説明

導電性樹脂組成物

【課題】 成形体表面にレーザーによる鮮明な印字ができる導電性樹脂組成物の提供。
【解決手段】 金属めっきされた有機繊維と熱可塑性樹脂とを含む、下記(a)〜(c)を満たす導電性樹脂ペレットと、カーボンブラック0.01〜3質量%を含む導電性樹脂組成物であり、それから得られた黒色系の成形体表面にレーザーによる白色の印字ができる導電性樹脂組成物。(a)前記ペレットに含まれる金属めっきされた有機繊維の含有量が1〜15質量%、(b)前記ペレットに含まれる金属めっきされた有機繊維の最大長が10mm以下、(c)前記ペレットに含まれる金属めっきされた有機繊維の重量平均繊維長が2mm以上

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の燃料キャップや各種電子・電気機器の筺体の製造材料として使用できる導電性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
冬季のように乾燥した雰囲気では、各種部品が帯電し、人が手で触れたときにアースして、不快感を与えることが多い。例えば、自動車の燃料キャップは、人が蓋を開閉するときにアースして、不快感を与えることがある。このため、従来は、自動車の燃料キャップの蓋材料としてカーボンを添加した導電性材料を用い、蓋からフィラーネックを通じて車体に接続することにより、アース経路を確保している。
【0003】
特許文献1には、金属フィラー、カーボン繊維、レーザー照射により上記表示部を形成するためのカーボン粒子とを有し、カーボン粒子の含有量が0.01〜3重量%である導電性樹脂部材が記載されており、用途として、自動車の燃料キャップが例示されている。
【0004】
また各種電子・電気機器から発生する電磁波をシールドできる材料に対する要望があり、最近では、外部環境から室内への電磁波が侵入することにより、人体に悪影響を与えることについても懸念されており、建物自体に対する電磁波のシールドについての要望もある。特許文献2には、高い電磁波シールド性を有する電磁波シールド用樹脂組成物が記載されている。特許文献3の発明では、炭素繊維や金属繊維と黒色顔料を含む熱可塑性樹脂組成物から得られた成形体にレーザーマーキングすることが記載されている。
【特許文献1】特開2004−143220号公報
【特許文献2】特開2004−14990号公報
【特許文献3】特開2006−241254号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の発明では、金属フィラーとして、ステンレス、ニッケル、クロム、亜鉛、銅、アルミニウム、金、銀、マグネシウム、チタン、それらの合金が例示されているが、価格が高価であることと、自動車全体の軽量化の観点からは望ましくない。特許文献2の発明では、レーザーによる印字をすることは全く記載されていない。特許文献3には、炭素繊維の使用は記載されているが、他の有機繊維を使用することは全く記載されていない。
【0006】
本発明は、自動車の燃料キャップ等の人が手に触れる部品の製造材料や、各種電子・電気機器から発生する電磁波や外部環境から室内に侵入する電磁波をシールドする材料として好適な導電性樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明は、課題の解決手段として、金属めっきされた有機繊維と熱可塑性樹脂とを含む、下記(a)〜(c)を満たす導電性樹脂ペレットとカーボンブラック0.01〜3質量%を含む導電性樹脂組成物であり、それから得られた黒色系の成形体表面にレーザーによる白色の印字ができる導電性樹脂組成物を提供する。
【0008】
(a)前記ペレットに含まれる金属めっきされた有機繊維の含有量が1〜15質量%
(b)前記ペレットに含まれる金属めっきされた有機繊維の最大長が10mm以下
(c)前記ペレットに含まれる金属めっきされた有機繊維の重量平均繊維長が2mm以上。
【0009】
「黒色系」は、明度L表色系(JIS Z8729)が1〜50のものである。
【0010】
請求項3の発明は、課題の解決手段として、金属めっきされた有機繊維とスチレン系樹脂及びポリカーボネート樹脂から選ばれるものとを含み、更に白色顔料を含有し、下記(a)〜(c)を満たす導電性樹脂ペレットと、カーボンブラック0.01〜3質量%を含む導電性樹脂組成物であり、それから得られた白色系の成形体表面にレーザーによる黒色の印字ができる導電性樹脂組成物を提供する。
【0011】
(a)前記ペレットに含まれる金属めっきされた有機繊維の含有量が1〜15質量%
(b)前記ペレットに含まれる金属めっきされた有機繊維の最大長が10mm以下
(c)前記ペレットに含まれる金属めっきされた有機繊維の重量平均繊維長が2mm以上。
【0012】
「白色系」は、明度L表色系(JIS Z8729)が60〜93のものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の導電性樹脂組成物は、それから得られた黒色系又は白色系の成形体表面にレーザーによる白色又は黒色の印字ができ、更に前記成形体は高い電磁波シールド性を有している。このため、より広い分野における利用が可能になった点で、産業上の有用性が非常に大きなものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
<導電性樹脂組成物>
本発明の組成物で用いる導電性樹脂ペレットは、金属めっきされた有機繊維と熱可塑性樹脂とを含んでおり、円柱又はそれに類似した形状のものである。本発明の導電性樹脂組成物は、導電性を付与する成分としての金属繊維及び炭素繊維は含んでいない。
【0015】
導電性樹脂ペレットに含まれる金属めっきされた有機繊維は、ニッケル、銅、コバルト、銀、アルミニウム、鉄、これらの合金等から選ばれる金属でめっきされた、芳香族ポリアミド繊維(アラミド繊維等)、ポリエステル繊維等を挙げることができる。
【0016】
導電性樹脂ペレットに含まれる熱可塑性樹脂は、用途に応じて適宜選択することができるが、スチレン系樹脂(AS樹脂、ABS樹脂等)、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂から選ばれる1又は2種以上のものを用いることができる。
【0017】
本発明において、黒色系の成形体に白色の印字をするときは、上記した熱可塑性樹脂から選択することができるが、スチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリアセタール系樹脂及びアクリル系樹脂が好ましい。
【0018】
また本発明において、白色系の成形体に黒色の印字をするときは、スチレン系樹脂(AS樹脂、ABS樹脂等)、ポリカーボネート系樹脂から選ばれるものを使用する。
【0019】
本発明で用いる導電性樹脂ペレットは、下記の要件(a)〜(c)の全てを満たすものである。
【0020】
要件(a)
導電性樹脂ペレットに含まれる金属めっきされた有機繊維の含有量は1〜15質量%であり、好ましくは1〜10質量%である。金属めっきされた有機繊維の含有量が前記範囲内であると、十分な導電性を付与でき、ステンレス等の金属繊維を用いた場合と比べると、成形体の質量の増加も抑制することができる。
【0021】
要件(b)
導電性樹脂ペレットに含まれる金属めっきされた有機繊維の最大長は10mm以下であり、好ましくは8mm以下、より好ましくは6mm以下である。前記有機繊維の最大長が10mm以下であると、組成物中の分散性が向上されるため、得られた成形体の性質にばらつきがなくなる。
【0022】
要件(c)
導電性樹脂ペレットに含まれる金属めっきされた有機繊維の重量平均繊維長は2mm以上であり、好ましくは2〜8mm、より好ましくは2〜6mmである。前記有機繊維の重量平均繊維長が2mm以上であると、組成物中の分散性が向上されるため、得られた成形体の性質にばらつきがなくなる。
【0023】
本発明の組成物で用いるカーボンブラックは、成形体を黒色系にするための成分であり、かつレーザー光エネルギーを効率的に熱に変換させ、印字を鮮明なものにできるようにするための成分である。カーボンブラックとしては、公知のファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等を挙げることができる。
【0024】
カーボンブラックの粒径は、レーザーによる高い印字性(発色性を向上させたり、発色むらを抑制したりすること)を維持する観点から、10〜100nmの範囲が好ましい。
【0025】
組成物中のカーボンブラックの含有量は0.01〜3質量%であり、好ましくは0.01〜2質量%、より好ましくは0.03〜1質量%である。
【0026】
また本発明では、成形体の黒色の濃度調整のため、カーボンブラックと共に少量の公知の白色顔料(チタン白等)を含有させることができる。このときの白色顔料の含有量は、組成物中に0.1〜1質量%が好ましい。
【0027】
更に本発明では、白色系の成形体にレーザーによる黒色の印字ができるようにするため、更に公知の白色顔料(チタン白等)を含有させる。
【0028】
白色顔料の含有量は、組成物中に0.1〜10質量%であり、好ましくは0.1〜5質量%、より好ましくは0.5〜3質量%である。なお、白色系の成形体にするときには、カーボンブラックは含有していてもよいし、含有していなくてもよい。
【0029】
本発明の組成物は、上記した導電性樹脂ペレット、カーボンブラックと共に、熱可塑性樹脂を含有することができる。この熱可塑性樹脂は、導電性樹脂ペレットに含まれる熱可塑性樹脂と同じものでもよいし、異なるものでもよい。
【0030】
導電性樹脂ペレット、カーボンブラックと共に熱可塑性樹脂を含むときの熱可塑性樹脂の含有量(但し、導電性樹脂ペレットに含まれている熱可塑性樹脂の含有量は除く)は、組成物中において、30〜80質量%が好ましく、40〜70質量%がより好ましく、40〜60質量%が更に好ましい。
【0031】
本発明の組成物は、課題を解決できる範囲内において、公知の樹脂用の各種添加剤を含有することができ、例えば、相溶化剤、難燃剤、充填剤、安定剤、滑剤、分散剤、添着剤、発泡剤、抗菌剤、カーボンブラックや白色顔料以外の顔料等を含有することができる。
【0032】
<成形体に対するレーザーによる印字方法>
本発明の組成物は、公知の射出成形法等を適用して、所望形状の成形体を得ることができ、前記成形体は、その表面にレーザーにより印字することができる。
【0033】
使用するレーザーは、354〜1064nmに発振波長を有するものを用いることができ、YAGレーザー、半導体レーザー、ガラスレーザー、ルビーレーザー、He−Neレーザー、窒素レーザー、キレートレーザー、色素レーザー等の公知のレーザーを適用できる。これらのレーザーの出力は、5〜30A程度である。
【0034】
本発明の組成物から得られた黒色系の成形体表面に対して、所定条件でレーザー照射することにより、レーザー照射部分を発泡させて白く変色させることで、黒色系の成形体表面に白色の印字をすることができる。
【0035】
また本発明の組成物から得られた白色系の成形体表面に対して、所定条件でレーザー照射することより、レーザー照射部分を焦がして黒く変色させることで、白色系の成形体表面に黒色の印字をすることができる。
【0036】
本発明の組成物は、自動車の燃料キャップ、ドアノブ等の人が手に触れるものの製造原料として使用することができ、更に必要な情報(会社名、製品のロット番号等)を印字することができる。
【0037】
また本発明の組成物は、ノート型パーソナルコンピューター、電子手帳、携帯電話、ビデオカメラ等に代表される携帯用電子機器、テレビ、電子レンジ等の各種電子・電気機器の筺体の製造材料として使用することで、前記機器から発生する電磁波をシールドできるほか、必要な情報(会社名、製品のロット番号等)を印字することができる。
【0038】
また本発明の組成物は、外部環境から室内に侵入する電磁波をシールドするための建築材料としても使用することができ、更に必要な情報(会社名、製品のロット番号等)を印字することができ、建材として使用する場合には、建物における建材の取り付け場所等も予め印字できるので、現場作業性も良くなる。
【実施例】
【0039】
実施例1〜7、比較例1
表1に示す各成分をV型タンブラーで混合後、単軸押出機(中央機械製作所製,直径40mmのフルフライトスクリュー使用)を用い、シリンダー温度230℃、吐出量15kg/hrで溶融混練した。その後、ペレタイザーを調節して、表1に示すカット長の各ペレットを得た。
【0040】
【表1】

【0041】
銅めっきアラミド繊維マスターバッチ:商品名メタックスMB,ダイワボウテックス社製(銅めっきアラミド繊維60質量%、ペレット長さ5mm)
ABS樹脂:日本エイアンドエル(株)製のAT08
ポリアミド6:宇部興産(株)製,UBEナイロン6 1013B
マレイミド系モノマー単位を有する重合体:スチレン−Nフェニルマレイミド−無水マレイン酸共重合体(スチレン47質量%、Nフェニルマレイミド51質量%、無水マレイン酸2質量%,重量平均分子量14万5千,265℃10kgでのメルトフローインデックス:2)。
【0042】
実施例8〜15、比較例2〜4
表2に示す各成分をV型タンブラーで混合後、射出成形機(シリンダー温度240℃,金型温度60℃)により、120×120×2mmの平板を得た。この試験用の平板を用いて、次の各測定を行った。成形体の明度は、クラボウ(株)製の分光光度計 COLOR-7Xで測定した。
【0043】
(1)分散性
試験用平板の表面を肉眼で観察し、銅めっきアラミド繊維のだまがないものを○、アラミド繊維のだまが2つ以下のものを△、アラミド繊維のだまが3つ以上あるものを×とした。
【0044】
(2)印字性
試験用平板表面に対してレーザー光線を照射して、白色マーキング[10mm角のBOX(線間距離75μm)を描写]した。レーザーとして、Nd:YAGレーザー(波長1064nm)を使用した。照射条件は、アパチャーを径2mmに固定し、光源電流値(LC)、振動数(QS)及び印字スピード(SP)を下記の範囲で変化させ、最も明瞭な白色印字が得られる条件でマーキングを実施した。
【0045】
光源電流値(LC):8〜20A
振動数(QS):1〜10kHz
印字スピード(SP):100〜1500nm/秒
得られた白色マーキングをした各試験用平板について、上記10mm角のBOXを目視観察して、以下の基準でレーザーマーク特性を評価した。
【0046】
◎:極めて良好
○:良好
△:やや不良
×:不良
(3)電磁波シールド性(KEC法)
ANRITSU製のMA8602B測定器を用いて、近傍界電界のシールド特性を周波数範囲1MHHz・1GHzで測定し、300MHzの値を測定した。数値が大きいほど、電磁波シールド性が良いことを示している。
【0047】
【表2】

【0048】
カーボンブラック、商品名「カーボンA1−1000」、大日本インキ化学工業(株)製
白色顔料:酸化チタン、商品名「ホワイト−SHPA−764」、住化カラー(株)製




【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属めっきされた有機繊維と熱可塑性樹脂とを含む、下記(a)〜(c)を満たす導電性樹脂ペレットと、カーボンブラック0.01〜3質量%を含む導電性樹脂組成物であり、それから得られた黒色系の成形体表面にレーザーによる白色の印字ができる導電性樹脂組成物。
(a)前記ペレットに含まれる金属めっきされた有機繊維の含有量が1〜15質量%
(b)前記ペレットに含まれる金属めっきされた有機繊維の最大長が10mm以下
(c)前記ペレットに含まれる金属めっきされた有機繊維の重量平均繊維長が2mm以上
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂が、スチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリアセタール系樹脂及びアクリル系樹脂から選ばれる1又は2以上のものである、請求項1記載の導電性樹脂組成物。
【請求項3】
金属めっきされた有機繊維とスチレン系樹脂及びポリカーボネート樹脂から選ばれるものとを含み、更に白色顔料を含有し、下記(a)〜(c)を満たす導電性樹脂ペレットと、カーボンブラック0.01〜3質量%を含む導電性樹脂組成物であり、それから得られた白色系の成形体表面にレーザーによる黒色の印字ができる導電性樹脂組成物。
(a)前記ペレットに含まれる金属めっきされた有機繊維の含有量が1〜15質量%
(b)前記ペレットに含まれる金属めっきされた有機繊維の最大長が10mm以下
(c)前記ペレットに含まれる金属めっきされた有機繊維の重量平均繊維長が2mm以上
【請求項4】
前記有機繊維が芳香族ポリアミド繊維である、請求項1〜3のいずれか1項記載の導電性樹脂組成物。





【公開番号】特開2009−19148(P2009−19148A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−183836(P2007−183836)
【出願日】平成19年7月13日(2007.7.13)
【出願人】(501041528)ダイセルポリマー株式会社 (144)
【Fターム(参考)】