導電性ポリマーの解重合方法及びその再重合方法。
【課題】新規な解重合、再重合可能な導電性ポリマー材料を製造する方法を提供すること。
【解決手段】導電性ポリマーを形成し、前記導電性ポリマーに対して負の電位を印加する導電性ポリマーの解重合方法とする。負の電位は、電位掃引処理又は定電位印加処理により行われることが好ましい。電位掃引処理は、飽和カロメル参照電極(SCE)を用いた場合、該参照電極に対し、電解電位−2V以上0V未満の範囲内で行うことが好ましく、定電位印加処理は、SCE参照電極を用いた場合、該参照電極に対し、電解電位−2V以上0V未満の範囲内で行われることが好ましい。
【解決手段】導電性ポリマーを形成し、前記導電性ポリマーに対して負の電位を印加する導電性ポリマーの解重合方法とする。負の電位は、電位掃引処理又は定電位印加処理により行われることが好ましい。電位掃引処理は、飽和カロメル参照電極(SCE)を用いた場合、該参照電極に対し、電解電位−2V以上0V未満の範囲内で行うことが好ましく、定電位印加処理は、SCE参照電極を用いた場合、該参照電極に対し、電解電位−2V以上0V未満の範囲内で行われることが好ましい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性ポリマーの解重合方法及びその再重合方法に関する。具体的には、還元反応により溶液可溶となり、さらにその溶液の酸化操作で再重合される導電性ポリマーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
導電性ポリマーとは、電気化学あるいは化学重合により得られる電気伝導性物質の総称であり、2000年度ノーベル化学賞対象物質として著名な物質である(例えば下記非特許文献1参照)。この物質は、酸化又は還元処理(以下「ドーピング処理」という。)を施すことにより高い電気伝導性を発現する(例えば下記非特許文献2参照)。まず、ドーピングやその逆の脱ドーピング処理を可逆的に行える(膜の酸化還元を可逆的に行える)ので、電荷を蓄える機能があり、近年電気化学キャパシタとしての利用が注目されている(下記非特許文献3参照)。また、この蓄電機能は二次電池材料としても利用されている。(下記非特許文献4参照)さらに、フレキシブルであり、半導体特性を発揮することから、電界発光素子やセンサなど、エレクトロニクス分野にも進出している(下記非特許文献4参照)。これら以外にも、その多彩な機能を利用し、帯電防止シートや電界効果トランジスタ、人工筋肉や印刷の版などへの利用も検討されている(下記非特許文献4参照)。
【0003】
【非特許文献1】白川英樹、高分子、37巻、518−521頁、1988年
【非特許文献2】吉村 進、導電性ポリマー、共立出版、1987年
【非特許文献3】直井勝彦, 末松俊造、電気化学、66巻、896−903頁、1998年
【非特許文献4】吉野勝美, 小野田光宣、高分子エレクトロニクス、コロナ社、1996年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記非特許文献1乃至4に記載の導電性ポリマーに関する報告はいずれも重合操作によって合成された導電性ポリマーの利用についてであって、その導電性ポリマーに何らかの処理を施し、解重合を行って溶液可溶な形態に変換するという内容を含む利用例および学術的報告はない。さらに、その溶液に何らかの処理を施し、再度重合する例ももちろん報告されていない。もし、上記導電性ポリマーの解重合が行えれば、例えば、まずは基板全面に導電性ポリマーのベタ膜を形成し、しかる後に部分的に解重合操作を施せば、導電性ポリマーのパターンを形成することができ、有機薄膜トランジスタやフレキシブル性を有する有機導電パターン回路を形成することができる。近年、有機太陽電池や電子ペーパーなどフレキシブル性を要求されるエレクトロニクスデバイスにフレキシブルな回路を書き込む手法として上記手法は優位性を発揮するものと考えられる。また、導電性ポリマーは通常強く呈色しているので、重合状態で画像を形成し、解重合によって画像を消去する電子ペーパーとしての利用を考えることができる。さらに、上記の解重合―再重合反応は、リチウムイオン電池の正極材料としての利用に対しても極めて有望である。
【0005】
なお、これまで、解重合可能な物質としてDe Jongheらの米国特許第4,833,048号および同4,917,974号に記載の、式(R(S)y)nの有機イオウ化合物が挙げられる(非特許文献:De Jongheら、Journal of Electrochemical Society、138巻、1891−1895頁、1991年)。ここでy=1〜6;n=2〜20、およびRは1〜20炭素原子を有する1種以上の異なる脂肪族または芳香族有機部分である。電解還元によってジスルフィド結合(S−S結合)を切断して解重合を行い、また電解酸化によってジスルフィド結合を再形成して再重合を行うものである。しかしながら、このような有機イオウ化合物は導電性を有しないし、また呈色をしていないため画像記録への利用もできない(非特許文献:エヌ・ティー・エス編集企画部編、リチウム二次電池の技術革新と将来展望、エヌ・ティー・エス、18−28頁、2001年)。
【0006】
そこで、本発明は上記課題を鑑み、新規な解重合、再重合可能な導電性ポリマー材料を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための一手段に係る導電性ポリマーの解重合方法は、導電性ポリマー膜を形成し、この膜に負の電位を印加する。
【0008】
本手段において、限定されるわけではないが、導電性ポリマーは、下記(1)と下記(2)で示される化合物を用いて重合されたものを含むことが好ましい。
【化1】
(式中、Rn(n=1〜9)は、水素原子又は置換基であり、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。また、互いに連結して環を形成してもよい。)
【化2】
(式中、Rn(n=1〜9)は、水素原子又は置換基であり、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。また、互いに連結して環を形成してもよい。)
【0009】
また本手段において、限定されるわけではないが、導電性ポリマー膜を形成する方法としては、電解重合法、真空蒸着法、及び、溶液塗布法、のいずれかであることが好ましく、この中でも電解重合法がより好ましい。
【0010】
本明細書において「電解重合法」とは、ポリマー前駆体となる物質(以下「モノマー」という。)を支持電解質を含む溶液に溶解し、しかる後にモノマーを電極酸化することにより、電極基板上に溶液不溶性ポリマー膜を形成する手法をいう(例えば非特許文献1乃至4参照)。
【0011】
また、本手段において、限定されるわけではないが、負の電位は電位掃引処理又は定電位印加処理により行われることが好ましい。なお電位掃引処理の場合、限定されるわけではないが、SCE参照電極を用いた場合、参照電極に対し、電解電位が−2V以上であって0Vより低いことが好ましく、その電位掃引の速度は限定されるわけではないが、1mV/s以上1000mV/s以下の範囲内にあることが好ましい。また、定電位印加処理の場合、限定されるわけではないが、SCE参照電極を用いた場合、参照電極に対し、電解電位−2V以上であって0Vより低いことが好ましい。なおその電位印加時間は0秒より長く1時間以下の範囲内にあることが好ましい。
【0012】
なおここで「解重合」とは、溶液に不溶な導電性ポリマー膜が、負電位の印加によってポリマー膜を形成するポリマー鎖の分子量が低下し(ポリマー鎖の切断が起こり)、溶液可溶になることをいい、モノマーにまで解離する現象をも含む。
【0013】
また、上記課題を解決するための他の一手段に係る導電性ポリマーの再重合方法は、導電性ポリマーを形成し、導電性ポリマーに対して負の電位を印加して導電性ポリマーを解重合し、解重合を施して得られた電解液に対して正の電位を印加する。
【0014】
また、本手段において、限定されるわけではないが、導電性ポリマーは、下記(1)と下記(2)で示される化合物を用いて重合されたものを含むことが好ましい。
【化3】
(式中、Rn(n=1〜9)は、水素原子又は置換基であり、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。また、互いに連結して環を形成してもよい。)
【化4】
(式中、Rn(n=1〜9)は、水素原子又は置換基であり、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。また、互いに連結して環を形成してもよい。)
【0015】
また、本手段において、限定されるわけではないが、正の電位は、電位掃引処理又は定電位印加処理により行われることが好ましい。また、限定されるわけではないが、電位掃引処理は、飽和カロメル参照電極(SCE)を用いた場合、この参照電極に対し、電解電位0V以上+2.0V未満の範囲内で行うことが好ましく、定電位印加処理は、飽和カロメル参照電極(SCE)を用いた場合、該参照電極に対し、電解電位0V以上+2.0V未満の範囲内で行うことが好ましい。
【0016】
また、本手段において、限定されるわけではないが、導電性ポリマーの解重合が、電解還元法あるいは化学還元法により行われることも好ましい。
【0017】
また、本手段において、限定されるわけではないが、導電性ポリマーに対して化学還元処理を施すことも望ましい。
【0018】
また、本手段において、限定されるわけではないが、化学還元処理を施した溶液に化学酸化処理を施すことも好ましい。
【発明の効果】
【0019】
以上により、これまで作製例のなかった解重合、再重合可能な導電性ポリマー材料を製造することができる。なお、本発明により得られる導電性ポリマー材料は、今まで報告された例はなく、フレキシブル電気回路パターンの形成材料、電子ペーパー等の表示媒体の材料、リチウムイオン電池の電極材料の開発の端緒になると期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、本発明は多くの異なる形態による実施が可能であり、以下に示す実施形態、実施例に狭く限定されるものではない。
【0021】
本実施形態の解重合、再重合可能な導電性ポリマー材料の製造方法は、導電性ポリマー膜を形成し、この導電性ポリマー膜に負の電位を印加して解重合を行い、さらに解重合後に得られた溶液に正の電位を印加することにより再重合を行う。
【0022】
導電性ポリマー膜を形成する工程は、種々の方法により作製することができ、限定されるわけではないが、まず電解重合法により得る方法が好適である。特に電解重合法は、常温・常圧下で行うことができ、種々のモノマーに対して適用できる簡便な手法であるのでより好適に用いることができる。
【0023】
電解重合法とは、モノマー及び支持電解質を両者に親和性のある溶媒に溶解し、得られた溶液に電極を浸漬して電気分解し、電極上に溶媒不溶性ポリマーの膜を形成する手法をいう。電解重合法としては限定されるわけではないが、例えば、非特許文献1乃至4に記載の方法及び、M.Gazard,Ed by T.A.Skotheim, Handbook of Conducting Polymers, Marcel Dekker,New York,第1巻,第19章,1986年に記載の方法を採用できる。
【0024】
電解重合法において、モノマーが溶解した溶液に電極を浸漬し、電極にモノマーが酸化される電位を印加するとモノマーから電子が奪われ、同時に水素イオンがモノマーから脱離する。その結果、モノマーのラジカルが生成し、ラジカル同士が結合することによってポリマーが形成される。そして重合度が増し、ポリマーが溶液に難溶性になると電極基板上に堆積し、膜を形成することになる。そして、堆積と同時に、膜から電極へ電子が引き抜かれる反応が生じ、膜はカチオンラジカルを含む状態になる。このカチオンラジカルは電気伝導の担い手となるので膜は導電性をもつことになる。なお、カチオンラジカルを電気的に中和するために、溶液から支持電解質を構成するマイナスイオンが膜中に導入されるが、これをアニオンドーオパントと呼んでいる。
【0025】
支持電解質は、電気分解において必須の成分であり、溶媒に十分溶解し、電気分解されにくいカチオン又はアニオンを構成要素とするものが好ましく、限定されるわけではないが、カチオンに注目すれば例えばリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、テトラアルキルアンモニウム塩の少なくともいずれかを用いることが好ましく、アニオンに注目すれば例えばハロゲン化物、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、過塩素酸塩、三フッ化ホウ素塩、六フッ化リン酸塩の少なくともいずれかを用いることが好ましい。支持電解質の濃度は、限定されるわけではないが0.001M以上溶解度以下であることが好ましく、0.01M以上1M以下であることがより好ましい。
【0026】
電解重合法に用いられる溶媒としては、限定されるわけではないが、例えば、藤島昭、相澤益男、井上 徹、電気化学測定法、技報堂出版、上巻107―114頁、1984年に記載の溶媒を採用できる。また、種々の溶媒の混合溶媒も好ましい。
【0027】
本実施形態において用いられるモノマーはインドール、カルバゾールを基本骨格とするものであり、特段に限定されず、市販されているものも使用することができる。インドール及びカルバゾールの一般式をそれぞれ(1)及び(2)に記すが、一般式中、Rn(n=1〜9)は、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよく、水素原子又は置換基を表す。また、互いに連結して環を形成してもよい。
【化5】
【化6】
【0028】
電解重合法で用いられるモノマーの電解溶液中における濃度は、限定されるわけではないが、0.1mM以上溶解度以下であることが好ましく、1mM以上1M以下であることがより好ましい。
【0029】
電解重合法のための電解セルとしては、膜形成のための動作電極、動作電極と対峙する対向電極及び電位の基準となる参照電極の3本の電極を用いる3電極式セル、または、動作電極と対向電極だけを用いる2電極式セルを用いることができる。なお、動作電極の電位を基準となる参照電極に対して厳密に規定することのできる3電極式セルは、電解重合膜を再現性良く作製することができる点においてより好ましい。
【0030】
動作電極は、3電極式電解セル及び2電極式セルのいずれの場合においても、電極酸化に対して安定な物質であれば良く、限定されるわけではないが例えば酸化インジウムスズ(以下「ITO」と略記する。)や酸化錫が塗布された透明ガラス電極、白金電極、金電極、グラシーカーボン電極を好適に用いることができる。また、対向電極としては、それらの電極材料に加え、ステンレスや銅板などの金属電極も好適に用いることができる。また参照電極は、限定されるわけではないが例えば銀・塩化銀電極(Ag/AgCl電極)、飽和カロメル電極を好適に用いることができる。
【0031】
3電極式電解セルを用いて電解重合膜を形成する場合、動作電極に印加する電位は、限定されるわけではないが、例えば参照電極に銀・塩化銀電極(Ag/AgCl電極)を用いた場合、+0.1V以上+2.5V以下の範囲内にあることが好ましく、+0.5V以上+2V以下の範囲内にあることがより好ましい。モノマーの化学構造に依存するが、+0.1V以上であればモノマーの酸化を進行させることができ、+0.5V以上であればこれがより顕著となる。また+2.5V以下とすることで溶媒や支持電解質の電解反応を防ぎ膜形成の効率を良好に維持することができ、+2V以下とすることでこの効果がより顕著となる。
【0032】
2電極式電解セルを用いて電解重合膜を形成する場合、動作電極に印加する電位は、限定されるわけではないが、例えば対向電極に対して+0.2V以上+5V以下の範囲内にあることが好ましく、+1V以上+4V以下の範囲内にあることがより好ましい。+0.2V以上とすることでモノマーの酸化を進行させることができ、+1V以上でこの効果がより顕著となる。また+5V以下とすることで溶媒や支持電解質の電解反応を防ぎ膜形成の効率を良好に維持することができ、+4V以下でこの効果がより顕著となる。
【0033】
電解重合法における電気分解の時間としては、導電性ポリマー膜を析出させることができる限りにおいて限定されるわけではないが、上記印加電圧の範囲内において1秒以上5時間以下の範囲内において行うことが好ましく、10秒以上1時間以下の範囲内において行うことがより好ましい。
【0034】
また、この電気分解の温度としては電解重合膜を析出させることができる限りにおいて限定されるわけではないが、−20℃以上60℃以下の範囲内にあることが好ましい。
【0035】
また、この電気分解は、大気中の成分物質が関与することの少ない酸化反応でありまた低電位で行われるため、大気中で行うことができる。電解液中の不純物の酸化など、生成した膜を汚染する可能性を回避する観点から、窒素ガスやアルゴンガス雰囲気中で行うことが好ましいが、汚染の心配はほとんど無い。しかしながらそれでもやはり、電解重合法において電解重合膜を形成する場合、溶液中に酸素が多く存在すると電極反応に影響を与えてしまう虞があるため、不活性ガス(窒素ガスやアルゴンガス)によるバブリングを行うことも有用である。
【0036】
また、本実施形態に係る導電性ポリマー膜を形成する工程は、電解重合法のほか、例えば溶液塗布法、真空蒸着法、気相成長法、も挙げることができる。
【0037】
溶液塗布法による方法としては、限定されるわけではないが、例えば、“G.Tourillon,E.Dartyge,D.Guay,C.Mahatsekake,C.G.Andrieu,S.Bernstroff,W.Braun、Journal of Electrochemical Society,137巻、1827頁、1990年”、“D.M.Collard,M.S.Stoakes,Chemistry of Materials,6巻、850頁、1994年”、及び“M.Hamaguchi,K.Yoshino,Japanese Journal of Applied Physics,34巻、L587頁、1995年”に記載の方法を用いることができる。
【0038】
真空蒸着法による方法としては、限定されるわけではないが、例えば、“G.Horowitz,F.Deloffe,F.Garnier,R.Hajlaoui,M.Hmyene,A.Yassar,Synthetic Metals,54巻、435頁、1993年”に記載の方法を用いることができる。
【0039】
また、気相成長法による方法としては、限定されるわけではないが、例えば“K.Yoshino,S.Hayashi,R.Sugimoto,Japanese Journal of Applied Physics,23巻、L899頁、1984年”、“R.Sugimoto,K.Yoshino,S.Inoue,K.Tsukagoshi,Japanese Journal of Applied Physics,24巻、L425頁、1985年”、及び“M.Orita,K.Yoshino,Chemical Express,1巻、679頁、1986年”に記載の方法を用いることができる。
【0040】
また、本実施形態に係る導電性ポリマー膜の解重合は、作製した導電性ポリマー膜に対し、支持電解質を含む溶液中で負の電位を印加することで溶媒に可溶性の構造へと変換することを利用する。この負の電位としては、導電性ポリマーの種類により適宜変化するものであるが、導電性ポリマーの電気化学的還元反応の起こる電位よりも負電位以下であることが必要であり、具体的には、−2V以上であって、0V未満であることが好ましい。なお、負の電位を印加する方法は限定されるわけではないが電位掃引処理又は定電位印加処理が好ましい。
【0041】
電位掃引処理とは、支持電解質を含む溶液に一対の電極を浸漬し、一定の速度で電位を変化させつつ印加する処理をいい、定電位印加処理とは、支持電解質を含む溶液に一対の電極を浸漬し、一定の電位を一定の時間印加する処理をいう。
【0042】
電位掃引処理、定電位印加処理において用いられる溶液に含まれる支持電解質、溶媒については、上記電解重合法と同じものを採用することができ、用いられる電解セルにおいて同じである。更に、電極においても同様であるが、そのうちの一つに導電性ポリマー膜が形成されているものを用いる点が異なる。
【0043】
なお、導電性ポリマー膜を形成する工程として電解重合法を用いた場合、その電解重合法において用いた系をそのまま電位掃引処理又は定電位印加処理に用いることができるが、モノマーを含まない、支持電解質だけを溶解した別の溶液を調整して用いることがより好ましい。
【0044】
本実施形態に係る導電性ポリマーの再重合は、上記導電性ポリマーの解重合により得た溶液に対し、正の電位を印加することにより行われる。正の電位としては、限定されるわけではないが、飽和カロメル参照電極(SCE)を用いた場合、0V以上+2.0V未満の範囲内で行うことが望ましい。また、電位印加処理としても、限定されるわけではないが、例えば電位掃引処理又は定電位印加処理により行うことが望ましい。本実施形態に係る導電性ポリマーは、このようにすることで、重合、解重合、更には再重合が可能となる。
【0045】
なお、本実施形態にかかる導電性ポリマーの再重合は上記電位の印加のほか溶液に酸化剤を添加することによっても行うことが可能である。酸化剤としては、限定されるわけではないが例えば過塩素酸第二鉄(Fe(ClO4)3)、硫酸セリウム(IV)(Ce(SO4)2)などを用いることができる。さらに、再重合は溶液中に光触媒を添加し、その光触媒の吸収波長をもつ光を照射することによっても行うことができる。光触媒としては例えばルテニウムトリスビピリジン錯体(Ru(bpy)3Cl2)、酸化チタンなどを用いることができる。
【0046】
以上、本方法により導電性ポリマーとしては初めて達成される解重合可能な導電性ポリマー膜は、フレキシブル電気回路パターンの形成材料、電子ペーパー等の表示媒体の材料、リチウムイオン電池の電極材料として利用可能となると考えられる。
【実施例】
【0047】
上記実施形態に係る解重合可能な導電性ポリマー膜の製造方法を用い、実際に解重合可能な導電性ポリマー膜を作製し、本発明の効果を確認した。以下説明する。
【0048】
(実施例1)
本実施例では、モノマーとしてインドールを用いて電解重合法によりポリインドール膜を形成し、この膜に電位掃引処理を加えることにより解重合を行った。
【0049】
(ポリインドール膜の作製)
市販のインドール(東京化成工業社製)を8mM、支持電解質として過塩素酸テトラブチルアンモニウム(東京化成工業社製、以降「TBAP」と略記する。)を0.1M、ジクロロメタン(関東化学社製、分光分析用)に投入し、スターラーで撹拌して電解液を得た。そして、この得られた電解液を70ml取り出し、耐熱ガラス製の2部屋タイプの電解セルの主室に入れた(2部屋は主室と副室に分けられ、それらは焼結ガラスにより隔てられている。)。そしてこの主室に酸化インジウムスズ(ITO)膜が170nmコートされたガラス電極と白金板電極とを浸漬した。一方、副室にも上記の電解液を入れ、更に飽和カロメル参照電極(SCE)を浸漬した。
【0050】
次に、インドールの酸化される電位である+1.1Vに電位を固定し、電解液の定電位電解酸化を行い、電解重合法の原理を利用してITO電極上にポリインドール膜を形成した。生成したポリインドール膜の面積は9cm2である。なお、この工程では大気成分ガスの影響を受ける負電位を印加しないので電解雰囲気は必ずしも窒素ガス雰囲気下である必要はないが、溶存酸素の影響を完全に除外するために電解前に窒素バブリングを40分間施し、電解中は溶液上部に窒素ガスを流した。この定電位電解によってITO電極に流れた通電電気量は4500mCである(単位面積当たりに換算すると500mC/cm2)。電解温度は20℃である。
【0051】
この定電位電解酸化の結果、ITO膜が形成されたガラス電極上に、緑褐色の膜が形成された。この緑褐色膜が形成されたガラス電極をジクロロメタンで洗浄し、走査型顕微鏡(SEM、トプコン社製 ABT−32)で観察した。図1にここで得られた緑褐色膜の写真を示す。図1から膜が導電性ポリマー特有の強く呈色した特性を持つことがわかる。
【0052】
上記緑褐色のポリインドール膜にp型ドーピングが起こるような電位掃引範囲で電位掃引処理を施し、実際に導電性ポリマーとして必要なマイナスイオン(ここでは溶液中に溶けている支持塩アニオンである過塩素酸イオン)のドーピング・脱ドーピングが生じることを確認した。電位掃引処理に用いた電解質溶液としては、ジクロロメタン溶媒中に、支持電解質としてTBAPを0.1Mを溶解したものを採用した。そしてその電解液を耐熱ガラス製の2部屋タイプの電解セルの主室に入れた。そしてこの主室に、ポリインドール膜が形成されたITO電極と、白金板電極とを浸漬し、副室にも上記の溶液を入れ、更に飽和カロメル参照電極(SCE)を浸漬した。電位掃引範囲は、SCEに対して−0.2V〜0.8Vであり、電位掃引速度は20mV/sである。
【0053】
図2に、その電位掃引によって得られる電流―電位特性(サイクリックボルタンモグラム)を示す。0.1V〜0.8Vに見られる正の電流は、ポリインドール膜の酸化とそれに伴う過塩素酸イオンの膜内への侵入を表し、膜がp型ドーピングを受けたことを表している。一方、上下逆方向に観測された負の電流は、酸化された膜が元の中性膜に戻ることと過塩素酸イオンが膜から出て行く脱ドーピングが生じたことを表している。以上の実験結果からポリインドール膜は典型的な導電性ポリマーとしての特性を有することがわかる。
【0054】
(ポリインドール膜の解重合反応)
次に、ポリインドール膜に負方向の電位掃引処理を施し、解重合を行った。電位掃引処理に用いた電解質溶液としては、ジクロロメタン溶媒中に、支持電解質としてTBAPを0.1Mを溶解したものを採用した。そしてその電解液を耐熱ガラス製の2部屋タイプの電解セルの主室に入れた。そしてこの主室に、ポリインドール膜が形成されたITO電極と、白金板電極とを浸漬し、副室にも上記の溶液を入れ、更に飽和カロメル参照電極(SCE)を浸漬した。
【0055】
この後、SCEを参照電極として電気分解用電源(ALS社製ポテンショスタット モデル750A)に接続し、参照電極に対して0.2V〜−1.4Vの電位範囲で一定速度(20mV/s)で電位を掃引した。電位掃引回数は3回とした。
【0056】
図3に、上記負方向電位処理によって得られた電流―電位特性(サイクリックボルタンモグラム)を示す。まず、第1掃引において、0Vで膜の中に残存していた過塩素酸イオンの脱ドーピングによる負の還元電流が流れた。そして引き続き負方向の掃引を続けると−1.1Vをピークとする大きな還元電流が流れ、それにともなって膜が溶解する現象が見出された。そして、その膜の溶解は第1掃引でほぼ完了し、ポリインドール膜はITO電極表面から消失した。2回目以降の掃引では、バックグランド程度の電流しか観測されなかった。
【0057】
上記溶解反応は、溶媒に不溶性であったポリインドールが溶媒に可溶性になったことを意味している。換言すると、重合度が高く溶媒不溶性であったポリインドールが解重合されて分子量のより小さなオリゴマーあるいはモノマーへと物質変換され、溶媒可溶性になったことを示すものである。
【0058】
この電位掃引の後、解重合処理の後のITO電極を電解液から取り出し、ジクロロメタンで洗浄を行った後、可視吸収スペクトル測定を行った。図4の実線曲線に、解重合処理の後のITO電極のスペクトルを示す。また、波線曲線として解重合処理を行う前のポリインドール膜のスペクトルを示す。解重合操作によって可視域の光の波長全域にわたって吸光度が低下し、吸光度がほぼ0となっていることがわかる。すなわち、解重合操作によってポリインドール膜がITO電極から消失したことが確認された。
【0059】
(実施例2)
本実施例では、実施例1で得られた解重合後の溶液、すなわち、ポリインドール膜の解重合の結果生成したオリゴマーあるいはモノマーが溶解した電解液に、新たなITO電極を浸漬し、電解重合操作によって再重合を行った。
【0060】
(実施例1で生成した電解液を用いた再重合反応)
実施例1では、ジクロロメタン溶媒中に、支持電解質であるTBAPが0.1M、ポリインドール膜の解重合によって生成したオリゴマー及びモノマーが溶解したものが得られる。図5にその溶液の紫外可視吸収スペクトルを示す。そしてその電解液を耐熱ガラス製の2部屋タイプの電解セルの主室に入れた。そしてこの主室に、新たなITO電極と、白金板電極とを浸漬し、副室にも上記の溶液を入れ、更に飽和カロメル参照電極(SCE)を浸漬した。
【0061】
この後、SCEを参照電極として電気分解用電源(ALS社製ポテンショスタット モデル750A)に接続し、参照電極に対して1.1Vの電位をITO電極に印加した。ITO電極の面積は0.4cm2であり、電位印加によって流れた通電電気量は12mCである。従って単位面積当たりの通電電気量は40mC/cm2である。また、
【0062】
図6に、上記電位処理(定電位電解重合処理)によってITO電極上に得られた電解重合膜の写真を示す。電解液中のオリゴマー及びモノマー濃度が低いために薄い膜となったが(また、電解液の液面付近で重合反応が優先的に進行し、液面付近で厚い膜が得られるという電気化学特有のエッジ効果も見られるが)、図1に示す膜とほぼ同様の膜が得られ、再重合が可能であることが確認された。
【0063】
図4の一点鎖線に、上述のようにしてITO電極上に得られた再重合膜のスペクトルを示す。解重合処理によってITOから消失したポリインドール膜(実線スペクトル)が再重合によって再生されていること(一点鎖線のスペクトル)が明確に確認された。
【0064】
(実施例3)
本実施例では、モノマーとしてインドールのマイゼンハイマー型σ錯体を用いて電解重合法によりポリインドール膜を形成し、この膜に電位掃引処理を加えることにより解重合を行った。なお、本実施例で用いたインドールのマイゼンハイマー型σ錯体の化学式を(3)に示す。また、この錯体及びその錯体を原料としたポリインドール膜の形成法については、金 商国、宮川信一、関 宏子、星野勝義、2006年電気化学秋季大会講演要旨集、312頁、平成18年9月14日、同志社大学工学部(京田辺)、に記載の方法を用いることができる。
【化7】
【0065】
(ポリインドール膜の作製)
インドールのマイゼンハイマー型σ錯体を8mM、支持電解質として過塩素酸テトラブチルアンモニウム(東京化成工業社製、以降TBAPと略記する)を0.1M、ジクロロメタン(関東化学社製、分光分析用)に投入し、スターラーで撹拌して電解液を得た。そして、この得られた電解液を20ml取り出し、耐熱ガラス製の2部屋タイプの電解セルの主室に入れた(2部屋は主室と副室に分けられ、それらは焼結ガラスにより隔てられている。)。そしてこの主室に酸化インジウムスズ(ITO)膜が170nmコートされたガラス電極と白金板電極とを浸漬した。一方、副室にも上記の電解液を入れ、更に飽和カロメル参照電極(SCE)を浸漬した。
【0066】
次に、インドールのマイゼンハイマー型σ錯体の酸化される電位である+1.1Vに電位を固定し、電解液の定電位電解酸化を行い、電解重合法の原理を利用してITO電極上にポリインドール膜を形成した。生成したポリインドール膜の面積は2cm2である。なお、この工程では大気成分ガスの影響を受ける負電位を印加しないので電解雰囲気は必ずしも窒素ガス雰囲気下である必要はないが、溶存酸素の影響を完全に除外するために電解前に窒素バブリングを40分間施し、電解中は溶液上部に窒素ガスを流した。この定電位電解によってITO電極に流れた通電電気量は1000mCである(単位面積当たりに換算すると500mC/cm2)。電解温度は20℃である。
【0067】
この定電位電解酸化の結果、ITO膜が形成されたガラス電極上に、緑褐色の膜が形成された。この緑褐色膜が形成されたガラス電極をジクロロメタンで洗浄し、ポリインドール膜を得た。なお、この膜の構成要素は実施例1と同じくインドールユニットであるが、そのインドールユニットのつながり方が異なる。
【0068】
上記緑褐色のポリインドール膜にp型ドーピングが起こるような電位掃引範囲で電位掃引処理を施し、実際に導電性ポリマーとして必要なマイナスイオン(ここでは溶液中に溶けている支持塩アニオンである過塩素酸イオン)のドーピング・脱ドーピングが生じることを確認した。電位掃引処理に用いた電解質溶液としては、ジクロロメタン溶媒中に、支持電解質としてTBAPを0.1Mを溶解したものを採用した。そしてその電解液を耐熱ガラス製の2部屋タイプの電解セルの主室に入れた。そしてこの主室に、ポリインドール膜が形成されたITO電極と、白金板電極とを浸漬し、副室にも上記の溶液を入れ、更に飽和カロメル参照電極(SCE)を浸漬した。電位掃引範囲は、SCEに対して−0.2V〜1.3Vであり、電位掃引速度は20mV/sである。
【0069】
図7に、その電位掃引によって得られる電流―電位特性(サイクリックボルタンモグラム)を示す。0.2V〜1.3Vに見られる正の電流は、ポリインドール膜の酸化とそれに伴う過塩素酸イオンの膜内への侵入を表し、膜がp型ドーピングを受けたことを表している。一方、上下逆方向に観測された負の電流は、酸化された膜が元の中性膜に戻ることと過塩素酸イオンが膜から出て行く脱ドーピングが生じたことを表している。以上の実験結果からポリインドール膜は典型的な導電性ポリマーとしての特性を有することがわかる。
【0070】
(ポリインドール膜の解重合反応)
次に、ポリインドール膜に負方向の電位掃引処理を施し、解重合を行った。電位掃引処理に用いた電解質溶液としては、ジクロロメタン溶媒中に、支持電解質としてTBAPを0.1Mを溶解したものを採用した。そしてその電解液を耐熱ガラス製の2部屋タイプの電解セルの主室に入れた。そしてこの主室に、ポリインドール膜が形成されたITO電極と、白金板電極とを浸漬し、副室にも上記の溶液を入れ、更に飽和カロメル参照電極(SCE)を浸漬した。
【0071】
この後、SCEを参照電極として電気分解用電源(ALS社製ポテンショスタット モデル750A)に接続し、参照電極に対して0.75V〜−1.5Vの電位範囲で一定速度(20mV/s)で電位を掃引した。電位掃引回数は5回とした。
【0072】
図8に、上記負方向電位処理によって得られた電流―電位特性(サイクリックボルタンモグラム)を示す。まず、第1掃引において、約0.3Vで膜の中に残存していた過塩素酸イオンの脱ドーピングによる負の還元電流が流れた。そして引き続き負方向の掃引を続けると−1V付近に大きな還元電流が流れ、それにともなって膜が溶解する現象が見出された。そして、その膜の溶解は第1掃引でほぼ完了し、ポリインドール膜はITO電極表面から消失した。2回目以降の掃引では、バックグランド程度の電流しか観測されなかった。
【0073】
上記溶解反応は、溶媒に不溶性であったポリインドールが溶媒に可溶性になったことを意味している。換言すると、重合度が高く溶媒不溶性であったポリインドールが解重合されて分子量のより小さなオリゴマーあるいはモノマーへと物質変換され、溶媒可溶性になったことを示すものである。
【0074】
この電位掃引の後、解重合処理の後のITO電極を電解液から取り出し、ジクロロメタンで洗浄を行った後、可視吸収スペクトル測定を行った。図9の実線曲線に、解重合処理の後のITO電極のスペクトルを示す。また、波線曲線として解重合処理を行う前のポリインドール膜のスペクトルを示す。解重合操作によって可視域の光の波長全域にわたって吸光度が低下し、吸光度がほぼ0となっていることがわかる。すなわち、解重合操作によってポリインドール膜がITO電極から消失したことが確認された。
【0075】
(実施例4)
本実施例では、電解重合法によりポリカルバゾール膜を形成し、この膜に電位掃引処理を加えることにより解重合を行った。
【0076】
(ポリカルバゾール膜の作製)
市販のカルバゾール(東京化成工業社製)を5mM、支持電解質としてTBAPを0.1M、ジクロロメタン(関東化学社製、分光分析用)に投入し、スターラーで撹拌して電解液を得た。そして、この得られた電解液を20ml取り出し、耐熱ガラス製の2部屋タイプの電解セルの主室に入れた(2部屋は主室と副室に分けられ、それらは焼結ガラスにより隔てられている。)。そしてこの主室に酸化インジウムスズ(ITO)膜が170nmコートされたガラス電極と白金板電極とを浸漬した。一方、副室にも上記の電解液を入れ、更に飽和カロメル参照電極(SCE)を浸漬した。
次に、カルバゾールの酸化される電位である+1.2Vに電位を固定し、電解液の定電位電解酸化を行い、電解重合法の原理を利用してITO電極上にポリカルバゾール膜を形成した。生成したポリカルバゾール膜の面積は2.25cm2である。なお、この工程では大気成分ガスの影響を受ける負電位を印加しないので電解雰囲気は必ずしも窒素ガス雰囲気下である必要はないが、溶存酸素の影響を完全に除外するために電解前に窒素バブリングを40分間施し、電解中は溶液上部に窒素ガスを流した。この定電位電解によってITO電極に流れた通電電気量は54mCである(単位面積当たりに換算すると24mC/cm2)。また電解温度は5℃である。
【0077】
この定電位電解酸化の結果、ITO膜が形成されたガラス電極上に、緑色の膜が形成された。この緑色膜が形成されたガラス電極をジクロロメタンで洗浄し、走査型顕微鏡(SEM、トプコン社製 ABT−32)で観察した。図10にここで得られた緑褐色膜の写真を示す(写真下のバーの長さは5mmのスケールを示す)。図10から膜が導電性ポリマー特有の強く呈色した特性を持つことがわかる。
【0078】
(ポリカルバゾール膜の解重合反応)
次に、ポリカルバゾール膜に負方向の電位掃引処理を施し、解重合を行った。電位掃引処理に用いた電解質溶液としては、ジクロロメタン溶媒中に、支持電解質としてTBAPを0.1Mを溶解したものを採用した。そしてその電解液を耐熱ガラス製の2部屋タイプの電解セルの主室に入れた。そしてこの主室に、ポリカルバゾール膜が形成されたITO電極と、白金板電極とを浸漬し、副室にも上記の溶液を入れ、更に飽和カロメル参照電極(SCE)を浸漬した。
【0079】
この後、SCEを参照電極として電気分解用電源(ALS社製ポテンショスタット モデル750A)に接続し、参照電極に対して1.3V〜−1.4Vの電位範囲で一定速度(20mV/s)で電位を掃引した。電位掃引回数は4回とした。
【0080】
図11に、上記負方向電位処理によって得られた電流―電位特性(サイクリックボルタンモグラム)を示す。まず、第1掃引において、0.5〜−1.4Vで負の大きな還元電流が流れた。そしてその電流が流れると同時に膜が溶解する現象が見出された。その膜の溶解は第1掃引でほぼ完了し、ポリカルバゾール膜はITO電極表面から消失した。2回目以降の掃引では、バックグランド程度の電流しか観測されなかった。
【0081】
上記溶解反応は、溶媒に不溶性であったポリカルバゾールが溶媒に可溶性になったことを意味している。換言すると、重合度が高く溶媒不溶性であったポリカルバゾールが解重合されて分子量のより小さなオリゴマーあるいはモノマーへと物質変換され、溶媒可溶性になったことを示すものである。
【0082】
この電位掃引の後、解重合処理の後のITO電極を電解液から取り出し、ジクロロメタンで洗浄を行った後、可視吸収スペクトル測定を行った。図12の実線曲線に、解重合処理の後のITO電極のスペクトルを示す。また、波線曲線として解重合処理を行う前のポリカルバゾール膜のスペクトルを示す。解重合操作によって可視域の光の波長全域にわたって吸光度が低下し、吸光度がほぼ0となっていることがわかる。すなわち、解重合操作によってポリカルバゾール膜がITO電極から消失したことが確認された。
【0083】
(比較例1:アセトニトリル溶媒を用いた検討)
本比較例では、モノマーとしてインドールを用いることは実施例1と同じであるが、電解溶媒として電気化学反応で多用される溶媒であるアセトニトリルを用いてポリインドール膜の形成を試みた。
【0084】
(ポリインドール膜の作製)
インドールを8mM、支持電解質として過塩素酸テトラブチルアンモニウム(東京化成工業社製、以降TBAPと略記する)を0.1M、アセトニトリル(関東化学社製、分光分析用)に投入し、スターラーで撹拌して電解液を得た。そして、この得られた電解液を20ml取り出し、耐熱ガラス製の2部屋タイプの電解セルの主室に入れた(2部屋は主室と副室に分けられ、それらは焼結ガラスにより隔てられている。)。そしてこの主室に酸化インジウムスズ(ITO)膜が170nmコートされたガラス電極と白金板電極とを浸漬した。一方、副室にも上記の電解液を入れ、更に飽和カロメル参照電極(SCE)を浸漬した。
【0085】
次に、インドールのマイゼンハイマー型σ錯体の酸化される電位である+1.1Vに電位を固定し、電解液の定電位電解酸化を行い、電解重合法の原理を利用してITO電極上にポリインドール膜の形成を試みた。溶存酸素の影響を完全に除外するために電解前に窒素バブリングを40分間施し、電解中は溶液上部に窒素ガスを流した。この定電位電解によってITO電極に流れた通電電気量は1000mCである(単位面積当たりに換算すると500mC/cm2)。電解温度は20℃である。
【0086】
この定電位電解酸化の結果、ITO膜が形成されたガラス電極上に緑褐色のポリインドール膜が形成されたが、電解終了後、溶液からITOガラス基板を引き上げたときに膜が電解液中に溶出し、結果的に膜を得ることができなかった。膜はアセトニトリル中に溶解して溶け出す成分と、微粉末となって剥離する成分があった。
【0087】
以上、本比較例により、解重合及び再重合可能な導電性ポリマー膜を得る方法において、溶媒としては、得られる重合膜に対して溶解性および剥離性を示さない適当な溶媒が必要なことを確認した。
【0088】
以上、実施例1乃至4により、上記実施形態に係る解重合可能な導電性ポリマー膜の製造方法を確認することができ、より望ましいモノマーとしては、インドール、カルバゾール及びそれらの誘導体、重合膜形成の電解液としては得られる重合膜に対して溶解性および剥離性を示さない溶媒が必要であることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0089】
解重合可能な導電性ポリマーは、フレキシブル電気回路パターンの形成材料、電子ペーパー等の表示媒体の材料、リチウムイオン電池の電極材料として産業上利用可能であり、その製造方法である本発明も当然に産業上利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】実施例1により得たポリインドール膜の写真(図面代用)である。
【図2】実施例1により得たポリインドール膜の―0.2V〜1.3Vの範囲の電流―電位特性(サイクリックボルタンモグラム)である。
【図3】実施例1により得たポリインドール膜の―1.4V〜0.2Vの範囲の電流―電位特性(サイクリックボルタンモグラム)である。
【図4】実施例1におけるポリインドール膜の解重合及び再重合処理にともなう紫外可視吸収スペクトル変化である。破線:元のITO基板上に形成されたポリインドール膜。実線:解重合後のITO基板。一点鎖線:再重合後にITO基板上に得られた膜。
【図5】実施例1の解重合により得た電解液の紫外可視吸収スペクトルである。
【図6】実施例1の再重合によりITO基板上に得た膜の写真(図面代用)である。
【図7】実施例3により得たポリインドール膜の―0.2V〜1.3Vの範囲の電流―電位特性(サイクリックボルタンモグラム)である。
【図8】実施例3により得たポリインドール膜の―1.5V〜0.75Vの範囲の電流―電位特性(サイクリックボルタンモグラム)である。
【図9】実施例3におけるポリインドール膜の解重合にともなう紫外可視吸収スペクトル変化である。破線:元のITO基板上に形成されたポリインドール膜。実線:解重合後のITO基板。
【図10】実施例4により得たポリカルバゾール膜の写真(図面代用)である。
【図11】実施例4により得たポリカルバゾール膜の―1.5V〜1.3Vの範囲の電流―電位特性(サイクリックボルタンモグラム)である。
【図12】実施例4におけるポリカルバゾール膜の解重合にともなう紫外可視吸収スペクトル変化である。破線:元のITO基板上に形成されたポリカルバゾール膜。実線:解重合後のITO基板。
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性ポリマーの解重合方法及びその再重合方法に関する。具体的には、還元反応により溶液可溶となり、さらにその溶液の酸化操作で再重合される導電性ポリマーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
導電性ポリマーとは、電気化学あるいは化学重合により得られる電気伝導性物質の総称であり、2000年度ノーベル化学賞対象物質として著名な物質である(例えば下記非特許文献1参照)。この物質は、酸化又は還元処理(以下「ドーピング処理」という。)を施すことにより高い電気伝導性を発現する(例えば下記非特許文献2参照)。まず、ドーピングやその逆の脱ドーピング処理を可逆的に行える(膜の酸化還元を可逆的に行える)ので、電荷を蓄える機能があり、近年電気化学キャパシタとしての利用が注目されている(下記非特許文献3参照)。また、この蓄電機能は二次電池材料としても利用されている。(下記非特許文献4参照)さらに、フレキシブルであり、半導体特性を発揮することから、電界発光素子やセンサなど、エレクトロニクス分野にも進出している(下記非特許文献4参照)。これら以外にも、その多彩な機能を利用し、帯電防止シートや電界効果トランジスタ、人工筋肉や印刷の版などへの利用も検討されている(下記非特許文献4参照)。
【0003】
【非特許文献1】白川英樹、高分子、37巻、518−521頁、1988年
【非特許文献2】吉村 進、導電性ポリマー、共立出版、1987年
【非特許文献3】直井勝彦, 末松俊造、電気化学、66巻、896−903頁、1998年
【非特許文献4】吉野勝美, 小野田光宣、高分子エレクトロニクス、コロナ社、1996年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記非特許文献1乃至4に記載の導電性ポリマーに関する報告はいずれも重合操作によって合成された導電性ポリマーの利用についてであって、その導電性ポリマーに何らかの処理を施し、解重合を行って溶液可溶な形態に変換するという内容を含む利用例および学術的報告はない。さらに、その溶液に何らかの処理を施し、再度重合する例ももちろん報告されていない。もし、上記導電性ポリマーの解重合が行えれば、例えば、まずは基板全面に導電性ポリマーのベタ膜を形成し、しかる後に部分的に解重合操作を施せば、導電性ポリマーのパターンを形成することができ、有機薄膜トランジスタやフレキシブル性を有する有機導電パターン回路を形成することができる。近年、有機太陽電池や電子ペーパーなどフレキシブル性を要求されるエレクトロニクスデバイスにフレキシブルな回路を書き込む手法として上記手法は優位性を発揮するものと考えられる。また、導電性ポリマーは通常強く呈色しているので、重合状態で画像を形成し、解重合によって画像を消去する電子ペーパーとしての利用を考えることができる。さらに、上記の解重合―再重合反応は、リチウムイオン電池の正極材料としての利用に対しても極めて有望である。
【0005】
なお、これまで、解重合可能な物質としてDe Jongheらの米国特許第4,833,048号および同4,917,974号に記載の、式(R(S)y)nの有機イオウ化合物が挙げられる(非特許文献:De Jongheら、Journal of Electrochemical Society、138巻、1891−1895頁、1991年)。ここでy=1〜6;n=2〜20、およびRは1〜20炭素原子を有する1種以上の異なる脂肪族または芳香族有機部分である。電解還元によってジスルフィド結合(S−S結合)を切断して解重合を行い、また電解酸化によってジスルフィド結合を再形成して再重合を行うものである。しかしながら、このような有機イオウ化合物は導電性を有しないし、また呈色をしていないため画像記録への利用もできない(非特許文献:エヌ・ティー・エス編集企画部編、リチウム二次電池の技術革新と将来展望、エヌ・ティー・エス、18−28頁、2001年)。
【0006】
そこで、本発明は上記課題を鑑み、新規な解重合、再重合可能な導電性ポリマー材料を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための一手段に係る導電性ポリマーの解重合方法は、導電性ポリマー膜を形成し、この膜に負の電位を印加する。
【0008】
本手段において、限定されるわけではないが、導電性ポリマーは、下記(1)と下記(2)で示される化合物を用いて重合されたものを含むことが好ましい。
【化1】
(式中、Rn(n=1〜9)は、水素原子又は置換基であり、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。また、互いに連結して環を形成してもよい。)
【化2】
(式中、Rn(n=1〜9)は、水素原子又は置換基であり、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。また、互いに連結して環を形成してもよい。)
【0009】
また本手段において、限定されるわけではないが、導電性ポリマー膜を形成する方法としては、電解重合法、真空蒸着法、及び、溶液塗布法、のいずれかであることが好ましく、この中でも電解重合法がより好ましい。
【0010】
本明細書において「電解重合法」とは、ポリマー前駆体となる物質(以下「モノマー」という。)を支持電解質を含む溶液に溶解し、しかる後にモノマーを電極酸化することにより、電極基板上に溶液不溶性ポリマー膜を形成する手法をいう(例えば非特許文献1乃至4参照)。
【0011】
また、本手段において、限定されるわけではないが、負の電位は電位掃引処理又は定電位印加処理により行われることが好ましい。なお電位掃引処理の場合、限定されるわけではないが、SCE参照電極を用いた場合、参照電極に対し、電解電位が−2V以上であって0Vより低いことが好ましく、その電位掃引の速度は限定されるわけではないが、1mV/s以上1000mV/s以下の範囲内にあることが好ましい。また、定電位印加処理の場合、限定されるわけではないが、SCE参照電極を用いた場合、参照電極に対し、電解電位−2V以上であって0Vより低いことが好ましい。なおその電位印加時間は0秒より長く1時間以下の範囲内にあることが好ましい。
【0012】
なおここで「解重合」とは、溶液に不溶な導電性ポリマー膜が、負電位の印加によってポリマー膜を形成するポリマー鎖の分子量が低下し(ポリマー鎖の切断が起こり)、溶液可溶になることをいい、モノマーにまで解離する現象をも含む。
【0013】
また、上記課題を解決するための他の一手段に係る導電性ポリマーの再重合方法は、導電性ポリマーを形成し、導電性ポリマーに対して負の電位を印加して導電性ポリマーを解重合し、解重合を施して得られた電解液に対して正の電位を印加する。
【0014】
また、本手段において、限定されるわけではないが、導電性ポリマーは、下記(1)と下記(2)で示される化合物を用いて重合されたものを含むことが好ましい。
【化3】
(式中、Rn(n=1〜9)は、水素原子又は置換基であり、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。また、互いに連結して環を形成してもよい。)
【化4】
(式中、Rn(n=1〜9)は、水素原子又は置換基であり、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。また、互いに連結して環を形成してもよい。)
【0015】
また、本手段において、限定されるわけではないが、正の電位は、電位掃引処理又は定電位印加処理により行われることが好ましい。また、限定されるわけではないが、電位掃引処理は、飽和カロメル参照電極(SCE)を用いた場合、この参照電極に対し、電解電位0V以上+2.0V未満の範囲内で行うことが好ましく、定電位印加処理は、飽和カロメル参照電極(SCE)を用いた場合、該参照電極に対し、電解電位0V以上+2.0V未満の範囲内で行うことが好ましい。
【0016】
また、本手段において、限定されるわけではないが、導電性ポリマーの解重合が、電解還元法あるいは化学還元法により行われることも好ましい。
【0017】
また、本手段において、限定されるわけではないが、導電性ポリマーに対して化学還元処理を施すことも望ましい。
【0018】
また、本手段において、限定されるわけではないが、化学還元処理を施した溶液に化学酸化処理を施すことも好ましい。
【発明の効果】
【0019】
以上により、これまで作製例のなかった解重合、再重合可能な導電性ポリマー材料を製造することができる。なお、本発明により得られる導電性ポリマー材料は、今まで報告された例はなく、フレキシブル電気回路パターンの形成材料、電子ペーパー等の表示媒体の材料、リチウムイオン電池の電極材料の開発の端緒になると期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、本発明は多くの異なる形態による実施が可能であり、以下に示す実施形態、実施例に狭く限定されるものではない。
【0021】
本実施形態の解重合、再重合可能な導電性ポリマー材料の製造方法は、導電性ポリマー膜を形成し、この導電性ポリマー膜に負の電位を印加して解重合を行い、さらに解重合後に得られた溶液に正の電位を印加することにより再重合を行う。
【0022】
導電性ポリマー膜を形成する工程は、種々の方法により作製することができ、限定されるわけではないが、まず電解重合法により得る方法が好適である。特に電解重合法は、常温・常圧下で行うことができ、種々のモノマーに対して適用できる簡便な手法であるのでより好適に用いることができる。
【0023】
電解重合法とは、モノマー及び支持電解質を両者に親和性のある溶媒に溶解し、得られた溶液に電極を浸漬して電気分解し、電極上に溶媒不溶性ポリマーの膜を形成する手法をいう。電解重合法としては限定されるわけではないが、例えば、非特許文献1乃至4に記載の方法及び、M.Gazard,Ed by T.A.Skotheim, Handbook of Conducting Polymers, Marcel Dekker,New York,第1巻,第19章,1986年に記載の方法を採用できる。
【0024】
電解重合法において、モノマーが溶解した溶液に電極を浸漬し、電極にモノマーが酸化される電位を印加するとモノマーから電子が奪われ、同時に水素イオンがモノマーから脱離する。その結果、モノマーのラジカルが生成し、ラジカル同士が結合することによってポリマーが形成される。そして重合度が増し、ポリマーが溶液に難溶性になると電極基板上に堆積し、膜を形成することになる。そして、堆積と同時に、膜から電極へ電子が引き抜かれる反応が生じ、膜はカチオンラジカルを含む状態になる。このカチオンラジカルは電気伝導の担い手となるので膜は導電性をもつことになる。なお、カチオンラジカルを電気的に中和するために、溶液から支持電解質を構成するマイナスイオンが膜中に導入されるが、これをアニオンドーオパントと呼んでいる。
【0025】
支持電解質は、電気分解において必須の成分であり、溶媒に十分溶解し、電気分解されにくいカチオン又はアニオンを構成要素とするものが好ましく、限定されるわけではないが、カチオンに注目すれば例えばリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、テトラアルキルアンモニウム塩の少なくともいずれかを用いることが好ましく、アニオンに注目すれば例えばハロゲン化物、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、過塩素酸塩、三フッ化ホウ素塩、六フッ化リン酸塩の少なくともいずれかを用いることが好ましい。支持電解質の濃度は、限定されるわけではないが0.001M以上溶解度以下であることが好ましく、0.01M以上1M以下であることがより好ましい。
【0026】
電解重合法に用いられる溶媒としては、限定されるわけではないが、例えば、藤島昭、相澤益男、井上 徹、電気化学測定法、技報堂出版、上巻107―114頁、1984年に記載の溶媒を採用できる。また、種々の溶媒の混合溶媒も好ましい。
【0027】
本実施形態において用いられるモノマーはインドール、カルバゾールを基本骨格とするものであり、特段に限定されず、市販されているものも使用することができる。インドール及びカルバゾールの一般式をそれぞれ(1)及び(2)に記すが、一般式中、Rn(n=1〜9)は、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよく、水素原子又は置換基を表す。また、互いに連結して環を形成してもよい。
【化5】
【化6】
【0028】
電解重合法で用いられるモノマーの電解溶液中における濃度は、限定されるわけではないが、0.1mM以上溶解度以下であることが好ましく、1mM以上1M以下であることがより好ましい。
【0029】
電解重合法のための電解セルとしては、膜形成のための動作電極、動作電極と対峙する対向電極及び電位の基準となる参照電極の3本の電極を用いる3電極式セル、または、動作電極と対向電極だけを用いる2電極式セルを用いることができる。なお、動作電極の電位を基準となる参照電極に対して厳密に規定することのできる3電極式セルは、電解重合膜を再現性良く作製することができる点においてより好ましい。
【0030】
動作電極は、3電極式電解セル及び2電極式セルのいずれの場合においても、電極酸化に対して安定な物質であれば良く、限定されるわけではないが例えば酸化インジウムスズ(以下「ITO」と略記する。)や酸化錫が塗布された透明ガラス電極、白金電極、金電極、グラシーカーボン電極を好適に用いることができる。また、対向電極としては、それらの電極材料に加え、ステンレスや銅板などの金属電極も好適に用いることができる。また参照電極は、限定されるわけではないが例えば銀・塩化銀電極(Ag/AgCl電極)、飽和カロメル電極を好適に用いることができる。
【0031】
3電極式電解セルを用いて電解重合膜を形成する場合、動作電極に印加する電位は、限定されるわけではないが、例えば参照電極に銀・塩化銀電極(Ag/AgCl電極)を用いた場合、+0.1V以上+2.5V以下の範囲内にあることが好ましく、+0.5V以上+2V以下の範囲内にあることがより好ましい。モノマーの化学構造に依存するが、+0.1V以上であればモノマーの酸化を進行させることができ、+0.5V以上であればこれがより顕著となる。また+2.5V以下とすることで溶媒や支持電解質の電解反応を防ぎ膜形成の効率を良好に維持することができ、+2V以下とすることでこの効果がより顕著となる。
【0032】
2電極式電解セルを用いて電解重合膜を形成する場合、動作電極に印加する電位は、限定されるわけではないが、例えば対向電極に対して+0.2V以上+5V以下の範囲内にあることが好ましく、+1V以上+4V以下の範囲内にあることがより好ましい。+0.2V以上とすることでモノマーの酸化を進行させることができ、+1V以上でこの効果がより顕著となる。また+5V以下とすることで溶媒や支持電解質の電解反応を防ぎ膜形成の効率を良好に維持することができ、+4V以下でこの効果がより顕著となる。
【0033】
電解重合法における電気分解の時間としては、導電性ポリマー膜を析出させることができる限りにおいて限定されるわけではないが、上記印加電圧の範囲内において1秒以上5時間以下の範囲内において行うことが好ましく、10秒以上1時間以下の範囲内において行うことがより好ましい。
【0034】
また、この電気分解の温度としては電解重合膜を析出させることができる限りにおいて限定されるわけではないが、−20℃以上60℃以下の範囲内にあることが好ましい。
【0035】
また、この電気分解は、大気中の成分物質が関与することの少ない酸化反応でありまた低電位で行われるため、大気中で行うことができる。電解液中の不純物の酸化など、生成した膜を汚染する可能性を回避する観点から、窒素ガスやアルゴンガス雰囲気中で行うことが好ましいが、汚染の心配はほとんど無い。しかしながらそれでもやはり、電解重合法において電解重合膜を形成する場合、溶液中に酸素が多く存在すると電極反応に影響を与えてしまう虞があるため、不活性ガス(窒素ガスやアルゴンガス)によるバブリングを行うことも有用である。
【0036】
また、本実施形態に係る導電性ポリマー膜を形成する工程は、電解重合法のほか、例えば溶液塗布法、真空蒸着法、気相成長法、も挙げることができる。
【0037】
溶液塗布法による方法としては、限定されるわけではないが、例えば、“G.Tourillon,E.Dartyge,D.Guay,C.Mahatsekake,C.G.Andrieu,S.Bernstroff,W.Braun、Journal of Electrochemical Society,137巻、1827頁、1990年”、“D.M.Collard,M.S.Stoakes,Chemistry of Materials,6巻、850頁、1994年”、及び“M.Hamaguchi,K.Yoshino,Japanese Journal of Applied Physics,34巻、L587頁、1995年”に記載の方法を用いることができる。
【0038】
真空蒸着法による方法としては、限定されるわけではないが、例えば、“G.Horowitz,F.Deloffe,F.Garnier,R.Hajlaoui,M.Hmyene,A.Yassar,Synthetic Metals,54巻、435頁、1993年”に記載の方法を用いることができる。
【0039】
また、気相成長法による方法としては、限定されるわけではないが、例えば“K.Yoshino,S.Hayashi,R.Sugimoto,Japanese Journal of Applied Physics,23巻、L899頁、1984年”、“R.Sugimoto,K.Yoshino,S.Inoue,K.Tsukagoshi,Japanese Journal of Applied Physics,24巻、L425頁、1985年”、及び“M.Orita,K.Yoshino,Chemical Express,1巻、679頁、1986年”に記載の方法を用いることができる。
【0040】
また、本実施形態に係る導電性ポリマー膜の解重合は、作製した導電性ポリマー膜に対し、支持電解質を含む溶液中で負の電位を印加することで溶媒に可溶性の構造へと変換することを利用する。この負の電位としては、導電性ポリマーの種類により適宜変化するものであるが、導電性ポリマーの電気化学的還元反応の起こる電位よりも負電位以下であることが必要であり、具体的には、−2V以上であって、0V未満であることが好ましい。なお、負の電位を印加する方法は限定されるわけではないが電位掃引処理又は定電位印加処理が好ましい。
【0041】
電位掃引処理とは、支持電解質を含む溶液に一対の電極を浸漬し、一定の速度で電位を変化させつつ印加する処理をいい、定電位印加処理とは、支持電解質を含む溶液に一対の電極を浸漬し、一定の電位を一定の時間印加する処理をいう。
【0042】
電位掃引処理、定電位印加処理において用いられる溶液に含まれる支持電解質、溶媒については、上記電解重合法と同じものを採用することができ、用いられる電解セルにおいて同じである。更に、電極においても同様であるが、そのうちの一つに導電性ポリマー膜が形成されているものを用いる点が異なる。
【0043】
なお、導電性ポリマー膜を形成する工程として電解重合法を用いた場合、その電解重合法において用いた系をそのまま電位掃引処理又は定電位印加処理に用いることができるが、モノマーを含まない、支持電解質だけを溶解した別の溶液を調整して用いることがより好ましい。
【0044】
本実施形態に係る導電性ポリマーの再重合は、上記導電性ポリマーの解重合により得た溶液に対し、正の電位を印加することにより行われる。正の電位としては、限定されるわけではないが、飽和カロメル参照電極(SCE)を用いた場合、0V以上+2.0V未満の範囲内で行うことが望ましい。また、電位印加処理としても、限定されるわけではないが、例えば電位掃引処理又は定電位印加処理により行うことが望ましい。本実施形態に係る導電性ポリマーは、このようにすることで、重合、解重合、更には再重合が可能となる。
【0045】
なお、本実施形態にかかる導電性ポリマーの再重合は上記電位の印加のほか溶液に酸化剤を添加することによっても行うことが可能である。酸化剤としては、限定されるわけではないが例えば過塩素酸第二鉄(Fe(ClO4)3)、硫酸セリウム(IV)(Ce(SO4)2)などを用いることができる。さらに、再重合は溶液中に光触媒を添加し、その光触媒の吸収波長をもつ光を照射することによっても行うことができる。光触媒としては例えばルテニウムトリスビピリジン錯体(Ru(bpy)3Cl2)、酸化チタンなどを用いることができる。
【0046】
以上、本方法により導電性ポリマーとしては初めて達成される解重合可能な導電性ポリマー膜は、フレキシブル電気回路パターンの形成材料、電子ペーパー等の表示媒体の材料、リチウムイオン電池の電極材料として利用可能となると考えられる。
【実施例】
【0047】
上記実施形態に係る解重合可能な導電性ポリマー膜の製造方法を用い、実際に解重合可能な導電性ポリマー膜を作製し、本発明の効果を確認した。以下説明する。
【0048】
(実施例1)
本実施例では、モノマーとしてインドールを用いて電解重合法によりポリインドール膜を形成し、この膜に電位掃引処理を加えることにより解重合を行った。
【0049】
(ポリインドール膜の作製)
市販のインドール(東京化成工業社製)を8mM、支持電解質として過塩素酸テトラブチルアンモニウム(東京化成工業社製、以降「TBAP」と略記する。)を0.1M、ジクロロメタン(関東化学社製、分光分析用)に投入し、スターラーで撹拌して電解液を得た。そして、この得られた電解液を70ml取り出し、耐熱ガラス製の2部屋タイプの電解セルの主室に入れた(2部屋は主室と副室に分けられ、それらは焼結ガラスにより隔てられている。)。そしてこの主室に酸化インジウムスズ(ITO)膜が170nmコートされたガラス電極と白金板電極とを浸漬した。一方、副室にも上記の電解液を入れ、更に飽和カロメル参照電極(SCE)を浸漬した。
【0050】
次に、インドールの酸化される電位である+1.1Vに電位を固定し、電解液の定電位電解酸化を行い、電解重合法の原理を利用してITO電極上にポリインドール膜を形成した。生成したポリインドール膜の面積は9cm2である。なお、この工程では大気成分ガスの影響を受ける負電位を印加しないので電解雰囲気は必ずしも窒素ガス雰囲気下である必要はないが、溶存酸素の影響を完全に除外するために電解前に窒素バブリングを40分間施し、電解中は溶液上部に窒素ガスを流した。この定電位電解によってITO電極に流れた通電電気量は4500mCである(単位面積当たりに換算すると500mC/cm2)。電解温度は20℃である。
【0051】
この定電位電解酸化の結果、ITO膜が形成されたガラス電極上に、緑褐色の膜が形成された。この緑褐色膜が形成されたガラス電極をジクロロメタンで洗浄し、走査型顕微鏡(SEM、トプコン社製 ABT−32)で観察した。図1にここで得られた緑褐色膜の写真を示す。図1から膜が導電性ポリマー特有の強く呈色した特性を持つことがわかる。
【0052】
上記緑褐色のポリインドール膜にp型ドーピングが起こるような電位掃引範囲で電位掃引処理を施し、実際に導電性ポリマーとして必要なマイナスイオン(ここでは溶液中に溶けている支持塩アニオンである過塩素酸イオン)のドーピング・脱ドーピングが生じることを確認した。電位掃引処理に用いた電解質溶液としては、ジクロロメタン溶媒中に、支持電解質としてTBAPを0.1Mを溶解したものを採用した。そしてその電解液を耐熱ガラス製の2部屋タイプの電解セルの主室に入れた。そしてこの主室に、ポリインドール膜が形成されたITO電極と、白金板電極とを浸漬し、副室にも上記の溶液を入れ、更に飽和カロメル参照電極(SCE)を浸漬した。電位掃引範囲は、SCEに対して−0.2V〜0.8Vであり、電位掃引速度は20mV/sである。
【0053】
図2に、その電位掃引によって得られる電流―電位特性(サイクリックボルタンモグラム)を示す。0.1V〜0.8Vに見られる正の電流は、ポリインドール膜の酸化とそれに伴う過塩素酸イオンの膜内への侵入を表し、膜がp型ドーピングを受けたことを表している。一方、上下逆方向に観測された負の電流は、酸化された膜が元の中性膜に戻ることと過塩素酸イオンが膜から出て行く脱ドーピングが生じたことを表している。以上の実験結果からポリインドール膜は典型的な導電性ポリマーとしての特性を有することがわかる。
【0054】
(ポリインドール膜の解重合反応)
次に、ポリインドール膜に負方向の電位掃引処理を施し、解重合を行った。電位掃引処理に用いた電解質溶液としては、ジクロロメタン溶媒中に、支持電解質としてTBAPを0.1Mを溶解したものを採用した。そしてその電解液を耐熱ガラス製の2部屋タイプの電解セルの主室に入れた。そしてこの主室に、ポリインドール膜が形成されたITO電極と、白金板電極とを浸漬し、副室にも上記の溶液を入れ、更に飽和カロメル参照電極(SCE)を浸漬した。
【0055】
この後、SCEを参照電極として電気分解用電源(ALS社製ポテンショスタット モデル750A)に接続し、参照電極に対して0.2V〜−1.4Vの電位範囲で一定速度(20mV/s)で電位を掃引した。電位掃引回数は3回とした。
【0056】
図3に、上記負方向電位処理によって得られた電流―電位特性(サイクリックボルタンモグラム)を示す。まず、第1掃引において、0Vで膜の中に残存していた過塩素酸イオンの脱ドーピングによる負の還元電流が流れた。そして引き続き負方向の掃引を続けると−1.1Vをピークとする大きな還元電流が流れ、それにともなって膜が溶解する現象が見出された。そして、その膜の溶解は第1掃引でほぼ完了し、ポリインドール膜はITO電極表面から消失した。2回目以降の掃引では、バックグランド程度の電流しか観測されなかった。
【0057】
上記溶解反応は、溶媒に不溶性であったポリインドールが溶媒に可溶性になったことを意味している。換言すると、重合度が高く溶媒不溶性であったポリインドールが解重合されて分子量のより小さなオリゴマーあるいはモノマーへと物質変換され、溶媒可溶性になったことを示すものである。
【0058】
この電位掃引の後、解重合処理の後のITO電極を電解液から取り出し、ジクロロメタンで洗浄を行った後、可視吸収スペクトル測定を行った。図4の実線曲線に、解重合処理の後のITO電極のスペクトルを示す。また、波線曲線として解重合処理を行う前のポリインドール膜のスペクトルを示す。解重合操作によって可視域の光の波長全域にわたって吸光度が低下し、吸光度がほぼ0となっていることがわかる。すなわち、解重合操作によってポリインドール膜がITO電極から消失したことが確認された。
【0059】
(実施例2)
本実施例では、実施例1で得られた解重合後の溶液、すなわち、ポリインドール膜の解重合の結果生成したオリゴマーあるいはモノマーが溶解した電解液に、新たなITO電極を浸漬し、電解重合操作によって再重合を行った。
【0060】
(実施例1で生成した電解液を用いた再重合反応)
実施例1では、ジクロロメタン溶媒中に、支持電解質であるTBAPが0.1M、ポリインドール膜の解重合によって生成したオリゴマー及びモノマーが溶解したものが得られる。図5にその溶液の紫外可視吸収スペクトルを示す。そしてその電解液を耐熱ガラス製の2部屋タイプの電解セルの主室に入れた。そしてこの主室に、新たなITO電極と、白金板電極とを浸漬し、副室にも上記の溶液を入れ、更に飽和カロメル参照電極(SCE)を浸漬した。
【0061】
この後、SCEを参照電極として電気分解用電源(ALS社製ポテンショスタット モデル750A)に接続し、参照電極に対して1.1Vの電位をITO電極に印加した。ITO電極の面積は0.4cm2であり、電位印加によって流れた通電電気量は12mCである。従って単位面積当たりの通電電気量は40mC/cm2である。また、
【0062】
図6に、上記電位処理(定電位電解重合処理)によってITO電極上に得られた電解重合膜の写真を示す。電解液中のオリゴマー及びモノマー濃度が低いために薄い膜となったが(また、電解液の液面付近で重合反応が優先的に進行し、液面付近で厚い膜が得られるという電気化学特有のエッジ効果も見られるが)、図1に示す膜とほぼ同様の膜が得られ、再重合が可能であることが確認された。
【0063】
図4の一点鎖線に、上述のようにしてITO電極上に得られた再重合膜のスペクトルを示す。解重合処理によってITOから消失したポリインドール膜(実線スペクトル)が再重合によって再生されていること(一点鎖線のスペクトル)が明確に確認された。
【0064】
(実施例3)
本実施例では、モノマーとしてインドールのマイゼンハイマー型σ錯体を用いて電解重合法によりポリインドール膜を形成し、この膜に電位掃引処理を加えることにより解重合を行った。なお、本実施例で用いたインドールのマイゼンハイマー型σ錯体の化学式を(3)に示す。また、この錯体及びその錯体を原料としたポリインドール膜の形成法については、金 商国、宮川信一、関 宏子、星野勝義、2006年電気化学秋季大会講演要旨集、312頁、平成18年9月14日、同志社大学工学部(京田辺)、に記載の方法を用いることができる。
【化7】
【0065】
(ポリインドール膜の作製)
インドールのマイゼンハイマー型σ錯体を8mM、支持電解質として過塩素酸テトラブチルアンモニウム(東京化成工業社製、以降TBAPと略記する)を0.1M、ジクロロメタン(関東化学社製、分光分析用)に投入し、スターラーで撹拌して電解液を得た。そして、この得られた電解液を20ml取り出し、耐熱ガラス製の2部屋タイプの電解セルの主室に入れた(2部屋は主室と副室に分けられ、それらは焼結ガラスにより隔てられている。)。そしてこの主室に酸化インジウムスズ(ITO)膜が170nmコートされたガラス電極と白金板電極とを浸漬した。一方、副室にも上記の電解液を入れ、更に飽和カロメル参照電極(SCE)を浸漬した。
【0066】
次に、インドールのマイゼンハイマー型σ錯体の酸化される電位である+1.1Vに電位を固定し、電解液の定電位電解酸化を行い、電解重合法の原理を利用してITO電極上にポリインドール膜を形成した。生成したポリインドール膜の面積は2cm2である。なお、この工程では大気成分ガスの影響を受ける負電位を印加しないので電解雰囲気は必ずしも窒素ガス雰囲気下である必要はないが、溶存酸素の影響を完全に除外するために電解前に窒素バブリングを40分間施し、電解中は溶液上部に窒素ガスを流した。この定電位電解によってITO電極に流れた通電電気量は1000mCである(単位面積当たりに換算すると500mC/cm2)。電解温度は20℃である。
【0067】
この定電位電解酸化の結果、ITO膜が形成されたガラス電極上に、緑褐色の膜が形成された。この緑褐色膜が形成されたガラス電極をジクロロメタンで洗浄し、ポリインドール膜を得た。なお、この膜の構成要素は実施例1と同じくインドールユニットであるが、そのインドールユニットのつながり方が異なる。
【0068】
上記緑褐色のポリインドール膜にp型ドーピングが起こるような電位掃引範囲で電位掃引処理を施し、実際に導電性ポリマーとして必要なマイナスイオン(ここでは溶液中に溶けている支持塩アニオンである過塩素酸イオン)のドーピング・脱ドーピングが生じることを確認した。電位掃引処理に用いた電解質溶液としては、ジクロロメタン溶媒中に、支持電解質としてTBAPを0.1Mを溶解したものを採用した。そしてその電解液を耐熱ガラス製の2部屋タイプの電解セルの主室に入れた。そしてこの主室に、ポリインドール膜が形成されたITO電極と、白金板電極とを浸漬し、副室にも上記の溶液を入れ、更に飽和カロメル参照電極(SCE)を浸漬した。電位掃引範囲は、SCEに対して−0.2V〜1.3Vであり、電位掃引速度は20mV/sである。
【0069】
図7に、その電位掃引によって得られる電流―電位特性(サイクリックボルタンモグラム)を示す。0.2V〜1.3Vに見られる正の電流は、ポリインドール膜の酸化とそれに伴う過塩素酸イオンの膜内への侵入を表し、膜がp型ドーピングを受けたことを表している。一方、上下逆方向に観測された負の電流は、酸化された膜が元の中性膜に戻ることと過塩素酸イオンが膜から出て行く脱ドーピングが生じたことを表している。以上の実験結果からポリインドール膜は典型的な導電性ポリマーとしての特性を有することがわかる。
【0070】
(ポリインドール膜の解重合反応)
次に、ポリインドール膜に負方向の電位掃引処理を施し、解重合を行った。電位掃引処理に用いた電解質溶液としては、ジクロロメタン溶媒中に、支持電解質としてTBAPを0.1Mを溶解したものを採用した。そしてその電解液を耐熱ガラス製の2部屋タイプの電解セルの主室に入れた。そしてこの主室に、ポリインドール膜が形成されたITO電極と、白金板電極とを浸漬し、副室にも上記の溶液を入れ、更に飽和カロメル参照電極(SCE)を浸漬した。
【0071】
この後、SCEを参照電極として電気分解用電源(ALS社製ポテンショスタット モデル750A)に接続し、参照電極に対して0.75V〜−1.5Vの電位範囲で一定速度(20mV/s)で電位を掃引した。電位掃引回数は5回とした。
【0072】
図8に、上記負方向電位処理によって得られた電流―電位特性(サイクリックボルタンモグラム)を示す。まず、第1掃引において、約0.3Vで膜の中に残存していた過塩素酸イオンの脱ドーピングによる負の還元電流が流れた。そして引き続き負方向の掃引を続けると−1V付近に大きな還元電流が流れ、それにともなって膜が溶解する現象が見出された。そして、その膜の溶解は第1掃引でほぼ完了し、ポリインドール膜はITO電極表面から消失した。2回目以降の掃引では、バックグランド程度の電流しか観測されなかった。
【0073】
上記溶解反応は、溶媒に不溶性であったポリインドールが溶媒に可溶性になったことを意味している。換言すると、重合度が高く溶媒不溶性であったポリインドールが解重合されて分子量のより小さなオリゴマーあるいはモノマーへと物質変換され、溶媒可溶性になったことを示すものである。
【0074】
この電位掃引の後、解重合処理の後のITO電極を電解液から取り出し、ジクロロメタンで洗浄を行った後、可視吸収スペクトル測定を行った。図9の実線曲線に、解重合処理の後のITO電極のスペクトルを示す。また、波線曲線として解重合処理を行う前のポリインドール膜のスペクトルを示す。解重合操作によって可視域の光の波長全域にわたって吸光度が低下し、吸光度がほぼ0となっていることがわかる。すなわち、解重合操作によってポリインドール膜がITO電極から消失したことが確認された。
【0075】
(実施例4)
本実施例では、電解重合法によりポリカルバゾール膜を形成し、この膜に電位掃引処理を加えることにより解重合を行った。
【0076】
(ポリカルバゾール膜の作製)
市販のカルバゾール(東京化成工業社製)を5mM、支持電解質としてTBAPを0.1M、ジクロロメタン(関東化学社製、分光分析用)に投入し、スターラーで撹拌して電解液を得た。そして、この得られた電解液を20ml取り出し、耐熱ガラス製の2部屋タイプの電解セルの主室に入れた(2部屋は主室と副室に分けられ、それらは焼結ガラスにより隔てられている。)。そしてこの主室に酸化インジウムスズ(ITO)膜が170nmコートされたガラス電極と白金板電極とを浸漬した。一方、副室にも上記の電解液を入れ、更に飽和カロメル参照電極(SCE)を浸漬した。
次に、カルバゾールの酸化される電位である+1.2Vに電位を固定し、電解液の定電位電解酸化を行い、電解重合法の原理を利用してITO電極上にポリカルバゾール膜を形成した。生成したポリカルバゾール膜の面積は2.25cm2である。なお、この工程では大気成分ガスの影響を受ける負電位を印加しないので電解雰囲気は必ずしも窒素ガス雰囲気下である必要はないが、溶存酸素の影響を完全に除外するために電解前に窒素バブリングを40分間施し、電解中は溶液上部に窒素ガスを流した。この定電位電解によってITO電極に流れた通電電気量は54mCである(単位面積当たりに換算すると24mC/cm2)。また電解温度は5℃である。
【0077】
この定電位電解酸化の結果、ITO膜が形成されたガラス電極上に、緑色の膜が形成された。この緑色膜が形成されたガラス電極をジクロロメタンで洗浄し、走査型顕微鏡(SEM、トプコン社製 ABT−32)で観察した。図10にここで得られた緑褐色膜の写真を示す(写真下のバーの長さは5mmのスケールを示す)。図10から膜が導電性ポリマー特有の強く呈色した特性を持つことがわかる。
【0078】
(ポリカルバゾール膜の解重合反応)
次に、ポリカルバゾール膜に負方向の電位掃引処理を施し、解重合を行った。電位掃引処理に用いた電解質溶液としては、ジクロロメタン溶媒中に、支持電解質としてTBAPを0.1Mを溶解したものを採用した。そしてその電解液を耐熱ガラス製の2部屋タイプの電解セルの主室に入れた。そしてこの主室に、ポリカルバゾール膜が形成されたITO電極と、白金板電極とを浸漬し、副室にも上記の溶液を入れ、更に飽和カロメル参照電極(SCE)を浸漬した。
【0079】
この後、SCEを参照電極として電気分解用電源(ALS社製ポテンショスタット モデル750A)に接続し、参照電極に対して1.3V〜−1.4Vの電位範囲で一定速度(20mV/s)で電位を掃引した。電位掃引回数は4回とした。
【0080】
図11に、上記負方向電位処理によって得られた電流―電位特性(サイクリックボルタンモグラム)を示す。まず、第1掃引において、0.5〜−1.4Vで負の大きな還元電流が流れた。そしてその電流が流れると同時に膜が溶解する現象が見出された。その膜の溶解は第1掃引でほぼ完了し、ポリカルバゾール膜はITO電極表面から消失した。2回目以降の掃引では、バックグランド程度の電流しか観測されなかった。
【0081】
上記溶解反応は、溶媒に不溶性であったポリカルバゾールが溶媒に可溶性になったことを意味している。換言すると、重合度が高く溶媒不溶性であったポリカルバゾールが解重合されて分子量のより小さなオリゴマーあるいはモノマーへと物質変換され、溶媒可溶性になったことを示すものである。
【0082】
この電位掃引の後、解重合処理の後のITO電極を電解液から取り出し、ジクロロメタンで洗浄を行った後、可視吸収スペクトル測定を行った。図12の実線曲線に、解重合処理の後のITO電極のスペクトルを示す。また、波線曲線として解重合処理を行う前のポリカルバゾール膜のスペクトルを示す。解重合操作によって可視域の光の波長全域にわたって吸光度が低下し、吸光度がほぼ0となっていることがわかる。すなわち、解重合操作によってポリカルバゾール膜がITO電極から消失したことが確認された。
【0083】
(比較例1:アセトニトリル溶媒を用いた検討)
本比較例では、モノマーとしてインドールを用いることは実施例1と同じであるが、電解溶媒として電気化学反応で多用される溶媒であるアセトニトリルを用いてポリインドール膜の形成を試みた。
【0084】
(ポリインドール膜の作製)
インドールを8mM、支持電解質として過塩素酸テトラブチルアンモニウム(東京化成工業社製、以降TBAPと略記する)を0.1M、アセトニトリル(関東化学社製、分光分析用)に投入し、スターラーで撹拌して電解液を得た。そして、この得られた電解液を20ml取り出し、耐熱ガラス製の2部屋タイプの電解セルの主室に入れた(2部屋は主室と副室に分けられ、それらは焼結ガラスにより隔てられている。)。そしてこの主室に酸化インジウムスズ(ITO)膜が170nmコートされたガラス電極と白金板電極とを浸漬した。一方、副室にも上記の電解液を入れ、更に飽和カロメル参照電極(SCE)を浸漬した。
【0085】
次に、インドールのマイゼンハイマー型σ錯体の酸化される電位である+1.1Vに電位を固定し、電解液の定電位電解酸化を行い、電解重合法の原理を利用してITO電極上にポリインドール膜の形成を試みた。溶存酸素の影響を完全に除外するために電解前に窒素バブリングを40分間施し、電解中は溶液上部に窒素ガスを流した。この定電位電解によってITO電極に流れた通電電気量は1000mCである(単位面積当たりに換算すると500mC/cm2)。電解温度は20℃である。
【0086】
この定電位電解酸化の結果、ITO膜が形成されたガラス電極上に緑褐色のポリインドール膜が形成されたが、電解終了後、溶液からITOガラス基板を引き上げたときに膜が電解液中に溶出し、結果的に膜を得ることができなかった。膜はアセトニトリル中に溶解して溶け出す成分と、微粉末となって剥離する成分があった。
【0087】
以上、本比較例により、解重合及び再重合可能な導電性ポリマー膜を得る方法において、溶媒としては、得られる重合膜に対して溶解性および剥離性を示さない適当な溶媒が必要なことを確認した。
【0088】
以上、実施例1乃至4により、上記実施形態に係る解重合可能な導電性ポリマー膜の製造方法を確認することができ、より望ましいモノマーとしては、インドール、カルバゾール及びそれらの誘導体、重合膜形成の電解液としては得られる重合膜に対して溶解性および剥離性を示さない溶媒が必要であることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0089】
解重合可能な導電性ポリマーは、フレキシブル電気回路パターンの形成材料、電子ペーパー等の表示媒体の材料、リチウムイオン電池の電極材料として産業上利用可能であり、その製造方法である本発明も当然に産業上利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】実施例1により得たポリインドール膜の写真(図面代用)である。
【図2】実施例1により得たポリインドール膜の―0.2V〜1.3Vの範囲の電流―電位特性(サイクリックボルタンモグラム)である。
【図3】実施例1により得たポリインドール膜の―1.4V〜0.2Vの範囲の電流―電位特性(サイクリックボルタンモグラム)である。
【図4】実施例1におけるポリインドール膜の解重合及び再重合処理にともなう紫外可視吸収スペクトル変化である。破線:元のITO基板上に形成されたポリインドール膜。実線:解重合後のITO基板。一点鎖線:再重合後にITO基板上に得られた膜。
【図5】実施例1の解重合により得た電解液の紫外可視吸収スペクトルである。
【図6】実施例1の再重合によりITO基板上に得た膜の写真(図面代用)である。
【図7】実施例3により得たポリインドール膜の―0.2V〜1.3Vの範囲の電流―電位特性(サイクリックボルタンモグラム)である。
【図8】実施例3により得たポリインドール膜の―1.5V〜0.75Vの範囲の電流―電位特性(サイクリックボルタンモグラム)である。
【図9】実施例3におけるポリインドール膜の解重合にともなう紫外可視吸収スペクトル変化である。破線:元のITO基板上に形成されたポリインドール膜。実線:解重合後のITO基板。
【図10】実施例4により得たポリカルバゾール膜の写真(図面代用)である。
【図11】実施例4により得たポリカルバゾール膜の―1.5V〜1.3Vの範囲の電流―電位特性(サイクリックボルタンモグラム)である。
【図12】実施例4におけるポリカルバゾール膜の解重合にともなう紫外可視吸収スペクトル変化である。破線:元のITO基板上に形成されたポリカルバゾール膜。実線:解重合後のITO基板。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性ポリマーを形成し、前記導電性ポリマーに対して負の電位を印加する導電性ポリマーの解重合方法。
【請求項2】
前記導電性ポリマーは、下記(1)と下記(2)で示される化合物を用いて重合されたものを含む請求項1記載の導電性ポリマーの解重合方法。
【化1】
(式中、Rn(n=1〜9)は、水素原子又は置換基であり、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。また、互いに連結して環を形成してもよい。)
【化2】
(式中、Rn(n=1〜9)は、水素原子又は置換基であり、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。また、互いに連結して環を形成してもよい。)
【請求項3】
前記負の電位は、電位掃引処理又は定電位印加処理により行われる請求項1記載の導電性ポリマーの解重合方法。
【請求項4】
前記電位掃引処理は、飽和カロメル参照電極(SCE)を用いた場合、該参照電極に対し、電解電位−2V以上0V未満の範囲内で行う請求項1記載の導電性ポリマーの解重合方法。
【請求項5】
前記定電位印加処理は、SCE参照電極を用いた場合、該参照電極に対し、電解電位−2V以上0V未満の範囲内で行われる請求項1記載の導電性ポリマーの解重合方法。
【請求項6】
前記導電性ポリマーの形成は、電解重合法、溶液塗布法、真空蒸着法、又は、化学重合法により行われる請求項1記載の導電性ポリマーの解重合方法。
【請求項7】
導電性ポリマーを形成し、前記導電性ポリマーに対して負の電位を印加して前記導電性ポリマーを解重合し、
前記解重合を施して得られた電解液に対して正の電位を印加する導電性ポリマーの再重合方法。
【請求項8】
前記導電性ポリマーは、下記(1)と下記(2)で示される化合物を用いて重合されたものを含む請求項7記載の導電性ポリマーの再重合方法。
【化3】
(式中、Rn(n=1〜9)は、水素原子又は置換基であり、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。また、互いに連結して環を形成してもよい。)
【化4】
(式中、Rn(n=1〜9)は、水素原子又は置換基であり、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。また、互いに連結して環を形成してもよい。)
【請求項9】
前記正の電位は、電位掃引処理又は定電位印加処理により行われる請求項7記載の導電性ポリマーの再重合方法。
【請求項10】
前記電位掃引処理は、飽和カロメル参照電極(SCE)を用いた場合、該参照電極に対し、電解電位0V以上+2.0V未満の範囲内で行う請求項7記載の導電性ポリマーの再重合方法。
【請求項11】
前記定電位印加処理は、飽和カロメル参照電極(SCE)を用いた場合、該参照電極に対し、電解電位0V以上+2.0V未満の範囲内で行う請求項7記載の導電性ポリマーの再重合方法。
【請求項12】
前記導電性ポリマーの解重合が、電解還元法あるいは化学還元法により行われる請求項7記載の導電性ポリマーの再重合方法。
【請求項13】
前記導電性ポリマーに対して化学還元処理を施す請求項7記載の導電性ポリマーの再重合方法。
【請求項14】
前記化学還元処理を施した溶液に化学酸化処理を施す請求項7記載の導電性ポリマーの再重合方法。
【請求項1】
導電性ポリマーを形成し、前記導電性ポリマーに対して負の電位を印加する導電性ポリマーの解重合方法。
【請求項2】
前記導電性ポリマーは、下記(1)と下記(2)で示される化合物を用いて重合されたものを含む請求項1記載の導電性ポリマーの解重合方法。
【化1】
(式中、Rn(n=1〜9)は、水素原子又は置換基であり、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。また、互いに連結して環を形成してもよい。)
【化2】
(式中、Rn(n=1〜9)は、水素原子又は置換基であり、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。また、互いに連結して環を形成してもよい。)
【請求項3】
前記負の電位は、電位掃引処理又は定電位印加処理により行われる請求項1記載の導電性ポリマーの解重合方法。
【請求項4】
前記電位掃引処理は、飽和カロメル参照電極(SCE)を用いた場合、該参照電極に対し、電解電位−2V以上0V未満の範囲内で行う請求項1記載の導電性ポリマーの解重合方法。
【請求項5】
前記定電位印加処理は、SCE参照電極を用いた場合、該参照電極に対し、電解電位−2V以上0V未満の範囲内で行われる請求項1記載の導電性ポリマーの解重合方法。
【請求項6】
前記導電性ポリマーの形成は、電解重合法、溶液塗布法、真空蒸着法、又は、化学重合法により行われる請求項1記載の導電性ポリマーの解重合方法。
【請求項7】
導電性ポリマーを形成し、前記導電性ポリマーに対して負の電位を印加して前記導電性ポリマーを解重合し、
前記解重合を施して得られた電解液に対して正の電位を印加する導電性ポリマーの再重合方法。
【請求項8】
前記導電性ポリマーは、下記(1)と下記(2)で示される化合物を用いて重合されたものを含む請求項7記載の導電性ポリマーの再重合方法。
【化3】
(式中、Rn(n=1〜9)は、水素原子又は置換基であり、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。また、互いに連結して環を形成してもよい。)
【化4】
(式中、Rn(n=1〜9)は、水素原子又は置換基であり、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。また、互いに連結して環を形成してもよい。)
【請求項9】
前記正の電位は、電位掃引処理又は定電位印加処理により行われる請求項7記載の導電性ポリマーの再重合方法。
【請求項10】
前記電位掃引処理は、飽和カロメル参照電極(SCE)を用いた場合、該参照電極に対し、電解電位0V以上+2.0V未満の範囲内で行う請求項7記載の導電性ポリマーの再重合方法。
【請求項11】
前記定電位印加処理は、飽和カロメル参照電極(SCE)を用いた場合、該参照電極に対し、電解電位0V以上+2.0V未満の範囲内で行う請求項7記載の導電性ポリマーの再重合方法。
【請求項12】
前記導電性ポリマーの解重合が、電解還元法あるいは化学還元法により行われる請求項7記載の導電性ポリマーの再重合方法。
【請求項13】
前記導電性ポリマーに対して化学還元処理を施す請求項7記載の導電性ポリマーの再重合方法。
【請求項14】
前記化学還元処理を施した溶液に化学酸化処理を施す請求項7記載の導電性ポリマーの再重合方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2008−106196(P2008−106196A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−292551(P2006−292551)
【出願日】平成18年10月27日(2006.10.27)
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年10月27日(2006.10.27)
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【Fターム(参考)】
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