説明

射出成形靴およびそれをリサイクルした再生樹脂組成物

【課題】 ハロゲン含有樹脂を使用せず、成形性、胛被と靴底との接着性、耐久性に優れ、また胛被と靴底を分離することなく容易にリサイクルできる射出成形靴を提供すること、またリサイクルの結果靴底用途に再度利用可能な高品質の再生樹脂組成物を提供することにある。
【解決手段】 ポリエステル系合成繊維布帛よりなる胛被と、ポリエステルブロック共重合体を50重量%以上含有しかつショア硬度がAスケールで50〜90である熱可塑性エラストマ組成物よりなる靴底とを有し、かつ該靴底が射出成形により胛被と接着一体化している射出成形靴、およびその射出成形靴を、胛被と靴底とを分離することなく裁断したのち溶融混練して得られる再生樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、胛被および底材がポリエステル系の素材により構成され、底材を射出成形法により、布帛からなる胛被材に接着一体化して得られる射出成形靴、およびそれをリサイクルして得られる再生樹脂組成物に関する。更に詳しくは、成形性、耐久性、胛被と靴底との接着性に優れ、かつ使用後も胛被と靴底を分別することなく靴一体として再溶融混練することで容易にリサイクル可能な射出成形靴、および靴底用等として有用な再生樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に布靴を射出成形法により製造するには、布を積層してなる胛被をラストモールドに吊り込み、このラストモールドにボトムモールドとサイドモールドを適合させて構成されるモールドキャビティ内に熱可塑性樹脂を主体とする靴底材を射出し、靴底を成形すると同時に、該靴底と胛被を接着一体化する方法が採用されている。胛被用の布帛としては従来より、綿、麻等の天然繊維、レーヨン等の再生繊維、ポリエステル、ポリアミド、アクリル等の合成繊維などが使用されている。また射出成形靴底用の素材としてはポリ塩化ビニル系の素材が主に使用されるが、ポリウレタン系エラストマやポリオレフィン系エラストマも使用されている。
【0003】
布靴は小児用靴や運動靴、スニーカーやカジュアル靴に多用されているが、買い換え頻度の高い物品であり、近年の廃棄物問題や環境意識の高まりから、使用後の靴をリサイクルし資源として再利用することが望まれるようになってきた。リサイクルを考えたとき、綿のような溶融しない素材を使用した場合は胛被部分と靴底部分を分離する必要があり、また胛被としてポリエステル繊維等のような溶融する素材の場合も、胛被材と靴底材とが再溶融によって混合された場合に再生樹脂として機械的特性の劣るものしか得られず、その用途が極めて限定されてしまうため、やはり胛被部分と靴底部分を分離する必要があって、リサイクルの際の障害となっている。また胛被と靴底との間の接着力を高めるため熱硬化性の接着剤を多量に使用するのが通常であるが、このことも再生して得られる樹脂の品質を低下させる原因となっている。
【0004】
また靴底材として通常使用される軟質ポリ塩化ビニル樹脂は、内分泌攪乱物質(環境ホルモン)として環境への悪影響が懸念される可塑剤を含有しており、また使用後のリサイクル以外に、焼却された場合はハロゲン系の有害ガス発生の懸念があるなど、環境問題への影響から代替が要請されている素材である。
【0005】
射出成形靴の靴底材としてポリエステル系エラストマを使用することはすでに公知であり、例えば特許文献1にポリエーテルブロックポリエステルエラストマーが,また特許文献2には芳香族ジカルボン酸およびエチレンオキシドオリゴマージオールをソフトセグメントとするポリエステル系ブロック共重合体が記載されている。しかしこれらの公知文献には、胛被の材質について記載が無く、また靴をリサイクルすることについても何ら記載・示唆がない。また特許文献2のポリエステル系ブロック共重合体は、リサイクルしたとき物性が変動しやすい問題点がある。
【0006】
胛被をポリエステル布帛とする射出成形靴については、例えば特許文献3に記載されているが、靴底材としては塩化ビニル系樹脂、熱可塑性ポリウレタン樹脂等が記載されているもののポリエステル系エラストマの記載はない。
【0007】
また特許文献4には、ビニル芳香族系化合物およびイソプレン化合物を主体とするブロック共重合体とゴム用軟化剤とポリプロピレン系重合体から主として構成される熱可塑性樹脂組成物を射出成形靴底用途として使用することが開示されている。しかし本文献技術の目的は柔軟な非塩素系の靴底材料の提供にあり、胛被の材質については実施例に木綿の例示があるのみで、ポリエステル繊維については記載がない。また本文献技術もリサイクルを目的としておらず、事実リサイクルを可能とする胛被、底材の組み合わせについても何ら検討がなされていない。
【0008】
また、回収した合成樹脂製長靴をライニング込みでリサイクルしてペレット化し、射出成形長靴として再生することが、例えば特許文献5に記載されている。しかしながら本公知文献は素材について何ら特定されていない。
【0009】
一方ポリエステル繊維からなる基布にポリエステル系エラストマの発泡構造を被覆した鞄地が特許文献6に開示され、リサイクル可能であることが謳われている。しかし本公知文献には射出成形靴に関して何ら記載、示唆はない。
【特許文献1】特開平5−168503号公報
【特許文献2】特開平9−271403号公報
【特許文献3】特開2003−266557号公報
【特許文献4】特許第3527855号公報
【特許文献5】特開2002−233401号公報
【特許文献6】特開2003−89982号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、上記状況に鑑み、ポリ塩化ビニル系のようなハロゲン含有樹脂を使用せず、成形性、胛被と靴底との接着性、耐久性に優れ、また胛被と靴底を分離することなく容易にリサイクルできる射出成形靴を提供すること、またリサイクルの結果靴底用途に再度利用可能な高品質の再生樹脂組成物を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、胛被としてポリエステル繊維布帛を使用し靴底材としてポリエステル系エラストマを使用した射出成形靴とすることで、成形性、胛被と靴底との接着性、靴の耐久性が良好で、またリサイクルした再生樹脂として高強度のものが得られることを見出し、本発明に到達した。また更に、改良されたポリエステル系エラストマを使用することで成形性、リサイクル性を損なうことなくより柔軟な靴底とすることができることを見出した。
【0012】
すなわち、本課題は、
主としてポリエステル系合成繊維布帛よりなる胛被(イ)と、結晶性芳香族ポリエステル単位からなるハードセグメントと脂肪族ポリエーテル単位からなるソフトセグメントより構成されるポリエステルブロック共重合体(A)を50重量%以上含有しかつショア硬度がAスケールで50〜90である熱可塑性エラストマ組成物よりなる靴底(ロ)を有し、かつ該靴底(ロ)が射出成形により胛被(イ)と接着一体化していることを特徴とする射出成形靴とすることで達成される。
【0013】
また、靴底(ロ)を構成する熱可塑性エラストマ組成物として、ポリエステルブロック共重合体(A)100重量部に対しスチレン系エラストマおよび/またはオレフィン系エラストマから選ばれる1種以上の熱可塑性エラストマ(B)もしくは該熱可塑性エラストマ(B)を分散相として動的架橋した動的架橋熱可塑性エラストマ(C)5〜80重量部を配合したものを使用することで、成形性、リサイクル性を損なうことなくより柔軟な靴底とすることが達成できる。
【0014】
また、靴底を構成する熱可塑性エラストマ組成物として、テーバー摩耗試験法での摩耗量が50mg以下であるものを使用することで、靴の実使用時の摩耗耐久性が改良される。
【0015】
さらに少なくとも靴底の一部を発泡構造とすることで、より柔軟で衝撃吸収性に富む靴底とすることができる。
【0016】
また本発明により製造された靴は、胛被と靴底とを分離することなく裁断したのち溶融混練することで再度ペレット化でき、再び靴底材料としても再利用可能である。
【発明の効果】
【0017】
本発明では、胛被としてポリエステル系合成繊維を、また靴底材としてポリエステルブロック共重合体エラストマを使用しているため、成形性、胛被と靴底との接着性、強度や耐摩耗性等の耐久性に優れる射出成形靴が得られる。また本発明ではポリ塩化ビニル系樹脂のようなハロゲン含有樹脂を使用せず、また熱可塑性素材で構成されており胛被と靴底を分離することなく容易にリサイクルでき、更にリサイクルの結果靴底用途に再度利用可能な再生樹脂を得られるため、環境への負荷を大幅に低減することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明について詳述する。
【0019】
本発明における胛被は主としてポリエステル系合成繊維布帛からなり、そのポリエステル系合成繊維としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)などがあげられる。JIS S5002、P8112に準拠した試験方法による、破裂強力7kg/cm2以上且つ引張強力7kg/cm2以上の強度があれば、靴用胛被として十分な耐久性が得られ、目付け、糸番手及び織布、編布、不織布等特に限定されることはない。場合によっては、2種以上の布素材による積層布を用いてもよいが、貼合せ接着剤はポリエステル系のものが望ましい。また、表面に撥水や防汚等の加工を施してもよい。
【0020】
本発明に用いられるポリエステルブロック共重合体(A)の高融点結晶性重合体セグメントは、芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体と脂肪族ジオールとから形成されるポリエステルであり、テレフタル酸、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸あるいはこれらのエステル形成性誘導体等の1種または2種以上をジカルボン酸成分とし、エチレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール等の1種または2種以上をジオール成分とする。またこれらの成分の他に、イソフタル酸、フタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、あるいはこれらのエステル形成性誘導体などのジカルボン酸成分や、分子量300以下のジオール、例えばペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、デカメチレングリコールなどの脂肪族ジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメチロールなどの脂環式ジオール、キシリレングリコール、2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパン、ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]スルホン等の芳香族ジオールなどのジオール成分を1種または2種以上併用した共重合ポリエステルであっても良い。また、3官能以上の多官能カルボン酸成分、多官能オキシ酸成分および多官能ヒドロキシ成分などを5モル%以下の範囲で共重合することも可能である。
【0021】
好ましい高融点結晶性重合体セグメントの例は、テレフタル酸またはジメチルテレフタレートと1,4−ブタンジオールとから誘導されるポリブチレンテレフタレートである。またテレフタル酸またはジメチルテレフタレート、イソフタル酸またはジメチルイソフタレートと1,4−ブタンジオールとから誘導されるポリブチレンテレフタレート/イソフタレート共重合体も好ましく用いられる。
【0022】
本発明に用いられるポリエステルブロック共重合体(A)の低融点重合体セグメントは、脂肪族ポリエーテルからなる。脂肪族ポリエーテルセグメントを与えるジオールとしては、ポリ(エチレンオキシド)グリコール、ポリ(プロピレンオキシド)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリ(ヘキサメチレンオキシド)グリコール、エチレンオキシドとプロピレンオキシドの共重合体、ポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加重合体、およびエチレンオキシドとテトラヒドロフランの共重合体グリコール、ネオペンチルグリコールとテトラヒドロフランの共重合体グリコールなどが挙げられる。
【0023】
これらの脂肪族ポリエーテルジオールのなかでも、得られるポリエステルブロック共重合体の弾性特性から、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加重合体、エチレンオキシドとテトラヒドロフランの共重合体グリコールが好ましい。またこれら脂肪族ポリエーテルジオールの数平均分子量としては300〜6000程度であることが好ましい。
【0024】
本発明に用いられるポリエステルブロック共重合体(A)における低融点重合体セグメントの共重合量は、好ましくは15〜90重量%であり、さらに好ましくは50〜85重量%である。この低融点重合体セグメント共重合体の共重合量によりポリエステルブロック共重合体の硬度を制御できるが、本発明で靴底材として使用する熱可塑性エラストマ組成物の硬度を制御する方法としてはこの低融点重合体セグメント共重合量以外に、後述するように柔軟ポリマーや可塑剤の配合によることも可能である。
【0025】
本発明に用いられるポリエステルブロック共重合体(A)は、公知の方法で製造することができる。例えば、ジカルボン酸の低級アルコールジエステル、過剰量のグリコール、および脂肪族ポリエーテルジオールを触媒の存在下エステル交換反応せしめ、得られる反応生成物を重縮合する方法、ジカルボン酸と過剰量のグリコールおよび脂肪族ポリエーテルジオールを触媒の存在下エステル化反応せしめ、得られる反応生成物を重縮合する方法、あらかじめ高融点結晶性セグメントを作っておき、これに低融点セグメント成分を添加してエステル交換反応によりランダム化せしめる方法、高融点結晶性セグメントと低融点重合体セグメントを鎖連結剤でつなぐ方法などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0026】
ポリエステルブロック共重合体(A)に他の柔軟な熱可塑性エラストマや可塑剤を配合することでより柔軟性を高め、靴底としたときの履き心地、衝撃吸収性をより高めることも本発明に包含される。その場合でも、靴底材としての熱可塑性エラストマ組成物中のポリエステルブロック共重合体(A)の割合を50重量%以上とすることが必要である。50重量%より少ないと、成形性、胛被との接着性、耐摩耗性等の耐久性が低下し、また胛被と共にリサイクルした場合に再生樹脂の強度が大幅に低下する。
【0027】
靴底材としての熱可塑性エラストマ組成物のショア硬度は50〜90Aであることが必要である。50よりも低い場合は靴底として必要な強度、耐摩耗性、接着性等の物性が得られず、また90Aよりも高い場合は柔軟性が不足して靴底材としては不適である。またポリエステルブロック共重合体の融点が高くなる結果接着性が低めとなる傾向にある。
【0028】
ポリエステルブロック共重合体(A)に柔軟性を高める目的で配合する他熱可塑性エラストマとしては、スチレン系、オレフィン系、ウレタン系、アクリレート系などがあげられ、好ましいものに、スチレン系エラストマおよび/またはオレフィン系エラストマから選ばれる1種以上の熱可塑性エラストマ(B)が挙げられる。スチレン系エラストマは主としてスチレンとブタジエンおよび/またはイソプレン、および必要に応じ他モノマーから構成されるブロック共重合体またはマルチブロック共重合体もしくはそれらの水素添加物であり、オレフィン系エラストマはエチレン−プロピレン共重合体やエチレン−ブテン共重合体等に代表されるオレフィンモノマの共重合体もしくはそれらとオレフィン系重合体とのブレンド物である。これら重合体は、ポリエステルブロック共重合体(A)との親和性を向上させるため、その一部もしくは全部がグリシジル基、カルボキシル基、酸無水物基、水酸基、アミノ基を有する官能性モノマーもしくはそれらの誘導体で変性されていてもよい。
【0029】
またポリエステルブロック共重合体(A)に柔軟性を高める目的で配合する他の熱可塑性エラストマとして、スチレン系エラストマおよび/またはオレフィン系エラストマから選ばれる1種以上の熱可塑性エラストマ(B)を分散相として動的架橋した動的架橋熱可塑性エラストマ(C)がさらに好ましい。本エラストマとしては、スチレン系エラストマおよび/またはオレフィン系エラストマから選ばれる1種以上の熱可塑性エラストマからなる熱可塑性マトリックス中に、架橋構造を有するスチレン系エラストマおよび/またはオレフィン系エラストマから選ばれる1種以上のエラストマを分散させた構造を有するもの、あるいはポリプロピレンからなる熱可塑性マトリックス中に、架橋構造を有するスチレン系エラストマおよび/またはオレフィン系エラストマから選ばれる1種以上のエラストマを分散させた構造を有するもの、さらにまた前記熱可塑性マトリックスおよび/または前記分散相が、グリシジル基、カルボキシル基、酸無水物基、水酸基、アミノ基を有する官能性化合物もしくはそれらの誘導体で変性されたものがある。また、パラフィン系オイルやナフテン系オイルのようなゴム用軟化剤や、炭酸マグネシウムやタルクのような充填剤を含有していてもよい。この動的架橋熱可塑性エラストマとしては、例えば、雑誌「プラスチックス」,Vol.53,No.3,P20〜P30(2002年刊)に記載されているリケンテクノス株式会社から商品名“アクティマー”CMとして販売されているものや、雑誌「合成樹脂」,Vol.44,No.1.P11〜P12(1998年刊)に記載されている理研ビニル工業株式会社から商品名”アクティマー”#1000として販売されていたものも使用することができる。
【0030】
スチレン系エラストマおよび/またはオレフィン系エラストマから選ばれる1種以上の熱可塑性エラストマ(B)もしくはスチレン系エラストマおよび/またはオレフィン系エラストマから選ばれる1種以上の熱可塑性エラストマを分散相として動的架橋した動的架橋熱可塑性エラストマ(C)の配合量は、ポリエステルブロック共重合体(A)100重量部に対して5〜80重量部である。5重量部より少ないと柔軟化の効果が小さく、80重量部を越えると、靴底材としたとき成形性、耐摩耗性、胛被との接着力が低下し、またリサイクルしたときの再生樹脂の強度等の機械的特性が低下する。
【0031】
本発明においては、靴底材の熱可塑性エラストマ組成物中に可塑剤(D)を配合することにより、熱可塑性エラストマ樹脂組成物を柔軟にするとともに溶融流動しやすく改良し、さらに、耐摩耗性を一層向上させることができる。本発明に用いられる可塑剤(D)としては、ジイソデシルフタレート、ジウンデシルフタレートなどのフタル酸エステル系可塑剤、リン酸エステル系可塑剤、トリメリット酸オクチルエステル、トリメリット酸イソノニルエステル、トリメリット酸イソデシルエステルなどのトリメリット酸エステル系可塑剤、ジペンタエリスリトールエステル類、ジオクチルアジペート、ジ−2−エチルヘキシルアジペート、ジイソブチルアジペート、ジブチルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジブチルジグリコールアジペート、ジ−2−エチルヘキシルアゼレート、ジオクチルセバケート、メチルアセチルリシノレートなどの脂肪酸エステル系可塑剤、ピロメリット酸オクチルエステルなどのピロメリット酸エステル類、エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油、エポキシ化脂肪酸アルキルエステルなどのエポキシ化可塑剤、アジピン酸エーテルエステル、ポリエーテルエステル、ポリエーテル等のポリエーテル系可塑剤、ジエチレングリコールジベンゾエート、ポリプロピレングリコールジベンゾエート、トリプロピレングリコールジベンゾエート、ジプロピレングリコールジベンゾエート、プロピレングリコールジベンゾエート、ジブチレングリコールジベンゾエート、ネオペンチルグリコールジベンゾエート、グリセリルトリベンゾエート、ペンタエリスリトールテトラベンゾエート、トリエチレングリコールジベンゾエート、ポリエチレングリコールジベンゾエート、トリメチロールエタントリベンゾエートなどのベンゾエート系可塑剤などを挙げることができ、これらの中でもベンゾエート系可塑剤、フタル酸エステル系可塑剤、トリメリット酸エステル系可塑剤、およびピロメリット酸エステル系可塑剤から選ばれた1種以上の化合物であることが好ましい。本発明に可塑剤(D)を用いる場合は、ポリエステルブロック共重合体(A)100重量部に対して1〜50重量部、好ましくは3〜30重量部を配合する。
【0032】
本発明においては、靴底材の熱可塑性エラストマ組成物中にシリコーン化合物を配合して耐摩耗性、耐マーキング性や耐スクラッチ性をより向上させることも、有利な実施形態である。使用可能なシリコーン化合物としては、ポリジメチルシロキサン等のシリコーンオイル、ポリジメチルシロキサンの側鎖または両末端にエポキシ基を導入したエポキシ変性シリコーンオイルが例示される。中でもポリジメチルシロキサンの側鎖または両末端にエポキシ基を導入したエポキシ変性シリコーンオイルで25℃における粘度が10,000センチストークス(CS)よりも低いものの使用が好ましい。シリコーン化合物の好ましい配合量は熱可塑性エラストマ中で10重量%以下である。
【0033】
本発明では熱可塑性エラストマ組成物として、後述する方法で測定したテーバー摩耗試験における摩耗量が50mg以下であるものを使用することが好ましい。摩耗量が50mgを越える熱可塑性エラストマ組成物を使用した場合、靴底としたときの耐摩耗性が不足する傾向がある。テーバー摩耗量の更に好ましい範囲は30mg以下である。
【0034】
さらに、靴の射出成形の際に、靴底の熱可塑性エラストマの少なくとも一部を発泡させることは、柔軟性や衝撃吸収性の更なる向上のため、好ましい方法である。発泡させる方法としては、化学発泡剤、熱膨張型マイクロカプセル等の発泡剤の添加、不活性ガスの注入等の方法があるが、特に限定されない。発泡剤はマスターバッチとして配合してもよい。
【0035】
また、本発明の熱可塑性エラストマ樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、種々の添加剤を添加することができる。例えば公知のヒンダードフェノール系、ホスファイト系、チオエーテル系、芳香族アミン系などの酸化防止剤、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、ヒンダードアミン系などの耐光剤、顔料、染料などの着色剤、帯電防止剤、導電剤、難燃剤、補強剤などを任意に含有せしめることができる。
【0036】
本発明で靴底材として使用される熱可塑性エラストマ樹脂組成物の製造方法は特に限定されるものではないが、例えば、ポリエステルブロック共重合体、他熱可塑性エラストマおよびその他配合剤を一緒に混合した原料をスクリュー型押出機に供給し溶融混練する方法、スクリュー型押出機に複数の供給口を設け、各配合成分をこれらの供給口から分割して供給する方法などがあげられる。
【0037】
本発明においては、リサイクルの目的を阻害しない範囲で、胛被に対し靴底材と接着性をより向上させるために接着剤を付与することができる。接着剤としてはポリエステル系、ポリウレタン系、アクリル系、アクリルウレタン系等が例示され、特に共重合ポリエステル系が好ましい。また接着剤に硬化剤を併用することで更に高接着力が得られる。共重合ポリエステル系接着剤への硬化剤としてはエポキシ系やイソシアネート系のものが好ましい。接着剤や硬化剤の塗布方法としては溶剤法、ホットメルト法など公知の方法が採用される。
【0038】
また、本発明において、靴の射出成形には公知の方法が採用される。たとえば胛被をラストモールドに吊り込み、このラストモールドにボトムモールドとサイドモールドを適合させて構成されるモールドキャビティ内に靴底材を射出し、靴底を成形すると同時に、該靴底と胛被を接着一体化する方法が好ましく使用できる。
【実施例】
【0039】
以下に実施例によって本発明の効果を説明する。なお、実施例中の%および部とは、ことわりのない場合すべて重量基準である。また、例中に示される物性は次のように測定した。
【0040】
[メルトフローレート(MFR)]
ASTM D1238にしたがって、荷重2160gの条件で測定した。
【0041】
[ショア硬度(デュロメーターA)]
ASTM D−2240にしたがって測定した。
【0042】
[機械的特性]
JIS K7113にしたがって、引張破断強さを測定した。
【0043】
[耐摩耗性]
下記の条件でテーバー摩耗試験を行い評価した。
摩耗輪 :CS−17
荷 重 :9.8N
試験回数:1000回
【0044】
[接着力]
熱可塑性エラストマ組成物を80℃で3時間真空乾燥した後、220℃でプレス成形して、厚さ2mmのシートを作成した。このシート上にポリエチレンテレフタレート繊維からなるキャンバス地織布(目付495g/m2)を重ね、1平方cm当たり4.9Nの荷重をかけて220℃で1分間の熱接着を行った。室温に24時間放置した後、幅1cmに切断し、その一端の接合界面を一定の長さだけ強制剥離し、その各々の端をテンシロン引張試験機の固定具にセットして引張り、剥離強度を測定した。靴として実用的な接着強度選るには、本方法での測定値が2.0kg/cm以上であることが必要である。
【0045】
[靴底の柔軟性]
熟練者5名により、作製した各靴サンプルに対して触感による官能検査を行い、相対的な比較を行った。結果は、屈曲がスムーズにでき柔軟性があるものを◎、屈曲がスムーズにできず柔軟性のないものを×として◎、○、△、×の順に4ランクで表した。
【0046】
[参考例]
[ポリエステルブロック共重合体(A−1)の製造]
テレフタル酸208部、1,4−ブタンジオール228部、数平均分子量約2000のポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール720部をチタンテトラブトキシド2部と共にヘリカルリボン型攪拌翼を備えた反応容器に仕込み、190〜225℃で3時間加熱して反応水を系外に留出しながらエステル化反応をおこなった。反応混合物に”イルガノックス”1010(チバガイギー社製ヒンダ−ドフェノ−ル系酸化防止剤)0.5部を添加した後、245℃に昇温し、次いで40分かけて系内の圧力を27Paの減圧とし、その条件下で2時間50分重合をおこなった。得られたポリマを水中にストランド状で吐出し、カッティングによりペレットとした。得られたポリエステルブロック共重合体(A−1)(低融点重合体セグメント共重合量:74重量%)の200℃で測定したMFRは20g/10分であった。
【0047】
[ポリエステルブロック共重合体(A−2)の製造]
テレフタル酸378部、1,4−ブタンジオール415部、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール(数平均分子量約1400)370部を、チタンテトラブトキシド1.5部と共にヘリカルリボン型攪拌翼を備えた反応容器に仕込み、190〜225℃で2時間30分加熱して、反応水を系外に留出しながらエステル化反応をおこなった。反応混合物に”イルガノックス”1010 0.75部を添加した後、245℃に昇温し、次いで40分かけて系内の圧力を27Paの減圧とし、その条件下で2時間40分重合をおこなった。得られたポリマを水中にストランド状で吐出し、カッティングによりペレットとした(低融点重合体セグメント共重合量:45%)。得られたペレットにつき230℃で測定したMFRは28g/10分であった。
【0048】
[実施例1]
ポリエステルブロック共重合体(A−1)99.5部およびチバスペシャリティケミカルズ社“チヌビン”327 0.5部を2軸押出機を用いて溶融混練しペレタイズして、熱可塑性エラストマ組成物(E−1)を得た。特性を表1に示す。
【0049】
ポリエチレンテレフタレート繊維よりなり目付が495g/m2の織布を使用して胛被を形成し、ラストモールドに装着して、常法により熱可塑性エラストマ組成物(E−1)を靴底材としてキャビティ内に射出して胛被と接着一体化せしめ、上履き靴を製造した。成形性、接着性に特に問題はなく、靴底の柔軟性も実用に使用可能なレベルであった。
【0050】
更にリサイクル試験として、上記の靴をシュレッダーで裁断し2軸押出機に供して、温度270℃で溶融混練し再生ペレットを得た。このペレットの特性を表1に示す。再生ペレットはポリエチレンテレフタレートが混合されているため硬度がややアップしているが強度、耐摩耗性、接着力とも低下は小さく、靴底材として再度使用可能なレベルであった。
【0051】
[実施例2]
ポリエステルブロック共重合体(A−1)70部、主としてスチレン系エラストマを分散相として動的架橋した動的架橋熱可塑性エラストマとしてリケンテクノス社製“アクティマー”LQA8284Nを25部、東レ・ダウコーニング・シリコーン社製のエポキシ変性シリコーンオイルSF8411を4.5部、チバスペシャリティケミカルズ社“チヌビン”327 0.5部を予備ブレンドして2軸押出機に供給し、溶融混練およびペレタイズして、熱可塑性エラストマ組成物(E−2)を得た。特性を表1に示す。
【0052】
実施例1と全く同様に、ポリエチレンテレフタレート繊維よりなり目付が495g/m2の織布を使用して胛被を形成し、ラストモールドに装着して、常法により熱可塑性エラストマ組成物(E−2)を靴底材としてキャビティ内に射出して胛被と接着一体化せしめ、上履き靴を製造した。成形性、接着性に特に問題はなく、靴底の柔軟性は、運動靴として激しい運動に追随できかつ衝撃を吸収できる優れたレベルであった。
【0053】
更にリサイクル試験として、上記の靴をシュレッダーで裁断し2軸押出機に供して、温度270℃で溶融混練し再生ペレットを得た。このペレットの特性を表1に示す。再生ペレットはポリエチレンテレフタレートが混合されているため硬度がややアップしているが強度、耐摩耗性、接着力とも低下は小さく、靴底材として再度使用可能であった。
【0054】
[実施例3]
ポリエステルブロック共重合体(A−1)80部、可塑剤としてジプロピレングリコールジベンゾエート15部、東レ・ダウコーニング・シリコーン社製のエポキシ変性シリコーンオイルSF8411を4.5部、チバスペシャリティケミカルズ社“チヌビン”327 0.5部を予備ブレンドして2軸押出機に供給し、溶融混練およびペレタイズして、熱可塑性エラストマ組成物(E−3)を得た。特性を表1に示す。
【0055】
実施例1と全く同様に、ポリエチレンテレフタレート繊維よりなり目付が495g/m2の織布を使用して胛被を形成し、ラストモールドに装着して、常法により熱可塑性エラストマ組成物(E−3)を靴底材としてキャビティ内に射出して胛被と接着一体化せしめ、上履き靴を製造した。成形性、接着性に特に問題はなく、靴底の柔軟性は、運動靴として激しい運動に追随できかつ衝撃を吸収できる優れたレベルであった。
【0056】
更にリサイクル試験として、上記の靴をシュレッダーで裁断し2軸押出機に供して、温度270℃で溶融混練し再生ペレットを得た。このペレットの特性を表1に示す。再生ペレットはポリエチレンテレフタレートが混合されているため硬度がややアップしているが強度、耐摩耗性、接着力とも低下は小さく、靴底材として再度使用可能であった。
【0057】
[比較例1]
実施例1において、ポリエステルブロック共重合体として(A−1)に代えて(A−2)を使用する以外は全く同様にして熱可塑性エラストマ(E−4)を得た。特性を表1に示す。更にこの熱可塑性エラストマ(E−4)を靴底材として、実施例1と同様にして上履き靴の製造を行った。靴の成形性は良好であったが、接着力および靴底の柔軟性が不満足であり、靴を履いての自由な運動が阻害されるレベルであった。更にリサイクル試験を実施例1と全く同様にして行い、再生ペレットを得た。このペレットの特性を表1に示す。再生ペレットは強度が高いもののポリエチレンテレフタレートが混合されることによる硬度アップが著しく、靴底用途への再利用は不可能であった。
【0058】
[比較例2]
実施例2において熱可塑性エラストマの組成を、ポリエステルブロック共重合体(A−1)40部、主としてスチレン系エラストマを分散相として動的架橋した動的架橋熱可塑性エラストマとしてリケンテクノス社製“アクティマー”LQA8284Nを55部、東レ・ダウコーニング・シリコーン社製のエポキシ変性シリコーンオイルSF8411を4.5部、チバスペシャリティケミカルズ社“チヌビン”327 0.5部とする以外は全く同様にして、熱可塑性エラストマ(E−5)を得た。特性を表1に示す。本例の材料では柔軟性が高いものの、強度、耐摩耗性、接着力が低く、靴底材としての使用は困難であった。また実施例2と全く同様にして上履き靴を成形したが、射出成形での固化速度が遅く、金型への粘着が見られ型離れが不良であり、実用的な成形は困難であった。
【0059】
【表1】

【0060】
[実施例4]
実施例2において得られた上履き靴につき、中学生5人による2ヶ月間の体育館試履きを行った。その結果、履き心地および履いたときの運動性は良好であり、2ヶ月後も胛被と靴底との接着剥がれは見られず、またつま先部や踵部の摩耗にも特に問題点は認められなかった。
【0061】
[実施例5]
靴を成形する際に、熱可塑性エラストマ組成物(E−2)100部に対して発泡剤マスターバッチとして永和化成工業製「ポリスレン」EV405D 5部をドライブレンドしたものを射出成形に供する以外は、実施例2と全く同様にして、上履き靴を製造した。靴底は無発泡の場合に比べ容積比で2倍程度の発泡構造を有しており、その柔軟性は実施例2の靴に比べ、さらに向上していた。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の射出成形靴は、強度や耐摩耗性等の耐久性に優れ、また容易にリサイクルできるため環境への負荷を大幅に低減することが可能となる。従来布靴には、胛被として綿等、底材として加硫ゴム、ポリ塩化ビニル等のリサイクルが難しい素材が多用されてきたが、本発明の靴をこれらの用途に使用していくことで、環境に優しい靴とすることが出来る。
【0063】
本発明の布靴は小児用靴、体育館や屋外用運動靴、スニーカーやカジュアル靴等の各種用途に適用できるが、特に一個所で多数使用されるため回収の容易な靴、例えば学校での上履き、運動靴、工場やオフィス等での作業用靴に適用することが有利である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主としてポリエステル系合成繊維布帛よりなる胛被(イ)と、結晶性芳香族ポリエステル単位からなるハードセグメントと脂肪族ポリエーテル単位からなるソフトセグメントより構成されるポリエステルブロック共重合体(A)を50重量%以上含有しかつショア硬度がAスケールで50〜90である熱可塑性エラストマ組成物よりなる靴底(ロ)を有し、かつ該靴底(ロ)が射出成形により胛被(イ)と接着一体化していることを特徴とする射出成形靴。
【請求項2】
靴底(ロ)を構成する熱可塑性エラストマ組成物が、ポリエステルブロック共重合体(A)100重量部に対しスチレン系エラストマおよび/またはオレフィン系エラストマから選ばれる1種以上の熱可塑性エラストマ(B)もしくは該熱可塑性エラストマ(B)を分散相として動的架橋した動的架橋熱可塑性エラストマ(C)5〜80重量部を配合したものであることを特徴とする請求項1に記載の射出成形靴。
【請求項3】
靴底(ロ)を構成する熱可塑性エラストマ組成物が、テーバー摩耗試験法での摩耗量が50mg以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の射出成形靴。
【請求項4】
少なくとも靴底(ロ)の一部が発泡構造を有することを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載の射出成形靴。
【請求項5】
請求項1〜4いずれかに記載の射出成形靴を、胛被(イ)と靴底(ロ)とを分離することなく裁断したのち溶融混練して得られたことを特徴とする再生樹脂組成物。

【公開番号】特開2006−192750(P2006−192750A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−7345(P2005−7345)
【出願日】平成17年1月14日(2005.1.14)
【出願人】(000219266)東レ・デュポン株式会社 (288)
【出願人】(000004433)株式会社アサヒコーポレーション (15)
【Fターム(参考)】