説明

導電性基材上の導電性被膜の膜厚の決定方法

本発明は、検査対象の導電性基材(50)上に形成された導電性被膜の膜厚の決定方法に関する。先ず、空気中での渦電流センサの誘起電圧(U(Luft,ω))が励磁器磁界の周波数(ω)の関数として検出される。それぞれ検査対象の基材(50)および被膜(52)と同じ材料からなる基材および被膜を含む複数の被覆された基準対象が準備される。基準対象は異なる既知の膜厚を有する。各基準対象についての基準電圧(U(x,w))が励磁器磁界の周波数(ω)の関数として渦電流センサにより検出される。引続いて、各基準対象について、周波数(ω)の関数としての基準電圧(U(x,w))および空気中での渦電流センサの誘起電圧(U(Luft,ω))から、材料誘起電圧(Umat(x))が求められる。その後、各基準対象について、材料誘起電圧(Umat(x))の正規化された振幅が形成される。これから、被膜(52)の膜厚(d1)の関数として材料誘起電圧(Umat(x))の正規化された振幅を表示する較正曲線が作成される。正規化された振幅が同じようにして検査対象についても求められるこれから、検査対象の被膜(52)の膜厚(d1)が較正曲線により決定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検査対象の導電性基材上に設けられている導電性被膜の膜厚の決定方法に関する。
【0002】
多数の材料検査にとって無破壊方法が必要である。例えば、金属部分の表面は、頻繁に腐食、酸化、拡散および他の経年変化を生じさせる環境にさらされている。これは、例えば、機械的および化学的な負荷に基づいて腐食にさらされるガスタービンの羽根車に関しても当てはまる。
【0003】
この腐食の危険を防止または低減するために、このような基材の表面には1つ又は複数の保護膜が施されている。保護膜も同様に、軽減された程度であるにしても、表面作用にさらされる。しかし、内部作用も経年変化を引き起こし得る。基材と被膜との間の境界層において、例えば拡散および酸化のような物理学的および化学的な反応が起き、それらによって被膜の品質が変化する。
【0004】
このような被膜が設けられた基材の現在状態を定期的に検査することができるように、無破壊検査方法が必要とされる。
【0005】
米国特許第6377039号明細書から、被膜基材の特性を決定するためのシステムが公知である。このシステムにおいては、検査対象が可変周波数を有する交番電磁界に置かれる。それによって検査対象内において渦電流が誘導される。渦電流によって発生された電磁場もしくはその誘起電圧が検出される。とりわけ、誘起電圧の周波数スペクトルが測定される。膜厚を求めることができるように、使用者には膜厚が可測定量として使用可能であるので、膜厚が間接的に決定可能である。
【0006】
しかしながら、このシステムは、全ての検査対象について、検査対象の物理学的および幾何学的な特性に関する詳細情報を有する広範囲にわたるデータセットを必要とする。2次元または3次元の電磁場計算のもとで、かつ特別に構成された平面型渦電流検出器を用いて、データセットは次によって拡張される。すなわち。周波数、膜厚ならびに膜の電気的および磁気的な特性に依存した渦電流検出器におけるインピーダンスもしくは材料を通して誘起された電圧により拡張される。インピーダンスもしくは電圧は、複素平面内においては、いわゆる格子構造として表示される。この場合に、格子構造はほぼ垂直に交差する2つの曲線群から生じる。この場合に1つの曲線は、他の全てのパラメータについて固定の値と共に第1のパラメータの変化によって生じる。曲線群はそれぞれ第2のパラメータの異なる値によって生じる。格子は、今や、第1のパラメータの与えられた値および第2のパラメータ可変値に関するインピーダンスもしくは電圧の結びつきによって生じる。
【0007】
微分方程式、すなわちマクスウェルの方程式から電磁界計算が行なわれるために、電圧およびインピーダンスの絶対値は測定データとの結合手段によってしか得られない。それゆえ、完全なデータセットの作成のために、予めテストサンプルにおいて数多くの測定が必要である。ソフトウェアおよびハードウェアが検査対象および被検出量に適合化されなければならない。ソフトウェアおよびハードウェアは一般にシステム提供者によって用意される。適合化されたソフトウェアおよびハードウェアのためには、検査対象の製造者および/または開発者が情報をシステム提供者に予め渡さなければならない。しかしながら、これは、製造元もしくは開発者の視点から望ましくない機密の技術データを、特に開発段階で渡さなければならないということである。
【0008】
本発明の課題は、比較的少ない測定技術的および構造的費用で実施可能である導電性基材上の導電性被膜の膜厚の決定方法を提供することにある。
【0009】
この課題は請求項1による対象によって解決される。
【0010】
本発明による方法は次のステップを有する。
a)空気中で渦電流センサに誘起された電圧を励磁器磁界の周波数の関数として検出するステップ、
b)それぞれ検査対象の基材および被膜と同じ材料からなる基材および被膜を含みかつ異なる既知の膜厚を有する複数の被覆された基準対象を準備するステップ、
c)渦電流センサにより各基準対象について基準電圧を励磁器磁界の周波数の関数として検出するステップ、
d)各基準対象について、周波数の関数としての基準電圧および空気中での渦電流センサの誘起電圧から材料誘起電圧を決定するステップ、
e)各基準対象について、周波数の関数として材料誘起電圧の正規化された振幅を形成するステップ、
f)被膜の膜厚の関数として材料誘起電圧の正規化された振幅を表示する較正曲線を作成するステップ、
g)検査対象に関してステップc)乃至e)を実行するステップ、
h)検査対象の被膜の膜厚を、正規化された振幅から較正曲線により決定するステップ。
【0011】
本発明の本質は、一方ではステップc)における基準電圧の検出によって、他方ではステップe)における材料誘起電圧の正規化によって、例えば渦電流センサの特性または励磁器電流に依存する特性が除去されることにある。これは、構造的に簡単な測定装置の使用を可能にする。通常の構成要素から構成されている渦電流センサを使用することができる。
【0012】
材料誘起電圧が、複素電圧平面における基準電圧のベクトルと空気中での渦電流センサの誘起電圧のベクトルとの間の差ベクトルであるとよい。それによって、特に渦電流センサの影響が除去される。引続いて複素材料誘起電圧から振幅および/または位相が求められるとよい。
【0013】
有利な実施態様では、少なくとも1つの被覆されていない基準対象が用意され、この基準対象から渦電流センサにより励磁器磁界の周波数の関数として他の基準電圧が検出される。それによって、基材に起因するものとみなされる影響が補償される。
【0014】
特に、被覆されていない基準対象について、他の基準電圧と空気中での渦電流センサの誘起電圧とからなる他の材料誘起電圧が求められる。したがって、被覆されていない基準対象についても渦電流センサの影響が除去される。
【0015】
例えば、被覆されていない基準対象の材料誘起電圧が、複素電圧平面における他の基準電圧のベクトルと空気中での渦電流センサの誘起電圧のベクトルとの間の差ベクトルである。それにより、被覆されていない基準対象について、被覆された検査対象の場合と同じ測定方法が適用される。
【0016】
ステップa)において、どの周波数で渦電流センサにおいて共振が発生するかが確定されることが好ましい。このようにして、どの周波数において渦電流センサが線形動作をし、方法に適しているかを確定することができる。
【0017】
渦電流センサにおいて共振が発生しない周波数について較正曲線が作成されることが合理的である。それによって、渦電流センサが関連量に関して線形動作をすることが保証される。
【0018】
例えば、方法のために構造の同じ渦電流センサのみが使用される。それによって、渦電流センサの特性の影響が低減される。
【0019】
しかしながら、方法のために常に同一の渦電流センサが使用されるならば、特に有利である。このようにして渦電流センサの特性量の影響が除去される。
【0020】
使用される渦電流センサがフレキシブル平面部材および少なくとも1つのコイルを含むとよい。フレキシブル平面部材によって、渦電流センサを検査対象の表面構造に適合させることができる。それによって、被膜と渦電流センサとの間の距離が常に等しい大きさであることが保証される。
【0021】
一実施態様では、使用される渦電流センサが、励磁器コイルとしてかつ検出器コイルとして使用される少なくとも1つのコイルを有する。これは、特に簡単な低コストの構造様式である。
【0022】
それに対する代替として、使用される渦電流センサが、少なくとも1つの単独の励磁コイルおよび少なくとも1つの単独の検出器コイルを有してもよい。この場合には励磁器電流の測定への影響が少ない。
【0023】
使用される渦電流センサにおいて、少なくとも1つのコイルが、フレキシブル平面部材上に設けられている平らな導体帯として形成されているとよい。それによって、渦電流センサを高い精度にて検査対象の表面構造に適合させることができる。
【0024】
例えば、使用される渦電流センサにおいて、コイルの導体帯が渦巻状に形成されている。それにより特に強い磁界を発生させることができる。
【0025】
それに対する代替として、使用される渦電流センサにおいて、コイルの導体帯が蛇行状に形成されていてもよい。この場合には接続端子をコイルの外側に配置することができるので、コイルと被膜との間に障害部分が存在しない。
【0026】
更に、基準対象の基材が検査対象の基材と同一であるとよい。それにより、基材の影響が低減される。同時にそれによって測定への被膜の作用が高められる。
【0027】
本発明の他の特徴、利点および特別な実施形態は従属請求項の対象である。
【0028】
以下において、添付図面に関連づけた有利な実施形態に基づく図表示において本発明による方法を更に詳細に説明する。
図1は本発明による方法のための渦電流センサの第1の実施形態の概略的な平面図を示し、
図2は本発明による方法のための渦電流センサの第2の実施形態の概略的な平面図を示し、
図3は本発明による方法のための渦電流センサの第3の実施形態の概略的な平面図を示し、
図4は本発明による方法のための渦電流センサの第4の実施形態の概略的な平面図を示し、
図5は周波数の関数としての複素電圧の位相のダイアグラムを示し、
図6は複素電圧平面における差ベクトルの概略図を示し、
図7は周波数の関数としての材料誘起電圧の正規化された振幅のダイアグラムを示し、
図8は膜厚の関数としての材料誘起電圧の正規化された振幅を表す較正曲線のダイアグラムを示し、
図9は測定値が書き込まれかつそれから膜厚がグラフで決定される図8の較正曲線のダイアグラムを示し、
図10は渦電流センサおよび検査対象の等価回路図および概略的な断面図を示す。
【0029】
図1は本発明による方法のために使用可能である渦電流センサの第1の実施形態の概略的な平面図を示す。渦電流センサはフレキシブル平面部材10を含み、平面部材10上にコイル12が設けられている。コイル12は渦巻状の導体帯として形成されている。平面部材10上でコイル12の外側には導体帯の一端に第1の接続端子14がある。コイル12の内部には導体帯の他端に第2の接続端子16がある。コイル12は励磁器コイルとしてかつ検出器コイルとして設けられている。
【0030】
図2には渦電流センサの第2の実施形態の平面図が示されている。渦電流センサの第2の実施形態もフレキシブル平面部材10を含み、平面部材10上にコイル12が設けられている。コイル18は蛇行状の導体帯として形成されている。第1の接続端子14および第2の接続端子16はそれぞれコイル18の蛇行状の導体帯の両端に存在する。接続端子14,16はコイル18の蛇行部分から隔てられている。これは、接続端子14,16が検査対象と接触しないように、渦電流センサを検査対象に配置することができるという利点を有する。コイル18も、励磁器コイルとしてかつ検出器コイルとして設けられている。
【0031】
図1および図2における渦電流センサの場合には、2つの機能、すなわち励磁器コイルとしての機能と検出器コイルとしての機能とを有する1つのコイルだけが必要であることから、構造費用が僅かである。
【0032】
図3は本発明による方法のための渦電流センサの第3の実施形態の概略的な平面図を示す。第3の実施形態の渦電流センサは、同様にフレキシブル平面部材10を有する。平面部材10上には励磁器コイル20および検出器コイル22が設けられている。励磁器コイル20および検出器コイル22は渦巻状の導体帯として形成されている。検出器コイル22は励磁器コイル20の内部にある。励磁器コイル20の導体帯の両端に第1の接続端子14および第2の接続端子16がある。検出器器コイル22の導体帯の両端に第3の接続端子24および第4の接続端子26がある。
【0033】
図4には、渦電流センサの第4の実施形態の概略的な平面図が示されている。第4の実施形態の渦電流センサもフレキシブル平面部材10を含む。平面部材10上には励磁器コイル28および検出器コイル30が設けられている。励磁器コイル28および検出器コイル30は蛇行状の導体帯として形成されている。検出器コイル30は励磁器コイル28の内部にある。励磁器コイル28の導体帯の両端に第1の接続端子14および第2の接続端子16がある。検出器コイル30の導体帯の両端に第3の接続端子24および第4の接続端子26がある。接続端子14,16,24,26はコイル28,30から隔てられている。それによって、接続端子14,16,24,26が検査対象に接触しないように、渦電流センサを検査対象に配置することができる。
【0034】
図1乃至図4に示された4つの渦電流センサの全ては、平面コイルとして構成されていることが好ましい。平面部材10が4つの実施形態の全てにおいてフレキシブルであるので、渦電流センサは検査対象の表面に幾何学的に適合可能である。コイル12,18,20,22,28,30の導体帯は銅から作られているとよい。平面部材10は例えばカプトンフィルムから作られているとよい。
【0035】
本発明による方法の第1のステップにおいて、検査対象に適した渦電流センサが選択される。引続いて、渦電流センサが空気中に存在する場合に電圧U(Luft,ω)がコイル12または18もしくは検出器コイル22または30において周波数ωの関数として検出される。その際に共振が発生する周波数も求められる。
【0036】
この周波数は後での分析の際に使用されない。なぜならば、この周波数では渦電流センサが線形に動作しないからである。
【0037】
図5は、検出された複素電圧の位相が周波数の関数として表示されているダイアグラムを示す。関数値は位相の正接関数に相当する。第1の特性曲線32は、渦電流センサが空気中に存在する測定に関する。第2の特性曲線34は、渦電流センサが特殊合金に配置されている測定に関する。第3の特性曲線36は、渦電流センサがアルミニウムサンプルに接する状態での測定を表示する。この例では2つの個所で共振が発生する。これに対して4MHzと6MHzとの間の周波数範囲は共振がないので、この周波数範囲が特に適している。
【0038】
次に検査対象の基材と同一の基材を有する複数の基準対象が用意される。基準対象は、それぞれ異なる膜厚を持つ被膜を有している。膜厚は、例えば光学的に測定可能であり、それゆえ既知である。少なくとも1つの基準対象は被覆されていない。基準対象の被膜は、検査対象の被膜と同じ材料から作られている。各基準対象から渦電流センサにより周波数の関数として基準電圧U(x,ω)が検出される。基準電圧U(x,ω)と渦電流センサが空気中に存在する場合の電圧U(Luft,ω)との間において差ベクトルが複素電圧平面で求められる。この差ベクトルは複素材料誘起電圧Umat(x)に相当する。この材料誘起電圧Umat(x)から、振幅|Umat(x)|および位相φmatが求められる。
【0039】
図6には、複素電圧平面における前述の電圧ベクトルの概略図が示されている。両直交座標は電圧の実数部もしくは虚数部に対応する。ベクトル(Luft,ω)は、渦電流センサが空気に接している状態にある場合の電圧に相当する。基準電圧U(x,ω)が同様にベクトルとして示されている。上記の両ベクトルの差ベクトルが材料誘起電圧Umat(x)に相当する。
【0040】
被覆されていない基準対象から、同様に基準電圧U(b,ω)が測定され、差ベクトルUmat(b)が形成され、これから振幅|Umat(b)|が求められる。
【0041】
次のステップにおいて、材料誘起電圧についての正規化された振幅が形成される。そのために振幅|Umat(x)|が振幅|Umat(b)|で正規化される。それによって、コイルの特性に依存した材料誘起電圧の周波数依存性が取り除かれる。
【0042】
図7は、材料誘起電圧の正規化された振幅|Umat(x)|/|Umat(b)|を周波数の関数として示す。各特性曲線は基準対象の被膜の決定された膜厚に相当する。最も下の特性曲線は被覆されていない基準対象に相当する。
【0043】
更なるステップにおいて、1つ又は複数の較正曲線が作成される。較正曲線は、膜厚の関数としての材料誘起電圧の正規化された振幅を示す。較正曲線は図7による特性曲線場から求められる。そのための共振範囲の外側にある特定の周波数が選択される。この周波数での関数値が既知の膜厚に割り付けられる。
【0044】
図8には較正曲線の例が示されている。この較正曲線は、4MHzについての関数値が使用される場合に図7から得られる。図8は、正規化された振幅と膜厚との間に直線関係が存在することを明確に示す。
【0045】
本来の測定においては、既知の膜厚を有する検査対象が検査される。検査対象は、基材50も被膜も基準対象におけると同じ材料からなる。測定は基準対象の測定と同様に行なわれる。先ず、同一の渦電流センサにより複素電圧が測定され、引続いて、差ベクトルが求められる。差ベクトルは材料誘起電圧に相当する。この差ベクトルから振幅が形成され、被覆されていない基準対象の振幅|Umat(b)|で正規化される。正規化された振幅から、較正曲線により、検査対象の被膜52の膜厚が求められる。
【0046】
図9は、検査対象50の正規化された振幅の求められた数値40を付加的に有する図8による較正曲線を示す。検査対象50は未知の膜厚を持つ被膜52を有する。この例において、正規化された振幅の数値40は約1.017である。較正曲線を用いて、その数値40から被膜52の膜厚を図式的に決定することができる。この具体的な例においては、膜厚は123μmである。較正曲線および基礎をなす測定値は電子データ処理装置に記憶することができるので、適切な電子データ処理プログラムにより膜厚を振幅入力後に計算して出力することができる。
【0047】
図10には渦電流センサおよび検査対象の等価回路図および概略的な断面図を示す。等価回路図はインダクタンスL0、交流電圧U0および抵抗R0を含み、これらは直列に接続されていて励磁器回路を形成する。導電性被膜52は、直列に接続されている抵抗R1およびインダクタンスL1によって表すことができる。基材50は直列に接続されている抵抗RbおよびインダクタンスLbによって表すことができる。
【0048】
材料誘起電圧Umat(x)は、静電容量を無視した場合に、
【数1】

によって与えられる。ただし、M1は被膜52における相互インダクタンス、M2は被覆された基材50における相互インダクタンス、I1は被膜52における電流、I2は基材50における電流である。
【0049】
材料誘起電圧はUmat(x)は、励磁電流Ierrによっても表すことができる。
【数2】

【0050】
金属材料に関しては、数メガヘルツの周波数範囲においては、
【数3】

が当てはまるので、材料誘起電圧Umat(x)の表現は簡略化される。
【数4】

【0051】
被膜52のない基材50については、
【数5】

が当てはまる。ただしM3は被覆されていない基材50における相互インダクタンスである。被覆されている基材50は、被覆されていない基材50と同じ材料からなるので、材料に依存する変数Lb,Rbも使用することができる。基材50と渦電流センサとの間の異なる距離に基づいて、被覆されていない基材50の相互インダクタンスM3は、被膜されている基材50の相互インダクタンスM2と異なる。基材50の材料および被膜52の材料が類似の電気的特性を有する場合には、相互インダクタンスM1,M3は僅かしか異ならない。
【0052】
式(1b)および式(3)から、正規化された材料誘起電圧Umat(x)/Umat(b)について、
【数6】

が生じる。相互インダクタンスM1,M2,M3は、渦電流回路と渦電流センサとの間の距離に依存する。したがって、式(4)における相互インダクタンス間の比は1に等しくない。更に、相互インダクタンスはコイルの技術的データに依存するので、較正曲線および本来の測定は同一の渦電流センサにより実施されなければならない。
【0053】
抵抗値については、
【数7】

が当てはまる。ただし、ρ1は被膜52の抵抗率であり、ρbは基材50の抵抗率であり、bは導体帯の長さであり、wはコイルの幅であり、λbは基材50への磁場の浸透深さである。したがって、正規化された電圧振幅Umat(x)/Umat(b)については、
【数8】

が得られる。式(7)は、正規化された電圧振幅が第1近似において膜厚d1に比例することをはっきり示す。したがって、較正曲線も特定の材料に関して直線である。
【0054】
本発明による方法は特に簡単なかつ高速の方法である。本発明による方法の実施のための構造費用は比較的少ない。
【0055】
変更された基材50および/または被膜の試作品を短時間で試験することができる。特別なソフトウェアおよび/またはハードウェアを用意することができるように、社内情報を外部の会社に予め渡さなければならないということが必要でない。したがって、検査対象の製造者または開発者は本発明による方法を社内で実施することができるので、機密情報を外部の会社に与える必要がない。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明による方法のための渦電流センサの第1の実施形態の概略的な平面図
【図2】本発明による方法のための渦電流センサの第2の実施形態の概略的な平面図
【図3】本発明による方法のための渦電流センサの第3の実施形態の概略的な平面図
【図4】本発明による方法のための渦電流センサの第4の実施形態の概略的な平面図
【図5】周波数の関数としての複素電圧の位相のダイアグラム
【図6】複素電圧平面における差ベクトルの概略図
【図7】周波数の関数としての材料誘起電圧の正規化された振幅のダイアグラム
【図8】膜厚の関数としての材料誘起電圧の正規化された振幅を表す較正曲線のダイアグラム
【図9】測定値が書き込まれ、それから膜厚がグラフで求められる図8からの較正曲線のダイアグラム
【図10】渦電流センサおよび検査対象の等価回路図および概略的な断面図
【符号の説明】
【0057】
10 平面部材
12 コイル
14 第1の接続端子
16 第2の接続端子
18 コイル
20 励磁器コイル
22 検出器コイル
24 第3の接続端子
26 第4の接続端子
28 励磁器コイル
30 検出器コイル
32 第1の特性曲線
34 第2の特性曲線
36 第3の特性曲線
40 正規化された振幅の求められた値
50 基材
52 被膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象の導電性基材(50)上に設けられている導電性被膜(52)の膜厚の決定方法であって、
a)空気中で渦電流センサに誘起された電圧(U(Luft,ω))を励磁器磁界の周波数(ω)の関数として検出するステップ、
b)それぞれ検査対象の基材(50)および被膜(52)と同じ材料からなる基材および被膜を含みかつ異なる既知の膜厚を有する複数の被覆された基準対象を準備するステップ、
c)渦電流センサにより各基準対象について基準電圧(U(x,w))を励磁器磁界の周波数(ω)の関数として検出するステップ、
d)各基準対象について、周波数(ω)の関数としての基準電圧(U(x,ω))および空気中での渦電流センサの誘起電圧(U(Luft,ω))から、材料誘起電圧(Umat(x))を決定するステップ、
e)各基準対象について、周波数(ω)の関数として材料誘起電圧(Umat(x))の正規化された振幅を形成するステップ、
f)被膜(52)の膜厚(d1)の関数として材料誘起電圧(Umat(x))の正規化された振幅を表示する較正曲線を作成するステップ、
g)検査対象に関してステップc)乃至e)を実行するステップ、
h)検査対象の被膜(52)の膜厚(d1)を、正規化された振幅から較正曲線により決定するステップ
を有する導電性基材上の導電性被膜の膜厚の決定方法。
【請求項2】
材料誘起電圧(Umat(x))が、複素電圧平面における基準電圧(U(x,ω))のベクトルと空気中での渦電流センサの誘起電圧(U(Luft,ω))のベクトルとの間の差ベクトルであることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
複素材料誘起電圧(Umat(x))から振幅(|Umat(x)|)および/または位相(φmat)が求められることを特徴とする請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
少なくとも1つの被覆されていない基準対象が用意され、この基準対象から渦電流センサにより励磁器磁界の周波数(ω)の関数として他の基準電圧(U(b,ω))が検出されることを特徴とする請求項1乃至3の1つに記載の方法。
【請求項5】
被覆されていない基準対象について、他の基準電圧(U(b,ω))と空気中での渦電流センサの誘起電圧(U(Luft,ω))とから他の材料誘起電圧(Umat(b))が求められることを特徴とする請求項4記載の方法。
【請求項6】
被覆されていない基準対象の材料誘起電圧(Umat(x))が、複素電圧平面における他の基準電圧(U(b,ω))のベクトルと空気中での渦電流センサの誘起電圧(U(Luft,ω))のベクトルとの間の差ベクトルであることを特徴とする請求項5記載の方法。
【請求項7】
ステップa)において、どの周波数で渦電流センサにおいて共振が発生するかが確定されることを特徴とする請求項1乃至6の1つに記載の方法。
【請求項8】
渦電流センサにおいて共振が発生しない周波数について較正曲線が作成されることを特徴とする請求項7記載の方法。
【請求項9】
方法のために構造の同じ渦電流センサのみが使用されることを特徴とする請求項1乃至8の1つに記載の方法。
【請求項10】
方法のために常に同一の渦電流センサが使用されることを特徴とする請求項1乃至8の1つに記載の方法。
【請求項11】
使用される渦電流センサがフレキシブル平面部材(10)および少なくとも1つのコイル(12,18,20,22,28,30)を含むことを特徴とする請求項1乃至10の1つに記載の方法。
【請求項12】
使用される渦電流センサが、励磁器コイルとしてかつ検出器コイルとして使用される少なくとも1つのコイル(12,18)を有することを特徴とする請求項1乃至11の1つに記載の方法。
【請求項13】
使用される渦電流センサが、少なくとも1つの単独の励磁コイル(20,28)および少なくとも1つの単独の検出器コイル(22,30)を有することを特徴とする請求項1乃至11の1つに記載の方法。
【請求項14】
使用される渦電流センサにおいて、少なくとも1つのコイル(12,18,20,22,28,30)が、フレキシブル平面部材(10)上に設けられている平らな導体帯として形成されていることを特徴とする請求項11乃至13の1つに記載の方法。
【請求項15】
使用される渦電流センサにおいて、コイル(12,18,20,22,28,30)の導体帯が渦巻状に形成されていることを特徴とする請求項14記載の方法。
【請求項16】
使用される渦電流センサにおいて、コイル(12,18,20,22,28,30)の導体帯が蛇行状に形成されていることを特徴とする請求項14記載の方法。
【請求項17】
基準対象の基材が検査対象の基材(50)と同一であることを特徴とする請求項1乃至16の1つに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2009−539086(P2009−539086A)
【公表日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−512555(P2009−512555)
【出願日】平成19年5月25日(2007.5.25)
【国際出願番号】PCT/EP2007/055074
【国際公開番号】WO2007/137997
【国際公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【出願人】(390039413)シーメンス アクチエンゲゼルシヤフト (2,104)
【氏名又は名称原語表記】Siemens Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】Wittelsbacherplatz 2, D−80333 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】