説明

導電性アラミド紙

本発明は、アラミドファイバー、ファイブリッドおよびフィラーの総重量を基準として、5〜65重量部のアラミドファイバーと、30〜90重量部のアラミドファイブリッドと、1〜20重量部の導電性フィラーとを含んでなるアラミド紙であって、0.43g/cm以下の見かけ密度、60Nm/g以上の比引張強さを有するアラミド紙、およびかかる紙の製造方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電放電干渉および/または電磁干渉のシールドに好適な導電性アラミド紙に関する。
【背景技術】
【0002】
ノーメックス(NOMEX)(登録商標)タイプ843導電性カーボンブレンドアラミド紙は、導電性カーボンファイバーとブレンドしたノーメックス(NOMEX)(登録商標)ブランドフロックおよびファイブリッドからなる。この紙は、ホットカレンダ加工されたものとカレンダ加工されていない版の両方で入手可能である。この紙のカレンダ加工されていない版の坪量は約40g/m、密度は約0.29g/cm、引張強さは約16N/cmであり、これは、比引張強さ40Nm/gに対応し、ポリマー樹脂で容易に飽和することができる。しかしながら、この紙は、導体の自動テープ巻取りに対して、適正な引張強度を有しておらず、自動巻取り装置に通常用いられる張力下で用いて巻くときに、アラミドテープの破断や引裂きをもたらすことが分かっている。この紙のホットカレンダ加工された版は、約35N/cm(比引張強さ約90Nm/g)の改善された引張強さを有し、自動テープ巻取りに対して、十分に強い。しかしながら、このカレンダ加工された紙は飽和し難く、かつ成形し難い。結果として得られる紙のカレンダ加工後、密度が上がる(約0.64g/cm)からである。紙の飽和度は、絶縁体として用いる紙にとって重要である。多くの用途において、絶縁体が部品周囲に巻かれ、巻かれた部品は、ポリマー樹脂に含浸されるからである。これは、包装材の空気の細孔を実質的に排除し、電場の不均一性および絶縁体の後に起こる初期故障を減じるためである。紙を部品またはその他包装材周囲に巻いた後、ポリマー樹脂が紙を通過して、紙と存在するであろうその他包装材の両方を完全に含浸できるよう、紙は十分に多孔性でなければならない。
【0003】
導電性の紙は、電荷の蓄積を排除し、特定の用途において最良の電気シールドを提供するあるレベルの表面抵抗率を有しているのも望ましい。このように、高圧モータの固定子におけるコイルの主壁絶縁体の外側層について、導電性テープの好ましい表面抵抗率は、約100〜400オーム/inの範囲内である。同様に、最終の紙の表面抵抗率を良好に制御できるようにする製造プロセスとするのが非常に重要である。ホットカレンダ加工軽量ノーメックス(NOMEX)(登録商標)紙タイプ843(機械方向に約700オーム/in、交差方向に約1800オーム/in)の表面抵抗率は、カレンダ加工されていない紙の約7倍(機械方向に95オーム/in、交差方向に250オーム/in)である。
【0004】
モルガン(Morgan)による(特許文献1)、グロス(Gross)による(特許文献2)およびヘイズ(Hayes)による(特許文献3)には、芳香族ポリアミド(アラミド)ファイブリッドおよび異なるファイバーの組み合わせからの紙をはじめとする合成ポリマーからのファイブリッドに基づいた紙が開示されている。
【0005】
キラヨグルら(Kirayoglu et al.)による(特許文献4)には、45〜97重量%のp−アラミドファイバー、3〜30重量%のm−アラミドファイブリッドおよび0〜30重量%の水晶ファイバーを含んでなる強固な紙を製造する方法が開示されている。この紙は、少なくとも510°F(266℃)で成形、カレンダ加工および追加の高温熱処理により製造される。
【0006】
ヘンドレンら(Hendren et al.)による(特許文献5)には、フロックおよびファイブリッドからの高強度アラミド紙が開示されており、カーボンファイバーはフロックの可能なタイプの中に入る。279℃の温度のプレスでの紙の熱圧縮後に、必要な機械的特性が達成される。
【0007】
カトウら(Kato et al.)による(特許文献6)には、構造体の導電性層に導電性ファイバーを有する多層アラミド紙が開示されている。この紙は、成形の後、ポリメタフェニレンイソフタルアミドのガラス転移温度(275℃)で、またはそれより高い温度で、熱圧縮またはホットカレンダ加工により製造される。
【0008】
これまで、導電性フィラーを有するアラミド紙は、紙をより強固にし、自動テープ巻取りに好適なものとするために、ホットカレンダ加工または熱圧縮を必要としていた。同時に、カレンダ加工または熱圧縮により、紙の電気的特性が大幅に変化し、その自由体積、樹脂により飽和および含浸される能力が減じる。従って、必要とされているのは、所望の電気的特性を有し、樹脂により飽和され、また、自動テープ巻取り機で処理できるだけ十分に強固な導電性アラミド紙である。
【0009】
【特許文献1】米国特許第2,999,788号明細書
【特許文献2】米国特許第3,756,908号明細書
【特許文献3】米国特許第4,481,060号明細書
【特許文献4】米国特許第5,233,094号明細書
【特許文献5】米国特許第5,126,012号明細書
【特許文献6】米国特許第5,316,839号明細書
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、アラミドファイバー、ファイブリッドおよびフィラーの総重量を基準として、5〜65重量部のアラミドファイバーと、30〜90重量部のアラミドファイブリッドと、1〜20重量部の導電性フィラーとを含んでなるアラミド紙であって、0.43g/cm以下の見かけ密度、および60Nm/g以上の比引張強さを有するアラミド紙に関する。
【0011】
本発明はまた、アラミドファイバー、ファイブリッドおよびフィラーの総重量を基準として、5〜65重量部のアラミドファイバー、30〜90重量部のアラミドファイブリッドおよび1〜20重量部の導電性フィラーの水性分散液を形成し、分散液をブレンドしてスラリーを形成し、スラリーから水性液体を排出して、湿潤紙組成物を得て、湿潤紙組成物を乾燥させ、紙を高密度化することなく、アラミドファイブリッドのポリマーのガラス転移温度またはそれ以上で紙を熱処理することを含んでなるアラミド紙の製造方法にも関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、アラミドファイバー、ファイブリッドおよびフィラーの総重量を基準として、5〜65重量部のアラミドファイバーと、30〜90重量部のアラミドファイブリッドと、1〜20重量部の導電性フィラーとを含んでなるアラミド紙であって、0.43g/cm以下の見かけ密度、および60Nm/g以上の比引張強さを有するアラミド紙に関する。意外にも、本発明者らは、紙を高密度化または圧縮するために大きな圧力を加熱状態でシートに印加することなく、ファイブリッドのアラミドポリマーのガラス転移温度またはそれより高い温度で成形された紙を熱処理することにより、紙の自由体積または表面抵抗率における大幅な変化のない強固な紙を製造できるということを知見した。
【0013】
本発明の紙は、アラミドポリマーからのファイバーとファイブリッドとを含む。アラミドポリマーは、アミド(−CO−NH−)結合の少なくとも85%が2つの芳香環に直接付加しているポリアミドである。添加剤をアラミドと共に用いることができ、10重量パーセントまでの他のポリマー材料をアラミドとブレンドすることができることを見出した。コポリマーは、アラミドのジアミンに代えて10パーセントまでのその他のジアミン、またはアラミドの塩化二酸に代えて10パーセントまでの他の塩化二酸を用いることができる。アラミドポリマーおよびファイバーを製造する方法は、米国特許第3,063,966号明細書、第3,133,138号明細書、第3,287,324号明細書、第3,767,756号明細書および第3,869,430号明細書に開示されている。本発明のある好ましい実施形態において、アラミドポリマーは、メタ−およびパラ−配向アラミドであり、ポリ(メタフェニレンイソフタルアミド)およびポリ(パラフェニレンテレフタルアミド)が好ましいアラミドポリマーである。
【0014】
本発明の紙はアラミドファイバーを含んでなる。本発明の多くの実施形態において、アラミドファイバーは、フロックまたはパルプの形態とすることができる。「フロック」とは、約2〜25ミリメートル、好ましくは3〜7ミリメートルの長さを有するファイバーのことを意味し、このファイバーは約3〜20マイクロメートル、好ましくは5〜14マイクロメートルの直径を有するのが好ましい。フロック長さが約2ミリメートル未満の場合には、強固な紙を作製するのが難しく、長さが約25ミリメートルを超える場合には、湿式法により均一なウェブを成形することが難しい。フロック直径が約3マイクロメートル未満の場合には、適正な均一性および再現性を備えたものを製造することが難しく、約25マイクロメートルを超える場合には、低〜中の坪量を有する均一な紙を成形するのが難しい。フロックは、一般に、従来のファイバー切断機器を用いて、連続スパンフィラメントまたはトウを切断して、特定の長さのピースにすることにより作製される。
【0015】
本明細書で用いる「パルプ」という用語は、茎と一般にそこから延びるフィブリルとを有するアラミド材料の粒子のことを意味し、茎は、一般に柱状で、直径は約10〜50マイクロメートルであり、フィブリルは、直径がマイクロメートルの僅か何分の一、または数マイクロメートル、長さが約10〜100マイクロメートルのサイズの、一般に、茎に付加した細かい毛髪状の部材である。アラミドパルプを製造する1つの可能な例示のプロセスは、米国特許第5,084,136号明細書に開示されている。
【0016】
本発明の紙は、5〜65重量部のアラミドファイバーを含んでなり、ある実施形態においては、30〜50重量部が好ましい。5重量部未満だと、脆すぎで、十分な引裂き特性のない紙となり、一方、65重量部を超えるアラミドファイバーを有する紙だと、組成物を一緒にバインドするのを補助するのに組成物の利用可能なファイブリッドの量がそれに対応して減少し、その結果、紙の引裂き強度が許容できないほど減少するものと考えられる。本発明のある実施形態において、本発明に有用なファイバーの好ましいタイプは、ポリ(メタフェニレンイソフタルアミド)フロック、ポリ(パラフェニレンテレフタルアミド)パルプおよびポリ(パラフェニレンテレフタルアミド)フロックであり、ポリ(メタフェニレンイソフタルアミド)フロックが最も好ましいファイバーである。
【0017】
本発明の紙はまた、アラミドファイブリッドを含んでなる。本明細書で用いる「ファイブリッド」という用語は、長さと幅が約100〜1000マイクロメートルで厚さが僅か約0.1〜1マイクロメートルであることが分かっている、小さく、フィルム状の実質的に二次元の粒子の微粉砕ポリマー製品を意味する。ファイブリッドは、ポリマー溶液を、溶液の溶剤と非混和の液体の凝固浴に流し込むことにより作製される。ポリマーが凝固するにつれて、ポリマー溶液のストリームに、激しい剪断力および乱流が加わる。アラミドファイブリッドは、米国特許第3,756,908号明細書または第3,018,091号明細書に記載されたような、単一工程で、ポリマー溶液を沈殿および剪断する抄紙(fibridating)機を用いて作製することができる。
【0018】
本発明の紙は30〜90重量部のアラミドファイブリッドを含んでなる。30重量部未満のファイブリッドを有する紙は、最も好ましい用途について、適正な引張強度を有さず、一方、90重量部を超える紙は、典型的に、脆すぎて、多くの処理工程について十分な引裂き特性を有さないだけでなく、かかる高ファイブリッド含量の紙は、低密度でも樹脂含浸性が非常に限られているものと考えられる。ある実施形態において、本発明の紙は、約35〜60重量部のアラミドファイブリッド含量を有するのが好ましい。本発明のある実施形態において、本発明の好ましいアラミドファイブリッドは、メタ−アラミドポリマーから作製され、最も好ましいメタ−アラミドはポリ(メタフェニレンイソフタルアミド)である。
【0019】
本発明の紙に用いるアラミドファイバーおよびファイブリッドは、スパンフィラメントの自然な色としたり、染料または顔料により着色することができる。ファイバーはまた、その表面特性を変える材料により処理することもできる。ただし、かかる処理が、ファイバー表面と接触しそれらを保持するのにバインダーの能力に悪影響を及ぼさない場合に限る。
【0020】
本発明の紙は、さらに導電性フィラーを含む。「導電性フィラー」とは、約10シーメンス/メートルを超える導体について典型的な導電性等から、約10−8〜10シーメンス/メートルの半導体について典型的な導電性まで広範囲にわたる導電性を有する繊維状または微粒子(粉末またはフレーク)形態のことを意味する。導電性フィラーの構造は、特定の用途要件に基づいて選択することができる。導電性フィラーは、比較的均一として、材料の実質的に全ての体積が電気を通すことができる(金属ファイバー、カーボンファイバー、カーボンブラック等)。または、材料は均一として、導電性部分と誘電性部分が材料の体積中に共存することができる(金属コートファイバーまたは粒子、または導電性成分で充填したファイバーまたは粒子等)。
【0021】
本発明の紙は1〜20重量部の導電性フィラーを含んでなる。1重量部未満だと、多くの用途について適正な量の導電性を与えない紙となり、一方、20重量部を超えると、通常、紙の機械的特性が顕著に減じるものと考えられる。ある好ましい実施形態において、導電性フィラーはカーボンファイバーであり、他の好ましい実施形態において、導電性フィラーはカーボンブラックである。本発明の紙の多くの版に有用な最も好ましい導電性フィラーはカーボンファイバーである。
【0022】
本発明の紙の見かけ密度は、0.43g/cm以下、比引張強さは60Nm/g以上である。かかる紙は、干渉放電またはシールド用途に用いることができ、容易にテープ留めして、樹脂で含浸することができる。見かけ密度は、紙の重量対体積比を説明するものであり、ASTM D202に従って求められる。比引張強さは、引張強度対坪量(坪量)比を説明するものであり、ASTM D828に従って求められる。本発明のある実施形態において、本発明の紙の最終坪量は約30〜60g/mであり、最終厚さは約0.08〜0.16mmである。
【0023】
本発明の紙は、概して、電気装置または導体に据付ける前か後のいずれかに、樹脂で含浸される。かかる樹脂としては、エポキシ樹脂、ポリエステルイミド樹脂およびその他樹脂系が挙げられる。成形可能で、典型的な樹脂により即時に含浸できる本発明の紙の見かけ密度は、約0.43g/cm以下であるのが重要であることを見出した。高密度であると、成形可能としたり、即時の樹脂含浸を可能とするには高密度化されすぎる。さらに、紙の見かけ密度は、用途、用いる樹脂および用いる樹脂の量に応じて、0.15g/cm以下と低くすることができる。
【0024】
電気機器における電気放電を防ぐために、本発明の紙から作製されたテープが、自動テープ巻取り機を用いて、概して、導体コイルに適用される。これらの機械において紙の過剰な破損や引裂きを避けるには、60Nm/g以上の比引張強さが必要であることを見出した。
【0025】
見かけ密度への影響が増大せず、比引張強さが許容できないレベルに下がらないという条件で、粉末、フレークまたは繊維状形態の、紙コロナ抵抗およびその他特性の調整のためのその他フィラー、顔料または酸化防止剤等の追加の成分を、本発明の紙組成物に添加することができる。
【0026】
本発明はまた、
a)アラミドファイバー、ファイブリッドおよびフィラーの総重量を基準として、5〜65重量部のアラミドファイバー、30〜90重量部のアラミドファイブリッドおよび1〜20重量部の導電性フィラーの水性分散液を形成し、
b)分散液をブレンドしてスラリーを形成し、
c)スラリーから水を排出して、湿潤紙組成物を得て、
d)湿潤紙組成物を乾燥させ、
d)紙を高密度化することなく、アラミドファイブリッドのポリマーのガラス転移温度またはそれ以上で紙を熱処理すること
を含んでなるアラミド紙の製造方法にも関する。
【0027】
本発明の第1の工程には、水等の水性液体においてアラミドファイバー、アラミドファイブリッドおよび導電性フィラーの分散液を形成することが含まれる。分散液は、ファイバーを分散させて、ファイブリッドおよびその他材料を添加するか、ファイブリッドを分散させて、ファイバーおよびその他材料を添加するかのいずれかにより調製することができる。分散液はまた、ファイバーの第1の分散液を、ファイブリッドおよびその他材料の第2の分散液と混合することによって調製することもできる。ファイバー、ファイブリッドおよびその他材料を混合するには任意の数の可能性があるが、好ましい一実施形態においては、最終分散液のファイバーの濃度は、分散液の総重量を基準として、約0.01〜1.0重量パーセントである。他の好ましい実施形態において、分散液中のファイブリッドの濃度は、固体の総重量を基準として、約95重量パーセントまでである。
【0028】
分散液の水性液体は、概して、水であるが、pH−調節材料、成形助剤、界面活性剤、消泡剤等といった様々なその他の材料を含んでいてもよい。
【0029】
本発明の紙を製造するプロセスの第2の工程は、分散液をブレンドしてスラリーを形成することである。分散液は、完全に別個の工程または容器でブレンドすることができる、または分散液は、形成している間、実質的に同時にブレンドすることができ、ブレンドは、分散液を形成する同じ容器で実施してよい。ブレンドは、例えば、攪拌装置による分散液の攪拌、精製機における分散液の精製による等の公知の手段により実施することができる。または、ある実施形態においては、ブレンドは、適正な乱流を与えて材料をブレンドする速度で分散液をポンピングすることにより実施することができる。
【0030】
本発明の紙を製造するプロセスの第3の工程には、第2のスラリーから水性液体を排出して、湿潤紙組成物を得ることが含まれる。ある実施形態において、スクリーンまたはその他穿孔サポートに分散液を通し、分散された固体を保持し、液体を通過させることにより、湿潤紙組成物を得ることによって、水性液体は、分散液から排出される。例えば、本発明の紙は、実験室スクリーンから、フォードリニア(Fourdrinier)や傾斜ワイヤ機等、商業的な大きな製紙機まで、任意の規模の機器で成形することができる。
【0031】
本発明の紙を製造する方法における次の工程には、湿潤紙組成物を乾燥することが含まれる。本発明の方法の多くの実施形態において、湿潤紙組成物は、サポートまたはスクリーン上でひとたび成形されると、真空またはその他圧力による力によりさらに脱水され、ウェブおよび紙を乾燥するのに業界で公知のドライヤー、オーブンまたは同様の装置を用いて残りの液体を蒸発することによりさらに乾燥される。
【0032】
本発明の紙を製造する方法の最後の工程は、紙を高密度化することなく、ファイブリッド中のポリマーのガラス転移温度またはそれ以上で紙を熱処理することが含まれる。ポリ(m−フェニレンイソフタルアミド)について、ガラス転移は約275℃である。
【0033】
熱処理は、成形とインラインで、または別個の処理工程として実施することができる。意外にも、本発明者らは、紙を高密度化または圧縮するために大きな圧力を加熱状態でシートに印加することなく、ファイブリッドのアラミドポリマーのガラス転移温度またはそれより高い温度で成形された紙を熱処理することにより、紙の自由体積または表面抵抗率における大幅な変化のない強固な紙を製造できるということを知見した。従って、この方法には、従来技術の方法で典型的なシート構造を高密度化する予備圧縮または後のカレンダ加工工程のいずれも含まれない。所望であれば、熱処理により収縮の減少を補助する間、紙を拘束することができる。
【0034】
熱処理は、これらに限られるものではないが、赤外またはオーブン中での温風加熱等従来の加熱により、金属ロールまたはその他熱表面の紙接触熱表面との接触加熱をはじめとする公知の加熱方法により実施することができる。
【0035】
本発明の紙は、静電放電干渉および/または電磁干渉シールドのための調整したレベルの電気的特性を備えた電性材料として有用である。例えば、高圧回転機の固定子のスロットにおいて静電放電のための導電性テープとして用いることができる。
【0036】
試験方法
ASTM D374およびASTM D646に従って、本発明の紙の厚さおよび坪量(坪量)を求めた。厚さ測定で、試料に約172kPaの圧力をかける方法Eを用いた。
【0037】
紙の密度(見かけ密度)は、ASTM D202に従って求めた。
【0038】
比引張強さは、ASTM D828に従って、幅2.54cm、ゲージ長12.7cmの試験試料を用いて、インストロンタイプの試験機での引張試験に基づいて求めた。
【0039】
表面抵抗率は、紙の幅約2.54cmのストリップで、ASTM D257に従って測定した。
【実施例】
【0040】
実施例および比較実施例で作製した全紙試料の物理特性を表に示す。
【0041】
実施例1
0.5%の稠度(水中0.5重量パーセント固体材料)で、乾燥履歴のないポリ(メタフェニレンイソフタルアミド)(MPD−I)ファイブリッドで水性分散液を作製した。カーボンファイバーをこの分散液に添加した。連続攪拌して約10分後、追加の水およびメタ−アラミドフロックを、約10分さらに攪拌しながら添加し、材料を完全にブレンドし、最終稠度が0.35%のスラリーを得た。最終スラリーは、39重量%MPD−Iフロック、50重量%MPD−Iファイブリッドおよび11重量%カーボンファイバーの固体を含んでなっていた。
【0042】
MPD−Iファイブリッドを、米国特許第3,756,908号明細書に開示され記載された一般法を用いて作製した。MPD−Iフロックの線密度は0.22tex(2.0デニール)、切断長さは0.64cmおよび初期モジュラスは約800cN/tex(ノーメックス(NOMEX)(登録商標)という商品名でデュポン(DuPont)より販売)であった。カーボンファイバーは、フォータフィル社(FORTAFIL Inc.)より入手可能なフォータフィル(FORTAFIL)ファイバータイプ150(長さ0.32cm)であった。
【0043】
スラリーをポンピングして、チェストを供給し、そこからフォードリニア(Fourdrinier)機へ供給して、坪量が約30.9g/mの紙を作製した。紙を、表面温度が約320℃および接触滞留時間が約7秒の加熱金属ロールとの表面接触により熱処理した。この紙から作製された幅2cmのテープは、自動巻取りプロセスを用いてコイルに、破断や引裂きなしに、順調に巻けた。
【0044】
実施例2
実施例1と同様にしてスラリーを調製した。ただし、最終スラリーは、40重量%MPD−Iフロック、50重量%MPD−Iファイブリッドおよび10重量%カーボンファイバーの固体を含んでなっていた。坪量が50.2g/mの紙を、実施例1と同様にして、フォードリニア(Fourdrinier)で成形し、さらに熱処理した。この紙から作製された幅2cmのテープは、自動巻取りプロセスを用いてコイルに、破断や引裂きなしに、順調に巻けた。
【0045】
実施例3
実施例1と同様にしてスラリーを調製した。ただし、最終スラリーは、44重量%MPD−Iフロック、50重量%MPD−Iファイブリッドおよび6重量%カーボンファイバーの固体を含んでなっていた。坪量が53.9g/mの紙を、実施例1と同様にして、フォードリニア(Fourdrinier)で成形し、さらに熱処理した。この紙から作製された幅2cmのテープは、自動巻取りプロセスを用いてコイルに、破断や引裂きなしに、順調に巻けた。
【0046】
実施例4
実施例1と同様にしてスラリーを調製した。ただし、最終スラリーは、60重量%MPD−Iフロック、40重量%MPD−Iファイブリッドおよび10重量%カーボンファイバーの固体を含んでなっていた。坪量が45.8g/mの紙を、実施例1と同様にして、デルタフォーマー(Deltaformer)で成形し、さらに熱処理した。この紙から作製された幅2cmのテープは、自動巻取りプロセスを用いてコイルに、破断や引裂きなしに、順調に巻けた。
【0047】
実施例5
172gの水性で、乾燥履歴のないメタ−アラミドファイブリッドスラリー(ショッパー−リーグラー(Shopper−Riegler)の稠度0.58%およびフリーネス330ml)、0.34gのカーボンブラックおよび0.66gのメタ−アラミドフロックを、約1600gの水と共に実験室用ミキサー(英国パルプ評価装置)に入れ、1分間攪拌した。最終スラリーは、33重量%MPD−Iフロック、50重量%MPD−Iファイブリッドおよび17重量%カーボンファイバーの固体を含んでなっていた。
【0048】
MPD−IフロックおよびMPD−Iファイブリッドは、実施例1で記載したのと同様であった。カーボンブラックは、アクゾノーベル社(Akzo Nobel Co)製ケッチェンブラック(Ketjenblack)(登録商標)EC300Jであった。分散液を、水8リットルと共に、約21×21cmの手漉き紙鋳型に注ぎ、湿式シートを成形した。シートを、2ピースの吸い取り紙の間に入れ、のし棒で手で延ばして、手漉き紙乾燥機にて190℃で乾燥した。乾燥後、300℃のオーブンで20分間シートを拘束位置(金属クリップにより金属板に固定)で熱処理した。
【0049】
比較実施例A
実施例5と同様にして紙を作製した。ただし、乾燥後の追加の熱処理は行わなかった。その結果、紙の比引張強さは、自動テープ留め操作に必要とされるよりも大幅に低かった。
【0050】
比較実施例B
実施例5と同様にして紙を作製した。ただし、乾燥後の追加の熱処理の代わりに、シートを、ロール直径が約20cm、温度が約300℃、線圧が約3000N/cmの金属−金属カレンダのニップに通過させた。
【0051】
比較実施例C〜F
紙を実施例1〜4に記載したようにして成形した。ただし、追加の熱処理は実施しなかった。これらの紙からの幅2cmのテープの自動テープ留め中、破断は生じた。
【0052】
比較実施例G
実施例1の紙を、ロール直径が約20cm、温度が約300℃、線圧が約1200N/cmの金属−金属カレンダのニップに通過させた。
【0053】
比較実施例H
紙を、実施例2に記載したようにして成形し、周囲温度、線圧870N/cmでソフトニップカレンダにてカレンダ加工し、実施例1に記載したのと同じ条件で熱処理した。
【0054】
表1から分かるとおり、本発明の紙(実施例1〜5)の比引張強さは、61〜87N/cmの範囲で、68〜85の同じ組成(比較実施例B、GおよびH)のカレンダ加工紙の比引張強さに近いが、本発明の紙(実施例1〜5)の見かけ密度値は、0.28〜0.41g/cmで、0.27〜0.40g/cmの範囲の比較実施例AおよびC〜Fにより表される成形前駆体紙と略同じである。
【0055】
本発明の紙の表面抵抗率はまた、成形前駆体の表面抵抗率に非常に近い(実施例1と比較実施例C、実施例2と比較実施例D、実施例3と比較実施例E、実施例4と比較実施例Fおよび実施例5と比較実施例Aを比較のこと)。成形および熱処理紙対成形紙の抵抗率の最大の差は、実施例3と比較実施例E(約2.4倍の変化)の対であるが、カレンダ加工後よりそれでもはるかに低い(後述する)。
【0056】
カーボンファイバーを有するカレンダ加工紙の表面抵抗率は、比較実施例CおよびDにより表される成形前駆体または実施例1および2により表される成形および熱処理紙の抵抗率よりはるかに高いということを、比較実施例GおよびHは示している。
【0057】
カーボンブラックを含むカレンダ加工紙(比較実施例B)の表面抵抗率は、対応の成形前駆体(比較実施例A)の抵抗率より10倍低いということを、比較実施例AおよびBは示している。カーボンファイバーで作製した紙とは異なるこの反応は、カーボンファイバーの脆さのせいであると考えられ、そこには大幅な破砕があり、カレンダのニップで圧縮すると、これらのファイバーの長さが減少し、その結果、表面抵抗率が対応して増大する。かかる影響は、重い紙についてはあまり明確ではないが、実際に重要な軽量紙(60g/m以下)については、非常にマイナスの因子である。また、より均一な紙成形が、効果の規模を減じる可能性があるが、紙製造の経済面から、常にそういった機会は制限されている。カーボンブラックのように、かかる導電性粉末フィラーの場合には、個々のサイズに変化はないが、構造体の導電性要素(すなわち、粒子)の高体積濃度のために、カレンダ加工後の紙抵抗率が大幅に減じるものと考えられる。導電性フィラーの両タイプ(カーボンファイバーとカーボンブラック)での紙のカレンダ加工についての主な問題は、実施例で示される通り、カレンダ加工後の表面抵抗率における劇的な変化である。
【0058】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アラミドファイバー、ファイブリッドおよびフィラーの総重量を基準として、5〜65重量部のアラミドファイバーと、30〜90重量部のアラミドファイブリッドと、1〜20重量部の導電性フィラーとを含んでなるアラミド紙であって、0.43g/cm以下の見かけ密度、および60Nm/g以上の比引張強さを有するアラミド紙。
【請求項2】
導電性フィラーがカーボンファイバーである請求項1に記載のアラミド紙。
【請求項3】
アラミドファイバーがポリ(メタフェニレンイソフタルアミド)ファイバーである請求項1に記載のアラミド紙。
【請求項4】
アラミドファイバーがポリ(メタフェニレンイソフタルアミド)ファイバーである請求項2に記載のアラミド紙。
【請求項5】
a)アラミドファイバー、ファイブリッドおよびフィラーの総重量を基準として、5〜65重量部のアラミドファイバー、30〜90重量部のアラミドファイブリッドおよび1〜20重量部の導電性フィラーの水性分散液を形成し、
b)分散液をブレンドしてスラリーを形成し、
c)スラリーから水性液体を排出して、湿潤紙組成物を得て、
d)湿潤紙組成物を乾燥させ、
e)紙を高密度化することなく、アラミドファイブリッドのポリマーのガラス転移温度またはそれ以上で紙を熱処理すること
を含んでなるアラミド紙の製造方法。
【請求項6】
水がスクリーンまたはワイヤベルトを介して第2のスラリーから排出される請求項5に記載の方法。

【公表番号】特表2008−542557(P2008−542557A)
【公表日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−513674(P2008−513674)
【出願日】平成18年5月24日(2006.5.24)
【国際出願番号】PCT/US2006/020094
【国際公開番号】WO2006/127819
【国際公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】