説明

射出成形機

【課題】溶融樹脂を射出するための射出ノズルの供給孔の先端側内面に所定の粗さのガス抜き構造を形成することで、供給孔内にガスが滞留することを抑え、ガスが加圧されるのに伴い、樹脂が異常加熱して焦げなどの黒ずみが成形体に含有されることを防止することができる射出成形機を提供する。
【解決手段】供給孔15にD/2以上の寸法のランド長Lで、中心線平均粗さを12.5aとするガス抜き構造20を、断続的にならないよう実質的に連続して形成する。これにより、テーパ状などの先細り形状でガスが滞留し易いような供給孔15であったとしても、供給孔15内に樹脂と共に供給されるガスが射出ノズル12の先端から外部へ排出することができることから、供給孔15内で閉塞状態となってしまったガスが供給孔15内で圧縮(断熱圧縮)され自己発熱され、供給孔15内に有する樹脂が異常加熱より黒ずんで炭化することを抑止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、型閉された金型のキャビティに射出ノズルから溶融樹脂を射出する射出成形機に関し、特に成形体の射出成形時に異常加熱等に伴い焦げなどによる炭化された黒ずみが製品となる成形体に含有することを防止することができる射出成形機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から用いられている一般的な射出成形機においては、加熱シリンダ内に原料である粒状の熱可塑性樹脂を送り、加熱シリンダ内に設けられた進退可能なスクリューにより樹脂を溶融しながらスクリュー先端のノズル側に送り出し、スクリューの先端側に設けられた射出ノズルから金型装置のキャビティに溶融樹脂を射出させ、キャビティ内で溶融樹脂を冷却させ固化させた後、金型装置を開き、突出しピンなどにより金型に張り付いている成形物を金型から外すことにより、成形体が成形されている。
【0003】
このようなプラスチックなどの成形体を成形する射出成形機においては、その構成を大別すると概ね、型締ユニットと射出ユニットから構成されており、型締ユニットにおいては、一般的に固定金型と可動金型とからなる金型が備えられており、トグル機構若しくは直圧方式などの型締を可能とする可動手段によって、固定金型に対し可動金型を進退させることで、金型の型開閉が行われる。
【0004】
前述した金型の型締時に形成されるキャビティに、粒状の樹脂であるペレットを溶融樹脂として供給する際には前述した射出ユニットが用いられ、この射出ユニットには、駆動源たるモータなどの駆動手段が備えられ、モータの回転力をプーリやベルトなどを介して順次伝達させ、回転運動を直線運動に変換するボールネジ機構などにより、加熱シリンダ内のスクリューを回転させることにより溶融樹脂を搬送させ、この溶融樹脂を射出ユニットの射出ノズル先端から型締ユニットの型締された金型のキャビティに射出する。
【0005】
ところで、射出ノズルには、金型のキャビティに溶融樹脂を射出するための供給孔が形成されているのだが、射出ノズルの先端側に加熱され且つ加圧された溶融樹脂が供給されると、供給孔内で行き場を失った空気が圧縮され自己発熱することで、供給孔の先端側にガスが発生することがあり、発生したガスが加圧されたときには、溶融樹脂にいわゆるガス焼けが生じることがあり、このガス焼けが成形品の一部に含有してしまうことで成形品に黒ずみが発生してしまい、成形不良が生じることが問題になっていた。
【0006】
上記技術に関連するものとして、特許文献1には、金型のキャビティに溶融樹脂を射出するための射出ノズルの先端にむかって、拡がりのあるノズル孔を形成し、その内面の全長に亘り放射状に伸びる複数の溝を形成した射出成形機の射出ノズルが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3277316号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記特許文献1においては、ノズル孔の内面に放射状の複数の溝を形成したことで、スプルーの先からまだ固まっていない材料樹脂が水飴のごとく糸を引く糸引現象が発生することを防止するものであるが、射出ノズルの先端側に溝を形成することによって、射出ノズルの先端から射出される樹脂が異常加熱され、それに伴い成形体に焦げなどの黒ずみ生じることを解消することを目的にはしていないものであり、単にノズル孔の内面に溝を形成したとしても、その溝の形成によって前述したガスが異常加熱しないようガス抜きを行なう機能を発揮することはできないと考えられる。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、溶融樹脂を射出するための射出ノズルの供給孔の先端側内面に所定の粗さのガス抜き構造を形成することで、供給孔内にガスが滞留することを抑え、ガスが加圧されるのに伴い、樹脂が異常加熱して焦げなどの黒ずみが成形体に含有されることを防止することができる射出成形機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に係る射出成形機は、射出ノズルから型閉された金型のキャビティに溶融樹脂を射出する射出成形機において、
前記金型に溶融樹脂を供給する前記射出ノズルの供給孔の内面にガス抜き構造を形成したことを特徴とする。
【0011】
請求項2に係る射出成形機は、請求項1記載の射出成形機において、前記供給孔の内面に形成したガス抜き構造は、射出ノズルの先端の孔径をDとしたとき、該先端から後端に向かうランド長LをD/2若しくはそれ以上の寸法で形成したことを特徴とする。
【0012】
請求項3に係る射出成形機は、請求項1又は2記載の射出成形機において、前記供給孔の内面に形成したガス抜き構造は、その内面の中心線平均粗さの値を、12.5aとしたことを特徴とする。
【0013】
請求項4に係る射出成形機は、請求項1〜3の何れか1項記載の射出成形機において、前記ガス抜き構造を前記供給孔の内面に実質的に連続して形成したことを特徴とする。
【0014】
請求項5に係る射出成形機は、請求項1〜4の何れか1項記載の射出成形機において、前記射出ノズルの供給孔は後部よりも先端の断面積を減少させた先細り形状であることを特徴とする。
【0015】
請求項6に係る射出成形機は、請求項5記載の射出成形機において、前記供給孔は断面形状が円形であってテーパ状に形成したものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本射出成形機の発明によれば、供給孔内に形成したガス抜き構造により、射出ノズルの供給孔内に樹脂と共に供給されるガス(空気等)を射出ノズルの先端から外部へ排出することができるから、射出ノズルの供給孔内のガスが、供給孔内に供給されてきた溶融樹脂の流入に伴い排出されるときに、行き場のない閉塞状態となってしまったガスが供給孔内で圧縮(断熱圧縮)されるために自己発熱し、供給孔内に有する樹脂が異常加熱よる焦げなどにより、黒ずんで炭化が発生することを抑止することができる。よって、供給孔内で生じる炭化部分がスプルーやランナー等を介して成形体に含有してしまい、成形品に不良が発生することを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一例の射出成形機を示す概略構成図である。
【図2】同上、射出成形機に構成される射出ユニットの射出ノズルを示す側面図である。
【図3】同上、射出成形機に構成される射出ユニットの射出ノズルを示す断面図である。
【図4】同上、射出ノズルの先端から繰り返し金型に射出充填される溶融樹脂が供給孔、スプルー、及びランナー等に残存している状態を示す説明図である。
【図5】同上、MFRとベント深さTの関係を示すグラフである。
【図6】同上、ランド長さLを1.5にした場合のMFRとベント深さTの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図1〜図6により以下に説明する。もちろん、本発明は、その発明の趣旨に反しない範囲で、実施例において説明した以外の構成のものに対しても容易に適用可能なことは説明を要するまでもない。
【0019】
図1は本発明の一例の射出成形機を示す概略構成図である。同図に示すように射出成形機1には機台2を有し、この機台2上に射出ユニット3、型締ユニット4が配設されている。
【0020】
型締ユニット4には、固定金型5に対し可動金型6を前進後退させ型締(型閉じ)及び型開きを行う型開閉機構を備えており、本実施形態における型開閉機構としては、モータの駆動力を駆動源としてトグルリンク機構7を屈曲作動することで、固定ダイプレート8に固定された固定金型5に対して可動ダイプレート9に固定された可動金型6を繰り返し型開閉される。
【0021】
また、射出ユニット3では、筒型の加熱シリンダ10内に設けられたスクリュー11を回転させ、射出ユニット3先端に設けられた射出ノズル12側へ溶融樹脂を送り出すようになっており、射出ユニット3の上部には粒状の原料である樹脂(ペレット)が投入されるホッパ13を有し、このホッパ13からその下方に設けられた前述した加熱シリンダ10内に粒状の樹脂が自重により落下させ供給され、ホッパから加熱シリンダ10内に供給され続いて加熱された溶融樹脂は、スクリュー11の回転により計量された後、スクリュー11が前進されることで金型のキャビティへ射出される。
【0022】
ここで、加熱シリンダ10の先端に固定される射出ノズル12について、図2及び図3に基づき説明する。これらの図に示すように、射出ノズル12の中心に貫通して形成された供給孔15は、後部よりも先端部が先細り形状のテーパ状に形成されている。また、射出ノズル12の後側の外周にはネジ部16が形成されており、このネジ部16が加熱シリンダ10先端に螺合されることで射出ノズル12が加熱シリンダ10に一体に固定される。
【0023】
また、射出ノズル12の供給孔15の先端側の内面には、その内面全体に亘り連続して(断続的ではなく、実質的に全体に亘って)、ガス抜き構造20が形成されている。このガス抜き構造20は、図3に示すように、射出ノズル12の先端の供給孔15の孔径をDとしたとき、ガス抜き構造20を有するランド長L(射出ノズル12の先端を基点とする後端にむかう所定寸法)を少なくともD/2の寸法(或いはD/2以上でも可)として、且つ、ガス抜き構造20の面粗度としての中心線平均粗さの値を12.5a(ベント深さTを12.5μm)としたものである。なお、本実施形態においては、下記の式(a)の条件を満たしている。
「MFR(Melt flow rate)≦L/T」・・・(a)
(但し、L≧D/2、0.0025mm≦T≦0.5mm〔ベント(粗さ)深さT:ガス抜き構造の最大高さ−ガス抜き構造の最小高さ〕

そして、MFR(g/10min)を横軸に、ベント深さTを縦軸とした図5のMFRとベント深さTの関係を示すグラフのように、例えば、MFRをL/0.01とする際には、ベント深さT(面粗度)を10μmとすることで後述するガス抜きを行うことが可能となり、また、MFRをL/0.0025とする際には、ベント深さT(面粗度)を2.5μmとすることで後述するガス抜きを行うことが可能であるといった、図5の実験結果に基づくグラフから、供給孔15内に樹脂と共に供給されるガス(空気等)を射出ノズル12の先端から外部へ排出する、いわゆるガス抜けが可能であるか否かを判断することができる。より具体的には、図6のランド長さLを1.5mmにした場合のグラフに示すように、MFRが150(1.5/0.01)の場合には、ベント深さTを10μmで、MFRが600(1.5/0.0025)の場合にはベント深さT(面粗度)を2.5μmで、MFRが5の場合にはベント深さT(面粗度)を300とした場合であっても、供給孔15内に樹脂と共に供給されるガス(空気等)を射出ノズル12の先端から外部へ排出する、いわゆるガス抜けを行うことが可能になる。
【0024】
また、射出ノズル12の供給孔15内で加熱され且つ加圧された溶融樹脂が供給されてくると、供給孔15内で行き場を失った空気が圧縮され自己発熱することで、供給孔15の先端側にはガスが発生し、この発生したガスが樹脂と共に加圧されることで、供給孔15の先端部やこの先端部から排出されスプルー21やランナー22等に残存した樹脂にガス焼けが含まれることがあることから、本実施形態のガス抜き構造と、それ以外のガス抜き構造を対象として表1に示すように各種試験を行った。
【0025】
【表1】

【0026】
表1は、ランド長Lをそれぞれ同寸法(ランド長L:1.5mm)とすると共にMFRの数値を前記式(a)の条件満たした条件下において、ガス抜き構造の面粗度としての中心線平均粗さの値を、内面メッキ処理で0.3aにした場合(試験No.1)と、連続した微細凹凸で0.4aにした場合(試験No.2)と、前述した本実施形態の12.5aとした場合(試験No.3)と、特許文献1のように断続的に複数の溝を形成することで500aにした場合(試験No.4)の試験結果を示すものであり、図4で格子線であらわした、供給孔15の先端に残存したサンプル樹脂aと、スプルー21とランナー22との接続部に残存したサンプル樹脂bの両者を、サンプルとして取り出しガス焼けの有無について調べた。
【0027】
上記試験結果によれば、本実施形態における試験No.3においては、1サイクル毎にガス焼けの有無について取り出し確認したところ、サンプル樹脂a、サンプル樹脂b共に、ガス焼けにより樹脂の一部が炭化することで黒色の焼けが発生することはないことが結果として得られた。これに対して、試験No.1、試験No.2、試験No.4においては、表1に示すように、何れにおいてもサンプル樹脂に黒色の焼けが発生していた。より詳細には、試験No.1及びNo.2においては、サンプル樹脂aには焼けが発生していなかったもののサンプル樹脂bに黒い焼けが発生した。また、試験No.4においては、サンプル樹脂aに黒い焼けが発生し、サンプル樹脂bにも面積は小さいものの色の薄い焼けが確認された。
【0028】
以上の試験結果から、試験No.1、試験No.2、試験No.4においては、スプルー21やランナー22を通じて成形体に対して黒色のガス焼けが含有してしまい、成形不良が発生する確実性が高いのに対し、本実施形態のガス抜き構造20を有する射出成形機1においては、試験No.3の結果から明らかなように、サンプル樹脂a,bの何れにも黒色の焼けが発生しない結果を得ることができたことから、型閉された金型のキャビティへ射出ノズル12の先端から溶融樹脂を繰り返し射出して成形体を成形するに際し、射出ノズル12の先端等に残存した樹脂が成形体に含まれても、成形品に成形不良が発生することを防止できるという結論を得ることができた。
【0029】
以上のように本実施形態の射出成形機1によれば、供給孔に、D/2若しくはそれ以上の寸法のランド長Lで中心線平均粗さを12.5aとするガス抜き構造20を形成し、さらに、その部分が断続的にならないよう実質的に連続して形成したことで、テーパ状などの先細り形状でガスが滞留し易いような供給孔15であったとしても、供給孔15内に樹脂と共に供給されるガス(空気等)を射出ノズル12の先端から外部へ確実に排出(ガス抜き)することができる。よって、射出ノズル12の供給孔15内のガスが、供給孔15内に供給されてきた溶融樹脂の流入に伴い排出されるときに、行き場のない閉塞状態となってしまったガスが供給孔15内で圧縮(断熱圧縮)されるために自己発熱し、供給孔15内に有する樹脂が異常加熱よる焦げなどにより、黒ずんで炭化が発生することを抑止することができるから、供給孔15内で生じる炭化部分がスプルー21やランナー22等を介して成形体に含有してしまい、成形品に不良が発生することを防止することが可能になる。
【符号の説明】
【0030】
1 射出成形機
5 固定金型(金型)
6 可動金型(金型)
12 射出ノズル
15 供給孔
20 ガス抜き構造
D 孔径
L ランド長

【特許請求の範囲】
【請求項1】
射出ノズルから型閉された金型のキャビティに溶融樹脂を射出する射出成形機において、
前記金型に溶融樹脂を供給する前記射出ノズルの供給孔の内面にガス抜き構造を形成したことを特徴とする射出成形機。
【請求項2】
前記供給孔の内面に形成したガス抜き構造は、射出ノズルの先端の孔径をDとしたとき、該先端から後端に向かうランド長LをD/2若しくはそれ以上の寸法で形成したことを特徴とする請求項1記載の射出成形機。
【請求項3】
前記供給孔の内面に形成したガス抜き構造は、その内面の中心線平均粗さの値を、12.5aとしたことを特徴とする請求項1又は2記載の射出成形機。
【請求項4】
前記ガス抜き構造を前記供給孔の内面に実質的に連続して形成したことを特徴とする請求項1〜3の何れか1項記載の射出成形機。
【請求項5】
前記射出ノズルの供給孔は後部よりも先端の断面積を減少させた先細り形状であることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項記載の射出成形機。
【請求項6】
前記供給孔は断面形状が円形であってテーパ状に形成したものであることを特徴とする請求項5記載の射出成形機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2011−62928(P2011−62928A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−215992(P2009−215992)
【出願日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【出願人】(000222587)東洋機械金属株式会社 (299)
【Fターム(参考)】