説明

射出成形機の異常検出装置

【課題】異常検出のための閾値を自動的に設定してオペレータの負担を軽減しかつ最適な閾値を算出し、さらには一般的な射出成形機の制御装置に付加することが容易な異常検出装置を提供する。
【解決手段】可動部の動作を開始し、現在の時間または可動部の位置及び物理量を検出し、基準物理量は記憶済みか否か判断し、否の場合は時間または可動部の位置に対応させて基準物理量を記憶しSA12へ移行し、記憶済みの場合には物理量の偏差を算出し(SA01〜SA06)、偏差の絶対値を算出し、偏差の絶対値の平均値を算出し、記憶し、閾値を算出し、偏差の絶対値が閾値より大きいか否か判断し(SA07〜SA10)、大きい場合にはアラーム処理を実行し終了し、否の場合は動作完了か否か判断し、動作完了の場合にはサイクル終了か否か判断し、サイクルを終了し、否の場合はステップSA01に戻り処理を継続する(SA11〜SA13)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形機の異常検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明は射出成形機に関し、特に、射出成形機の異常検出装置に関する。射出成形機を用いて成形品を製造する射出成形サイクルにおける型開閉動作や成形品突き出し動作では、時間または可動部の位置に対応して前記可動部を駆動するモータの負荷について基準負荷を記憶しておき、さらに、記憶された前記基準負荷と実際のモータ負荷を時間または可動部の位置に対応させて順次比較して、その偏差が予め設定された閾値を超えたか否かで型開閉動作や突き出し動作の異常を検出し、射出成形機を瞬時に停止させることで、機構部や金型の破損を防止している。
例えば、特許文献1や特許文献2には、上述した破損防止のための異常検出技術であり、正常な型開閉動作や突き出し動作が行われた少なくとも過去1回分の負荷或いは複数回の動作の移動平均値を算出することにより得られた負荷を、基準負荷として設定する技術が開示されている。また、特許文献3や特許文献4には、過去に検出されたモータ電流の平均値や分散から閾値を求める射出成形機の制御技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−30326号公報
【特許文献2】特開2001−38775号公報
【特許文献3】特開2004−330529号公報
【特許文献4】特開2005−280015号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、背景技術で説明した特許文献1〜4に開示される技術には次のような問題があった。特許文献1や特許文献2に開示の技術では、異常検出のための閾値をオペレータが設定する必要があり、閾値を設定するための作業がオペレータの負担となる可能性があった。特許文献3や4に開示の技術では、過去に検出されたモータ電流の平均値や分散を算出するにあたって、検出値を予め設定したショット回数分だけ記憶するために多量の記憶容量を必要とし、記憶した多量の検出値を演算処理するための演算量が膨大になるという問題があった。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するために考案されたものであり、異常検出のための閾値を自動的に設定することでオペレータの負担を軽減し、かつ異常検出に最適な閾値を算出することを目的とする。さらには、異常検出を行うための多量の演算処理や記憶容量を必要とせず、一般的な射出成形機の制御装置に付加することが容易な異常検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願の請求項1に係る発明は、サーボモータを駆動制御して可動部を駆動する駆動部と、前記サーボモータに加わる負荷、前記サーボモータの速度、電流、位置偏差のうちいずれか一つを物理量として検出する物理量検出部と、前記物理量を可動部の動作中の経過時間あるいは可動部の動作中の位置に対応させて基準物理量として記憶する記憶部と、前記記憶された基準物理量と現在の物理量を可動部が動作する経過時間あるいは可動部の動作位置に対応させて順次比較し偏差を求める物理量偏差算出部とを有し、前記求めた偏差が閾値を超えた場合に異常を検出する射出成形機の異常検出装置であって、前記求めた偏差の絶対値を算出する絶対値算出部と、該算出した偏差の絶対値の平均値を算出する平均値算出部と、該算出した偏差の絶対値の平均値に基づいて、前記算出した偏差の絶対値の平均値が大きくなるにしたがって可動部の動作中の経過時間あるいは可動部の動作中の位置に対応した閾値が大きくなるように該閾値を算出する閾値算出部とを有することを特徴とする射出成形機の異常検出装置である。
請求項2に係る発明は、サーボモータを駆動制御して可動部を駆動する駆動部と、前記サーボモータに加わる負荷、前記サーボモータの速度、電流、位置偏差のうちいずれか一つを物理量として検出する物理量検出部と、前記物理量の所定サイクル回数における平均値を可動部の動作中の経過時間あるいは可動部の動作中の位置に対応させて算出する算出部と、該算出した物理量の平均値を記憶する記憶部と、前記記憶された物理量の平均値と現在の物理量を可動部が動作する経過時間あるいは可動部の動作位置に対応させて順次比較し偏差を求める物理量偏差算出部とを有し、前記求めた偏差が閾値を超えた場合に異常を検出する射出成形機の異常検出装置であって、前記求めた偏差の絶対値を算出する絶対値算出部と、該算出した偏差の絶対値の平均値を算出する平均値算出部と、該算出した偏差の絶対値の平均値に基づいて、前記算出した偏差の絶対値の平均値が大きくなるにしたがって可動部の動作中の経過時間あるいは可動部の動作中の位置に対応した閾値が大きくなるように該閾値を算出する閾値算出部とを有することを特徴とする射出成形機の異常検出装置である。
請求項3に係る発明は、さらに、前記算出した偏差の絶対値の平均値を可動部の動作中の経過時間あるいは可動部の動作中の位置に対応させて記憶する記憶部を有し、前記平均値算出部は、可動部の動作中の経過時間あるいは可動部の動作中の位置に対応させて後述する数1式の演算式を演算することにより物理量の偏差の絶対値の平均値を算出し、前記閾値算出部は可動部の動作中の経過時間あるいは可動部の動作中の位置に対応させて後述する数2式の演算式を演算することにより閾値を算出することを特徴とする請求項1または2のいずれか一つに記載の射出成形機の異常検出装置である。
請求項4に係る発明は、さらに、前記算出した閾値を可動部の動作中の経過時間あるいは可動部の動作中の位置に対応させて記憶する記憶部を有し、前記閾値算出部は可動部の動作中の経過時間あるいは可動部の動作中の位置に対応させて後述する数4式の演算式を演算することにより閾値を算出することを特徴とする請求項1または2のいずれか一つに記載の射出成形機の異常検出装置である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、異常検出のための閾値を自動的に設定することでオペレータの負担を軽減し、かつ異常検出に最適な閾値を算出することができる。さらには、異常検出を行うための多量の演算処理や記憶容量を必要とせず、一般的な射出成形機の制御装置に付加することが容易な異常検出装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の射出成形機の異常検出装置の実施形態の要部ブロック図である。
【図2】本発明の第1の実施形態の処理のアルゴリズムを説明するフローチャートである。
【図3】本発明の第2の実施形態の処理のアルゴリズムを説明するフローチャートである。
【図4】本発明の第3の実施形態の処理のアルゴリズムを説明するフローチャートである。
【図5】本発明の第4の実施形態の処理のアルゴリズムを説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、可動部の現在の負荷とあらかじめ記憶した基準負荷との偏差を算出する負荷偏差算出部を有し、前記算出した負荷偏差が所定の閾値を超えると異常を検出する射出成形機の異常検出装置において、前記算出した偏差の絶対値の平均値を算出し、前記算出した偏差の絶対値の平均値に基づいて異常検出の閾値を算出する閾値算出部を有する射出成形機の異常検出装置である。なお、閾値を算出するにあたっては、前記算出した偏差の絶対値の平均値が大きい場合には相対的に大きくなるような閾値を設定し、前記算出した偏差の絶対値の平均値が小さい場合には相対的に小さくなるような閾値を設定する。
【0010】
以下、本発明の実施形態を図面と共に説明する。
図1は、本発明の射出成形機の異常検出装置の実施形態の要部システムブロック図である。機台15上に固定プラテン1、リアプラテン2、可動プラテン3、トグルリンク機構6などから構成される型締め部と、射出シリンダ20、射出スクリュ22、射出用サーボモータ25などから構成される射出部を備えて射出成形機の本体部が構成される。型締め部や射出部には後述するように可動プラテン3、エジェクタ装置13、射出スクリュ22などの可動部が備わっている。
【0011】
まず、型締め部について説明する。固定プラテン1とリアプラテン2は複数のタイバー4によって連結されている。固定プラテン1とリアプラテン2の間には可動プラテン3がタイバー4に沿って移動自在に配設されている。また、金型5の固定側金型5aが固定プラテン1に取り付けられ、可動側金型5bが可動プラテン3に取り付けられている。
【0012】
リアプラテン2と可動プラテン3間にはトグルリンク機構6が配設され、トグルリンク機構6のクロスヘッド6aに設けられたナットが、リアプラテン2に回動自在で軸方向移動不能に取り付けられたボールネジ7と螺合している。ボールネジ7に設けられたプーリ10と型締用サーボモータ8の出力軸に設けられたプーリ11間にはベルト(タイミングベルト)9がかけられている。
【0013】
型締用サーボモータ8の駆動により、プーリ11、ベルト9、プーリ10の動力伝達手段を介してボールネジ7を駆動し、トグルリンク機構6のクロスヘッド6aを前進,後進(図1において右方向,左方向)させてトグルリンク機構6を駆動し、可動プラテン3を固定プラテン1方向に前進、後退させて金型5a,5bの開閉じ・型締、型開きを行う。
【0014】
型締用サーボモータ8には型締用サーボモータ8の回転位置・速度を検出するパルスエンコーダなどの位置・速度検出器12が取り付けられている。この位置・速度検出器12からの位置フィードバック信号により、クロスヘッド6aの位置、可動プラテン3(可動側金型5b)の位置を検出するように構成されている。
【0015】
符号13はエジェクタ装置であり、エジェクタ装置13は可動プラテン3に設けられた金型(可動側金型5b)内から成形品を突き出すための装置である。エジェクタ装置13は、エジェクタ用サーボモータ13aの回転力をプーリ、ベルト(タイミングベルト)からなる動力伝達手段13c、ボールネジ/ナット機構13dを介して、図示しないエジェクトピンに伝達し、該エジェクトピンを金型(可動側金型5b)内に突出させて成形品を金型(可動側金型5b)から突き出すものである。なお、符号13bはエジェクタ用サーボモータ13aに取り付けられた位置・速度検出器であり、このエジェクタ用サーボモータ13aの回転位置・速度を検出することによって、エジェクトピンの位置、速度を検出するものである。
【0016】
符号14は、リアプラテン2に設けられた型締力調整機構であり、型締力調整用モータ14aを駆動し、伝動機構を介してタイバー4に設けられたネジに螺合する図示しないナットを回転させ、タイバー4に対するリアプラテン2の位置を変える(つまり機台15上での固定プラテン1に対する位置を変える)ことによって型締力の調整を行うものである。上述した、型締装置、エジェクタ機構などは従来から射出成形機に備えられた公知のものである。
【0017】
次に、射出部について説明する。射出シリンダ20内に樹脂材料を供給するために、ホッパ27が射出シリンダ20の上部に設けられている。射出シリンダ20の先端にはノズル部21が取り付けられ、射出シリンダ20内には射出スクリュ22が挿通されている。
射出部には、射出シリンダ20内の溶融樹脂の圧力を検出するロードセル等の図示しない圧力センサが設けられている。
射出スクリュ22は、スクリュ回転用サーボモータ23により、プーリ、タイミングベルト等で構成される伝動手段24を介して正,逆回転させられる。また、射出スクリュ22は、射出用サーボモータ25によって、プーリ、ベルト、ボールねじ/ナット機構などの回転運動を直線運動に変換する機構を含む伝動手段26を介して駆動され,射出シリンダ20内を射出シリンダ20の軸方向に移動する。スクリュ回転用サーボモータ23には図示を省略したパルスコーダが取り付けられており、射出スクリュ22の回転位置や回転速度を検出する。また、射出用サーボモータ25には図示を省略したパルスコーダが取り付けられており、射出スクリュ22の軸方向の位置や速度を検出する。
【0018】
次に、射出成形機の制御装置について説明する。符号30は射出成形機を制御する制御装置である。制御装置30は、プロセッサ(CPU)35,RAM34a,ROM34b等からなるメモリ34、バス33、表示装置インタフェース36を備え、バス33でこれらの要素が接続されている。ROM34bには、可動プラテン3の動作を制御するソフトウェアやエジェクタ装置13を制御するための突き出し制御用のソフトウェアなど、射出成形機を全体として制御するソフトウェアが格納されている。また、本発明の実施形態では、メモリ34のROM34bには、本発明に係る射出成形機の異常を検出するための各種ソフトウェアが格納されている。
【0019】
表示装置インタフェース36には、液晶表示装置37が接続されている。また、サーボインタフェース32には、射出成形機の各可動部を駆動しサーボモータの位置、速度を制御するサーボアンプ31が接続される。そして、各可動部を駆動するサーボモータに取り付けられた位置・速度検出器がサーボアンプ31に接続されている。なお、表示装置インタフェース36には図示を省略した手動入力による入力手段が接続されている。
【0020】
射出成形機には複数の可動部を駆動するために複数のサーボモータが用いられているが、図1では、型締用サーボモータ8用とエジェクタ用サーボモータ13a用のサーボアンプ31のみを示している。そして、サーボアンプ31はそれぞれのサーボモータ8、13aの位置・速度検出器12,13bと接続され、位置・速度検出信号がそれぞれのサーボアンプ31にフィードバックされる。なお、スクリュ回転用サーボモータ23及び射出用サーボモータ25のサーボアンプ、並びに、それぞれのサーボモータ23,25に取り付けられている位置・速度検出器は図示を省略している。
【0021】
プロセッサ(CPU)35は、予めメモリ34のROM34bに格納されているプログラムを成形条件などに基づいて実行し、射出成形機の各可動部への移動指令を、サーボインタフェース32を介してサーボアンプ31に出力する。各サーボアンプ31は、この移動指令、それぞれの位置・速度検出器(12,13b)からの位置、速度フィードバック信号に基づいて位置、速度のフィードバック制御、さらには、図示しない電流検出器からの電流フィードバック信号に基づいて電流フィードバック制御を行い、各サーボモータ(8、13a)を駆動制御する。なお、各サーボアンプ31は、従来技術と同様に、プロセッサとメモリ等で構成されており、この位置、速度のフィードバック制御等の処理をソフトウェアの処理によって実行するものである。
【0022】
以下、本発明に係る閾値の算出方法を説明する。
<数1式と数2式に基づいて閾値を算出する場合>
(1)可動部の現在の負荷とあらかじめ記憶した基準負荷とを、時間または可動部の位置に対応させて比較し、時間または可動部の位置に対応した負荷の偏差を算出する。
(2)前記算出した偏差の絶対値を算出する。
(3)前記算出した偏差の絶対値と、前サイクルにて算出した偏差の絶対値の平均値とに関して、時間または可動部の位置に対応させて数1式の演算処理を行うことにより、時間または可動部の位置に対応した偏差の絶対値の平均値を算出・記憶する。
【0023】
【数1】

【0024】
(4)前記算出した偏差の絶対値の平均値に関して、時間または可動部の位置に対応させて数2式の演算処理を行うことにより、時間または可動部の位置に対応した閾値を算出する。
【0025】
【数2】

【0026】
(5)前記算出した閾値と前記算出した偏差の絶対値とを、時間または可動部の位置に対応させて比較し、偏差の絶対値が閾値を超えた場合は可動部の異常を検出する。
(6)以降、(1)〜(5)の処理を繰り返し、サイクル毎に時間または可動部の位置に対応した閾値を算出することで、最適な閾値による異常検出を行うことができる。
【0027】
なお、上記(3)においては、数1式の演算処理を行った後、R(n−1,x)を記憶していたメモリ領域に新たに算出したR(n,x)を上書きして記憶するようにし、該記憶した値は次サイクルにおける数1式の演算処理で使用するようにする。このようにすれば、1サイクル分の時間または可動部の位置に対応した偏差の絶対値の平均値を記憶しておけばよいので、閾値を算出するために必要な記憶容量が少なくて済む。また、数1式の演算式による演算では、時間または可動部の位置毎に、1サイクル前の偏差の絶対値の平均値と、現在の偏差の絶対値の2項について演算を行えばよいので、閾値を算出するために必要な演算量が少なくて済む。
【0028】
なお、上述の実施形態では閾値の算出に必要なメモリ容量を最小限にするために、1サイクル分の偏差の絶対値の平均値:R(n−1,x)を記憶する場合について記載したが、制御装置のメモリ容量に余裕がある場合には、複数サイクル分の偏差の絶対値:|E(n,x)|,|E(n−1,x)|,・・・,|E(n−k,x)|を記憶しておき、数1式の演算式を一部展開した数3式の演算式に基づいて、上記3の演算処理を複数サイクルに1回だけ行うようにしてもよい。
【0029】
【数3】

【0030】
<数4式に基づいて閾値を算出する場合>
上述した閾値の算出方法では、数1式の演算処理と数2式の演算処理をそれぞれ行い、数1式の演算処理で算出した偏差の絶対値の平均値を記憶するようにしているが、数1式の演算式と数2式の演算式によって求まる数4式の演算式に基づいて演算処理を行い、数4式の演算処理で算出した閾値を記憶するようにしてもよい。
(1)可動部の現在の負荷とあらかじめ記憶した基準負荷とを、時間または可動部の位置に対応させて比較し、時間または可動部の位置に対応した負荷の偏差を算出する。
(2)前記算出した偏差の絶対値を算出する。
(3)前記算出した偏差の絶対値と、前サイクルにて算出した閾値とに関して、時間または可動部の位置に対応させて数4式の演算処理を行うことにより、時間または可動部の位置に対応した閾値を算出・記憶する。
【0031】
【数4】

【0032】
(4)前記算出した閾値と前記検出した偏差の絶対値とを、時間または可動部の位置に対応させて比較し、偏差の絶対値が閾値を超えた場合は可動部の異常を検出する。
(5)以降、(1)〜(4)の処理を繰り返し、サイクル毎に時間または可動部の位置に対応した閾値を算出することで、最適な閾値による異常検出を行うことができる。
【0033】
なお、上記(3)においては、数4式の演算処理を行った後、L(n−1,x)を記憶していたメモリ領域に新たに算出したL(n,x)を上書きして記憶するようにし、該記憶した値は次サイクルにおける数4式の演算処理で使用するようにする。このようにすれば、1サイクル分の時間または可動部の位置に対応した閾値を記憶しておけばよいので、閾値を算出するために必要な記憶容量が少なくて済む。また、数4式の演算式による演算では、時間または可動部の位置毎に、1サイクル前の閾値と、現在の偏差の絶対値の2項について演算を行えばよいので、閾値を算出するために必要な演算量が少なくて済む。
【0034】
なお、上述の実施例では閾値の算出に必要なメモリ容量を最小限にするために、1サイクル分の閾値:L(n−1,x)を記憶する場合について記載したが、制御装置のメモリ容量に余裕がある場合には、複数サイクル分の偏差の絶対値:|E(n,x)|,|E(n−1,x)|,・・・,|E(n−k,x)|を記憶しておき、数4式の演算式を一部展開した数5式の演算式に基づいて、上記(3)の演算処理を複数サイクルに1回だけ行うようにしてもよい。
【0035】
【数5】

【0036】
<係数α、βについて>
数2式の演算式および数4式の演算式における係数α、βの設定値を調整することによって、異常検出の検出感度を調整することができる。係数α、βに小さな値を設定すると、異常検出の検出感度が敏感になるが、異常の誤検出の発生確率が大きくなる。一方で係数α、βに大きな値を設定すると、異常検出の検出感度が鈍感になるが、異常の誤検出の発生確率が小さくなる。例えば、オペレータは、成形品に応じた異常検出の検出感度や、生産状況に応じた誤検出の許容確率などから判断して、係数α、βの値を調整するようにしてもよい。
【0037】
前記偏差の分布は、正規分布に近い分布になる場合もあるが、正規分布と比較して尖度や歪度が異なる分布となる場合もある。分布の尖度が大きい場合には裾の重い分布となるため、正規分布の場合と同じ係数α、βを設定していても、異常の誤検出の発生確率が大きくなる。分布の歪度が大きい場合も同様に、正規分布の場合と同じ係数α、βを設定していても、異常の誤検出の発生確率が大きくなる。そこで、前記偏差の分布の尖度または歪度が大きい場合には相対的に大きな値となるように係数α、βの値を調整するようにしてもよい。なお、尖度および歪度は一般的に数5式〜数6式のように求められる。
【0038】
【数6】

【0039】
【数7】

【0040】
<基準負荷の代わりに負荷の平均値を用いる場合>
上述した例では、可動部の現在の負荷とあらかじめ記憶した基準負荷とを、時間または可動部の位置に対応させて比較し、時間または可動部の位置に対応した負荷の偏差を算出する場合について記載したが、基準負荷の代わりに閾値の算出を開始してから現在サイクルまでの負荷の平均値を用いるようにしてもよい。例えば、サイクル毎に、数6式の演算式に基づいて、時間または可動部の位置に対応した負荷の平均値を算出するようにしてもよい。
【0041】
【数8】

【0042】
<負荷検出手段>
可動部の負荷を検出する手段としては、サーボ回路の中に周知の外乱負荷オブザーバーを構成して負荷を検出するようにしてもよいし、または可動部に歪みゲージなどの検出手段を用意して検出するようにしてもよい。または、サーボモータの駆動電流に基づいて負荷を検出するようにしてもよい。または、可動部の進行方向と逆方向に負荷が加わった場合はサーボモータの速度が低下し、可動部の進行方向と同じ方向に負荷が加わった場合はサーボモータの速度が上昇することに基づいて、負荷を検出するようにしてもよい。または、可動部の進行方向と逆方向に負荷が加わった場合はサーボモータの位置偏差が増大し、可動部の進行方向と同じ方向に負荷が加わった場合はサーボモータの位置偏差が減少することに基づいて、負荷を検出するようにしてもよい。
【0043】
次に、図2,図3,図4,図5に示される上述した演算式を用いて閾値の設定を行う処理のフローチャートを説明する。
【0044】
図2は本発明の第1の実施形態の処理のアルゴリズムを説明するフローチャートである。以下、各ステップに従って説明する。
●[ステップSA01]可動部の動作を開始する。
●[ステップSA02]現在の時間または可動部の位置を検出する。
●[ステップSA03]現在の物理量を検出する。
●[ステップSA04]基準物理量は記憶済みか否か判断し、記憶済みの場合(YESの場合)にはステップSA06へ移行し、記憶済みではない場合(NOの場合)にはステップSA05へ移行する。
●[ステップSA05]時間または可動部の位置に対応させて基準物理量を記憶し、ステップSA12へ移行する。
●[ステップSA06]現在の物理量と基準物理量の偏差を算出する。
●[ステップSA07]偏差の絶対値を算出する。
●[ステップSA08]数1式の演算式により偏差の絶対値の平均値を算出し、記憶する。
●[ステップSA09]数2式の演算式により閾値を算出する。
●[ステップSA10]偏差の絶対値が閾値より大きいか否か判断し、大きい場合(YESの場合)にはステップSA11へ移行し、大きくない場合(NOの場合)にはステップSA12へ移行する。
●[ステップSA11]アラーム処理を実行し、サイクルを終了する。
●[ステップSA12]可動部の動作完了か否か判断し、動作完了の場合(YESの場合)にはステップSA13へ移行し、動作完了ではない場合(NOの場合)にはステップSA02へ戻り、処理を継続する。
●[ステップSA13]サイクル終了か否か判断し、サイクル終了の場合(YESの場合)にはサイクルを終了し、サイクル終了ではない場合(NOの場合)にはステップSA01に戻り処理を継続する。
【0045】
図3は本発明の第2の実施形態の処理のアルゴリズムを説明するフローチャートである。以下、各ステップに従って説明する。
●[ステップSB01]可動部の動作を開始する。
●[ステップSB02]現在の時間または可動部の位置を検出する。
●[ステップSB03]現在の物理量を検出する。
●[ステップSB04]基準物理量は記憶済みか否か判断し、記憶済みの場合(YESの場合)にはステップSB06へ移行し、記憶済みではない場合(NOの場合)にはステップSB05へ移行する。
●[ステップSB05]時間または可動部の位置に対応させて基準物理量を記憶し、ステップSB11へ移行する。
●[ステップSB06]現在の物理量と基準物理量の偏差を算出する。
●[ステップSB07]偏差の絶対値を算出する。
●[ステップSB08]数4式の演算式により閾値を算出し、記憶する。
●[ステップSB09]偏差の絶対値が閾値より大きいか否か判断し、大きい場合(YESの場合)にはステップSB10へ移行し、大きくない場合(NOの場合)にはステップSB11へ移行する。
●[ステップSB10]アラーム処理を実行し、サイクルを終了する。
●[ステップSB11]可動部の動作完了か否か判断し、動作完了の場合(YESの場合)にはステップSB12へ移行し、動作完了ではない場合(NOの場合)にはステップSB02へ戻り、処理を継続する。
●[ステップSB12]サイクル終了か否か判断し、サイクル終了の場合(YESの場合)にはサイクルを終了し、サイクル終了ではない場合(NOの場合)にはステップSB01に戻り処理を継続する。
【0046】
図4は本発明の第3の実施形態の処理のアルゴリズムを説明するフローチャートである。以下、各ステップに従って説明する。
●[ステップSC01]可動部の動作を開始する。
●[ステップSC02]現在の時間または可動部の位置を検出する。
●[ステップSC03]現在の物理量を検出する。
●[ステップSC04]物理量の平均値は記憶済みか否か判断し、記憶済みの場合(YESの場合)にはステップSC06へ移行し、記憶済みではない場合(NOの場合)にはステップSC05へ移行する。
●[ステップSC05]数6式の演算式により物理量の平均値を演算し、記憶し、ステップSC13へ移行する。
●[ステップSC06]数6式の演算式により物理量の平均値を演算し、記憶する。
●[ステップSC07]現在の物理量と物理量の平均値との偏差を算出する。
●[ステップSC08]偏差の絶対値を算出し、記憶する。
●[ステップSC09]数1式の演算式により偏差の絶対値の平均値を算出し、記憶する。
●[ステップSC10]数2式の演算式により閾値を算出する。
●[ステップSC11]偏差の絶対値が閾値より大きいか否か判断し、大きい場合(YESの場合)にはステップSC12へ移行し、大きくない場合(NOの場合)にはステップSC13へ移行する。
●[ステップSC12]アラーム処理を実行し、サイクルを終了する。
●[ステップSC13]可動部の動作完了か否か判断し、動作完了の場合(YESの場合)にはステップSC14へ移行し、動作完了ではない場合(NOの場合)にはステップSC02へ戻り、処理を継続する。
●[ステップSC14]サイクル終了か否か判断し、サイクル終了の場合(YESの場合)にはサイクルを終了し、サイクル終了ではない場合(NOの場合)にはステップSC01に戻り処理を継続する。
【0047】
図5は本発明の第4の実施形態の処理のアルゴリズムを説明するフローチャートである。以下、各ステップに従って説明する。
●[ステップSD01]可動部の動作を開始する。
●[ステップSD02]現在の時間または可動部の位置を検出する。
●[ステップSD03]現在の物理量を検出する。
●[ステップSD04]物理量の平均値は記憶済みか否か判断し、記憶済みの場合(YESの場合)にはステップSD06へ移行し、記憶済みではない場合(NOの場合)にはステップSD05へ移行する。
●[ステップSD05]数6式の演算式により物理量の平均値を演算し、記憶し、ステップSD12へ移行する。
●[ステップSD06]数6式の演算式により物理量の平均値を演算し、記憶する。
●[ステップSD07]現在の物理量と物理量の平均値との偏差を算出する。
●[ステップSD08]偏差の絶対値を算出し、記憶する。
●[ステップSD09]数4式の演算式により閾値を算出し、記憶する。
●[ステップSD10]偏差の絶対値が閾値より大きいか否か判断し、大きい場合(YESの場合)にはステップSD11へ移行し、大きくない場合(NOの場合)にはステップSD12へ移行する。
●[ステップSD11]アラーム処理を実行し、サイクルを終了する。
●[ステップSD12]可動部の動作完了か否か判断し、動作完了の場合(YESの場合)にはステップSD13へ移行し、動作完了ではない場合(NOの場合)にはステップSD02へ戻り、処理を継続する。
●[ステップSD13]サイクル終了か否か判断し、サイクル終了の場合(YESの場合)にはサイクルを終了し、サイクル終了ではない場合(NOの場合)にはステップSD01に戻り処理を継続する。
【符号の説明】
【0048】
1 固定プラテン
2 リアプラテン
3 可動プラテン
4 タイバー
5 金型
5a 固定側金型
5b 可動側金型
6 トグルリンク機構
7 ボールネジ
8 型締用サーボモータ
9 ベルト
10 プーリ
11 プーリ
12 位置・速度検出器
13 エジェクタ装置
13a サーボモータ
13b 位置・速度検出器
13c 動力伝達手段
13d ボールネジ/ナット機構
14 型締力調整機構
14a 型締力調整用モータ
15 機台

20 射出シリンダ
21 ノズル部
22 射出スクリュ
23 スクリュ回転用サーボモータ
24 伝動手段
25 射出用サーボモータ
26 伝動手段
27 ホッパ

30 制御装置
31 サーボアンプ
32 サーボインタフェース
33 バス
34 メモリ
34a RAM
34b ROM
35 プロセッサ(CPU)
36 表示装置インタフェース
37 LCD(液晶表示装置)
38 PMC(プログラマブル・マシン・コントローラ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サーボモータを駆動制御して可動部を駆動する駆動部と、前記サーボモータに加わる負荷、前記サーボモータの速度、電流、位置偏差のうちいずれか一つを物理量として検出する物理量検出部と、前記物理量を可動部の動作中の経過時間あるいは可動部の動作中の位置に対応させて基準物理量として記憶する記憶部と、前記記憶された基準物理量と現在の物理量を可動部が動作する経過時間あるいは可動部の動作位置に対応させて順次比較し偏差を求める物理量偏差算出部とを有し、前記求めた偏差が閾値を超えた場合に異常を検出する射出成形機の異常検出装置であって、
前記求めた偏差の絶対値を算出する絶対値算出部と、該算出した偏差の絶対値の平均値を算出する平均値算出部と、該算出した偏差の絶対値の平均値に基づいて、前記算出した偏差の絶対値の平均値が大きくなるにしたがって可動部の動作中の経過時間あるいは可動部の動作中の位置に対応した閾値が大きくなるように該閾値を算出する閾値算出部とを有することを特徴とする射出成形機の異常検出装置。
【請求項2】
サーボモータを駆動制御して可動部を駆動する駆動部と、前記サーボモータに加わる負荷、前記サーボモータの速度、電流、位置偏差のうちいずれか一つを物理量として検出する物理量検出部と、前記物理量の所定サイクル回数における平均値を可動部の動作中の経過時間あるいは可動部の動作中の位置に対応させて算出する算出部と、該算出した物理量の平均値を記憶する記憶部と、前記記憶された物理量の平均値と現在の物理量を可動部が動作する経過時間あるいは可動部の動作位置に対応させて順次比較し偏差を求める物理量偏差算出部とを有し、前記求めた偏差が閾値を超えた場合に異常を検出する射出成形機の異常検出装置であって、
前記求めた偏差の絶対値を算出する絶対値算出部と、該算出した偏差の絶対値の平均値を算出する平均値算出部と、該算出した偏差の絶対値の平均値に基づいて、前記算出した偏差の絶対値の平均値が大きくなるにしたがって可動部の動作中の経過時間あるいは可動部の動作中の位置に対応した閾値が大きくなるように該閾値を算出する閾値算出部とを有することを特徴とする射出成形機の異常検出装置。
【請求項3】
さらに、前記算出した偏差の絶対値の平均値を可動部の動作中の経過時間あるいは可動部の動作中の位置に対応させて記憶する記憶部を有し、
前記平均値算出部は、可動部の動作中の経過時間あるいは可動部の動作中の位置に対応させて
【数1】

の演算式を演算することにより物理量の偏差の絶対値の平均値を算出し、
前記閾値算出部は可動部の動作中の経過時間あるいは可動部の動作中の位置に対応させて
【数2】

の演算式を演算することにより閾値を算出することを特徴とする請求項1または2のいずれか一つに記載の射出成形機の異常検出装置。
【請求項4】
さらに、前記算出した閾値を可動部の動作中の経過時間あるいは可動部の動作中の位置に対応させて記憶する記憶部を有し、
前記閾値算出部は可動部の動作中の経過時間あるいは可動部の動作中の位置に対応させて
【数4】

の演算式を演算することにより閾値を算出することを特徴とする請求項1または2のいずれか一つに記載の射出成形機の異常検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−86356(P2013−86356A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−228873(P2011−228873)
【出願日】平成23年10月18日(2011.10.18)
【特許番号】特許第5155432号(P5155432)
【特許公報発行日】平成25年3月6日(2013.3.6)
【出願人】(390008235)ファナック株式会社 (1,110)
【Fターム(参考)】