説明

導通端子を備えた導電性樹脂成形品の製造方法

【課題】外観品位を損なうことなく、導電性樹脂成形品の表面に、十分な密着性および導通性を備えた導通端子を形成可能な導通端子を備えた導電性樹脂成形品の製造方法を提案すること。
【解決手段】二色成形により、絶縁性の本体部分2の内部に導電性フィラーであるニッケルが分散混合された合成樹脂を用いて各配線パターン部3〜5を一体形成し、本体部分2の端面2aから露出している各配線パターン部3〜5の端面に、ダイレクト蒸着法によりニッケル薄膜を形成し、これらを導通端子6〜8として用いる。外観品位を損なうことなく、密着性および導通性が確保された導通端子を備えた導通部品1を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気通信部品、アース用の導通部品などとして用いられる導電性フィラーが分散混合された導電性樹脂成形品の製造方法に関し、特に、成形品表面に導通端子が一体形成されている導通端子を備えた導電性樹脂成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メモリカード、電気部品用コネクタなどのように樹脂成形品の内部に導電板、配線部品、アース部品などが埋め込まれた構造の電気部品においては、導電板などの金属部品を加工するためのプレス、ヘッダなどが必要である。また、成形金型に金属部品をインサートするためのインサート機が必要である。さらには、成形金型についても、インサートする金属部品の精度、金型製造の難易度などによって、金型作製が困難であったり、あるいは作製コストが掛かるなどの問題がある。さらに、金属がインサートされた樹脂成形品はリサイクルに適さないという問題点もある。
【0003】
ここで、金属部品をインサートすることなく導電性を備えた樹脂成形品を得るために、導電性フィラーが分散混合された導電性樹脂を用いて電気部品を成形することが提案されている。例えば、二色成形により、導電性樹脂と絶縁性樹脂を用いて、内部に配線パターンが形成された樹脂成形品を製造することが提案されている。このような提案は、特許文献1〜4に開示されている。
【特許文献1】特開2004−22790号公報
【特許文献2】特開2000−207906号公報
【特許文献3】特開2006−310135号公報
【特許文献4】特開2004−349198号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
導電性樹脂成形品においては、硬化成形の過程において表層部分から導電性フィラーが内部に移動する現象が発生し、表層部分は内部に比べて導電性フィラーの混合密度が低くなる傾向がある。このため、得られた導電性樹脂成形品の表面は均一で十分な導電性が備わっていないことが多い。しかし、従来においてはこの点については何ら着目されておらず、また、そのための対策についても何ら提案されていない。
【0005】
ここで、特許文献1に記載の光通信用モジュールでは、導電性樹脂成形品に貫通穴を開け、そこに通した接続対象のアース端子を、当該貫通穴が形成された部分に形成したメッキ膜に半田付けすることにより導通を確保している。しかしながら、通常のメッキ処理では、その過程で導電性樹脂成形品の表面がエッチングされ、当該導電性樹脂成形品の外観品位が悪化してしまう。電気機器あるいは電子機器の表面に配置される導電性樹脂成形品の場合には外観品位を維持する必要があるので、メッキ処理を採用できない場合がある。
【0006】
一方、導電性樹脂成形品の表面に金属薄膜を蒸着して導通端子を形成することが考えられる。蒸着の場合には、ABS樹脂以外の樹脂に対しては蒸着膜の密着性が十分でないので、一般に樹脂表面にプライマー処理が施される。プライマー自体は絶縁性なので、かかる下地処理が障害となって、金属蒸着膜と導電性樹脂成形品の間に十分な導電性をもたせることができない場合がある。
【0007】
本発明の課題は、外観品位を損なうことなく、導電性樹脂成形品の表面に、十分な密着性および導通性を備えた導通端子を形成可能な導通端子を備えた導電性樹脂成形品の製造方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の導通端子を備えた導電性樹脂成形品の製造方法は、
導電性フィラーが分散混合された合成樹脂を用いて導電性樹脂成形品を成形し、
この導電性樹脂成形品の表面における予め定めた部分に、ダイレクト蒸着法により金属薄膜を形成し、当該金属薄膜を前記導通端子として用い、
前記導電性フィラーの全部あるいは一部に、前記金属薄膜と同一の金属素材を用いることにより、前記導電性樹脂成形品に対する前記金属薄膜の密着性を確保し、
前記ダイレクト蒸着法による前記金属薄膜の蒸着過程において、前記導電性樹脂成形品における表層部分を侵食することにより、当該導電性樹脂成形品に分散している前記導電性フィラーを実質的に露出させて、当該導電性フィラーと前記金属薄膜との間の導通を確保することを特徴としている。
【0009】
本発明では、導電性フィラーと同一素材からなる金属薄膜をダイレクト蒸着法により導電性樹脂成形品の表面に成膜している。ダイレクト蒸着法による金属薄膜蒸着工程では、導電性樹脂成形品の表層部分が僅かに侵食され、これによって、導電性フィラーの密度が低い表層部分が除去される。よって、外観品位を損なうことなく、導電性樹脂成形品に分散混合されている導電性フィラーと、導通端子としての金属薄膜との間の導通性を確保できる。また、導電性フィラーと同一素材の金属薄膜を形成しているので、導電性樹脂成形品と金属薄膜との間の密着性も確保される。
【0010】
ここで、導電性フィラーとしてはニッケル、または、ニッケルおよびカーボンフリットを用いることができる。この場合には、金属薄膜をニッケルの蒸着膜とすればよい。
【0011】
また、ダイレクト蒸着法による金属薄膜の蒸着過程においては、導電性樹脂成形品の表層部分を、1nm〜50μmの深さに侵食するように制御すればよい。
【0012】
さらに、ダイクレト蒸着法による金属薄膜の蒸着厚さを20μm以下に制御すればよい。
【0013】
次に、本発明の導通端子を備えた導電性樹脂成形品は上記の製造方法により製造されたものであることを特徴としている。本発明の導電性樹脂成形品では、その表面に形成した導通端子の部分の外観品位が良好に維持され、また、当該導通端子の導通状態は良好であり、しかも、当該導通端子と導電性樹脂成形品との間の密着性も十分である。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、合成樹脂に分散混合されている導電性フィラーと同一素材からなる金属薄膜をダイレクト蒸着法により導電性樹脂成形品の表面に形成し、これを導通端子として用いるようにしている。本発明によれば、外観品位に優れ、表面に形成された導通端子の導電性および密着性が確保された導電性樹脂成形品を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、図面を参照して、本発明を適用した導通端子を備えた導電性樹脂成形品の製造方法を説明する。
【0016】
図1は、本発明の方法により製造された導通端子を備えた導電性樹脂成形品の一例を示す説明図である。図に示す導通部品1は、電気通信部品の電気配線用部品、接地用部品として用いることができる。この導通部品1は、絶縁性合成樹脂からなる一定厚さの矩形形状をした本体部分2と、この本体部分2に内蔵されている3本の導電性合成樹脂からなる配線パターン部3、4、5とを備えている。導電性合成樹脂は、ニッケルからなる導電性フィラーが混合分散されたものであり、各配線パターン部3、4、5の一端は、本体部分2の端面2aから露出した露出端面とされており、これらの露出端面には、ニッケル薄膜からなる導通端子6、7、8が形成されている。
【0017】
この構成の導通部品1は次のように製造される。まず、絶縁性合成樹脂および導電性合成樹脂を用意し、多色成形機、例えば二色成形機を用いて、成形一次側において、導電性合成樹脂を成形金型内に射出して各配線パターン部3、4、5を成形する。また、成形二次側において、絶縁性合成樹脂を成形金型内に射出して本体部分2を成形する。
【0018】
二色成形により得られた導通部品1における端面2aに露出している各配線パターン部3、4、5の端面に、ダイレクト蒸着法によりニッケル蒸着膜を形成する。ダイレクト蒸着法によるニッケル薄膜の蒸着過程においては、導電性樹脂成形品である各配線パターン部3、4、5の露出端面における表層部分が侵食されて、当該導電性樹脂成形品に分散している導電性フィラーとしてのニッケルが露出し、当該導電性フィラーとニッケル薄膜との間の導通が確保される。また、露出した導電性フィラーと蒸着薄膜は共にニッケルで同一金属であるので、これらの間には十分な密着性が確保される。したがって、蒸着薄膜の厚さは20μm以下の薄膜でよい。さらに、ダイレクト蒸着法における成膜過程における各配線パターン部3〜5の露出端面の侵食量は僅かである。例えば、1nm〜50μmの深さの範囲である。したがって、本体部分2の端面2aの外観品位が劣化することもない。
【0019】
(その他の実施の形態)
なお、導電性フィラーとしてはニッケルおよびカーボンフリットを用いることも可能である。また、ニッケル以外の金属蒸着膜を形成し、当該金属蒸着膜と同一金属素材を導電性フィラーとして用いることも可能である。
【0020】
また、上記の例では二色成形により絶縁性の本体部分に導電性の配線パターン部を形成したが、導電性の合成樹脂を用いて所定形状の導電性樹脂成形品を形成し、この表面の所定の部位にダイレクト蒸着法により導通端子を形成して、接地用部品などとして用いることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明を適用した導通部品の一例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0022】
1 導通部品
2 絶縁性の本体部分
2a 端面
3、4、5 導電性の配線パターン部
6、7、8 導通端子としてのニッケル薄膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導通端子を備えた導電性樹脂成形品の製造方法において、
導電性フィラーが分散混合された合成樹脂を用いて導電性樹脂成形品を成形し、
この導電性樹脂成形品の表面における予め定めた部分に、ダイレクト蒸着法により金属薄膜を形成し、当該金属薄膜を前記導通端子として用い、
前記導電性フィラーの全部あるいは一部に、前記金属薄膜と同一の金属素材を用いることにより、前記導電性樹脂成形品に対する前記金属薄膜の密着性を確保し、
前記ダイレクト蒸着法による前記金属薄膜の蒸着過程において、前記導電性樹脂成形品における表層部分を侵食することにより、当該導電性樹脂成形品に分散している前記導電性フィラーを実質的に露出させて、当該導電性フィラーと前記金属薄膜との間の導通を確保することを特徴とする導通端子を備えた導電性樹脂成形品の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の導通端子を備えた導電性樹脂成形品の製造方法において、
前記導電性フィラーはニッケルまたはニッケルおよびカーボンフリットであり、
前記金属薄膜はニッケルの蒸着膜であることを特徴とする導通端子を備えた導電性樹脂成形品の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の導通端子を備えた導電性樹脂成形品の製造方法において、
前記金属薄膜の蒸着過程において、前記導電性樹脂成形品の前記表層部分を、1nm〜50μmの深さに侵食することを特徴とする導通端子を備えた導電性樹脂成形品の製造方法。
【請求項4】
請求項2または3に記載の導通端子を備えた導電性樹脂成形品の製造方法において、
前記金属薄膜の蒸着厚さを20μm以下に制御することを特徴とする導通端子を備えた導電性樹脂成形品の製造方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のうちのいずれかの項に記載の製造方法により製造されたことを特徴とする導電性樹脂成形品。

【図1】
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【公開番号】特開2009−179044(P2009−179044A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−22569(P2008−22569)
【出願日】平成20年2月1日(2008.2.1)
【出願人】(594062879)株式会社シンセイ (5)
【Fターム(参考)】