説明

射出成形機における射出圧力の測定方法

【課題】 射出成形機において、射出の際の加熱バレル内の溶融樹脂の圧力を、スクリュの後方に取り付けられたロードセルを用いて精度良く測定することができる方法を提供する。
【解決手段】 加熱バレル1内でスクリュ2を前進させて金型内に溶融樹脂を射出する際、スクリュ2に作用する軸方向の反力を、スクリュ2の後方に取り付けられたロードセル11を用いて検出する。これとともに、スクリュ2の速度を測定し、その速度を時間について微分してスクリュ2の加速度を算出する。算出された加速度の値に、スクリュ2及び中間プレート6などのロードセル11の前方に接続された可動部材の質量を乗じ、その慣性力を算出する。算出された慣性力を用いて、ロードセル11で検出された上記反力を補正することにより、加熱バレル1内の溶融樹脂の圧力を算出する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、射出成形機における射出圧力の測定方法に関する。
【0002】
【従来の技術】射出成形機では、加熱バレル内に樹脂や金属などの溶融原料を貯えた後、加熱バレル内でスクリュを前進させて溶融原料を金型内に射出している。射出の際の溶融原料の圧力(以下、射出圧力とも呼ぶ)は、スクリュの後方に取り付けられたロードセルを用いて検出されている。
【0003】(従来の射出圧力の測定方法の問題点)ロードセルの出力には、スクリュの先端部に作用する溶融原料による圧力の他に、スクリュの加減速時に発生するスクリュ等(具体的には、ロードセルの前方に接続され、溶融原料とロードセルの間に介在する可動部材)の慣性力が加算される。ここで、慣性力は、「質量×加速度」であるので、スクリュ等の可動部材の重量が大きい場合、あるいは加速度の絶対値が大きい場合には、慣性力も大きな値となる。その結果、実際の溶融原料の圧力の検出精度が低下するという問題が生ずる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、従来の射出成形機における以上のような問題点に鑑み成されたもので、本発明の目的は、射出の際の加熱バレル内の溶融原料の圧力を、精度良く測定することができる 射出圧力の測定方法 を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明の射出成形機における射出圧力の測定方法は、加熱バレル内でスクリュを前進させて金型内に溶融原料を射出する際、前記スクリュの後方に取り付けられたロードセルを用いて、前記スクリュに作用する軸方向の反力を検出し、これと同時に、前記スクリュの速度を測定し、この速度の測定値に基づいて前記スクリュの加速度を算出し、この加速度の値に基づいて、前記スクリュを含む前記ロードセルの前方に接続された可動部材の慣性力を算出し、この慣性力を用いて前記反力を補正して前記加熱バレル内の溶融原料の圧力を算出することを特徴とする。
【0006】本発明に基づく射出圧力の測定方法によれば、溶融原料を射出する際のスクリュの加速度を算出し、その値に前記可動部材(即ち、溶融原料とロードセルの間に介在する可動部材であって、前記スクリュを含む。以下、単に「スクリュ等」と記す)の質量を乗じることによって、スクリュ等の慣性力が求められる。従って、ロードセルで検出された前記反力を、この慣性力を用いて補正することによって、加熱バレル内の溶融原料の圧力をより正確に求めることができる。具体的には、スクリュの加速時には、ロードセルで検出された前記反力から慣性力(絶対値)を減じ、スクリュの減速時には、前記反力に慣性力(絶対値)を加えることによって、加熱バレル内の溶融原料の圧力を算出する。
【0007】なお、上記の方法において、スクリュの速度の測定値に基づいてスクリュの加速度を算出する代りに、スクリュの加速度を直接、測定しても良い。
【0008】また、スクリュの位置を測定し、この位置の測定値に基づいてスクリュの速度を算出し、算出された速度から更にスクリュの加速度を算出してもよい。
【0009】また、上記の方法が使用される本発明の射出成形機は、加熱バレル内でスクリュを前進させて金型内に溶融原料を射出する射出成形機において、前記スクリュの後方に取り付けられ、前記スクリュに作用する軸方向の反力を検出するロードセルと、加熱バレル内を前進する際の、前記スクリュの速度を測定する速度検出器と、前記速度の測定値に基づいて前記スクリュの加速度を算出し、この加速度の値に基づいて、前記スクリュを含む前記ロードセルの前方に接続された可動部材の慣性力を算出し、この慣性力を用いて前記反力を補正して前記加熱バレル内の溶融原料の圧力を算出する演算装置と、を備えたこと特徴とする。
【0010】なお、上記の射出成形機において、スクリュの速度の測定値に基づいてスクリュの加速度を算出する代りに、加速度検出器を用いてスクリュの加速度を直接、測定しても良い。
【0011】また、スクリュの位置を測定し、この位置の測定値に基づいてスクリュの速度を算出し、算出された速度から更にスクリュの加速度を算出してもよい。
【0012】
【発明の実施の形態】図1に、本発明に基づく射出圧力の測定方法が使用される射出成形機の例を示す。図中、1は加熱バレル、2はスクリュ、3はフロントプレート、4はリアプレ−ト、5はガイドバー、6は中間プレート、10はボールネジ、11はロードセル、13は射出用のサーボモータ、21はエンコーダ(速度検出器)を表わす。
【0013】加熱バレル1は、その先端側(図では左側)でノズルを介して金型(図示せず)の背面に接続される。加熱バレル1の内部には、スクリュ2の先端側が収容されている。加熱バレル1の後端部は、フロントプレート3の中央に支持されている。フロントプレート3の後方には、フロントプレート3に対向してリアプレート4が配置されている。フロントプレート3とリアプレート4の間には、4本のガイドバー5が架け渡され、これらガイドバー5を介して両者が互いに結合されている。
【0014】フロントプレート3とリアプレート4の間には、中間プレート6が配置されている。中間プレート6の周縁部の四隅には貫通孔が設けられ、これら貫通孔の中を上記のガイドバー5が貫通している。中間プレート6は、ガイドバー5によってガイドされ、前後方向(図では左右方向)に移動することができる。
【0015】中間プレート6の中央には、軸受7が組み込まれ、この軸受7によってスクリュ2の後端部が回転自在に支持されている。中間プレート6には、計量用のサーボモータ8が搭載されている。サーボモータ8のシャフトは、プーリ及びタイミングベルト9を介してスクリュ2の後端部近傍に接続されている。
【0016】中間プレート6は、ロードセル11及びボールネジ10を介してリアプレート4の前面に接続されている。ボールネジ10のネジ軸10aは、ロードセル11の背面に固定され、ナット10bは、リアプレート4の中央に軸受12を介して回転自在に支持されている。リアプレート4には、射出用のサーボモータ13が搭載されている。サーボモータ13のシャフトは、プーリ及びタイミングベルト14を介してナット10bの後端部に接続されている。
【0017】加熱バレル1内でスクリュ2を前進させて金型内に溶融樹脂を射出する際、スクリュ2に作用する軸方向の反力を、スクリュ2の後方に取り付けられたロードセル11を用いて検出し、その値を演算装置22へ送る。またこれとともに、エンコーダ21によりスクリュ2の速度を測定し、その値を演算装置22に送る。演算装置22は、スクリュ2の速度を時間について微分してスクリュ2の加速度を算出し、この加速度の値に、スクリュ2及び中間プレート6などのロードセル1の前方に接続された可動部材の質量を乗じ、その慣性力を算出する。算出された慣性力を用いて、ロードセル11で検出された上記反力を補正することにより、加熱バレル1内の溶融樹脂の圧力を算出する。
【0018】図2に、加熱バレル1内に溶融樹脂が入っていない状態で射出動作を行った時の、スクリュ2の速度及びロードセル11の出力の測定波形の一例を示す。加熱バレル1内が空の状態であるので、スクリュ2の先端部分に作用している圧力が零であるにも関わらず、スクリュ2等の慣性力をロードセル11が検出して、測定波形に非零の出力が現われていることが分かる。
【0019】そこで、上記の慣性力の影響をロードセル11の出力から取り除くため、スクリュ2の加速度から上記の慣性力を算出する。
【0020】図3に、先に図2に示した速度波形を時間について微分して得られた加速度の波形、及びこの加速度にスクリュ等の質量(この例では、スクリュ2、中間プレート6、中間プレート6に搭載されているサーボモータ8及びプーリ及びタイミングベルト9などの質量の合計値)を乗じて求められた慣性力の波形を示す。このようにして求められた慣性力の波形と、先に図2に示したロードセルの出力の波形がほぼ一致していることが分かる。
【0021】図4に、ロードセルの出力、慣性力、及びロードセルの出力から慣性力を差し引いた後の値(以下、補正後のロードセル出力と呼ぶ)の波形を示す。補正後のロードセル出力がほぼ零になっており、加熱バレル1内に溶融樹脂が入っていない状態を正確に表していることが分かる。
【0022】次に、実際に溶融樹脂を用いて射出成形を行った際の、各波形の例を示す。
【0023】図5に、射出成形を行った際の、スクリュ2の速度及びロードセル11の出力の測定波形の一例を示す。スクリュ2の加減速時には、ロードセルの出力は、スクリュの先端部において溶融樹脂から受ける力に、スクリュ等の慣性力が加算された値となる。
【0024】図6に、図5に示した速度波形を微分して得られた加速度の波形、及びこの加速度にスクリュ等の質量を乗じて求められた慣性力の波形を示す。
【0025】図7に、ロードセルの出力、慣性力、及び補正後のロードセル出力の波形を示す。補正前のロードセルの出力波形には、加減速時に不規則に変化する箇所が見られるが、これは慣性力の影響を受けているためである。補正後のロードセルの出力波形は、加減速時にも比較的滑らかに変化しており、溶融樹脂から受ける力を正確に表していると考えられる。この補正後のロードセル出力の値をスクリュの断面積で割ることにより、溶融樹脂の圧力(射出圧力)を求めることができる。
【0026】
【発明の効果】本発明の方法によれば、スクリュの後方に取り付けられたロードセルの出力を、スクリュ等の慣性力を用いて補正することによって、溶融樹脂の圧力を正確に求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に基づく射出圧力の測定方法が使用される射出成形機の例を示す図。
【図2】加熱バレル内に溶融樹脂が入っていない状態で射出動作を行った時の、スクリュの速度及びロードセルの出力の測定波形の例を示す図。
【図3】図2に示した速度波形を微分して得られた加速度の波形、及びこの加速度にスクリュ等の質量を乗じて求められた慣性力の波形を示す図。
【図4】加熱バレル内に溶融樹脂が入っていない状態で射出動作を行った時の、ロードセルの出力、慣性力、及び補正後のロードセル出力の波形を示す図。
【図5】溶融樹脂を用いて射出成形を行った際の、スクリュの速度及びロードセルの出力の測定波形の例を示す図。
【図6】図5に示した速度波形を微分して得られた加速度の波形、及びこの加速度にスクリュ等の質量を乗じて求められた慣性力の波形を示す図。
【図7】溶融樹脂を用いて射出成形を行った際の、ロードセルの出力、慣性力、及び補正後のロードセル出力の波形を示す図。
【符号の説明】
1・・・加熱バレル、
2・・・スクリュ、
3・・・フロントプレート、
4・・・・リアプレ−ト、
5・・・ガイドバー、
6・・・中間プレート、
7・・・軸受、
8・・・サーボモータ、
9・・・プーリ及びタイミングベルト、
10・・・ボールネジ、
10a・・・ネジ軸、
10b・・・ナット、
11・・・ロードセル、
12・・・軸受、
13・・・サーボモータ、
14・・・プーリ及びタイミングベルト14。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 加熱バレル内でスクリュを前進させて金型内に溶融原料を射出する際、前記スクリュの後方に取り付けられたロードセルを用いて、前記スクリュに作用する軸方向の反力を検出し、これと同時に、前記スクリュの速度を測定し、この速度の測定値に基づいて前記スクリュの加速度を算出し、この加速度の値に基づいて、前記スクリュを含む前記ロードセルの前方に接続された可動部材の慣性力を算出し、この慣性力を用いて前記反力を補正して前記加熱バレル内の溶融原料の圧力を算出することを特徴とする射出成形機における射出圧力の測定方法。
【請求項2】 加熱バレル内でスクリュを前進させて金型内に溶融原料を射出する際、前記スクリュの後方に取り付けられたロードセルを用いて、前記スクリュに作用する軸方向の反力を検出し、これと同時に、前記スクリュの加速度を測定し、この加速度の測定値に基づいて、前記スクリュを含む前記ロードセルの前方に接続された可動部材の慣性力を算出し、この慣性力を用いて前記反力を補正して前記加熱バレル内の溶融原料の圧力を算出することを特徴とする射出成形機における射出圧力の測定方法。
【請求項3】 加熱バレル内でスクリュを前進させて金型内に溶融原料を射出する際、前記スクリュの後方に取り付けられたロードセルを用いて、前記スクリュに作用する軸方向の反力を検出し、これと同時に、前記スクリュの位置を測定し、この位置の測定値に基づいて前記スクリュの速度を算出し、算出された速度から更に前記スクリュの加速度を算出し、この加速度の値に基づいて、前記スクリュを含む前記ロードセルの前方に接続された可動部材の慣性力を算出し、この慣性力を用いて前記反力を補正して前記加熱バレル内の溶融原料の圧力を算出することを特徴とする射出成形機における射出圧力の測定方法。
【請求項4】 加熱バレル内でスクリュを前進させて金型内に溶融原料を射出する射出成形機において、前記スクリュの後方に取り付けられ、前記スクリュに作用する軸方向の反力を検出するロードセルと、加熱バレル内を前進する際の、前記スクリュの速度を測定する速度検出器と、前記速度の測定値に基づいて前記スクリュの加速度を算出し、この加速度の値に基づいて、前記スクリュを含む前記ロードセルの前方に接続された可動部材の慣性力を算出し、この慣性力を用いて前記反力を補正して前記加熱バレル内の溶融原料の圧力を算出する演算装置と、を備えたこと特徴とする射出成形機。
【請求項5】 加熱バレル内でスクリュを前進させて金型内に溶融原料を射出する射出成形機において、前記スクリュの後方に取り付けられ、前記スクリュに作用する軸方向の反力を検出するロードセルと、加熱バレル内を前進する際の、前記スクリュの加速度を測定する加速度検出器と、前記加速度の測定値に基づいて、前記スクリュを含む前記ロードセルの前方に接続された可動部材の慣性力を算出し、この慣性力を用いて前記反力を補正して前記加熱バレル内の溶融原料の圧力を算出する演算装置と、を備えたこと特徴とする射出成形機。
【請求項6】 加熱バレル内でスクリュを前進させて金型内に溶融原料を射出する射出成形機において、前記スクリュの後方に取り付けられ、前記スクリュに作用する軸方向の反力を検出するロードセルと、加熱バレル内を前進する際の、前記スクリュの位置を測定する位置検出器と、前記位置の測定値に基づいて前記スクリュの速度を算出し、算出された速度から更に前記スクリュの加速度を算出し、この加速度の値に基づいて、前記スクリュを含む前記ロードセルの前方に接続された可動部材の慣性力を算出し、この慣性力を用いて前記反力を補正して前記加熱バレル内の溶融原料の圧力を算出する演算装置と、を備えたこと特徴とする射出成形機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2003−191285(P2003−191285A)
【公開日】平成15年7月8日(2003.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2001−394509(P2001−394509)
【出願日】平成13年12月26日(2001.12.26)
【出願人】(000003458)東芝機械株式会社 (843)
【Fターム(参考)】