説明

導電性樹脂組成物及びその用途

【課題】成形が容易であり、耐加水分解性に優れる成形体を得ることができる導電性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】下記の構造単位からなり、芳香族基の中で2,6−ナフタレンジイル基が5モル%以上である液晶ポリエステルと、金属酸化物系導電性フィラー及び/又はカーボン系導電性フィラーとを含む導電性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性樹脂組成物、並びに前記導電性樹脂組成物からなる燃料電池用セパレーター及びシール材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、固体高分子型燃料電池は、携帯用途、車輌用途及び定置用途の実用化に向け、燃料電池セルを形成する固体高分子電解質膜、触媒膜、ガス拡散膜及びセパレーターの各構成材料の開発に関し、活発な研究開発が進められている。中でも、セパレーターに関する必要物性としては、a)貫通方向の低効率、b)曲げ強度等の機械特性、c)成形性、d)長期安定性、e)コスト等が挙げられている(例えば、非特許文献1参照。)。
【0003】
従来、燃料電池用セパレーターとしては、炭素焼結体に樹脂を含浸させた樹脂含浸材や熱硬化性樹脂を不活性雰囲気で焼成して得られるガラス状カーボン、炭素粉末と樹脂とを混合後成形した樹脂成形品等が用いられている。しかしながら、樹脂含浸材では、切削加工が必要となり、製造に手間とコストがかかる。ガラス状カーボンを用いると、焼成前に製品形状への成形加工が可能となるが、焼成時の寸法収縮等、寸法安定性の点で問題が生じる。樹脂成形品は成形が容易であるが、樹脂の電気絶縁性の故に導電性に劣る欠点がある。この点を改善すべく導電性フィラーを多量充填すると、成形が困難または不可能であった。そこで樹脂として液晶ポリエステルを使用すると導電性フィラーを多量充填し且つ成形性を向上することが報告されている(例えば、特許文献1、2参照。)。
【0004】
【非特許文献1】「固体高分子型燃料電池(PEFC)の新材料・技術開発」,188頁,(株)大阪ケミカルマーケティングセンター発行,2003年
【特許文献1】特開2000−17179号公報
【特許文献2】特開2005−187696号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記のように、燃料電池は長期安定性(長期間運転に対する耐久性)が求められており、セパレーターにおいては、駆動時の発熱、及び空気極において副生する水分を外部に放出するために、高温・高湿環境に晒されるため、当該環境に対する安定性が重要視される。しかしながら、液晶ポリエステルは、一般に加水分解に対する耐久性(以下、「加水分解耐性」と呼ぶ)が悪いため、燃料電池の長期運転では、樹脂の劣化により強度が著しく低下するといった問題が残されていた。
【0006】
本発明者が検討した結果、特許文献1及び2に適用されている一般的な液晶ポリエステルに導電性フィラーを混合すると、得られる成形体における液晶ポリエステルの加水分解耐性は、さらに悪化し、成形体自体の機械強度は燃料電池の稼動によって発生する水分により著しく低下することが判明した。
【0007】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、成形が容易であるばかりでなく、加水分解耐性に優れる成形体を得ることができる導電性樹脂組成物を提供し、さらに当該導電性樹脂組成物を用いてなる、燃料電池に好適に用いることができるセパレーターあるいはシール材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、液晶ポリエステルを構成する構造単位を種々検討した結果、加水分解耐性に優れる液晶ポリエステルを見出し、当該液晶ポリエステルを用いた導電性樹脂組成物が、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち本発明は、下記(i)、(ii)及び(iii)で表される構造単位からなり、Ar1、Ar2、Ar3で表される2価の芳香族基の合計を100モル%としたとき、当該芳香族基の中で2,6−ナフタレンジイル基が5モル%以上である液晶ポリエステルと、金属酸化物系導電性フィラー及び/又はカーボン系導電性フィラーとを含む導電性樹脂組成物を提供するものである。

(式中、Ar1は、2,6−ナフタレンジイル基、1,4−フェニレン基又は4,4’−ビフェニリレン基から選ばれる。Ar2、Ar3は、それぞれ独立に、2,6−ナフタレンジイル基、1,4−フェニレン基、1,3−フェニレン基又は4,4’−ビフェニリレン基から選ばれる。また、Ar1、Ar2及びAr3で示される芳香族基は、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数6〜20のアリール基を置換基として有していもよい)
【0009】
さらに、前記のAr1、Ar2及びAr3で表される2価の芳香族基の合計を100モル%としたとき、当該芳香族基の中で2,6−ナフタレンジイル基が20モル%以上である液晶ポリエステルと、導電性フィラーとを含む導電性樹脂組成物が好ましい。
【0010】
とりわけ、前記のAr1、Ar2、Ar3で表される2価の芳香族基の合計を100モル%としたとき、当該芳香族基の中で2,6−ナフタレンジイル基が20モル%以上である液晶ポリエステルであるとより好ましく、2,6−ナフタレンジイル基が50モル%以上である液晶ポリエステルであると特に好ましい。
【0011】
このように、液晶ポリエステルを形成する構成単位において、2,6−ナフタレンジイル基を有する構造単位を、より多く含む液晶ポリエステルを使用すると、得られる成形体の加水分解耐性がより良好となるため好ましい。
【0012】
また、本発明は前記金属酸化物系導電性フィラー及び/又はカーボン系導電性フィラーに係る導電性フィラーのなかで、カーボン系導電性フィラーを必須成分として含む導電性樹脂組成物が好ましい。
【0013】
さらに、前記カーボン系導電性フィラーが、黒鉛、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、ファーネスカーボンブラック及びサーマルカーボンブラックからなる群より選択される1以上の導電性フィラーである導電性樹脂組成物が好ましい。こうすると、導電性樹脂組成物自体の耐食性が高くなり、成形時の金型の劣化を防止することができる。これらの導電性フィラーの中でも、より高度の導電性が得られることと低コストの観点から黒鉛が好ましい。
【0014】
本発明の導電性樹脂組成物において、金属酸化物系導電性フィラーの配合量とカーボン系導電性フィラーの配合量との合計が、液晶ポリエステル100重量部に対して50〜900重量部であると好ましく、100〜600重量部であると、さらに好ましい。
【0015】
また、本発明は、前記の導電性樹脂組成物を用いた、燃料電池用セパレーター及び燃料電池用シール材を提供する。特に、本発明の導電性樹脂組成物から得られる燃料電池用セパレーターは、燃料電池の運転に対して長期安定性に優れるものとなる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、成形が容易であるばかりでなく、従来の液晶ポリエステルを含む導電性樹脂組成物から得られる成形体よりも、加水分解耐性に優れた成形体を得ることができ、このようにして得られた成形体は、高温・高湿下に晒されても、強度の劣化が生じにくく、燃料電池用部材に好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の最良な形態を、詳細に説明する。
〈液晶ポリエステル〉
本発明の導電性樹脂組成物は、前記の(i)、(ii)及び(iii)で表される構造単位からなる液晶ポリエステルにおいて、Ar1、Ar2及びAr3で表される2価の芳香族基の合計を100モル%としたとき、当該芳香族基の中で2,6−ナフタレンジイル基が5モル%以上である液晶ポリエステルを含むものである。ここで、液晶ポリエステルとは、450℃以下の温度で、溶融時に光学的異方性を示すポリエステルを意味する。このような液晶ポリエステルは、当該液晶ポリエステルを製造する段階で、2,6−ナフタレンジイル基を含むモノマーと、それ以外の芳香環を有するモノマーとを、得られる液晶ポリエステル中の、2,6−ナフタレンジイル基を有する構造単位が5モル%以上になるように、原料モノマーを選択し、重合させることで得ることができる。
【0018】
本発明の導電性樹脂組成物において、さらに好ましい液晶ポリエステルは、Ar1、Ar2及びAr3で表される2価の芳香族基の合計を100モル%としたとき、当該芳香族基の中で2,6−ナフタレンジイル基が、20モル%以上である液晶ポリエステルであり、さらに好ましくは2,6−ナフタレンジイル基が25モル%以上の液晶ポリエステルであり、特に好ましくは2,6−ナフタレンジイル基が50モル%以上の液晶ポリエステルである。このように、2,6−ナフタレンジイル基をより多く含む液晶ポリエステルは、さらに加水分解耐性に優れるものとなりえる。
【0019】
また、本発明の液晶ポリエステルを構成する構造単位である(i)、(ii)及び(iii)の合計(以下、「全構造単位合計」と呼ぶことがある)を100モル%としたとき、(i)で示される芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構造単位の合計が30〜80モル%、(ii)で示される芳香族ジカルボン酸に由来する構造単位の合計が10〜35モル%、(iii)で示される芳香族ジオールに由来する構造単位の合計が10〜35モル%であることが好ましい。
【0020】
また、本発明の液晶ポリエステルは、全芳香族液晶ポリエステルであると好ましい。全芳香族液晶ポリエステルは、耐熱性にも優れるため、本発明の導電性樹脂組成物として好適に用いることができる。ここで、全芳香族液晶ポリエステルとは、前記のAr1、Ar2、Ar3で表される2価の芳香族基同士がエステル結合(-C(O)O-)で連結されている樹脂であり、全構造単位合計に対する(ii)で表される構造単位の含有比率と(iii)で表される構造単位の含有比率とは実質的に等しくなる。
【0021】
ここで、全構造単位合計に対する前記芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構造単位前記芳香族ジカルボン酸に由来する構造単位及び前記芳香族ジカルボン酸に由来する構造単位の含有比率が前記の範囲であると液晶ポリエステルが高度の液晶性を発現することに加え、溶融加工性に優れるものとなるため好ましい。
【0022】
全構造単位合計に対する前記芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構造単位は、40〜70モル%であると、より好ましく、45〜65モル%であると、とりわけ好ましい。
【0023】
一方、全構造単位合計に対する前記芳香族ジカルボン酸に由来する構造単位及び前記芳香族ジオールに由来する構造単位は、それぞれ15〜30モル%であると、より好ましく、それぞれ17.5〜27.5モル%であると、とりわけ好ましい。
【0024】
式(i)で表される構造単位を形成するモノマーとしては、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸、p−ヒドロキシ安息香酸又は4−(4−ヒドロキシフェニル)安息香酸が挙げられ、さらに、これらのベンゼン環又はナフタレン環の水素原子が、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基又はアリール基で置換されているモノマーも挙げられる。ここで、本発明の2,6−ナフタレンジイル基を有する構造単位を形成するモノマーとしては、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸であり、さらに2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸のナフタレン環の水素原子が、前記の基で置換されていてもよい。
さらに、後述のエステル形成性誘導体にして、用いてもよい。
【0025】
式(ii)で表される構造単位を形成するモノマーとしては、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸又はビフェニル−4,4’−ジカルボン酸が挙げられ、さらに、これらのベンゼン環又はナフタレン環の水素原子がハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基又はアリール基で置換されているモノマーも挙げられる。ここで、本発明の2,6−ナフタレンジイル基を有する構造単位を形成するモノマーとしては、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸であり、さらにナフタレン−2,6−ジカルボン酸のナフタレン環の水素原子が、前記の基で置換されていてもよい。
さらに、後述のエステル形成性誘導体にして、用いてもよい。
【0026】
式(iii)で表される構造単位を形成するモノマーとしては、2,6−ナフトール、ハイドロキノン、レゾルシン又は4,4’−ジヒドロキシビフェニルが挙げられ、さらに、これらのベンゼン環又はナフタレン環の水素原子が、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基又はアリール基で置換されているモノマーも挙げられる。ここで、本発明の2,6−ナフタレンジイル基を有する構造単位を形成するモノマーとしては、2,6−ナフトールであり、さらに2,6−ナフトールのナフタレン環の水素原子が、前記の基で置換されていてもよい。
さらに、後述のエステル形成性誘導体にして、用いてもよい。
【0027】
前記のように、(i)、(ii)又は(iii)で表される構造単位は、いずれも芳香環(ベンゼン環又はナフタレン環)に前記の置換基を有していても良く、これらの置換基を例示すると、ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられ、炭素数1〜10のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基等で代表されるアルキル基であり、これらは直鎖でも分岐していもよく、脂環基でもよい。アリール基としては、例えばフェニル基、ナフチル基等で代表される炭素数6〜20のアリール基が挙げられる。
【0028】
前記の、(i)、(ii)又は(iii)で示される構造単位を形成するモノマーは、ポリエステルを製造する過程で、重合を容易にするためエステル形成性誘導体を用いることが好ましい。該エステル形成性誘導体とは、エステル生成反応を促進するような基を有するモノマーを示し、具体的に例示すると、モノマー分子内のカルボン酸基を、酸ハロゲン化物、酸無水物に転換したエステル形成性誘導体、モノマー分子内の水酸基を、低級カルボン酸エステル基にしたエステル形成性誘導体などの高反応性誘導体が挙げられる。
【0029】
液晶ポリエステルの製造方法としては、公知の方法によって製造できるが、特に好ましくは、前記のエステル形成性誘導体として、モノマー分子内の水酸基を低級カルボン酸を用いてエステル基に転換した誘導体を用いて製造することが好ましく、水酸基をアシル基に転換することが特に好ましい。アシル化は、通常、水酸基を有するモノマーを、無水酢酸と反応させることで達成できる。これらの、アシル化によるエステル形成性誘導体は、脱酢酸重縮合により重合することができ、容易にポリエステルを製造することができる。
【0030】
前記の液晶ポリエステル製造方法としては、例えば、特開2002−146003号公報に記載の方法等の、公知の方法が適用できる。すなわち、前記の、(i)、(ii)及び(iii)で表される構造単位に対応するモノマーを、2,6−ナフタレンジイル基を有する構造単位に対応するモノマーが、全モノマーの合計に対して、5モル%以上になるように選択し、必要に応じてエステル形成性誘導体に転換した後、溶融重縮合せしめ、比較的低分子量の芳香族液晶ポリエステル(以下、「プレポリマー」と略記する)を得、次いで、このプレポリマーを粉末とし、加熱することにより固相重合させる方法が挙げられる。このような固相重合を用いると、重合がより進行しやすく、高分子量化を図ることができる。
【0031】
〈導電性フィラー〉
本発明の、金属酸化物系導電性フィラー、カーボン系導電性フィラーについては種々の公知のものを使用することができる。金属酸化物系導電性フィラーとしては、SnO2、ZnO、In23、TiO2等が挙げられる。カーボン系導電性フィラーとしては、いわゆるカーボンブラックと呼ばれる炭化水素の熱分解と不完全燃焼を制御して得られるもの、黒鉛等の導電性を有する炭素の同素体が挙げられ、カーボンブラックと黒鉛との複合体でもよい。さらに、金属酸化物系導電性フィラー、カーボン系導電性フィラーともに形状には、特に制限されず、粉末状、繊維状、フレーク等、前記液晶ポリエステル中に分散・混合ができるかぎり、いずれも用いることができる。さらに、前記の金属酸化物系導電性フィラーとカーボン系導電性フィラー導電性フィラーを併用することも可能である。
【0032】
とりわけ、本発明の導電性樹脂組成物には、カーボン系導電性フィラーが好ましく、例えば、カーボン系粉末、カーボンフレーク、カーボンブラック又は黒鉛等を使用するのが好ましい。これらカーボン系フィラーを用いることにより、導電性樹脂組成物の耐腐食性を高め、成形時の金型の劣化等を防止することができるため、好ましい。また、燃料電池用セパレーター等として用いられる際にも副反応を防止することができる。より好ましくは、黒鉛、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、ファーネスカーボンブラック、サーマルカーボンブラックからなる群より選択される1以上のフィラーを使用する。こうすると、得られる組成物はより導電性に優れるものとなる。
【0033】
これらカーボン系導電性フィラーのいずれを単独で、もしくは2種以上を混合して用いても良いが、より好ましくは黒鉛またはケッチェンブラックを、特に好ましくは黒鉛を使用する。黒鉛は、前記カーボン系導電性フィラーの中でも、キノン基、カルボキシル基等の親水基がほとんどないため好ましい。この黒鉛の種類に特に制限はなく、粒状黒鉛、鱗片状黒鉛、膨張黒鉛、コロイド黒鉛等、どのような形態の黒鉛をも使用することができる。フッ化グラファイト、または各種金属原子、ハロゲン原子、ハロゲン化合物等をインターカレートしたグラファイト層間化合物の使用も可能である。ここで、膨張黒鉛とは黒鉛結晶構造の層間を拡張処理したもので、導電性、潤滑性が特に良好である。前記した黒鉛の中でも、膨張黒鉛又は粒状黒鉛が、導電性がより向上するため、特に好ましい。
【0034】
金属酸化物系導電性フィラーとカーボン系導電性フィラーとの配合量の合計は、液晶ポリエステル100重量部に対し、50〜900重量部が好ましい。当該導電性フィラーの配合量の合計が、この範囲であると、導電性フィラー同士のコンタクトが十分となるため高度の導電性を発現する。また、得られる成形体の機械強度にも優れるために好ましい。これは過剰な導電性フィラーの存在により発生する空孔等が生成しづらく、成形体の機密性が維持されるため機械強度が向上するためと推定される。これらの点を考慮すると、当該導電性フィラーの配合量の合計は、100〜600重量部が、さらに好ましく、200〜500重量部とすると、特に好ましい。
【0035】
〈その他の添加剤〉
本発明の導電性樹脂組成物は、さらに炭素繊維、樹脂繊維あるいはガラス繊維等の繊維を配合することにより、その成形品(例えば燃料電池用セパレーターやシール材料)の機械的強度を強化することも可能である。例えば、炭素繊維及び/又はガラス繊維を、液晶ポリエステル100重量部に対して1〜100重量部、特に10〜50重量部程度配合すると、得られる成形品の強度、特に耐衝撃性を改善することができる。炭素繊維、樹脂繊維あるいはガラス繊維の種類に特に制限はなく、種々の公知の繊維を使用することができる。他に、綿、羊毛、絹、麻、ナイロン繊維、アラミド繊維、ビニロン(ポリビニルアルコール)繊維、ポリエステル繊維、レーヨン繊維、アセテート繊維、フェノール-ホルムアルデヒド繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維、アクリル繊維、ポリ塩化ビニル繊維、ポリ塩化ビニリデン繊維、ポリウレタン繊維、テトラフロロエチレン繊維等の繊維を使用することも可能である。しかしながら本発明においては、炭素繊維、特にPAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維を使用するのが好ましい。このことによって、成形品の導電性を殆ど損なうことなく強度を改善することができる。繊維の形状にも特に制限はないが、好ましくは長さが約0.01〜100mm、特に約0.1〜20mmの範囲内の繊維を使用する。繊維長さが100mmを越えると成形が難しく、また表面を平滑にし難くなり、0.01mmを下回ると補強効果が期待できなくなる。
【0036】
本発明の導電性樹脂組成物には、他に、任意成分として、他のポリマー、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、低分子量ポリエステル、ポリアミド、ニトリルゴム、アクリルゴム等;他の充填材、例えばシリカ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、粘度鉱物等のフィラー、顔料等;さらには分散剤、老化防止剤、カップリング剤、相容化剤、難燃剤、表面平滑剤、脂肪酸やそのエステル、フタル酸エステル等の可塑剤、プラスチック粉末、加工助剤等を導電性を低下させない範囲で配合することもできる。
【0037】
また、前記金属酸化物系導電性フィラー及び/又はカーボン系導電性フィラーに加えて、金属フィラーを導電性フィラーとして加えてもよい。金属フィラーを加える際には、得られる成形体の吸水性を悪化させない範囲であることが好ましい。なお、金属フィラーとしては銅、アルミニウム等の金属からなるものが挙げられる。
【0038】
〈導電性組成物の調製方法〉
本発明の導電性樹脂組成物は、種々の慣用の方法によって製造することができる。一般的には、液晶ポリエステルを、加熱溶融させて混練し、導電性フィラーや繊維等を添加する。典型的には、ニーダー、バンバリーミキサー、押出機、加熱ロール等で液晶ポリエステルを溶融し、そこに導電性フィラーや繊維等を混練下添加する。
【0039】
本発明の導電性樹脂組成物は、成形が容易で加水分解耐性に優れる。それ故燃料電池用セパレーターの材料として最適である。また、本発明の導電性樹脂組成物のうち、導電性フィラーとしてカーボン系フィラー、特に黒鉛を用いたものは、気体不透過性等に著しく優れる上、良好な摺動性、表面なじみ性を有する。それ故、燃料電池製造に係る部材の中で、シール材料、特にパッキンとしても有用である。
【0040】
〈導電性組成物の成形方法〉
本発明の導電性樹脂組成物に係る成形法は特に制限されず、射出成形、押出成形、トランスファー成形、ブロー成形、プレス成形、射出プレス成形、押出射出成形等、熱可塑性樹脂の分野で汎用の種々の成形法によって各種の形状へと成形することができる。また、これらの成形法を複数組み合わせても良い。本発明の燃料電池用セパレーターにおいては、とりわけ射出成形、プレス成形、射出プレス成形が好ましい。例えば射出成形や押出成形により得られた成形品同士を溶融接着させることも出来、また、押出成形やプレス成形により得られたシート状物をプレス成形等によって複雑な凹凸形状の物品へと本成形してもよい。当業者であれば、用途及び形状に応じ、好ましい成形法及び成形条件を選定することが可能であろう。本発明の導電性樹脂組成物は溶融成形が可能という長所を持つため、複雑な形状の物品、熱の通り難い厚物等の材料として特に有用である。また、成型品のリサイクルや、バリ部分等の再利用も可能である。
【実施例】
【0041】
以下、実施例によって本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【0042】
〈流動開始温度測定方法〉
フローテスター〔島津製作所社製、「CFT−500型」〕を用いて試料量約2gを内径1mm、長さ10mmのダイスを取付けた毛細管型レオメーターに充填させる。9.8MPa(100kg/cm2)の荷重下において昇温速度4℃/分で芳香族ポリエステルをノズルから押出すときに、溶融粘度が4800Pa・s(48000ポイズ)を示す温度を流動開始温度とした。
【0043】
合成例1
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸987.95g(5.25モル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル486.47g(2.612モル)、2,6−ナフタレンジカルボン酸513.45g(2.375モル)、無水酢酸1174.04(11.5モル)および触媒として1−メチルイミダゾール0.194gを添加し、室温で15分間攪拌した後、攪拌しながら昇温した。内温が145℃となったところで、同温度を保持したまま1時間攪拌し、触媒である1−メチルイミダゾール5.83gをさらに添加した。
次に、留出する副生酢酸、未反応の無水酢酸を留去しながら、145℃から310℃まで3時間30分かけて昇温した。同温度で2時間保温して液晶ポリエステルを得た。得られた液晶ポリエステルを室温に冷却し、粉砕機で粉砕して、液晶ポリエステルの粉末(粒子径は約0.1mm〜約1mm)を得た。
この粉末(液晶ポリエステル)についてフローテスターを用いて、流動開始温度を測定したところ、273℃であった。
得られた粉末を25℃から250℃まで1時間かけて昇温したのち、同温度から300℃まで10時間かけて昇温し、次いで同温度で12時間保温して固相重合させた。その後、固相重合した後の粉末を冷却して液晶ポリエステルを得た。この液晶ポリエステルをAとする。このAについて、フローテスターを用いて、流動開始温度を測定したところ、326℃であった。
【0044】
合成例2
実施例1と同様の反応器に、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸1034.99g(5.5モル)、ハイドロキノン272.52g(2.475モル)、2,6−ナフタレンジカルボン酸378.33g(1.75モル)、テレフタル酸83.07g(0.5モル)、無水酢酸1226.87(11.9モル)および触媒として1−メチルイミダゾール0.17gを添加し、室温で15分間攪拌した後、攪拌しながら昇温した。内温が145℃となったところで、同温度を保持したまま1時間攪拌した。
次に、留出する副生酢酸、未反応の無水酢酸を留去しながら、145℃から310℃まで3時間30分かけて昇温した。同温度で3時間保温して液晶ポリエステルを得た。得られた液晶ポリエステルを室温に冷却し、粉砕機で粉砕して、液晶ポリエステルの粉末(粒子径は約0.1mm〜約1mm)を得た。
この粉末(液晶ポリエステル)についてフローテスターを用いて、流動開始温度を測定したところ、261℃であった。
得られた粉末を25℃から250℃まで1時間かけて昇温したのち、同温度から295℃まで8時間かけて昇温し、次いで同温度で3時間保温して固相重合させた。その後、固相重合した後の粉末を冷却して液晶ポリエステルを得た。この液晶ポリエステルをBとする。このBについて、フローテスターを用いて、流動開始温度を測定したところ、310℃であった。
【0045】
合成例3
実施例1と同様の反応器に、パラヒドロキシ安息香酸828.72g(6.00モル)、ハイドロキノン330.33g(3.00モル)、2,6−ナフタレンジカルボン酸648.57g(3.00モル)、無水酢酸1408.84(13.8モル)および触媒として1−メチルイミダゾール0.181gを添加し、室温で15分間攪拌した後、攪拌しながら昇温した。内温が145℃となったところで、同温度を保持したまま30分間攪拌した。
次に、留出する副生酢酸、未反応の無水酢酸を留去しながら、145℃から310℃まで3時間かけて昇温した。その後、1−メチルイミダゾール1.808gをさらに加えたのち、同温度で1時間保温して液晶ポリエステルを得た。得られた液晶ポリエステルを室温に冷却し、粉砕機で粉砕して、液晶ポリエステルの粉末(粒子径は約0.1mm〜約1mm)を得た。
得られた粉末を25℃から250℃まで1時間かけて昇温したのち、同温度から304℃まで10時間かけて昇温し、次いで同温度で4時間保温して固相重合させた。その後、固相重合した後の粉末を冷却して液晶ポリエステルを得た。この液晶ポリエステルをCとする。このCについて、フローテスターを用いて、流動開始温度を測定したところ、324℃であった。
【0046】
合成例4
実施例1と同様の反応器に、p―ヒドロキシ安息香酸を911g(6.6モル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニルを409g(2.2モル)、2,6−ナフタレンジカルボン酸の代わりにイソフタル酸を91g(0.55モル)、テレフタル酸を274g(1.65モル)、無水酢酸を1235g(12.1モル)用い、1−メチルイミダゾールは用いない以外は、実施例1と同様に、室温攪拌、昇温、保温した。
次いで、1−メチルイミダゾールを追加することなしに、副生酢酸、未反応の無水酢酸を留去しながら実施例1と同様に昇温し、保温を1時間することによりプレポリマーを得た。
次いで、実施例1と同様にしてプレポリマーの粉末(粒子径は約0.1mm〜約1mm)を得た。流動開始温度は255℃であった。
得られた粉末を25℃から250℃まで1時間かけて昇温したのち、同温度から285℃まで5時間かけて昇温し、次いで同温度で3時間保温して固相重合させた。その後、固相重合した後の粉末を冷却して液晶ポリエステルを得た。この液晶ポリエステルをDとする。このDについて、フローテスターを用いて、流動開始温度を測定したところ、324℃であった。
【0047】
実施例1〜3、比較例1
合成例1〜4で得た液晶ポリエステルと、黒鉛(SP−5、日本黒鉛製)を、下記に示す方法でドライブレンドした。
【0048】
二軸押出機(PCM30−HS(池貝製)、Φ30、L/D=45)を用い、第一フィードから液晶ポリエステルを、サイドフィードから黒鉛を供給し、表1に示す混合割合(重量比)及び条件で混錬を行い、ペレットを作製した。得られたペレットについて射出成形機(PS40E%ASE(日精樹脂工業製))にて成形を行い、試験片を得た。
得られた試験片に対し、下記に示す加水分解耐性試験を行い、試験片の高温・高湿下での劣化の度合いを調べた。
【0049】
〈耐加水分解性試験〉
各実施例で得られたペレットを表1に示す成形温度で試験片(JIS K71131(1/2)号ダンベル×1.2mmt)を10本作製した。この試験片10本のうち5本の引張強度を測定した(初期強度)。残りの試験片5本を高度加速寿命試験装置(タバイ製)に入れ温度121℃、湿度100%の高温・高湿条件下で200時間保存し、試験片を取り出した(高温高湿曝露試験)。高温高湿曝露試験を実施した試験片5本について引張強度を測定し、初期強度に対する引張強度保持率(%)を求めた。
【0050】
引張強度保持率(%)=(高温高湿曝露試験実施後の試験片5本の強度平均値)/(試験片5本の初期強度平均値)×100
【0051】
【表1】

【0052】
本願発明の導電性樹脂組成物を用いた、実施例1〜3に示す成形体試験片は、高温・高湿下に曝露した場合でも、引張強度が初期段階の80%以上を保持した。一方、通常用いられている液晶ポリエステルを用いた導電性樹脂組成物から得られる成形体の一例である、比較例1は、同一条件での高温・高湿下で、著しく機械強度が低下した。また、液晶ポリエステルを構成する構造単位において、2,6-ナフタレンジイル基を、より多く含むと、さらに引張強度保持率が向上していることから加水分解耐性が良好になることが判明した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(i)、(ii)及び(iii)で表される構造単位からなり、Ar1、Ar2及びAr3で表される2価の芳香族基の合計を100モル%としたとき、当該芳香族基の中で2,6−ナフタレンジイル基が5モル%以上である液晶ポリエステルと、金属酸化物系導電性フィラー及び/又はカーボン系導電性フィラーとを含む導電性樹脂組成物。

(式中、Ar1は、2,6−ナフタレンジイル基、1,4−フェニレン基及び4,4’−ビフェニリレン基からなる群から選ばれる。Ar2、Ar3は、それぞれ独立に2,6−ナフタレンジイル基、1,4−フェニレン基、1,3−フェニレン基及び4,4’−ビフェニリレン基からなる群から選ばれる。また、Ar1、Ar2、Ar3で示される芳香族基は、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数6〜20のアリール基を置換基として有していもよい)
【請求項2】
前記液晶ポリエステルが、前記のAr1、Ar2、Ar3で表される2価の芳香族基の合計を100モル%としたとき、当該芳香族基の中で2,6−ナフタレンジイル基が20モル%以上の液晶ポリエステルである請求項1記載の導電性樹脂組成物。
【請求項3】
前記液晶ポリエステルが、前記のAr1、Ar2、Ar3で表される2価の芳香族基の合計を100モル%としたとき、当該芳香族基の中で2,6−ナフタレンジイル基が50モル%以上の液晶ポリエステルである請求項1に記載の導電性樹脂組成物。
【請求項4】
カーボン系導電性フィラーを必須成分として含む請求項1〜3のいずれかに記載の導電性樹脂組成物。
【請求項5】
前記カーボン系導電性フィラーが、黒鉛、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、ファーネスカーボンブラック及びサーマルカーボンブラックからなる群より選択される1以上の導電性フィラーであることを特徴とする請求項4に記載の導電性樹脂組成物。
【請求項6】
前記カーボン系導電性フィラーが、黒鉛である請求項4に記載の導電性樹脂組成物。
【請求項7】
金属酸化物系導電性フィラーの配合量とカーボン系導電性フィラーの配合量との合計が、液晶ポリエステル100重量部に対して50〜900重量部であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の導電性樹脂組成物。
【請求項8】
金属酸化物系導電性フィラーの配合量とカーボン系導電性フィラーの配合量との合計が、液晶ポリエステル100重量部に対して100〜600重量部であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の導電性樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の導電性樹脂組成物を用いて得られる燃料電池用セパレーターまたは燃料電池用シール材。

【公開番号】特開2007−100078(P2007−100078A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−241307(P2006−241307)
【出願日】平成18年9月6日(2006.9.6)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】