固定プラテン及び固定側取付け盤(図示せず)に形成された孔内に挿入された固定金型(図示せず)の湯道に当接するノズルタッチ部1aを有している。また、射出ノズル1の外周面には、複数個の電気ヒータ(図示せず)が取付けられ、該射出シリンダ1を、成形する合成樹脂の種類に応じた最適の加熱溶融可能な温度(約200℃〜300℃)に加熱させる。
【0014】
また、ノズルタッチ部1aを除いた射出シリンダ1の周囲には、金属材料からなり、軸線直交方向断面が開口した向きコの字形に形成されたシリンダカバー3が、射出シリンダ1の下部外周面を除き、かつ外周面に対して所定幅の間隙を設けて取付けられている。
【0015】
図2乃至図4に示すように、上記シリンダカバー3の外面には、保温ジャケット5が巻き付けられている。該保温ジャケット5は、例えばガラス繊維、炭化ケイ素繊維等により形成された断熱繊維布内にグラスウール等の断熱材を封入したもので、該保温ジャケット内には、シリンダカバー3の上面及び両側面に位置する箇所に複数個の磁石7が長手方向に対して所定の間隔をおいて取付けられる。また、保温ジャケット5の長手直交方向の端縁には、耐熱材により形成されたベルクロファスナー9a・9bが、長手方向に対して適宜間隔をおいて取付けられている。更に、ノズルタッチ部1a側に位置する保温ジャケット1の端縁には、耐熱繊維で形成された紐11が取付けられている。
【0016】
尚、保温ジャケット5の少なくとも表面側の断熱繊維布の表面には、フッ化樹脂等がコーティングされ、汚れを付着しにくくする防汚処理されている。
【0017】
そして図4に示すように、上記保温ジャケット5は、シリンダカバー3の上面及び両側面に対して磁石7を磁着させながら長手方向全体の周囲を覆うように巻き付けながら覆った後、長手直交方向の各端部をベルクロファスナー9a・9bにより固定すると共にノズルタッチ部1a側の長手方向端部を紐11により絞ってシリンダカバー3に固定させる。
【0018】
以下において、射出シリンダ1の外周面に断熱カバーを直接巻き付けた保温方法と本例に係る保温ジャケット5を使用した保温方法による比較例を示す。
射出シリンダの直径:96mm 断熱カバー及び保温ジャケットの厚さ:25mm
射出シリンダ外周面とシリンダカバーの間隔:18.5mm
射出シリンダのノズルチップ:HN、射出シリンダの先部:H1
射出シリンダの中間部:H2、射出シリンダの基部:H3
射出シリンダ1の外周面に断熱カバーを直接巻き付けた保温方法による各部位における時間に対する温度変化を表1に示す。
【表1】

【0019】
本例に係る保温ジャケット5を使用した保温方法による各部位における時間に対する温度変化を表2に示す。
【表2】

【0020】
表1から明らかなように、部位H2においては、射出シリンダ温度を250℃に設定したにもかかわらず、時間の経過に伴って徐々に増大し、最大で20.8℃上昇した。この現象は、上記で説明したように、部位H2においては、部位H3で加熱された樹脂ペレットが射出スクリューの回転に伴ってせん断されることによりせん断熱が発生し、電気ヒータによる加熱温度以上になることによる。しかし、該現象は、樹脂ペレットを過度に加熱することになり、合成樹脂品質を悪くする原因になっている。なお、他の部位HN、H1、H3においては、250℃、255℃、240℃にそれぞれ設定したが、温度変化は、余り現れなかった。
【0021】
一方、表2から明らかなように、部位H2においては、射出シリンダ温度を290℃に設定したが、±約1℃の範囲で温度変化したのみで、その際の電気ヒータに対する通電時間は、1分当たり、最大で5.4秒であった。このように本例にあっては、射出シリンダ1、特に部位H2における温度を高い精度で制御することができた。なお、他の部位H1、H3においては、300℃、280℃にそれぞれ設定したが、温度変化は、余り現れなかった。
【0022】
本実施例は、射出シリンダ1に対して簡易に着脱でき、作業性に優れている。また、射出シリンダ1に対して空隙を設けて装着されることにより射出シリンダ1の温度を容易に制御することができる。
【0023】
上記説明は、成形作業時に射出シリンダ1の温度を成形樹脂の種類に応じた所定の設定温度に保温する場合に付いて説明したが、成形作業終了後に次の成形作業に段取り換えする際には、射出シリンダ1の温度を短時間に低下させる必要がある。これを可能にするには、射出シリンダ1に空気を直接当てて冷却するため、ベルクロファスナー9a・9bによる保温ジャケット5の固定状態を解除してシリンダカバー3の被覆状態を一部または全部、解除することにより空気を当てて冷却することができる。
【0024】
また、他の例としては、図5に示すように保温ジャケット5におけるシリンダカバー3の側面に対応する箇所に複数の開口部5aを形成すると共に該開口部5aの端縁に、保温カバーと同一の材質からなる開閉フラップ13を縫着し、射出シリンダ1を保温する場合には、開閉フラップ13により開口部5aを閉鎖する一方、段取り換えする際には、開閉フラップ13により開口部5aを開放させてシリンダカバー3に対して外気を直接接触させるようにすればよい。
【0025】
上記説明は、射出シリンダ1のシリンダカバー3の外面に保温ジャケット5を装着して射出シリンダ1を保温する方法としたが、本発明においては、射出シリンダの外周面に対して所定幅の間隙を設けて保温ジャケットを取付ける事項を発明の要旨とするものである。従って、射出シリンダの外周面に対して所定幅の間隙を保つように形成された取付けフレーを射出シリンダの基部に固定し、該取付けフレームに対して保温ジャケットを着脱可能にして射出シリンダを保温可能にする構成であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明が適用される射出成形機の射出シリンダ周りを示す略体斜視図である。
【図2】射出シリンダに保温ジャケットを取付けた状態を示す斜視図である。
【図3】保温ジャケットの展開説明図である。
【図4】図2におけるA−A線縦断面図である。
【図5】保温ジャケットの変更例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0027】
1 射出シリンダ
1a ノズルタッチ部
3 シリンダカバー
5 保温カバー
5a 開口部
7 磁石
9a・9b ベルクロファスナー
11 紐
13 開閉フラップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
射出成形機の射出シリンダにおいて、
ノズルタッチ部を除いた射出シリンダの外周面に対し、断熱材が内包された保温ジャケットを所要幅の空隙を介して全体的に巻き付けて取付けて射出シリンダの各部位を所定の設定温度に保つ射出シリンダ保温方法。
【請求項2】
請求項1において、ノズルタッチ部を除いた射出シリンダの外周面に対して少なくとも射出シリンダの下部外周面に応じた個所が開口した金属カバーを所要幅の空隙を介して取付け、該金属カバーの外面に断熱材が内包された保温ジャケットを全体的に巻き付けて射出シリンダの各部位を所定の設定温度に保つ射出成形機における射出シリンダ保温方法。
【請求項3】
請求項1において、金属カバーは、射出シリンダカバーとした射出成形機における射出シリンダ保温方法。
【請求項4】
射出成形機の射出シリンダを、ノズルタッチ部を除いた状態で、かつ外周面に対して所定の間隙を保つ大きさからなり、断熱繊維布により断熱材を被覆してなる保温カバーと、
保温カバーの端部を固定する固定部材と、
を備え、
ノズルタッチ部を除いた射出シリンダの外周に対して上記間隙を設けて取付け可能な射出成形機における射出シリンダの保温ジャケット。
【請求項5】
請求項4において、保温カバーには、複数の開口部を形成すると共にそれぞれの開口部に保温カバーと同一の材質からなる開閉フラップを取付け、各開口部を介して流入する空気により射出シリンダを冷却可能にした射出成形機における射出シリンダの保温ジャケット。
【請求項6】
請求項4において、少なくとも表面側に位置する断熱繊維布には、撥水剤がコーティングされた射出成形機における射出シリンダの保温ジャケット。
【請求項7】
請求項4において、ノズルタッチ部を除いた射出シリンダの外周には、所定幅の間隙をおいて金属カバーを取付け、該金属カバーの外面に保温ジャケットを被覆可能にした保温ジャケット。
【請求項8】
請求項7において、保温カバーには、磁石を取付け、金属カバーの外面に対して磁気吸着力により固定可能にした保温ジャケット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−83090(P2010−83090A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−256916(P2008−256916)
【出願日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【出願人】(506329292)スターテクノ株式会社 (45)
【Fターム(参考)】