説明

導電体、及びこれを用いたエネルギーデバイス、燃料電池セル

【課題】電気化学反応における活性化エネルギーを低下させ得る導電体、これを用いたエネルギーデバイス及び燃料電池セルを提供すること。
【解決手段】イミダゾリウム系カチオンと多価アニオンを含む電解質材料を孔内に保持する無機多孔体が、電極材料に挟持された導電体である。電解質材料がイオン液体である。5〜15kJ/molの範囲の活性化エネルギーを有する。イミダゾリウム系カチオンがエチルイミダゾリウムカチオンである。多価アニオンが、SO2−、PO3−及びHPO2−などである。
上記導電体を適用して成るエネルギーデバイスである。
上記導電体を適用して成る燃料電池セルである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電体、これを用いたエネルギーデバイス及び燃料電池セルに係り、更に詳細には、電気化学反応における活性化エネルギーを低下させ得る導電体、これを用いたエネルギーデバイス及び燃料電池セルに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池の電解質膜として、「イオン液体を浸透した、カチオン伝導性/プロトン伝導性のセラミック膜」が提案されている(例えば特許文献1参照)。
この膜は、特許文献2に記載された多孔質で柔軟なセラミック膜を基礎として、イオン伝導性を示すように改質し、その後イオン液体で処理して得られる。
また、この膜は、イオン液体の使用により、100℃より高い温度で極めて良好なプロトン伝導性又はカチオン伝導性を有する。更に、柔軟性を維持し、燃料電池の電解質膜として使用できるというものである。
【特許文献1】特表2004−515351号公報
【特許文献2】PCT/EP98/05939号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、このような従来のセラミック膜とイオン液体を組み合わせた電解質膜においては、電気化学反応における活性化エネルギーが抑制できないという問題点があった。
【0004】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、イオン伝導における活性化エネルギーを低下させ得る導電体、これを用いたエネルギーデバイス及び燃料電池セルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、無機多孔体の孔内に、イオン伝導性の高い電解質材料を配設することにより、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
即ち、本発明の導電体は、無機多孔体と電解質材料と一対の電極材料とから構成される導電体であって、
上記無機多孔体は、孔内に上記電解質材料を保持し、
上記電解質材料は、イミダゾリウム系カチオンと多価アニオンとを少なくとも含み、
上記電極材料は、該電解質材料を保持した無機多孔体を挟持する、ことを特徴とする。
【0007】
また、本発明の導電体の好適形態は、上記電解質材料がイオン液体であることを特徴とする。
【0008】
更に、本発明の導電体の他の好適形態は、上記イミダゾリウム系カチオンがエチルイミダゾリウムカチオンであることを特徴とする。
【0009】
更にまた、本発明の導電体の更に他の好適形態は、上記多価アニオンが、SO2−、PO3−及びHPO2−から成る群より選ばれた少なくとも1種のものであることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の導電体の他の好適形態は、上記無機多孔体が、アルミナ、シリカ、チタニア及びジルコニアから成る群より選ばれた少なくとも1種の金属酸化物で形成されることを特徴とする。
【0011】
更に、本発明の導電体の更に他の好適形態は、上記無機多孔体が、複数の球状孔を有し、該球状孔は、内径がほぼ均一で、隣接する球状孔同士が連通しており、該球状孔内に電解質材料を備えることを特徴とする。
【0012】
更にまた、本発明の導電体の他の好適形態は、上記無機多孔体の気孔率が70〜90%であることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の導電体の更に他の好適形態は、上記無機多孔体が、無機ゾルを形成する材料で形成されていることを特徴とする。
【0014】
更に、本発明の導電体の他の好適形態は、上記無機ゾル形成材料が、無機コロイドであることを特徴とする。
【0015】
更にまた、本発明の導電体の更に他の好適形態は、上記無機多孔体が、ポリマー微粒子と無機材料を混合した懸濁液より形成されたことを特徴とする。
【0016】
また、本発明のエネルギーデバイスは、上記導電体を適用して成ることを特徴とする。
【0017】
更に、本発明の燃料電池セルは、上記導電体を適用して成ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、無機多孔体の孔内に、イオン伝導性の高い電解質材料を配設することとしたため、イオン伝導における活性化エネルギーを低下させ得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の導電体について詳細に説明する。なお、本明細書及び特許請求の範囲において、「%」は特記しない限り質量百分率を示す。
【0020】
本発明の導電体は、無機多孔体と電解質材料と一対の電極材料とから構成される。
ここで、上記無機多孔体は、複数の細孔を有し、その孔内に電解質材料を保持している。
また、上記電解質材料は、イミダゾリウム系カチオンと多価アニオンとを少なくとも含んで成る。
更に、上記電極材料は、該電解質材料を保持した無機多孔体を挟持している。
【0021】
本発明の導電体の一実施形態の断面概略及び写真を図1に示す。この導電体は、電解質材料2を保持する無機多孔体1が左右の面から電極材料3で挟持されている。
【0022】
このように、イミダゾリウム系カチオンと多価アニオンを含む電解質材料を無機多孔体へ含浸することで、電解質材料の固定化と、イオン伝導度の向上が一挙に達成される。
即ち、固定化された電解質材料と無機多孔体との界面に働く相互作用の副次的効果が得られるので、電解質材料を液体状態のまま使用するときに比べて、イオン伝導度を向上し活性化エネルギーを低下させ得る。
【0023】
また、フッ素系電解質などを用いた従来品に比べて、安価な材料で構成できるため、より安価で普及に適した導電体が得られる。
更に、多価アニオンを含めたことにより、無機多孔体と電解質材料との共同効果により、イオン伝導を促進する領域が両者の界面に形成され得る。
【0024】
本発明の導電体において、上記電解質材料は、5〜15kJ/molの範囲の活性化エネルギーを有することが好適である。
このような低い活性化エネルギーを有するときは、温度に対するイオン伝導度の変化が抑制され得る。
【0025】
また、上記電解質材料は、
1.優れた熱安定性(不揮発性、蒸気圧がゼロ、広い温度域で液体である)、
2.高イオン密度、
3.大熱容量、
などの観点から、イオン液体を使用することが好適である。
【0026】
代表的なイミダゾリウム系カチオンとしては、例えば、以下の化学式1〜3で表されるものが挙げられる。
【0027】
【化1】

【0028】
(式中のRは同一でも異なっていてもよく、1価の有機基、好ましくは1価の炭化水素基、更に好ましくは炭素数1〜20のアルキル基又はアリールアルキル基を示す。)
で表される一置換イミダゾリウム誘導体カチオン(Monosubstituted Imidazolium Derivatives Cation)。
【0029】
【化2】

【0030】
(式中のR、Rは同一でも異なっていてもよく、1価の有機基、好ましくは1価の炭化水素基、更に好ましくは炭素数1〜20のアルキル基又はアリールアルキル基を示す。)
で表される二置換イミダゾリウム誘導体カチオン(Disubstituted Imidazolium Derivatives Cation)。
【0031】
【化3】

【0032】
(式中のR、R、Rは同一でも異なっていてもよく、1価の有機基、好ましくは1価の炭化水素基、更に好ましくは炭素数1〜20のアルキル基又はアリールアルキル基を示す。)
で表される三置換イミダゾリウム誘導体カチオン(Trisubstituted Imidazolium Derivatives Cation)。
【0033】
特に、EIカチオンを含む場合、活性化エネルギーが低下する観点からは、以下の化学式4で表されるエチルイミダゾリウムカチオンを使用することが好適である。
【0034】
【化4】

【0035】
一方、多価アニオンとしては、例えば、SO2−、PO3−又はHPO2−、及びこれらの任意の組合わせに係るものが挙げられる。
このときは、他のイオン液体に対し、高いプロトン伝導度が得られる。
【0036】
なお、これらのイミダゾリウム系カチオンと多価アニオンは、1種又は2種以上を適宜組合わせて使用できる。
また、これらのイミダゾリウム系カチオンと多価アニオンは、イオン液体を構成する他の成分、例えば、ピリジニウム系カチオンや、以下の化学式5〜18で表される一価アニオンなどと適宜組合わせて使用できる。
【0037】
【化5】

【0038】
【化6】

【0039】
【化7】

【0040】
【化8】

【0041】
【化9】

【0042】
【化10】

【0043】
【化11】

【0044】
【化12】

【0045】
【化13】

【0046】
【化14】

【0047】
【化15】

【0048】
【化16】

【0049】
【化17】

【0050】
【化18】

【0051】
他方、上記無機多孔体は、金属酸化物であることが好適であり、例えば、アルミナ(Al)、シリカ(SiO)、チタニア(TiO)又はジルコニア(ZrO)、及びこれらの任意の組合わせに係るものが挙げられる。
これらの無機多孔体は、安定性が高く、安価に入手可能なものが多いため有効である。
【0052】
更に、上記無機多孔体の有する複数の細孔が球状孔であること、該球状孔は、内径がほぼ均一で、隣接する球状孔同士が連通していることが好適である。
換言すれば、無機多孔体内部に球状孔が3次元的に存在し、隣接する球状孔と連通口を介して連通していることが良い。
【0053】
例えば、図1に示すような球状孔を有する無機多孔体1に電解質材料2を充填できる。
なお、球状孔の内壁面は、プロトン供与性官能基が存在するように処理されることが望ましい。また、電解質材料は、該連通口を介して充填できる。
【0054】
このように、無機多孔体の内部に電解質材料が規則的に保持されることで、両材料がコンポジット化され、全体的にイオン伝導度を高めることができる。
また、湿潤状態においては、無機多孔体が電解質材料の膨潤を抑制する。特に、多孔体内部に存在する球状孔がほぼ均一な径で構成されることで、電解質材料の含水時における膨潤に対して、多孔体は均質且つ分散された膨潤力を受けるので、導電体の局所的な破損が抑制できる。換言すれば、無機多孔体の球状孔が3次元規則配列構造をとることで、電解質材料の膨潤圧が無機多孔体に均等にかかるよう支持され得る。
【0055】
また、上記無機多孔体の気孔率は70〜90%であることが好適である。
このときは、無機多孔体への電解質材料の充填率を高めることで、イオン伝導度を向上できる。
【0056】
更に、上記無機多孔体の孔径は、イオン伝導性と電解質材料の導入容易性とのバランスから、100〜1500nmに設計できる。100nm未満では、球状樹脂をテンプレートとした多孔体の形成が困難となり易い。
【0057】
更にまた、上記無機多孔体は、無機ゾルを形成する材料より成ることが好適である。
このときは、安価な無機ゾルを利用することで、コストメリットが見込まれる。また、簡易な無機材形成技術であるゾルゲル法が適用できるので有効である。
【0058】
また、上記無機ゾル形成材料は、無機コロイドであることが好適である。
無機コロイドは、ポリマー粒子を鋳型に用いた無機多孔体の形成に適しており、3次元規則配列状態が保持された球状孔を形成できる。
【0059】
更に、上記無機多孔体は、ポリマー微粒子と無機多孔体の構成材料を混合して作製することができる。
【0060】
例えば、ポリマー微粒子と無機材料を混合した懸濁液を調製して得ることができる。
かかる懸濁液を適用することで、高い空孔率(70%以上)が実現できるため、電解質材料を多量に保持させることができ、高いイオン伝導性が期待できる。
また、ポリマー微粒子が積み重なることで形成される3次元規則配列構造を鋳型として、無機多孔体が得らえれる。
更に、ポリマー微粒子の粒径サイズ、積層状態を制御することで、任意の空間を有する無機多孔体を設計できる。
なお、細孔内のポリマー微粒子は熱処理などにより除去することで、電解質材料の入るスペースが確保される。
【0061】
また、本発明の導電体において、上記電極材料としては、例えば、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)などの電極触媒成分を含むことが望ましい。
これらの電極触媒成分は、例えば、カーボンペーパー、カーボンブラック、これらにポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を混合したものなどの担持基材を介して高分散させることが良い。
【0062】
ここで、本発明の導電体は、代表的には、図2に示すような工程により製造できる。更に詳細には、以下のような工程を行うことで製造できる。
1.無機ゾルと球状有機樹脂を溶媒を用いて混合する工程
2.この混合溶液を攪拌して懸濁液とする工程
3.この懸濁液を濾過して製膜する工程
4.濾過成形膜の余剰水分を除去する工程
5.濾過成形膜を乾燥する工程
6.濾過成形膜を加熱焼成して無機多孔体を得る工程
7.無機多孔体の球状孔に電解質材料を含浸させる工程
8.乾燥し、電極で挟持して導電体を形成する工程
【0063】
ここで、工程1〜6を経ることで、球状有機樹脂をテンプレートとして、球状孔が3次元規則配列された無機多孔体が得られる。
【0064】
工程1及び工程2では、無機コロイドと球状有機樹脂を均質な状態に混合することができる。これにより、均等で規則的な細孔を有する無機多孔体を得ることができる。
【0065】
また、工程3において、濾過は、球状有機樹脂をテンプレートとして、その隙間に無機ゾルを充填する方法として適している。濾過は、無機多孔体の球状孔の大きさ、細孔密度などから、適宜10〜60kPa程度減圧して行うことができる。
工程3で用いる球状有機樹脂としては、例えば100nm〜1500nm程度のポリエチレンを使用できる。
【0066】
代表的には、ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、架橋アクリル樹脂、メチルメタクリレート樹脂、ポリアミド樹脂などが適宜選択できる。
100nmより小さくなると粒径の分布が均等に整った粒子を安価に入手することが困難となり易い。また、1500nmより大きくなると無機多孔体を構成する支持構造の均質性に乱れが発生することがある。
【0067】
更に、工程4では、濾過成形膜に含まれている溶剤を予め除去することで、次の乾燥工程における乾燥時間を短縮することができる。
更にまた、工程5では、濾過成形膜を室温にて予め乾燥させることで、焼成工程等での膜のハンドリングを容易にする。
【0068】
次いで、工程6では、濾過成形膜を加温焼成することで、無機材料を焼成形成すると共に、テンプレート樹脂を焼成除去することで無機多孔体を形成できる。
このとき、濾過膜中の球状有機樹脂を除去するための仮焼成を行い、その後に無機多孔体を焼結させることが良い。
仮焼成は、例えば、1〜10℃/min、望ましくは2〜5℃/minの昇温速度で400〜500℃、より望ましくは430〜470℃まで昇温させ、30分以上熱処理を行うことができる。
焼成は、例えば800〜900℃以上で30〜100分間程度の熱処理を行うことができる。なお、この本焼成は複数回繰り返して行っても良い。
【0069】
更に、工程7及び8では、得られた多孔体へ電解質材料を含浸させ、電極材料で挟持することで、容易に目的とする導電体が得られる。
【0070】
次に、本発明のエネルギーデバイス、燃料電池セルについて説明する。
本発明のエネルギーデバイスは、上述の導電体を適用して構成される。
これより、各種エネルギーデバイス、例えば、燃料電池(セル又はスタック)、水電解、ハロゲン化水素酸電解、食塩電解、酸素濃縮器、湿度センサー、ガスセンサーなどに適用することで、高いイオン伝導度が得られ、性能が向上する。
また、温度に対するイオン伝導度の変化が小さいため、温度に依らず安定したイオン伝導度が得られる。
【0071】
特に、上述の導電体を適用を燃料電池セルに適用するときは、中温域(120℃程度)の運転を可能とし、ラジエーター負荷を従来のPEM型燃料電池に対して低下できるので、ラジエーターサイズを低減できる。その結果、システム容積の低減、システム重量の軽量化が可能となる。
また、低温域(室温程度、例えば25℃)でのイオン伝導度が向上するため、低温運転時の性能向上が可能となる。即ち、システム始動時等の低温状態で高いイオン伝導度が得られる。
なお、エネルギーデバイス、燃料電池セルは、他の制御手段と組合わせて適宜システム化することができる。
【実施例】
【0072】
以下、本発明を実施例及び比較例により更に詳述するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0073】
(実施例1)
1.無機多孔体の作製
無機多孔体原料として直径70〜100nmのコロイダルシリカを用意した。
また、孔径制御を目的に平均直径約500nmのポリスチレン球状粒子を用意した。
【0074】
このコロイダルシリカ及びポリスチレン球状粒子を溶質体積が所定の膜厚になるよう混合してサスペンション溶液を調製した。
手順としては、まずポリスチレン球状粒子を10%秤量し、水に添加した。また、コロイダルシリカを40%秤量し、水に添加した。これら溶液を超音波攪拌し、粒子を均一に分散させた。
【0075】
次いで、メンブレンフィルターをフィルターホルダーにセットし、手動式真空ポンプを用いて大気圧に対して大きくても10kPa以下の圧力となるように減圧し、サスペンションを濾過した。
【0076】
サスペンションがすべて濾過された後、濾過成形された膜に含まれる余剰水を、吸水材(濾紙など)で除去した。
室温で十分乾燥させた後にメンブレンフィルターから剥離することで、コロイダルシリカ及びポリスチレン球状粒子の混合物から成る膜が得られた。
【0077】
また、得られた膜に次のような熱処理を行った。
まず、仮焼成として、1〜10℃/minの昇温速度で400〜500℃まで昇温を行い、その温度にて30分以上熱処理を行い、ポリスチレン球状粒子を取り除いた。
仮焼成後、少なくとも800℃以上で約60分間熱処理を行い、コロイダルシリカを焼結させた。
その後、機械的強度を向上させるため、900℃以上の温度にて15分間熱処理を行い、ゆっくりと室温に戻すことで、目的とするシリカ多孔膜(無機多孔体)を得た。
【0078】
2.電解質材料(イオン液体)の作製・含浸
エチルイミダゾリウム(EIm)とアニオン(HSO)から構成されるイオン液体(EImHSO)を得た。
このイオン液体を、上記シリカ多孔膜に含浸させた。
なお、このイオン液体含浸シリカ多孔膜は、電極材料で挟持することにより、本発明の導電体の一実施形態となる。
【0079】
(比較例1)
実施例1と同様のイオン液体を電解質材料として用意した。
【0080】
(イオン伝導性評価)
実施例1で得られたイオン液体含浸シリカ多孔膜と、比較例1の電解質材料について、所定面積の金電極を用いて両面から挟み、10Hz〜100kHzの交流波をかけて計測したインピーダンスにて評価した。
この結果、イオン液体含浸シリカ多孔膜では、イオン液体単独よりも良好なイオン伝導度が得られていることを確認した(図3)。
なお、ここでのイオン導電率は多孔度を考慮せず、金電極と接触する面積を元に算出を行った。また、計測では、連続的に温度を変えてイオン伝導度を測定した。
【0081】
(実施例2)
実施例1で得られたイオン液体含浸シリカ多孔膜を燃料電池に適用した。この燃料電池の基本的な構成を図4に示す。
具体的には、イオン液体含浸シリカ多孔膜7が、対峙する一対の電極材料3及びガス拡散層6で順に挟まれるように作製した。
電極材料3には白金担持カーボンを用い、ガス拡散層6にはカーボンペーパを用いた。
【0082】
また、各電極にはセパレータ4を用いてガス流路5を形成し、このセパレータを介して各電極に水素(又は水素を含有する燃料ガス)と、酸素(又は酸素を含有する酸化ガス)を供給できるようにした。
なお、電極は、燃料ガスを供給する側がアノード、酸化ガスを供給する側がカソードとなる。
【0083】
この燃料電池で発電するときは、以下の一般式(1)〜(3)に示す電気化学反応が進行する。
→ 2H + 2e …(1)
2H + 2e + (1/2)O → HO …(2)
+ (1/2)O → HO …(3)
【0084】
式(1)は、燃料電池の陰極側における反応を示している。
式(2)は、燃料電池の陽極側における反応を示している。
式(3)は、燃料電池全体で行なわれる反応となる。
なお、これらの反応は、電極材料3で進行する。
【0085】
このように、本発明の導電体を用いた燃料電池は、中温域(120℃程度)の運転を可能とし、ラジエーター負荷を従来のPEM型燃料電池に対して低下させ、ラジエーターサイズを低減できる。
その結果、システム容積の低減、システム重量の軽量化が実現できる。
また、用いる導電体は活性化エネルギーを低下させることが可能であり、低温でのイオン伝導度が向上するため、低温運転時の性能向上が可能となる。即ち、システム始動時等の低温状態で高いイオン伝導度が得られ、始動性能の向上が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】導電体の一例を示す概略図及びSEM写真である。
【図2】導電体の作製手順の一例を示すフロー図である。
【図3】イオン伝導性の評価結果を示すグラフである。
【図4】導電体を適用した燃料電池の一例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0087】
1 無機多孔体
2 電解質材料
3 電極材料
4 セパレータ
5 ガス通路
6 ガス拡散層
7 電解質材料を保持した無機多孔体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機多孔体と電解質材料と一対の電極材料とから構成される導電体であって、
上記無機多孔体は、孔内に上記電解質材料を保持し、
上記電解質材料は、イミダゾリウム系カチオンと多価アニオンとを少なくとも含み、
上記電極材料は、該電解質材料を保持した無機多孔体を挟持する、ことを特徴とする導電体。
【請求項2】
上記電解質材料がイオン液体であることを特徴とする請求項1に記載の導電体。
【請求項3】
上記イミダゾリウム系カチオンがエチルイミダゾリウムカチオンであることを特徴とする請求項1又は2に記載の導電体。
【請求項4】
上記多価アニオンが、SO2−、PO3−及びHPO2−から成る群より選ばれた少なくとも1種のものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つの項に記載の導電体。
【請求項5】
上記無機多孔体が、アルミナ、シリカ、チタニア及びジルコニアから成る群より選ばれた少なくとも1種の金属酸化物で形成されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つの項に記載の導電体。
【請求項6】
上記無機多孔体が、複数の球状孔を有し、該球状孔は、内径がほぼ均一で、隣接する球状孔同士が連通しており、該球状孔内に電解質材料を備えることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つの項に記載の導電体。
【請求項7】
上記無機多孔体の気孔率が70〜90%であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1つの項に記載の導電体。
【請求項8】
上記無機多孔体が、無機ゾルを形成する材料で形成されていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1つの項に記載の導電体。
【請求項9】
上記無機ゾル形成材料が、無機コロイドであることを特徴とする請求項8に記載の導電体。
【請求項10】
上記無機多孔体が、ポリマー微粒子と無機材料を混合した懸濁液より形成されたことを特徴とする請求項1〜9のいずれか1つの項に記載の導電体。
【請求項11】
上記電解質材料が5〜15kJ/molの範囲の活性化エネルギーを有することを特徴とする請求項1〜10のいずれか1つの項に記載の導電体。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1つの項に記載の導電体を適用して成ることを特徴とするエネルギーデバイス。
【請求項13】
請求項1〜11のいずれか1つの項に記載の導電体を適用して成ることを特徴とする燃料電池セル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−48581(P2007−48581A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−231469(P2005−231469)
【出願日】平成17年8月10日(2005.8.10)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)
【出願人】(305027401)公立大学法人首都大学東京 (385)
【Fターム(参考)】