説明

射出成形用金型

【課題】加工も容易で、製作に余分な手間もかからず、低コストで射出成形用金型を得ることができ、また清掃も容易に行えるようにする。
【解決手段】キャビティ空間30の外周に、凹部13を周方向に沿って設けることによってエアベント14を構成し、溶融樹脂Pの最終充填位置やウェルドライン発生位置に関係なく、キャビティ空間30の空気やガスを確実に型外に排出する。凹部13を同一形状に設けることで、パーティング面12での溶融樹脂Pの圧力が、絵付フィルムFに対して周方向に均一に掛かるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形と同時に樹脂成形品の表面に絵付フィルムの加飾層を転写させ、樹脂成形品と絵付フィルムを一体化して絵付成形品とする成形同時加飾方法に用いられる射出成形用金型に関する。
【背景技術】
【0002】
射出成形と同時に樹脂成形品の表面に絵付フィルムの加飾層を転写させ、樹脂成形品と絵付フィルムを一体化して絵付成形品とする成形同時加飾方法がある。
ここで、絵付けフィルムとは、ベースとなるPET材等のフィルムに、樹脂成形品表面への加飾となる加飾層として、デザイン(絵や文字)の印刷、または機能性を有した材料のコーティングが施されたフィルムである。
【0003】
このような成形同時加飾方法においては、金型キャビティ内の空気や、射出成形時に溶融樹脂から発生するガスがキャビティ内に溜まり、絵付フィルムと樹脂との間の密着を阻害することがある。
射出成形時においては、金型キャビティの内周部に溶融樹脂を注入し、この溶融樹脂が金型キャビティの外周側に広がっていき、最も外周側の一対の金型の合わせ目であるパーティング面に到達する。この、溶融樹脂の最終充填位置となる金型キャビティのパーティング面において、前記のガスが溜まりやすく、その結果、絵付フィルムと樹脂成形品との密着不良により、絵付フィルムが剥がれて製品外観を損なったりする。
【0004】
そこで、解決策として一般的な方法は、図7に示すように、樹脂の最終充填位置である金型キャビティ1のパーティング面2の隅部にエアベント3を設け、このエアベント3からその外周側の排気溝4を通して外部にガスを排出することである。しかし、絵付フィルムと樹脂の密着は射出圧力に影響を受けるため、樹脂の射出圧力が絵付フィルムに均一に作用しなかった場合には、絵付フィルムと樹脂成形体との密着不良が生じたり、絵付フィルムにしわが生じることがある。特に絵付フィルムが軟らかく、伸縮性がある場合はこの傾向が顕著となる。
また、エアベント3の部分に溶融樹脂が入り込み、樹脂成形品の外周部に樹脂バリが発生する可能性がある。
【0005】
これに対する解決策として、例えば、特許文献1、2には、金型パーティング面に、微細凹凸や多孔質体を設け、この微細凹凸によってパーティング面に形成される隙間や多孔質体の孔を通してガスを排出することで、射出圧力の影響を抑えてエアベントの機能を実現する技術が記載されている。
【0006】
また、特許文献3には、樹脂の最終充填位置を絵付フィルムから離れた位置になるようキャビティ内にガス逃がし部を設けることで、樹脂と絵付フィルムとの密着不良を防止する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−100204号公報
【特許文献2】特開2000−117782号公報
【特許文献3】特開平11−309750号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記したような従来の技術においては、以下に示すような問題が依然として存在する。
特許文献1、2に開示された構成においては、微細凹凸や多孔質体を設けるには、加工コストが上昇する。また、溶融樹脂が入り込まずにガスのみが通過する微細なクリアランスを形成するには、加工の難易度が高くなる。さらに、微細凹凸や多孔質体に微細な塵等が詰まるとガスの排出のための流れが損なわれるため清掃を行う必要があるが、このような微細凹凸や多孔質体は、清掃を行うこと自体が困難であるという問題もある。
【0009】
また、特許文献3に開示された構成においては、ガス逃がし部によって、絵付成形品の外周部に凸部が形成されることになる。すると、型から取り出した絵付成形品に対して、凸部を削除するためのトリミング等の後加工の工程が必要となるため、手間とコストがかかり、効果的な対策とは言えない。
そこでなされた本発明の目的は、加工も容易で製作に余分な手間もかからず、低コストで得ることが可能で、しかも清掃も容易に行うこともできる射出成形用金型を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用する。
すなわち、本発明は、第一のキャビティ面およびその外周側の第一のパーティング面を有した第一の金型と、前記第一の金型に接近・離間可能に設けられ、第二のキャビティ面およびその外周側の第二のパーティング面を有した第二の金型と、前記第一のキャビティ面に絵付フィルムを沿わせた状態で、前記絵付フィルムの外周部を前記第一のパーティング面と前記第二のパーティング面とで挟み込み、前記絵付フィルムと前記第二のキャビティ面との間に形成されたキャビティ空間に樹脂が射出される射出成形用金型であって、前記第一のキャビティ面の外周側および前記第二のキャビティ面の外周側の少なくとも一方に、前記キャビティ面の外周に沿って形成された凹部と、前記凹部の外周側に設けられた排気溝と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、第一のキャビティ面の外周側および第二のキャビティ面の外周側の少なくとも一方に、キャビティ面の外周に沿って形成された凹部を備える構成としたので、金型キャビティ内の空気や、射出成形時に溶融樹脂から発生するガスを、凹部から排気溝を介し、周方向において均一に排出することができる。しかも、凹部を形成するのみであるので、加工も容易で、製作に余分な手間もかかることなく低コストで製作できる。また、使用開始後も、清掃を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本実施形態にかかる射出成形用金型の断面図である。
【図2】射出成形用金型のキャビティ面を示す平面図である。
【図3】凹部を可動型側に形成した場合の例を示す断面図である。
【図4】本実施形態にかかる射出成形用金型の応用例を示す図である。
【図5】複数の凹部を双方の金型に形成した場合の例を示す断面図である。
【図6】本実施形態にかかる射出成形用金型の他の応用例を示す図である。
【図7】従来の射出成形用金型の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して、本発明による射出成形用金型を実施するための最良の形態を説明する。しかし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0014】
図1に示すように、成形同時加飾用の射出成形用金型100は、互いに対向する固定型(第一の金型)10と、可動型(第二の金型)20とを備えている。
【0015】
固定型10は、可動型20に対向する側に形成されたキャビティ面(第一のキャビティ面)11に、溶融樹脂Pを射出する射出口11Sを有している。
可動型20は、図示しない駆動機構によって、固定型10に対して接近・離間する方向に進退可能とされている。図1(b)に示すように、固定型10に対向する側に形成されたキャビティ面(第二のキャビティ面)21に、絵付フィルムFが接するように配置される。そして、可動型20を固定型10に接近させて射出成形用金型100を閉じた状態とすると、固定型10と可動型20とは、キャビティ面11、21の外周側のパーティング面(第一のパーティング面)12、パーティング面(第二のパーティング面)22が互いに突き合わされ、その内周側において、固定型10のキャビティ面11と可動型20のキャビティ面21に沿わせた絵付フィルムFとの間に、溶融樹脂Pが充填されるキャビティ空間30が形成される。
【0016】
図1、図2に示すように、固定型10のキャビティ面11の外周側に形成されたパーティング面12には、キャビティ面11の外周縁部に沿って、その周方向全周にわたって、凹部13が設けられている。凹部13は、例えば、幅0.5mm、深さ0.02mmの凹溝状をなし、図1に示したように、その一側13aがキャビティ面11に臨んで開口している。
この凹部13により、固定型側エアベント14が形成されている。
【0017】
図2に示したように、固定型側エアベント14の外周側には、凹部13の他側13bに連続する排気溝15が周方向に全周にわたって形成されている。排気溝15には、射出成形用金型100の外部に連通する連通溝16が形成されている。
【0018】
このような構成において成形同時加色方法を行うには、まず、絵付フィルムFは、可動型20のキャビティ面21に沿うようセットされ、この状態で、固定型10に対して可動型20を接近させ、固定型10と可動型20とを閉じる。これにより、絵付フィルムFは、可動型20のパーティング面22において排気溝25の外周側に固定されるため、型締め時や射出成形時にずれることはない。
【0019】
次いで、固定型10のキャビティ面11と可動型20のキャビティ面21との間のキャビティ空間30に、溶融樹脂Pを射出する。
射出された溶融樹脂Pは、その圧力により可動型20のキャビティ面21に絵付フィルムFを押し付けて沿わせながら、キャビティ面11、21の外周部まで広がり、その熱と射出圧力により、絵付フィルムFと密着される。ここで溶融樹脂Pにより押し出されたキャビティ空間30内の空気やガスは、キャビティ空間30の外周側のパーティング面12に設けられた固定型側エアベント14を通ってキャビティ空間30から排出される。排出された空気やガスは、排気溝15、連通溝16を通過して型外に排出される。
【0020】
ここで、固定型側エアベント14は、キャビティ空間30の外周の全周にわたって設けられているので、溶融樹脂Pの最終充填位置やウェルドライン発生位置に関係なく、キャビティ空間30の空気やガスを確実に型外に排出することができる。
また、固定型側エアベント14を構成する凹部13は、周方向視における断面形状が例えば幅0.5mm、深さ0.02mmの同一形状に設けられているため、キャビティ面11、21の外周部での溶融樹脂Pの圧力は、絵付フィルムFに対して周方向に均一に掛かり、密着不良やシワは発生しない。
このような凹部13をパーティング面12に周方向に設けることで、固定型10の加工が容易に行え、その製作に手間がかかることもなく、低コストで上記効果を得ることができる。また、凹部13であれば、清掃等も容易であり、メンテナンスも容易に行うことができる。
【0021】
また、可動型20のパーティング面22と、固定型側エアベント14を構成する凹部13は、使用する樹脂と絵付フィルムFの射出圧力による撓みを考慮した隙間に設定することにより、この部分で樹脂バリが発生するのを防ぐことができる。したがって、後工程でトリミングなどを行う必要も無く、容易かつ効率よく成形を行うことができる。
なお、実際に凹部13の形状、寸法(特に深さ方向)を設定する場合は、使用している樹脂と絵付フィルムFの射出圧力による撓みを考慮し、初めは設定値の1/2程度の深さとし、絵付成形品の外観を確認しながら調整するのが好ましい。
【0022】
(その他の実施形態)
なお、本発明の射出成形用金型は、図面を参照して説明した上述の各実施形態に限定されるものではなく、その技術的範囲において様々な変形例が考えられる。
【0023】
ここで、図3に示すように、固定型10の凹部13に代えて、可動型20のキャビティ面21の外周側に形成されたパーティング面22に、キャビティ面21の外周縁部に沿って、その周方向全周にわたって、凹部23を設けることもできる。この凹部23により、可動型側エアベント24が形成されている。
この場合、凹部23は、例えば、幅0.5mm、深さ0.02mmの凹溝状をなし、その一側23aがキャビティ面21に臨んで開口している。
【0024】
図2に示したように、可動型側エアベント24の外周側には、凹部23の他側23bに連続する排気溝25が周方向に全周にわたって形成されている。排気溝25には、射出成形用金型100の外部に連通する連通溝26が形成されている。
【0025】
また、例えば、図4に示すように、固定型側エアベント14、可動型側エアベント24を構成する凹部13、23は、キャビティ空間30の全周に設けるとは限らず、キャビティ空間30の周方向の一部のみに設けることも可能である。例えば、図4に示すように、溶融樹脂Pを射出する射出口11Sがキャビティ面11の中心にあり、かつキャビティ面11が長方形のような形状の場合、射出口11Sからキャビティ面11の外周部のパーティング面12までの距離が近い部位Xから溶融樹脂Pが到達していく。そこで、射出口11Sに近い部位Xには固定型側エアベント14、可動型側エアベント24を構成する凹部13、23を設けない構成とすることもできる。
【0026】
また、図5に示すように、固定型10にキャビティ面11の外周部に沿って周方向に等間隔を隔てて周期的に配置されている複数の凹部13を形成するとともに、可動型20にキャビティ面21の外周部に沿って周方向に等間隔を隔てて配置されている複数の凹部23を形成する構成とすることもできる。この場合、可動型20の凹部23は、固定型10の凹部13に対し、凹部13、13の周方向の間隔Sの半分(S/2)ずつオフセットして配置するのが好ましい。即ち、凹部23と凹部13とが互いに周方向にオフセットして千鳥状に設けられる。
これにより、型締めすると、凹部23と凹部13とが周方向に接続され、総合的にパーティング面全周にエアベントが設けられる形になる。
【0027】
また、図6に示すように、絵付フィルムFがセットされる可動型20のキャビティ面21において、キャビティ面21の曲率が小さい部位Yにおいては、それよりも曲率が大きい部位に比較して、絵付フィルムFの貼りがきつく、しわがより易い。また、曲率が小さい部位Yにおいては、曲率が大きい部位よりもガスの逃げ(流れ)が悪い傾向がある。そこで、キャビティ面21の外周縁部の角部等、曲率が小さい部位Yにおいては、他の部位よりも、凹部13Y、23Yの幅(周方向の寸法)や深さを大きくしてその周方向視における断面積を増大させることもできる。これにより、キャビティ面21の角部等におけるガスの逃げを改善することができる。
【0028】
これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施の形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0029】
10 固定型(第一の金型)
11 キャビティ面(第一のキャビティ面)
11S 射出口
12 パーティング面(第一のパーティング面)
13 凹部
14 固定型側エアベント
15 排気溝
16 連通溝
20 可動型(第二の金型)
21 キャビティ面(第二のキャビティ面)
22 パーティング面(第二のパーティング面)
23 凹部
24 可動型側エアベント
25 排気溝
26 連通溝
30 キャビティ空間
100 射出成形用金型
F 絵付フィルム
P 溶融樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一のキャビティ面およびその外周側の第一のパーティング面を有した第一の金型と、
前記第一の金型に接近・離間可能に設けられ、第二のキャビティ面およびその外周側の第二のパーティング面を有した第二の金型と、
前記第一のキャビティ面に絵付フィルムを沿わせた状態で、前記絵付フィルムの外周部を前記第一のパーティング面と前記第二のパーティング面とで挟み込み、前記絵付フィルムと前記第二のキャビティ面との間に形成されたキャビティ空間に樹脂が射出される射出成形用金型であって、
前記第一のキャビティ面の外周側および前記第二のキャビティ面の外周側の少なくとも一方に、前記キャビティ面の外周に沿って形成された凹部と、
前記凹部の外周側に設けられた排気溝と、
を有することを特徴とする射出成形用金型。
【請求項2】
前記凹部は、前記キャビティ面の全周に亘って形成されていることを特徴とする請求項1に記載の射出成形用金型。
【請求項3】
前記凹部は、前記第一のキャビティ面の外周側および前記第二のキャビティ面の外周側の両方に設けられていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の射出成形用金型。
【請求項4】
前記凹部は、前記第一のキャビティ面の外周側と前記第二のキャビティ面の外周側の双方に周方向に間隔を隔てて複数形成され、
前記第一のキャビティ面に設けられた複数の前記凹部と、前記第二のキャビティ面に設けられた複数の前記凹部とが、周方向にオフセットして配置され、かつ、周方向に接続されていることを特徴とする請求項1に記載の射出成形用金型。
【請求項5】
前記凹部は、周方向視における断面形状が同一形状を有していることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の射出成形用金型。
【請求項6】
前記凹部は、前記キャビティ面の外周縁部の曲率半径が小さい箇所において、前記曲率半径が大きい部位よりも前記凹部の周方向視における断面積が大きく形成されていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の射出成形用金型。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−49145(P2013−49145A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−187010(P2011−187010)
【出願日】平成23年8月30日(2011.8.30)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】